破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
時計の針を少しだけ巻き戻そう。その時、戦場にてエルドア地区で防衛戦の構えをとるブルーコスモス残党を相手とした戦闘にて、キラたちは破竹の勢いで進撃を続けていた。
アグネスの駆るギャンが、アリを踏み潰すかのように歩兵や施設を蹂躙していく。機体各所の火器が休むことなく火を噴き、逃げ惑う敵兵を無慈悲に焼き払い、要塞化した施設をドッズライフルで破壊していく。
もちろん歩兵を足で潰す事もわすれない。後で整備兵には適当に誤魔化しておけばいいと陶酔しつつアグネスはギャンに踏み潰されていくテロリスト達の悲鳴を最高のBGMとして、虐殺に勤しんでいる。
一方でシンのガイアティターンズは、戦場を縦横無尽に駆け抜ける獣の如き機動を見せていた。機体に備えられた『チドリ』が閃光を描くたび、敵MS隊は装甲を紙のように切り裂かれ、文字通りの血祭りにあげられていく。
シンの操縦はもはや迷いもなく、四肢を激しく躍動させるガイアの牙は、確実かつ残酷に敵の急所を抉り取っていた。
さらに、空を支配するのはイモータルジャスティスと、ライジングフリーダムだ。この二機の連携はもはや芸術の域に達していた。
ハイネが高速機動で敵の注意を引きつけ、その死角からキラの放つドッズライフルが精密に敵を貫く。次々と飛来する敵MAも二機の前では標的でしかなく、吸い込まれるように爆炎へと変わっていく。
「キラ!合わせろ!」
「了解!」
最後の防衛線として立ちはだかった、半壊状態のデストロイすら……かつては戦場を絶望に染めたその巨体も、キラとハイネの同時一閃によってあっさりと撃破されてしまった。その巨大な残骸が火柱を上げた時、ブルーコスモス達は敗北を確信したのだ。
「……援軍はどうした! 到着予定の部隊はまだか!?」
ブルーコスモスの司令部には、絶望に満ちた悲鳴が響き渡っていた。彼らは完全に浮き足立っていた。それもそのはずだ。彼らが劣勢を覆す唯一の希望として、そして保身の切り札として合流を確信していたアドゥカーフとの裏取引によって到来する援軍は予定時刻を過ぎても一向に姿を現さない。
カナードたちと接触し、返り討ちに遭った事実を知る由もない彼らは、「まさか、極秘裏に動いていた部隊がユーラシア軍に捕捉され、撃破されたのではないか」という最悪の予測を立てていた。
だが、それがユーラシア軍の手によるものであろうが、何者かの妨害であろうが、援軍が来ないという現実は変わらない。ブルーコスモスの指揮官たちが、既に詰んでいた盤面を前に震え上がっていた時。正確にはキラ達がユーラシアの国境付近に近づいた瞬間、それまで後方で敗残兵狩りの備えを見せていたファウンデーション軍がいよいよだと動き出したのだ。
「……えっ…?」
ライジングフリーダムのコックピットで、キラはアラートに眉を潜めた。突如として、後方に待機していたはずの二機のルドラが、複数の無人機を引き連れて加速。驚異的な速度でキラの進路を正面から塞ぐように展開したのだ。
「何を……!?」
困惑するキラの通信回線に、ノイズ混じりのやや幼い声が割り込む。ルドラのコックピットで、リデラードが無邪気に、そして残酷にキャハハと笑い声を上げた。
「見ーつけた、偽物の王子様! 闇に堕ちろ! キラ・ヤマト!!」
彼女がキーワードを言うと同時に、強烈な精神干渉波がキラの脳に放たれリンクを形成。キラの意識へと直接叩き込まれる……。
……はずであった。
不可視の精神干渉波が、目に見えない触手のようにキラの意識へと伸びていく。リデラードは標的の精神の深淵を探り当て、逃げられぬよう深々と「錨」を打ち込み、強固な精神リンクを確立させた。
あとは、この「偽物の王子様」が抱える心の闇を抉り、せん妄状態とする毒を流し込むだけでいい。自棄になったキラが錯乱し、戦場を壊し尽くす様を高みの見物する。彼女にとって、それは慣れ親しんだ「遊び」のはずだった。
だというのに、リデラードは激しい違和感と吐き気に襲われていた。
「……っ、気持ち悪い! なんなの、コイツ……!?」
ライジングフリーダムを凝視する彼女の感覚が、激しく拒絶反応を起こす。動きが、読めないのだ。本来、アコードにとって敵の思考を読み取ることは呼吸よりも容易い。だが、この戦場に降り立ってから、何度試しても決定的な一手が掴めない。思考そのものは読み取れているはずなのに、機体の挙動がその予測を裏切り続ける。
右に動くという思考を読み取った直後、全く同じ強さと速さで「左に動く」という動きが同時に脳内に流れ込んでくる。予測が二重、三重にブレ、焦点が定まらない。思考と挙動の因果関係が、ノイズに塗りつぶされたかのように霧散していく。
「なんなのよ、これ……一機のMSに、全く同じことを考える人間が何人も乗ってるみたい……気持ち悪い……!」
コンパスの機体全体から伝わってくる、生理的な嫌悪感を伴う不気味な感覚。まるで鏡合わせの亡霊たちが、一斉に同じ思考を叫びながら別々の方向に機体を操っているかのような、あり得ない矛盾。その不愉快なノイズは、アコードとしての彼女の誇りを逆なでする。
リデラードは苛立ちと共に、その不快感を力ずくでねじ伏せた。小細工など関係ない。すべてを闇で塗りつぶせばいい。彼女はキラとの精神リンクを強引に深め、その意識を絶望の底へと引きずり込んでいく。
そのまま、キラの体を「操り人形」に変え、ユーラシア連邦の国境を侵犯させて無差別に暴れさせる――その破滅的な凶行へと踏み出す直前……。
だが、精神の最深部へと一気にダイブした彼女が触れたのは、甘美な絶望でも、御しやすい心の闇でもなかった。
――リンクが固定された瞬間、彼女の脳内に「それ」が雪崩れ込んできた。
『いたい』
『くるしい』
それは、人間一人が到底受け止めきれる量ではない、純粋で濃密な「苦痛」と「諦観」の濁流だった。アコードとして高められた彼女の感性が、その地獄のような情報の奔流を余すことなく、克明に、自身の体験として受肉させてしまう。
『じぶんがじぶんじゃない。おれをあやつるな。』
『おれがまちがっていた。もうやめてくれ、おれをころしてくれ。かいほうしてくれ』
何万回、何億回と繰り返される懺悔と死と言う名の救済への叫び。暗闇の中で四肢を縛り上げられ、身動き一つ許されぬまま、ただ永遠に神経を全て焼かれ続けるようなおぞましい生き地獄をリデラードは触れてしまったのだ。
コロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロしてコロして
オ レ ヲ コ ロ シ テ ク レ
「……ッ、あ……あああぁぁぁぁぁッ!!!!!?」
リデラードは絶叫した。鼻腔と目尻から細い血が伝い、白目を剥いてのけ反る。彼女が読み取ったのは、キラの思考などではない。そこにあったのは、ただ「死」だけを渇望し、暗闇の中で「コロシテクレ」と泣き叫び続ける、名もなき何かの凄まじい怨念そのものだった。
「ぎゃああああああああああああああああああッ!!!」
通信回線を引き裂くようなリデラードの悲鳴と共に、彼女の駆るブラックナイトスコード・ルドラが、激しく機体を震わせて制御を失う。
「えっ……!?」
精神を汚染される寸前だったキラは、目前で起きた異常事態に言葉を失う。一瞬だけ脳が真っ白になった瞬間、意識を取り戻したかと思えば友軍であるはずのルドラが凄まじい絶叫と共に、空中から力なく落下し始めたからだ。
「おい、リデル!? しっかりしろ! どうしたんだ!!」
異変を察知したグリフィンのルドラが、即座に加速してリデラードの機体を受け止める。だが、支えられたリデラードの機体からは、ただ狂乱したような嗚咽と、ガチガチと歯の根が合わない震えの音だけが漏れ出るのであった。
「それからですね……突然、本来の協定では何もしないはずのユーラシアの機体がこちらに発砲してきて、ファウンデーションの機体も即座にやり返して。そこからはもう、説明した通りです。止めようとしたら、今度はファウンデーションがこちらに牙を剥いてきたかと思えば、ミレニアムから『ファウンデーションは敵だ』という緊急指令が届いて……おまけにユーラシア軍が核兵器まで使いだして。正直、もう何が何やら……」
俺の前で、キラが魂の抜けたような顔で報告を続けていた。無理もない。目の前で友軍機が発狂し、そのままなし崩し的にブルーコスモスを置き去りにした泥沼の三つ巴が始まったんだ。キラからすれば、いよいよブルーコスモスと決着をと考えていただろうに、気づけば世界が燃えていたような感覚だろう。
ここはオーブの秘密ドック。普段はバシレウスの母港となっている場所だ。エルドア地区に核ミサイルが放たれるという最悪の展開の中、どうにか戦域を脱出した面々と、一部のユーラシア軍の生き残りもここに身を寄せている。
報告を聞きながら、俺は沸き上がる苛立ちを抑えきれずにいた。
「……ミケールのクソ野郎は核で吹き飛んだか」
あの野郎、絶対に生け捕りにして国際法廷に引きずり出して、これまでのツケを全部払わせてやろうと思ってたのに。それをアコードのカスどもが、自分たちの不始末を隠すために街ごと焼き払いやがった。
(地上に核ミサイルだと? ふざけやがって……)
あのブルーコスモスでさえ、地上で核を使うことには一定の躊躇を見せる。環境汚染もクソもない、ただのジェノサイドだ。それを「デスティニープラン」なんて高尚な目的を掲げて、人類を正しく導くとか抜かしてる連中が、自分たちの保身とマッチポンプのために平然と自国に核を撃ち込んだ。その事実に、もう怒りを通り越して笑うしかねぇよ。
俺が呆然とモニターを見つめていると、隣にいたキラが、絞り出すような声で問いかけてきた。
「……ユウナさんは、どこまで先読みしていたんですか?」
その瞳には、あまりにも無残に壊された世界への恐怖と、俺への疑念が混じっていた。俺は深く溜息をつき、隠し事をする段階は終わったと判断して、キラを真っ向から見据える。
そりゃそうだろう。あの戦いでムウの部下のムラサメ隊のパイロットも犠牲になって、アークエンジェルまで沈んだんだ。それで情報を隠してましたと聞けばイラついて一発殴りたくもなる。
「アコードの正体については、さっき話したな?」
俺の言葉に、キラは静かに頷いた。シンやハイネ、アグネスといったパイロットたちにも、アコードが精神干渉を行い、思考を読み取る特別なコーディネイターであることは既に伝えてある。
「奴らが俺たちを謀殺しようとしていることまでは分かっていた。だからこそ、情報封鎖せざるを得なかったんだ。奴らの前で何かを企めば、その瞬間に読まれて終わりだからな。……お前に情報を伏せ、ミーアやトダカを向こうに送るような真似をしたのも、すべては奴らの目を逸らすためだ。傲慢な奴らの『読心』という武器を相手に死角を作るためのな」
トダカやミーアを囮のように使った事実に、胸の奥が焼けるように痛む。だが、そうしなければ生き残る道はなかった。
「……だがな、キラ。ザフトのクーデター軍とレクイエムの強奪、そして自分たちの不始末を隠すために自国に核を撃ち込み、口封じのためにアドゥカーフ本社を焼き払う……。このクソみたいな連鎖は、俺の予想の範疇を超えていたよ」
俺は悔しげに拳を固めた。奴らの悪意は、俺が知っていたSEED世界のヴィラン達よりも遥かに濁っていて、底が知れない。
内心、マッチポンプの可能性は想定していたんだ。ユーラシア軍のパイロットをせん妄状態にして暴走させる手口までは視野に入れていた。だからこそ、お前がアコードの精神干渉を受けかけたのを合図に、ミレニアムから全機に緊急コードを叩き込ませた。
同時に、ミレニアムからアークエンジェルを経由して、即座にユーラシア軍へ通信を飛ばしたんだ。『ファウンデーション軍が謀略によって貴殿らのパイロットに薬物を仕込み、暴走させた。我々に侵略の意図はない、真の敵はファウンデーションだ』とな。
オーブがこれまで国際救援でユーラシアに恩を売っていたのも功を奏した。向こうは困惑しながらも、こちらへの攻撃を止めてくれた。そこまでは、俺の書いたシナリオ通りだったんだ。後は真っ先に緊急通信のメールを送ったトダカが帰還し、相手を撃退すれば勝てるはず。そう思っていたのが甘かった。
だが、あいつらはそこまで追い詰められたことで、逆になりふり構わなくなり、よりにもよって核ミサイルをエルドア地区と自国の首都に放ちやがった。しかも、あえてユーラシア軍の機体を「不殺」で無力化し、救助活動を強いることでコンパス側の動きを無理やり制限しやがったんだ。
キラ達は本当によく戦った。だが、撃墜されたユーラシア軍のパイロットたちを見捨てられず、救助に人手を割かれ、十分な力を出せず、さらに逃亡を図るブルーコスモスの追撃をアグネスに任せた結果、戦力が分散しちまった。
その隙をアコードに突かれてしまう。定期的に撃墜された生身のユーラシア軍のパイロットを潰そうとするアコード達を相手に奮戦するも、ギャンとライジングフリーダムは中破。ハイネのイモータルジャスティスは両腕を失う損害を受け、ムウのムラサメ改も大破。更にはアークエンジェルが轟沈し、ヒルダたちのゲルググもパイロットこそ無事だが、機体を放棄せざるを得ない状況まで追い込まれる羽目になった。
「……全部、俺の読みの甘さが招いた結果だ。あいつらの狂気を低く見積もっていた俺のミスだよ」
俺は奥歯を噛み締めた。拳を握る指が食い込み、鈍い痛みが走る。
だが、絶望に浸っている暇はない。そこから先の展開は、地獄のような押し込みを食らいながらも、現場のスペシャリストたちが死に物狂いで繋いでくれたんだ。
ハインラインやコノエ艦長、ラミアス艦長……そしてアスラン。あいつらは、俺の想定が崩れた場所を、その卓越した判断力で埋めてくれた。
特にハインラインだ。あいつはある意味、今回のMVPと言ってもいい。俺から共有していた情報をもとに、ファウンデーションのジャミングを研究中であった、NJダズラーの一種だと即座に断定しやがった。
さらに、あらかじめアメノミハシラのミナに通信を繋ぎ、宇宙に展開している彼女達の独自の通信網を中継させることで、ジャミングの影響を最小限に抑え込んだんだ。そのおかげで、寸断されかけていたユーラシア軍や友軍同士の通信網を素早く回復させ、最悪の各個撃破や同士討ちを免れることができたんだ。
「セイラン副総裁があらかじめ情報を提供してくれたお陰です。そうでなければ後手に回っていたでしょうが、タネを明かせば幾らでも対抗手段はありますから」
ハインラインには感謝しても仕切れない。そういえば、アメノミハシラでは指導者が変わったとかどうとか言っていたが、その辺りもまたミナに落ち着いたら聞いてみるか。
そして、コノエ艦長。あの人は俺と違って、現場の空気から「ファウンデーションが自国に核ミサイルを撃ち込みかねない」という最悪の狂気を肌で感じ取っていたらしい。
艦長の指示で、狙撃仕様に換装したヘルベルトとマーズのゲルググをあえて後方に待機させていたのが功を奏した。二機は見事にファウンデーション本国へ向かう核ミサイルを狙撃し、直撃を回避することに成功したんだ。
その後、ヘルベルトとマーズは孤立した友軍を援護するために無理な突撃を敢行し、時間を稼いでくれた。結果、二人の機体は大破し、放棄せざるを得なくなったが……それでも、彼らの奮闘がなければ守れなかった命が数えきれないほどある。
これらの一連のアコードに対する粘り強い防衛を見せたのは実の所キラでも、ハイネでも、シンでもなく、その中核にいたのはヒルダ、ヘルベルト、マーズの三人だ。
俺は以前、原作の知識であることを伏せつつ、彼らに「新ジェットストリームアタック」のコンセプトを叩き込んでおいたりする。
この世界でのジェットストリームアタックは、ドムトルーパーのスクリーミングニンバスのフィールドを複数機で増幅させる集団突撃フォーメーションが主流だ。だが、俺が教えたのは原点である初代ガンダムのあの『黒い三連星』が編み出したオリジンの戦術だ。
単縦陣で肉薄し、先頭の機体が後続を完全に隠蔽。一機と見せかけて三機がかりで波状攻撃を仕掛けるこの戦術は、火力のインフレしたこの時代、ドッズライフルのような高貫通兵器で三機まとめて串刺しにされるリスクがあった。だが、ヒルダたちはそれを実戦レベルにまで独自改良しやがった。
彼女たちが選んだ改良案は、「残像と位相のズレ」を利用した攪乱だ。先頭が盾になりつつ、二番機と三番機が推力を細かく制御して、先頭機の影からあえてわずかにはみ出す。それも一定の周期ではなく、パイロット同士の阿吽の呼吸で不規則に。アコードの読心をもってしても「どの機体がいつどのタイミングで影から飛び出してくるか」という予測を飽和させる事に成功したんだ。
分かりにくいって?もっと単純に言えば、アコードが読心を繰り返した所で咄嗟に全員がアドリブの選択肢を大量に増やすことでどれが成功なのかを分かりにくくしたって所だろうか?この辺りはハイネやキラでも不可能で常に連携をし続けた彼らだからこそ出来た戦術であって他のパイロットがするのはほぼ不可能だろう。
この辺りは更に念には念を入れてゲルググにも『対策』を施した事も功を奏した結果ではあるが、思考が読めても、三機分の質量が重なり合い、バラバラに牙を剥く圧力には対処しきれない。そんな真似が出来るヒルダ隊の連携力はオーブの教本にしてみたい程には素晴らしいものだが……その結果、彼らは地獄を見た。
腕を失い、足を失い、メインカメラを焼かれ、機体のアラートが鳴り止まない極限状態。それでも三人は、自分たちより遥かに優秀なスペックを持つアコードたちに狼の如く食いつき続けた。
一歩も引かず、ひたすらに時間を稼ぐ。 「全滅させられる前に一秒でも長く敵を足止めする」という一点にのみ命を燃やした。彼らの凄まじい執念と、改良された古の戦術が噛み合ったからこそ、その大任を果たし、多くの仲間を逃がすことに成功したんだ。
……三人のゲルググはもうボロボロで現場に放置せざるを得なかったが、あいつらが繋いだ時間は、何よりも重い手札になった。彼らのお陰でラミアス艦長たちは脱出するための時間を稼ぎつつ、多くのユーラシアのパイロットたちの命を救うことに成功したんだからな。
そして、ラミアス艦長だ。あの人は咄嗟の判断でアークエンジェルをあえて晒し、艦を囮にして時間を稼ぎながら、味方の脱出支援と同時にもう一つの極秘任務を完遂してくれた。これは誰も命令していないラミアス艦長の独断であったが、C.E.屈指の名艦長たる彼女の判断に俺は涙が出るほど喜んだのは内緒だ。
アークエンジェルとヒルダ隊が血反吐を吐きながら時間を稼いでいる最中、なんとラミアス艦長は、ムラサメ隊のパイロットたちに核ミサイルが発射された拠点への「強行偵察」を命じていたんだ。
国境侵犯に加え、MSによる軍事施設への無断侵入。ユーラシアからは後々死ぬほど文句を言われそうだが、当時は国境付近のパイロットたちも、ファウンデーションが放った無数の無人MSやMAを相手に全滅寸前の苦戦を強いられていた。
その結果、どさくさ混じりの火事場泥棒となってしまったが、核ミサイルによって「証拠隠滅」される寸前の、決定的なデータを持ち帰ることに成功したんだ。
そこには、銃殺された核ミサイル射場の関係者たちの無残な姿や、監視カメラが捉えた「あり得ない光景」が記録されている。アコードの連中が関係者を洗脳し、自らの手で引き金を引き、自殺させている場面。そして、彼らに指示を出していたファウンデーション側の工作員の顔を……。
「……イングリット・トラドールか」
俺はモニターに静止画で映し出された女の顔を見て、低く呟いた。
もう一人の男はマスクをしていて顔の判別は難しいが、イングリットの方は隠しようがない。彼女はファウンデーション王国の国務秘書官だ。閉鎖的なあの国において、数少ない「表舞台」に顔を出すアコードの一人。
本来なら、彼女は裏方で糸を引く立場だったはずだ。だが、おそらくカナードが本来出撃するはずだったパイロットを殺しちまったせいで、予備兵力として彼女が急遽現場に出る羽目になったんだろう。
……連中にとっては、これが致命的なミスになったな。
どう言い繕おうが、この映像は一国の国務秘書官がユーラシア連邦の核ミサイル場に無断侵入し、人員を殺戮している映像だ。その直後に核ミサイルが発射されているとなれば、言い逃れなどできるはずがない。
奴らにとって、この監視カメラのデータは核ミサイルの爆炎で跡形もなく消え去るはずのものだった。実際に、あの施設は直後に蒸発している。だが、まさか俺たちのパイロットが死に物狂いで突っ込み、爆発の数分前にデータを物理的に吸い出しているなんて馬鹿なことを新人類の皆様方は微塵も考えなかっただろうよ。
「……死人に口なし、とはいかなかったな。アコードさんよ」
ファウンデーションが掲げる「正義」は、今この瞬間、ただの「虐殺者の言い訳」に成り下がった。これを全世界にバラ撒けば、奴らのデスティニープランなんて夢物語は、ただの悪夢として拒絶されることになる。
後はタイミングだ。
アコードの連中は現在、ユーラシアからの核攻撃を非難する声明を出し続けながら、レクイエムを使って全世界を恫喝している。周囲には、いつの間に揃えたんだと言わんばかりの膨大な無人機軍団に加えて、ザフトのクーデター兵士たちも合流しており、艦艇の規模もかなりのものだ。
連中は勝利を確信し、今はプラントの完全制圧のために動いているらしい。だが、あいつらの天下も長くは続かない。タイムリミットである残り数日のうちに、手に入れた証拠をまとめ、準備を整え、最後に、奴らの喉元に殴り込みをかけつつ、トダカを奪還する。
「……ったく、普通こういう時に攫われるのはお姫様だろ。なんでむさ苦しいおっさんなんだよ」
俺は端末を操作しながら、思わず愚痴が漏れた。ヒロイン救出劇ならまだしも、捕虜になったおっさんを命懸けで助けに行くなんて、こんなゲーム、シナリオライターがクビになるレベルで売れねぇぞ。
だが、救わなきゃいけないんだ。あのおっさんは、俺にとってはどんな偶像のお姫様よりも価値がある。今までずっとトダカに迷惑かけてきたんだ。今後も迷惑をかける為にアイツは無傷で奪還してやんよ。そう、俺は溜息をつき、最後の盤面をひっくり返すための覚悟を決めたのであった。
えっ、アスランが何をしたかって?
あいつ、あの絶望的な乱戦の最中に、どこから持ってきたのか明らかにズゴックだろっていうギャグみたいな機体で戦場に乱入してきやがったんだ。
そこからはもう、やりたい放題だよ。サプライズニンジャよろしく「サプライズアスラン」を敢行して、敵陣を文字通りかき乱しやがった。
奴らが撤退するまでの時間を、咄嗟にシンと二人で稼ぎきって、キラ達と一緒に涼しい顔で脱出してきやがったんだ。シンも愚痴ってたよ、もっと早く来てくれれば一機くらいは持っていけたのにって。
「……いや、なんだよアイツ。本当に人間か?」
「サプライズニンジャ理論」ならぬ「サプライズアスラン理論」 ――どんな窮地でもアスランを投げ込めば解決するっていうデタラメな戦術を目の当たりにして、俺は怒りを忘れて思わず吹き出してしまった。
あいつが味方で、本当によかったよ。
・ジェットストリームアタック
史実とは違いSEED世界のものではなく、初代ガンダムの黒い三連星が行っていたバージョン。ドッズライフルが普及して相手も使用してる以上、下手をする時全員に貫通してまとめて撃破されかねないなか、ヒルダ達三人はダニエルとイングリット相手によく持ち堪えました。とは言えこれは普段から戦いなれてないイングリットが(それでも普通にエース級ですが)急遽リューの代わりに予備機で出撃したから耐えられた事であり、仮に相手がリューであれば誰か一人は確実に死んでいました。
・監視カメラの映像
本来であれば核兵器で消し飛ぶはずがムラサメ改のパイロット達が決死の思いでデータを丸ごと(物理的にMSで)抜き取って持ち帰る事に成功。修復の必要もありましたがちゃんとイングリットの顔まで映っており。リューが死亡してイングリットが出ざる得なくなり、更に本来であれば撃墜されるはずのマーズなヘルベルト達が粘りに粘ったせいなので二人の大ポカというよりは執念の結果と言えるでしょう。まぁこれをネットに流すタイミングを選ばなければアコードも自暴自棄になりかねませんが、少なくともユーラシアは原作と比べて東アジアや大西洋連邦からとやかく言われなくて済むのは確定です。
・コロシテクレ
コンパスのコーディネイター組とムウ、カナードの機体にはBデバイスという装備が搭載されています。ヒントはジョージ・グレン。その辺りはまた後日。
・アスラン
ハイネ、キラ、アグネス、シンをグリフィンとシュラがユーラシアの一般兵士を人質にしながら追い詰めた所サプライズアスランして全てを引っ掻き回していきました。本人はめちゃくちゃ不機嫌だったりしますが、ユウナは笑ってはいけない所なのに吹き出してしまったそうな。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
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原作通り。
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平和の為に覚悟を決める。