破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
俺は誰なんだ?
ユウナ・ロマ・セイランに憑依した『ナニカ』だ。
『ナニカ』以外はわからない。サブカルに対しての知識はあるしガンダムシリーズ、特にAGEが大好きなのは確かなんだが、それ以外の自分を構成する記憶がすっぽりと抜け落ちている。
俺は前世でどんな人間だったんだ。ガキなのか?おっさんなのか?ISの楯無が女性の好みなあたり若年なのか?それとも銀英伝の知識がある辺りおっさんなのか?
男ではなく女だったのかもしれないし、なんなら別人格とサブカルに関する知識が流入してるがそもそも前世らしいものがなかったのかもしれない。身体も、魂も、知識も。全てが歪な『ナニカ』。それがユウナに憑依したものの正体だ。
アイデンティティもへったくれもねぇな……もう慣れたが、そんな不安定な俺は今後どうなるのかも分からない。だか、一つだけ確かなのは……俺は死にたくないって事だ。
死にたくない。人間の根源的で最も究極的な欲求。グフに踏み潰されて死ぬという運命を乗り越えた後もその恐怖は変わる事なく、時に胸を締め付けてふとした瞬間、心臓の鼓動をバクバクと強めていく。
だからこそだ、俺はなんだってする。正義だ悪だなんて関係なく、俺が生き残る為なら何でもする。例えそれが人の道を離れる事になっても。それが俺が生き残る未来に繋がるのであれば……俺は悪魔にだってなってやる。
全ては俺が生き残る為に。そして、俺の精神安定の為に邪魔なモノは全て───。
「…………ああ、クソ。またかよ」
不快なアラーム音が、狭い仮眠室の空気を叩き割る。ユウナは舌打ちと同時に重い瞼をこじ開け、乱暴に枕元の端末を止める。
わずか二時間の仮眠。それすら満足に許されないのが、最近の平和監視機構の日常だ。
モニターには、緊急出動を示す赤い警告灯が明滅している。侵攻地点はアフリカ共同体の『オルドリン自治区』。親プラントの経済特区であり、かつての戦火を逃れた人々が暮らす静かな地に、テロリスト……ブルーコスモスの残党たちが土足で踏み込んでいた。
「状況は?」
ユウナは独りごちながら、乱れた髪をかき上げ、急いで士官服に着替え始める。返答は、通信機から漏れる緊迫したオペレーターの声だ。
『敵部隊、オルドリン自治区内へと侵入! 市街地への無差別攻撃を開始。ミケール大佐直属の主力機動部隊です!』
「ミケール……あのしぶといジジイの本隊の一つか。ザムザザーにゲルズゲーが山ほどいるって報告はマジだったわけだ」
ユウナは吐き捨てるように言い、制服のジッパーを力任せに引き上げる。連中の狙いは明白だ。
派手に騒ぎを起こし、プラントの部隊と連合の部隊を暴走させ互いに「国境侵犯」や「救援の遅れ」を口実に睨み合わせ、再び世界を全面戦争の炎に叩き込むこと。
まさに、憎しみの連鎖を燃料にするブルーコスモスらしい、反吐の出るような猿芝居といえるだろう。
「デストロイの反応は?」
『既に一機確認されましたが、そちらは防衛部隊のドッズスナイパーライフルによって一撃で沈黙。コックピットをピンポイントで貫かれ、誘爆も抑えられています!』
「よし、あっちの狙撃班は仕事をしてるな……」
ユウナは安堵を滲ませつつも、表情を険しくしたまま廊下を走る。
彼が知らないところではあるが、この世界におけるデストロイガンダムの扱いは、かつての惨劇とは様変わりしていた。
確かに都市一つを灰にする凶悪な兵器ではあるが、その巨体ゆえに隠密性は皆無。今や各基地に優先配備されている『ドッズスナイパーライフル』の格好の標的でしかなかった。
圧倒的な貫通力を誇るドッズ技術の普及――いわゆる「ドッズショック」により、巨大な装甲に頼る戦術は過去のものとなりつつあった。デストロイはその巨体が仇となり、戦場に姿を現した直後、超長距離からの精密射撃で動力源を真っ先に撃ち抜かれ、早期に沈黙するのが常態化していたのだ。
しかし、それがかえって別の地獄を生んでいた。
ドッズ技術の台頭によって、巨大MAの有効性に疑問を抱いた大西洋連邦が、不要となったザムザザーやゲルズゲーといった旧世代の大型MAを二足三文で払い下げ、あるいは管理を放棄してばら撒いたのだ。
その結果、テロリストたちは史実よりも遥かに容易に、かつ大量の大型MAを手に入れることとなり。特にミケールが関わっているテロリスト達は無差別に街を焼き払う現実を作り出していた。
「チッ、デストロイが早々に沈むのは計算通りだが……ザムザザーやゲルズゲーの数が多すぎる…なんでテロリストが物量攻めしてるんだよ…!」
報告によれば、連中は既に撤退など毛頭考えていない。ドッズスナイパーライフルの射線に晒されようとも、一歩でも前へ、一人でも多く殺そうと突っ込んでくる。
本来なら熟練のパイロットが操るべき大型機を、使い捨ての弾丸のように扱う狂気は、最早異常と言えるだろう。一部に異常な動きの兵士が存在しているのはブーステッドマンか?と歯噛みしながら吐き捨てる。
「連中はもう撤退すら考えずに暴れまくってる死兵だ。まともに付き合ってたら、こちらの弾が先に尽きるぞ」
ユウナは忌々しげに吐き捨て、自動ドアを跳ね除けるようにしてブリッジへと踏み込んだ。
「状況継続! 各員、コンパスの介入ポイントを再計算しろ! ユーラシアとプラントをぶつけさせる前に、あのデカブツ共を片付けるぞ!」
ユウナがブリッジで采配を振るう中、モビルスーツデッキでは出撃準備が最終段階に入っていた。
騒がしいハンガー内を駆け抜け、コックピットのハッチが開くと、パイロット達はそれぞれの愛機へと吸い込まれていく。
そこには新たなる翼――ライジングフリーダムに乗り込んだキラ、そして本来の歴史ではこの場にいないはずの男、オレンジカラーのイモータルジャスティスを駆るハイネの姿があった。
「……またかよ。連中、飽きもせずに壊し回って……!」
ガイアティターンズの機体に収まったシン・アスカは、モニター越しに映る燃える市街地を見て、隠しきれない不快感を露わにしていた。
ルナマリアが無事に出産を終え、守るべき愛娘が産まれたことで、シンは名実共に「親」となった。かつて家族を失った少年は、今や家族を持つ強さを知る男へと成長している。
だからこそ、平穏な日常を、そして誰かの家族の命を無慈悲に奪おうとするテロリストへの怒りは、より強く。より、強固なモノに進化していた。
(……ようやくルナの体調も落ち着いたんだ。分からず屋め……平穏を乱す連中は奴らは、俺が絶対に許さない…!)
シンはガイアティターンズを駆り、数多の戦功を上げてきた。かつての不安定さは影を潜め、今やコンパスの切り込み隊長として、その実力は誰もが認める域に達している。
「落ち着けよ、シン。ピリついた空気が機体を通して伝わってきてるぞ」
通信モニターに、不敵な笑みを浮かべたハイネが映し出される。彼が生存し、指揮官として睨みを利かせているこの世界では、史実よりも連携が洗練されていると言えるだろう。
本来の歴史、あるいは別の可能性の世界であれば、キラ・ヤマトという突出した個人の力に依存し、彼一人が最前線で孤立無援の奮闘を強いられるのがコンパスの常態であった。
キラは独りで苦悩し、独りで全てを背負い、残りのメンバーはその後方で市民の防衛や火消しに奔走する――そんな危ういバランスの上に、彼らの勝利は成り立っていたのだ。
しかし、この世界は違う。隊長としての高い適性と確かな実績を持つベテランが生存し、精神的支柱として中枢に座っている。その存在は、若く繊細なトップエースであるキラにとって、何よりも代えがたい救いとなっていたのだ。
キラはライジングフリーダムのコックピットで、流れるような手つきでコンソールのバイタルチェックを進めていた。
以前の彼なら、悲痛な表情で先行し、誰にも相談できずに戦場へ身を投じていただろう。だが今、彼の隣のモニターには信頼すべき戦友たちの顔があり、耳には進むべき道を示す指揮官の声がある。
キラは愛機のセンサーを最大限に広げ、戦域内の生体反応や熱源をチェックしながら、静かにハイネからの指示を待っていた。
「……いいか、キラ。お前に無茶振りを命令する。無理に突入してくる、ウィンダム共を無力化しろ。だが、爆発はさせるな」
ハイネの低く、それでいて信頼の籠もった声が通信回線を満たす。
「市街地の真上で誘爆させれば、燃え盛る破片が逃げ遅れた市民の上に降り注ぐことになる。お前の腕なら、爆破させずに飛行ユニットだけを焼き切れるはずだ。空域を完全に掌握しろ。自分が最終防衛ラインになるつもりでな、できるな?」
「……はい、やってみます。ハイネ中佐。万が一の時は…」
「任せる。機動力はライジングフリーダムのお前が一番強いんだ、いざって時は好きに動いてくれ」
キラは静かに、だが力強く応じた。かつてのように「僕がやらなきゃ」という強迫観念に突き動かされるのではない。
指揮官が戦況を正しく把握し、自分に最も適した、そして最も困難な役割を与えてくれたことへの信頼、それがライジングフリーダムの機動をさらに研ぎ澄ませていく。
「アグネス、お前は俺と一緒にMAを叩く。ザムザザーもゲルズゲーも、知っての通りだが下手に動力部を潰せば誘爆がデカいぞ。なるべくコックピットだけをピンポイントで潰せ。……いいな、余計な功を焦って派手に散らすんじゃないぞ」
『了解、ハイネ隊長。言われなくても分かってるわよ』
不遜な態度は崩さないアグネスだが、ハイネの睨みが利いている以上、その操縦に迷いはない。そして最後に、ハイネは地上のモニターに映る黒い影へと声をかけた。
「シン、お前は地上担当だ。鬱憤が溜まってるだろうが、好きなだけ暴れていい。……ただし、なるべく建物は壊すなよ。それはキラとアグネス、お前らもだ。命を救うのが最優先だが、街を更地にしちまったら、後でセイラン副総裁が半泣きで請求書を眺めることになるからな」
冗談めかして言ったハイネだが、その目は笑っていなかった。
コンパスという組織が政治のバランスの上に成り立っていることを、彼は誰よりも理解している。いや、正確にはユウナによって嫌でも理解させられたというべきかもしれない。
「ハイネ中佐。市民の避難誘導や政府施設の防衛はどうしますか? まだ間に合っていない地区が……」
キラがモニターの端に映る避難民の列を指して問うが、ハイネは即座に首を振った。
「そこは現地のザフト駐留部隊のジンの連中に任せろ。俺たちが下手に誘導に手を貸せば、それだけテロリストを仕留めるのが遅れる。連中の狙いは、ザフトの部隊を興奮させて違反となる領内へ『国境侵犯』させることだ。そうなっちまえば一気に情勢は悪化するだろうな」
ハイネの分析に、キラは苦々しい表情を浮かべた。
単純な憎悪だけで暴走するこれまでのテロリストと違い、ミケール大佐率いる今回の部隊は、明確な戦略的目標を持って動いている。
その最たるものが、挑発だ。プラントの自治区から出動したザフト兵たちが、目の前で繰り広げられる無差別殺戮に憤り、国境線を越えて追撃する。あるいは、テロリストを仕留めようとしアフリカ共同体の領土や市民を誤射してしまう。
一度でもそれが起きれば連合の強硬派は「プラントによる侵略」と叫び、ようやく勝ち取った脆い平和は一瞬で崩れ去るだろう。
「……憎しみをぶつけるだけじゃない、憎しみを『利用』して戦火を広げようとしているんですね」
「ああ。だからこそ、連中の土俵に乗る前に、俺たちが迅速にガン細胞を取り除かなきゃならねぇんだ。……デカブツのデストロイが狙撃で早々に沈んだ以上、あとは残った連中の掃討だ」
ハイネは操縦桿を握り直し、不敵な笑みを浮かべた。
最強の矛であるデストロイを失ったブルーコスモスなど、コンパスの精鋭からすればもはや標的でしかない。だが、追い詰められた鼠が何をするか分からないのも確かだ。
だから叩く。徹底的に叩く。市民の防衛は全て現地について詳しい駐留軍に任せればいい、迅速に敵部隊を潰す事が最も被害を減らせると個々の技量を理解しているハイネは考察する。
ある意味では「史実」におけるキラとは真逆の選択だ。自分一人で強敵を撃破し、部下に市民の防衛を任せたキラの選択は間違いでは無い。
しかし、ハイネは餅は餅屋だと言わんばかりな迅速な攻撃によって駐留軍を後方に下がらせ、彼らに「史実」のシン達の役目を任せようとしているのだ。
これはある意味ハイネだからこその選択肢だろう。古巣であるザフト兵に「任せる」という選択肢。全てを背負い込むのではなく全体を巻き込んで迅速にミッションをこなそうとする方針はある意味正規の軍人だからこそ産まれた別の選択肢と言えるだろう。
「徹底的に叩くぞ。二度と這い上がってこられないよう、その戦意ごと粉砕してやる。いいな、野郎ども!」
『了解!』
『こちらハーケン隊。ミレニアムは任せな。後詰めとして待機はしておくが、私らに仕事をさせるなよ』
『当然!全部食い切って見せるさ。ハイネ隊出るぞ!」
その力強い応諾と共に、母艦ミレニアムのハッチが開放された。眼下に広がるのは、大気の摩擦で赤く燃え上がる惑星の縁。
先陣を切るライジングフリーダムとイモータルジャスティスが、滑らかな挙動で高機動MA形態へと変形。青とオレンジの翼を広げ、重力に引かれるままに灼熱の空へとダイブする。
その直後、ガイアティターンズとギャンシュトロームが続いた。二機は無理をせず瞬時にバリュートを展開。巨大なパラシュート状の耐熱袋が膨らみ、落下速度を制御しながら大気圏へと突入していく。
摩擦熱でモニターがノイズに揺れる中、シンの手は迷いなく、ガイアティターンズに装備された新型レールガン『ライコウ』のグリップを握り締めていた。
(……待ってろよ、ルナ。そしてトワ)
シンの脳裏には、戦場へ向かう自分を送り出してくれたルナマリアと、その腕の中で眠る小さな命の姿があった。
かつてプラントで、親友であるレイによって名付けられた一人娘、トワ(永遠)・ホーク。
レイが願った、自分たちが手にすることのできなかった「明日」そのものの象徴。トワという名には、平和が永遠に続いてほしいという祈りが込められている。
親となった今のシンにとって、テロリストどもが撒き散らす火の粉は、愛する娘が歩むはずの未来を汚す汚物に他ならなかった。
(あの子が……トワが、戦争なんて言葉も知らない世界を歩めるように。俺が、この手で全部終わらせてやる!)
「ライコウ」のチャージランプが鋭く輝く。炎のカーテンを突き抜け、オルドリンの大地が見えた瞬間、シンは獣のような鋭い眼光でターゲットを捕捉した。
「コンパス、突入完了! ――目標、テロリスト全部隊! 殲滅する!」
大気圏を突破した四条の光が、絶望に染まった市街地へと真っ逆さまに突き刺さっていく。
そこは、言葉通りの地獄だった。かつての戦火を逃れたはずのオルドリン自治区は、今や黒煙と断末魔に包まれている。
現地に駐留していたザフトの旧式機『ジン』数機が、逃げ惑う市民の盾となろうと必死に防波堤を築いていた。だが、その前に立ちふさがるのは30機を超えるウィンダムや105ダガーの大部隊だ。
「やめろ! ここには民間人しかいないんだぞ!」
ジンのパイロットが叫ぶが、テロリストたちは冷酷にビームライフルを連射する。市民の多くは自分たちと同じナチュラルであるはずだが、ブルーコスモスの狂信者たちにとって、コーディネイターの庇護下に甘んじる者は等しく「排除すべき敵」でしかなかった。
さらに空を覆うのは、巨大なMAの影。ザムザザーやゲルズゲーが陽電子リフレクターを盾に突き進み、その強固な守りの背後から、無慈悲な火砲が街を、そして逃げ遅れた人々を次々と焼き払っていく。
その絶望を具現化した光景を、空を裂く「雷光」が突き刺さる。
「……邪魔だ。消えろ!」
上空から猛スピードで降下する黒い影――シンの駆るガイアティターンズ。その手にしたレールガン『ライコウ』が、高精度な火線を次々と吐き出す。
誘爆を避け、かつ確実に無力化する。放たれた弾丸は正確にウィンダムたちのコックピットのみを貫き、致命的な爆発を起こさせることなく、鋼鉄の巨体を物言わぬ瓦礫へと変えていく。
紅蓮の炎を突き抜け、四機のモビルスーツがオルドリンの大地に舞い降りた。
中心に立つのは、オレンジ色の輝きを放つイモータルジャスティス。そのハッチ越しに、ハイネの鋭く、それでいて落ち着いた声が戦域全域のオープンチャンネルへと響き渡る。
「こちら世界平和監視機構、コンパス。……これより、武力による即時停戦介入を開始する」
史実とは違うオレンジ色に染め上げられたイモータルジャスティスのコックピットで、ハイネは冷徹に言い放った。メインモニターに映し出されるのは、黒煙を上げる街と、
無惨に転がるジンの残骸。そして、それらを嘲笑うかのように蹂躙し続ける鋼鉄の群れだ。
「……いや、訂正だ。攻撃部隊、なんて呼んでやる必要はねぇな。テロリスト共! ――おい、今さら逃げるなよ? 一方的に殺しておいて、自分だけは助かるなんて甘い考え、持ってねぇよなぁ!」
その怒号と共に、イモータルジャスティスの背部ウイングが激しく火花を散らして加速する。標的は、逃げ惑う市民の頭上で傲慢に火砲を振り回す大型MA、ゲルズゲーだ。
機体前方に展開された陽電子リフレクターの光の壁がハイネの視界を遮るが、彼は微塵も速度を緩めない。それどころか、脚部を展開し、そこに内蔵された高出力ビームサーベル「ビーム重斬脚」を白熱させる。
本来ならエネルギー兵器を無効化するはずのリフレクターだったが、弱点の一つがビームサーベルを無力化出来ないという事だ。それに加えて史実とは違い、ドッズ技術によって回転運動を加えられたビームの刃は、光の障壁を紙細工のように切り裂き、激しい火線が散る中、ハイネの蹴撃はゲルズゲーの中枢たるコックピットを正確に貫通し、巨大な質量を内部から沈黙させた。
爆発の光を背に受けながら、ハイネは間髪入れずドッズライフルを構える。遠方で防衛線を崩そうと躍起になっていた別のザムザザーがその銃口に捉えられた。放たれたドリル状の閃光は、数キロの距離を瞬時に埋め、再び「最強の盾」を無力化してその巨体を塵へと変える。
「現地の全部隊へ! ここからは俺たちコンパスが引き受ける。お前たちは一度下がり、弾薬を補充して態勢を整えろ! 役目は終わりじゃないぞ、市民の避難と政府施設の防衛に回れ!」
その力強い指示に、ボロボロになったジンのパイロットたちは一瞬言葉を失い、次いで「……すまない、頼む!」と絞り出すような声を残して、後方へと退いていった。
だが、その背後を突こうと、物陰から数機のウィンダムが銃口を向ける。しかし、それを許さなかったのは一筋の殺気の奔流であった。
「トロい連中ね!死ね!ブルーコスモス!!!!」
アグネスの駆るギャンシュトロームが、大気を切り裂く加速でウィンダムの群れへと割って入る。荒々しく振るわれたビームアックスが、敵機のライフルごと胴体を一文字に両断し、爆炎が上がる前に次の標的へと牙を剥く。
そしてその乱戦の中、一際異質な破壊の音が響き渡った。シン・アスカの駆るガイアティターンズが、四足歩行の獣形態へと変形を遂げる。黒き鋼の獣が大地を蹴るたび、装甲の隙間から不気味な青白い火花が散った。
――チリ……チリ……。
高周波ブレードに電磁パルスを同調させた独自の武装が、湿った音を立てて共鳴する。シンはもはや言葉を発しない。ただ、愛する家族を、トワの歩む未来を脅かすゴミを排除する。その一点に研ぎ澄まされた殺意が、戦場を疾走した。
目にも止まらぬ速さでウィンダムの足元を潜り抜け、すれ違いざまにその脚部とコックピットを同時に斬り裂く。高周波の刃に接触した鋼鉄は、分子結合を寸断され、豆腐のように脆く崩れ去る。一機、また一機と、シンの背後で物言わぬ残骸が増えていく。
それは戦闘というよりは、冷徹なまでの組織的な殺戮であった。
これまで多くの市民を無差別に殺害し、街を蹂躙してきたテロリストたちは、今や狩られるだけの獲物へと成り下がっていた。彼らは自らの行いを「正義」だと信じ、遺伝子を弄った化け物たちを排除するための「聖戦」であると陶酔していた。
たとえ生きて帰れぬ死兵であっても、自分たちは人類を救うための殉教者として歴史に名を刻むのだと、狂気に満ちた恍惚の中で死を受け入れる覚悟を固めていたのだ。
しかし、コンパスの介入はその傲慢な幻想を無慈悲に粉砕した。
史実のような不殺など人命のかかった今の戦場には微塵も存在しない。そこにあるのは、害獣を確実に息絶えさせるための処理でしかない。
黒き獣、ガイアティターンズが振り回す「チドリ」の刃が空気を震わせるたび、ウィンダムの装甲は紙のように細切れにされ、中のパイロットごと消し飛ばされる。
誘爆を抑えるためにリアクターを避け、正確にコックピットのみを断裁していくその手際は、職人的なまでの精密さを伴っていた。テロリストたちは叫ぶ暇さえ与えられず、ただの肉塊へと変えられていく。
ハイネによって熱を帯びたビームサーベルが鋼鉄を焼き切り、高周波の振動が肉体を震わせる。殉教者としての華々しい死を期待していた連中に突きつけられたのは、ゴミのように片付けられていくという屈辱的な現実だった。
特にアグネスの戦いぶりは、テロリストたちの「正義」を徹底的に踏みにじるものだった。
彼女の駆るギャンシュトロームは、圧倒的な機動力で逃げ惑うウィンダムの背後を取り、ビームアックスでその両脚を無造作に切り飛ばした。機動力を奪われ、地面に這いつくばる敵機。そのパイロットが死の恐怖に顔を歪めた瞬間、アグネスは嘲笑うかのようにギャンの巨大な金属の足を振り上げた。
ギャンの巨大な足が、逃げ場を失い地面に這いつくばるウィンダムのコックピットを無慈悲に捉えた。
装甲が自重と出力によってミシミシと軋み、悲鳴のような金属音を上げる。厚い装甲板が歪み、内側へと折れ曲がっていくその僅かな隙間から、中に閉じ込められたパイロットの醜いまでの狂乱が漏れ聞こえてきた。
「や、やめろ……! 来るな、来るなああッ! 助けてくれ! 誰か助けてくれええ!!」
つい数分前まで、化け物を駆逐する「殉教者」として悦に浸っていた男の面影はどこにもなかった。極限の恐怖は男の誇りを容易く剥ぎ取り、ただの生存本能へと退化させる。
コックピットの中では、死の圧力が迫るたびに男の失禁した鼻を突く悪臭が充満し、目鼻からは涙と鼻水が溢れ、かつて自分が奪ってきた数多の命のことなど忘れ去ったかのように、喉を枯らして許しを請う。
だが、その懇願はアグネスの冷徹な瞳を動かすには至らない。さらにギャンの足に体重を乗せた。
ミシミシ……と金属が限界を迎えて弾ける音が響き、歪んだ装甲がパイロットの肉体を逃げ場のない狭隘な空間へと追い詰めていく。
アグネスは淡々と、しかし確実にその足裏に力を込めていった。その顔には無意識の内に狂気的な笑みが浮かんでおりテロリストの悲鳴を極上のBGMとして楽しんでいるのだ。
すぐに命を奪うことはしない。厚い装甲がひしゃげ、中のパイロットが死の恐怖に身悶えする時間を、コンマ数秒だけ長く引き延ばす。
それは味方の通信記録や戦闘ログを見返した際に「とどめを刺すのに手間取っただけ」と釈明できる、極めて危うく、それでいて周到な加虐の時間だった。
(何よそれ。散々人を殺しておいて、自分が死ぬ時はそうやって泣き喚くわけ? 醜いったらありゃしない)
内心で冷ややかに吐き捨てながら、アグネスはモニター越しに歪んでいくコックピットを凝視した。
外部スピーカーから漏れ出すパイロットの絶叫は、もはや言葉の体を成していない。ただひたすらに生への執着を剥き出しにした、獣の咆哮に似た悲鳴。狭い空間で自らの排泄物の臭いに咽せながら、男は潰れゆく鋼鉄の壁を素手で押し返そうと足掻いている。
その絶望が最高潮に達した瞬間、アグネスは微かな笑みを浮かべて、最後の一押しを敢行した。
――グシャッ!!
金属が完全に屈服し、内側の空間がゼロになる。装甲の継ぎ目から、熱を持った真っ赤な液体が勢いよく噴き出し、ギャンの足首を汚した。
かつて「人間」だったものは、一瞬にして形を失い、冷たい鋼鉄のプレス機によってスクラップと区別のつかない肉塊へと変えられた。
コンパスの公式ログにはこう記されるだろう。 『敵機無力化を試みるも、姿勢制御の失敗によりやむなくコックピットを圧壊』と。
だが、今の悲鳴と、それに続く悍ましい沈黙は、通信回線を共有していた全てのテロリストたちの耳に、呪いのように刻み込まれていた。
彼らが掲げていた「聖戦」という名の魔法は、この一撃で完全に解けた。自分たちは殉教者などではない。ただの肉の袋であり、遺伝子を弄った「化け物」たちの気まぐれ一つで、排泄物を垂れ流しながら潰されるだけの存在なのだ。
「ひ、ひぃっ……! 逃げろ! 逃げろおおおッ!!」
「化け物だ! あいつらは人間じゃない!!」
パニックは一気に伝染した。ミケール大佐が命じた「死を恐れぬ侵攻」は、恐怖と絶望によって崩壊する。聖戦により殉教者として死ぬのではなく、ゴミの様に弄ばれて踏み潰されるという恐怖に耐えきれなくなったのだ。
命令を無視し、我先にと背を向けて敗走を始めるウィンダムや105ダガーの群れ。しかし、その背後はすでに、慈悲を知らぬ者たちによって塞がれていた。
「逃げるなよ。殺す覚悟があったんだろ?お前らは」
ハイネのイモータルジャスティスが、ドッズライフルの光を連射し、逃げるウィンダムの背中を正確に撃ち抜いていく。さらに地を這う影、シンのガイアティターンズが獣のごとき跳躍で、撤退しようとするザムザザーの巨体に上から食らいついた。
――チリ……チリ……。
再び高周波ブレードの共鳴音が響く。背後から迫る死の気配。かつて自分たちが市民に与えた「逃げ場のない恐怖」を、今度は自分たちが背中で受け止めながら、テロリストたちは次々と戦場の塵へと変えられていった。
・トワ・ホーク
レイが名付け親のシンとルナマリアの娘。名前の由来はレイ(0)と正反対の意味から。なおレイに名付け親になってもらう前は女の子ならマユかステラにしようかなと思っていた所、その夜悪夢を見つつ唐突にレイに任せるかと思いついたらしい。あの世のコンビはきっと何もしてないはず、多分。
・現場任せ
史実と違いハイネが隊長になった事で変わった要請。最新鋭の機体に乗ったエースパイロット達が大暴れする事で、友軍を後方下がらせつつ市民や重要施設の防衛を任せる事に。この辺りはより危険なMAが史実より多く放置できない+ジンで太刀打ちするのは不可能という事情もありました。
・ナレ死デストロイ
現在ザフトの基地ではどの様な場所であってもドッズスナイパーライフルとそれを扱う機体、パイロットが配備されています。その結果デストロイは高確率で早期に沈黙するのですが……デストロイは囮。本命はザムザザーとゲルスゲー、宇宙ではユークリッドであり、この辺りもドッズショックの影響が少しずつ響いていますね。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
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原作通り。
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平和の為に覚悟を決める。