鋼鉄艦船のヒーローアカデミア   作:花咲 凛香

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前回⋯⋯⋯私は真実を知ってしまった


ユーオブ⋯⋯ザ⋯⋯マイ

相澤Side――林間合宿襲撃事件後

 

爆豪についての記者会見は、なんとか終わった。

 

いや。

 

「なんとか」という言葉すら、生ぬるい。

 

生徒が二人も襲撃に巻き込まれ、そのうち一人は誘拐された。

 

そして、もう一人――八木朱奈も行方不明。

 

雄英の教師として、責任を感じないわけがない。

 

それでも。

 

今は余計なことを口にするわけにはいかなかった。

 

相澤「…………」

 

会見場。

 

フラッシュが何度も瞬く。

 

インタビュアー「では、次に――八木朱奈さんについてはどうですか?」

 

来た。

 

その名前を聞いた瞬間、俺はわずかに目を細めた。

 

インタビュアー「彼女の個性は、まるで破壊兵器」

 

相澤「…………」

 

インタビュアー「そして、彼女自身の戦闘能力も極めて高い」

 

さらに続ける。

 

インタビュアー「大型艤装、航空機、ミサイル、砲撃……」

 

「他者を傷つける、戦争の象徴とも言える軍艦の個性」

 

一拍。

 

インタビュアー「彼女はまるで――」

 

「破壊兵器そのものではありませんか?」

 

会場が静まり返った。

 

俺はマイクを握ったまま、しばらく黙っていた。

 

怒鳴るつもりはない。

 

感情的になるつもりもない。

 

だが。

 

相澤「……一つ、訂正しておく」

 

インタビュアー「?」

 

相澤「八木朱奈は兵器じゃない」

 

きっぱりと言う。

 

相澤「俺の生徒だ」

 

記者たちがざわつく。

 

相澤「確かに、あいつの個性は強力だ。大型艤装を展開し、航空機まで運用する。戦闘能力だけを見れば、危険性が高い個性と言える」

 

一度、言葉を切る。

 

相澤「だが――」

 

俺は記者をまっすぐ見た。

 

相澤「個性が何に見えるかと、その人間が何者なのかは別の話だ」

 

インタビュアー「しかし、実際に軍艦を――」

 

相澤「軍艦だから人を傷つけるとでも?」

 

インタビュアー「…………」

 

相澤「今の八木朱奈は、ヒーローを目指している」

 

「少なくとも、俺はそう認識している」

 

その時。

 

インタビュアーが、僅かに口元を歪めた。

 

嫌な笑い方だった。

 

インタビュアー「では――彼女の過去についてはいかがでしょうか?」

 

相澤「…………?」

 

一瞬。

 

会場の空気が変わった。

 

インタビュアー「かつて八木朱奈さんは海外で英才教育を受けていた」

 

「しかし、ヴィランによって両親を殺害され、その後、名前を変えて雄英高校へ転入した――」

 

記者が手元の資料をめくる。

 

インタビュアー「これは本当ですかな?」

 

相澤「…………」

 

頭の中で警報が鳴った。

 

どこから、その情報を手に入れた?

 

朱奈の過去は、雄英でも知っている人間は限られている。

 

公安。

 

雄英上層部。

 

そして――本人。

 

少なくとも、一般に公開されている情報じゃない。

 

インタビュアー「いかがです?」

 

相澤「……その質問には答えられない」

 

インタビュアー「つまり、事実だと?」

 

相澤「そうは言ってない」

 

インタビュアー「では、否定を?」

 

相澤「…………」

 

記者の顔を見る。

 

明らかに狙っている。

 

その時だった。

 

根津「話を折るようで悪いが」

 

壇上の端に座っていた根津校長が、ゆっくりとマイクを取った。

 

根津「なぜ、その情報を持っているのかね?」

 

インタビュアー「……」

 

根津「八木朱奈君の出生や過去については、一般公開されている情報ではないはずだ」

 

にこやかな表情。

 

だが、目が笑っていない。

 

根津「それどころか、彼女の身元情報には公安委員会による厳重な管理がかけられている」

 

会場がざわめく。

 

記者「しかし、こちらには情報提供者が――」

 

根津「情報提供者?」

 

根津は首を傾げる。

 

根津「それは興味深いね」

 

相澤「…………」

 

俺も同じことを考えていた。

 

誰だ。

 

誰が朱奈の過去を、この記者に流した。

 

そして、なぜ――

 

今なんだ?

 

爆豪が誘拐された直後。

 

朱奈も行方不明になっている。

 

そんなタイミングで、彼女の過去を掘り返す。

 

偶然とは思えない。

 

根津「では質問を変えよう」

 

根津が穏やかに続ける。

 

根津「その情報は、いつ、誰から提供されたのかね?」

 

記者「……それは情報源の秘匿が――」

 

根津「なるほど」

 

ニコッ。

 

根津「では我々も、同じように答えよう」

 

相澤「……?」

 

根津「生徒の安全に関わる情報なので、お答えできません」

 

会場が静まり返った。

 

緑谷Side

 

緑谷「相澤先生……」

 

飯田「…………」

 

八百万「確かに……朱奈さんは昔の話を、あまりしたがりませんでした」

 

切島「おう。でもよ……」

 

拳を握る。

 

切島「助けるんだろ?」

 

「爆豪も、八木も」

 

緑谷「うん!」

 

迷いなく答える。

 

緑谷「絶対に助ける」

 

轟「…………」

 

轟は何も言わなかった。

 

ただ。

 

遠くを見つめるように呟く。

 

轟「……朱奈」

 

蒼奈Side

 

蒼奈「う~ん……」

 

蒼奈は、眠ったままの朱奈を見下ろしていた。

 

蒼奈「お父様~」

 

オール・フォー・ワン「なんだい?」

 

蒼奈「お姉様の目、死んじゃってるよ~」

 

オール・フォー・ワン「おや?」

 

彼は朱奈を見る。

 

オール・フォー・ワン「刺激が強すぎたかな?」

 

そして。

 

オール・フォー・ワン「でも、生きているならまだ大丈夫だ」

 

蒼奈「ふ~ん……」

 

私は眠っているお姉様を見る。

 

同じ顔。

 

同じ血。

 

そして――

 

私の本体。

 

蒼奈「…………」

 

いや。

 

正確には違う。

 

本体とコピー。

 

元になった存在と、その存在を元に作られた私。

 

でも。

 

お父様は――

 

私を選んだ。

 

蒼奈「…………」

 

なぜ?

 

なぜお父様は、本体であるお姉様ではなく――

 

私を選んだのだろう?

 

蒼奈「ねぇ、お父――」

 

一瞬、言葉に詰まる。

 

蒼奈「……お父様?」

 

オール・フォー・ワン「どうやら弔の方で問題が起きたようだ」

 

蒼奈「?」

 

オール・フォー・ワン「実験はここまでにして――」

 

少し考える。

 

オール・フォー・ワン「いや」

 

そして。

 

オール・フォー・ワン「私と彼女を連れてこい」

 

蒼奈「? 何するの?」

 

オール・フォー・ワン「僕の大事な子供を盗んだ彼に――」

 

不気味な笑み。

 

オール・フォー・ワン「いや、彼らに絶望を与えるのさ」

 

そう言うと、私はお姉様の拘束を解いた。

 

そして。

 

お父様と共に、脳無工場へ向かう。

 

脳無工場

 

工場へ到着した時。

 

そこでは既に、ヒーローたちとの戦闘が始まっていた。

 

オール・フォー・ワンは、まるで遊んでいるかのようにヒーローたちを蹴散らしていく。

 

蒼奈「さすがはお父様です♪」

 

オール・フォー・ワン「ありがとう、蒼奈」

 

そして。

 

オール・フォー・ワン「さあ、次は君の番だよ」

 

蒼奈「えぇ!?」

 

目を輝かせる。

 

蒼奈「いいのですか!?」

 

オール・フォー・ワン「もちろんだよ」

 

彼は工場の外へ視線を向ける。

 

オール・フォー・ワン「さあ――ここら辺を全て壊してしまいなさい」

 

蒼奈「は~い、お父様♪」

 

私は眠ったままのお姉様を地面へ下ろす。

 

そして。

 

ギギギギ……。

 

背中から巨大な艤装が展開される。

 

三連装砲塔。

 

ミサイルランチャー。

 

艦載機。

 

その全てが夜の街へ向けられる。

 

蒼奈「Fire♪」

 

――ドォン!!

 

砲撃。

 

続けざまにミサイルが放たれる。

 

夜空を無数の爆炎が染めていく。

 

爆発音が、夜の街を震わせた。

 

蒼奈「もっと――!」

 

砲塔が旋回する。

 

蒼奈「もっともっと!」

 

再び砲撃。

 

建物が崩れ。

 

道路が砕け。

 

炎が街を飲み込んでいく。

 

その光景を、蒼奈は笑顔で眺めていた。

 

蒼奈「…………♪」

 

だが。

 

オール・フォー・ワン「もういいよ、蒼奈」

 

蒼奈「え?」

 

オール・フォー・ワン「ここからは私の仕事だ」

 

蒼奈「……分かりました、お父様♪」

 

その時。

 

遠くから、一人の少年が連れてこられる。

 

爆豪「……クソッ!」

 

蒼奈「……あれ?」

 

蒼奈は首を傾げる。

 

蒼奈「この子、確か雄英の……」

 

オール・フォー・ワン「爆豪勝己だよ」

 

蒼奈「ふーん……」

 

その瞬間。

 

空気が変わった。

 

突風が吹き抜ける。

 

瓦礫が舞い上がる。

 

蒼奈が空を見上げる。

 

「…………」

 

夜空から、一つの影が降りてくる。

 

巨大な身体。

 

鍛え抜かれた肉体。

 

そして――

 

蒼奈「……あれが」

 

オール・フォー・ワン「ああ」

 

蒼奈「平和の象徴?」

 

オール・フォー・ワン「そうだよ、蒼奈」

 

男は愉快そうに笑った。

 

オール・フォー・ワン「彼こそが――オールマイトだ」

 

ズンッ!!

 

地面が震える。

 

オールマイトが着地した。

 

その視線は真っすぐにオール・フォー・ワンへ向けられている。

 

そして。

 

オールマイト「――オール・フォー・ワン」

 

低い声。

 

いつもの明るい笑顔はない。

 

オールマイト「朱奈君を返してもらうよ!」

 

蒼奈「…………」

 

その言葉に。

 

蒼奈は足元に横たわる朱奈を見る。

 

そして、オールマイトを見る。

 

蒼奈「……お姉様を?」

 

オールマイト「そうだ」

 

一歩。

 

オールマイトが前へ出る。

 

オールマイト「その子は私の生徒だ」

 

蒼奈「…………」

 

オールマイト「君たちが彼女に何をしたのかは知らない」

 

拳を握る。

 

オールマイト「だが――」

 

声が震える。

 

怒りを抑えている。

 

オールマイト「これ以上、彼女を苦しめることは許さない」

 

蒼奈「…………」

 

初めて。

 

蒼奈の笑顔が消えた。

 

ゆっくりとオールマイトを見つめる。

 

蒼奈「……お父様」

 

オール・フォー・ワン「なんだい?」

 

蒼奈「あの人……」

 

視線はオールマイトから外れない。

 

蒼奈「お父様の理想を邪魔する、愚か者ですか?」

 

オール・フォー・ワン「そうだね、蒼奈」

 

その答えを聞いた瞬間。

 

蒼奈の瞳から、感情らしいものが消えた。

 

蒼奈「じゃあ――」

 

ギギギギ……。

 

艤装が再び展開する。

 

三連装砲塔がゆっくりと旋回。

 

砲口が、オールマイトへ向く。

 

蒼奈「…………潰しても構いませんか?」

 

オールマイト「!」

 

爆豪「おい……!」

 

オール・フォー・ワン「――だめだよ」

 

すっ。

 

オール・フォー・ワンが蒼奈の前に手をかざす。

 

蒼奈「……?」

 

オール・フォー・ワン「君は死柄木にとっての剣であり、盾でもある」

 

蒼奈「…………」

 

オール・フォー・ワン「今ここで君を壊したくないのだよ」

 

蒼奈「でも……」

 

オール・フォー・ワン「それに」

 

声が少しだけ柔らかくなる。

 

オール・フォー・ワン「君には、まだ役目がある」

 

蒼奈「……役目?」

 

オール・フォー・ワン「ああ」

 

オール・フォー・ワンは、蒼奈の肩に手を置く。

 

オール・フォー・ワン「死柄木が進むための道を作る」

 

「敵を退ける」

 

「そして必要なら、彼を守る」

 

オール・フォー・ワン「それが君の役目だ」

 

蒼奈「…………」

 

蒼奈は少しだけ考える。

 

そして。

 

蒼奈「……分かりました♪」

 

砲塔がゆっくりと戻っていく。

 

オールマイト「…………」

 

その様子を見ていたオールマイトは、拳を握り締める。

 

オールマイト「……君は」

 

蒼奈「?」

 

オールマイト「本当に、それでいいのか?」

 

蒼奈「…………」

 

オールマイト「君自身の意思で戦っているのか?」

 

オールマイトSide

 

オールマイト「君自身の意思で戦っているのか?」

 

蒼奈「…………」

 

一瞬。

 

蒼奈の表情から、完全に笑みが消えた。

 

蒼奈「……私の意思?」

 

オールマイト「そうだ」

 

蒼奈「…………」

 

蒼奈は不思議そうに首を傾げる。

 

そして――

 

蒼奈「何を言ってるんですか?」

 

ほんの少し、笑った。

 

蒼奈「兵器に――」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

オールマイトの身体が固まった。

 

蒼奈「意思なんて、いりませんよ?」

 

――ズキッ。

 

頭の奥に、別の少女の声が響いた。

 

まだ雄英に来たばかりだった頃。

 

訓練の後。

 

個性について尋ねた時。

 

『自分は何者なのか』と聞いた時。

 

朱奈『……兵器に』

 

オールマイト「…………」

 

朱奈『意思なんて、必要ありませんから』

 

重なる。

 

声も。

 

表情も。

 

諦めたような瞳も。

 

まるで鏡を見ているようだった。

 

オールマイト「…………朱奈君」

 

蒼奈「?」

 

オールマイトは、目の前の少女を見つめる。

 

蒼奈は朱奈とは違う。

 

性格も違う。

 

育った環境も違う。

 

それでも――

 

根っこの部分が、あまりにも似ていた。

 

「自分は兵器だから」

 

「誰かに必要とされるために戦う」

 

「自分自身の意思など必要ない」

 

そんな考えを――

 

幼い頃から誰かに植え付けられてきた。

 

オールマイト「……違う」

 

蒼奈「?」

 

オールマイト「それは違うよ」

 

蒼奈「…………」

 

オールマイト「君たちは兵器じゃない」

 

蒼奈「……でも」

 

オールマイト「君たちは人間だ」

 

蒼奈の瞳が、わずかに揺れる。

 

オールマイト「怒ることもできる」

 

「悲しむこともできる」

 

「誰かを好きになることもできる」

 

そして。

 

オールマイト「自分で選ぶこともできる」

 

蒼奈「…………」

 

オールマイト「だから――」

 

拳を握る。

 

オールマイト「自分の意思を捨てる必要なんて、どこにもないんだ!」

 

蒼奈「…………」

 

沈黙。

 

オール・フォー・ワン「……やめたまえ」

 

オールマイト「!」

 

オール・フォー・ワン「その子に余計なことを吹き込むのは」

 

蒼奈「…………お父様」

 

オール・フォー・ワン「蒼奈」

 

優しい声。

 

オール・フォー・ワン「君は私の最高傑作だ」

 

蒼奈「…………」

 

オール・フォー・ワン「君がどう生きるかは、私が決めてあげよう」

 

その言葉に。

 

蒼奈は一瞬だけ目を伏せる。

 

そして。

 

蒼奈「……はい」

 

笑顔を作る。

 

蒼奈「お父様♪」

 

しかし。

 

その笑顔は――

 

ほんの少しだけ、不自然だった。

 

オールマイトは気付いていた。

 

この少女は、完全には納得していない。

 

そして地面に横たわる朱奈を見る。

 

オールマイト「…………」

 

朱奈は眠ったまま。

 

だが、その表情は苦しそうだった。

 

オールマイトの脳裏に、二人の姿が重なる。

 

兵器として生まれた少女。

 

兵器として育てられた少女。

 

そして。

 

オールマイト「……私は」

 

小さく呟く。

 

オールマイト「二人とも、救ってみせる」

 

その瞬間。

 

オール・フォー・ワン「――甘いね、オールマイト」

 

オールマイト「…………!」

 

空気が変わる。

 

オール・フォー・ワン「君はいつもそうだ」

 

「誰かを救えると思っている」

 

「誰かの人生を変えられると思っている」

 

そして。

 

オール・フォー・ワン「だが――」

 

腕を広げる。

 

オール・フォー・ワン「君が救えなかった人間は、既に存在している」

 

オールマイト「…………」

 

その言葉が胸に刺さる。

 

だが。

 

今度は――

 

オールマイト「……ああ」

 

拳を握り直す。

 

オールマイト「だからこそだ」

 

オール・フォー・ワン「?」

 

オールマイト「私は、今度こそ救う」

 

視線を朱奈へ。

 

そして蒼奈へ。

 

オールマイト「この二人を、絶対に諦めない」

 

蒼奈「…………」

 

その言葉を聞いた蒼奈の瞳が――

 

ほんの一瞬だけ、揺れた。

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