数日が過ぎ、この部屋を見慣れた頃、私は少しずつ、この静寂を受け入れ始めていました。
首と手の拘束具は外されていて私はゆっくり上半身を起こしました、
破壊の音がない世界は、何処か私を拒絶していそうだが、穏やかで。
以前の私なら「無意味な時間」だと切り捨てていたはずのひとときが、今はゆっくりと前の私の心を麻痺させていきます。
「……失礼するよ」
聞き慣れた、少し枯れた声。
扉を開けて入ってきたのは、八木俊典さんでした。彼は今日もヒーローとしての威圧感を脱ぎ捨て、一人の痩せた男として、私の隣にある椅子に腰を下ろしました。
「体調はどうだい? ……あぁ、顔色が少し良くなったね」
「……はい。この前八木さんが持ってきてくださったりんご……でしたっけ、ちゃんと……食べられました。りんご、甘くて、驚きました」
私は、以前のような「報告」ではなく、自分の内側から出た言葉を、手探りで紡ぎました。少したどたどしかったり、語尾が少し震えてしまうのは、まだこの「会話」という行為に慣れていないせいかもしれません。
「それは良かった。……そうそう、君に話しておきたいことがあってね」
八木さんは、私の顔をじっと見つめました。正確には、私の髪に混じっている、鮮やかな「朱色」の差し色を。
「君の名前のことだ」
「……私の、名前」
私は、自分の膝の所にあるシーツを握りしめました。
07。それが私のすべてだった。でも、彼はそれを「記号だ」と言った。
「君のその髪……とても綺麗な朱色(しゅいろ)だね。燃えるような、でもどこか温かい、意志を感じる色だ。……それとね、君のその艤装、そして海で一人戦い抜いた強さを見て、ある『船』を思い出したんだ」
八木さんは、懐かしむように目を細めました。
「かつて、幾多の激戦を潜り抜け、ボロボロになりながらも最後まで守り抜こうとした、金剛型戦艦の三番艦……『榛名(はるな)』という名だ。荒れた海を往くその姿は、多くの人の希望だったという」
「はるな……」
「あぁ。その朱色(しゅ)と、強く気高い船の名。……この二つを合わせて、『朱奈(しゅな)』というのはどうかな。君が兵器としてではなく、一人の人間として、これからを歩んでいくための名前だ」
朱奈。
その音を口の中で転がしてみると、不思議な感覚がしました。
冷たい鉄の響きではなく、春の陽だまりのような、柔らかい響き。
「しゅな……私が、朱奈」
「あぁ。気に入らなければ、また一緒に考えればいい。でも、私には君がその名前を……いつか好きになってくれるような気がするんだ」
私は、震える指先で自分の髪に触れました。
マスターに与えられた色ではなく、八木さんが見つけてくれた色。
戦うための装置ではなく、守るために海を駆けた船の名。
「……ありがとうございます。八木、さん」
私の声は、消え入りそうなほど小さかったけれど。
でも、確かに自分の意志で、相手に届けようとした言葉でした。
「『朱奈』……。大切に、します。まだ、自分に名前があるなんて……夢を見ているみたいですけれど」
「夢じゃないさ、朱奈。君はもう、ここにいていいんだ」
八木さんは、そっと私の手に自分の手を重ねました。
その手の熱さは、海の上で感じていたどんな火薬の熱よりも、ずっと私の心を温めてくれました。
海の匂いは、まだ消えません。
犯した罪も、失ったものも、私の身体と記憶に張り付いています。
でも、八木さんがくれた「朱奈」という名が、それらを少しだけ軽くしてくれた気がしました。
八木さんと少しお話して彼が帰った後
私は、窓の外を眺めました。
空に、私の名前と同じ朱色の夕日が溶け始めていました。
(私は、朱奈……。07、じゃなくて)
新しい自分に戸惑いながらも、私はゆっくりと、深く、息を吸い込みました。
聞こえたのは自分の鼓動だった
朱奈ちゃんのビジュアルあったほうがいいかな?
朱奈のイラスト(AI生成)見てみたいですか?
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