破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

112 / 159
第三十七話 後方保護者面

 

 

「……キラには、悪いことをしたけどな。あいつを出撃停止にするのも、ジャガンナートたちへの手土産だ。あいつら、最強の駒が動けないってだけで、少しは溜飲を下げるだろ? その間に、ラメント議長が軍内部の膿を出してくれる。それが一番手っ取り早い」

 

 

 

 ユウナは一度言葉を切ると、少しだけ真面目な顔に戻ってモニターの向こうからラメント議長に向き直った。その視線は、既に次の標的を、この混乱の元凶を見据えていた。

 

 

 

 ラメント議長は深く椅子に座り直すと、組んだ指の上に顎を乗せ、問いかける。

 

 

 

「それで……ミケールの居場所は依然としてカナジの周辺かね?」

 

 

 

 

 その問いにラクスが静かに首を振る。そして、ユウナが吐き捨てるように答えを引き継いだ。

 

 

 

「いや、恐らくユーラシア連邦でしょう。あそこは反プラント感情の強い人間も多く、何よりコンパスを公式に承認していない。我々コンパス『は』、現状ではユーラシアの領内で暴れることは不可能ですからね。そりゃ奴らはあそこにアジトを作るでしょうし、国境線を越えて武力介入すれば、それこそ奴らの思う壺だ」

 

 

「コンパス『は』、かね? ……副総裁、何か策が?」

 

 

 

 ユウナが強調した「コンパスは」という言葉の裏にある含み。それをラメント議長は見逃さなかった。老獪な政治家としての眼光が鋭さを増し、彼の問いかけに、ユウナはモニターの向こうで不敵な笑みを深くした。

 

 

 

「ええ。少し前に『モルガ』の件で、ユーラシア内部に太いパイプが出来ましてね。詳しくはいえませんが、色々と仕掛けを施す予定ですよ。詳細はまたしかるべきタイミングで報告させていただきます」

 

 

 

 そこで言葉を濁し、わざとらしく手元の端末をいじって視線を逸らした。内心では、これ以上喋りすぎるのは危険だとブレーキをかけているのだ。

 

 

 

 ファウンデーション王国は間違いなくユウナの命を狙っており、この数ヶ月の間彼は警戒を一度たりとも欠かさなかった。

 

 

 

 今回の会議もモニター越しでの会話を心がけており、プラントに顔を出したのは、以前のキラ達の自宅に招待されたのが最後。以後は秘密裡に行うデュランダルとの会話も含めて徹底してアコード対策を怠らず、半ば潜伏生活をおこなっている。

 

 

 

 とはいえ彼本人は仕事が減った上に、合間にゲームを嗜める程度には余裕が生まれており、奇しくもアコードの存在が激務であった彼に一時の休暇を与えているのはある意味皮肉だろうか?

 

 

 だからこそ、ザフト内では内政干渉手前の言動を口にしつつラクスと違いプラントに寄り付かない副総裁を口先だけの臆病者だと嘲るものもいたのだ。その様な連中はつい先程「二度と関わりたくねぇ…」と思い知ったそうだが。

 

 

 

 

「まぁ、要するに大人の汚いやり方ですよ。総裁が知る必要のない、破廉恥で不潔なね」

 

 

 

 ユウナはそう言って、自嘲気味に肩をすくめて見せた。その表情の変化を、ラメント議長は深読みすることなく、信頼を込めて受け止めた。

 

 

 

「……承知した。貴殿のその汚いやり方に、今はプラントの、ひいては世界の命運を預けさせてもらおう。ミレニアムの補給と整備については、私から国防委員会へ直接指示を下す。最高水準の対応を約束しよう」

 

 

 

「助かります、議長。……さて、ラクス。聞いたな? ミレニアムはドック入り、キラは謹慎、そしてお前は休暇だ。これはコンパスの副総裁、そしてプラントの議長という、この場にいる最高権力者二人の決定だな。断り切れるもんならやってみろ」

 

 

 

 ユウナはモニター越しに、少しだけ意地悪な笑みを浮かべてラクスを指差した。

 

 

「ですが、副総裁……今の私に、休みを取る資格があるのでしょうか。キラも、自分のしたことで苦しんでいるはずです。それなのに、私だけが……」

 

 

 

「だから、副総裁はそのキラ准将と一緒にいなさいと言っているのです、総裁」

 

 

 

 ラメント議長が、穏やかな声でラクスの言葉を継いだ。彼個人は一度キラと出会った事があるのだが、タフな人間ではなく何処か儚げな様子を感じとっていたのだ。

 

 

 

「貴女が一人で公務に励んだところで、謹慎中の彼の不安が拭えるわけではない。一ヶ月近くも恋人に会えず、共に死線を潜り抜けてきたのです。この機会にいちゃついてくるのも、大事な役目かと。若者が笑えない世界に、守る価値などありませんから」

 

 

 

「ラメント議長の言う通りだ。あいつ、ああ見えて繊細なんだからさ。お前が隣にいてやらなきゃ、今頃自室で『僕はまた人を撃った……』なんてウジウジ考えてるぞ。そんな不健全なエースを抱えるのは役人としてお断りだ」

 

 

 

 

 ユウナは軽口を叩きながら、内心ではラクスの心が少しでも軽くなることを願っていた。

 

 

 

 彼女が背負う「総裁」という肩書きとアコードである真実はあまりにも残酷だ。それを脱ぎ捨てられる数少ない時間を確保するのも自身の役目だと理解して。

 

 

 

 

「……分かりました。お二人のお言葉……いえ、命令に従わせていただきます。キラと一緒に、少しだけ総裁からラクスに戻らせていただきますね」

 

 

 

 

 

 

 ようやくラクスが、春の陽だまりのような柔らかな微笑みを浮かべた。その顔を見て、ユウナは満足げに頷き、彼女が部屋を去るのを見守る。

 

 

 

 

 

 ラクスは扉の前で控えていたマネージャーや護衛の者たちに、幾分か足取りの軽くなった様子で声をかけ、静かにその場を後にし、彼女が背負っていた重圧が、ほんの少しだけその肩から降りたのが、モニター越しにも伝わってきてユウナは安堵の息を吐く。

 

 

 

 密談の場に残されたのは、二人だけだ。ユウナはふっと息を抜き、モニター越しにラメント議長を茶化すように口を開く、

 

 

 

 

 

「……正直、驚きましたよ。議長の口から『いちゃつく』なんて言葉が飛び出すなんて」

 

 

 

 

「ふむ、私とて、これでも人の親ですからな。それに、クライン総裁だけではない。ヤマト准将という青年は、およそ戦場という苛烈な場所には似つかわしくない、静かな印象の青年だ。……ああいう手合いは、自分の感情を奥底に溜め込み、限界まで自分を削り続けてしまう。それは、本人にとっても、彼を頼りにする組織にとっても、決して健全なことではないでしょう」

 

 

 ラメント議長は一度言葉を切り、窓の外に広がるプラントを見つめつつ懐かしむ様な顔となる。自身か家族にも似た様な経験があるのだろうか?と一瞬ユウナは考察するも、議長は温厚な紳士面としての表情を崩さない、

 

 

 

「戦士にも休息は必要だ。無理に張った弦は、いつか必ず切れる。彼が再び剣を握る時、その心が折れていては意味がないのだから」

 

 

 

 その言葉を聞きながらユウナは内心で舌を巻いていた。温厚で紳士的な老政治家のように振る舞っているが、常に実利を求めていると気づいてしまう。

 

 

 

「……全くだ。使い潰して壊しちまったら、後の修理の方が高くつきますからね。流石はプラントを率いる議長だ、コンディション管理に余念がない」

 

 

 

 ユウナは賞賛と理解、そしてほんの僅かな皮肉を混ぜて応えた。カガリであれば、おそらく純粋にキラの身を案じ、優しさから休暇を勧めるだろう。だが、ラメント議長は違う。

 

 

 戦場には似つかわしくない青年の性質を完璧に見抜きつつも、組織の長として彼を「戦士」と定義し、その有用性を最大限に維持するための休息を推奨しているのだ。

 

 

 

(優しい顔をして、結局は手駒相手にパフォーマンスを引き出すための管理ってわけか。まぁ、実際にそうなんだろうが……)

 

 

 ただ情に流されるのではなく、戦略的な判断として「愛し合う時間」すらも歯車として組み込む。その老獪な手腕は、今のユウナにとっては決して嫌いなものではなかった。

 

 

 そもそもこの世界ではコーディネイターは十五歳程度で成人扱いされており、未だにキラ達を子供扱いするユウナの考え方はプラント内では異質と言えるだろう。その辺りは転生者としての感覚のズレだと飲み込むしかないのだから。

 

 

 むしろ、感情論だけで突き進むタカ派の連中に比べれば、よほど話が通じる相手だと言えるのだから。

 

 

 

「先日、ボレロ付きのゲルググメナースを三機も融通していただいた件、改めて感謝しますよ。おかげで今回の騒動も、コンパスとしては最低限の被害で済みました。……ミケール大佐の件は、責任を持って俺が、いえ、我々がどうにかしますよ」

 

 

 史実においてはギャンのパイロットであったヒルダであったが、この世界では三人揃ってゲルググを乗り回している。ユウナ個人の「黒い三連星」ならやっぱりゲルググだよなぁ!などの嗜好もあれど、三人まとめて戦闘を行うのであれば機体は統一した方がいいという進言したのも大きい。

 

 

 故に現在ギャンのパイロットはアグネスのみ。それが、彼女にとっては密かな優越感を生み出しているのだが、流石にその事実を彼は知る事は無かった。

 

 

 

 ユウナは一度言葉を切ると、少しだけモニターに顔を近づけ、声を一段と低くした。ここからは外交上の社交辞令ではなく、一人の政治家としての個人的な忠告だった。

 

 

 

「……最後に一つ。ファウンデーション王国の人間には気をつけてください。あそこは新興国ながら不気味なほど急速に力をつけ、裏では黒い噂が絶えません。彼らにとって、デスティニープランの否定派であり、コンパスの強力な後ろ盾である貴方の存在は目の上のタンコブという奴です。貴方の命を狙う可能性も、決して否定はできないかと」

 

 

 

 真剣な眼差しを受け、ラメント議長は少しの間沈黙した。その沈黙は、彼自身が既にその危険性を肌で感じ取っていることを示唆していた。だが、議長の瞳に恐怖はなく、ただ静かな覚悟だけが宿っていた。

 

 

「……忠告を感謝するよ。セイラン副総裁。私も、彼らの動向には注視しているつもりだ。平和への歩みを、ここで止めるわけにはいかないからね」

 

 

 

 ユウナは、この穏やかで、しかし決して折れない芯の強さを持つ老政治家を改めて見つめた。そして、柄にもなく、心の底から出た言葉を口にする。

 

 

 

「……正直に言えば、議長。俺は、貴方のような人がプラントの議長をあと十年は勤めて欲しかったですよ。そうすれば、俺ももう少し早く隠居生活が出来るでしょうから」

 

 

 

 それは、打算も策謀も抜きにした一人の男の偽らざる本音だった。この憎悪と憎しみの連鎖が新たな戦いの火種となる世界で、同じ地平を見つめ、責任を共有できる相手がいかに稀有か。骨身に染みた彼にとっては、数少ない弱音を吐ける男が目の前の議長なのだろう。

 

 

 ラメント議長は、意外なものを見たような顔をした後、今日一番の、そして最も柔らかな笑みを浮かべて返した。

 

 

 

 

「……私の方こそ。セイラン副総裁には、これからも長くコンパスの副総裁として勤めていただきたいと思っているよ。君のような男がいなければ……我々のような老骨では、ヤマト准将の様な若者達が理想という名の重石に押し潰される様を止める事は出来ないのだから」

 

 

 

 互いに見つめ合う数秒間。そこには立場も人種も超えた、同じ時代を背負う者同士の深い共感があった。これが本音の会話なのだと、二人は言葉を尽くさずとも理解していた。

 

 

 

「……さぁ、お互い忙しい身だ。そろそろ失礼します。ユーラシアの狸どもを料理しに行かなきゃならないんでね」

 

 

 

「ああ。ユーラシアでの健闘を祈っているよ、セイラン副総裁」

 

 

 

 通信が途切れる。暗転したモニターに映る自分を見つめながら、ユウナは深く息を吐き出した。プラントとの間に刻んだ深い傷と、その裏で結ばれた一筋の信頼。

 

 

 

 それらを胸に、彼は次なる戦場、ユーラシアという名の伏魔殿へと意識を向けるのであった。

 

 





・ゲルググ
 史実とは違いヒルダの機体もゲルググになった事で、黒いゲルググが三編成に。この辺りはユウナがドムトルーパー隊を黒い三連星と重ねており、ギャンを返却してデータを引き渡した上で、ゲルググを三機融通してもらったそうな。

・ラメント議長
 ユウナ視点ではかなりの好感度の高さ。当初は「誰だよコイツ…」と全く期待しておらず、タカ派じゃないだけマシと割り切っていましたが。穏健派な上普通に話が通じる上に、コノエ艦長なんてSSRどころかUR艦長を紹介してくれたのもあり相当なものに。もう俺が引退するまで高橋是清のごとく馬車馬みたいに働き続けてくれねぇかな…と内心めちゃくちゃ失礼な事を考えてます。

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。