破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第六十一話 ────

 

 

 

 

 レクイエム。

 

 

 それは、幾多の星々が瞬く、この宇宙において、人類が到達した悪意の極致を体現する忌まわしき、大量殺戮兵器としての一つであり、完成形と言える兵器だろう。

 

 

 紆余曲折を経て、現在はファウンデーション王国および、ザフトクーデター軍がその手中に収め、全世界に対して服従を迫るための切り札として、月面より地球を見下ろしている。

 

 

 

 この兵器が歩んだ道筋は、人々の記憶に刻まれた血塗られた歴史そのものだ。史実においては、ロゴスの盟主ロード・ジブリールがプラントへ放った一射がヤヌアリウス・ワンからフォーに直撃。その崩壊の余波は凄惨を極め、ディセンベル・セブン、エイトまでもを巻き込み、計六基のコロニーが消滅するという未曾有の大惨事を引き起こした。

 

 

 しかし、ジブリールがオーブ脱出に失敗し処刑されたこの世界では、主導権を握ったミケール大佐の手によってその牙は別の標的へと向けられた。放たれた光はザフトの軍事的象徴たる、ゴンドワナ級超大型宇宙空母を真っ向から貫き、その巨体を一瞬にして虚空へと霧散させたのである。

 

 

 どちらにせよその戦果が世界に与えた影響と恐怖は計り知れない。

 

 

 

 この兵器が真に恐ろしいのは、単なる破壊の規模ではない。システムの心臓部である月面ダイダロス基地のコントロール室において、リモコンひとつ、ボタンを一つ押しさえすれば、地球上の主要都市から宇宙空間の要衝に至るまで、あらゆる場所が瞬時に射程圏内へと変貌する点にある。

 

 

 

 発射が確定すれば、ダイダロス基地の巨大な加速器で生成された莫大なエネルギーは、臨界点に達すると同時に極太の熱線となって虚空へ放たれる。その直進する光の矛を、軌道上の複数の廃棄コロニーが「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」の偏向磁場で捕らえ、リレーのように中継しながら自在に屈曲させる。

 

 

 遮蔽物の裏であろうと、地球の自転の陰であろうと、狙った獲物をピンポイントで蒸発させるその様は、まさに不可視の死神が全世界に銃口を突きつけているに等しい。

 

 

 

 また、戦略的価値を月面のダイダロス基地という一点に集中させていることも、運用側にとっては絶大な優位性をもたらしている。基地周辺を最新鋭の防衛網と陽電子リフレクターで固めることで、小規模な潜入工作や正面からの艦隊攻撃を容易に跳ね除けることが可能であるのだ。

 

 

 

 攻める側には、文字通り天文学的な被害を強いる鉄壁の要塞。ここにモビルスーツを大量に集中配備すれば、その陥落は本来ならば不可能と言えた。

 

 

 

 過去、この死の天秤が傾いた例は稀であった。地球連合が保有していた折には、ミネルバ隊というトップエース集団が捨て身の突撃を敢行するという、奇跡に近い博打によってようやく陥落に至った。

 

 

 また、ザフトが保有した際においては、反デスティニープラン連合が月を囲むように円陣を組み、あえて乱戦に持ち込むことでレクイエムの射線を封じるという策を講じ、その混乱の隙を突き、ドッズライフルを装備して火力を底上げしたオーブ軍の将兵たちが、疲弊したザフト軍の防衛線を食い破ることでようやく破壊に成功したのである。

 

 

 しかし、現在ファウンデーション王国が手中に収めているレクイエムは、それら過去の事例すら通用しないほどに凶悪な改良が施されていた。

 

 

 

 最大の変化は、ビーム偏向用の中継ステーションにある。かつての巨大で鈍重な廃棄コロニーは廃され、洗練された「巨大なリング」へと姿を変えた事だろう。このリング自体に自航能力はないものの、専用の艦艇が牽引することで、戦況に合わせた迅速な再配置を可能にしている。

 

 

 

 廃棄コロニーに比べて遥かに小型化されたのみならず、驚くべきことにリングおよび牽引艦には「ミラージュ・コロイドステルス」が搭載されたのである。

 

 

 これにより、中継地点の位置を特定することは発射直前のエネルギー充填までほぼ不可能であり、敵に迎撃の準備を整える隙すら与えない。

 

 

 その秘匿性と取り回しの良さは、レクイエムを「固定された砲台」から「どこからでも撃てる見えない狙撃手」へと変貌させたと言えるだろう。 

 

 

 

 無敵のシステムと、それらを死守する精鋭のコーディネイター兵士達。ファウンデーションという国家が手に入れた「殺戮のための牙」は、歴史上のいかなる瞬間よりも鋭く、そして残酷に磨き上げられていた。

 

 

 

 

 彼らが擁する軍の規模は、デスティニープランによって各々の適性を引き出された精鋭によって構成されている。

 

 

 

 

 さらに、指導者たるアコードたちの特殊な能力――精神への直接的な干渉と催眠――により、末端の兵士に至るまでその忠誠心と戦闘能力は人為的に底上げされ、恐怖を知らぬ完璧な歯車へと変貌を遂げていた。

 

 

 

 

 もっとも、その軍事力は数において圧倒的というわけではない。ザフト反乱軍を含めても、かき集めた艦艇は現時点では五十隻ほど。地球連合やプラントが維持する総兵力と比較すれば、全世界を物理的に占領するにはあまりに心許ない数字である。

 

 

 しかし、彼らは決して耄碌した妄執に駆られ、勝ち目のない叫びを上げる狂人ではなかった。彼らの戦略は、全土を制圧することではなく、拠点を守り抜くことに特化している。

 

 

 防御すべき対象を「月面ダイダロス基地」と「宇宙要塞アルテミス」の二点に限定し、そこに五十隻の精鋭艦隊とアコード機を集中配備すれば、その防御密度は他国の追随を許さぬほどに膨れ上がる。

 

 

 

 そして、その鉄壁の防陣の背後には、改良されたレクイエムが鎮座している。

 

 

 

 『レクイエムを保持し。それを守り抜く者こそが、戦争の優劣を決定づける』

 

 

 

 

 この新たな鎮魂歌は、かつてのような一射ごとの長い冷却時間を必要としない。エネルギー充填プロセスと偏向リングの制御を最適化したことで、驚異的な短期間での連射が可能となっているのだ。

 

 

 数に勝る敵がいかに押し寄せようとも、この究極のクソデカホーミング狙撃砲が連射される限り、接近することすら叶わず宇宙の塵へと変えられるであろう。

 

 

 

 

「照準、戦艦ミレニアム!」

 

 

 

「目標点入力、 最終セーフティ解除。全ジェネレータ、臨界へ」

 

 

「ファーストムーブメント、準備よし。レクイエム・システム発射準備完了」

 

 

「シアー開放。カウントダウン開始。発射までGマイナス35。」

 

 

 

「思い知るがいい、ユウナ・ロマ・セイラン! お前のその汚らわしい口も、下賎な犬以下の挑発も、すべてはこの一射で無へと還してやろう!!」

 

 

 

 

 

 怒りを込めたオルフェの絶叫と共に、宇宙要塞アルテミスの司令室には、レクイエムの最終充填を知らせる不吉な駆動音が重低音となって響き渡った。

 

 

 

 勝利を確信した彼の瞳には、増長する道化への殺意と、世界を自らの色に塗り替える支配者としての陶酔が、どろりとした情熱となって渦巻いている。発射までのカウントダウンがゼロへと向かっていく。

 

 

 

 月面から放たれる審判の光が道化をこの世から消し去り、安寧を再び与えんとする……その瞬間であった。

 

 

 

 

 

「……閣下、緊急事態です! 第一発射口直近に複数の機影! これは……モビルスーツ反応です!!」

 

 

 

「何だと!? 防衛艦隊は何をやっている! 今すぐカメラを回せ、正体を暴き出せ!!」

 

 

 

 

 オルフェの怒号を、沈黙が追い越していく。メインモニターに映し出されたのは、充填された莫大なエネルギーによって陽炎のように揺らめく、レクイエムの巨大な砲口付近を悠然と漂う軍勢であった。

 

 

 

 

 そこには、漆黒の宇宙にあってもなお太陽のごとき輝きを放つ、オーブの至宝「アカツキ」が四機、十字の陣形を組んで立ちはだかっていた。

 

 

 

 その鏡面装甲「ヤタノカガミ」は、今まさに放たれんとする死の光を正面から受け止め、鏡合わせの絶望を撃ち返さんとする不敵なまでの光輝を放っている。

 

 

 

 そのうち三機は、背部に三基の巨大な大型ブースターを増設しており、その凄まじい推力をもって、ある「異形」を伴った量産機小隊を先導していたのである。

 

 

 

 だが、真にオルフェの喉を凍りつかせたのは、その黄金の盾に守られるように展開していた八機の量産機――「ウィンダム」たちの異様な姿であった。

 

 

 

 

 それらはいずれも、全長を上回るほどの巨大な二門のコンテナ式ランチャーを肩に担ぎ、その重圧に耐えるかのようにスラスターを細かく噴射させていた。

 

 

 

 その背負い物は、前大戦にて大西洋連邦が発令した「フォックストロット・ノベンバー」において、プラント全基を焼き払うために投入された禁忌の牙――カメラが捉えた弾体の表面には、核兵器の使用を警告するハザードマークが、無機質な宇宙空間で不吉なほど鮮明に浮かび上がり……。

 

 

 

 

 

「マルチランチャーパック……だと!?」

 

 

 

 シュラが驚愕を隠しきれない様子で、引き攣った声を上げながらモニターを凝視する。

 

 

 

 それは本来、中立と平和を国是とするオーブ連合首長国が、決して保有してはならないはずの禁忌の牙であった。

 

 

 

 核兵器の運用に不可欠なNJC。それを搭載した核弾頭を、あろうことか国家の象徴たる黄金のMS「アカツキ」に護衛させ、レクイエムの喉元にまで送り込んできたのだ。

 

 

 

 この光景は、アコードたちの高い知能が導き出した予測を、最悪な意味で「斜め下」から突き破るものであった。地球連合の残存艦隊が、なりふり構わず核攻撃を仕掛けてくる可能性は、アコードたちも当然想定の内であった。

 

 

 

 だが、それはあくまで広大な宇宙空間において、飛来するミサイル群を一掃するための防衛策に過ぎない。レクイエムの発射口という、システムの神経が剥き出しになった極至近距離で、それも数機単位のMSが物理的に「火種」を保持しているという状況は、もはや防衛網の範疇を超えていた。

 

 

 例え彼らがニュートロン・スタンピーダーを用意していたとしても、稼働したとしても間に合わない。何より彼らを震撼させたのは、これまで曲がりなりにもクリーンな国家として、国際的な融和姿勢を貫いてきたはずのオーブが、この土壇場で「核」という汚れたカードを切ってきたという事実である。

 

 

 

 

 平和の守護者を自称していたはずの者たちが、自国の象徴を死神の護衛へと変え、躊躇なく核兵器を使用する。そのなりふり構わぬ、ユウナの勝利の為の執念は、デスティニープランによる管理社会を夢想していたアコードたちの矜持の既成概念を内側から食い破ってしまったのだ。

 

 

 

 

「ユウナ・ロマ・セイラン……貴様、正気か……!」

 

 

 

 オルフェは震える声で呻くことしかできなかった。理性的で高潔な平和主義者という「弱点」を突いていたつもりが、その裏に潜んでいた「愛する者を守るためなら悪魔にでもなる」というオーブの真の狂気を前に、彼は一瞬の思考停止に陥った。

 

 

 

 オーブに死の刃を向けた者を決して許すな。

 

 

 

 レクイエムという戦略兵器を持ち出した以上、ユウナは、カガリは、オーブは躊躇わない。そしてその僅か数秒の、エリートゆえの困惑こそが、彼らにとって致命的な命取りとなるのであった。

 

 

 

 

 

 一方、月軌道上に浮かぶ黄金の輝き――ミラージュコロイドを搭載したコンテナから抜け出したアカツキのコックピットでは、ムウが手慣れた手際で最終調整を進めていた。

 

 

 

 彼の背には、拠点攻撃用の超巨大なリニアキャノン「ゼウスシルエット」が異様な威容を誇り、その砲身は正確にターゲットであるビーム偏向用の中継リングを捉えていた。ムウは滴る汗を拭うこともせず、コンソール上の数値を音速の打鍵で入力し、システムの同期を完了させていく。

 

 

 

「……垂直軸線、誤差修正! 射出電圧、臨界点突破……よし、回路安定。ターゲット、ロックオン!」

 

 

 

 ムウの鋭い視線が、モニターの端で展開する味方機を捉える。アカツキを操るのはヒルダ、マーズ、ヘルベルト。数日前、アコードという異能の騎士を相手に、己の技量と経験だけで死線を潜り抜けたコンパスの燻銀たちが、今はその黄金の翼を広げて死神の盾となっていた。

 

 

 

 そして、その背後で核という禁忌の重圧を背負うウィンダムのパイロットたちは、オーブの軍人ですらない。彼らは、コンパスによってエルドア自治区より、絶望の淵から救い出されたユーラシア連邦の将兵たちであった。

 

 

 

 彼らは知っていた。この作戦が、理屈を超えた狂気の上に成り立っていることを。万が一、レクイエムが放たれれば、あるいは核が誘爆すれば、脱出の暇もなく宇宙の塵と化す。

 

 

 

 それでも彼らは、かつて自分たちの命を繋いでくれた者たちへの恩義と、エルドア地区で多くの命を奪った上に、まだ多くの命を焼き払わんとする独裁者達への憤怒を胸に、自らの意思でここを「死に場所」にせんと志願したのだ。

 

 

 

「射出10秒前! ハーケン隊は絶対に、一機たりとも欠けずにそこを死守してろ! 全員生きて帰るぞ!!」

 

 

 

 

 ムウの叫びに対し、通信回線から返ってきたのは、決死隊としての悲壮感ではなく、どこか晴れやかな、覚悟を決めたパイロットたちの力強い「了解!」の一喝であった。

 

 

 

 直後、三機の護衛アカツキが大型ブースターを咆哮させ、眩いばかりの噴火を引きながらレクイエムの発射口へと肉薄するウィンダムの背後に陣取って見せる。そして、ウィンダムたちは、まるで自らの命を弾丸に変えるかのように、巨大なマルチランチャーの銃口を深淵のような砲身へと突き立てた。

 

 

 

「……不可能を可能にする男の、とっておきだ! いけぇぇぇ!!」

 

 

 

 ムウがトリガーを限界まで引き絞った瞬間、ゼウスシルエットの超巨大な砲身が跳ね上がった。放たれたのは、雷光を纏った一筋の鉄槌。

 

 

 

 

 それは進路上に立ち塞がったファウンデーションの護衛艦を紙細工のように貫通し、その直線上にあるビーム偏向用中継リングの心臓部を、一撃で粉砕した。

 

 

 

 

 だが、中継点を失った程度では、すでに臨界を超えたレクイエムの暴走は止まらない。行き場を失った天文学的な熱量が、破壊されたリングの残骸を飲み込み、逆流するプロミネンスとなってムウのアカツキへと襲いかかる。

 

 

 

 

 

 ムウは一瞬の判断で使い果たしたゼウスシルエットをパージすると、即座にシールドを構え、機体を防御姿勢へと移行させた。直後、視界のすべてが閃光に染まり、殺戮の奔流が黄金の機体を飲み込んでいく。

 

 

 

「……あっ悪い、マリュー…俺死んだかも」

 

 

 

 

 冗談めかした呟きが、激しい振動と衝撃波にかき消される。コックピット内では警報音が狂ったように鳴り響き、メインモニターには「SYSTEM ERROR」の文字が雨のように溢れ出る。

 

 

 機体コンディションを示すインジケーターは、一瞬にして全項目が危険を示す真っ赤な「レッド」へと染まり、機体が悲鳴を上げているのが伝わってくる。

 

 

 

 しかし、ヤタノカガミというオーブの叡智は、その絶望的な殺戮の奔流をすべて弾き返していた。

 

 

 

 

 ムウは激しいGと衝撃に耐えながら、血走った瞳でモニターから目を離さなかった。アカツキが弾き飛ばしたビームの破片は、制御を失った散弾となって宇宙を駆け、展開していたファウンデーションの艦艇を次々と貫いていく。

 

 

 装甲を焼かれ、爆発四散し、轟沈していく敵艦の群れ。その地獄絵図のような閃光の中で、黄金の機体はなおも輝きを失わずにいる。

 

 

 

 

 ヤタノカガミによって分散したビームの奔流は、戦場においては敵味方を区別せぬ不条理な暴力と化し、待機していた味方のウィンダム隊にも容赦なく降り注ぐ。だが、そこに割って入ったのは、ヒルダ、マーズ、ヘルベルトが操る三機のアカツキであった。

 

 

 

 彼らは黄金の機体を盾とし、ウィンダムを守護する壁となる。核という禁忌の重圧を背負ったウィンダムは、今や無防備な発射体制にあり、一発の掠り傷が友軍を巻き込む大爆発を招きかねない。

 

 

 

 

 そんな綱渡りのような絶望の中で、かつては対立し、憎み合っていたはずのコーディネイターであるヒルダたちが、ナチュラルであるユーラシアのパイロットたちを命懸けで守り抜いている。

 

 

「……全く、あの副総裁様も、最後にとんでもねぇ面白いことを言ってくれたよな」

 

 

 

 

 核ミサイルのロックオンを完了させようとするウィンダムのパイロットの一人が、通信越しに苦笑混じりの声を漏らした。それを受け、僚機も静かに、だが確かな闘志を宿して頷く。

 

 

 

「ああ、全くだ。……だが、嫌いじゃないぜ。あの物言いはな」

 

 

 

 彼らの脳裏には、出撃前、コンパス副総裁ユウナ・ロマ・セイランが放った言葉が焼き付いていた。自国民がレクイエムの犠牲となり、祖国を焼かれたユーラシア連邦の将兵たちに対し、彼は逃げも隠れもしない傲岸不遜な態度で、しかし、誰よりも真摯にこう語りかけたのだ。

 

 

 

「ユーラシア軍の諸君。君たちにとっては、核攻撃に関して凄まじい抵抗があるだろう。だが! 兵器は使いようだ! たとえそれがかつての虐殺兵器であったとしても、人の英知が作ったものなら、お前たちのその手で祖国を、人を救ってみせろ!!」

 

 

 

 ユーラシアからあえて核を取り寄せ、レクイエム破壊のための「汚れ仕事」を彼らに託したユウナ。彼はファウンデーションにより、仲間の命を奪われ、レクイエムによって砲撃を受けるという屈辱を得たユーラシアの男たちに、単なる命令ではなく、正当なる報復と救国という「名誉」の機会を用意したのである。

 

 

 

 憎しみの連鎖をここで終わらせる為に。一回は一回だと国際社会に示す為に。かつてブルーコスモスが掲げた核は、ただの虐殺と排斥の道具であった。兵器に綺麗も汚いもなく、すべてが等しく人の命を奪う忌むべき存在であることは、歴史が証明している。

 

 

 

 だが、レクイエムという理不尽なまでの大量殺戮兵器を相手が躊躇なく使った以上、もはや綺麗事では平和を語れない。

 

 

 

 

「核は持っていて嬉しいコレクションではない。核抑止のための、最後の一手なんだ」

 

 

 

 最後にユウナは兵士たちの前でそう説いた。核を「殺戮の象徴」から、これ以上の悲劇を止めるための「抑止力」として、この戦場において再定義してみせたのだ。

 

 

 

 鎮魂歌(レクイエム)などという、自分たちを神にでもなぞらえたような傲慢な名を冠した鉄の牙を、かつて世界を終わらせかけ、そして今は命を救うために再構築された核の炎で悲劇の歌を終わらせる為に。

 

 

 

 

 

 各機のコックピットでは、核弾頭の安全装置が解除され、射出シークエンスが最終段階へと移行していた。つい数日前までは国境付近で小競り合いに明け暮れ、今日を生き延びることだけに腐心していた名もなき兵士たちが、今、全人類の未来という巨大な天秤の片皿を担っている。

 

 

 

 時のよすがに導かれたとしか言いようのない、あまりに皮肉で、あまりに重すぎる運命の奔流。コンソールを叩く彼らの指先は、冷たい汗を滲ませ、極限の緊張によって微かに、だが止まることなく震え続けていた。

 

 

 

 標的たるレクイエムの発射口は、一射を放った直後、再充填の合間に強固な陽電子リフレクターによって即座に閉ざされる。

 

 

 あらゆるビームも、並大抵の実弾も、その鉄壁の拒絶を前にすれば無力に等しい。彼らに許されたのは、光を吐き出し、盾が張られるまでの数秒という、針の穴を通すような一瞬の空白に核を叩き込むことだけであった。

 

 

 

「……なあ、こんな時、どんな言葉を吐けばいいと思う?」

 

 

 

 不意に、パイロットの一人が通信回線に問いかけた。死を覚悟した者特有の、どこか浮世離れした穏やかな声。それを受け、別の僚機が自嘲気味な笑い声を漏らしながら、ある提案を口にする。

 

 

 

「決まってんだろ、やっぱアレだよ。かつての狂信者どもが、お題目のように唱えていたあのセリフだ」

 

 

 

「ははっ、全くだ。……いいぜ、最後くらい、あいつらのセリフを正しい意味で使ってやろうじゃないか」

 

 

 

 下卑た笑い声がノイズ混じりの通信にこだまして、彼らの心から恐怖が消えた。

 

 

 

 レクイエムの砲身の奥から、行き場を失った余波の光が吹き出し、陽電子リフレクターが展開されようとする、その決定的な瞬間。彼らは、魂の底からの咆哮と共にトリガーを引ききった。

 

 

 

 

「「「そぉらいけッ!! 『青き清浄なる世界のために』!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはかつて、コーディネイターへの憎悪を煽り、遺伝子を弄った「化け物」を根絶やしにするためにブルーコスモスが掲げた、虚飾と血に塗れた忌まわしい言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 第六十一話 青き清浄なる世界のために

 

 

 

 

 

 だが、今、八機のウィンダムから放たれた核弾頭の輝きに、排斥の意志など微塵もない。彼らが守りたかったのは、ただ一つ。あの美しく輝く青き地球と、自分たちを育んだ祖国、そして本国で帰りを待っている家族たちの、慎ましくも尊い命の灯火である。

 

 

 

 

 

 呪いの言葉は、救済の祈りへと反転し、漆黒の宇宙を焼き尽くす一筋の光となる。累計十六発の核弾頭は、守護するアカツキたちの黄金の残光を追い越し、逃げ場のないレクイエムの深淵へと真っ向から吸い込まれていった。

 

 

 

 その直後、役目を終えたマルチランチャーパックを一斉に解除したウィンダムたちは、もはや一刻の猶予もないことを悟り、即座に身を翻す。

 

 

 

 三機のアカツキが展開する大型ブースターのグリップ、そしてムウがパージしたゼウスシルエットに備えられた予備グリップへと、まるで生きるための最後の希望に縋り付くかのように必死に手を伸ばす。

 

 

 

 

「全機、最大出力! 衝撃に備えろ!!」

 

 

 

 ムウの鋭い号令が響くが、通信回線にはそれに応える言葉はなかった。ただ、極限の加速に晒されるパイロットたちの荒い息遣いだけが、ノイズ混じりの空間に満ちていた。混乱から立ち直りつつあるファウンデーション軍の艦隊に捕まれば、今の彼らに抗う術はない。

 

 

 アカツキたちはスラスターを限界まで咆哮させ、意識が遠のくほどの猛烈な加速――漆黒の宇宙が歪んで見えるほどの凄まじいGをパイロットたちに強いて、指定された離脱ポイントへと文字通り一筋の光となって突き進んだ。

 

 

 離脱する彼らの背後で、まず最初の閃光が宇宙を白く染めた。それは、陽電子リフレクターの表面で炸裂した数発の核によるものだ。超高温の火球がレクイエムの装甲表面を無慈悲に焼き払うが、それはあくまで強固な外壁を削り取ったに過ぎない。

 

 

 アルテミスの司令室でオルフェたちが、その爆炎を見て「防ぎきった」と絶望の淵で安堵の吐息を漏らそうとした、まさにその刹那のことだった。

 

 

 

「……本命は、中だ」

 

 

 

 加速の衝撃で意識が暗転しかける極限状態の中、ムウは確信を持ってそう呟く。間髪入れずに起きた二度目の爆発。

 

 

 

 それは、陽電子リフレクターが展開される「内側」――レクイエムの心臓部、加速器の奥深くへと続く地下空洞へ到達した核弾頭たちが、一斉にその封印を解いた咆哮であった。

 

 

 

 発射口内部で荒れ狂う核の炎は、皮肉にも直後に展開された陽電子リフレクターによって完全に「蓋」をされる形となり、逃げ場を失った破壊の奔流は、レクイエムの巨大な砲身内部を粉砕しながら逆流し、ダイダロス基地の深部へと連鎖的に突き進んでいく。

 

 

 

 

 月面の地殻そのものが内側から膨れ上がり、黄金の輝きを失ったレクイエムは、死の光に焼かれ、断末魔のような閃光を放って四散した。

 

 

 

「「「うぉぉぉぉぉぉッ!!」」」

 

 

 

 

 メインモニターを埋め尽くすほどの、太陽をも凌駕する破壊の爆炎。それを見届けたパイロットたちは、機体がバラバラになりそうな凄まじい振動に耐えながら、勝利と未来への咆哮を上げた。

 

 

 

 空を焼かれた怒りも、死への恐怖も、すべてをその叫びに込めて宇宙へと解き放つ。

 

 

 

 無敵を誇った支配の牙が完全に破壊されたのを確認すると、ムウは機体のコンディションをチェックし、ようやく深く、長く、肺の中の空気をすべて吐き出すような安堵の溜息をついた。

 

 

 

「……ふぅ。……もう二度と、こんなことはやりたくないね。……死ぬかと思ったぜ、全く」

 

 

 

 汗にまみれた顔で、彼は力なく、しかし満足げに笑った。鏡面装甲に刻まれた無数の傷跡と、機能を停止しつつある警告灯の赤。

 

 

 それらは、不可能を可能にする男たちが、神気取りの新人類達から世界の明日をもぎ取った揺るぎない証であったのだ。

 

 






 今回は少し解説が多め、飛ばして頂いても構いません。


・核弾頭
 五日の猶予期間においてユーラシア連邦が保有する残存の核弾頭と専用のマルチーランチャーパックのウィンダムを用意。これこそが、ある意味では今回の作戦の切り札であり、ムウの中継リングの破壊もBプランであったり。

 ファウンデーション側もまさかのミラージュコロイドコンテナを利用した核攻撃という余りにも「クリーン」なオーブが使用しない、使用するはずのない作戦に対応が遅れてしまいました。

 ある意味ではエクリプス本編で示された可能性の一つ、ファントムペインすら行わなかった一線を何度も踏み越えまくったユニウス条約(連合とプラント間に締結された条約とはいえ)や世論に中指を立てた禁断の策と言えるでしょう。

 勿論カガリ達も含めた関係者はドン引きしたとはいえ、ユウナは既にレクイエムによるアドゥカーフ本社の事前通告なしの焼き払いや、ユーラシアの核によるマッチポンプなど。ファウンデーション及びザフト反乱軍は既に全世界の、全人類の敵であると断定した上で。核兵器を今使わなければどうする?抑止力という言葉が薄っぺらになってしまったこのC.E.世界にて正しい意味での抑止力を復活させる為に。国土を焼き払われたユーラシアと手を組み、今回の作戦につながるのでした。


 オーブではなくユーラシア軍が核兵器を使用したのはあくまで憎悪やヘイトによる核の使用を推奨するのではなく、核兵器による本来の相互確証破壊の懐古を目指し、そしてユーラシアが報復したという事実によってある意味ではこの戦争を手打ちにする為の手段であると言えるでしょう。


 ファウンデーションは現在、史実と違い本土は無傷であり、戦後大西洋連邦がオーブに行った陵辱や暴行といった戦争犯罪につながる可能性は極めて高い。故に、ユーラシア国民に「納得」を与えこれ以上のエスカレートを防ぐ目的もあったりします。簡単に言えば一回は一回、です。


・ハーケン隊
 ハーケン隊への誇りを云々とユウナが言ったのは、今回の核攻撃隊への護衛として手だれであるパイロットは必須であり。レクイエムは原作においてビームを発射した後、僅かな時間とはいえ無防備になるシーンがあり。

 その一瞬を核兵器で攻撃する為の護衛として……よりにもよってプラント出身のコーディネイターを。血のバレンタインによる惨劇を知る彼らに依頼するという、殴られるどころか、撃ち殺されてもおかしくない行動を提案したからです。

 ヒルダ達が、そして作戦を裏で切り出されたラメント議長が、どう反応したのかは皆様のご想像にお任せします。とはいえ、彼女達のお陰で……ナチュラルとコーディネイターが禁忌の力である、核兵器によって、青き地球と多くの人々が守られた事だけは事実です。


・ミラージュコロイドコンテナ
 戦後99.9%全世界で規制されることになるコンテナユニット。史実ではムウのアカツキとゼウスシルエットを搭載していましたが、今作では複数のさらに大型のユニットを密かに打ち上げてずっと待機する事に。

 正直な話アコードにバレる可能性もありましたし、迎撃で半数以上が撃墜される可能性もあったが為。ここまで綺麗に作戦が成功したのはアルテミスにアコードが集中していた事が要因だったりします。

・リューのルドラを鹵獲する事に成功し性能をある程度解析し、他のアコードが布陣してないと遠方からでも判明した事。

・史実と違い連合軍はレクイエム攻撃の為の艦隊を出さなかったが為、オルフェ達は後方のアルテミスでやるべき事を優先していた事。

・オーブがファントムペインすらやらなかったアライメントガン無視の外道戦法を行った事。

・さらに言えばザフト、ロゴスとレクイエムは各陣営に管理されており。ファウンデーションが改装した以外のデータはほぼ丸見えであった事(この辺りは原作もレクイエムの詳細データを提示しています)


 オルフェ達は悪くありませんし、ちゃんと迎撃措置も充分に行っていました。成功したのはまさに奇跡であり、どれが欠けたとしても攻撃部隊の全員の生存は不可能だったでしょう。彼らは不可能を可能にしたのです。

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
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