僕は強くない。でも、僕は強い。   作:Mr.♟️

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「はぁ?何言うてんの、パパ。頭おかしくなったん?」

 

屋敷に戻ってくれば、この惨状や。堪忍してえや、疲れてるんやけど。

 

一部は炭火焼きみたいに全焼しとるわ、壁には風通しの良すぎる大穴が至る所に空いとる。しかも、犯人が真依ちゃんと真希ちゃんやて?嘘つくなら、もっとマシな設定考えーや。

 

「──全て事実だ。お前が留守にしている間、多少屋敷が壊れたのは俺の落ち度だ。だが、それと引き換えに禪院家に優秀な術師が2人も誕生した」

 

「多少のレベルやないから言っとんねん」

 

天与呪縛の極致に至った真希ちゃん。まあ、それは百歩譲って理解したる。屋敷に空いた一番えぐい風穴は、彼女が『あっち側』へ踏み込んだ証拠なんやろ。直哉くんが聞いたら血涙流すやろうな、あの世で。

 

やけどや、それ以外の被害が全部真依ちゃんの仕業やとしたら、話は変わってくる。どんだけ建物壊してんねん。なんなん、恨みでもある?そら、あるか。

 

「....あかん、本人に直接聞かな納得できん。真依ちゃん呼びいや。僕が直接尋問──やなくて、面談したる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雅様からいただいた呪具を見て、これはそういうことなのだと理解しました」

 

「......なるほどなぁ」

 

あかん。一ミリも理解できん。

 

別にそないな高尚な目的で呪具渡しとらんのよ。単におにぎり握る時、熱いと可哀想やなっていう、昔のお礼のつもりで渡しただけや。

 

「そんで?火を出すだけやなくて、他にもできるようになったん?」

 

「はい!雅様の期待に応えたくて!炎以外にも作れないかトイレの花子さんたちから聞かれたので、試しに水を作れるか試してみたら──出来たんです!」

 

トイレの花子さんがはしゃいで屋敷燃やすの手伝ってた聞いたけど、なんで一緒に燃やしてるん?いや、いわんよ。言っても仕方ないことやから。いや、ちゃう。今はそないなことどうでもいい。

 

「へぇ、すごいやん」

 

元素術式は一つの事象に特化するもんやけど、構築術式で複数の属性を再現できるんやったら、もはや下位互換どころか上位互換になりうる万能術式や。

 

「あとは、形を持たない物質。風であったり、電気とかもイメージを固めて構築したら──それも出来ました!」

 

「.......なるほどなぁ」

 

構築術式は構造を理解せんと形にできんはずや。なんで風とか電気の原理とか知っとんねん。怖いんやけど。

 

いや、あれか。真希ちゃんに追いつきたくて、独学で死ぬほど勉強しとったんかな。それなら執念の勝利や。そういうことにしとこか。

 

「申し訳ありません。屋敷を壊してしまった罰は受けます──なので、追い出すのだけはご容赦ください」

 

「何言うとんの。追放するなんて、僕は言うてないよ。屋敷なんて壊れたら直せばええだけや。気にせんでええよ」

 

なるほどなぁ。妙に強ばっとる思うたら、そういうことか。確かに、僕が真依ちゃんを呼びなすなんて滅多にどころか、全くないからなぁ。

 

「もう戻ってええよ」

 

天与呪縛になった真希ちゃんは呪具がないと呪霊倒せんから、呪具渡さなあかん。真依ちゃんも何故か伸び代を見せとるし、ついでに呪具あげよか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようわからんけど、勝手に成長しとる」

 

家全体が底上げされるんは悪いことやない。巻き込まれてけが人は出たようやけど、それも問題ない。死んでさえいなければどうとでもなる。

 

「あとは天逆鉾が見つかってくれたら言うことないんやけど」

 

天逆鉾が見つかったら五条家に乗り込むことも、舐め腐った返答しかしてこん五条家に手紙を送る必要もなくなるのになぁ。

 


 

非術師が嫌いだ。その根源にある嫌悪は、今も私の中に燻り続けている。これが消えることは無い。

 

私がなぜこれほどまでに彼らを忌避するのか。

 

禪院雅という禪院家の異分子に出会い、私は改めて自分自身と向き合うことにした。

 

『弱者生存』

 

かつて私は、それを呪術師の矜持だと信じていた。

 

力ある者が弱き者を守る。それが正しき世界の在り方だと。

 

術師の苦悩を理解せず、無知ゆえの罵詈雑言を浴びせてくる彼らに対しても、目に見えぬ恐怖に怯える『弱者』ゆえの過ちだと自分に言い聞かせてきた。彼らの苛立ちを、向けられた恐怖を肩代わりすることこそが、呪術師という生き方なのだと。

 

 

 

 

 

だが、それはただの傲慢だった。

 

答えも正解も分からぬまま、ただ、『救えるのは自分たちだけだから』という義務感だけで心を擦り切らせていたに過ぎない。

 

 

 

私が『非術師撲滅』という極端な大義に傾倒した理由は2つ。

 

1つは、特級術師・九十九由基との出会い。

 

非術師からしか呪霊は生まれぬという事実。そして、私の口から出た『非術師を皆殺しにすればいい』という本音を、彼女が『あり』だと肯定してしまったこと。

 

今思えば、あまりに短絡的で穴だらけの思考だったと言わざるを得ない。だが、当時の私にはそれに気づく余裕など微塵もなかった。

 

祓う。取り込む。祓う。取り込む。祓う。取り込む。

 

誰にも共感してもらえない、吐瀉物をぶちまけた雑巾のような呪霊玉の味。

 

相談する相手もいない孤独。

 

そして、唯一無二の親友に置いていかれたという喪失感。

 

その全てが、私から『正気』という名の余裕を奪い去っていた。

 

孤独。非術師の醜悪さ。術師だけが使い潰される世界。

 

私はそれを、どうしても許容できなかった。

 

 

 

その揺れ動く良心にトドメを刺したのが、二つ目の出来事。

 

あの限界集落での、忌々しい差別と虐待だ。

 

檻に閉じ込められた美々子と菜々子を見て、私は確信した。目の前の非術師どもは、守るべき弱者などではない。醜い言葉を吐き散らす、おぞましい肉塊に過ぎないと。

 

猿たちを皆殺しにし、術師が笑える世界を作る。

 

美々子と菜々子が、そして私自身が、心から笑って過ごせる楽園を築く。それが、私の選んだ道だった。

 

 

それが、私の『大義』だった。

 

まあ、それも禪院雅という異端者に、諭されてしまったわけだが

彼と対話し、自身の『大義』を見つめ直した今、私が出した結論は一つ。

 

禪院雅が作ろうとしている世界なら、私たちは、今度こそ本当に笑えるのかもしれないということ。

 

非術師による術師への迫害は、その存在を正しく認識していないことが最大の要因だ。

 

術師を得体の知れぬ存在ではなく、絶対的な力を持つ隣人として。呪術という概念が『常識』となった世界では、これまでのような無理解による悲劇は起きにくいだろう。

 

もちろん、イジメな差別がゼロになることはない。だが、術師が一方的に搾取される構造は、間違いなく破壊される。

 

 

 

 

決断まで、少し時間はかかってしまったが。

 

私たちは禪院家へ行く。呪術師が、呪術師として正当に報われる世界を作るために。

 

それに、雅君も必要としているだろう?

 

私のような、非術師に情を持たない人間を。

 

汚れ仕事を厭わず、冷徹に人を殺せる人間を。

 

「──彼の言う『マシな未来』。その特等席に、是非座らせてもらおうか」

 


 

呪術総監部の老害たちと会議せなあかんのは疲れるなぁ。

 

「ふざけるなっ!」

 

「誰に声を荒らげてるか分かってるん?そもそもなんなん、いきなり呼び出しておいて。先週会議したばっかりやん。次の集まりは1ヶ月後やなかったっけ?」

 

御簾で顔が見えないからって調子に乗りすぎやない。今すぐ僕は君たち全員殺せるんやけど。

 

「嘯くな。誰がお前たちを呪術総監部に受け入れてやったと思っているんだ──その恩を、仇で返すつもりか」

 

「なんのことか分からんなぁ。パパわかるぅ?」

 

「いや、わからん」

 

「偉そうなこと言うとるけど、僕たちを受け入れたのは拒否して殺されたくなかっただけやろ。その後も在籍させたのは、僕から金をもらってるからやん。偉そうなこと言うなや」

 

僕もそれを良しとしたったよ。この呪術総監部自体を立て直すか、それとも別の方法を考える必要があるか検討するために。

 

──その結果、新しい組織を作った方がええと判断した。もう利用価値ないんよ、君たち。

 

「あ、もしかして、僕が呪術総監部抜けて、新しく『呪術共生機構』立ち上げるいうたから怒ってるん?いやー、気づかんかったなぁ」

 

ピキるなや。一斉に騒ぐなや、煩わしい。感謝してえや、わざわざ教えてやったんやから。

 

「ならば、お前が盗んだ我々が今まで保管してした資料を返せ」

 

「なんの事やろ?」

 

「ふざけるな。お前の術式の残穢が残っていた──お前たち2人の脱会は認める。だが、情報を持ち出すことは許さん」

 

「許さんかったらどうするん?まさか、僕と戦うん──ほんまに?」

 

手持ち呪霊の5人を暗闇から召喚する。今日は五人全員連れてきた。面倒な問答を力業で終わらせるためにな。

 

「正気か!!」

「我々と敵対するつもりか!術式をとけ!」

「ここは話し合いの場だぞ!」

「我らに恩があるであろう!」

 

なーんか、色々喚いてるなぁ。恩なんかないやろ。ああ、強いていえば先週の集まりで夏油傑の呪詛師認定を解いたことくらいか?やけど、それも僕が金を渡して賛成票集めたやん。やっぱり恩なんてないわ。

 

『人の子。こやつらは殺してもいいのか?』

『日課の日向ぼっこがこいつらのせいで...』

『ここ、空気が悪い。嫌い』

『ゲームしたいっ!』

『新しいゲーム買って!』

 

五体の特級が放つ圧だけで、御簾の向こうの老人たちがガタガタと震え出すのがわかる。なんや、禪院家の人間は特級を前にしても震えんよ?

 

「そんで、僕は覚えないんやけど──僕が書類盗んだ証拠ほんとにあるん?今やったら、『君たちが書類を紛失した』って言い訳信じたるけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったのか?」

 

「当たり前やろ。腐ったミカンは箱ごと捨てなあかん。あの組織を立て直すのは無理や」

 

呪術総監部が今まで集めてきた情報を全部盗んだ。これをしっかり分析して活用すれば、呪術師が実力に見合わない任務に送られることはなくなる。

 

まあ、今の呪術総監部はわざとそういうことをしとったけど。僕はちゃう。術師が減っていいことなんて、なんもない。

 

今まで呪術総監部が呪術界のトップでいることができたのは、それに逆らう人間がおらんかったからや。逆らう人間を排除する力があったからや。

 

やけど、僕たち禪院と事を構える気概はあいつらにはない。唯一の懸念点は五条悟やけど、まあ仮に敵になったとしてもなんとかなる。

 

天逆鉾があれば言うことなしなんやけど、なくても盤外戦で封じ込むことができるはずや。

 

「呪術共生機構に参加してほしい人には手紙送っとるし、断られんやろ。まあ、加茂家の次期当主には断られるかもしれんけど」

 

加茂家の次期当主と、呪術総監部から距離を置いていた名家を何ヶ所か。フリーの術師1人。

 

禪院家一色にするのは簡単やけど、それやと組織が腐った時に自浄機能が働かん。今後100年以上続けるための組織を作るためには、最初の土台が大事なんや。

 

なんやかんや言うても、加茂家は人脈があるから、可能であればまだ腐ってない可能性のある次期当主は引き込んでおきたい。

 


 

送られてきた手紙を来客にヒラヒラと見せる。こちらが会いたいと返信した翌日に来るなんて。随分とせっかちだ。

 

でも私は、君を待っていた。

 

「──君が来るのを待っていたよ。禪院家27代目当主、禪院雅くん。こんなに早いとは思わなかったけどね」

 

「気軽に名前で呼んでえや。そっちが年上やし。それだけ君を引き込みたいっていう気持ちの現れなんやけど、伝わっとる?」

 

「まさか。誠意というのは金額に現れるものだ。手紙には肝心の報酬が書いてなくてね──幾ら払う?」

 

私の能力は知っているだろう?君が禪院家の人間をフリーの術師のフリをさせて私に何度か依頼してきたことを知っている。それでもなお、私を引き込もうとしているということは、私の仕事はお眼鏡にかなったわけだ。

 

「金額によっては、手紙に書いた内容を引き受けるいう認識であっとる?」

 

・呪術共生機構に所属すること。

 

・情報部門の中核を担うこと。

 

・呪術共生機構に害を与える仕事を受けないこと。それ以外の仕事は今まで通り行っても良い。

 

・例外的に呪術共生機構の情報を提供しても良いが、その際は禪院雅に相談すること。

 

「私に都合のいい内容だからね。まあ、それも金額次第だが」

 

日本の大企業の殆どと彼は関係がある。それがどういった手段で得た人脈かはわからないが、それは間違いない。禪院家を外から見張っている烏を介して確認した。

 

日を空けて各業種の大企業の社長や株主が出入りしているのは間違いない。

 

「月に5億+成果報酬。悪くない条件やろ。安定した高収入が確定するんやから」

 

「ふむ」

 

確かに悪くない。悪くないが、特段良くもない。これから禪院雅率いる呪術共生機構と、呪術総監部が争うと考えれば、呪術共生機構に肩入れしない方が稼げる可能性が高い。

 

「冗談や。君の実力をそこまで低く見積っとらん。月に15億+成果報酬や。基礎報酬については年1で改正する。15億を最低報酬として、それ以下になることはないと約束する」

 

「──素晴らしい。その条件であれば飲むよ」

 

やはり御三家の資金力は別格だ。

 

禪院家は今まで金銭面には無頓着な武闘派のイメージだったが、当主が変わってからは積極的な資産運用を行っている。運用が上手いのか、それとも企業を誑かして吸い上げているのか。

 

 

 

 

 

 

 

──どちらでもいい。禪院雅、彼は間違いなく打出の小槌だ。何より、金払いの良い人間は嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

「ここまでこさせられたついでに質問なんやけど──もし君の愛が欲しいってなったら、金で買うことはできるん?」

 

「──ふっ。その質問は有料になるが、いいかな?」

 

「遠慮しとくわ。別に今はそこまでして必要やない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ふむ。色仕掛けでもすれば、もっと金を引っ張れそうか....?」

 

去りゆく小さな背中を見送りながら、冥冥は唇を舐める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「術式の親和性を考えれば、婚約者候補に『あり』やな。候補のひとりにしとこうか」

 

呪霊操術と黒鳥操術が交わった術式が生まれれば、僕の次の代も禪院家は安泰や。今のうちから将来の結婚相手も探さんとあかん。

 


 

冥冥さん

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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