破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
「……馬鹿な、三分も持たなかっただと!? 侵攻部隊は何をやっている、奴ら二機に何機落とされているんだ!」
テロリストの指揮官は、モニターに映し出される一方的な惨状に、震える声で絶叫する。
荒野を舞うオレンジ色の残光と蒼い閃光。その一閃ごとに、自分たちが心血を注いで集めたウィンダムやダガーが、ただの動かない鉄屑へと変えられていく。
コンパスという組織が持つ「質」の暴力は、彼らが掲げる薄っぺらな大義を物理的に、そして無慈悲に粉砕していた。
「撤退だ! 総員、直ちに撤退を開始せよ!」
指揮官は、まだ地上で戦っている味方のパイロットたちに通信を飛ばすことさえしなかった。彼らにとって末端の兵士は使い捨ての駒に過ぎない。
自分たちさえ生き延び、この機材を満載した大型トレーラー基地さえ持ち帰れば、いくらでも再起のチャンスはある。そう信じて疑わなかった。
だが、その身勝手な逃走劇は、一発の砲弾によって永遠に幕を閉じることとなる。ビーム兵器が戦場の主役に躍り出たコズミック・イラにおいて、レールガンという武装は、どこか前時代の遺物のような印象を持たれがちだ。
しかしその歴史は深く、かつて地球連合軍の主力MAメビウスに内蔵され、劣勢ながらもコーディネイターの駆るジンの重装甲を貫き続けてきた、由緒正しき兵器である。
その仕組みは、極めてシンプルなものでユウナの前世で開発されていたものとそう変わらない。無論実戦配備は進んでなかったがそのシステムは同じなのだ。
二本の伝導レールに大電流を流し、発生したローレンツ力によって金属弾体を音速の数倍へと加速、射出する。火薬による爆発膨張を伴わないため、発射の瞬間に漏れるのは電磁加速時の高周波音と、弾体が空気を切り裂くソニックブームのみ。
さらに、光を放つビームとは異なり夜間戦闘においては肉眼ではその弾道を確認することすら困難だ。シンのガイアティターンズが放った『ライコウ』は、その基本構造をさらに極限まで研ぎ澄ませた代物だった。
逃走を図ろうと大型トレーラーのエンジンが駆動した、まさにその瞬間。闇の向こう側から、目に見えない死神の鎌が振り下ろされた。
シュパッ――!
短く、乾いた金属音。次の瞬間、トレーラーの司令室に、質量兵器としての運動エネルギーの奔流が叩き込まれた。超高速で飛来したタングステン合金の弾体は、指揮官が悲鳴を上げる時間さえ奪い去る。
防弾装甲を紙のように貫通し、内部の電子機器も、そしてそこにいた人間という有機物も、等しく衝撃波と熱量で「刈り取った」のだ。
弾体は司令室を突き抜けた後、背後の動力源にまで達して直撃。一拍置いて、巨大なトレーラーは真っ赤な火柱を上げ、荒野の静寂を爆音によって上書きした。
シンの視界には、ターゲットが消滅したことが、淡々と、そして冷静に記録されていた。ガイアティターンズのモニター越しに映る火炎は、彼にとって慈悲をかける対象ではなく、処理を終えたチェックボックスの一つに過ぎない。
(……まずは一つ。次は、逃げようとしてる輸送部隊か)
キラやハイネが降伏を促すパフォーマンス係であるならば、シンのガイアは、獲物の息の根を止める処刑人だ。シンの仕事は、まだ終わっていなかった。司令部を失い、パニックに陥ったトレーラー基地。
そこから漏れ出す微弱な救難信号と、逃走の準備を急ぐ残党たちの動きを、ガイアの高性能センサーが克明に捉えていた。
シュパッ――!
二発目。狙い違わず放たれたタングステン弾が、基地の通信用アンテナの基部を正確に粉砕した。火花が散り、空中に突き出していた巨大な支柱が自重でゆっくりと折れ曲がる。これでこの場所は完全な「孤島」と化した。外部への救援要請も、散り散りになった味方への指示も、もはや不可能だ。
シュパッ――!
間髪入れず三発目。ターゲットは脱出用の高速艇や予備機が収められた簡易倉庫だ。超高速の弾丸は、薄いシャッターを紙細工のように引き裂き、内部で起動準備中だった高速艇のエンジンを直撃。蓄えられていた燃料が引火し、連鎖的な爆発が倉庫内部を焼き尽くしていく。逃げ道は、これで完全に断たれた。
そして四発目。シンはわずかに指先に力を込め、整備員たちが慌ただしく走り回る区画の動力パイプを狙った。
ここを叩けば、基地の維持機能は停止する。人間を直接狙う必要はない。だが、その衝撃波と破壊に伴う破片は、そこで動く者たちに「死」と同義の絶望を振りまくだろう。
『……ねぇ、まだなの? いつまでそうやってチマチマ狙撃してるわけ?』
通信回線に、苛立ちを隠そうともしない女の声が混ざった。月光のワルキューレことアグネスだ。
士官学校時代から、彼女はこうだった。自分の卓越した才能を信じて疑わず、他人の慎重さを「臆病」や「地味」と切り捨てて憚らない。シンにとって、彼女は昔から苦手なタイプの一人だ。
尤もシンとて共同授業で彼女に迷惑をかけた負い目もある。とはいえ愛する妻とは全く違うタイプの女性に顔を顰めつつも、彼女からすれば戦果を全て独占するように思えるのだろうと納得して心を落ち着かせる。
「……今、終わった」
シンは眉を寄せ、短く吐き捨てるように答えた。その瞬間だった。
『ふんっ、遅いわよ! 私が全部片付けてあげるから見てなさい!』
待機していたアグネスのギャンシュトロームが、痺れを切らしたように急降下を開始した。ボレロを広げ、戦場の主役と言わんばかりの派手な噴射炎を撒き散らしながら、彼女は混乱の極致にある陣地へと突撃していく。
「……こっちも行くぞ」
それを見届けたシンも、操縦桿を深く倒し込んだ。黒い機体が、物理法則を無視するかのような滑らかな挙動で形態を変化させる。人型の四肢が畳まれ、背中のブレードが獣の牙のように突き出す。
これこそがガイアティターンズの四足歩行形態。ユウナが前世でゾイドじゃねぇか!と叫んだバクゥの進化形と言えるモノだ。
夜闇に紛れる漆黒の獣は、爆風と炎に照らされた荒野を猛スピードで駆け出した。空から襲いかかるアグネスの「光」に対し、地を這うシンの「影」。逃げ場を失ったテロリストたちは、自分たちが今、二つの「死」に挟撃されていることに気づく術もなかった。
上空から舞い降りたのは、死の雨を降らす純白の戦少女だ。アグネス・ギーベンラートの駆るギャンシュトロームは、その優雅なシルエットとは裏腹に、飢えた猛獣のような残虐さでテロリストの拠点へと牙を剥いた。
「ハハッ、ゴミ掃除の時間よ!」
アグネスが冷徹にトリガーを引くと、三銃身回転ビーム機銃が猛烈な回転と共に咆哮を上げた。青白いビームの束が豪雨となって簡易施設をなぎ払い、プレハブの壁を紙細工のように容易く貫通していく。
中にいたテロリストたちは、逃げる暇さえ与えられず施設ごと「焼却」された。爆発の衝撃と高熱に焼かれる断末魔さえ、ビームが空気を引き裂く轟音にかき消されていく。
機体が地表に迫ると、アグネスは機銃を止め、迷うことなくビームアックスを起動した。夜闇を切り裂く巨大な熱量の刃。それが振り下ろされるたび、逃走を図るジープや武装した歩兵たちが、なす術もなく光の中に呑み込まれていく。
『……おい、アグネス! 降伏勧告はしないのか!? 司令部はもう潰したんだ、抵抗を止める奴らだっているはずだろ!』
シンの焦燥を含んだ声が通信機から響くが、アグネスは鼻で笑い、さらなる加速で逃げ惑う標的を背後から一刀両断にした。ビームアックスが接触した瞬間、人間の肉体は一瞬で蒸発し、機材もろとも黒い炭塊へと変わり果てる。
『降伏? するわけないでしょ! 大体ハイネ隊長からの勧告も最初から聞いてるだろうし、今さら司令部が破壊されても反撃するクズ共が組織的にお縄につくと思うの? そもそも、今もこうして攻撃してくるのが答えじゃない!』
アグネスの叫びと重なるように、ギャンの足元で火線が走った。瓦礫の影に潜んでいたテロリストの歩兵たちが、肩に担いだロケットランチャーを一斉に放つ。
狙いは、MSにとっての急所の一つである脚部の関節駆動部だ。だが、アグネスは避けることさえしなかった。
「目障りなのよ、地這い虫がッ!」
ギャンシュトロームの巨大な鋼鉄の足が、逃げ遅れた歩兵たちの上へと無慈悲に振り下ろされた。
グシャリ、という生々しい破壊音が、MSの重量によって荒野に響く。肉体も、装備していた兵器も、そして彼らが抱いていたであろう憎悪も、等しく平らな肉塊へと成り果て、土に埋もれた。
その一撃には、かつての彼女が持っていた「称賛を浴びるための功績作り」とは明らかに質の異なる、どす黒い殺意が籠もっていた。
(……あいつ、俺と同じだ……)
ガイアティターンズのコクピットで、シンは戦慄していた。目の前で繰り広げられる苛烈な殺戮。それはかつて、守りたかったものを失い、ただ怒りに任せて敵をなぎ倒していた頃の自分自身の写し鏡のようだった。
アグネスの言っていることは、決して正しくはない。だが、間違いとも言い切れなかった。
現に、シンの視界に入るテロリストたちは、誰一人として白旗を、手を上げようとはしていなかった。逃げる手段を奪われ、退路を断たれた彼らは、死を覚悟した「窮鼠」となって今もなお散発的な銃火を浴びせてくる。降伏という選択肢を選ばぬまま向かってくるのであれば、兵士としてそれを排除するしかないのだ。
その時、拠点の奥にある地下ハンガーのハッチが、凄まじい火花を散らしながら内側から吹き飛ばされた。
「……っ!? まだいたのか!」
立ち込める黒煙を割って、重厚な金属音が荒野に響き渡った。一機、また一機と姿を現したのは、かつてプラントの守護者であったはずの『ジン』や、高性能量産機の先駆けとなった『ゲイツ』だ。『ディン』も一機混じっているが恐らく警戒用の機体なのだろう。
その数、およそ十機。これほどの旧式戦力を、地下ハンガーに隠匿していた事実にシンは舌を巻いた。ナチュラルの、それも徹底的なコーディネイター排斥を掲げるブルーコスモス系のテロリストが、なぜザフトの機体を駆っているのか。
戦場の残骸を回収し、ナチュラルでも動かせるように強引に改修したのか。あるいは、コーディネイターを殺戮するために敢えて彼らの兵器を用いるという、皮肉を演出する為か。もしくはザフト製の機体で暴れることによりコーディネイターのヘイトを高めようとしたのかもしれない。
いずれにせよ、モノアイの奥に灯る冷徹な光が物語っている。彼らは理屈ではなく、ただ純粋な「憎悪」を動力源にして、こちらへと向かってくるのだ。
『ハッ、やっぱりお出ましね! シン大尉、そっちの「大きい方」は任せたわよ。私はこっちの害虫駆除を終わらせてあげるから、さっさとアイツらを潰しなさい!』
アグネスは逃げ惑う歩兵をビームアックスでなぎ払いながら、傲慢に言い放つ。
シンは唇を噛み、嫌悪感と義務感の狭間で操縦桿を握り直す。ここはアグネスに任せるしかない。テロリストを一人でも逃せば民衆を巻き込む無差別テロに発展する可能性もある。故に今回の戦闘は当初からテロリストの『鎮圧』を重視している。そう、『捕縛』ではなく『鎮圧』だ。
「……分かってるよ! 後のことは任せたぞ、アグネス!」
ガイアティターンズが漆黒の残像を残し、起動したばかりの旧式MS隊へと向かって加速し、接近の刹那、シンはコンソールのスイッチを叩く。
「まずは視界を潰す……!」
機体各所のディスペンサーから、特殊なスモークが爆発的に散布された。ただの煙ではない。熱源探知やレーダーを攪乱する粒子を含んだ「闇」が、瞬く間にテロリストのMS隊を包み込む。
混乱する敵陣。その静寂を切り裂いたのは、奇妙な音であった。
――チリ……チリ……。
微かな、しかし、鋭い電気の爆ぜる音。それが次第に重なり合い、やがて複数の小鳥達が一度に鳴き声を上げるような、耳を刺す高音へと変わっていく。
ガイアティターンズの両肩、そして頭部側面に展開された実体剣『チドリ』。
この武装の正体は、超高速で刃を震わせる「高周波ブレード」に、電磁パルスを纏わせたハイブリッド・ウェポンである。
一撃で物理的な切断及び、電子的な抹消性能を同時に与える為の刃。それは、対峙した相手を確実に、そして一切の反撃を許さず「屠る」ためだけに研ぎ澄まされた機能だった。
シンは、この機体を受領した際にユウナが漏らした言葉を思い出していた。
『いいか、シン、このガイアティターンズにおいて不殺なんていう甘っちょろい選択は、基本的には不可能だ。こいつは戦場の障害を最も効率よく、最も静かに排除するためのMSだ」
あの時はその冷徹さに思うところがあったシンだったが、今、実際にトリガーを引く指には迷いはなかった。当初から彼らはミケール大佐と繋がっていないと断定されたテロ集団であり、何よりも恐れるのは逃亡兵を作り出す事。逃亡兵を許さず、確実に仕留めるのがガイアティターンズを託された自身の仕事なのだから。
散布されたスモークの中で、敵のジンやゲイツは完全に方向を見失っていた。旧式のセンサーは、コンパスの最新鋭技術が詰まったナノレベルの攪乱粒子の前では無力だ。
しかし、ガイアティターンズは違う。
四足歩行形態で姿勢を低く保つ黒い獣のセンサーは、暗闇の中で敵を屠る事を前提とし、偵察機をも凌駕する精度で闇を見通していた。
シンの視界には、スモークの向こうで狼狽える敵機の熱源、内部の動力パイプの走り、そして――パイロットが座るコクピットの位置が、冷徹な赤いマーカーでくっきりと強調されていた。
「逃がすもんか…!」
――チリ……チリ……。
スモークの奥から、死を予感させる高周波の鳴き声が近づいてくる。テロリストたちは、その「音」の正体が見えないことに狂乱していく。
どこから聞こえるのか、どの方向から自分たちの死がやってくるのか。小鳥が一度に鳴き交わすようなその不気味な旋律は、暗闇の中で彼らの精神を確実に蝕んでいく。
一機のジンの背後にスモークを切り裂いて黒い影が躍り出た。ジンが振り向くよりも早く、ガイアの両肩に備えられた二つの『チドリ』が、交差するように振るわれた。
高周波による原子レベルの破砕と電磁パルスの放電。二条の電光が走った瞬間、ジンの胸部装甲は紙細工のように引き裂かれ、中央のコクピットはパイロットごと完全に「二分割」された。
通常のビームによる破壊とは異なり、爆発は起きない。電磁パルスが瞬時に機体回路をショートさせ、真っ二つになった機体は、激しいスパークを散らしながら、ただの鉄の死骸となって音もなく崩れ落ちた。
恐怖は、沈黙によって加速する。仲間の機体が爆発音さえ立てずに、ただ「物」として潰されていく。その光景を目にしたテロリストたちの絶望を、シンは冷静に観察していた。
次の獲物はゲイツ。逃げようとするその背中に、ガイアは四本足で大地を蹴って肉薄する。頭部のチドリが、獲物の首筋を狙う獣の牙となって閃いた。
――チリ……チリ……。
スモークの奥から聞こえてくるのは、まるで小鳥が密やかに囀り合うような、繊細で、どこか可憐な音だった。しかし、視界とセンサーを奪われたテロリストたちにとって、それは死神が鳴らす絶望のカウントダウンに他ならなかった。
最新鋭の電子攪乱粒子を含んだ霧の中では、旧式のジンやゲイツのメインモニターはただの砂嵐を映し出す板と化していた。
彼らは闇雲に機体を動かし、この「電子の牢獄」から抜け出そうとあがく。だが、その一歩を踏み出した瞬間、囀りの音は爆発的にその音量を上げ、彼らの意識は永遠に断たれる。
「どこだ……どこにいる!? 出てこい、化け物め!!」
極限の恐怖は、やがて彼らが抱いていた憎悪を塗り潰し、精神を修復不可能なまでに崩壊させていった。
一機のジンが、耐えきれずに76mm重突撃機銃を乱射し始める。標的など見えていない。ただ、自分を包囲する「鳥の鳴き声」を振り払いたい一心での狂乱だった。
「ひ、ひぃぃぃ! 来るな、来るなぁぁっ!」
乱射された弾丸は、闇の中を彷徨っていた味方のゲイツの背中を無慈悲に引き裂いた。友軍に撃たれたことすら気づかぬまま、ゲイツは前のめりに倒れ込む。そこへ、待っていたと言わんばかりに黒い獣が躍り出た。
――チリィッ!!
チドリが閃き、倒れかけたゲイツのコクピットを正確に貫通する。激しいスパークと共に、パイロットごと「核」を破壊された機体は、爆発するエネルギーさえ奪われたように泥の中へと沈んでく。
もはや戦場ではない。そこにあるのは、一方的な「駆除」と、逃げ場のないホラー映画のような惨劇だ。
「飛べ……飛べば逃げられるはずだ! こんな場所にいられるか!」
絶望的な状況を打破しようと、唯一の空中戦用MS『ディン』が一機、バーニアを最大出力で噴射して上昇を試みた。スモークを突き抜け、夜空へと逃れようとするその姿は、この地獄からの唯一の脱出者に思えた。
だが、シンの視線からは逃げられない。四足形態のまま、ガイアが背中のレールガンを上空へ向ける。
「……無駄だ」
シュパッ――!
放たれた超高速の弾体は、ディンの飛行姿勢を修正する暇さえ与えなかった。狙いは一つ、パイロットが潜むコクピットのみ。
一瞬前まで「助かった」と確信していたであろうディンの胸部が、ライコウによって跡形もなく吹き飛ぶ。推進力を失った機体は、まるで羽を捥がれた虫のように、再び黒煙が渦巻く地獄の底へと墜落していった。
霧の中で、また一つ、小鳥の囀りが重なる。
墜落したディンの残骸が、黒煙の渦巻く底で爆ぜることも許されず、ただ「鉄の塊」として大地を穿つ。その鈍い衝撃音さえ、たちまち霧の中に溶け込んで消えた。
――チリ……チリ……。
また、あの音が聞こえてくる。小鳥が愛らしく囀り、互いの生存を確かめ合っているかのような、美しくも忌まわしい旋律。それは、この電子の闇に囚われた者たちにとって、死神が首筋に這わせる冷たい指先に等しかった。
「来るな……来るなぁぁぁっ!?」
一機のジンが、残った弾丸を闇雲に吐き出した。76mm重突撃機銃の火線がスモークを切り裂くが、そこには空気を焦がす熱しか残らない。弾倉が空になり、虚しい空撃ちの音が響く。その瞬間、彼の背後の闇が「動いた」。
――チリィッ!
囀りが一際高く、鋭く弾ける。振り返る暇さえなかった。二振りの『チドリ』がジンの胴体をX字に切り裂き、高周波の振動が鋼鉄を分子レベルで崩壊させる。
パイロットは、自分が何に殺されたのかを理解する前に、コクピットごと真っ二つに分断された。断末魔を上げる暇もない。ただ、内臓のように剥き出しになった電子回路から青白い火花が噴き出し、沈黙の残骸がまた一つ増えるだけだ。
もはや、彼らには「降伏」という選択肢を正常に選ぶ余裕すら残されていなかった。
人道も、法も、慈悲も、この霧の中には存在しない。あるのはただ、不可視の地獄の中で順番を待つ絶望と、圧倒的な捕食者への本能的な恐怖のみ。
一人のテロリストが、極限のパニックに耐えかねてコクピットのハッチを強制解放した。MSという鉄の棺桶に閉じ込められていること自体が、死神に場所を教えているような錯覚に陥ったのだ。
「助けてくれ! 降伏する、助けてくれぇ!!」
彼は叫びながら、暗闇の中へと身を投げ出した。だが、そこは地上数メートルの高さにあるコクピットだ。命綱も何もないまま、恐怖に突き動かされて飛び降りた体は、無慈悲な重力に従って硬い大地へと叩きつけられた。
グシャリ、という短い音。
生身の人間が、化け物から逃げようとして自ら命を落とす。シンはその姿をガイアのセンサーで捉えていたが、彼にはそれが「脱出」ではなく、機体の不具合か何かで「落下」したようにしか見えていなかった。
さらに悲劇的だったのは、彼らが放っていた命乞いの通信だった。
彼らは恐怖のあまり、自分たちの通信回線が「味方内限定の暗号通信」に設定されていることさえ失念していたのだ。
『……助けて、死にたくない! 頼む、撃たないでくれ!』
その必死の叫びは、同じように絶望している味方の受話器にしか届かない。外部オープンチャンネルに切り替えていれば、あるいはシンの耳に届き、彼の「情」が引き金を引く指を止めていたかもしれない。
だが、シンに聞こえるのは、無機質なノイズと、アグネスの冷酷な笑い声だけだった。
(……まだ、向かってくるのか。なら……!)
生殺与奪の権利を完全に握った「化け物」は、命乞いという救いの糸に気づくことさえなく、次の獲物へと牙を剥く。
暗闇を疾走する四つの影。四足形態のガイアティターンズが、逃げ惑うMSの隙間を縫うように駆け抜ける。瓦礫の影で震えるテロリストの耳に、優しく、けれど残酷な囀りが届く。
視界の端に映ったのは、闇に溶け込む漆黒の獣の姿。二つの『チドリ』から漏れる電光が、獣の瞳のように青白く光っている。
自分たちの命が、自分たちのものではない。それはただ、この獣が「いつ刈り取るか」を決めるだけの、無機質な数値に成り下がっていた。
霧の奥でまた一機、別のゲイツが武器を乱射し、味方のジンの頭部を吹き飛ばす。狂乱が連鎖し、自分たちの憎悪で自分たちを滅ぼし合う地獄絵図。その中心で、ガイアティターンズは一際高く、美しく、死の囀りを響かせるのであった。
・殲滅戦
今回の戦いは敵を捕虜にするよりも(そもそもユウナは捕虜にすればありがたいが無理はするなと毎回言っていますが)、迅速な遂行によって侵攻部隊の撃滅と敵司令部の撃破がメイン。故にキラやハイネと違いアグネスとシンは相当派手な戦闘となりました。
アグネスに関しては
Q降伏勧告したほうが良くない?
Aハイネ隊長が先にしてるのを聞いてるのに、普通に迎撃しようとしてる時点でその必要はなし。下手に偽造降伏されるよりは徹底的に叩く必要がある。
Q生身の人間にやばくない?
A生身の人間でもあたりどころが悪ければMSに損害は与えられるので、容赦した瞬間、下手するとアグネスが死にかねない。そもそもハイネは暴れろと言っており、ユウナも含めて人員をできる限り捕虜にしろとは言っておらず、現にジープの兵士達は逃亡を図ろうとしている。
Qアグネスは原作と違う性格?
Aほぼ同じで根本などは変わらない。しかし、元恋人のレオナード絡みで相当なテロリスト嫌い?となっており。その辺りはまた次回以降に。
などなどコンパスとして真面目に軍人さんをしているアグネスはまさに兵士の鏡に相応しいでしょうね!!
・ガイアティターンズ
戦闘シーンがほぼホラーに。撹乱粒子はミラージュコロイドを応用したものですが、アストレイに登場するゲルフィニートの技術を応用しており、ゲルフィニートのバチルスウェポンシステムが量子コンピュータウイルスを汚染させる事で敵の機体の支配下に置くものですが、ガイアティターンズの場合は黒檀色のスモークに織り交ぜて、ただひたすら敵のMSのセンサーをイカれさせるもの。用途が簡潔故にスモークの値段を下げ、多くの弾頭を搭載する事が可能となりました。
とはいえスモークの範囲は限定的で常に空中にいる様な今後のMS相手には効果は薄く、あくまでテロリストの空を飛ばない対旧式機体に特化した装備だったり。アコードの機体はエース機+空を飛ぶのでただスモークさえあれば無敵というものではなく難しいと言えるでしょう。あと味方を巻き込む可能性もありますからね。
えっ、ミラージュコロイド技術が禁止だって?あれはステルスは禁止していますが応用技術は禁止されておらず、撹乱特化のスモークはセーフ!とユウナとハインラインは口を揃えますよ!!やっぱ汚ねぇドラえもんだよこいつ。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
-
原作通り。
-
平和の為に覚悟を決める。