破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
我れ狂か愚か知らず
一路遂に奔騰するのみ
二・二六事件 決起趣意書より抜粋。
「現時点で数百名か……」
俺は忌々しげに舌打ちしながら、手元のタブレットに表示された数字の羅列を睨みつけた。プラント国内で決起した反乱軍が、その短い暴走の果てに残していった「ツケ」の数だ。
本来なら、奴らはアプリリウスの評議会を鮮やかに占拠し、ファウンデーションの演説に合わせる形で国を掌握するつもりだったんだろう。だが、イザークによって計画は初手から瓦解し、追い詰められた連中は逃げ出す際にやけくそ気味に「NJダズラー」とかいう通信妨害兵器をばら撒きやがった。
その目隠しのせいで、直接的な砲火に晒されなかったはずの人々までが、間接的な死へと追いやられたのだ。そりゃそうだろう。こちらの最新鋭MSの通信網すら無力化する通信妨害をプラントでばら撒いてみろ。民生品の機材も含めてあっという間にイカれるに決まってる。
現時点で数百人であれば最悪四桁はいくぞ……それに一度イカれた機材の修復には再発防止も含めて対応策などもする必要もあり、その影響は計り知れない。
皮肉にもエイプリル・フール・クライシスを引き起こしたプラントが生まれて初めてNJによる被害を受け、そしてレクイエムによる本国砲撃が行われなかった事を考えると、最も多く本国の民間人を殺したのは同じプラント所属のコーディネイター達となってしまった。
俺の隣では、ハインラインが真顔のまま、いつも以上に凄まじい速度で口を動かしていた。
「連中のNJダズラーという代物は、技術者としての誇りを微塵も感じさせない、極めて醜悪な装置と言わざるを得ません。中性子妨害下における通信プロトコルの間隙を突くのではなく、全帯域に渡って無差別にノイズを飽和させるその手法は、まるで精密機械をハンマーで叩き壊すような野蛮な振る舞いです。その結果、自動制御されていた交通網の同期が剥離して凄惨な衝突事故が多発し、さらには病院のクリーンルーム内で稼働していた精密医療機器までもが、この無差別な電磁パルスによって誤作動を引き起こしました。人工呼吸器や透析機、術中の生命維持装置……それらを支える微細なクロック信号すらも『不要なノイズ』として塗り潰すその設計思想には、もはや合理性など欠片も存在しません。ファウンデーションの連中、いやアコードという種は、自分たちが管理すべきと嘯く人類の命を、演算を狂わせる単なるノイズ、あるいは計算外の変数程度にしか捉えていないのでしょう。彼らにとって、最適化された未来にそぐわない弱者のバイタルサインなど、使い捨ての電子回路の一つよりも価値がないというわけです。このデータの羅列を見てください、副総裁。救えるはずだった命が、ただの目隠しのために塵のように消えていく……これを正義と呼ぶのなら、私は喜んで彼らを『未開の野蛮人』と定義し直し、その傲慢な回路を根底から電子レンジで焼き切ってやりたい気分ですよ」
一息にまくし立てたハインラインの眼鏡の奥には、最新技術への賞賛など微塵もなかった。あるのは、自分たちが「世界を管理する」と傲慢にのたまうアコードどもへの、技術者としての底知れない嫌悪感と軽蔑だ。
奴らは賢すぎるがゆえに、自分たちの「効率」のために切り捨てた命の重みを感じる機能さえ、その脳から消去してしまったんだろうと。NJダズラーに類似した研究はハインライン達も行っていたが、当然彼らは都市部でのNJダズラーの使用の危険性を理解しており、この様な大惨事は正気の沙汰ではない。
「……全くだ」
俺は画面の中で、今までに見たこともないほど激昂しているラメント議長を見つめていた。普段は温厚で、融和の象徴のようなあの老人が、今はその双眸に怒りの炎を宿し、数日前に起きた惨劇を振り返り、プラント全土、そして全世界に向けてその声を震わせている。
「――今このアプリリウスで起きた惨劇を、私は断じて忘れない。志を共にすべき同胞に牙を剥き、あまつさえ罪なき市民のライフラインを破壊して逃走した者たち……彼らを、私はもはやザフトの将兵とも、プラントの同胞とも認めない! 彼らは祖国を愛する戦士などではない。ただ破壊を撒き散らし、恐怖で人々を支配しようとする、卑劣極まるテロリストである! 自由と平穏を望む全ての市民に対する反逆者として、我々プラント政府は、彼らを一人残らず追い詰め、法の名の下に裁くことをここに宣言する!」
「国賊」でも「反乱軍」でもない。「テロリスト」という、軍人としての名誉を一切剥奪するその断言。ラメント議長の絞り出すような痛みを伴う叫びは、沈黙した街に重く響き渡っていた。
その宣言は同胞意識の高いプラントにとっては異例と言えるものだ、決別とも言えるそれを見守っていたハインラインが、吐き捨てるように再び言葉を紡ぎ出す。
「……当然の帰結です。彼ら反乱軍の行動には、目的を完遂するための知性も、未来を構築するための論理性も微塵も感じられません。ただ旧態依然とした『力による現状打破』という、原始的な闘争本能に突き動かされただけの幼稚な暴走に過ぎない。自分たちが掲げた理想が、皮肉にも自分たちが撒き散らしたNJダズラーによる混乱で、どれほど回復不可能なまでに汚染され、市民の支持という最大の政治的リソースを焼却してしまったのか……その計算すら立たない無能。戦略的合理性を欠いたまま感情に任せてトリガーを引くその姿は、火遊びを覚えた幼児のそれと同等であり、文明社会における『軍事』という高度な政治的解決手段を、単なる『殺戮の言い訳』にまで貶めた大罪は計り知れません。彼らがファウンデーションの操り人形として機能することを選んだ時点で、その思考回路は独立した知性体としての機能を放棄し、ただプログラムされた憎悪を垂れ流すだけの欠陥品へと成り下がったのです。そんな不完全な演算の果てに、何百もの生命を統計上の誤差として処理しようとするその精神性は、まさに知性の退化、文明の汚点。彼らのような非論理的な存在に、プラントの、いや人類の未来を語る資格など一ナノメートルたりとも存在しません。もし彼らが自分たちを革命家だと自惚れているのであれば、その厚顔無恥な認識ごと、最も原始的な物理的排除によって抹消されるのがお似合いなのでしょう。つまりカスは死ねという訳です」
相変わらずの早口だが、その言葉の端々には、単なる理論を超えた剥き出しの憎悪が混じっていた。というか、「カス」なんて言葉、激怒のあまり頭に血が上りすぎて、普段の理屈っぽいこいつなら逆立ちしても言わないような語彙まで飛び出している。
それだけ、技術者として研究者として、この「NJダズラーが引き起こした無差別な惨劇」が許せなかったのだろう。
……だが、そんなハインラインが、もし俺たちの進めている『Bデバイス』の真実を知ればどう思うのだろうか?ふと脳裏をよぎったその疑問を、俺は慌てて心の奥底へ押し込めた。到底、口に出せるはずもない。
エリカさんは、MSへのデバイス搭載を行う為に無理やり計画に引きずり込んだ。あの日、彼女が俺をどんな目で見ていたのかは分からない。『了解です』と一言つぶやいた彼女の目を俺は見られなかったからだ。
だが、ハインラインにはそれができなかった。なんだかんだで気難しくて扱いにくい奴だが、今こうしてそこそこ上手くやれているハインラインに、軽蔑されたくなかった。失望の眼差しを向けられたくなかったというのがそれが最大の理由かもしれない。
人道がどうとか、効率がどうとか、色々と理屈はつけられるけど……結局、本当に最低だな、俺は。内心で自嘲気味に呟きながら、俺は沸騰し続けるハインラインの肩を軽く叩いた。
「ハインライン、それくらいにしておけ。お前の怒りはもっともだが、今は感傷に浸っている時間もない」
「……失礼。少々、熱くなり過ぎました」
「いいさ。既にラクスが全世界に向けて声明を出して、反乱兵士達の暴挙を真っ向から非難しているんだ」
タブレットの別ウィンドウには、毅然とした態度でマイクの前に立つラクスの姿が映し出されていた。プラントで今も慕われているコンパス総裁、平和の歌姫による直々のテロリスト指名。それは、ジャガンナートら反乱軍にとって、どんな武装解除命令よりも致命的な一撃になるはずだ。まるで錦の御旗だな彼女の存在は。
「自分たちを支持してくれると信じていた歌姫に明確に拒絶され、嫌われたんだ。あのアコードに踊らされた反乱軍どもが、果たしてどこまで軍としての規律を保てるかな?」
俺の言葉に、ハインラインもようやく少しだけ呼吸を整え、冷静さを取り戻したようだった。
「……確かに。ファウンデーション側の本来のシナリオでは、ラクス・クライン、あるいは彼女に似せた影武者を早々に手中に収め、彼女自身の口からデスティニープランへの同調を語らせるつもりだったはずです。それが反乱軍にとっての最大の精神的支柱となるはずでしたから」
「ああ。だが、その目論見は完全に阻止された。ラクスは今、自分の意志で奴らを否定している」
俺はハインラインを横目で見やりながら、改めてこいつの頭脳に舌を巻いた。アコードに関する情報は、混乱を避けるためにまだ断片的にしか伝えていない。それなのに、わずかな材料から敵の戦略的急所をこうも正確に射抜くとはな。
ふと、俺の脳裏にある「歴史」の断片がよぎる。前世の記憶の底に眠っていた、極めて皮肉で、そして今回の騒動にあまりにも酷似した事件。
「……まるで、二・二六事件だな」
「二・二六? ……旧世紀の極東におけるクーデター未遂事件ですか。なぜ今、そんな古層の記録を?」
お前そんなマイナーな旧世紀の極東の事件まで知ってんのかよすげぇな……ハインラインが不思議そうに首を傾げる中。俺はタブレットの中に残る旧世紀のデータベースを呼び出し、白茶けたモノクロの写真が並ぶアーカイブをハインラインに見せつけた。
雪の降りしきる中、重い外套に身を包んだ兵士たちが帝都の心臓部を占拠し、銃剣を突き立てて「義挙」を叫ぶ異様な光景。確かにハインラインほどの知識欲があれば当然概要は知っているだろうが、俺はその凄惨な結末の意味を改めて言葉に乗せた。
一九三六年、日本の青年将校たちが起こしたこの反乱も、出発点は今のプラントと酷似している。彼らは貧困にあえぐ農村や政治の腐敗を憂い、自分たちこそが真に国を想い、天皇陛下の意志を体現していると信じ込んでいた。
彼らにとって、自分たちは「正義の軍」であり、その行動は主君への忠義そのものだったはずだ。だが、その精神的支柱であり、唯一の正当性の根拠であった昭和天皇は、重臣たちを殺傷した彼らに慈悲をかけるどころか、烈火の如く激怒なさったのだ。
「どんな理由があろうと、股肱の老臣たちを殺戮するのは、私の首を真綿で締めるのに等しい。陸軍があくまで彼らの行動にも理があると庇うならば、私みずから近衛師団を率いて、暴徒鎮圧の指揮をとる」
自ら兵を率いてでも賊軍を討つという、想定だにしなかった最高権威からの拒絶。これによって、自分たちを官軍だと自負していた反乱部隊は、一夜にしてただの「逆賊」へと突き落とされた。
「……自ら兵を率いてでも賊軍を討つという、想定だにしなかった最高権威からの拒絶。これにより、自分たちを官軍だと自負していた反乱部隊は、一夜にしてただの『逆賊』へと突き落とされる事になりましたとさ」
俺はタブレットの画面をスクロールさせ、白茶けた写真の横に並ぶ、その後の冷徹な処理の記録をハインラインに指し示した。
「精神的支柱を失った彼らに、もはや戦う大義は残されていなかった。それどころか、決起の際に警備の警察官を多数殉職させた事実は、彼らが謳った『国民のための義挙』という言葉を白々しい嘘へと変え、一般市民からの支持も完全に失わせたんだ。……結局、彼らは孤立無援のまま、雪の中で武器を置き、首謀者たちは軍法会議によって、そのほとんどが銃殺刑に処された」
「なるほど、非論理的な感情論で動く組織の、あまりに典型的な末路ですね。最高権威の承認という正当性の認証プロトコルを欠いたまま実行された結果、クーデター側は世論の支持を失い自壊した。……彼らが信じた物語は、彼ら自身の首を絞める絞首刑の縄に過ぎなかったわけと」
「ああ、全くだ。……そして今、プラントでも同じことが起きている」
ハインラインは眼鏡の奥の瞳を細めフッと鼻で笑う。俺は視線をタブレットの別ウィンドウ、ラクスの声明へと戻す。
画面の中のラクスは、凛とした美しさの中に、燃え盛るような怒りを湛えていた。ラミアス艦長達が持ち帰った映像はファウンデーションに残留する国民達への一方的なリンチを招きかねない上に、公開には根回しが必要だ。その辺りは今カガリ達が動いてくれているとはいえ、今回の声明ではそれには触れてはいない。
あくまでザフトの反乱兵士達に告げる歌姫の静かな問いかけが、ノイズの混じる全宇宙の通信回線を震わせる。
「ユーラシア連邦がファウンデーション王国に対し核ミサイルを発射したとされる件について、あまりにも不可解な要素が多すぎます。本来であれば、中立的な調査団を即座に派遣し、事実関係を徹底的に究明すべき事案でした。だというのに……ファウンデーションは調査を拒み、それどころかレクイエムという大量破壊兵器を即座に起動させ、全世界を恫喝した。これは自衛などではなく、明白な侵略行為であり、人類全体に対する冒涜に他なりません」
俺はその演説映像を、ハインラインの隣で聞いていた。ラクスは賢明だ。あえて「決定的な自作自演の証拠」を全面に押し出すのではなく、まずは「手続きの不自然さ」と「レクイエムによる恫喝」という動かしようのない事実を叩きつけている。
これによって、ジャガンナートら反乱軍が縋り付こうとしていた『正義の報復』という大義名分を、外側からじわじわと剥ぎ取っていく。
二・二六事件の時もそうだった。
昭和天皇は、将校たちの「思想」を否定したのではない。彼らが取った「手段」――重臣を殺害し、統帥権を侵したその「行為」そのものを賊軍の所業と断じたのだ。理由がどうあれ、越えてはならない一線を越えた者は、その瞬間にすべての正当性を失う。
「……人間ってのは、喉元を過ぎれば熱を忘れ、同じ場所で足踏みを続ける生き物だな」
俺は小さく独白する。帝都で、雪の中に散った青年将校たち。そして今、プラントを裏切り、ファウンデーションの操り人形として宇宙へ逃げ出したザフトの将兵たち。彼らは自分が「特別な使命」を帯びていると信じ込んでいるが、その実、首謀者の描いた稚拙な台本の上で踊らされているだけに過ぎない。
ラクスが、画面越しに最後通牒を突きつける。
「反乱軍に同調した兵士の皆さん。あなた達が守りたかったのは、このような血塗られた偽りの秩序なのですか? 誇り高きザフトの制服を、テロリストの汚名で汚したままでいいはずがありません。これ以上の犠牲を出す前に、どうか踏みとどまり。直ちに投降なさるのです」
ラクスが画面越しに突きつけた最後通牒は、彼らが縋り付いていた「正義」という名の薄い氷を叩き割ったはずだ。誇り高き制服をテロリストの汚名で塗り潰され、守ろうと……いや、縋ろうとした象徴に拒絶される。それは死よりも過酷な罰だろう。
「『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』……旧世紀の鉄血宰相、オットー・フォン・ビスマルクが遺したとされる有名な言葉があります」
ハインラインは淀みなく、しかしどこか冷徹な響きを帯びた声で続けた。
「この格言はしばしば、『愚かな者は自分が痛い目を見て初めて過ちに気づくが、優秀な人間は事前に知識として学ぶから失敗しない』という、単なる個人の能力差を示す言葉として誤解されがちです。ですが、ビスマルクが真に説いたのは、そんな矮小な比較ではありません。自分自身の限られた経験――つまり、たかだか数十年程度の人生で得られる教訓などには限界がある。だからこそ、先人たちが積み上げ、血を流して記してきた『歴史』という膨大なデータを参照し、他者の失敗を自分の教訓として昇華させることの重要性を説いているのです。自分の失敗から学ぶのは、生物として最低限の機能に過ぎません。真に知的な存在であるならば、自分が経験する前に『その道が破滅へ通じていること』を歴史から読み解かなければならない」
ハインラインは一度言葉を切ると、モニターの向こう側、自分たちを人類の救世主か何かだと信じ込んでいるアコードたちを見据えるように視線を鋭くした。
「コーディネイターは新人類であり、アコードはその頂点に立つ導き手である……彼らはそう自負しているようですが。もし、彼らが自分たちを歴史を超越した存在だと定義しているのなら、それこそが最大の計算違いでしょう。過去の教訓を『旧人類の遺物』として切り捨て、自分たちの都合の良い言葉だけを絶対視する。その傲慢な姿勢こそが、彼らをかつての二・二六事件の首謀者たちと同じ、あるいはそれ以下の、歴史の濁流に呑み込まれるだけの愚者へと貶めている。……果たして、自称・新世界の指導者たちは、数百年前の『ナチュラルの政治家』が遺したこの言葉を聞いて、どう思うのでしょうね。まあ、理解できるほどの論理回路が残っていればの話ですが」
「……War never changes(人は過ちを繰り返す)……」
俺は、前世で耳にしたことのある、核戦争後の荒廃した世界を舞台にした物語の冒頭を口の中で転がした。人類は地球を飛び出し、火星圏や木星圏にまでその足跡を刻んだ。遺伝子を弄り、アコードなんていうオカルトじみた人種まで生み出した。
だが、どれほど科学が進歩し、住む場所が星々へ広がろうとも、結局やっていることは棍棒がビームライフルに変わっただけの殺し合いだ。
「科学の進歩は、人間の本質まではアップデートしてくれなかったらしいな。どれほど高尚な理想を掲げても、結局は自分の都合の良い思想や秩序を他人に押し付けたいだけだ」
俺の独白を隣で聞いていたハインラインが、眼鏡の奥の瞳を僅かに揺らした。
「……失礼ながら副総裁。それは、人類という種に対して、もはや何の期待も抱いていないということでしょうか?」
「期待? ハッ、そんなもの、ジョージ・グレンのような先駆者ならいざ知らず、俺には持て余す代物だよ。俺はあんなに前向きにはなれない。正直、ラクスやカガリが眩しく見えるよ。あいつらは、『それでも』と人の可能性を信じられる強さを持っているからな」
俺は自嘲気味に鼻を鳴らし、窓ガラスに映る自分の顔を睨みつけた。そこには、理想に燃える若者の輝きなど微塵もない。あるのは、前世と今世、二つの人生ですり減り、他人の不幸や歴史を無慈悲に予定に組み込むことに慣れきった、酷く冷めた男の瞳だ。
バナージ・リンクスのような「それでも」と前をむき続ける愚直な一面なんて俺は持ち合わせていない。そんな真っ直ぐさなんてものは俺にはなく、正道を歩み続けるという選択を取る事も出来なかった。
科学がどれほど精緻な翼を授けようと、飛ぶ方向を決める人間の脳は、数千年前の荒野で石を投げ合っていた頃から何も変わっていない。愛ゆえに憎み、守るために奪う。
アコードのように遺伝子レベルで役割を固定したところで、それは家畜の安寧を平和と呼び変えただけの、進化の停止に過ぎない。そもそもデスティニープランを提案したデュランダル自体がプランを否定した時点で終わってるんだ。
俺の視界の端で、ハインラインが押し黙っていた。いつもなら言葉の隙間を埋めるように反論や討論を差し挟む男が、今はただ、重苦しい静寂を共有している。
「だがな、ハインライン。俺は人類に期待はしていないが、絶望して立ち止まるつもりもない」
俺はゆっくりと、自分の両手を見つめた。この手はすでに汚れている。エリカさんを抱き込み、アコードの技術を解析し、Bデバイスという禁忌の演算機を作り上げた。清廉な英雄には到底なれない。だが、泥の中でもがく者には、泥の中の戦い方がある。
「アコードの連中がやろうとしているのは、歴史という名の奔流にダムを築き、時間を停滞させることだ。奴らの作り出す秩序に明日の不確かさは存在しない。だが、そんなものは生きた人間の世界じゃない。ただ親が子供達の明日と可能性を強引に潰した救いではなく停滞だ」
俺は一歩、ハインラインの方へ踏み出した。フリット・アスノに憧れつつも結局は手を汚し続ける選択を取らざる得なかったバカな男。デュランダルのBデバイス計画を止めて別の道を探そうともしなかった、その所業を隠し続ける外道がまた一歩踏み出す。
「たとえ人類が同じ過ちを延々と繰り返す愚者だとしても、その歩みを止める権利は誰にもねぇんだよ。世界は、醜く、残酷で、不条理なまま続いていくべきなんだ。だから俺は、神を気取って時間を止めようとするアコードも、反乱軍も全員潰す。」
俺は再び、ハインラインの瞳を真っ向から射抜いた。俺は生き残りたい。何があっても生き残り、最後はグフで踏み潰される事もないような最期を迎えたい。
同時に俺の為に死んでいったもの達の思いを受け継ぎ、世界を少しでも良くしようと頑張っているキラ達や、家族の為に。娘が見る世界をマシなものにしようとするシン。思いを受け継ぐカナードや、恋人の重責を共に背負おうとするアスランの様な連中が死ななくてもいい世界を作り出す為に。
俺は泥塗れになり続ける。汚泥に塗れ、啜り、足掻き続ける。その為にはまさに目の前の男の様な思考を持つ男が必要だと痛感する。泥に塗れる事が当たり前となり、その事に多幸感を覚えて俺が悲劇に酔い続けない為にも巻き込ませてもらおうか。
「俺は最低のやり方で、最低の男として、このクソッタレな世界の明日を守る。……ハインライン、お前も一緒に汚れて力を貸してくれ」
差し出された俺の手を、ハインラインは静かに、だが迷いのない動きで見つめ返した。彼の眼鏡の奥で、膨大な知識が、あるいは決意が、静かに明滅する。
ハインラインは深く、一度だけ頷くと、短く、ただ一言だけ告げるのであった。
「喜んで」
・二・二六事件
1936年に日本で起きたクーデター未遂事件。その是非については語りませんが、一つだけ言える事はクーデター軍は民間人の死傷者を出した事で国民の支持を失った上、最高権威者である天皇から激怒を(記録に残っている中で昭和天皇が明確に激怒したとされるのはこのやり取りくらいである)を買い、正当性を完全に失って失敗終わった事。劇場版も含めた今回のクーデター事件は実の所かなり似ている部分もあり、劇場版ではラクスからの反対声明が明確に決起軍にトドメを刺したと思われる描写もあり、今作では民衆に犠牲者を出したが為に歴史を繰り返してしまったという事。
ジャガンナート中佐は根回しなどに関しては優秀でしたが、本来であれば成功するであろう政府中枢の出撃に失敗した時点で歯車が狂ってしまった事と。仮に失敗した場合の副案が場当たり的な事になってしまったのが未曾有の大惨事に繋がってしまい、史実と違い賊軍を通り越したテロリストとなってしまう事につながるのでした。
小説版において彼はラクスが声明を出すまでは、プラントにも自分たちに賛同する者は多いはず、情勢はあとからでも挽回できると信じてしまいましたが、バタフライエフェクトにより多くの死者を出した事である意味その挽回の芽を失ったと言えるでしょう。
最早反乱軍はやる事は前に進むのみ。無理にでも勝利を掴み、プラントを制圧する事でしか生き残る道はなく、いやでも先鋭化は進むでしょうし、同時に少なからずモラルハザードは起きるかもしれませんね。
・War never changes(人は過ちを繰り返す).
ゲーム、Falloutシリーズを象徴するキーワード。直訳すれば「戦争。終わることのない戦争」、「技術が進歩しても戦争(という殺し合い)は変わっていない」などの意味合いもあり。ゲームが公式で日本語訳されたFallout3以降はこの翻訳に統一される。クロスボーンガンダムにおいても主人公トビアは。ニュータイプである彼は人類は何万年、何十万年とかけて果たしてサルとどれ程進化できたのか?と疑問に思うシーンもあり、科学技術が進歩したC.E.における人類は果たしてどれ程に進化したのでしょうか?
・フリーダムな方。
今の所堅苦しいお話が続きますがこの作品はガンダムSEED FREEDOM。FREEDOMなパートもそろそろ始まりますのでお待ちくださいませ。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
-
原作通り。
-
平和の為に覚悟を決める。