破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
ミレニアムのモビルスーツ・ハンガーにて、慌ただしく整備兵たちが走り回る喧騒の中、シンは『ガイア・ティターンズ』のコクピットに滑り込んだ。
ハッチが閉まると同時に、モニターが淡い光を放ち、システムが起動する。
「……よし。認証開始」
シンがコンソールを操作すると、シートの横からスキャナーがせり出してくる。まずは網膜スキャン、続いて操縦桿に内蔵されたセンサーでの指紋照合。数秒のラグの後、メインモニターにログイン情報が表示される。
PILOT IDENTIFIED SHIN HAWKE
「……シン・ホーク、か。まだちょっと、慣れないな」
ルナマリアの妊娠を機に、シンは彼女の実家であるホーク家へ婿養子に入る事になった。かつての憎しみや悲しみを捨て、家族を守る責任を背負うと決めた証としての名前だ。
少しばかりの照れ臭さを覚えながら、シンはユウナの言葉を思い出す。あのストライクフリーダム強奪事件以来、ユウナはコンパスに配備される全機体に、執拗なまでのセキュリティロックの強化を義務付けたのだ。
本来、軍事基地のMSはスクランブル発進を想定し、物理的な「鍵」はかけないのが通例だ。しかしユウナは、パイロットに物理的なIDキーと二重、三重の生体認証を要求するシステムを強行導入する事を強引に決議する。
この認証データはオーブ本国のサーバーと直結しており、帰還して手続きを踏まない限り、パイロットの変更すら不可能な辺り。どれだけ彼があの強奪騒ぎに着目しているのかがよく分かるだろう。
「面倒だけど……あの人の言うことも一理あるからな」
シンは、ユウナがこのシステムを導入した際の、病的なまでのセキュリティ意識の高さを思い出す。彼の頭の中では最早全てのMSは敵に奪われかねないものだと定義されているらしく、最終的にはオーブ軍全軍にこのセキュリティを導入しようと張り切っている。
いや、この場合は怯えてるという言葉の方が正しいのだろう。彼はパイロットだけではなくエリカ主任たち技術陣に対してこう言い放ったのだ。
『指紋や眼球だけなら、指を千切って眼球を抉り出せば、誰でもこの機体を動かせるだろ?それだけじゃ強奪の抑止力として不十分だ』
ユウナが構築させたのは、単なる画像認識ではない。指紋や眼球の「温度」と「血流」、すなわち生きた人間の生体反応が一定の基準を満たしていなければ、認証を拒否するシステムだ。
もし死体から切り出した指や偽造したパーツで無理に起動を試みれば、機体はすべての機能を永久停止。さらに、ハッチを電磁ロックして不法侵入者をコクピット内に閉じ込める「罠」まで仕込まれている。後は外からガスを流し込めば無力化と言うわけだ。
『死体は喋らないし、MSを盗もうとする賊に人権なんて必要ないだろう?』
笑いながらそう語ったユウナに、エリカをはじめとした開発スタッフたちが、言葉を失ってドン引きしていた光景が脳裏に浮かぶ。
そんな戦慄のセキュリティシステムだが、意外なことにあのキラもこれには諸手を挙げて賛成していたのだ。
「ユウナさんと同意見です。そもそも、奪われることを想定していないのがおかしいんだ」
キラはどこか遠い目をしてそう語っていた。その言葉は若干の諦めや疲れも混じっており。おそらくこの世界のG兵器の強奪率に思う所があるのだろう。
そもそもキラの機体はほぼ全て何かしら強奪によってその手に渡ったものなのだから。ストライクは自分が強引に動かし、フリーダムは強奪。ストライクフリーダムの原型機は本来ザフトで量産される予定であった機体のデータであり、まともな機体はセイバー改くらいだろう。
あれはあれで、アスランが退職祝いにデュランダルから頂いた機体であって例外中の例外なのだが。
「僕だってヘリオポリスでアスランたちにガンダム…あ、すみません。G兵器を奪われたのがすべての始まりでしたから。もしあの時、今のコンパスみたいな厳重なロックがかかっていれば、あんな悲劇は起きなかったかもしれない」
キラの言葉には、実体験に裏打ちされた重すぎる説得力があった。彼はそのまま、機体調整の手を止めてシンの方を向く。
「テスト機やカスタム機は特に狙われやすいし、徹底すべきだと思うよ。……シン。君もアーモリー・ワンの時は大変だったよね?」
「あ……。は、はい。そうですね……」
シンは、かつて自分がいた基地でカオス、アビス、ガイアの三機があっさり強奪された事件を振られ、バツが悪そうに頷くしかなかった。
もしあの時、今のコンパスのような「指の温度が低ければコクピットが檻に変わる」狂気のシステムがあれば、ステラ達があんな最後を迎えて死ぬことも、あの戦争が泥沼化することもなかったのかもしれない。
(結局、キラさんと副総裁の意見が一致したんだから、これが正解なんだろうな。……それにしても)
シンは、もう一つの疑問を反芻する。
(副総裁もキラさんも、当たり前みたいにこの機体を『ガンダム』って呼んでるよな……OSの頭文字がどうこうって話は聞いたことがあるけど。副総裁なんて、たまに懐かしいものを見るような目でそう呼ぶんだ。俺たちの知らない、別の意味があるみたいに)
かつての指導者であったデュランダルや、尊敬するトダカといった文官・武官たちも思いつかなかったような、鋭い、それでいて根源的な疑問をシンは抱いていた。
公私に渡り自分を、そして新しい家族をもサポートしてくれたユウナへの信頼は厚い。だからこそ、彼が時折見せる不可思議な言動を「怪しい」と切り捨てることはできない。
果たしてあの人は何を隠しているのだろうか? そして、その肩にどれほどの重荷を独りで抱え込んでいくつもりなのだろうか。
そんなシンの思考を遮るように、通信がミレニアム艦橋の緊張感と共に流れ込む。
『降下ポイント到達! 各機、最終チェック終了! MS隊、発進準備!』
「……っ! 余計な話は終わりだ」
シンの意識が、一瞬で「戦士」のそれへと研ぎ澄まされる。モニターの向こう側では、コノエ艦長の人を落ち着かせると称された声でブリーフィングの最終確認を行っていた。
『敵勢力は難民地区への本格的な侵攻を開始した。テロリスト共の戦力は、数だけで言えばこちらの三倍以上。だが……』
コノエは、傍らに立つユウナへと一度視線を向け、再びパイロットたちへと語りかける。
『四機で抑えるのは通常なら厳しい状況だが、諸君らがいつも通りの実力を発揮すれば、むしろ容易い。まぁ、後方に現地部隊もいますから、訓練通りに動けば勝てるでしょうよ』
「戦場での采配は、全てハイネ中佐に一任する。……頼んだぞ諸君。オーブの、そして世界の平和は君たちの双肩にかかっている」
ユウナの、どこか芝居がかった、それでいて確かな熱量を含んだ声。それに続くように、ハイネの快活な声が各機のコクピットへ飛んだ。
『聞いたな? 作戦はシンプルだ。俺のギャンとキラ准将のセイバー改が、キャンプに近づこうとする連中をドッズライフルで片っ端から叩く。派手な音と光で敵の目を釘付けにしてやるよ』
ハイネがニヤリと笑う気配が伝わってくる。彼はミネルバ内でアスランと並び、激戦を戦い抜いた信頼できる隊長だ。
オレンジ色のパーソナルカラーで染められたギャンは大型のビームサーベル、雷蛇のデータを元に新造された新型スレイヤーウィップを装備しており、ドッズライフルもまた。短銃身化され、連射性も向上したドッズライフルショーティーを二丁携帯している。まさに近中距離に特化された彼専用のギャンと言えるだろう。
『その隙にシン、お前とアグネスのギャンは何も考えずに突っ込んで、敵の本陣……あの大型トレーラー基地を制圧しろ。いいな、余計なことは考えるな。前だけ見て暴れ回れ! 期待してるぞ!』
「了解、ハイネ隊長!」
シンは短く答え、スロットルを押し込んだ。かつて、守れなかった少女が乗っていた機体。その「影」を纏い、しかし「光」を目指すための新しい翼。
右手に握られた専用のドッズ・サプレッサー・レールガン。新たに『ライコウ』と名付けられたそれは鈍い黒光りを放つ。
「シン・ホーク、ガイアティターンズ……行きます!!」
漆黒の機動がカタパルトを蹴り、戦火の渦巻く大地へと、音もなく舞い降りるのであった。
深夜の大洋州連合の荒野にて、難民キャンプへとひた走るテロリストのMS部隊の頭上に、燃え盛る大気を切り裂いて二つの影が舞い降りる。
先陣を切ったのは、戦場によく映えるオレンジ色の機体。ハイネが駆るギャンシュトロームだ。彼は機体の外部スピーカーを最大出力で解放し、キャンプを目前にした敵軍へと不敵な宣告を叩きつけた。
「こちらは世界平和監視機構コンパス! お遊びはそこまでだ、テロリスト諸君。命が惜しければ、とっととお縄につきな!」
挑発気味なその通告に対し、地上のテロリストたちから返ってきたのは、憎悪に満ちた怒号だった。
「黙れ!!コーディネイター風情が! 落ちろッ!」
典型的な悪役だと、ここにユウナがいれば呆れたはずであろう台詞と共に、ウィンダムのビームライフルが一斉に火を噴く。だが、ハイネは鼻で笑うようにスロットルを押し込んだ。
背面に装備された大気圏飛行用ユニット『ボレロ』が唸りを上げる。ゲルググメナースのデータを反映させたその翼は、重力下とは思えないほどの軽快な機動をギャンに与えていた。
「当たるかよ。……それに、こいつはグフとは違うんだよ、グフとはな!!」
どこか既視感のあるセリフを吐き捨てながら、ハイネは瞬く間にウィンダムの懐へ飛び込む。
抜刀された専用の大型ビームサーベルが罪人を裁くべく、大きく振りかぶって一閃。爆発を避け、メインカメラと両手足を正確に斬り飛ばされたウィンダムが、ただの鉄屑となって地上に転がっていく。
「よし、いい機体だ。次は……これだ!」
続く105ダガーに対しては、盾に仕込まれたスレイヤーウィップを射出。電撃を伴うムチが敵機を絡め取り、一瞬で電子機器を焼き切って無力化する。
本来のスレイヤーウィップは敵を撃破する事に何方かと言えば特化しているのだが、コンパス仕様のスレイヤーウィップはオーブ製の「雷蛇」の戦闘データを参考に再構築している。
二枚板バレルの新型ドッズライフルやビームサーベルと並ぶ第三のメジャーな武器としてこれからも多くの陣営に愛される事になるであろう鋼の鞭は、最も最初期からグフに乗り続けたハイネによって予測不能な動きとなって敵に襲いかかる。
その獅子奮迅の勢いのまま、ハイネは後方で待機しつつ警戒に当たる青と白のツートンカラーの機体へと通信を飛ばした。
「准将! 今日はお前の役目はなさそうだからな、そこでのんびり休んでろ!」
だが、その言葉が終わるよりも早く、ハイネの背後から「シュンッ!」という鋭い風切り音が響いた。
キラ・ヤマトのセイバー改だ。カラーリングはそれまでアスランに合わせたままであったのだが、運用を重ねているうちにキラ仕様に変更されている。
両肩のツインドッズライフルを狙撃モードで構えたキラは、ハイネを追い越してキャンプへ強行突破しようとしていたウィンダムの頭部だけを、精密に撃ち抜いてみせたのだ。突き刺すように螺旋を描く貫通力に特化したビームは最早どのような装甲も撃ち貫くであろう。
『……すみません、今何か言いましたか? ハイネ中佐』
涼しい顔で言い返したキラに、ハイネは思わず舌を巻く。
「……さっすが准将。おいおい、そんな正確に当てられたら俺の立場がないぜ! 予定変更だ、そのまま狙撃で援護してくれ!」
ハイネは通信機越しに快活な声を飛ばしながら、確信していた。実力という一点において、部下であるはずのキラ・ヤマトは自分を遥かに凌駕している。だが、その事実に腐るどころか、ハイネの胸中には熱い興奮が込み上げていた。
かつて自分を熱くさせた戦友、ババを筆頭に、この世界には自分より優れたパイロットが数多く存在する。それは絶望すべき事実ではない。
むしろ、そんな怪物たちと肩を並べ、同じ戦場で背中を預け合えるということは、自分にもまだ「更なる高み」へ至る道が残されているという証明だ。
更なる強さ、更なる洗練。ハイネはキラのある種の美しさすら感じさせる精密射撃に背後を完全に委ねることで、迷いを捨てた。守りを考えず、ギャンシュトロームをさらに攻撃的な機動へと叩き込む。
宙を舞う二機の「騎士」によって、難民キャンプへ指一本触れさせることなく、テロリストのMSは次々とその牙を抜かれていく。ある者はメインカメラを焼かれ、ある者は関節部をピンポイントで貫かれ、生ける屍と化した機体がダルマのように荒野へと転がっていく。
ハイネは、コクピット内のサブモニターに映し出される、無残な敵の残骸を見下ろし、ふと独り言を漏らした。
「……ま、今ここで俺たちに無力化されて、捕虜になれる連中は幸運だな」
ハイネは一度、レーダーの端で確認できる「漆黒の点」に意識を向けた。戦場の喧騒、こちらのドッズライフルの爆音と光を、そのすべてを隠れ蓑にして、音もなく闇に紛れる「黒い獣」。シンの駆るガイア・ティターンズだ。
ハイネは理解していた。自分たちの戦い方は、あくまで「降伏」を促すためのデモンストレーションに過ぎないのだ。だが、あちらは違う。ユウナ達によって「牙」を研ぎ澄まされたあの獣達は、敵を無力化することなど端から考えてはいない。
「……あいつに目を付けられた連中が、どんな地獄を見るか。……俺は想像したくもねぇよ」
ハイネの予感通り、テロリスト部隊の「本陣」――キャンプの視界の外で息を潜めていたトレーラー基地周辺は、今、不気味なほどの静寂に包まれようとしていた。
・セキュリティ
眼球云々はおそらくユウナは知りませんが、アニメ「ダンガンロンパ3」にて眼球をスプーンで抉り出した上でそれを使って網膜センサーを突破する場面なども描かれており、指紋や眼球だけでは安心できません。更にそれ以外にも強奪を防ぐための複数の策などもあって、ガイアティターンズだけではなくコンパス所属の他の機体は徹底してセキュリティがすごい事に。逆に例えばキラが負傷して、ハイネは機体がダメになる。だからハイネが代わりにセイバー改を、なんて事はできなくなりましたので問題もないわけでは無いのですが。
・コンパス出撃
基本的にヤマト隊ではなくハイネ隊がメインとなる為原作と比べると対応などもかなり違っていたりするかもしれません。ちなみに将来的に現れるイモータルジャスティスは武装を一部変更した上でオレンジカラーになる予定。また、毎回ドッズ・サプレッサー・レールガンと表記するのも面倒という事もあり武装名は「ライコウ」に。雷神の別名「雷公」からのネーミングですが、パイロット含めて多くの関係者は「これジョウトの…」となるでしょうね。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
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原作通り。
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平和の為に覚悟を決める。