破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
最後の一機となったゲイツのパイロットは、もはや戦う意志さえ喪失していた。
視界を埋め尽くす黒煙、センサーを狂わせる電子の嵐、そして何より、闇のどこからか聞こえてくる死の囀り――「チドリ」。仲間たちが爆発音すら立てずに、消えていく異常な光景に彼の精神は完全に砕け散っていた。
「嫌だ……来るな、来るなぁぁっ!」
半狂乱で放ったビームライフルが虚空を焼き、自身の機体のエネルギーを無駄に浪費する。その残光が消えるよりも早く、漆黒の獣が彼の背後に音もなく着地した。
――チリィッ!!
囀りが一際高く鳴り響き、二振りの高周波ブレードがゲイツの背中からコクピットごと貫通した。青白い電撃が機体を駆け巡り、パイロットは断末魔を上げる暇もなく、肉体と精神を同時にこの世から消し去ったのだ。
最後の一機がただの鉄屑となって大地に沈むと、戦場には不気味なほどの沈黙が戻った。全ての機体が爆発してないが為、辺り一面死屍累々の地獄絵図。その多くが上半身と下半身が綺麗に切り刻まれており、再利用も容易なものばかりだ。
だが、それらは全てジャンク屋が入手する事はない。ユウナはコンパスへの介入が終わると修復と共にその残骸の回収を命じており、パーツの一つ単位の調査や資源としての再利用を命じている。故にジャンク屋の中にはコンパスにあまりいい顔をしていない連中が少なくないのが現状である。
シンはガイアを反転させ、アグネスが「掃除」を行っていた拠点中心部へと戻る。だが、そこで彼が目にしたのは、戦場という言葉では到底言い表せない、ただの「屠殺場」へと変貌した光景だった。
拠点の施設はことごとく焼き払われ、至る所から立ち上る黒煙が鼻を突く焼けた肉の臭いと混ざり合っている。
その中心に立つ純白のギャン・シュトロームは、月光に照らされて美しく輝いていた……だが、よく見ればその手足は、返り血と押し潰された肉片によって、どす黒く、不気味に赤く染まっていた。
武装による破壊ではない。彼女は文字通り、MSの重量を使って人間を「叩き倒し」「踏み潰した」のだ。
「……アグネス」
シンの絞り出すような声に、アグネスは機体をゆっくりと振り向かせた。モニター越しに見える彼女の表情は、運動後の心地よい汗を拭うかのような、恐ろしいほどの平穏に満ちている。
『あら、終わったの? シン大尉』
シンが短く頷くと、アグネスは鼻を鳴らし、鬱陶しそうに口を開く。
彼女が『史実』と違いシンを大尉と呼ぶのはルナマリアの不在もあるが、それ以上にこの光景を作り出す為、自身が排除されない様に正規軍に相応しい行動を心がけようとする、地盤硬めと言う側面もあるのかもしれない。
『なら、アンタはさっさと帰りなさい。……ここはまだ、少しだけ「ゴミ」が残ってるから』
アグネスはそう言うと、傍らに転がっていたジープを無造作に蹴り飛ばし、スクラップへと変えた。ひっくり返った車両の影から、腰を抜かして震えていたテロリストの兵士が姿を現す。
男はあまりの恐怖に、降伏の言葉すら喉に詰まらせていた。ただガチガチと歯を鳴らし、目を見開いて、自分を見下ろす鋼鉄の巨神を見上げている。助けてくれと言うことも、手を挙げることすらできず、ただ死の宣告を待つだけの肉塊のように縮こまっていた。
「……アグネス、もういいだろ。そいつはもう戦えない」
『いいえ、良くないわよ。テロリストは、ブルーコスモスは全員殺す。……降伏しないのが悪いのよ。反撃するリスクがあって降伏しようとしない。なら、害虫は徹底的に駆除しなきゃ』
ゾッとするような、底冷えのする声。アグネスの理屈は冷酷なまでに一貫していた。
武装を捨てて白旗を掲げ、明確な降伏の意思表示をしない限り、それは「排除すべき敵」でしかない。震えて声も出せない男を、彼女は「降伏する意思がない」と断じ、ギャンの巨大な足をその真上に翳した。
直後、逃げ惑うこともできぬ人間を虫ケラのように踏み潰す、湿った嫌な音がコクピット越しに伝わってきた。ガイアティターンズの最新式の収音機能が起こした悲劇であると同時に、その光景に胸の奥からせり上がる嫌悪感を覚えながらも、シンは震える声を押し殺して言うしかなかった。
「……弾薬を、無駄にするなよ」
それは、今の彼がアグネスの異常性を否定するために振り絞った、精一杯の言葉だった。だが、アグネスは冷笑を浮かべ、血に染まったギャンの足元を見つめながら答えた。
『分かってるわよ。……だから、踏み潰してるんじゃない』
シンはそれ以上何も言えず、ガイアティターンズを反転させた。背後で再び響く肉と骨が砕ける音を、彼女は正しくない。だが間違ってもいないと心に言い聞かせつつ、黒い獣は闇の中へと消えていった。
自室のソファに深く身体を沈め、俺は手元の端末に流れる戦闘記録の数値を眺めながら、思わず片手で顔を覆った。
「アグネス……お前さぁ……」
思わず独り言が漏れる。頭を抱えたくなるのをどうにか堪えたが、今回の初出撃でまさかあそこまで徹底的に「撲滅」してくるとは思わなかった。
事後調査でわかったことだが、彼女には相応の理由があったらしい。あのストライクフリーダムのテストパイロットだったレオナード・バルウェイとアグネスは恋人だったと判明したのだ。
レオナードの死の真相については、俺やイザーク、ディアッカたちの間で口裏を合わせてある。建前上、彼は「テロリストの襲撃による犠牲者」だ。
デュランダルが言うには、あれはアコードによる精神操作が原因らしいから、あながち間違いでもない。だが、彼女の視点からすれば話はもっと単純で、もっとドロドロしている。
愛する男をテロリストに殺された。洗脳なんてオカルト要素も知るはずもなく将来を約束されたエリートの愛おしい彼氏がテロリストのクズに未来を閉ざされた。
そりゃあ、ブルーコスモスという存在そのものを、反吐が出るほど憎むわけだ。
「とは言え、だ……」
俺は端末をテーブルに放り出し、天井を見上げた。記録を見る限り、アグネスのやったことに軍規上の不手際は何一つない。
命令違反もなければ、与えられた目的の遂行も完璧。独断専行で戦線を乱したわけでもない。ボイスレコーダーで害虫云々と言っているが彼女の選択を間違っているとはいえないのだ。
ただ――あまりにも、やり過ぎな範疇だったというだけだ。
だが、軍人としての判断基準に照らせば、彼女は「間違ってはいない」。攻撃を止めてほしければ、即座に武器を捨て、白旗を掲げるなり手を挙げるなりして降伏の意思を示すべきなのが戦場のルールだ。困ったことにアグネスは、そのルールだけは律儀に守っていた。
映像を細かくチェックしたが、あの女は明確に手を挙げている捕虜候補だけは、実につまらなそうに放置してやがった。
その代わり、恐怖で腰が抜けて動けなくなった奴や、逃げ惑うだけの連中は「降伏の意思なし」と見なして、ギャンで片っ端から踏み潰していったわけだ。
「ルールを盾にして、その範疇で復讐を好き放題やる……。手前勝手な理屈だが、これが一番厄介なんだよな」
俺はため息まじりに、手元の端末を指で弾いた。アグネスのやり方は、法務官が束になってかかっても落とせないほど「適法」だ。しかし、現場の惨状はそれとは別問題だ。
「とりあえず、本人には釘を刺しておかないとな。整備士たちに、臓物まみれの機体を掃除させるなんて悪趣味な真似はさせたくない。抵抗する奴がいるなら、さっさとビームアックスで焼き払え……そう伝えさせるか」
物理的に踏み潰す感触を楽しんでいるのか、あるいは弾薬の節約のつもりかは知らないが、後片付けをする側の身にもなってほしい。
一応、形だけでもと軍医にカウンセリングの手配はさせたが、正直言って意味があるとは思えない。あのアグネスの凍りついた瞳が、対話ごときで溶けるとは到底思えなかった。
よく思想検査をクリアしたな?そういや思想検査は自身が異端であることを理解していれば、常人のフリをして余裕でパスできると聞いたことがあるがアグネスも無意識に頭キンブリーになって突破したのかもしれん。
「……外すことも考えたが、今のところ正当な理由がないのがまた憎らしいんだよなぁ…!」
命令は守る。戦果は出す。独断専行もしない。これほど優秀なパイロットを「やり方がエグいから」という感情論だけで降ろせば、それこそ軍としての示しがつかない。
「……ふぅ、まあ、これでもマシな方か」
俺は深く椅子にもたれかかり、端末の光に目を細めた。世の中にはナチュラルの捕虜を一人も出さずに虐殺して回るような、救いようのない真の狂人だっている。有名なナチュラルの捕虜なんているかよってアレだ。
それに比べれば、ルール通りに「手を挙げている奴」だけは生かしておくアグネスは、まだ理性で制御可能な範疇にいると言えるんだ。今後も彼女はテロリストを隙あれば適法の名の元に殺すだろう。だがそれを止める事はできないし、止めようとした所で彼女は止めるはずもない。
「ただ、今後はアグネスを一人にするのは厳禁だな。放っておけば、拠点を文字通り撲滅しかねない。殲滅が必要ない局面では、あらかじめ明確に『生かしておけ』と伝えておくしかないか……」
正義の味方を標榜するコンパスに、こんな凄惨なアヴェンジャーが紛れ込んでいる。皮肉な話だが、歪んだ平和を維持するためには、綺麗事だけじゃ済まない。こういう連中も、影には必要なのかもしれない。
ふと、最新の艦内状況ログが目に入り、俺は思わず口角を上げた。アグネスの奴、あんな惨劇の直後だっていうのに、今は整備ドックで整備員たちに差し入れを配って歩いているらしい。「恋人をテロリストに殺されて、つい熱くなっちゃって……ごめんなさい、機体を汚して」なんて殊勝な顔をしてな。
案の定、単純な整備兵たちはすっかりあいつの味方だ。それどころか、あいつは差し入れを終えた後、真面目な顔でシミュレーター室に籠もってやがる。
「感情論で暴れながら、裏ではそういう『腹芸』も完璧にこなすか……。アグネス、お前、思っていた以上にやべぇ女だよ」
この変わり身の早さと、周囲を懐柔する計算高さ。ただのバーサーカーよりよっぽど質が悪い。
一方で、そんな光景を遠巻きに見ていたシン君は、相当なショックを受けているようだ。あいつの繊細なメンタルじゃ、この「現実」を飲み込むのは時間がかかるだろう。
「シンのケアはハイネに任せるか……アイツなら上手くやるだろ」
適材適所、面倒なことは専門家に丸投げすることを決めつつ、俺は端末に送られてきた捕虜一覧に目を通した。どいつもこいつも、並べられた経歴を見るだけで溜息が出るような重罪人ばかりだ。
国際法廷にかけられたところで、まず間違いなく死刑だろう。度重なるテロのせいで量刑相場は跳ね上がっているというのに、それでも主義者共は雨後の筍のように次から次へと湧いてきやがる。
今回の捕虜リストはほぼ全員が略奪や殺戮そのものを楽しんでいるような、救いようのない快楽主義のカスだ。ロゴスが崩壊した後の無秩序は今も根深く、力で奪えばいいという短絡的なバカが後を絶たない。
だが、世の中にはさらに質が悪い。「反コーディネイター」だの「反ラメント政権」だの、歪んだ理想に殉じる覚悟だけはある連中がいる。
そういう頭デラフリな連中は定期的に自爆攻撃まで仕掛けて来るせいで、コンパスのパイロット達はスラスターだけを破壊する技量のやたら高い連中が増えてしまい、練度は上がる一方だ。こんなクソみたいな理由のレベリングなんてあって欲しくなかったわ!!!
そして、リストの経歴欄を見て、俺はまた一つため息を吐く。捕らえたテロリストの半数以上が、案の定「元大西洋連邦軍」の肩書きを持っていたのだ。
「……これじゃあフォスター大統領も、そろそろ心労で倒れるんじゃないか?」
いつまでもテロの火種を消しきれない同盟国の惨状に、俺は少しばかりの憐憫を込めて、連絡事項を端末に打ち込む。
大西洋連邦相手には火種をばら撒きやがってカスがYO!と中指を立てつつチンピラの如く本音を漏らしたい、なんなら東アジアの件で俺がどれだけ苦労してきたのかを原稿用紙数十枚単位で送ってやりたいが…。
それでも、上の立場からすれば世界中から糾弾される今の状況は頭痛が痛いなんて頭の悪い言葉が出かねない程には悩みの種だ。SEEDだけにな。
「フォスター大統領に、慰問品として最高級の胃薬でも送っておけ、と。……さて、俺もそろそろ寝るとするか」
闇に消えた黒い獣と、血塗られた白い死神。コンパスが作り上げた「ティターンズ」の初陣は、これ以上ないほど最悪で、そして完璧な結末を迎えるのだった。
・ジャンク屋からの評価
コンパスが戦った後は大体根こそぎ持って帰るか現地部隊に押し付けるせいで、民間組織であるジャンク屋からは不満を持ってる方も少なくなかったり。なおその反面、壊した機体を再利用して生活の糧とするという思想はロウからの評価はすこぶる高かったりします。
この世界ではリビルドの発想が広まった結果どんな機体も重機の様に改造されて使われる事も少なくはなく、何気に改修した機体を修復し、バラして使えるパーツを再利用するなどして売り捌くのは、コンパス運営のちょっとした資金稼ぎとなっていたり。恐らく今回撃墜された機体の多くも修復された上で、ミヤビ辺りが東アジアかユーラシアに売り捌いているでしょう。
・アグネスの行動
アグネスは基本映画版や小説版と性格は全く変わっていません。しかし、今後発表されるであろうフリーダムZEROに於いては恐らく洗脳されたレオナードが犯人ならば、やらかした上でアグネスはレオナードがまさか洗脳されてると気づく事もなく、自業自得だと即切り捨てたのではないか?と予想。反面本作ではイザークやユウナ達が口裏を合わせた結果、レオナードはテロリストに銃殺されたと情報統制され、アグネスの行動も本編とはまた変わったものになるでしょう。劇場版のアグネスはフレイの事を調べたら上でフレイっぽい化粧にしてる疑惑がありますが、本作のアグネスはシミュレーターによくチャレンジしている+キラにかまけてる暇がないと薄いメイクになってるかもしれませんね。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
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原作通り。
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平和の為に覚悟を決める。