僕は強くない。でも、僕は強い。   作:Mr.♟️

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お偉いゴリラが部屋に来た。

 

「──当主からだ。性能は微妙かもしれんが、それでもお前には過ぎたる呪具だ。2級呪具『炎癒』はこれより先、お前の物だ」

 

「雅様が.....?」

 

このゴリラの言う通りだ。2級呪具を灯の中でも下に位置する私に呪具を与える意味がない。それは私自身が1番理解している。

 

「理由は俺にもわからん。この呪具を渡すように言伝を預かったから渡したまでだ」

 

「......ありがとうございます」

 

理由を知りたかった。最近雅様と会話ができたのは炊事場での1回だけ。寛容な方ではあるけど、あれだけのことで私に呪具を与えるはずがない。

 

その他になにか理由があるはず。

 

「一つだけ伝えておくが──雅の期待を裏切るな」

 

「!──はい」

 

やっぱり、この呪具を私に与えたことには意味があるんだ。しかも、何かを雅様に期待されている。

 

「お前も姉のように励め」

 

「はい」

 

この呪具の性能は熱を緩和させること。耐性を得るわけではないから、10の熱を5で感じるようなものだ。私の術式との互換性があるわけではないし、仮にあったとしても私の呪力量では意味がない。

 

雅様が私に呪具を授けた理由。雅様の期待に応えたい。こんな機会、多分今後2度とない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──わかった。2時間考えてようやくわかった。雅様が考えていること。私に求めていることが。

 

仮に今考えていることが全て上手くいったら、雅様の期待に応えられるだけじゃない。真希とも肩を並べることが出来るかもしれない。

 

2人で一緒に落ちこぼれるんじゃなく、2人で一緒に上を目指せるかもしれない。

 

もし、もし失敗したら私は術式を2度と使うことができなくなる。でも、それでも構わない。今だって同じようなものだ。それに、雅様がこの呪具をくれたのも──私なら出来ると期待しているから。そう確信しているからに違いない。

 

まずは縛りで私の呪力を底上げする。今の呪力量で構築したところで、失敗する未来しかない。

 

『自身の術式で有形物を構築しない』

 

縛りはリスクが大きい、もしくは使用方法を限定的にすればするだけ効果が大きい。

 

初めての感覚だ。身体中に呪力が満ちるような──悪くない気分。ここからだ、問題はここから。できるかどうか分からない。でも、やるしかない。

 

構築術式は呪力を使って物体を生み出す能力。本当にそうだろうか。昔の人間がやってきたこと、それだけを信じて進む必要はない。

 

『術式解釈』

 

構築術式は呪力から物体を生み出す能力ではなく──呪力から現象を生み出す能力。

 

炎をイメージして生み出すことができれば成功。何も出来なければ失敗。イメージしろ。物質じゃない。燃え盛るエネルギーだ。

炊事場で見た紅い炎じゃない。もっと高温の、あの白狐が操るような──

 

 

 

 

 

 

「──出た!」

 

手のひらの上に生み出された炎。成功した、成功したんだ。イメージ通りの青白く揺らめく炎がここにある。

 

 

 

 

 

 

『火遊び?』

『楽しそう』

 

「え?」

 

背後から聞こえた、無邪気で、底知れない声。振り返ると、そこには──おかっぱ頭の双子の少女。

 

『青い火!』

『狐と一緒!綺麗!』

 

『『私たちもする!』』

 

炎が、炎が部屋を包み込む。え、これってまずいわよね....?どうしましょう。いや、どうすればいいの...?

 

特級呪霊が悪さしても、運が悪かったと思えが基本方針とはいえ...流石に....いや、でも、これは雅様が家中に出している指示出し....いや、でも静観するわけには....

 

熱い....!熱量が凄い...!このままここに居たら私が死ぬ!

 

『一緒に火遊びしよー』

『火遊び鬼ごっこ?』

 


 

本来、一卵性双生児である禪院真依が『縛り』を結んだところで、さしたる力を得ることはできない。

 

双子は呪術的に『同一人物』とみなされる。片方が何かを差し出しても、もう片方が何もしていなければ、それは『利害』として成立しないからだ。

 

 

だが──ここに一つの『バグ』が発生した。

 

 

彼女が手首に巻いていた2級呪具『炎癒』。

 

その素材は、雅の粛清により死亡した実父・禪院扇の肉体である。近親者、それも肉親の骨肉を用いて精製されたこの呪具は、真希・真依の魂の情報と極めて近しい波長を持っていた。呪具へと加工される工程で更に酷似していったのだ。

 

真依が極限の集中状態で縛りを結ぼうとした瞬間。

 

呪術の理は、致命的な誤認を起こした。

 

『同一人物』の認識対象が、遥か遠くにいる『禪院真希』から──手首に密着し、魂の波長が酷似した『禪院扇』へとすり替わったのだ。

 

既に死し、呪具として固定された扇に意思はない。彼は物言わぬ道具として、真依の片割れとして機能した。そして、その片割れが死んだ判定を受けることになった。

 

これにより、禪院真依は『双子』という呪縛から切り離され、独立した一人の術師として新生する。

 

そして、必然。

 

真依という『足枷』をシステム的に外されたもう一人──禪院真希もまた、呪力という鎖から完全に解き放たれる。

 

 

皮肉にも、娘の足を引っ張り続けた父親の亡骸が、娘たちを最強へと至らせる最後の鍵となったのである。

 

片や構築術式の新しい解釈を身につけた異才、禪院真依

片や完全な天与呪縛──あっち側へと踏み入れた禪院真希

 

この謎が解明されることはない。

 

ただ、奇跡として禪院家に語り継がれるだろう。

 


 

『躯倶留隊』と『炳』の合同訓練。

 

筆頭の甚壱と当主の雅は不参加だが、現場の熱気は高い。特に、万年躯倶留隊の連中の熱量が。

 

(──ッ、身体が、動かねぇ!)

 

蘭太の術式だ。視界に入れた対象の動きを阻害し、拘束する。近接戦闘に持ち込めば勝機はあるが、距離を取られたらこのザマだ。躯倶留隊で一番になっても、術式持ちに通じなきゃ意味がねぇ。

 

「近接戦なら、正直俺は真希さんに勝てないかもしれない。でも、術式ありの戦闘なら、100回やっても100回俺が勝つ」

 

蘭太が冷静に告げる。

 

あのすました面を思いっきりぶん殴ってやりたい。

 

私に『負けるわけがねぇ』って思っているやつの鼻っ柱をへし折るのが、1番楽しい。

 

クソ、言い返したくても口が動かねぇから声が出ねぇ。

 

「あと1分、このまま拘束できたら俺の勝ちでいいですよね?」

 

もがけ。なんとか動け。あいつをぶん殴るために、指一本でも動かせよ!

 

「真希さーーーーーん!!頑張れーー!」

「躯倶留隊の意地見せてやってくれーーー!!」

「動けます! 真希さんなら絶対動けます!」

 

外野がうるせぇよ。黙って見てろ。

 

「──本当に、真希さんはすごい。いくら禪院家が雅さんのお陰で変わったといえど、非術師の女性がここまで上がるのは並大抵のことじゃない」

 

まだ勝負は終わってねぇのに、称賛なんて送ってんじゃねぇよ。余裕かよ。

 

あと30秒。全力であがけ。蘭太の術式も無敵じゃねぇ。現に特級呪霊たちには通じなかったって話してた。

 

 

──なら、諦めなければ破れるかもしれないだろ。

 

この不快な重圧さえ何とか抜け出すことができれば、あとは余裕ぶっこいてる蘭太の面を殴るだけだ。

 

(動け、動け、動けぇぇぇぇ!!!)

 

全身の筋肉を軋ませ、蘭太の術式に抵抗していたその時。

 

 

 

 

フッ、と。

 

 

 

身体から『重り』が消えた。蘭太が術式を解除したわけじゃない。

 

今まで身体の奥底に纏わりついていた、不純物が──完全に消失した。

 

 

「──あ」

 

思考より先に、身体が弾けた。

 

殴るのをやめないと、殺──

 

「──え、とぅ」

「わ、り──止まんねぇ」

 

 

ドォォォォォォォン!!!

 

 

 

蘭太がふっ飛んだ。

 

私の拳が空を切ることはなく──物の見事にがら空きの顔面に入り、蘭太は後方の見物してた連中を何人か巻き込んで、屋敷の壁を豪快にぶち破って彼方へ消えていった。

 

 

 

 

シーン、と場が凍りつく。

 

 

 

 

 

「──躯倶留隊が炳に勝ったァァァ!!」

「真希さん最強!!真希さん最強!!」

「バカバカバカバカ!それどころじゃねぇ!甚壱さん呼んでこい!いや、救護班か!?蘭太さん死んじまうって!!」

 

「......なんか、すまん」

 

自分の拳を見つめる。何が起きたか分からねぇが──今の私、なんかヤバくないか?悪い、蘭太。私はお前の心配より、この高揚感に酔っちまってる。

 

 


 

加茂家の奥座敷。

 

上座にふんぞり返る加茂家当主の前に、僕は一枚の書類を放り投げた。

 

「『特級呪詛師・夏油傑との接触を確認。禪院雅及び禪院家を──呪詛師認定とすべきである』。なんて、おもろい稟議あげようとしとるやん。加茂さん」

 

「....ッ、どこからその情報が漏れた」

 

「アホか。自分で調べぇよ。まあ、どこからって聞かれたら『至る所』からやけど」

 

上層部の老害どもなんて、金でいくらでも転ぶわ。

 

僕の思想に賛同せん保守派の連中ですら、僕に害がある情報を握っていたら、こっそり僕に教えに来よる。

 

理由は簡単。僕がいなくなったら、賄賂がなくなるからや。僕の財布に群がるウジ虫らしいなぁ。

 

まあ、いずれ全員首をすげ替えるつもりやけど、その時まではATMとして利用されたるよ。あるていどな。

 

「ご、誤解だ。我々は君に何かしようだなんて、断じて考えていない」

 

「それは苦しい言い訳やなぁ。さっき『どこから漏れた』言うて、情報の存在を肯定してもうてるやん」

 

加茂家が禪院家を恨んどる話は有名やしな。なーんもしとらんのに、酷い言いがかりや。

 

「加茂家は、禪院家と事を荒立てるつもりはない」

 

「あるやろ。裏で根回しして、禪院家ごと『呪詛師認定』させて──十中八九、五条悟をぶつける算段やったんやろ?」

 

家の戦力に対抗できるのは、現代最強しかおらんからな。自分たちは手を汚さず、あわよくば五条家と禪院家を共倒れさせる。セコい脚本やな。

 

「......誤解だ」

 

「あんたみたいなんが当主なんて、加茂家の未来は暗いなぁ。伝統と格式だけで飯が食える時代は終わったんよ」

 

加茂家が御三家で突出していたのは、総監部への太いパイプとその政治力。

 

今となってもどんどん細くなっとるパイプやから、以前ほど幅を利かせることができなくなっとる。焦るのも無理はない。

 

「脅す気か、加茂家を。この私を!」

 

「──事実を教えたってるだけや。身の程を弁えた方がええよ、加茂家当主」

 

僕は立ち上がり、冷めた目で見下ろす。

 

「禪院に喧嘩売るんやったら、ただじゃすまさんから。あんたの代で家ごと潰されたくないんやったら──おとなしくしときや」

 

この私をって。お前はそんなこと言えるほどの大物ちゃうわ。お前が成し遂げたことなんて、何一つないやろ。

 

「──ッ」

顔を真っ赤にして震える当主を放置して、僕は部屋を出た。

 

このくらい釘を刺しておけば、しばらくは大人しくなるやろ。加茂家は本来、事なかれ主義の慎重派やからな。

 

はぁ、疲れた。

 

ようやっと家帰れるわ。家帰ったらゆっくり寝たろ。

 


 

炎癒

 

おにぎり握ったり、料理する時熱いだろうなぁ。ついでに夏も涼しく過ごせて快適だし、これをあげよう。という考えの元渡されたものが、甚壱の勝手な雅の気持ちの代弁と、雅に心酔?している真依の妄想のせいで酷い惨状を生み出した。

 

良かったな、扇さん!君が当主になれないのは娘たちのせいではないことが証明されたぞ!おめでとう、君の実力不足だ!

 

 

 




言いたいことは色々あるんだろう。わかっている。だが、ここは1つ──奇跡ってことで矛を収めてくれやしねぇか。
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