「あはははは! 捕まっちゃった!」
「ハッ! ハッ! ハッ!」
ウイはエルフィンに捕まり、地面に引きずり倒されていた。
エルに乗って暫く逃げ仰せていたウイだったがエルフィンの執念が実り、どうにか追い付く事に成功していた。
二人とも土まみれ泥だらけで転がり、ケラケラと楽しそうに笑うウイに対して、エルフィンは疲労困憊と言った様子で肩で息をしていた。
「これでっ……ハッ、ハッ……教主、に、ハッ……! 今度こそっゲホッ……!」
ウイの体にしがみつきながら、エルフィンは息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。
これで『あなた』を助けられると信じて、満足げに。
そんなエルフィンをウイはニコニコとした笑みで……静かに見下ろしていた。
「……うん、まぁ、良いよ。王女ちゃんの頑張りに免じて、取り敢えず教主ちゃんに会いに行こっか」
ウイの言葉に、離すもんかとしがみついていたエルフィンの表情がパアッと明るくなる。
嬉しそうに何度も頷いて、大きく安堵の息を吐いた。
ウイが目配せすると、エルは頷いて、器用に頭を屈めるとウイとエルフェンを纏めて自分の頭に乗せる。
そうしてそのまま、のそのそと歩きだすのだった。
「エルが乗せてってくれるって! 王女ちゃんの走りっぷりに感服したみたい!」
「はぁーっ……はぁーっ……ふぅ……ありがと」
色々と言いたい事はある。
不満も文句もいっぱいある。
けれど、その全てを飲み込んで、エルフィンは礼を口にした。
今大事なのは、第一目標は『あなた』を目覚めさせる事だから。
それ以外は些事だから。
エルフィンは息を整えながら、エルの体にしがみついて前を見つめた。
視界に映る、世界樹とそれに連なる妖精王国……そこにいる筈の『あなた』を想って。
ウイはただ、それを見守るだけ。
キラキラ、キラキラ。
四つ葉が光る。
「きょーしゅー!」
バンッ!
エルフィンはウイの手を引き、『あなた』の部屋へと飛び込んだ。
勢いよく開け放たれた扉は音を立てて開き……誰もいない部屋に空しく響いた。
ベッドの上にいた筈の『あなた』すらいない、誰もいない部屋に。
「…………え?」
エルフィンの背中に、氷をさしこまれたかのような寒気が走った。
誰かが、『あなた』を連れ出したと、そうエルフィンが察するまで時間はかからなかった。
そして犯人の目星は、すぐについた。
ベッドの下に落ちていた、青と白の帽子を見つけたから。
「……マヨ……あの子っ……!」
「あれっ、教主ちゃんいないね」
帽子を握り締めて顔を歪めたエルフィンの背後で、能天気な声が響く。
それを忌々しく思いつつも、エルフィンは即座に動き出した。
「教主は私がすぐに連れてくるから……あなたはここで大人しくしててっ!」
「あっ、行っちゃった。」
エルフィンはそれだけ言うと、直ぐに部屋を出ていってしまった。
「王女ちゃんたら、忙しいね……まぁ、仕方ないよね」
残されたウイは部屋をゆっくりと見回した。
年季の入った、窓から入ってきた日に照らされる誰もいないベッド。
近くのテーブルに置かれた白く大きな箱には、金と赤のリボン。
箱からはとても甘い匂いがして、思わずご機嫌になってしまう。
ウイはひょいとベッドに飛び乗り、『あなた』がいただろう場所を撫でた。
パタパタと足をパタつかせて、体を横に揺らしながらリズムをとる。
ウイは全ての幸せを願って歌を口ずさんだ。
ただただみんなが幸せになるようにと。
憂鬱な人も疲れた人も、幸せになるようにと。
「~~~~♪」
みんな、幸せになりますように。
「マヨッ!」
それは呆気ない程直ぐに見つかった。
動かない『あなた』を背負い、ゆっくりと移動するマヨを、エルフィンは直ぐに見つける事が出来た。
騒ぎになっていないのが不思議なくらいに。
「マヨッ! 教主を連れて何処に行くつもり!?」
「ちっ……やかましい邪魔者が来たっす……」
『あなた』を背負ったまま、マヨは忌々しげに振り返った。
「教主はわたしのコレクションっす……渡さないっす……絶対、誰にも……!」
「っ……! ふざけないで! 今はそんな事してる場合じゃないのがわからないの!? 教主を起こさないといけないの! そんないつもの我が儘なんかに付き合ってられないのよ!」
顔を歪めるマヨに対して、エルフィンも感情を爆発させた。
折角教主を助けられるかもしれないのに、こんなところで身勝手ないつもの行動のせいで、滅茶苦茶にされてはたまらない、と。
マヨに真っ直ぐ近付き、『あなた』を抱える手を掴んだ。
「マヨは、教主が二度と目覚めなくて良いって言うの!? 私は嫌! 絶対に嫌! だってまだ、100周年記念のケーキ渡してないもんっ!」
瞳に涙を溢れさせ、エルフィンはただ感情のままに吐き出した。
「教主に喜んで欲しくていっぱい、色んな準備したんだから! みんなで集まって、祝って、最高の日にしようって頑張ったんだから! そうやって、教主に喜んで貰おうって、いっぱい……いっぱい!」
既にエルフィンの視界は涙で滲んでいた。
もう、マヨの顔もまともに見えていない。
「マヨだって、一緒に準備したじゃない! 教主の為に、一緒に……! なのに……っ……!」
エルフィンは滲んだ視界で、精一杯マヨを睨み付けた。
こっちを見ている事だけはわかる、マヨを、思い切り。
「薄情者ッ!」