エルフィン「きょーしゅー! 起きてー!」   作:如月SQ

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それからのエーリアス

 世界樹教団の教主の別れの式から一年の月日が経った。

 彼の者の埋葬された世界樹の区画は、妖精王国の認可が無ければ立ち入る事が出来なくなっていた。

 とはいえその認可自体はそれなりに簡単に取れる為に、教主を慕っていた者達は一年経った今も足繁く通っている姿が見られている。

 既に塞がれている世界樹のうろの外には、何もない事が珍しいくらいにいつも花や贈り物が供えられていた。

 

 そして、ここは妖精王国の執務室。

 テーブルの上にはいくつもの書類や本が置かれ、部屋の主であるエルフィンが書類を眺めてうんうんと頭を捻っていた。

 

「うーん……漸く減り方が収まってきたわね……」

 

 その書類はネルが持ってきた報告書だった。

 世界樹教団の信徒が減少しているという、残念なお知らせの。

 

「教主がいなくなったから仕方無いけどね。むしろよくもったほうだわ……ま、いいわ。教主がいない状態でこいつらの手綱なんて握れないもの」

 

 半ば投げ遣りに、強がり混じりではあったが、一部本音でもあった。

 エーリアスに住む住人の殆どが、本来協調性等持たない者達の集まりだ。

 同じ種族ならまだしも他種族間で手を取り合う等、殆ど出来なかった。

 

「幽霊族の起こす問題にいちいち対応するのも大変だったからね……減る分には歓迎……ではないけど楽にはなるわね」

 

 故に世界樹教団は全盛期に比べてその総数を減らしていた。

 所詮は教主という存在で強固に繋がっていただけの烏合、こうなるのも当然だとエルフィンは椅子の背凭れに身を任せた。

 

「大分落ち着いてきたわね……はーやれやれ、兼任業務も楽じゃないわー……」

 

 エルフィンはそう呟きながら考えを巡らす。

 教主の死後、姿を消した使徒達に。

 その中でも、直前に突然教主の部屋に現れた者達に。

 彼女達はここ最近まったく姿を見ていなかった。

 元々あまり姿を見せないヴィヴィやアヤ、教主の死後早々に旅立ったエピカは兎も角、ウイ、シオンにも会うことはなかった。

 更には妖精王国にいる筈のクロエや、以前はほぼ毎日顔を合わせていたヨミにも、エルフィンには出会った記憶がなかった。

 

「覚えていないだけかしら……?」

 

 疑問符を浮かべるものの、明確な答えは出てこない。

 エルフィンはまぁいいかと、小さく息を吐いてその場で伸びをした。

 

「んーっよし、続き続き……」

 

「女王様ー」

 

 そうして再び書類に目を通そうとした所で、耳に親しんだ声が響いた。

 反射的に肩を跳ねさせるも、その声色に不機嫌な色はなく、むしろ穏やかだった。

 内心で安堵の息を吐いたエルフィンは、その目をその声の主……司祭長ネルへと向けた。

 

「ネル……驚かさないで……」

 

「そろそろ休憩に致しませんか?」

 

 唐突に現れたネルは、ケーキをお盆に乗せて佇んでいた。

 途端にエルフィンの瞳が輝きだす。

 小さくぐぅとお腹が鳴り、小腹が空いたことを訴えてきて、口内に唾液が湧き出した。

 

「うん、するする! ありがとうネル!」

 

 瞳を輝かせ興奮したまま、目の前の書類を簡単に片付け始めたエルフィンを、ネルは微笑みを浮かべて見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……女王様、無理、していらっしゃいませんか?」

 

「むぐ?」

 

 ケーキをご機嫌に頬張っていたエルフィンへと、ネルは思わず問い掛けていた。

 もぐもぐと咀嚼していたエルフィンは、慌てず騒がず、口の中のものを飲み込んで、ネルを真っ直ぐ見つめた。

 

「んまぁ……ネルには隠しても仕方無いけど……無理してない訳ないでしょーが!」

 

 眉間に皺を寄せ、ドンと机を叩いたエルフィンに、ネルは思わず苦笑を浮かべた。

 

「強がってるけど、教主の仕事そのままは無理だったわ! 種族間の緩衝なんて私には無理ー! 教主が言い含めてくれてたからマシだったけど、一からなんてゾッとするわ! どいつもこいつも自分勝手! 幽霊族が離反者いっぱい出たから、今後はマシになる事を願うだけよ! まったく、本当に大変だったんだから!」

 

 パク、と残ったケーキの残りを口に放り込んで、エルフィンは腕を組んだ。

 この一年、無数に起きた問題に忙殺され、東奔西走し、いくつもの苦労を経験してきた。

 むぐむぐと咀嚼し、その甘さに癒され頬を緩ませながらも、その瞳は険しかった。

 

 ゴクン、と音を立てて飲み込み、ゆっくりと顔をあげたエルフィンは、ネルを真っ直ぐ見つめた。

 

「……でも、約束したから。教主と。……私は私がやれることをやるだけよ。それに、ネルもいるし、こうやっておやつも持ってきてくれるし、ぶっちゃけ目を盗んでサボってもいるから大丈夫よ!」

 

 カラカラと笑うエルフィンに、ネルは二の句を継げないでいた。

 明らかな強がりに、それをお互いに理解している事に、それでも変わらない言葉に、何を言っても意味がないことを察してしまったから。

 故にネルは、ただ困ったように笑ってこの女王を支え続けるだけ。

 

「…………紅茶は如何しますか?」

 

「ミルクと砂糖たっぷりでお願い!」

 

 食べる時だけ昔のように無邪気に笑う、健気な女王を、ネルは心から愛しく思いながら、紅茶を淹れ始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変でーす!」

 

 そんな穏やかな時が流れる部屋に、闖入者が飛び込んできた。

 何処かネルと似た服を着た、未だに教団に残っている少数派の幽霊、スピッキーが慌てた様子で駆け込んできた。

 

 以前に面倒をかけられた身であるネルからしたら、明らかに招かれざる客であるスピッキーに、慈母の微笑みが般若へと瞬時に変わった。

 

「……なんです、騒々しい」

 

 刺々しい態度に、スピッキーは肩を揺らして涙目となる。

 

「ひいっ……! す、スピッキーは何も悪いことしてませーん! 本当です! そ、そんな事より大変なんです!」

 

 けれどそれにめげずに、スピッキーは意を決したようにエルフィンを真っ直ぐ見つめた。

 エルフィンはそれを見て、また面倒ごとかと机に頬杖をついて……。

 

「教主様の寝床が大変なんです!」

 

 その瞳を見開いた。

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