エルフィン「きょーしゅー! 起きてー!」   作:如月SQ

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願う心

 教主100周年記念のパーティー会場。

 そこは今、異様な雰囲気に包まれていた。

 

 主役である教主が現れず、呼びに行った筈の妖精の王女も顔を出さない。

 様子を見に行ったエルフ一行も会場に戻ってきてからは首を横に振るばかりで、今一状況が掴めない。

 状況の不明瞭さに、祝いの場にも拘わらず、殺伐とした雰囲気が満ちる。

 

 妖精、魔女、精霊、幽霊、獣人、竜族、エルフ。

 各々の種族の代表、またはそれに近い立場の者達はそれぞれ何処か落ち着かない様子で互いに牽制の視線を交わしていた。

 ここからどうするのか、どうなるのか、誰かが何か言い出すべきなのか、それは誰であるべきなのか。

 先程までの良い意味での賑やかさが嘘のように、嫌な空気が流れていた。

 

 そんな中魔女の首長は、不意にホロリと一筋の涙を流した。

 自分でも理由のわからない、謎の涙。

 胸を締め付けるような、自分のものではない深い悲しみに、ベリータはただ静かに、涙を流した。

 

「……エルフィン」

 

 その名を呼んで、静かに瞳を閉じる。

 片目から流れる滴が、すぅと頬を伝っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教主の部屋の中、エルフ達が去り、エルフィンが飛び出した事で『あなた』しか存在しない筈の場所で、一つの影が蠢いた。

 影はのそりのそりと動き出すと、『あなた』のベッドの横で立ち止まる。

 それは、紺色の髪の妖精の少女だった。

 エーリアスきっての収集家、妖精王国の質屋マヨがそこに立っていた。

 

「へへへ……チャンス到来っす……」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、マヨは懐から何かを取り出した。

 それは、以前『あなた』に飲ませようとした事もある、マヨがコレクションの保全に使う防腐剤だった。

 

「防腐剤……今度こそ飲んでほしいっす……」

 

 そしてマヨは取り出したそれを『あなた』の口に押し付けて、ぐいぐいと押し込み始めた。

 しかし固く閉じたままの『あなた』の口はなかなか開かず、思うように入ってはいかないようだった。

 

「…………教主もコレクション入りっす……邪魔者はいないっす……私のものっす……」

 

 やがて、僅かに『あなた』の口が開いた。

 その隙間からマヨの持つ防腐剤が押し込まれていく。

 薄ら笑いを浮かべたままのマヨは、それをじっと見つめていた。

 

「これで、ずっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 

 エルフィンは必死に走り続けた。

 目的の人物がいる場所はわからない。

 けれど、何となく、この辺にいつもいたような気がする、そんな曖昧な考えで探し続けていた。

 

「ハッ……ハッ……ハッ……! 見つけたっ……!」

 

 そして、それは結果的に正解だった。

 とある池の畔で、彼女は佇んでいた。

 いつもいる蓮池とは違う池で。

 いつも一緒にいる巨大な蛙、エルと一緒に。

 

「……ん? あれ? 王女ちゃんだけ? 教主ちゃんも司祭ちゃんも一緒にいないのは珍しいね」

 

 そう言って振り返ったのは、レインコートに似た服を着た緑髪の少女。

 朗らかな雰囲気を醸し出す少女へと、エルフィンは近付いていく。

 胸に手をあてて、息を整えて、真っ直ぐ、目の前の少女を見つめた。

 

 四つ葉のクローバーを掲げた、エルダイン使徒、霧雨の精霊ウイを。

 

「ウイに何か用かな? 王女ちゃん」

 

 エルフィンはすがるような思いで、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「教主が、起きないの」

 

「何をしても反応なくて」

 

「触れると冷たくて」

 

「お医者様は何もしてくれなくて」

 

「だから」

 

「だから、お願い」

 

「教主を、助けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話を聞いたウイは、口を閉じた。

 俯いて、何かを考えているようだった。

 そんな様子に気が気じゃないエルフィンは、焦燥の色を浮かべた。

 

「ね、ねぇ、わかったでしょ? だから早く行きましょ? あなたなら、教主を起こしてくれるんでしょ?」

 

 エルフィンは腕を動かしたり足踏みしたりと、常に何処か落ち着かない様子だった。

 エルフィンにとっては今こうして立ち止まっている事自体が、恐ろしくて仕方ないのだろう。

 今にも『あなた』が消えてしまいそうで。

 

 そんなエルフィンの思いを察したのか、ウイはゆっくりと顔をあげた。

 表情を明るく

 そして、四つ葉のクローバーを掲げて、ニパッと笑った。

 

「王女ちゃんにとって、教主ちゃんは、どんな存在?」

 

「……え?」

 

 唐突な問いに、エルフィンは呆けた声を漏らした。

 

「ウイにとってはね、大事な友達! 教主ちゃんのお陰でウイには友達がいっぱい出来た! 何が起きても教主ちゃんとウイはずーっと友達なの!」

 

「っ……! だったらなんでっ……!」

 

 エルフィンの言葉を遮るように、ウイの持つ四つ葉が鼻先を掠めた。

 二人の視線が重なる。

 どこまでも澄んだウイの瞳が、揺れるエルフィンの瞳を射抜いた。

 

「だから、ウイはね」

 

 ピョン、とその場で跳ねたウイの下に、蛙のエルが滑り込んだ。

 エルの頭の上に乗ったウイは呆気に取られたエルフィンを振り返って、ニコリと笑う。

 そこに、僅かな哀れみを乗せて。

 

「教主ちゃんとの約束を守るよ」

 

 そうウイが言葉にした瞬間、エルはそのまま走り出してしまった。

 

「えっ……あっ……! ちょっと、ちょっと待ってよ!」

 

 突然の事に反応の遅れたエルフィンを置き去りに、ウイを乗せたエルは土煙をあげながら走り去ってしまう。

 

 エルフィンは即座にその後を追って走り出した。

 幸いにもエルの足はそう早くはない。

 けれど、すぐに追い付ける程遅くもなく、エルフィンは苛立ちに顔を歪めた。

 

「もー! なんなのよー!」

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