エルフィン「きょーしゅー! 起きてー!」   作:如月SQ

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これにて本編最終話、皆様沢山の反応ありがとうございました。


始まる、新しいいつもの日々

「で」

 

 妖精王国の王宮にある会議室。

 巨大なテーブルに肘をつき、エルフのリーダーエレナはじろりと目の前の存在を見つめた。

 

「君に何があったと言うんだね、教主」

 

 大きな椅子にチョコンと腰掛けた、エーリアスの住人と同じ姿となった教主へと問いかけた。

 その膝の上にはここ最近めっきり見掛けなかったヨミの姿があり、満面の笑みで頬を撫でられていた。

 

「え? うーん……わかんないや」

 

 教主の足元にはバターとコミーが転がっている。

 それを一切邪魔そうにせずに順に撫でていく姿は、まったくもっていつもの光景だった。

 呆れを滲ませたエレナは、やれやれと首を横に振ってため息を吐いた。

 

「取り敢えず、君はどうやら教主としての記憶と人格を持ったまま、エーリアスの住人に変えられたようだ。まぁまた会えた事は素直に嬉しく思うよ。その過程が気になるがね」

 

 用意された飲み物を口に運び……口の中で炸裂した強烈な甘味に顔をしかめた。

 

「あっ、それ女王様用のココアですね。失礼しました。コーヒーですよね?」

 

「……ブラックで頼むよ」

 

 顔をしかめたまま、エレナはカップを背後に立つアメリアへと手渡した。

 別に甘味が嫌いな訳ではないが、今は苦味で頭をスッキリさせたい気分だった。

 

 ややあって運ばれてきたコーヒーを口に運び、程好い苦味を味わいながら気分を変えたエレナは、再誕した教主を観測してわかった事実を言葉にし始めた。

 

「体の構成としては精霊が一番近いな。だが、幽霊のように輪郭が曖昧な部分もある……これは予想になるが、君は『教主』という概念の精霊……もしくは幽霊、はたまたその合の子のような存在になったのだと思う。まぁ、この二種族はあまり変わらない。誤差だろう」

 

 一度言葉を止めコーヒーを再び口にして喉を潤し、エレナは言葉を続ける。

 

「とはいえ君は未だ産まれたばかり……今後どう転ぶかはわからない。経過観察の為にも、暫くモナティアムに来なさい。万全の設備でもてなそう」

 

 ニヒルにニヤリと笑うエレナに、教主の背中に張り付いていたエルフィンが抗議の声をあげた。

 

「ちょっと! 何勝手な事言ってるのよ! 教主は世界樹教団の教主なんだから、妖精王国でこれまで通り過ごすに決まってるじゃない!」

 

「それを決めるのは教主だ。どうかな教主? 不測の事態にもモナティアムでなら対応出来る。それに、100年教主としてやってきたのだから、暫くは休んでも罰は当たらないだろう」

 

「むむむむ……!」

 

 エルフィンは、ぎゅうと教主を抱き締めて頬を膨らませる。

 また会えたのに離れ離れになるなんて、考えたくもなかった。

 今まで通り、世界樹教団教主として、敏腕を振るって貰いたい……それが偽りのないエルフィンの思いだった。

 そしてそれは、教主も同じだと思っていた。

 

「モナティアムに行く気はないかな。なんだか嫌な予感がするんだよね……なんか色々と起きて、気付いたらトントン拍子に永住させられそうな、そんな雰囲気が」

 

「HAHAHA! 何をそんな! まぁ無理にとは言わないさ!」

 

「きょーしゅ……!」

 

「まぁ、世界樹教団の教主にも就く気はないけどね」

 

「きょーしゅ!?」

 

 ところがどっこい。

 そう呆気からんと口にする教主……いや、元教主にその場の全員が驚きの目を向けた。

 

「ちょっとエーリアスを気儘に旅したくなってね。教主じゃない一個人で、この新しくなった目で、体で、この世界を改めて感じたいんだ。……まぁ、ほら、私が死ぬ前ってかなり体にガタが来ててね。呼吸しても苦しくないし何処も痛くないこの体を満喫したいんだよ」

 

 そう苦笑する元教主を、エルフィンは口をへの字にして強く抱き締めた。

 そう言われてしまえば、止めるのは憚られる。

 

「教主様どこか痛いんですか?」

 

「ん? 今はもう大丈夫だよ、バター。心配してくれてありがとうね」

 

「うへへ……良かったです!」

 

「それに、世界樹教団の教主は人間のほうが良いと思う。私はもう人間じゃないのなら、いずれ来るかもしれない人間の為に教主の座は空けてたほうが良いと思ってね」

 

 バターを撫でながら言う元教主の言葉に、ネルは成程と一定の理解を示した。

 

「まぁでも、旅を終えたら戻ってくるよ。それに空席のままってのもあまり良くないし、その時は元教主として教主補佐みたいな立場で教主業をやれればなぁって思ってるんだけど……どうかな」

 

 そして続けられた言葉にネルもニッコリである。

 結局は殆ど変わらない、暫くはいないかもしれないがそれはこの一年も同じ事。

 それに比べればいずれ戻ってきて元の日常に戻る確信があるのなら……ネルに反対する理由はなかった。

 

「……わかりました。私はその意見に賛成です。教主様……いや、えっと……?」

 

 そこで言葉に詰まった。

 どう呼べば良いのか、名前に困ってしまったのだ。

 

「ニャー……じゃあ教主は教主じゃなくなるのニャ? じゃあなんて呼べばいいニャー?」

 

「うーん……そうだね、どうしようか……」

 

「あっ、ハイハイハイ! じゃあ私が名前つけてあげるわ!」

 

 元気よく手を挙げるエルフィンに、そこはかとなく嫌な予感を覚えながらも、他に意見もなさそうだし、と元教主は聞く姿勢を見せた。

 

「教主の名前はこれから……」

 

 皆の視線がエルフィンに向く。

 エルフィンは胸を張って、ビシリと元教主を指差して、強く宣言した。

 

「キョーシュよ!」

 

 その瞬間、部屋中に弛緩した空気が流れ……同時に元教主の体に淡い光が不自然に差し込んだ。

 

「え」

 

 その声は誰が漏らしたものだったか、わからないものの……ただ一つ確かな事があった。

 差し込んだ淡い光、明らかに不自然な世界樹の木漏れ日は……元教主への、いや、キョーシュへの祝福だった。

 

 やがて光が収まった時、キョーシュという名前は世界に認められ、その身に刻まれてしまっていた。

 それを自覚してしまったキョーシュの肩がフルフルと震える。

 

 誰もが唖然とする中、自慢気に胸をはるエルフィンだけが、ご機嫌に体を揺らしていた。

 

 そんなエルフィンへと、キョーシュは手を伸ばす。

 

「えへへ、褒めてくれるの? 良いのよ別にー」

 

 そう言いつつも満更でもなく、身を屈めるエルフィンに……。

 

「エールーフィーン!」

 

「いたたたたたた! なんでぇ!?」

 

 キョーシュの容赦ない頬つねりが炸裂したのだった。

 

 部屋中に満ちる、呆れや笑い、なんともグダグダで弛緩した空気。

 今までと同じような、けれど新しい、いつもの日々がこの先もやってくる。

 そんないつものエーリアスの光景が、そこにはあった。

 

パチンッ!

 

「いたぁいっ!」

 

 引っ張られ、離されたエルフィンの頬が音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 

 

――やあ、待たせたね、ただいま――

 

 

 

――改めまして、私は……――

 

 

 

――世界樹教団元教主――

 

 

 

「キョーシュだよ。宜しくね」

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