破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第六十九話 アルテミス陥落

 

 

 

 奥へと進むにつれて増援として現れる兵士たちの中には、やはり幼い面影を残した少年兵たちが数多く混じっていた。だが、傭兵部隊「X」の面々は言葉を交わすこともなく、ただ黙々とその頭部を狙い、命の灯火を消し続けていく。

 

 

 「……ちっ、やっぱクソだな、デスティニープランってやつは」

 

 

 部下の一人が、足元に転がった少年の遺体――頭部を一撃で狙撃されたソレの無残な姿を避けながら、吐き捨てるように呟いた。

 

 

 「責任転嫁をするわけじゃねえが……こんなガキ共を即席の兵士として前線に放り込むなんざ、正気の沙汰じゃねえ。普通なら本国で訓練を積ませてる時期だろ」

 

 

 「適性があるから、戦場に送る。それがプランの最適解なんだろうよ」

 

 

 

 カナードは冷淡に応じつつ、物陰に隠れようとした新たな敵集団に向けて、無造作に次のニードルグレネードを投じ、起爆させる。

 

 

 この装備は、壁を壊すための爆圧も、装甲を抜くための熱量も持たない。ただ「柔らかい生身を効率よく破壊する」という、一点のみに特化した殺戮の道具だ。

 

 

 通常のフラググレネードが爆風による衝撃と数個の大きな破片で殺傷するのに対し、これは千を超える鋼鉄の針を全方位に、超高速で射出する。

 

 

 バシュッ。キュルルーン!!

 

 

 爆発音すらもどこか乾いた、鋭い音。直後、狭い通路を逃げ場のない鋼鉄の針の嵐が再び埋め尽くした。

 

 

 「あ、が……ああぁぁぁぁッ!!」

 

 

 バリケードの向こう側から、再び人間とは思えない断末魔が湧き上がる。宇宙空間の要塞という閉鎖空間において、この武器は最悪の凶器へと変貌する。不意を突かれた兵士たちは、重い防護服を着込む暇もなかった。

 

 

 本来、防衛戦では「攻撃側は防御側の3倍の戦力が必要」とされる鉄則があるが、催眠ガスとこの回避不能な針の嵐を前にしては、その定説すらも無意味な紙屑に過ぎなかった。

 

 

 「耳が……俺の、耳がぁッ!!」

 

 

 

 一人の兵士が、頭を抱えてのた打ち回る。彼の側頭部を掠めた一本の針が、鋭利な刃物のように耳殻を根こそぎ削ぎ落とし、そこから鮮血が噴水のように噴き出していた。

 

 

 また別の兵士は、顔を庇おうと翳した両手の指を、数本の針が同時に貫通。指の骨を粉砕しながら肉を裂いて吹き飛ばし、もはや「手」としての形を成さない無残な肉塊へと変えられていた。

 

 

 「ひっ、あ……ああ……」

 

 

 

 眼球を貫かれ、視界を失ったまま虚空を掻く少年兵。肺を針で貫通され、呼吸のたびに喉からヒューヒューと血混じりの空気の音を漏らす指揮官。

 

 

 

 適性によって選ばれた守護者たちは、今やその誰もが針千本となり、激痛に思考を塗り潰され、武器を握る資格すら剥奪されていた。

 

 

 

「……排除完了。歩みを止めるな、先へ急ぐぞ」

 

 

 カナードは、まだ痙攣を続ける指先や、千切れて床に転がった耳の破片を一瞥することなく、息のある兵士達の息の根を止めると、血に濡れた床を確実に踏み締めて進む。進み続ける。

 

 

 

 

 

 やがて、通路の喧騒と硝煙が遠ざかり、周囲の空気が一変した。辿り着いたのは、要塞の深部に位置する収容エリア。無機質な白壁に囲まれ、窓一つない小部屋が整然と並ぶその区画は、外界から隔絶された静寂に包まれていた。

 

 

 

 通路には、ガスによって力なく昏倒した看守や警備兵たちが、壁に背を預けたまま眠りに落ちている。カナードは無造作に彼らの腰からマスターキーを拝借すると、持ち込んだセンサーを起動。最奥部の一室に、微弱ながらも確かな生体反応を確認する。

 

 

 

 トダカ海将――生存。だが意識はない。

 

 

 

 「いたぞ。……開けろ」

 

 

 

 カナードの短い指令とともに、隊員の一人がキーをかざし、分厚い隔壁のロックを解除。直後、重厚な金属の扉が蹴り破られ、傭兵部隊「X」が室内に雪崩れ込んだ。

 

 

 そこには、硬いベッドの上で気を失っているトダカの姿……だけではなかった。

 

 

 

 青い髪の美女――アコードの一人であるイングリット・トラドールが、パイロットスーツ姿で銃を構え、トダカの脳天に銃口を突きつけて待ち構えていたのだ。彼女は意識のないトダカの身体を盾にするように引き寄せ、侵入者たちを鋭い眼光で射抜く。

 

 

 

 「貴方た――」

 

 

 

 彼女が唇を戦慄かせ、言葉を発しようとしたその瞬間だった。彼女は一つのミスを犯す、既に彼女達はテロリストの一員であり、交渉の余地など、最初から存在せず。更には人質を取られた所で傭兵部隊「X」の反応速度は、イングリットの予測を遥かに凌駕していた。

 

 

 

 乾いた一撃が鳴り響く。隊員の一人が放った早撃ちの弾丸が、イングリットの右手を正確に撃ち抜いた。甲高い音を立てて床を転がる自動拳銃。悲鳴を上げる間もなく、別の隊員が間髪入れずに足元へスタングレネードを投げ込んだ。

 

 

 

 ――キィィィィィィィィッ!!

 

 

 

 凄まじい高周波の爆音と、視神経を灼くほどの閃光が狭い密室を支配する。イングリットは、アコードとしての卓越した感覚によってカナードたちの接近を察知してはいた。

 

 

 トダカを司令部へ拉致しようとしたが、オーブ軍の進撃があまりに速く、この場に立て籠もるしか選択肢がなかったのだ。

 

 

 

 彼女はトダカを人質にしつつ、必死にオルフェへと意識を同調させ、絶望的な状況を伝え続けていた。いざとなれば人質を盾に脱出できる――そう考えていたに違いない。

 

 

 

 だが、彼女は致命的な誤算を犯していた。イングリット・トラドールは確かにアコードとして優秀であり、凡百のエリートパイロットを凌ぐ知性と反応速度を有している。しかし、彼女の本質は「国務秘書官」という官僚組織の頂点に近い存在であり、最前線で泥と血に塗れてきた実戦の兵士ではない。

 

 

 

 彼女が成すべきだった唯一の正解は、司令部への到達が不可能だと悟った時点でトダカを切り捨て、たった一人で要塞から脱出することだった。

 

 

 しかし、トダカの尋問を担当していた彼女は、副総裁ユウナとトダカの間に流れる奇妙な縁を深く理解していた。この絶望的な戦局において、トダカというカードの確保は戦略上必須であると「正しく」判断してしまったのだ。

 

 

 

 その冷静な判断こそが、予想を遥かに超える傭兵たちの進軍速度という一点において、彼女に致命的な誤算を強いることとなった。

 

 

 

 「……邪魔だ、老いぼれ」

 

 

 

 カナードは素早く間を詰めると、気を失っているトダカの身体を冷淡に脇へと押し飛ばした。そのまま倒れ込むイングリットの胸倉を掴み、力任せに引き寄せる。狙いは彼女の生命線であるヘルメットの剥奪だ。

 

 

 「っ、放して……!!」

 

 

 イングリットもまた、反射的に腰のナイフを抜き放ち、カナードの喉元を裂こうと腕を振る。しかし、アコードとしての反応速度をもってしても、歴戦の傭兵たちの連携には届かない。

 

 

 カナードの背後から、隊員たちが援護の射撃を放つ。放たれた3発の弾丸は、正確にイングリットの太ももを撃ち抜いた。特注のパイロットスーツは高い防弾性能を誇り、弾丸の貫通こそ許さなかったが、その凄まじい衝撃までは相殺できない。

 

 

 「あ、ぐ……ぁっ!!」

 

 

 

 骨を砕かんばかりの衝撃が筋肉を直撃し、激痛が彼女の脳を焼き切ろうとする。その一瞬の隙を見逃すカナードではない。彼は無理やりヘルメットのロックを解除し、彼女の頭部を覆っていた唯一の守りをもぎ取った。

 

 

 

 露出した空気。要塞内に充満する高濃度の催眠ガスが彼女の呼吸器に流れ込み、視界が急速に酩酊の色に染まり始める。だが、カナードは彼女が安らかな眠りに落ちることすら許さなかった。

 

 

 

 

「アコードなら、この程度で死にはしないだろう?」

 

 

 

 

 カナードはイングリットの美しい青髪を掴み、後頭部を固定すると、獰猛な笑みを浮かべつつ容赦なく硬質な床板へと叩きつけた。

 

 

 

――1回。

 

 

 

 凄まじい衝撃が彼女の顔面を襲う。防弾仕様の床に叩きつけられた鼻梁は一瞬でひしゃげ、鼻腔から溢れ出した鮮血が金属面を汚した。鋭敏な感覚が、かえってその激痛を鮮明に脳へと伝達させる。

 

 

 

――2回。

 

 

 

 手加減の一切ない暴力が続く。今度は口元が床を直撃した。真珠のような白さを誇っていた歯が、根元から数本砕け散る。砕けたエナメル質の破片が口内に刺さり、彼女の呻きを鉄錆の混じった血の泡へと変えた。

 

 

――3回。

 

 

 脳を直接揺さぶられる鈍い衝撃。意識の端が白く爆ぜ、イングリットの視界は混濁する。思考は、もはや激痛と死の恐怖以外の何も処理できなくなっていた。オルフェに助けを求めようとする彼女の後頭部を掴むカナードの指が、彼女の頭蓋を握り潰さんばかりに食い込んでいる。

 

 

――4回。

 

 

 最後の一撃だ。床に叩きつけられた衝撃で、美麗だった顔面は内出血でどす黒く腫れ上がり、顔の造形すら判別不能なほどに無残に破壊されている。

 

 

 

「……四人だ」

 

 

 

 カナードは、辛うじて意識の糸を繋ぎ止めているイングリットの耳元で、低く冷たい声を吐き捨てた。

 

 

 

「お前たちがレクイエムを使ったせいで、俺の部下が四人死んだ。アドゥカーフの本社で、戦う術もなく焼かれたんだよ」

 

 

 イングリットの虚ろな瞳が微かに揺れる。だが、カナードの復讐心はそれで癒えるほど安価なものではない。

 

 

 

「タダで死ねると思うな。お前には、その責任を最後までとってもらう」

 

 

 

 カナードは腰のホルダーから、高圧電流を放つスタンガンを取り出し、傭兵部隊「X」の隊員たちは、その様子を表情一つ変えずに淡々と眺めていた。

 

 

 彼らにとっても、アドゥカーフでの惨劇は忘れようのない傷跡だ。待機していた四人の仲間が、何の警告もなく一瞬で蒸発した怒りは、単なる任務としての「無力化」では到底拭えない。

 

 

 

 無力化するだけなら最初からスタンガンだけで良かった。だが、カナード自身もまた、喪った仲間への手向けとして、床を血に染める必要があったのだ。褒められた事ではないのは承知であり、ユウナはいい顔はしないだろう。だが、それでも。彼は復讐を成し遂げたのだ。

 

 

 

 バチリ、と青白い火花が散り、高電圧の衝撃がイングリットの意識を強制的に暗闇の底へと突き落とす。痙攣し、完全に沈黙した彼女の身体を無造作に放り出すと、カナードは背後に控える隊員たちに短く呟いた。

 

 

 

「……これでいいか?」

 

 

 

 その言葉には、「お前たちは手を出さなくていいのか」という、散った四人の仲間に対する彼なりの配慮が込められていた。

 

 

 

 普段はゲームや酒の話題で盛り上がり、非番になれば賭け事に興じて騒ぐような陽気な傭兵たち。だが、今この瞬間、彼らの瞳に宿っているのは、核兵器を躊躇なく発射させようとした女に対する、底冷えするような憎悪だった。

 

 

 

 しかし、彼らは血に染まった金属床と、原型を留めぬほどに叩き潰されたイングリットの顔を見つめ、静かに首を振った。

 

 

 

「……構いません。手向けは、これで十分です」

 

 

 

 仲間の命は帰ってこない。だが、その怒りのいくらかは、カナードの振るった暴力によって確かに形を変え、この床に刻まれた。

 

 

 

 一人の隊員が、意識のないトダカを壊れ物を扱うように慎重に背負い上げる。一方で、別の隊員はイングリットの足首を掴んで引きずり、まるで安物の貨物を放り出すかのような無造作さでその身体を担ぎ上げ、同時にカナードは通信機を叩き、マリューへの回線を繋ぐ。

 

 

 

「こちらカナード。目標の確保に成功した。そちらはどうだ」

 

 

『……こちらマリュー。……司令部は鎮圧したわ。アウラ女王は確保したわよ…」

 

 

 

 スピーカー越しに届くマリューの声は、どこか沈み、焦燥を含んでおり、カナードは即座に察してみせる。

 

 

 

 おそらく彼女たちの進路上でも、あのガスを免れた少年兵たちが立ち塞がったのだろう。正義を信じる彼女にとって、子供たちを「処理」して進む時間は、何よりも精神を削るものだったに違いない。

 

 

 

「そうか。こちらもトダカ海将と、アコードを『一匹』確保した。これよりバシレウスに帰還する」

 

 

 

 カナードは感傷を切り捨てるように、事務的な指示を続ける。

 

 

 

「指定ポイントにモルガを一機向かわせる。お前達も他の高級将校らしい連中を適当にひっ捕らえてバシレウスに戻れ。用が済んだら、この要塞はもうお役御免だ」

 

 

『……了解。帰還を優先しましょう』

 

 

 

 かつて「光の傘」に守られた難攻不落の要塞アルテミス。しかし今、その内部は催眠ガスの煙霧と、針の嵐による凄惨な返り血、そして勝利した者たちの溜息に支配されていた。

 

 

 

 多くの敵兵士が催眠ガスにより意識を失い、血が流れるのは最小限。こちらの損害を最小限、敵の損害も最小限であるまさに最高の結果を生み出したと言えるだろう。

 

 

 

 だが、戦後に公開された凄惨な写真の数々は多くの市民に衝撃を与え密閉された宇宙拠点におけるBC兵器の国際的な禁止条約に繋がり、若輩のコーディネイター兵士の軍事採用の是非が討論され、BC兵器の積極的な使用作戦を主導したユウナ・ロマ・セイランの評価に議論の余地を与える事となる。

 

 

 

 ただし、一つだけ言える事は。彼は生涯に渡り。この作戦について積極的に『正義』であると肯定し続けた事。そして、後世の史書においては彼「だけ」がこの一連の作戦について、名を残し続けた事のみだ。

 

 

 

 

 面々は重要捕虜を連れ、静まり返った通路をバシレウスの待つハンガーへと急ぐ。こうして、アルテミス陥落という歴史の転換点(ただしもう三回以上陥落している)は、血と悲鳴とガスの余韻と共に幕を閉じるのであった。

 

 





・イングリット

 劇場版ではオルフェへの思いを隠した女性。ラクスとの触れ合いで迷いを生じるなどアコードの中では数少ない常識人であり、同時に迷いを見せたイングリット。だがユウナという異物の存在の結果、彼女は核攻撃のマッチポンプ役を行うことに。これによりアコードの中では顔も含めて映像として残っており、カナードからすればレクイエムで部下を殺した連中の一人だと怒りをぶつけられる事に。

 一応C.E.はイザークの傷が即座に治るほどの再生治療技術に加えて、コーディネイターの治癒力は優秀とはいえ、彼女の顔は一瞬誰かと判別がつかない程に報復によってダメージが。

 この辺りの展開は正直迷いましたが、読者からすればイングリットの裏事情がわかるとはいえ、カナードからすれば部下の命を奪った仇以外の何者でもありません。これにより、何気に彼女が乗っていた予備のルドラを戦後オーブは接収する事になり、カルラはオルフェが一人乗りになる事が確定するなど、後々大きな影響を与える事になります。

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
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