体育祭が終わり、教室に戻ったA組。相澤先生が黒板に映し出した「指名数」の表に、クラス中がざわめきました。
轟くんや爆豪くんが圧倒的な数を稼ぐ中、私の名前の横にも、予想外の数字が並んでいました。
「……320件? 私に、これほどの指名が……?」
(公安の関係以外で、私のような『兵器』を欲しがる場所があるのでしょうか)
不安に駆られながら渡された指名リストを捲っていくと、ある一枚の用紙で指が止まりました。
「八木さん、どこか気になるところあった?」
隣の席の百ちゃんが覗き込んできます。
「……はい。この、『海難ヒーロー:セルキー』という方から。私の艤装が、海上救助に役立つと考えてくださったようです」
「セルキーさん! 素敵なヒーローですわ。あなたのルーツである『海』で、今度は人を救う。……素晴らしいことではありませんか?」
その言葉に、胸の奥が少しだけ軽くなりました。かつて血に染めた海を、今度は守るために航る。それは、私にとって何よりの「更生」になるかもしれません。
とそして授業は、ミッドナイト先生による「ヒーロー名」の発表へと移りました。
(名前……。私はずっと『07』でした。おじ様が『朱奈』と名付けてくれたけれど、ヒーローとして、私は何を名乗ればいいのか……)
配られたホワイトボードを前に、私はペンを握ったまま固まってしまいました。
「爆殺王」と叫んで突き返される爆豪くんや、「ショート」と本名を選ぶ轟くんを横目に、私は自分の内面と向き合います。
(私の個性は『航空母艦』。でも、それはただの器(うつわ)です。私はその船で、何を運びたいのか)
ふと、おじ様が休日に淹れてくれた、あの温かいお茶の湯気を思い出しました。
あんな風に、誰かの凍えた心を温め、守れる場所でありたい。
意を決して、私は教壇に立ち、ボードを掲げました。
「……私のヒーロー名は、これです」
【 アーカイブ(Ark-Ive)】
「アーカイブ……? 記録、という意味かしら?」
ミッドナイト先生が首を傾げます。
「はい。一つは、私の過去(記録)を背負って戦うという決意。そしてもう一つは……『方舟(Ark)』として、そして『生きる(Live)』。絶望の淵にいる人々を一人残らず乗せて、明日の光の中へ送り届ける船でありたいという願いを込めました」
教室が、静かな沈黙に包まれました。
それは、かつて「破壊兵器」として生み出された少女が、初めて自分自身の意志で定義した「生存の形」でした。
「……素敵じゃない! 過去を否定せず、未来を救う船。承認よ、アーカイブ!」
ミッドナイト先生の明るい声に、私は深くお辞儀をしました。
おじ様からもらった『朱奈』という名に恥じない、私だけの「ヒーロー」の姿が、少しだけ見えた気がしました。
職場体験の指名リストを捲っていた私は、ある一枚の用紙に目を奪われました。
「……ファットガム事務所?」
それは関西を拠点とする、吸着と衝撃吸収のスペシャリスト。一見、海上での活動が多い私の艤装とは縁が薄そうに見えます。しかし、そこには丁寧な添え書きがありました。
『君の防御力と機動性は、都市部の混戦でこそ真価を発揮する。うちのサンイーターの「精神的サポート」も兼ねて、一度遊びに来んか?』
(サンイーター……。聞いたことないヒーローですね?)
ですがファットガムの守る力、そして大阪という人が多い所という場所での活動
それが私を高めると信じて私はそこを選びました
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職場体験:ファットガム事務所
大阪、道頓堀。
活気溢れる街並みの中に、その事務所はありました。
「おぉ、君がアーカイブか! 噂の編入生やな! 遠いとこよう来たなぁ、まぁこれ食うて落ち着き!」
事務所に入るなり、巨大な黄色い体が視界を埋め尽くしました。ファットガムさんは満面の笑みで、私の手に次々とたこ焼きのパックを握らせてくれます。
「あ……ありがとうございます。八木朱奈、いえ『アーカイブ』です。よろしくお願いします」
「ええ挨拶や! ほら、天喰! お前もいつまでも壁と友達になってんと、挨拶せえ!」
ファットさんの背後、部屋の隅で文字通り壁に額を押し付けていた青年が、ビクッと肩を揺らしました。
「……無理だ……。僕のような……ノミの心臓が、体育祭であんなに輝いていた彼女に……何を言えばいいんだ……。帰りたい……」
「貴方……………確か入学式の日に」
私が声をかけると、天喰先輩は恐る恐る振り返りました。その瞳は相変わらず不安げでしたが、ヒーローコスチュームを纏った彼の肩には、確かな実力が宿っているのが分かりました。
「……君は……あの時の。……確か八木、さん……。いや、アーカイブ……。僕は……天喰環。ヒーロー名は……サンイーターだ……。……もう、壁になりたい……」
「はっはっは! 最高のコンビやないか! 守りのアーカイブに、喰らうサンイーター! 今日は早速、街のパトロール行くで!」
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パトロール:想定外の事態
「……天喰先輩、あの」
パトロール中、私の隣を歩く天喰先輩は、私と物理的な距離を保とうと必死でした。
「……話しかけないでくれ……。プレッシャーで……胃が……。君は……どうしてこの事務所に来たんだ……?」
「私は……先輩のその『慎重さ』を学びに来ました。私の力は、一歩間違えればすべてを壊してしまいます。でも、先輩は自分の力を細かく、正確に制御して戦う。……それは、私が一番求めている力です」
私の言葉に、天喰先輩は少しだけ目を見開きました。
その時、路地裏から凄まじい破壊音と悲鳴が上がりました。
「おっと、仕事や! 二人とも、行くで!!」
ファットさんの指示で現場に急行すると、そこでは違法な「個性強化薬」を使用したと思われる大型のヴィランが暴れていました。
「……目標、確認。艤装、部分展開」
私は即座にエアポートを盾として展開し、逃げ遅れた一般人を保護します。しかし、ヴィランが放った高圧の瓦礫が、私の装項を激しく叩きました。
「――っ! 出力、足りない……!?」
「……アーカイブ! 下がれ……!」
天喰先輩が前に出ました。彼の腕が瞬時に巨大な「タコ」の触手へと変貌し、飛来する瓦礫をすべて絡め取ります。さらに、もう片方の手は「貝」の硬質化を纏い、ヴィランの突進を真っ向から受け止めました。
「……ファットさんは……市民を……。この敵(ヴィラン)は……俺が……止める……!」
弱気な言葉とは裏腹に、その戦い方は冷徹なほど合理的でした。
「アーカイブ……。君のその盾で……僕の視界を塞いでくれ……。死角を消せば……俺はもっと、喰らえる……!」
「……了解しました、サンイーター先輩!」
私はエアポートを分割し、先輩の周囲を浮遊する移動式装甲として配置。先輩が攻撃に専念できるよう、あらゆる方向からの妨害を遮断します。
「これや! これが見たかったんや!」
ファットさんの歓声が響く中、私たちは初めての共同戦線(リンク)を開始しました。
私は気づきました。天喰先輩の「暗さ」は、誰よりも繊細に周囲を思いやる「優しさ」の裏返しなのだと。
(おじ様……。私は今、最高の先輩たちから、力の『使い方』を学んでいます)
大阪の空の下、私の新しい航海は、心強い「艦隊」と共に加速し始めていました。
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大阪での職場体験、その後の1週間は私にとって「兵器」から「人間」、そして「ヒーロー」へと脱皮するための、激動の航海となりました。
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【職場体験2日目〜3日目:精密制御の特訓】
「アーカイブ……。君の出力は……大きすぎる。もっと……『つまむ』ように、力を使って……」
天喰先輩の指導のもと、私は艤装の出力を**0.1%単位**で制御する訓練を開始しました。
これまでは「薙ぎ払う」ことしか知らなかった私の艦載機。それを使い、散らばったたこ焼きのピックを一本ずつ拾い上げるという地道な作業。
「……難しいです。指先が、震えます」
「……それでいい。その震えを……自覚するのが、制御の第一歩だ……」
壁に向かって呟く先輩の言葉は、不思議と私の核(コア)に深く染み込みました。
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【4日目〜5日目:都市型共同戦線】
大阪の入り組んだ路地裏でのパトロール。
狭い空間では、私の巨大なエアポートは「邪魔な壁」にしかなりません。
「ファットさん! 前方の路地、一般人が取り残されています!」
「よっしゃ、任せろ! アーカイブ、君は上空からの索敵と、天喰の足場になれ!」
私はエアポートを小刻みに分割し、ビルの壁面に沿って「階段」のように配置。その上を、天喰先輩が「鳥」の翼と「チーター」の脚を具現化して跳び回ります。
空中と地上、そして建物の合間。私たちはファットさんを中心に、一つの「網」となってヴィランを追い詰めました。
「……完璧や! 君ら、もう何年もコンビ組んどるみたいやな!」
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【6日目:心のチャージ?】
「食べ過ぎました」
「うん……………そうだね」
100個入りのたこ焼きの空箱を目の前に
【最終日:方舟の本気】
最終日、大規模な地下街での火災事故が発生しました。
煙が充満し、視界ゼロの極限状態。
「アーカイブ! 君のレーダー(索敵)と熱源感知が頼りや!」
「了解しました! 全艦載機、救助誘導モード!」
私はすべての小型機を放ち、暗闇の中で取り残された人々の元へ届けました。機体から放たれる淡い光は、恐怖に震える人々にとっての「希望の灯火」となりました。
「……こちらへ。私が、出口まで航路(みち)を作ります」
私はエアポートを水平に展開し、足の不自由な方や子供たちを乗せ、煙を吸わないよう空気の層を作りながら、静かに、確実に地上へと運び出しました。
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【そして、お別れ】
「あー、寂しくなるなぁ! 卒業したら、絶対うちに就職しに来いよ!」
新大阪駅のホーム。ファットさんが私の肩をバンバンと叩き、案の定、お土産用の大量のたこ焼き(冷凍)を押し付けてきました。
「……アーカイブ。君は…立派な……一人の……ヒーローに……近い。……また、会おう」
天喰先輩が、初めて壁を見ずに、私の目を真っ直ぐに見てくれました。
「……はい! ファットさん、天喰先輩。本当に、ありがとうございました!」
新幹線が動き出す。
窓の外に流れる大阪の街並みを見ながら、私は自分の胸に手を当てました。
お腹の満腹感はもうありませんが、胸の奥にある「アーカイブ」という名の船には、かけがえのない経験という名の積み荷がいっぱいに詰まっていました。
(おじ様。……私、少しだけ強くなって帰ります)
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