エルフィン「きょーしゅー! 起きてー!」   作:如月SQ

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唯一無二のデコレーション

 《よし、後は焼くだけだね。まずは私が焼いてみるから、エルフィンはよく見ててね》

 

「はーい!」

 

 元気よく返事をするエルフィンは、すっかり元の調子を取り戻していた。

 この調子ならもう大丈夫そうだと、『あなた』は内心で安堵の息を吐いた。

 とはいえ、ここで油断して焦げたりして台無しになっては目も当てられない。

 作りなれている比較的簡単なホットケーキとはいえ、ここは集中して行おうと、『あなた』は改めて意気込むのだった。

 

 フライパンに油を敷き、温めてから一度冷まして、そこから改めて生地を焼いていく。

 おたまで一杯すくって上から真ん中に落とせば……丁度良い具合にまん丸となった生地がフライパンの上で音をたてた。

 

ジュー

 

「わっ、わっ……! 良い匂い!」

 

 《もっと良い匂いになっていくよ》

 

 興奮気味にフライパンを覗き込むエルフィンを、身を乗り出さないようやんわりと押さえながら、生地の焼き加減を見ていくのだった。

 『あなた』の体内時計でおおよそ3分、生地にぷつぷつと穴が出てくるようになればひっくり返すタイミングだ。

 その気になれば『あなた』はフライパンだけで出来るが、エルフィンが真似をしても困る。

 素直にフライ返しで手早く裏返した。

 後はこのまま2分程火を通せば完成……見事な小麦色焼き上がったホットケーキは甘く芳しい香りを振り撒き、見るからにふんわりとした仕上がりだった。

 『あなた』から見ても及第点の仕上がりに納得し、それを皿に移して一度フライパンを冷ましていく。

 

「ふわぁあああ……」

 

 皿の上に鎮座する焼きたてのホットケーキに目を輝かせるエルフィンに、『あなた』は生地の入ったボウルを手渡した。

 

 《さあ、次はエルフィンの番だよ。やってみよう》

 

「……うんっ! 見てなさい、完璧に仕上げてやるんだから!」

 

 そう意気込んでおたまを握るエルフィンを、『あなた』は優しい瞳で見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 完成したホットケーキは傍目には悪くない出来だったが、エルフィンはそれを眺めて首を傾げていた。

 ひっくり返す時に力と勢いが足りずに歪んでしまったホットケーキは、少し歪んでいて、あまり納得がいっていないようだ。。

 とはいえ焦げたりした訳ではないのだから、成功と言って差し支えない出来だと『あなた』は思った。

 

 《うん、良い感じじゃないか。よし、二枚出来た事だし……ここからが本番だよ》

 

「本番?」

 

 疑問符を浮かべて首を傾げるエルフィンに、『あなた』は冷やしておいたそれを取り出す。

 袋にたっぷり詰め込まれた、白く柔らかいもの……。

 

 《この生クリームで、ホットケーキを好きにデコレーションしてみようか》

 

 そう告げた瞬間の、エルフィンの瞳の輝きは眩しいくらいだった。

 キラキラと輝く瞳はまるで星のようで、それを『あなた』はとても綺麗だと思った。

 

「わぁああああああ……!」

 

 勢いよく両手を握り締めて上下に振っていたが、エルフィンの興奮はまったく冷める事なく、受け取った生クリームの入った袋を大きく掲げるのだった。

 

「よーし……!」

 

 ペロリと唇を舐めたエルフィンはしっかりと両手で生クリームの袋を持つと、搾りだそうと力を込めた。

 それとなく『あなた』はしっかり搾られるように、搾り出し易いように手の位置を調整してやって、足りない力を加えてあげていた。

 ホットケーキの上の純白のクリームは、エルフィンの思いのままに踊る。

 不恰好だが……たっぷりのクリームの乗ったホットケーキはそれだけでとても特別で、美味しそうだった。

 

 《エルフィンそろそろ……こういうのも乗っけてみないか?》

 

 無我夢中になっているエルフィンに、『あなた』は皿に乗せた色とりどりのフルーツを差し出した。

 イチゴやブルーベリーにマンゴー。

 色んなフルーツにエルフィンの笑顔は絶好調だった。

 

「わぁあっ! 良いわね、良いわね! よーしそれじゃあ……こうやって……」

 

 粗方生クリームのデコレーションは納得したのだろう、フルーツを手に取り思うままに置きはじめた。

 イチゴを中心に、色んなフルーツを手当たり次第に。

 きっとぎゅうぎゅうに置かれたそれは、フルーツも生クリームもたっぷりのものとなるだろう。

 

 『あなた』はもう1枚のホットケーキに生クリームによるデコレーションを施しながら、エルフィンを見守り続けた。

 

 そして、エルフィンの手が止まった。

 満足そうに微笑み、うんうんと頷いている。

 エルフィンの前に鎮座しているホットケーキは、生地が見えない程にぎっちりと生クリームとフルーツの乗せられた凄まじいものだった。

 これは食べ応えがありそうだと、『あなた』は思わず苦笑を浮かべる。

 

 そんな風に考えていた時、ふと、エルフィンの姿がホットケーキの前にない事に気付いた。

 アレ、と見回せば、少しだけ立ち位置を変えたエルフィンはすぐそばにいて、落としてしまったケーキの入った箱をパカリと開いていた。

 グチャグチャになったケーキに飛び散った生クリーム、とてもではないが食べられたものじゃないが……そこからエルフィンが取り出したのは、チョコレートで出来たプレートだった。

 それすらも真っ二つに割れてしまっていて、エルフィンの表情は少し曇った。

 けれど覚悟を決めた様子でチョコレートプレートを掲げたエルフィンは、それを自分がデコレーションしたホットケーキの真ん中へと設置したのだった。

 

 それを視認した『あなた』の動きが思わず止まった。

 

「えへへ……ちょっと予定とは違ったけど」

 

 チョコレートのプレートにはエーリアスの言葉、『フルイガナ』で……少し、いやかなり歪な文字で、こうかかれていた。

 

「いつもありがとう、教主」

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