宙に五本指の大きな手を浮かせて攻撃する。
強攻撃はチョップ。
パッシブは全員の被ダメの軽減。
「さて、それじゃあそろそろ行こうかな」
教主……改めキョーシュは、かつての自室でリュックを背負った。
これからキョーシュはエーリアス中を周る旅に出る。
おおよそ一年くらいの時間を見て、気儘に気紛れに、適当に放浪するつもりであった。
服装は、産まれた時から着ていた白い金の縁取りをされたブカブカの司祭服を脱ぎ、動きやすいノースリーブと短パンにマントを着用している。
クロエに頼んだら張り切って一晩で縫い上げてしまった代物だ。
見た目はシンプルだがかなり良い素材を使ったようで、肌触りも良く気に入っている。
最後にキョーシュは部屋を見回して、これも見納めかと少し寂しい気持ちになる。
キョーシュが旅だった後、この部屋自体の改修が入る事になっている。
人間だった頃のサイズに合わせて特注で作られた家具、特にベッド等は今のキョーシュにとっては大きすぎる。
産まれた時に着ていた服はクロエに預けてきて、人間だった頃の服は処分して、今部屋はスッキリした状態だ。
「……マヨが随分ホクホクしてたなぁ……私の着ていた服の何がそんなに嬉しいんだか」
まぁ、その殆どをマヨが回収していったのだが。
キョーシュは最後に改めて自室を見回した。
人間だった頃のいくつもの思い出の詰まった部屋。
長年愛用した自室との別れの時だ。
目を細めて小さく笑いながら、ヒラヒラと手を振った。
「……いってきます」
そう呟いて、キョーシュは自室を後にするのだった。
今のキョーシュには大きすぎるベッドと椅子が、少しだけ寂しげにキョーシュを見送っていた。
「ふぉおおおおおおお……宝の山っす……!」
「さあて、何処に行こうかな……」
エーリアスを旅をする……そう決めていたキョーシュではあったが、何処から行くといった予定は何もなかった。
気儘に流離うつもりではあれど、まずは何処か目的地を決めるべきだろう。
なんだかんだとそこまで遠出する事はないし、そもそも一人で彷徨くのは何の力もない人間の身では危うい。
歳を重ねてからはよりそう感じていた。
だが、今は種族こそハッキリしないものの、歴としたエーリアス人。
自分自身に超常の力が宿っている事を、キョーシュは既に自覚していた。
この力があれば自分を守る程度の事は出来るだろう。
故に後は気儘で気楽な一人旅を満喫するつもりで、外への扉を開いた。
ッパァンッ!
パァンッ!
パァンッ!
瞬間、響き渡る音と、飛び散る色とりどりの鮮やかな色。
そして……幾人もの住民の笑顔が、キョーシュを迎えた。
「「「おめでとう!」」」
「「「おめでとうございます!」」」
異口同音に放たれた祝福の言葉。
その意味がわからなくて、キョーシュは目を丸くした。
「キョーシュ!」
そこにとててっ、と駆け寄ってきたエルフィンの手には、色とりどりの紙テープが飛び出したクラッカーと、小さな箱があった。
「エルフィン……? この騒ぎは、一体……?」
首を傾げるキョーシュへと、エルフィンは満面の笑みを浮かべた。
「教主任命100周年、おめでとう! そして今、正式に世界樹教団からキョーシュを解任します!」
パチパチパチパチ
辺りに響き渡す拍手の音。
誰もが笑顔で、大きく手を叩きならしていた。
「今までお疲れ様、キョーシュ。そして! 誕生おめでとう! 貴女の先行きに、母なる世界樹の祝福があらん事を」
その瞬間、世界樹の木漏れ日が辺り一帯を包み込む。
温かい日の光が降り注ぎ、キョーシュとエルフィンの姿をより一層、照らし出した。
微笑を浮かべたエルフィンは、クラッカーを適当に放り投げると、小さな箱を差し出した。
甘い匂いのするそれは、中身がなんであるか、見なくてもわかる。
「エルフィン……」
「えへへ、サプライズ! ……100周年パーティ出来なかったから、せめてこのくらいはさせてよね。キョーシュを気持ち良く送り出そうって決めて、私が計画したの! 後の事は任せて、安心して旅立っていいわ!」
胸を張って自慢気に語るエルフィンから、箱を受け取ったキョーシュはその表情を和らげた。
昨晩、エルフィンはキョーシュの寝所に潜り込み、二人で抱き合って眠っていた。
言葉にしなくてもわかるくらいに寂しいと表現するエルフィンを、キョーシュはただ受け入れていた。
故に翌朝、旅立って欲しくないとごねられる事を覚悟していたのに……エルフィンはもう、心の整理を終えていたのだ。
それだけではなく、こうやって見送りの準備までしてくれていた……キョーシュの胸が、じんわりと温かくなっていく。
「……ありがとう、エルフィン」
「あぅっ」
ぎゅう、と、受け取った箱を潰さないように、キョーシュはエルフィンを正面から抱き締めた。
エルフィンも小さなキョーシュの背中に手を回し、すがりつくように抱き締める。
「…………いつでも、帰ってきて良いからね」
堪えきれなかったのか、涙声で告げられた言葉にキョーシュは破顔して、優しくその背中を叩いた。
「うん、必ず帰ってくるよ」
最後に二人は互いに強く強く抱き締めあって、その頬を擦り合わせ合った。
ふにゅりと頬が形を変えて、互いの温もりを伝えあう。
やがてゆっくりと離れた二人は至近距離で見つめあい、どちらからともなく笑みを浮かべた。
「行ってきます、エルフィン」
「……行ってらっしゃい、キョーシュ」
笑みを浮かべたエルフィンの目の端がキラリと光る。
世界樹の木漏れ日が、より一層二人を照らし続けていた。
「……一人旅のつもりだったんだけどな」
「お月様の側が私がいる場所ですから」
「教主様……改めキョーシュ様の新たな叙事詩の始まり! 復活なされたあなた様は正に救世主! そんなキョーシュ様の旅に同行しないなど、吟遊詩人の名折れでございます! なあに、これでも旅慣れしておりますので、道中は存分に頼ってくださいませ!」
「えっへへ、キョーシュちゃんの旅面白そうだから! ついてっても良いでしょ?」
「教主……いや、キョーシュ! 我が魂の盟友よ! そなたが困難に挑むと言うならば、このシオン・ザ・DB、この魔銃の力を存分に奮うとしようぞ!」
「ふん、わたくしの誘いに背いたあなたに拒否権はありませんわ。折角わたくしの眷属にして差し上げるつもりでしたのに……この無礼は高くつきましてよ?」
「……やれやれ。気儘な一人旅は夢のまた夢って奴だったか……仕方ない。行くよ皆。最初の目的地は――」
一先ずここで完結と致します。
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