アレからどれだけ時間が経ったのだろうか。
目を開けるとそこには知らない天井が見えた。
(ここは……何処?)
あたりを見渡すと見たことない機械の山。
そして鼻腔を擽る薬品の匂い。
どうやら病院の様だった。
(どうして、こんなところに……?
確か、オールマイトと遭遇して、そして……)
そこまで思考して思い出した。
そうだ。私は彼に攻撃されて気絶したのだ。
その後のことはわからないが、
彼の仲間が私を回収したのだろう。
(……何が目的?)
自分の体を見る。丁寧に包帯が巻かれてるのを見る
どうやら手当てしたらしい
ただし首と手足の拘束具以外は普通の病院だ。しかし部屋全体を覆うように拘束具があるのを見るに逃亡防止用だろう。
(どういうつもり?)
人道的措置?捕虜へのケア?
あるいは何かを聞き出したいのか?
(マスターの所ではなかったな)
ふとそう考えるも
(私はもう用済みか……)
疑念が湧いてきたとき
扉が開き、ガリガリの男性が入ってくる
(医療関係者では無い……?)
「目覚めたようだね」
穏やかな口調。
「私は八木俊典……君が戦ったオールマイトの関係者だ」
()オールマイトの関係者…………何処か彼に似てる)
「まずは怪我の治療について謝罪させてほしい」
(何故謝る?)
私はゆっくりと視線を上げた。
瘦せ細った体躯。深い眼窩。病に蝕まれたような肌の色。
目の前に立つのは、ただの疲れ切った中年男性だった。
「……謝罪?」
私の声は掠れ、喉が乾いていた。
「君を……傷つけてしまった。
戦闘で、かなり強く当たってしまったからね。
申し訳ないと思っている……と彼は言っていた」
私が話に少し違和感を覚えていると彼はベッド脇の椅子に腰を下ろした。
私は少し身体を動かすも拘束具が小さく金属音を立てる。逃げられないことを、身体が覚えている。
「君について調べた………君は君自身の個性でこれまでいくつも施設や人を襲いそして帰らぬ人にした、
今回の沿岸都市だけでも被害は甚大だ。
死者も……数百人規模になる」
淡々とした口調。感情を押し殺したような、でも何処か悲しそうな声でそう話す。
「それでも、君はまだ子供だ。
14歳か……15歳くらいか?
少なくとも、大人ではない」
(……調べられてたか…………)
「だからこそ、聞きたいことがある」
彼――八木俊典は、ゆっくり顔を上げて私の目を見る。
「だがこれだけは分からなかった……………君の名前は?」
君の名前は?
そんな質問、初めてだった。
私は兵器だ。
いつも07よ呼ばれてた。
マスターの命令を受け、目標を殲滅し、帰還する。
それだけ。
感情はノイズ。
疑問は誤作動。
ただ、機能すればいい。
なのに、胸の奥で何かが軋んだ。
「……私は」
言葉が、途中で止まる。
「私は……07です」
八木の眉が、わずかに動いた。
「07……?
それが、君の名前なのか?」
「名前では多分ありません。
いつも、07と呼ばれていました」
静寂が落ちる。
八木は目を伏せ、しばらく黙っていた。
やがて、静かに口を開く。
「……そうか。
なら、君はこれまで、名前を持たずに生きてきたんだな」
彼は立ち上がり、窓の方へゆっくり歩いた。
カーテンの隙間から、薄い光が差し込んでいる。
「名前は大切な物だよ」
(名前が大切……?)
意味が、理解できない。
「必要ありません。
私は兵器です。
名前など、機能に影響しません」
「影響するさ」
八木は振り返り、穏やかだが強い目で私を見た。
「名前は、ただの記号じゃない。
君が『人』である証なんだ。
兵器じゃなく、…人間として 」
その言葉に私は心の奥で何かが揺らぐ
「名前は君が自分で決めてもいい。
あるいは、私が提案してもいい。
急ぐ必要はない」
私は視線を落とした。
包帯に巻かれた手。拘束具。
すべてが、現実を突きつけてくる。
「……マスターは、私を回収しに来るかもしれません」
「その時は、私たちが迎え撃つ」
八木の声は静かだったが、揺るぎなかった。
「君はもう、一人で戦わなくていい。
少なくとも、ここにいる間は」
扉がノックされ、看護師が入ってきた。
八木は軽く会釈して部屋を出ようとする。
「待って」
思わず声が出た。
「?」
「……なぜ」
「ん?」
「なぜ、私に……こんなことをするんですか。
私は大量殺戮を犯した物です。
更生など、あり得ません」
八木は立ち止まり、ゆっくり振り返った。
「………君は若い、そして………何処か君が泣きそうになっていた」
彼の声は、どこか遠くを眺めているようだった。
「だからこそ…………助けた」
拘束具の冷たさが、肌に染みる。
「私は……兵器です。
それ以外、何も」
「なら、少しずつでいい」
八木は柔らかく、しかし確信を持って言った。
「今はまだそれでもいい。
でも、いつか自分で選べる日が来るかもしれない。
その日まで、ここで待っていてもいいんだよ」
扉が静かに閉まる。
私は天井を見上げた。
薬品の匂い。
機械の低い唸り。
胸の奥に渦巻く、得体の知れないざわめき。
海の匂いは、まだ肺に残っている。
血と鉄と、焼け焦げた臭い。
でも今、そこに混じって、
ほんの僅か、
知らない誰かの温かさが、
入り始めていた。
(どうしたいか……)
まだ、答えはない。
でも――
考えるという行為が、
ほんの少しだけ、
許される気がした。
私は、目を閉じた。
初めて、自分の呼吸を、
意識しながら。
ゆっくりと
私は眠りについた
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