破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第三十八話 キラ・ヤマト襲撃事件

 

 

 

 

 ミレニアムがプラントの軍港へと入港した翌日。昨夜までの殺伐とした仕事の余韻を振り払うように、ラクス・クラインは邸宅のキッチンに立っていた。

 

 

 

 コンパスの総裁としての重圧を一時的にクローゼットへ押し込み、彼女は一人の女性として、愛する人のために腕を振るっていた。

 

 

 

 コンロの上では、キラの好物である煮込み料理が柔らかな湯気を立て、テーブルには彼が喜びそうなメニューがこれでもかというほど大量に並べられている。味付けがやや濃いめになっているのはどこぞの汚ねぇ芋虫野郎のせいなのは内緒だ。

 

 

 

 ユウナやラメント議長から「いちゃついてこい」と半分命令のように背中を押されたこともあり、ラクスの準備には並々ならぬ気合いが入っていた。

 

 

 

「……少し作りすぎてしまったでしょうか」

 

 

 

 ふふ、と独り言を漏らしながらエプロンの紐を直したその時、静かな邸宅に「ピンポーン」と、待ちわびていたチャイムの音が響き渡る。

 

 

 

「キラ!」

 

 

 弾むような声と共に、ラクスは玄関へと駆け出した。その足取りは、先日の会議との緊迫感とは無縁の、恋する乙女のそれである。

 

 

 

 期待に胸を膨らませ、勢いよくドアを開けたラクスの目に飛び込んできたのは、夕闇に立つ愛しい恋人の姿――。

 

 

 

「……えっ?」

 

 

 

 確かに、そこにはキラがいた。だが、ラクスの予想していた再会の形とは、あまりにもかけ離れていた。そこに立っていたのは、屈託のない笑みを浮かべるハイネ・ヴェステンフルスと、その後ろで何やら申し訳なさそうに視線を泳がせている数人のミレニアムクルー。

 

 

 そして、ハイネの肩には、毛布でぐるぐる巻きにされ、まるで巨大な春巻きか、或いは「簀巻き」のようになった物体が担がれていた。

 

 

 その「物体」の先端から覗いている茶色の髪と、生気のない瞳。それこそが、コンパスが誇る最強のパイロット、キラ・ヤマト准将の成れの果てであった。

 

 

 

「よお、クライン総裁! お待たせしました、特大の荷物をお届けにあがりましたよ!」

 

 

 

 ハイネが景気よく声を上げると同時に、肩に担いでいた「キラだったもの」を玄関のマットの上に、どさりと横たえた。

 

 

 毛布の中で身動き一つ取れないキラは、抵抗する気力すら失ったのか、あるいはハイネたちの強引な連行に魂が削り取られたのか、ただ天井を見つめて「無」の境地に達したような、諦めきった目をしている。

 

 

「あの、ハイネさん……これは一体……?」

 

 

 

 

 困惑して立ち尽くすラクスに対し、ハイネは親指で簀巻きのキラを指しながら、さわやかに言い放った。

 

 

 

「いやあ、こいつ、謹慎だって言ってんのに自室でシミュレーターのログをチェックしようとしたり、無理やり新型装備の手伝いに行こうとしたりしてさ。隊長としては、部下を休ませないといけないだろ?だからちょっと大人しくさせて運んできたってワケ」

 

 

「……あ、ありがとうございます?」

 

 

「おう、気にすんな! これで任務完了だ。あ、飯のいい匂いがするな。……じゃあなキラ、しっかり休めよ!」

 

 

 

 

 ハイネはそう言い残すと、爽やかな足取りでクルーたちを引き連れて去っていった。静まり返った玄関には、エプロン姿のラクスと、玄関マットの上で毛布に包まれたまま転がっているヤマト准将。コンパス最強のパイロットの姿かこれが…?

 

 

 キラは、ゆっくりとラクスの方へ視線を向けると、掠れた声でポツリと呟いた。

 

 

 

「……ただいま、ラクス。ごめん……こんな格好で」

 

 

 

 あまりにも情けなく、しかしどこか愛らしいその姿に、ラクスは驚きを通り越して、堪えきれずに小さく吹き出した。

 

 

 

「おかえりなさい、キラ。……ふふ、まずは、美味しいご飯を食べましょうか」

 

 

 

 

 ラクスは微笑みながら、キッチンの隅に置いていた小型のナイフを手に取ると、キラの自由を奪っている頑丈なロープに慎重に刃を立てた。

 

 

 プツリ、プツリと小気味よい音を立てて縄が解かれるたびに、キラは窮屈な姿勢から解放され、ようやく深いため息をつく。

 

 

「……助かったよ」

 

 

 

 毛布から這い出たキラは、乱れた髪をかき上げながら苦笑いした。ラクスは彼の手を引き、リビングのソファーへと促す。

 

 

 

 

「ハイネさんも随分と思い切ったことをなさいますね。でも、どうしてそこまでされることになったのですか?」

 

 

 

 ラクスの問いに、キラは視線を泳がせながら、数時間前の出来事を思い返してポツリポツリと語り始めた。

 

 

 

「……オルドリン自治区でのことがあって、僕がもっと上手くやれていればラクスやユウナさんに迷惑をかけずに済んだはずだって、どうしても考えてしまって……それで、新型装備の調整だけでも終わらせておこうと残業しようとしたんだ。そうしたら、ハインライン大尉が背後から『お時間ですよ、ヤマト准将』って現れて……」

 

 

「ハインライン大尉が?」

 

 

「うん。何か、変な香りのスプレーをいきなり振りかけられたんだ。頭が少しふわふわした瞬間に、どこからともなくハイネ隊長が現れて、気づいたら今の姿にされて担がれてたんだよ……」

 

 

 

 最強のコーディネイターが、技術士官と隊長の連携によって無力化される光景を想像し、ラクスは口元を綻ばせる。

 

 

 元学生であるキラは殆ど軍事教練を受けていない、どれだけ才能があったとしても軍人であるハイネ相手には勝てなかったはずだ。

 

 

 

「それは、ユウナさんが手を回してくれたのでしょうね。あの事後処理の最中に、キラの生真面目さを予測して、無理に休ませるようにと手配したのでしょう」

 

 

「ユウナさんが……。あはは、やっぱりそうなんだ。車の中でも、ハイネ隊長にはずっと怒られてたよ」

 

 

 

 キラは少し頬を染めて、ハイネに叩き込まれた説教の内容を口にした。

 

 

 

 

「『いいかキラ、好きな女が家で待ってるってのに、黙って残業する奴があるか! 自分の機体より、まずは自分を待ってる相手をメンテナンスしろ!』って。……正直、返す言葉もなかったよ」

 

 

 

「……まぁ。ハイネ隊長らしい、真っ直ぐな言葉ですね」

 

 

 ユウナであればそれって下ネタでは?と指摘していたかもしれないが、どこか天然な所のある二人は気づかない。

 

 

 

 ラクスはキラの隣に腰を下ろし、その少し冷えた手を自分の両手で包み込んだ。ユウナとラメント議長が手配し、ハインラインが実行し、ハイネが腕力で彼をここまで運んできた。すべては、この静かな時間を守るため。

 

 

 

「彼らがそこまでしてくれたのは、それだけキラに休んでほしいからです」

 

 

 

 ラクスの声は、夜の静寂に溶け込むように優しく響く。彼女はキラの指先に自分の指を絡め、体温を分かち合うように力を込めた。 

 

 

 

 

「……そして、私も同じ気持ちですよ。今日はもう、戦うことも、守ることも、誰かの期待に応えることも考えなくていいのです。ただのキラとして、私のそばにいてください」

 

 

 

 ラクスの穏やかで深い慈愛を湛えた瞳に見つめられ、キラの肩からようやく力が抜けた。張り詰め続けていた神経が、彼女の温もりに触れて柔らかく解けていく。オルドリンでの自責も、戦士としての義務感も、今は霧の向こうへと遠ざかっていくようだった。

 

 

 

「……そうだね。甘えすぎかもしれないけど……今は、ラクスの言葉に従うよ」

 

 

 

 憑き物が落ちたような、穏やかな表情。それは最強のパイロットでもオーブ軍の准将でもない、ただ一人の青年としての顔だった。

 

 

 

 キラは絡めた指に力を返し、ラクスの肩にそっと頭を預ける。自分をここまで運んでくれた、騒がしくも温かい仲間たちの「お節介」に感謝しながら、彼は久しぶりに訪れた本当の休息へと、深く身を沈めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プラント、アプリリウス市の一角。華やかな大通りから少し外れた路地裏にある居酒屋は、市民の喧騒を適度に遮りつつも、どこか懐かしい活気に満ちていた。

 

 

 木目調のカウンター席。そこには、戦場の最前線を駆けるシンと、かつて共に戦い、今はプラントで己の道を歩むレイが肩を並べて座っていた。目の前には揚げたての唐揚げや枝豆、そして適度に冷えた飲み物が並んでいる。

 

 

 

「……で、シン。お前はいつまでプラントに滞在できるんだ?」

 

 

 

 グラスを傾け、琥珀色の液体を喉に流し込んだレイが、相変わらずの冷静な声で問いかけた。隣のシンは、サクサクと音を立てて唐揚げを頬張りながら、もぐもぐと口を動かして答える。

 

 

「二、三日ってとこかな。ミレニアムの整備にそれくらいかかるみたいだし、キラさんも今は謹慎っていう名の強制休暇中だからさ」

 

 

 

「そうか。意外と短いが、今の情勢を考えれば妥当なところだろうな」

 

 

 

 レイは僅かに目を細め、手元の串に手を伸ばした。しかし、ふと思い出したように、隣に座る親友の横顔をじっと見つめる。

 

 

 

「……いいのか? 俺なんかと会うより、ルナマリアやトワと一緒にいた方がいいんじゃないか。久しぶりのプラント帰還だろう」

 

 

 その言葉には、レイらしい生真面目さと、家族を持ったシンに対する彼なりの気遣いが込められていた。だが、シンは唐揚げの最後の一片を口に放り込むと、ケロリとした顔で笑い飛ばした。

 

 

 

「何言ってんだよ。むしろルナからは『レイとゆっくり飲んでこい』って送り出されたんだ。『アンタは、プラントに帰った時くらいしかレイとじっくり話せないんだから』ってさ。あいつ、意外とそういうとこ気が利くんだよな」

 

 

「……ルナマリアが。そうか、彼女には感謝しなければな」

 

 

 

 レイの口元が、ほんの僅かに綻んだ。かつての戦友たちがそれぞれに家庭を持ち、互いを思いやる姿を見るのは、彼にとっても決して悪い気分ではない。

 

 

 

「レイの方はどうなんだよ? 最近はテストパイロットとして忙しいって聞いたけど」

 

 

 

 

 シンが興味津々に身を乗り出すと、レイは淡々と近況を語り始めた。

 

 

 

「ああ、主に次世代機のOS調整や、新型火器のデータ収集だな。実戦のような派手さはないが、一分一秒を争う極限状態での挙動を検証するのは、また別の神経を使う。……特に、最近の新型はパイロットへの負荷を無視したような設計が多くてな」

 

 

「へぇー、大変そうだな。でも、レイなら完璧にこなしちゃうんだろ? ハインライン大尉が聞いたら喜びそうな話だ」

 

 

 

「どうだろうな。だが、俺が取ったデータが結果としてお前たちの命を守ることに繋がるなら、やりがいはある」

 

 

 

 レイはそう言って、再びグラスを口に運んだ。戦場を離れても、彼は彼なりのやり方で平和を支えようとしている。シンのように最前線で剣を振るうのではなく、その剣が正しく、鋭く振るわれるための礎として。

 

 

 

 ふと、レイの脳裏に一人の女性の顔が浮かんだ。同期であり、異常なまでの承認欲求と自己顕示欲の塊だったアグネス・ギーベンラート。

 

 

 彼女がコンパスに入隊したという噂はレイの耳にも届いていたが、せっかくの酒の席で、その名を口にして空気を不味くする必要もないだろう。彼はわずかに開けかけた口を閉じ、代わりに別の問いを投げかけた。

 

 

 

「……仕事の方はどうだ、シン。コンパスでの生活は、お前に合っているのか?」

 

 

 

 シンは箸を休め、少し考えるように天井を仰いだ後、屈託のない笑みを浮かべる。

 

 

 

「ああ、やりがいはあるかな?正直、最初はキラさんのやり方に戸惑うこともあったけど……。最近はハイネ隊長やキラさんとも、作戦外でよく話すようになったんだ。それに、セイラン副総裁が色々と気遣ってくれるのが大きいかな。あの人、口は悪いし偉そうだけど、俺たちの現場の状況をよく見てくれてるっていうかさ」

 

 

 シンの口から出た「セイラン副総裁」という名に、レイの指先が微かに止まる。ユウナ・ロマ・セイラン。かつて自分が心酔し、命を捧げようとしたギルバート・デュランダルの掲げた「デスティニープラン」を、完膚なきまでに破壊した男だ。

 

 

 レイにとって、ユウナは複雑な感情を抱かざるを得ない存在だった。デュランダルの剣となろうとした自分たちの前に立ちはだかり、その野望を塗り替えてしまった張本人。もしあの時、ユウナがいなければ、世界は今頃プランの管理下で平穏を得ていたのかもしれない。

 

 

 

 しかし、目の前で美味そうに酒を飲み、唐揚げを頬張る親友の姿が、その思考を打ち消した。かつてのシンは、復讐と怒りに身を焼き、常に何かに怯えるように剣を振るっていた。だが、今の彼はどうだ。

 

 

 

 仲間を信頼し、上官を敬い、愛する家族のために戦うことを誇りに思っている。かつてのプランが提供したであろう「割り当てられた幸せ」ではなく、自分たちの足で泥を啜りながら掴み取った、あまりにも人間らしい平穏がここにある。

 

 

 

「……そうか。お前がそう言える場所なら、きっと良い組織なんだろうな」

 

 

 

 レイは自嘲気味な思いを飲み込むように、静かにグラスを空にした。ユウナへの複雑な思いは、容易に消えるものではない。自分たちが掲げた、すべての人間が役割を与えられ、争いのない完璧に調和された管理社会――「デスティニープラン」を否定し、混沌とした自由を肯定した男。

 

 

 だが、彼が作り出したこの歪で、不完全で、常に火種を抱えた世界が、結果として親友であるシンの瞳に光を戻したのだとしたら。一人の人間として笑える場所を彼に与えたのだとしたら。……それはそれで、認めざるを得ない「悪くない世界」なのだろうと、レイは己の胸中で静かに納得した。

 

 

 

 

 そんなレイの微かな心境の変化を知ってか知らずか、シンは追加で注文した、だし巻き卵を突きながら、思い出したように顔を上げる。

 

 

 

「あ、そうだ。明日さ、昼からルナとトワを連れて、森林公園に行く予定なんだけど……レイも来ないか? せっかくの休みなんだし」

 

 

 

 

 唐突な誘いに、レイは瞬きを数回繰り返す。

 

 

 

 

「……流石に、家族三人の水入らずの中に俺が入るのは、無作法だろう。遠慮しておく」

 

 

 

 

 至極真っ当な理屈で断ろうとするレイ。自分はあくまでも友人であり、シンとルナマリア、そしてその子供が形作る「家庭」という聖域に、血の繋がりのない自分が足を踏み入れるべきではない。

 

 

 

 それがレイなりの、一線を引いた誠実さだった。しかし、シンは心底意外そうな顔をして、箸を持ったまま身を乗り出した。

 

 

 

「えっ、何言ってんだよ。レイも家族みたいなもんだろ、今更。ルナだって、レイが来るなら喜びこそすれ、嫌がるわけないって」

 

 

「シン、それはお前の主観であって……」

 

 

 

「それにさ、トワもレイに懐いてるしな。この前も写真見せたら『レイ、レイ』って指差してたし。もし暇なら、気分転換がてらにどうかなって」

 

 

 

 「家族みたいなもの」――その言葉が、レイの胸に重く、温かく響いた。

 

 

 かつて、自分は作られた命であり、明日を繋ぐ資格などないと思っていた。誰かと「家族」として繋がる未来など、想像することすら禁じていたはずだった。だが、目の前の男は、当たり前のような顔をして、その境界線を軽々と飛び越えてくる。

 

 

 

 トワの幼い笑顔が脳裏をよぎる。自分の指を小さな手で握りしめた、あの柔らかな温もり。

 

 

 レイは視線を落とし、空になったグラスの底を見つめた。もし明日、自分が彼らの隣で笑うことが許されるなら。その光景こそが、本当は自分が見たかった光景なのかもしれない。

 

 

 

「……分かった。お前の言う通り、一人で過ごすよりは、公園のベンチで本を読む方が有意義かもしれん」

 

 

「おっ、来るか! 決まりだな。じゃあ、明日の十時にいつもの場所でな!」

 

 

 

 嬉しそうに笑うシンの表情を見て、レイは小さく、しかし確かな満足感を覚えていた。

 

 

 

「ああ。……明日を楽しみにしている」

 

 

 

 レイはわずかに頬を緩め、頷いた。居酒屋の喧騒の向こう側、明日という日が、かつてないほど穏やかな色を持って彼を待っているのであった。

 

 

 






・キラへの襲撃事件
 どこぞの芋虫野郎が企画、ハインラインや艦長が同調して実行犯のハイネによって簀巻きにされて車に担ぎ込まれることに。なおハイネ達はユウナにも似たような事をかつて企画していたのだが、最近のユウナはテロリストが絡まなければそこそこの安眠やゲームに勤しむ時間も増えて取り敢えずは凍結される事になったそうな。でなければ間違いなく複数回皆に襲われて休まされていました。


・レイ
 現在は機体のテストパイロットをしつつ一人暮らしをしながら、甲斐甲斐しくデュランダルのもとに通う生活を送っている。トワにはルナやシンより先に名前を覚えられており、めちゃくちゃ懐かれており、せめてトワちゃんがランドセルを着てる姿を見るまでは生き残りたいと思ってるそうな。


 次回はオーブでカガリとユウナのお話。パイロットが休暇を取る中、いよいよファウンデーションからの招待が届くようで……

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
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