エルフィン「きょーしゅー! 起きてー!」   作:如月SQ

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甘い可能性

「ねぇ、どうなの教主は。いつ起きる?」

 

「女王様……」

 

「前にも教主の事ちゃんと治してくれたじゃない。今回も、大丈夫よね? 教主の事治してくれるでしょ? 教主ったら徹底して私の事無視するんだから……起きたら文句言ってやらなきゃ」

 

「女王様……いいえ、私には治す事は出来ません」

 

「ッ……! なんで!? お医者さんでしょ!? 治してよ! 教主を起こしてよ!」

 

「……病気や怪我なら、いくらでも治します。どんなに難しくても治す為に全力を尽くすつもりです」

 

「だったら……!」

 

「……でも、私達は、命無きモノを治す事は出来ません」

 

「命……無き……? 教主は、ここにいるじゃない」

 

「いいえ女王様……もう教主様はここにはおられません。もう、行ってしまわれたのてす……私達の手の届かない……遠い場所へと」

 

「…………意味わかんない」

 

「もう、教主様がお目覚めになる事はありません。どうか後は安らかに眠らせてあげてください……」

 

「意味わかんない! じゃあもういい! あなたには頼まない! どうしたら……薬とか、魔法とか……誰でも良い、誰でも良いから早く教主を助けないと……今日は、最高の日になるんだから……教主がいなくなるなんて、あり得ないんだから……」

 

「女王様、どうか……」

 

「出てって……」

 

「教主様を……」

 

「出てけぇえええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パタン

 

「……どうだ?」

 

 教主の部屋から出てきたヒルデを、モナティアムの市長、エルフのリーダーエレナが迎えた。

 少しだけめかしこんだ紺色の衣裳は、今日のパーティーに参加する予定だったもの。

 飾り付けの為のフリルをつまみ、胡乱な瞳で見つめていた。

 

「…………ご臨終です。死後硬直すら始まっています」

 

「蘇生措置はほぼ無意味、か……残念だ。……それで? 女王様の様子はどうだ? いや、聞くまでもないか」

 

 エレナはそう言って皮肉げな笑みを浮かべた。

 先程のエルフィンの叫びは、部屋の外からでも聞こえていた。

 もう目覚めないという現実を認識出来ていないのだろう。

 

「やれやれ、少しは賢しくなったかと思ったが……いや、エーリアスの住人である以上それも致し方無いか」

 

 目を細めて、部屋の扉を見つめる。

 その向こうにいるだろう、妖精の王女を見透すように。

 

「教主がいなくなったのであれば、止められていた研究も進める事が出来そうだ。教主がいない腑抜けたエーリアスならば開拓も容易だろう。留めていた計画を逐次実行に移していくぞ」

 

「はっ。本日のパーティーはどう致しますか?」

 

 秘書であるアメリアの問い掛けに、エレナは鼻を鳴らした。

 

「フン、主賓がいないパーティーに、参加する意味があるか? さっさと戻って準備を始めるのが合理的というものだ」

 

 エレナは無造作に胸元に付けていたコサージュを引きちぎった。

 赤い造花を手のひらに乗せて、それをじっと見つめる。

 そのまま僅かに眉を下げたエレナは、小さく息を吐いた。

 

「……だが、まぁ……ああ、そうだな、教主サマ……良いだろう」

 

 早速モナティアムへと帰路につこうとしていた筈のエレナだったが、何故かその向かう先は出口ではなくパーティー会場だった。

 

「今日だけは……君の記念日に免じて、大人しくしてるとしよう。この後の私達の行動は、話し合い次第になるだろうがな」

 

 コツコツと音をたててゆっくりと歩くエレナの後ろを、アメリアとヒルデが追った。

 あまりらしくないその姿に疑問符を浮かべつつも、二人がエレナの答えに異を唱える事はない。

 

「教主が目を覚ます可能性も、ゼロではないからな」

 

ガタンッ!

 

 そのエレナの言葉に一番反応したのは、扉の向こうだった。

 大きめの物音が響き……それ以上の音は聞こえない。

 しっかりと聞き耳たてているじゃないか……けらけらと軽薄な笑いを漏らして、エレナは笑った。

 

「今の教主様が、目を覚ます可能性ですか……? きっと薬でも魔法でも無理ですよ? 例え体を機械にしてしまったとしてもあれでは……教主様として目覚めるとはとても思えません……それとも、何か心当たりがあるのですか?」

 

 ヒルデの言葉は珍しく、強い否定の思いが溢れていた。

 彼女にとって教主の状態はもう手遅れだ。

 手の施しようがない。

 だがもし、もしもなにか手段あるのであれば……そんなすがるような思いですらあった。

 

 そんなヒルデの様子を面白く感じながら、エレナは笑みを浮かべた。

 ニヤリとした、ニヒルな笑みだった。

 

「なあに……霧雨の精霊なら、もしかしたら全てを引っくり返せるかもしれんと思ってな。試したこともなく本人の自覚すら怪しいがな」

 

 エレナは扉を一瞥すると、スタスタと歩きだした。

 もう話は終わりだ、と。

 これ以上は『お前』次第だと……そう言外に言っているような言葉だった。

 

ガチャ

 

 やがて教主の部屋の前、誰の気配もなくなった廊下で、ドアノブが回る音がした。

 廊下に姿を表したのは、妖精王女エルフィン。

 フラフラとした足取りで、ゆらゆらと揺れて、その目を真っ赤に染めて。

 けれどその眼光には、瞳には……強い意思を感じた。

 

「あの子を……見つける……そうしたら、教主は……」

 

 譫言のように呟かれた言葉は、確かな目的をもって放たれたように思えた。

 

 エルフィンが見つけたがっている存在は、このエーリアスにおいてたった一人。

 様々な特殊能力持ちが多いエーリアスにおいて、また一際特別な能力を持った数える程しかいない特別な使徒の一人。

 

「ウイは……どこ……?」

 

 霧雨の精霊、エルダイン使徒、ウイ。

 エルフィンは彼女を求めて、部屋を飛び出していった。




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