緑谷Side
ヴィランが去った後。
確認された被害状況は――
雄英高校一年生、41名。
意識不明――15名。
重軽傷者――11名。
無傷――13名。
そして。
行方不明者――2名。
爆豪勝己。
そして――
八木朱奈。
---
その日の夜――
オールマイトSide
オールマイト「? 相澤君か。やあ、相澤君。どうした? 今は林間合宿中――」
相澤「…………八木朱奈が」
電話越しの相澤君の声が、妙に重かった。
オールマイト「…………?」
相澤「……八木朱奈が、敵連合に連れ去られました」
「…………」
一瞬。
意味が理解できなかった。
いや――
理解することを、頭が拒んだ。
オールマイト「……もう一度、言ってくれ」
相澤「八木朱奈が、敵連合に連れ去られました」
オールマイト「…………そうか」
声が出た。
自分でも驚くほど、平坦な声だった。
だが。
胸の奥では、何かが崩れていた。
朱奈。
私の生徒。
私が救った少女。
かつて絶望の中にいた彼女へ、私は手を差し伸べた。
『君は兵器なんかじゃない』
そう言った。
『ヒーローになれる』
そう伝えた。
そして――
彼女は笑った。
ほんの少しだけ。
それが嬉しかった。
私は、彼女の運命を変えられた。
そう思っていた。
なのに。
オールマイト「…………私は」
拳が震える。
オールマイト「また……守れなかったのか」
---
数時間前
相澤君から詳しい報告を受けた後。
私は一人、校長室にいた。
机の上には、林間合宿襲撃事件の資料。
生徒の負傷者。
被害状況。
そして――
行方不明者二名。
爆豪勝己。
八木朱奈。
その名前を見つめていると、ふと一人の男の顔が浮かんだ。
――サー・ナイトアイ。
かつて私の隣にいた男。
私の相棒。
そして、私の未来を案じてくれた親友。
『オールマイト』
あの頃の彼の声が蘇る。
『あなたは、いつか必ず限界を迎えます』
『だから、次の世代を育ててください』
『あなた一人が全てを背負う必要はない』
オールマイト「…………」
私は目を閉じる。
そして、もう一つの言葉が蘇った。
『あなたは、人を救うことに夢中になりすぎる』
『だからこそ、自分が救えなかった人間を、いつまでも背負い続ける』
オールマイト(……やめろ)
頭の中で、ナイトアイの声が続く。
『あなたが救えなかった人間は、あなたを責めているとは限らない』
『ですが、あなた自身が自分を許せないのでしょう』
オールマイト「…………」
そうだ。
私は――
自分を許せない。
朱奈の過去を知った時も、そうだった。
三歳の時に両親を失い。
長い間、兵器として扱われていた少女。
その話を聞いた時、私は思った。
もっと早く出会えていれば。
もっと早く救えていれば。
あの子は、こんな人生を歩まずに済んだのではないか。
だから私は、朱奈を救いたかった。
教師として。
ヒーローとして。
そして――
一人の人間として。
なのに。
また。
目の前から奪われた。
オールマイト「…………私が行かなければ」
椅子から立ち上がる。
オールマイト「私なら……」
机の上の資料を掴む。
オールマイト「私なら救える」
そのまま部屋を出ようとした。
しかし――
根津「オールマイト」
足が止まる。
オールマイト「…………」
根津「君は今、教師として考えているかい?」
オールマイト「…………」
根津「それとも――」
校長は少しだけ目を細めた。
根津「一人の少女を救えなかった自分を、取り戻そうとしているのかい?」
オールマイト「……っ」
胸を突かれた。
オールマイト「違う……」
根津「本当に?」
オールマイト「私は……」
言葉が出ない。
根津は机の上の資料を指差す。
根津「君が今すぐ飛び出したところで、朱奈君の居場所は分からない」
オールマイト「…………」
根津「そして、君が感情のまま動けば、敵はそれを利用する」
オールマイト「…………」
根津「それは、朱奈君を救うための行動じゃない」
その言葉が、胸に刺さる。
オールマイト「……では、私はどうすればいい」
ようやく絞り出した声。
根津は静かに答えた。
根津「頭を使うんだよ、オールマイト」
「君が彼女を救いたいのなら、今必要なのは怒りでも後悔でもない」
「彼女が帰ってこられる道を作ることだ」
私は拳を握った。
震えは、まだ止まらない。
だが。
少しずつ、頭が冷えていく。
ナイトアイの言葉が蘇る。
――次の世代を育ててください。
オールマイト「……そうだったな」
私は資料を見つめる。
オールマイト「私は……一人で全てを救う必要はない」
根津「そうだよ」
オールマイト「相澤君がいる」
そして。
朱奈がいつも口にしていた言葉を思い出す。
――『おじ様』
オールマイト「……朱奈」
私は目を閉じた。
オールマイト「待っていてくれ」
今度こそ。
教師として。
そして――
君を救ったヒーローとして。
必ず迎えに行く。
オールマイト「……根津校長」
根津「何かな?」
私は静かに立ち上がった。
オールマイト「敵の目的を整理しよう」
根津は微笑んだ。
根津「ようやく、いつもの君に戻ってきたね」
オールマイト「……ああ」
――そして、敵の拠点
朱奈Side
朱奈「んっ……?」
重い瞼を開く。
最初に見えたのは、薄暗い天井。
鼻を刺すような薬品の臭い。
身体を起こそうとする。
――動かない。
両腕。
両足。
すべて椅子に固定されている。
口元にも拘束具が付けられていた。
朱奈(……っ)
周囲を見回す。
そこには、いくつもの巨大なタンクが並んでいた。
透明な液体。
その中に浮かんでいるのは――
人間なのか。
それとも、別の何かなのか。
朱奈(……何、これ……)
そして。
少し離れた場所に立っていたのは――
自分と、よく似た少女。
朱奈「…………」
蒼奈「おはよう、お姉様♪」
朱奈「…………」
そしてもう一人。
車椅子に座った男。
その顔を見た瞬間。
胸の奥が、本能的に拒絶した。
知らない。
なのに。
怖い。
身体そのものが、
「この男から逃げろ」
そう叫んでいるようだった。
朱奈「……誰……?」
男は穏やかに笑う。
オール・フォー・ワン「やあ、八木朱奈君」
その声を聞いただけで、背筋が凍る。
オール・フォー・ワン「私はオール・フォー・ワン」
朱奈「……っ!?」
恐怖。
これは、ただの恐怖ではない。
もっと深い。
身体そのものが、この男を拒絶している。
朱奈(……何、この感情……)
オール・フォー・ワン「そんな怖い顔をしないでくれ」
そして蒼奈を見る。
オール・フォー・ワン「蒼奈。彼女の拘束を外してあげなさい」
蒼奈「はーい、お父様♪」
蒼奈が近づき、口元の拘束を外す。
朱奈はすぐに顔を上げた。
朱奈「……あんた達は、ヴィラン連合?」
蒼奈「半分正解♪」
朱奈「……?」
蒼奈「流石、お姉様」
朱奈は冷たく睨みつける。
朱奈「あいにく、私に家族はいないわ」
蒼奈「ううん」
蒼奈は笑った。
蒼奈「いるよ」
一歩。
朱奈へ近づく。
蒼奈「最後の生き残りがね♪」
朱奈「…………」
その言葉に、胸の奥がざわつく。
朱奈「……そんなはず……」
朱奈「私は三歳の時から研究所に――」
オール・フォー・ワン「おやおや」
男が楽しそうに笑う。
オール・フォー・ワン「どうやら、あの研究所は君の記憶まで消していたようだね」
朱奈「……記憶?」
オール・フォー・ワン「仕方ない。教えてあげよう」
男は蒼奈の肩に手を置く。
オール・フォー・ワン「彼女は君のクローンだ」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「そして――」
男の声が、静かに響く。
オール・フォー・ワン「君の両親を殺したのも、私だよ」
朱奈「…………え?」
世界が止まった。
朱奈「……今……なんて……?」
オール・フォー・ワン「君の両親を殺したのは私だ」
朱奈「…………」
頭の中で、何かが軋んだ。
知らない。
知らないはずなのに。
胸が痛い。
息が苦しい。
朱奈「……そんな……私は……」
オール・フォー・ワン「実感がないか」
男が手を伸ばす。
朱奈「やめ――」
指が、頭に触れた。
――瞬間。
朱奈「――っ!!」
激しい頭痛。
視界が真っ白になる。
そして――
――三歳の記憶
朱奈「お父さん……?」
小さな手。
赤い床。
朱奈「……お母さん……?」
返事がない。
何度呼んでも。
二人は動かない。
炎。
煙。
泣き声。
そして――
目の前に立つ男。
オール・フォー・ワン。
その横には。
誕生日ケーキ。
そして、大人用の大きなキャプテン帽子。
朱奈「…………」
記憶が弾ける。
――現在
朱奈「…………」
蒼奈が被っている帽子を見る。
それは――
あの日の帽子と同じだった。
朱奈「……お前が」
涙が一粒、頬を伝う。
朱奈「お前が……!」
身体が震える。
朱奈「お前がぁぁぁっ!!」
怒り。
悲しみ。
恐怖。
憎しみ。
全てが一気に溢れ出す。
朱奈「なんで……なんで……!!」
オール・フォー・ワン「元々、君の父親は私の思想に共鳴していた」
「だが、君の母親と出会い、私から離反した」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「そして二人の間に生まれた君は、非常に優秀な個性を持っていた」
男は笑う。
オール・フォー・ワン「だから私は、君を利用することにした」
朱奈「……パパと……ママは……」
オール・フォー・ワン「もういない」
朱奈「…………」
膝から力が抜ける。
朱奈「あぁ……」
涙が止まらない。
朱奈「……パパ……」
朱奈「……ママ……」
忘れていた。
いや。
忘れさせられていた。
大切だった二人。
そして――
自分の誕生日。
オール・フォー・ワン「しかし、君の個性はあまりにも優秀だった」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「だが、一つ問題があった」
男は淡々と語る。
オール・フォー・ワン「これほど巨大な力を一つの身体に抱えたままでは、成長した肉体が耐えられない」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「そこで私は――」
蒼奈の肩へ手を置く。
オール・フォー・ワン「君の個性を二つに分けた」
朱奈「……え?」
オール・フォー・ワン「空母の力」
蒼奈を見る。
オール・フォー・ワン「そして、戦艦の力」
蒼奈「……私?」
オール・フォー・ワン「そうだよ、蒼奈」
蒼奈は嬉しそうに笑う。
オール・フォー・ワン「君達は、一つの個性から生まれた二つの存在だ」
朱奈は蒼奈を見る。
似ている。
顔も。
髪も。
瞳も。
なのに――
どうして。
こんなにも違う。
オール・フォー・ワン「しかし、二人を同じように育てることはできなかった」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「だから君は研究所へ預けた」
「そして、私は君の存在を忘れさせた」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「まさか、その後オールマイトに救われるとは思わなかったがね」
その声に、初めて明確な憎悪が滲んだ。
オール・フォー・ワン「……虫唾が走る」
朱奈には、もう聞こえていなかった。
「……パパ」
「……ママ」
ただ、それだけを呟き続ける。
蒼奈Side
蒼奈「ねぇ、お父様」
オール・フォー・ワン「なんだい?」
蒼奈「どうして私は、お姉様と一緒じゃなかったの?」
オール・フォー・ワン「…………」
蒼奈「同じところで育てればよかったのに」
オール・フォー・ワン「それは――」
一瞬。
オール・フォー・ワンの視線が朱奈へ向く。
オール・フォー・ワン「君達の能力が、完全には同じではなかったからだよ」
蒼奈「…………?」
オール・フォー・ワン「君には演算能力が強く現れた」
「そして彼女には――」
朱奈へ視線を向ける。
オール・フォー・ワン「異常なほどの出力を生み出す『炉心』が残った」
朱奈「……炉心……?」
オール・フォー・ワン「ああ」
「例えるなら、核融合炉よりも遥かに強力な――無限に近いエネルギー源だ」
「君の身体が長年の戦闘に耐えられた理由も、それだよ」
朱奈「…………」
オール・フォー・ワン「そして、その炉心こそが――」
蒼奈を見る。
オール・フォー・ワン「君には存在しないものだ」
蒼奈「…………」
オール・フォー・ワン「だが」
男は蒼奈の頭に手を置く。
オール・フォー・ワン「君の身体は完成している」
「だからこそ――」
オール・フォー・ワン「蒼奈」
蒼奈「はい、お父様♪」
オール・フォー・ワン「今こそ、私の最高の兵器になれ」
蒼奈「…………」
一瞬だけ、朱奈を見る。
そして。
蒼奈「……もちろんです、お父様♪」
満面の笑顔。
その笑顔の向こうで。
蒼奈の胸には、小さな疑問が残っていた。
――どうして。
――お父様は、本体であるお姉様ではなく。
――私を選んだのだろう。
――そして、雄英
飯田Side
僕は――いや。
俺は、暗い森の中を走っていた。
緑谷君達も集まっている。
その姿を見ながら、ずっと考えていた。
爆豪君。
そして――
朱奈君。
二人が誘拐された。
爆豪君は、敵に狙われていた。
だが、朱奈君は違う。
彼女は明らかに――
最初から狙われていた。
あの少女。
朱奈君と瓜二つだった少女。
そして。
あの言葉。
『この子はお父様に捧げないと』
俺は拳を握る。
飯田「…………」
俺は、もう一度考える。
俺達はヒーローの卵だ。
そして。
目の前で仲間が連れ去られた。
なら――
飯田「……助けなければ」
緑谷「飯田君……?」
飯田「爆豪君も」
そして。
飯田「朱奈君もだ」
だが。
頭の中には、相澤先生の言葉が響いていた。
――絶対に動くな。
――プロが救出する。
俺は足を止める。
飯田「…………」
正しいのは先生の指示だ。
分かっている。
分かっているのに。
拳が震える。
飯田「……俺は、また……」
ステイン事件の時の記憶が蘇る。
自分一人で突っ走った。
その結果、多くの人間を危険に巻き込んだ。
だからこそ――
飯田「今度こそ……間違えてはいけない」
その時。
緑谷君が口を開いた。
緑谷「……でも」
俺は彼を見る。
緑谷「爆豪君と朱奈さんを、見捨てることなんてできない」
飯田「…………」
轟「……俺も行く」
八百万「私も……」
飯田「…………!」
その言葉を聞きながら。
俺は、まだ迷っていた。
正しいのはどちらなのか。
先生の指示に従うべきなのか。
それとも――
仲間を救うために動くべきなのか。
そして。
この時の私はまだ知らなかった。
この決断の先で。
俺達は、朱奈君にまつわる――
彼女自身も知らなかった、大きな秘密を知ることになるのだと。
朱奈のイラスト(AI生成)見てみたいですか?
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別にいらない