破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
「……ふぅ。やっぱり、こっちの世界のベッドは質だけは無駄に良いな。寝心地だけは『前世』の安アパートとは雲泥の差だよ」
泥のような眠りから覚め、俺は寝台の上でぼんやりと天井を眺めていた。
この『コズミック・イラ』という世界。モビルスーツが飛び交う地獄のような戦時下だが、文化レベルだけは妙に既視感がある。
例えば娯楽だ。
かつての日本という国家は、東アジア共和国とユーラシア連邦、オーブに解体されて吸収されたが、その際に出版社は再編されつつも生き残った。この世界でも「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年サンデー」は健在だ。アーカイブを漁れば『ハイキュー!!』や『結界師』といった過去の名作としてデジタルライブラリに並んでいる。
だが、この世界が俺の知る「現実」と決定的に違う部分がある。
「……何より衝撃だったのは、『SEGAバンダイ』が成立してることだよな」
前世の知識では、セガとバンダイの合併話は結局白紙になったはずだ。しかしこの世界では、その二大巨頭がガッチリ握手を交わして巨大なエンタメ帝国を築いている。
「そう言えば、前大戦で連合のクロトがコックピットでワンダースワンの後継機らしきゲーム機で遊んでたっけ。この世界のゲーム業界、ワンダースワンが携帯機の覇権を握った可能性すらあるな……」
当然ながら、この世界には「ガンダムシリーズ」なんてものは存在しない。この世界におけるモビルスーツは「今まさに人を殺している最新兵器」であって、プラモデルにして愛でるような娯楽じゃないからだ。
ガンダムという大黒柱がない代わりに、この世界のバンダイを支えているのは間違いなく『ドラゴンボール』だ。
「ジャンプのアーカイブを見ても、NARUTOやワンピース以上にドラゴンボールの人気は不動だ。SEGAバンダイから発売された最新の『ドラゴンボール・ゼノバース』的なゲームは、コーディネイターの間でも大ヒットしてるらしいし……孫悟空がスーパーサイヤ人になるのを、コーディネイターたちはどんな気持ちで見てるんだろうな。自分たち以上の超人を創作に求めてるのか?」
セガの技術力とバンダイのキャラクターIPが完璧に融合した世界。もし平和なら、俺は今頃スカウター型のデバイスでも付けて「私の戦闘力は53万です」とか言って遊んでたはずなんだ。というか全体的にバンダイにとって都合がいい世界になってる気がする。
ワンピースの正体?見たらショック受けそうだからまだ見てねぇよ!なんなんだろうね本当に。
「……はぁ。そんな娯楽に溢れた世界なのに、現実はこれか。俺が今やってるのは『ユウナ・ロマ・セイランの暗殺回避シミュレーション』。難易度『超級』『ルナティック』『インセイン』のクソゲーだよ」
俺は枕元で冷え切ったココアを一口啜り、さらに思考を巡らせた。そう言えば、この世界の「役者」についても調べてみたが、やはり微妙に前世とはズレがある。
「当たり前だけど、声優界も面々が違うんだよな。例えば、あのアスラン・ザラの声を担当していた石田彰氏。あんな特徴的な、透明感とミステリアスさが同居したような声を持つ役者は、この世界には存在しないらしい」
これ、実は結構デカい変化なんじゃないか?
前世のファンなら、アスランがあの「石田ボイス」で苦悩しているだけで、「あ、これまた裏切るな」とか「絶対また情緒不安定になってる」なんてメタ的なツッコミを入れて楽しめたものだが。
「こっちのアスランは、しっかりCV石田彰でも声から受ける『裏切りそう感』がゼロなんだよな。ただただ真面目で、声も正統派の熱血漢に近い印象というか……いや、中身はしっかり難解なんだけど。周囲から『声が胡散臭い』なんて言われる心配がない分、純粋に『アスハの騎士』として扱われてる気がするよ」
逆に言えば、誰もアスランの迷走を「いつものこと」と笑ってくれない。彼が一度道を間違えれば、それはネタではなく、ただの深刻な国家問題になる。
「声優補正がないって、ある意味恐ろしいな。……まあ、僕の声も前世で演じていた野島健児氏みたいな、あの『絶妙にイラッとくるけど育ちの良さが滲み出る三下ボイス』とは思われてないみたいだしなー!!……いや、今の俺の喋り方は自分でも相当イラつくな。成功だよ、三下ムーブとしては」
鏡の中の自分は、相変わらず「いかにも」な御曹司の顔をしている。「僕モード」の時のイラっとする三下ボイスに関しては褒めてやりたいくらいだ。
石田ボイスと思われないアスラン、ガンダムのないSEGAバンダイ、そして中身が「ガンダムオタクの一般人」に入れ替わったユウナ。
俺は鏡に向かって自嘲気味に呟いた。
前世の知識というチート能力を出し惜しみするつもりはない。だが、うっかり「ガンダム」なんて単語を無闇に口にしたり、この世界の人間が知らないはずの「未来のフラグ」を不用意に喋りすぎれば、即座にデュランダル議長のようなキレ者に「異分子」としてマークされるだろう。
「……気をつけろよ、ユウナ。知識は『予見』や『閃き』としてアウトプットするんだ。ボロを出して詰むのだけは勘弁だからな」
そう自分に言い聞かせると、俺は「代表代行」としての公務――という名の、胃の痛くなるような被災地視察へと向かった。
オーブ沿岸部の避難キャンプ。そこでは、復興作業にあたる「リビルド隊」とはまた別の、異彩を放つモビルスーツが忙しく立ち働いていた。
白と赤の清潔感あるカラーリング。肩には大きく赤十字に似たマークが描かれた機体――「ホスピタルアストレイ」だ。
「各機、バイタルスキャンの範囲を広げろ! 倒壊したビルの中にまだ生存反応があるはずだ!」
この機体は、戦闘用の火器を一切排除し、全身を精密な医療・救助用センサーの塊に改装されている。
機体の背部には、巨大な「可動式緊急手術室(オペレーション・ルーム)」を背負っており、戦災で病院が機能しなくなった地域において、そのまま移動病院として機能するのだ。
アストレイの繊細なマニピュレーターが、まるで人間の指先のように優しく瓦礫を退け、隙間から小型の救助ドローンを放つ。
「いたぞ、生存者だ! ホスピタルアストレイ、ジャッキアップ開始! 救護班を突入させろ!」
鋼鉄の巨人が膝をつき、シェルターのような背部ユニットのハッチを開く。中には最新の医療機器と、不眠不休で働く医師たちが待機している。まさに、地獄に降り立った天使のような光景だった。
そのすぐ傍らでは、リビルド隊の隊員たちが炊き出しの準備まで手伝っていた。
「リビルド」のパワーアームが、巨大な寸胴鍋を器用に持ち上げ、避難民に温かい食事を配っていく。
「……お、美味しい。……ありがとうございます」
泥まみれになりながらスープを啜る市民たちの姿に、リビルド隊のパイロットが機体越しに力強くサムズアップを返す。
かつてウズミ代表の手により「オーブの剣」として誇ったアストレイは、今、ユウナの手によって、誰よりも市民に近い「市民に寄り添う存在」へと変貌を遂げていた。
「……うん。悪くない光景だね」
遠巻きにその様子を眺めていた俺は、一人深く頷いた。ホスピタルアストレイの背部ユニットから救急搬送される負傷者と、それを見守る家族の安堵の表情。カガリが魂の演説で人々の心を震わせる「陽」のカリスマなら、俺はこうして目の前のインフラと生存率を物理的に叩き出す「実」の安心感で勝負する。
「カリスマ性で勝てないなら、生存権の確保で依存させるまでさ。汚いやり方だけど、死ぬよりはマシだろ?」
さて、と。俺はこれからのスケジュールを頭の中で反芻する。
そろそろロンド・ミナ・サハクによって「天空の宣言」が行われるはずだ。
本来のユウナなら「オーブの主権を脅かす不届き者め!」と激昂するところだろうが、俺は黙認することに決めている。
(ミナに関しては、変に敵対するより泳がせておいたほうが都合がいい。あっちにはあっちの守りたいものがあるんだし。ただ、ユニウスセブンの時みたいに、緊急時のデータリンク共有だけは土下座してでも頼み込まないとな。あそこの情報網は、オーブ正規軍よりよっぽど『先』が見えてるからな……)
そして、その裏で着実に近づいているのが、あの忌々しい事件。
「フォックストロット・ノベンバー」
地球連合軍による、プラントへの宣戦布告と武力行使。核ミサイルが再び宇宙(そら)へと放たれる、あの破滅へのカウントダウン。
ミネルバがオーブを離れれば、いよいよ俺は連合という名の怪物と、正面から「狸の化かし合い」を演じなきゃいけなくなる。
「親連合」の仮面を被りながら、どうやって核の炎からこの国を、そして世界を遠ざけるか。
「……と言ってもだ。フォックストロット・ノベンバーの開始自体に大々的に介入するつもりはない。というか、そんなの無理だしやる気もないよ」
俺は独り言を吐き捨て、執務机に広げたオーブ全土の復興状況マップを睨みつけた。核ミサイルが飛び交うのは最悪だが、一介の国家代表代行が「核を撃つな」と言って連合が聞き入れるなら、最初から苦労はしない。俺がやるべきは、その火の粉がオーブに降り注がないように立ち回ることだけだ。
そのための布石が、あの「ワダツミ」という無茶苦茶な機構だった。
わざわざMSに防壁を支えさせるなんていう無茶な設計にしたのには、時間が無かったこともあるが、三つの明確な狙いがある。
「まず第一に、『オーブの復興を最優先にすること』。これは大前提だ。国民を救えない代表なんて、それこそ即座に暗殺対象だろうからね」
そして、第二の狙い。
「キオウに頼んで、他国にもリビルド隊を派遣させること。これは単なる慈善事業じゃない。世界中に『オーブのMSは救助活動のプロであり、他国の復旧に不可欠な存在だ』という実績を見せつけるためだ」
これによって、安易にオーブを叩きにくい空気を作る。そして、最後に最も重要な「言い訳」がこれだ。
「……第三に。連合から『戦力を出せ』と言われた時、『いやぁ、見ての通りワダツミを支えるのにMSを張り付かせてるし、救助活動で世界中に貸し出してるから、一機も余ってないんですよ!』と、白々しく言い張るための口実作りさ」
兵器はあっても「手が塞がっている」。
ワダツミは定期的にメンテナンスと称してMSを張り付かせておかなければならないし、リビルド隊は人道支援の旗印として外に出ている。既にキオウに頼んで今頃上海辺りで救助活動の真っ最中だろう。
「我ながら、連合視点だとクソみてぇな事してるな……強硬派も、渋々引き下がるしかない。その間に、俺は国内の地盤を固めて、シンやキラたちが暴れ回るための舞台を整えておけばいい」
つまり、「親連合派」として協力する意志はあるが、物理的に兵が出せない、という完璧な(?)理論武装だ。
「……よし。方針は決まった。トダカからの報告が来たら、次は連合の特使と、吐き気のするような狸の化かし合いを始めるとしようか」
俺は、ホスピタルアストレイの活動ログを確認しながら、次に来るであろう「連合からの赤紙」に備えて心を殺した。
・SEGAバンダイ
史実でも合併騒ぎがありつつ最終的に実現せず幻に終わった社名。この世界では何気に成功しており日本が分裂した後もドラゴンボールやソニックなどを出し続けてるらしい。恐らくソニックと悟空が仲良くスポーツをしたり、桐生ちゃんが悟空の服装になってかめはめ破をしてたりしてるのだろうか?
・ワダツミ
感想欄ではベタ褒めされてますが急増品であるが為にMSを利用した場合、その機体はオーバーホールをする羽目になりますし、防災の為に一時的に国防に穴を開けるというのはコズミック・イラ世界ではある意味論外。実質ワダツミによるオーバーホールやリビルド、ホスピタルの増産のおかげで現在のオーブの防衛力は悲惨なんてレベルじゃありません。防災は大事、でもその為に国防を疎かにするのは失格であり、その辺りがリビルドを見てダメだししたキオウの評価などに繋がるのでした。改良は大事です。
そしてユウナはわざと連合への言い訳のためにこの様な機構にしています。えっオーバーホールが終わる前に攻められたら?土下座してサーペンテールを呼び、キラ様に無敵のフリーダムパワーでなんとかしてくださいヨぉぉぉぉ!!!と絶叫する羽目になりますよ?
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
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通常の優柔不断アスラン
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報連相の化身と化したアスラン