破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第四十九話 本物の生体CPU

 

 

 

 

 

 

 

 

 このC.E.という世界には、脳髄を生きたまま保存し、機能させる技術が確立されている。

 

 

 かつて暗殺された人類史上初のコーディネイター、ジョージ・グレン――通称『キャプテンGG』。彼は死後、シンパによって脳髄を摘出・冷凍処理され、数十年を経てなお生き続けていた。後にロウ一行によって蘇生処置を施され、ホログラムという形を取りながらも、彼は今この瞬間も知性として存在していた。

 

 

 そう、この世界における脳の保存処置技術は、前世の常識を遥かに超越しているのだ。そして、その高度な技術が「軍事利用」という名の血生臭い道に転用された記録も、この暗闇のどこかには確実に残されていた。

 

 

 かつて俺がカナードを派遣して調べさせたロドニアの研究所の惨劇。エクステンデッドという「部品」を製造するために、子供たちの脳や肉体を弄くり回し、文字通り使い捨てのパーツとして扱っていたあの忌まわしき実験記録。

 

 

 アウラがアコードを生み出したように、過去の権力者たちもまた、脳を効率的な演算装置として利用する研究を、表舞台から隠れて執拗に繰り返していたのだ。その技術を応用する事でデュランダルは……かつてコロニーメンデルで多くの人権もへったくれもない研究をし続けた男は遂に対アコード対策というカウンタープランを実現した。してしまった。

 

 

「……アコードは、機体越しに漏れ出る『人の波形』を感知する。ならば、パイロットの隣に『もう一つの意志』を配置すればいい。それも、電気信号ではなく、生きた脳が発する本物のノイズとしてね」

 

 

 デュランダルの指先が、ガラス容器の表面を滑る。ロドニアに残された資材なども含めて秘密裏に取り寄せ、たった一人でこの男はやり遂げたんだ。

 

 

 

「パイロットが右を向けば、このデバイスが機械的な精度で『左』という意志を脳波として叩き出す。矛盾し、衝突し、重なり合う二つの強烈な思念。アコードの連中は、君の心を読もうとした瞬間に、このBデバイスが生成する真逆の偽装情報という情報の濁流に飲み込まれることになる」

 

 

 

 ……この琥珀色の液の中に浮いている「脳」は、元はと言えば死刑囚のものだ。

 

 

 

 コンパスとして活動している最中、俺たちは数多くのテロリストを捕虜にしてきた。その中には、弁解の余地もない虐殺行為に手を染めた連中も多く、当然ながら死刑が確定した。本来であれば、国際法廷を経て、テロリストの流出を招いた責任がある大西洋連邦が刑を執行する予定だったのだが……。

 

 

 ここで、俺はデュランダルの提案を受け、ある提案をカガリ達に行なったんだ。

 

 

 

「死刑囚の一部を引き取り、オーブで刑を執行する」

 

 

 

 そう提案した俺に、カガリは当然ながら激しい難色を示した。何故そんな事をする。何故そんな責務まで背負う必要があると。当然だ、カガリの言ってることは全面的に正しいと言える。

 

 

 だが、世界を見渡せば死刑を廃止している国は少なくないが、日本を祖とするオーブには、旧態依然とした死刑制度がまだシステムとして残っている。その是非については語らないが、システムの一つとして死刑が残っていると言うのは結構デカいんだ。

 

 

 旧合衆国を祖とする大西洋連邦なんて州ごとにいまだに法律が変わっていたり、反コーディネイター思想もまだ根強かったりしているせいで死刑がなかなか実行できないからな。

 

 

「手早くテロリストを処理しなければ、維持費が重なり、大量の死刑囚によって刑務所がパンクする。それに、オーブが主導して世界に法の厳正さを示す必要があるんだ」

 

 

 そうもっともらしい理屈で説得を重ねると、彼女も最後には渋々ながら受け入れてくれた。結果として、オーブで多くの死刑が「執行」された。

 

 

 だが、その死刑囚の一部は、絞首台に送られる代わりに、人知れずこの地下へと連行されてきたのだ。彼らは「死」という安らぎさえ与えられず、生きながらにして肉体を奪われ、神経を電極で焼かれ、この『Bデバイス』へと加工される羽目になった。

 

 被検体となったのは主に天涯孤独、もしくは家族が縁を切ると主張した凶悪なテロリストを中心にしている。人を面白半分で惨殺、凌辱するようなテロリスト達。彼等がどうしてコーディネイターを憎むようになったのかなんて知りたくもないし、知る必要もない。

 

 

 必要なのは生体CPUにしてもできる限り心の痛まない生体部品の提供先であり、その過去のストーリーなんて興味がない。そう、例えばエイプリルフールクライシスで家族が殺され、復讐鬼としてコーディネイターを殺し続けた元子煩悩なパパだっていたかも知れないが。そんな情報知ったところで気分が悪くなるだけ。コイツらは部品。ただそれだけだ。

 

 

 

 Bデバイスの理論は極めて単純なもの。パイロットの脳波と同期し、その動きを察知した瞬間に、この脳髄へ強引な神経信号を叩き込む。パイロットが「右」という電気信号を発すれば、デバイス側には「左」という真逆の行動意志を、生物学的な強度で強制的に生成させる。

 

 

 今、俺たちの目の前にある脳髄は、そのための「最適化」という名の調教を受けている最中だった。コーディネイターの祖であるジョージ・グレンは、脳髄だけになっても理性を保ち、感情を表現し、人として生き続けていた。それは、脳という器官が肉体という枷を外れてもなお、確固たる「個」としての思考を維持できる証明でもあった。

 

 

 

 だが、それは目の前の『Bデバイス』にとっては、脳に電極を刺され、常に声も出せずに苦しみ続ける地獄でしかない。死ぬ事も出来ずに思考の自由すら奪われたこの生体CPUは「個」を維持して苦しみ続ける事が存在理由となってしまったのだから。

 

 

 

「……見てごらん。彼は今、必死に逃げようとしている」

 

 

 

 デュランダルが指し示したモニターには、解読不能なノイズのような脳波が激しく波打っていた。かつて男であったはずのこのデバイスは、腕も足も、目も鼻も、すべてを奪われた。真っ暗な培養液の中で、彼に与えられているのは、神経インターフェースから直接脳に流し込まれる、偽造された「意志」の奔流だけだ。

 

 

 

 

 24時間、一秒の睡眠さえ許されない。

 

 

 

 脳が休息を求めようとすれば、即座に大電圧のパルスが側頭葉を焼き、強制的に覚醒状態へと引き戻す。暗闇の中で、存在しない手足が真逆の方向に引き裂かれるような錯覚を植え付けられ、脳髄はその矛盾した苦痛を「演算」として処理し続ける。それでいて対応期間を伸ばす為の休眠は強制執行、好きな時に休むことすら許されないんだ。

 

 

 ドクン、ドクンと、ユニットの中で脳が脈打つ。

 

 

 それは生命の鼓動ではなく、過熱した回路が発する断末魔の震えだ。

 

 

 最適化のプロセスが進むたびに、脳の皺が不自然に引き攣り、蒼白い火花を散らす。かつてのテロリストとしての記憶も、人格も、この圧倒的な情報の本流前では意味をなさない。ただ、アコードの読心を乱すための「生きたノイズ発生源」として、その機能だけが研ぎ澄まされていく。

 

 

「……救い、なんてないな」

 

 

 

 俺の呟きに、デュランダルは静かに目を伏せた。それがこの男だったものへの憐憫なのか、それともこんな外道な行いに手を染めている自分たちは確実に地獄に堕ちると確信したゆえのものなのかは、今の自分にも分からなかった。

 

 

 

 もし戦場でアコードが読心を仕掛け、あるいは精神をリンクさせてせん妄状態に追い込もうとした場合、奴らの意識は強制的に最悪の二択を迫られることになる。

 

 

 

 一つは五〇パーセントの確率でパイロット本人の脳にリンクしようとするが、その瞬間、システムと連動してパイロットの足を締め付ける激痛が走り、ショックで精神干渉を強制解除させること。

 

 

 

 そしてもう一つは、このBデバイスの深淵――すなわち、五感を奪われ、無限の苦しみの中で演算を続けさせられている「生体CPU」の意識と五〇パーセントの確率で直結してしまうことだ。死を許されず発狂し続けている脳とリンクしてしまえば、いかにアコードといえど発狂するのは確実だろう。

 

 前者はカナードを相手にしたパイロットが、後者はキラを相手にしたパイロットがそれぞれ苦しむ羽目になった。特に後者は一応戦闘機動はその後可能だったらしいが明らかに精細を欠いており、大幅な弱体化に成功したらしい。

 

 

 読心と精神干渉の二つを同時に封殺する生体CPU。だが、これのどこに正義がある?やっていることは、かつてステラのようなエクステンデッドを生み出した連中や、ブーステッドマンを作り出せと指示したアズラエルと何ら変わりはない。

 

 

 せめてもの抗いとして、殺したところで何の罪悪感も湧かないような、虐殺に手を染めた極悪なテロリストを素体に選んだが、それでも胃の腑に焼けた鉄を流し込まれたような不快感が消えることはなかった。

 

 

 

 

「……君は、何故B案を選ばなかったんだい?」

 

 

 

 デュランダルが、静かに質問を問いかけてくる。このBデバイスにおける「B」というコードネーム。それは万が一、この忌まわしいユニットの存在が公に晒された際、「ボノボ(Bonobo)」を使用した動物実験の産物であると偽装するための隠れ蓑でもあった。

 

 

 実際には、脳そのものを部品とする「ブレインデバイス(Brain Device)」という意味なのだが。

 

 

 

 提示されていたもう一つの選択肢……B案に用いられるはずだったボノボは、現生人類に最も近い進化を遂げたサルの一種だ。チンパンジーと並んでヒトのDNAと九八パーセント以上が一致すると言われ、高い知性と、複雑な社会性を持ち合わせている。争いを避けるために独特のコミュニケーション能力を発達させた彼らの脳を用いれば、アコードの読心に対しても、生体CPUとして機能した可能性はあった。

 

 

 

 何より、それは「人間」を材料にするよりは、遥かに道徳的負担が少なかったはずなのだ。

 

 

 

 だが、俺はそれを拒絶した。

 

 

 

 言葉を持たず、罪も犯さず、ただ森で生きていた動物を地獄へ引きずり出すよりも、その手を血で汚し、他者の運命を無残に踏みにじった極悪人どもを「部品」として使い潰す方を選んだ。それがたとえ、ブルーコスモスやロゴスの連中と同じ穴の狢に成り下がる道だとしても。

 

 

 

「ボノボを犠牲にすれば、俺の心はもう少し軽かったのかもしれないな。だが……悪意のない、何も悪くないボノボ達を演算ユニットにするくらいなら、俺は一生、人間の皮を被った化け物として呪われる方を選ぶさ。俺は優しいからな。人間同士の争いに無関係な動物はできる限り巻き込みたくないんだよ」

 

 

 

 

 皮肉混じりに俺が吐き捨てるように言うと、デュランダルはふっと口角を上げ、どこか満足げに目を細めた。

 

 

 

「慈悲深いね。あるいは、酷く残酷だ。……だが、そのエゴイズムこそが、今のこの狂った世界には必要なのかもしれない」

 

 

 

 デュランダルはそう言って、再び淡々と端末へ視線を戻した。

 

 

 

「Xデーまでに、このデバイスを一ダースほど用意しよう。幸いにも、冷凍保存されていた『素体』は十分にあり、処置自体はまとめて済ませてある。コンパスのパイロット全員分とまではいかないかもしれないが、主要な戦力には行き渡らせるつもりだ」

 

 

 平然と言ってのけるが、その作業量は常軌を逸している。この対アコード用『Bデバイス』計画は、彼が議長時代から独自に基礎研究を進めていたものだという。設備さえ整っていれば、彼たった一人でこの冒涜的な生態部品を造り上げることができた。だが、俺は思わず問いかけていた。

 

 

 

「……あんた、本当に大丈夫なのか?」

 

 

 

 ほぼ毎日のように、コールドスリープ状態の生きた人間を解体し、脳髄と脊椎を摘出して加工する。一回の手術に数時間を要するその作業を、彼はこの地下施設でたった一人、不眠不休に近い状態で続けているのだ。ミレニアムがファウンデーションへ向かうまでの限られた時間で、これだけの数を揃えるには、精神的にも肉体的にも限界を超えているはずだった。

 

 

 コンパスのMSは、既にコックピット下部にこの『Bデバイス』を搭載できるよう改造を済ませてある。整備士にさえ触れることを許さない、機密のブラックボックス。それらは俺と、計画の全貌を知る数少ない理解者であるエリカさんの二人だけで、深夜に一つずつ機密裏に設置していった。

 

 

 だが、それ以外の……最も血生臭く、最も「心と尊厳」を削る作業は、すべてデュランダルに任せきりだった。

 

 

 

「……気に病むことはないよ、ユウナ君。私には、これくらいの贖罪がちょうどいい。それに、このデバイスが完成するたびに、私の計画が……デスティニープランとは別の形で、世界の歪みを正す一助になるのだと思うと、不思議と疲れは感じないのだよ」

 

 

 

 そう語る彼の横顔は、やはりどこか浮世離れしている。かつてメンデルで生命の根源に触れ、望まぬ運命を書き換え、神官として世界を調律しようとした男。

 

 

 彼は今、自らの手を再び血で染め、死者の怨嗟を動力源とした生体CPUを編み上げている。狂気に身を委ねつつ、元同士達を破滅させるために。

 

 

 

「それに……レイも今、宇宙(そら)で戦っている。彼や、彼らが生き残る確率を、たとえ、一パーセントでも上げられるというのなら私は何だってするつもりだよ。そのための機会を与えてくれた君には、心から感謝している」

 

 

 

 デュランダルは、まるで慈愛に満ちた父親のような眼差しを、そのグロテスクな脳髄へと向けた。不眠不休の作業のせいかよく見ると彼の頬は以前よりも削げ、磁器のような肌は不気味なほどに白く透けている。だが、その瞳に宿る理性の光だけは、かつての議長時代よりも鋭く、冷徹に、そして確かな熱を持って燃えていた。

 

 

 彼はこの暗い地下室で、たった一人で死刑囚の肉体を解体し、神経を繋ぎ、デバイスを構築し続けている。それがかつての部下であり、息子とも呼べる存在であるレイを救うための防波堤になると信じて。

 

 

 

 彼という神官が……いや、『父親』が背負った執念の凄絶さに、俺も言葉を失うしかなかった。

 

 

 

 

 俺は震える手で、琥珀色の液体の中で絶え間なく脈動する脳髄を見つめ続ける。無音の叫びを上げる肉塊が、決戦の日には誰かの命を救うための盾になる。そのあまりに歪な因果応報に、俺はただ奥歯を噛み締めるしかなかった。

 

 





・Bデバイス

 元ネタはフロントミッション ザ・ファーストに登場するサカタ製B型デバイス。概念的には散々伏線として上げてきたマブラヴも似た様な要素もあり、少しだけベターマンも。基本的には何の役にも立たないシステムだが対アコードに関しては絶大な効果を発揮しており、史実と比べてハーケン隊の生存などにもつながった。


 そして、この世界におけるBデバイスの表向きは名前はBonoboDevice……ボノボデバイスである。これに関しては例えバレたとしてもインフォームドコンセント(説明と同意)ガン無視で、臓器ドナーですらない死刑囚が素体であると説明するのではなく、同じ霊長類であるボノボの脳と誤魔化した上で、国家絡みの人権無視犯罪ではなく副総裁の実験動物スキャンダルに矮小化しようとすると目的がありました。

 ここでボノボを選択したのは、デュランダル曰く人間の次にBデバイスの素体として優秀であるが為+多くの人々はボノボの脳味噌なんて見たことがない為、人間の脳みそとボノボの脳味噌の判別はぱっと見難しく、パイロットなどの関係者にバレた時の言い訳が容易いが為という結構悪辣な理由もあったりします。

 かつてA案が死刑囚、B案がボノボという選択肢でユウナは何の罪のない動物をこんな非人道的な生体CPUにするわけにはいけないと前者を選択。ユウナとデュランダルは外道だと自覚している事を行っていますが、だからこそバレた時のことを想定して必要最低限のダメージに抑える為のカードも用意している。

 それがあくまで根底は生き残る事を最優先としているユウナらしさでもあり、本人曰く「小説版のフリット・アスノの様に責任を持って自決なんて考えもしない、常に浅ましく言い訳を考えているカスの逃げ道」だそうな。


・脳研究の普及の恐れ
とはいえユウナとデュランダルは万が一この技術を流出した際の恐れとして対策も講じており、例えばBデバイスはあくまでアコード対策に特化しており、例えばフロントミッションのサカタ製B型デバイスやマブラヴのOOユニットの様に発展出来ない一般使用では無価値な謎の装備としてあえて欲張らずに製造しています。

 仮に例えばムウが機体を放棄したのを他国の軍が回収し、Bデバイスを見た所で余りにも意味不明で脳を痛めつけてるだけの謎の装備としてドン引きすることになるでしょう。技術というものは有用性が認められれば多少の法律や人権を捻じ曲げてでも研究は行われるでしょうが、Bデバイスは本来の用途を知らなければ……何の価値もない、悪趣味な装飾品に過ぎませんから。

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
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