破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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 おかしい…本来30話くらいで終わると思ってたのに、何故話数が運命編をなんで越えようとしてるんだ…?


第七十話 自由の為の戦い

 

「……おかしい。あまりにも不自然すぎる」

 

 

 

 俺はGに何度も気絶させられそうになりつつも、というか何度も気絶しながら無理やり覚醒を繰り返しつつ、戦場の不自然さに気づいてしまい、目前のモニターを睨みつけながら毒づいた。

 

 

 

 ババの容赦ない操縦の元、逃げ遅れたドレイク級を腕部のドッズビームにより粉砕。沈みゆく艦艇の爆光が、黄金の装甲に反射してギラリと輝く。近くの護衛用であったであろうゲイツはハイネがアロンダイトで真っ二つに切り裂いていた。

 

 

 

 連合とザフトのMSや艦艇が勢揃いって、なりふり構わず戦力を集めてやがったなアコードめ…。

 

 

 

 戦況は、もはや一方的な蹂躙と言っていい。アルテミスは陥落し、前面に布陣していたザフト反乱軍は、後方に位置するミネルバを除いてほぼすべての艦艇が宇宙の塵と化した。

 

 

 特に東アジア連邦の新型戦闘機隊による活躍は凄まじかった。奴らの「シップキラー」戦術は、母艦を失い孤立したMS部隊の隙を突き、大物喰らいと言わんばかりに敵艦艇を次々と沈黙させていった。

 

 

 オーブ、プラント、大西洋連邦、東アジア共和国、ユーラシア連邦。5カ国にもよる多国籍軍によるこの大規模な「テロリスト討伐」は、成功を目前。いやほぼ達成したと言えるだろう。

 

 

 

 オウガの周囲を、ハイネのデスティニーが鋭い軌跡を描きながら護衛として随伴している。遠方ではアスランとシンがブラックナイトスコードを確実に抑え込んでおり、キラとラクスのマイティストライクフリーダムはミレニアムで待機中だ。

 

 

 

 詰みだ。戦術的にも、戦略的にも。女王アウラを捕虜にされてトダカは奪還され、戦力はどんどん消耗していく。敵の旗艦らしい大型艦は定期的にこちらの戦力を削ろうと陽電子砲をぶちまけようとするが、その度に俺たちは射線を遮るようにスラスターを吹かして向かい、ヤタノカガミで盾となっていた。

 

 

 ……お陰でもう三回は気絶したけどなぁ!!ババに躊躇するなと言ってる以上自己責任ではあるがそれでもきついもんはキツい。意識が暗転しては再び目覚めるを短期間で繰り返しすぎたせいで逆に脳内のアドレナリンだかドーパミンだかはドバドバ出ていてどんどん慣れていく。こんなもんに慣れたくなかったわ畜生!?

 

 

 

「なぁ、ババ。お前には見えるか? あの連中の動きが」

 

 

「……ええ。尋常ではありませんな」

 

 

 

 ババが短く応じる。モニターの中、母艦も帰るべき要塞も失い、数的優位を完全に喪失したザフトの残党やファウンデーション軍どもは、それでもなお、ただの一機も「降伏」の意思を見せない。

 

 

 

 推進剤が切れ、四肢を失い、動力部が火を噴いている機体すら、ビームサーベルを抜いてこちらへ特攻してくる。あるいは、弾切れのライフルを鈍器のように振り回してでも、俺たちのオウガに立ち向かおうとする。

 

 

 

 降伏を選ぶ者も、戦線から離脱しようとする者もいない。まるで、最初から「敗北」という概念自体が脳内に存在しないかのようだ。

 

 

 

 アルテミスが陥落し、アウラとイングリットという「核」を失ったことに気づいたのだろう。ブラックナイトスコードの連中が、なりふり構わず後退を開始しようとしているが、だが、それをアスランとシンの二機が執拗に、それこそ「一歩も退かせん」と言わんばかりの猛攻で釘付けにしていた。

 

 

 

 読心が効かず、純粋な技術レベルすらも自分たちを凌駕する「旧世代」の執念。ここからでもアコードたちの苛立ちが伝わってくるようだ。羽虫のように鬱陶しく、それでいて攻撃を避けながら絶え間なく繰り出してくる二人に、おそらく通信回線越しに聞くに堪えない汚い言葉を吐き散らしているに違いない。

 

 

 それらと比べてると逃げない、怯えない、最後までがむしゃらに立ち向かってくる生き残りのザフト兵やファウンデーション兵士達は異常だ。ここに至ってはもう、認めるしかない、連中は、自分たちの駒である兵士の脳に直接暗示をかけ、逃亡も降伏も許さず戦い続けるように処置しているのだと。

 

 

 前世のコードギアスにおいても、ルルーシュはブリタニア帝国の兵士たちに絶対遵守ギアスをかけ、死を恐れない傀儡として運用していたという話があったが……いざそれを現実で見てしまえばあまりの悍ましさに反吐が出る。こちらも無論Bデバイスなんぞ使用してる以上同じ穴のムジナではあるが、それでもだ。

 

 

 

「……チッ、胸糞悪い。ヘドが出るな」

 

 

 

 俺は盛大に舌打ちをした。軍事教育や、富国強兵のための愛国心。そんなものは、程度の差こそあれどの国だってやっていることだ。そこにはまだ、歪んではいても「個人の意思」が介在する余地がある。

 

 

 

 だが、これは違う。誇りも、恐怖も、生きたいという本能さえも奪い取り、ただ死ぬまで戦わされる人形たち。アコードの描く「平和」の正体がこれだというなら、それは世界そのものを巨大な精神病院か墓場に作り変えることと同義だ。

 

 

 デュランダルも似た様なもんだが、アイツがアウラ達を自身の計画の為に招集しなかった理由もよく分かる。アイツはアイツなりに、人間の「役割」を見極めることに執着していたが、アウラのやり方はただの「支配」でしかない。それでいて、そんな歪んだ世界の頂点に立つのはアウラなのだから誰だって切り捨てるわ。

 

 

 

 正直な話、ここらでファウンデーション軍とザフト残党を完全に撃滅することは、今の俺たちの戦力なら容易い。だが、奴らがこのまま死兵として暴れ続ければ、こちら側の出血も少なくない。

 

 

 

 血が流れれば流れる程に新たな流血と涙とヘイトの苗床にしかならず、行き着く先はクルーゼも大爆笑な破滅の未来の到来だ。戦後処理を考えれば、これ以上の流血はデメリットしかねぇんだ。

 

 

 

 さて、どうする。この催眠を解くにはどうすればいい?

 

 

 

 こちらの緊急システムのように、洗脳されている兵士に物理的な痛みを与えることで催眠を上書きし、覚醒させることは不可能だ。この数、この広域戦場では物理的なアプローチは追いつかん。だが、「催眠を上書きする」という発想自体は、一つの正解に繋がっているはずだ。

 

 

 何らかの強力な手段でこの精神的な縛鎖を上書きして打破すれば、もはやこれまでと降伏する兵士や、戦線を離脱しようと脱走する兵士も増えるはず。そうなれば盤面は一気に崩れる。

 

 

 

「……上書き、強制介入、精神の覚醒……」

 

 

 

 俺はコックピットの薄暗がりの中で、前世で貪るように見たアニメや漫画の膨大な脳内アーカイブを必死に漁り始めた。どこだ、どこに答えがある? 過去の創作物の中で、これほど広範囲に、かつ一瞬で精神の均衡を揺さぶり、あるいは「真実」を突きつけて洗脳を解いた事例は……。

 

 

 Xラウンダーやニュータイプの精神感応? トランザムバーストの対話空間。そんなもんは不可能だ。思考を加速させ、記憶の深淵を潜っていく俺の脳裏に、かつて見ていた作品の一場面が鮮烈にフラッシュバックした。

 

 

 

「……そうだ。これなら、いけるかもしれん。おいババ! ちょっといいか!?」

 

 

 

「はっ! 如何しましたかユウナ様!? Gがきつすぎるのであればいつでも落としますが!!」

 

 

 

「んなもん常時キツイわ!!! 気絶しても脚に刺激与えて起きてるから気にすんな!それより今から大音量で、ありったけの大音量で何か音楽を流せ!! オウガには大型の外部広報装置があるはずだ! 音楽を国際緊急チャンネルに乗せて全周波に叩き込み、最大音量で無理やり送り込め!!!」

 

 

 

 俺の突拍子もない命令に、ババは一瞬だけ呆気に取られたように目を丸くした。だが、そこは流石のババだ。次の瞬間には「承知!」と力強く応じ、太い指をコンソールの上で躍らせる。

 

 

 俺の頭に浮かんでいたのは、前世で見た「マクロス」の伝説的な歌い手たちだ。リン・ミンメイ、熱気バサラ、ランカ・リー……。彼らは武力ではなく、魂に響く歌によって異星人や暴徒の争いを鎮圧してきた。

 

 

 この戦場に充満する「意思なき殺意」がアコードの暗示によるものなら、それを上書きするのは理屈じゃない。強制的に脳髄へ叩き込まれる音の衝撃、心拍を狂わせるような原始的な衝動――大音量の音楽こそが、この狂った連中の意識を現実に引き戻す数少ない「楔」になるかもしれない。

 

 

 馬鹿げている。アホらしい。だが、戦場に響く音楽こそが時にはどんな政治工作よりも効果を発揮することを俺は知っている。音楽には力がある。それをほんの少し信じてみてもいいんじゃないか?と。

 

 

 

「セット致しました! 流しますぞ、ユウナ様!」

 

 

 

 

 ババの気合の入った合図と共に、オウガの巨体から全宙域に向けて、鼓膜を震わせ、心臓を直接掴み取るような爆音のイントロが解き放たれた。

 

 

 

I don't want to lose desire

I don't want to lose my fire

 

 

 

 

 スピーカーから流れてきたそのフレーズ、いや曲自身を聞いた瞬間、俺の思考は真っ白になった。

 

 

 脳内で鳴り響いていたマクロスの名曲たちが、一瞬で彼方へと霧散していく。

 

 

 

It's time to countdown the fighting

Just one way to freedom

 

 

 

 

 戦場の全チャンネルをジャックして鳴り響く、聞き覚えがありすぎるハイトーンボイス。疾走感溢れるビート。

 

 

 

 

 『ふ、副総裁!? ババ!? これって……一体どういう……っ!?』

 

 

 

 直後、オウガを護衛していたデスティニーから、ハイネの困惑しきった……いや、戦慄すら混じった通信が飛び込んできた。モニターに映るハイネはいつものような飄々とした余裕はなく、今は戸惑いによって引き攣っている。

 

 

 

 しかし、俺の隣でババは「どうです、この完璧な選曲は!」と言わんばかりのドヤ顔で無言のまま前を見据え、誇らしげに腕を組んでいた。

 

 

 

Freedom

Freedom

 

 

 

 

 

「ハイネ(西川アニキ)の曲じゃねぇかぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 

 

 絶叫した。絶叫するしかない。誰だって絶叫するし、俺だって絶叫する。

 

 

 

 だって、だってよ?この場面でこんな曲流す奴があるか!?偶然なんてもんじゃねぇよ、この場面にあの西川兄貴の曲が流れるって感動を通り越してギャグ手前じゃねぇか!!

 

 

 

「待て待て待て! あ、そういえばハイネの野郎、副業でミュージシャンもやってるとか言ってたな!? だからと言って、よりにもよってこの場面で流すか!?まんまあの西川アニキのメロディじゃねぇか!完璧に!」

 

 

 

 俺は頭を抱えた。この世界、この状況で、これほどまでに「ガンダムSEED」らしい、メタ的な嫌がらせがあるだろうか。いや、曲はいい。最高だ。

 

 

 俺の好みと言ってもいい。だが、戦場で自分の部下の持ち歌を大音量で流す軍の指揮官なんて、前代未聞にも程がある。

 

 

 

 

 だが、恐ろしいことに。

 

 

 

 

 もはやギャグとしてツッコミを入れたくなるような状況だったが、現実は残酷なまでに「正解」を突きつけてきた。

 

 

 

輝いていた瞳の奥 正義は決して動かない

天秤のよう 微かな揺れ 理性をかき乱す

 

 

 

 

 

 ――効いたのだ。

 

 

 

 効いてしまったのだ。

 

 

 

 

 恐ろしい事に、ヤバいとしか言いようがないというのに。最適解だと言わんばかりにド派手にクリティカルヒットしてしまったのだ。

 

 

 

 「……嘘だろ。俺の曲で、相手が戦意喪失してる……!?」

 

 

 

 通信回線から、ハイネの呆然とした声が漏れ聞こえてくる。無理もない。俺だって信じられん。だが、モニターの中の光景は一変していた。

 

 

 それまで死を恐れず、がむしゃらに突撃を繰り返していた母艦を失ったザフト反乱軍のMSが、次々とその動きを止め、虚空を漂い始めたのだ。砲撃を止めないはずのファウンデーション軍の艦艇すらも、沈黙している。

 

 

 

 それは「感動」というより、もっと根源的な「困惑」に近い。

 

 

 アコードによって強制的に上書きされていた、忠誠や憎悪という偽りの感情。そこへ、国際救難チャンネルを含む全周波をジャックした爆音の自由を求める曲が衝撃として脳髄に叩き込まれたのだ。

 

 

 波紋のように広がっていくその衝撃は、兵士たちの意識の深層に眠っていた「恐怖」や「戸惑い」といった、人間らしい感情を無理やり呼び覚ましていった。

 

 

 

「……ユウナ様。まさか、そこまで計算してここで音楽を……! 音楽により精神の共振と、暗示の破砕を企てるとは……!流石です、感動いたしました!!!」

 

 

 ババが、潤んだ瞳で俺を見つめて声を震わせている。だが、俺はと言えば、そのクリティカルすぎる戦果に、むしろ背筋が凍るような思いだった。

 

 

 

(知らん……ダメ元だったのに、なにそれ……怖……)

 

 

 

 そんなことある!?そんなこと、あり得るのか!?俺の内心は、もはや恐怖に近い絶叫で満たされていた。

 

 

 

 正直に言えば、失敗したところで音楽という不快なノイズを撒き散らし、ヘイトを一身に集めて突撃してくる死兵どもをこのオウガに集中させようとしたのは事実だ。どちらかと言えば、囮としての「挑発」がメインの目的だったのだ。

 

 

 

 なのに、通用してしまった。

 

 

 

 通用してしまったんだ。 

 

 

 

 例えるなら、軽く肩を回すつもりでバットを振ったら、そのまま初手で満塁ホームランを叩き出してしまったような、あり得ないほどの「正解」の感覚。

 

 

 

 

 あまりの衝撃に頭が真っ白になるが、同時に気づく。今、この戦場にいる敵味方問わない全部隊の視線が、黄金の粒子を纏い、爆音を響かせるオウガに釘付けになっていることに。

 

 

 

「……ッ、やるしかないのか。ええい、ままよ!」

 

 

 

 俺はヤケクソに近い覚悟を決め、通信機のボリュームを最大まで跳ね上げた。国際緊急チャンネルを含む全回線を、俺の「演説」でジャックする。

 

 

「この戦場にいる全ての兵士に告ぐ! 聞け! ファウンデーションは我々の真の敵ではない。敵はマッチポンプで自国にさえ核兵器を打ち込もうとし、催眠でお前達の自我を奪い、死に場所すら勝手に決めるアコードの傀儡師どもだ!!」

 

 

 

 背後では、西川アニキ――いや、ハイネの歌声が、自由を求めてどこまでも高く響き渡っている。俺の感情はもうグチャグチャだ。だが、言葉だけは澱みなく、政治家としての「ユウナ・ロマ・セイラン」の仮面を被って溢れ出す。

 

 

 

「アルテミス要塞は陥落し、レクイエムも破壊された!これ以上の戦いは無意味だ!!今こそ己の魂を取り戻せ! 志ある者は我々に続け! 『自由(フリーダム)』を勝ち取るために!! 理想を平和とし、どこまでも飛び立つために!! その力を貸してくれ!!」

 

 

 

 アドリブ全開の演説が、爆音のサビと重なって全宙域に叩きつけられる。

 

 

 よく聞けば、マジでいい曲だ。歌詞もメロディも、この絶望的な戦場を切り裂くにはあまりにも完璧すぎる。だが、それだけに「なんでここまで上手くいったんだよ!」という戦慄が止まらない。

 

 

  モニターの向こう側では、信じられない光景が広がっていた。つい先刻まで、死をも厭わぬ執念で突撃を繰り返していた敵MSが、次々と機能を停止して宇宙(そら)を漂い、降伏信号を出し始めている。

 

 

 

 ファウンデーション軍の艦艇も、攻撃こそ継続しているものの、その射撃は明らかに精彩を欠き、密度は下がる一方だ。中には完全に足を止め、こちらに救難信号を打診してくる艦艇まで現れ始めた。

 

 

 

 「……嘘だろ。本当に、この歌一つで盤面がひっくり返りやがった」

 

 

 

 俺が戦慄と困惑の混じった溜息を漏らしたその時、オウガの通信回線に、凛とした、しかし慈愛に満ちた歌姫の声が割り込んできた。ミレニアムからの、ラクスの介入だ。

 

 

 

『聞こえますか、タオ宰相。……この歌が』

 

 

 

 彼女の声は、ハイネの激しいビームを切り裂くような歌声に重なり、全戦域へと浸透していく。

 

 

 

『歌は、戦場に必要なものではありません。しかし今、人々は歌に胸を打たれている。定められた役割だから歌うのではありません。皆に聞いてもらいたいから、歌うのです』

 

 

 

 その言葉は、アコードたちが掲げる定められた運命。デスティニープランへの、これ以上ない鮮やかな否定を示している。

 

 

 この歌を歌うハイネは遺伝子適性の上では戦士や指揮官として高い才覚を示しており、決して音楽方面では適性は持たないと示されている。しかし、彼は音楽が好きだから歌い。その歌が波紋の様に広がっていき、定められた役目を否定していくのだ。

 

 

『……貴方たちの負けです。兵士の皆様、速やかに武装を解除してください。そして、ただこの歌を聴き、本当に自身が望むものは何なのかを……どうか考えてください』

 

 

 

 混乱の渦中にある全兵士に向けて語りかける、ラクスの援護演説が、俺のヤケクソなアドリブに決定的な「正当性」というトドメを刺した。

 

 

 

 

信じる気持ちでも 砂の様 こぼれ落ちる

数えきれない 絆が砕ける いつからか歪みだした

共にふるえたあの感動を もう1度みたくて

 

 

 

 

 

 そのフレーズが戦場を駆け抜けた瞬間だった。ダムが決壊したかのように、爆発的な武装解除の波が広がっていく。

 

 

 

 ライフルを捨て、サーベルを収め、ハッチを開放して投降の意思を示す機体の群れ。それは、アコードという呪縛から解き放たれ、一人の「人間」に戻った者たちの静かな、だが力強い意思表示だった。

 

 

 

 正直に言えば、降伏したからといって彼らにバラ色の未来が待っているわけではない。特にザフトの反乱兵どもの処遇は、間違いなく凄惨なものになるだろう。

 

 

 

 軍法会議、反逆罪、あるいは見せしめのための即刻処刑。ここで銃を収めたからといって、これまでの罪が無罪放免になるなんて甘い話は、この現実には存在しない。

 

 

 だが、それでも。彼らは「死ぬまで戦え」というアコードの命令ではなく、自分の意思で「降伏」という選択肢を掴み取ったのだ。

 

 

 それが命惜しさゆえの恐怖からくるものだったり、敗色が濃厚になった戦場で「正義の味方」面に切り替えて生き残ろうとする浅ましい下衆の知恵だったりしたとしても、俺はそれを否定しない。むしろ、その泥臭い自己保存の本能こそが、奴らが操り人形から人間に戻った何よりの証拠だ。

 

 

 

「……ババ。これでもう、チェックメイトだな」

 

 

 

 俺は後ろに座るババに、短く言葉を投げた。オウガの周囲では、ハイネの『FREEDOM』が依然として爆音で鳴り響き、戦場を支配し続けている。だが、先ほどまでの刺すような殺気は、もはやどこにもない。

 

 

 

 残るは、後方に控えるミネルバと、今も交戦を諦めないファウンデーションの部隊の一部。そして、追い詰められたアコードたちだけだ。

 

 

 

 想定外の「歌」による精神攻撃という不確定要素。だが、それがもたらした結果は、俺が描いていたシナリオを遥かに超える形で勝利を確定させていた。

 

 

 

 

(……まさか、本当に西川アニキの歌で世界が救われる日が来るとはな)

 

 

 

 

 俺は呆れ半分、戦慄半分。勝利の確信が、黄金のコックピット内に静かに、だが重く沈殿していく。あとは、この狂った物語にふさわしい、最も残酷で華やかな幕引きを用意してやるだけだ。

 

 

 

「ユウナ様! 敵旗艦より高エネルギー反応! MSが発進、物凄い速度でこちらに向かっています!」

 

 

 

 

 だが、静寂が訪れようとしていた戦場に、ババの叫びが響き渡り、俺は即座にメインモニターをそちらへ向けた。

 

 

 

 そこには、白をベースに高貴な金色の装飾をあしらった、一機のMSが猛スピードでこちらに接近してきている。背中の巨大な翼から紅い残光を翻し、MSの限界を超えた機動で宇宙を駆けるその姿は、ブラックナイトスコードのどれをも凌駕する「王」の風格を纏っている。

 

 

 

 だが、その機体から放たれる気配は、王の慈悲などではない。こちらまで焼き尽くさんばかりの、剥き出しの憎悪だ。

 

 

『……ユウナ・ロマ・セイラン! お前は、どこまで我々の計画の邪魔をすれば気が済むのだ……!』

 

 

 

 全回線を強制ジャックして叩きつけられたのは、傲慢さと困惑が入り混じった男の声。トダカから情報を得ているのなら、こちらの通信コードを掴んでいるのは納得だ。パイロットは、あのファウンデーションの宰相、オルフェに違いない。

 

 

 

『なぜだ……ラクス・クラインの歌ならともかく、なぜそこらへんの凡庸なコーディネーターの歌ごときに、我らの精神支配が、デスティニープランの礎が解かれる!? なぜ貴様の思考が読み取れない!? なぜ貴様は……ッ!!』

 

 

 

 ヒステリックに吠えるオルフェの声を聞いているうちに、俺の腹の底からも、どす黒い怒りが沸々と湧き上がってきた。

 

 

 

「……うるせぇんだよ。何故何故って、テメェは学校の先生にでも質問してるガキか?」

 

 

 

 

 こいつらアコードのせいで、俺の一年がどれだけ無茶苦茶になったと思っている。一年近くまともに買い物もできず、死刑囚の脳みそを弄って「Bデバイス」なんてクソったれな代物を作る羽目になり。

 

 

 トダカやミーア、カナードといった大切な駒……いや、仲間たちを死の危険に晒す選択を、俺は取らざるを得なかったんだ。

 

 

 

 クソ、クソ、クソ! 考えてるだけで脳みその血管がはち切れそうだ。ミーアと結ばれるきっかけになったことだけは褒めてやるが、それ以外はティエリア風にいえば万死に値する苦痛をコイツらに味わわされ続けてきたんだぞ!?

 

 

 

 俺はマイクをひったくるように掴み、オルフェに向けて怒声を叩き返した。

 

 

 

 

「残念だったなぁ! この曲を歌ってるヤツはな、ただのエースパイロットなんだよ! 歌手よりもパイロットの方が適性があると言われるほどの男だ! だがな……同時に、奴は歌を、自由を愛しているんだよ!!」

 

 

 

 オウガのコックピットに、ハイネの曲が今も流れ続ける中俺の魂の咆哮が響く。

 

 

「その歌が、その熱量が、お前らのまやかしの催眠を撃ち破ったんだ! デスティニープランが発令された未来では、そんな熱い歌も、自由な魂も全部消えてなくなるだろうが! そんな死んだような未来、こっちは真っ平ごめんなんだよ!!」

 

 

 俺は操縦桿を強く握りしめ、黄金の鬼をオルフェの白銀の機体へと正対させた。

 

 

 

「俺はな! ただ静かに! 平和に! 贅沢に過ごしたいだけなんだよ!!可愛い嫁と一緒に二人で歩むためになぁ!!!」

 

 

 

 最後の最後に漏れ出た本音に、オルフェが「……ふざけるな!」と絶叫するのが聞こえたが、知ったことか。

 

 

 

 というかテメェ、俺の女の事を否定したな?絶対に潰す…!絶対に殺す…!こちとらさっさと終わらせてミーアに癒されたいんだよ!トダカは救えたし個人的にやることは全部終わった!だが戦後処理後の山ほどの書類と葛藤する前になぁ!!!

 

 

 

「そっくりそのまま返してやるよ! ふざけてるのはテメェらの存在そのものだ! 落ちろ、このカスがぁ!!!……あぁ、言っておくがな。今頃全世界の人間がお前の正体を知ってるだろうよ。お前がラクスを執拗に欲しがっていただの、欲情してた事実を全世界にばら撒いてやったからな! あ、もちろんラクスには既に想い合っている恋人がいるっていう補足付きでな!!」

 

 

 

 

 今にして思えば気絶する勢いでこの機体に乗り続けたせいでいよいよ、脳内麻薬が分泌されランナーズハイに近い状態になっていたんだろう。

 

 

 俺は心の底から込み上げる愉悦を抑えきれず、モニター越しに、この一年分のストレスを全て叩きつけるように中指を立てて笑い飛ばした。

 

 

 

「ギャハハハ! つまりテメェは全世界の人間に知られたんだよ! 幸せなカップルに割り込んで寝取ろうとする、救いようのない間男の弱チン野郎だとなぁ!?この汚名はこれから百年は全世界で語り継がれるネタになるだろうよ。ご愁傷様だねぇ、俺と同じくネットのおもちゃのオルフェ宰相!ギャハハ!!」

 

 

 

「き・さ・まァァァァァッ!!!!!」

 

 

 

 

 最早激怒すら通り越し、魂の奥底から噴出したようなオルフェの憎悪が通信回線を震わせる。

 

 

 

 だが、俺の後ろではババが既に「全兵装、オールグリーン!」と野太い声を上げていた。コンソールがカタカタと高速で鳴り響き、オウガの巨体に搭載された無数の火器が、迫りくる白銀のルドラ?へとロックを完了させる。

 

 

 

 黄金の鬼が咆哮し、一斉掃射の弾幕が宇宙を埋め尽くす。

 

 

 

 しかし、相手は腐ってもアコードのトップだ。オルフェの駆る機体は、オウガが放つ絶望的なまでの火線を、針の穴を通すような神速の機動ですべて回避しきってみせた。援護に入るハイネのデスティニーによる高エネルギー長射程ビーム砲の狙撃すらも、残光を翻しながら最小限の動きで避けて突っ込んでくる。

 

 

 

 ――あー、このままだと俺死ぬな。このままでは、ね?

 

 

 

 

 そう確信した、次の瞬間だった。 突如として戦域の「横」から、空間そのものを切り裂くような白銀の閃光が乱入した。

 

 

 

 オウガの喉元に食らいつこうとしていたオルフェの機体が、その凄まじい剣戟の脅威を回避するために大きく軌道をブレさせる。

 

 

 

 俺と、そして発狂寸前のオルフェの目の前に、それは降臨した。俺がオルフェの突撃を確信した瞬間に、暗号通信でミレニアムへ要請していた「最後の切り札」が。

 

 

 

 

 爆音の鳴り響いていた戦場が、その一瞬、神聖な静寂に包まれたかのように錯覚した。モニターに映し出されたのは、あまりにも神々しく、あまりにも圧倒的な武を示している。

 

 

 

 純白をメインにした装甲は戦火の光を弾き、背後で大輪の花が開くように展開された、黄金とピンクの粒子を纏う「翼」だった。その翼から放たれる輝きは、まるで宇宙そのものを描き変えるかのように広がり、無数の星々のような光の粉を周囲に撒き散らしている。

 

 

 

 右腰には一振りの日本刀――実体剣「フツノミタマ」を帯び、その姿はもはや一機の兵器ではなく、戦場を裁くために降り立った「傲慢な神」そのものだ。

 

 

 

 黄金のナノ粒子が織りなす極光のなかで、そのMSは静かに、だが絶対的な守護者としてオウガの前に立ちはだかる。

 

 

 前世では、圧倒的な力を見せつけるストライクフリーダムとそのパイロットを指して、「なんと傲慢なのだろう」「神にでもなったつもりか」と揶揄する怪文書めいたネタも存在していた。だが、今この眼前に君臨する「本物」を前にすれば、そんな軽口は塵紙ほどの価値もなく霧散する。

 

 

 

 見ている者に逃れようのない絶望と、抗いがたい畏怖を刻み込む黄金と白銀の化身。その名は、マイティーストライクフリーダム。そして、その極光の中心で、かつて「最強」と謳われた自由の守護者が口を開く。

 

 

 

「大丈夫ですか、ユウナさん!?」

 

 

 

 パイロットであるキラが、こちらを心底気遣うように問いかけてくるが……思えば、遠いところまで来たもんだ。

 

 

 当初の俺にとって、キラ・ヤマトという存在は特大の破滅フラグそのものだった。彼と敵対する未来を回避するため、必死に媚を売り、関係を築こうと奔走した日々が昨日のことのように思い出される。

 

 

 それが今や、キラの家で夕飯を馳走になるほどの仲だ。打算から始まった関係だったが、まさかその「フラグ」本人に、こうして命を救われることになるとは……。運命とは皮肉なものだが、これほど心強い皮肉もない。

 

 

 

 すると、キラと共に同乗しているラクス・クラインが、冷徹なまでの静謐さを湛えた声で全戦域に宣告した。

 

 

 

『……武装解除しなさい、タオ宰相。最早、戦いは終わりました。恥という感情が貴方の中に少しでも残っているのなら、潔く裁きを受けなさい。そうしてくださるのなら、貴方の命だけは……私も弁護しましょう』

 

 

 

 ラクスの声には、迷いも躊躇もない。自身の「ツガイ」になるはずだと信じて疑わなかった女を別の男に奪われた挙句。

 

 

 その女本人から、「さっさと降伏しろ」「恥を知れ」と、慈悲と嫌悪が混ざり合った言葉を叩きつけられる。自分達こそが絶対の正義だと信じて疑わなかったオルフェにとって、これ以上の屈辱と地獄があるだろうか。

 

 

 

 アコードという選民思想の頂点に立ち、世界を支配するはずだった男。それが今や、全世界に「恋仲のカップルに割り込もうとして無様に振られた間男」というレッテルを貼られ、憧れの女からゴミを見るような憐れみの視線を向けられている。

 

 

 

 

 ……流石の俺も、今この瞬間だけは……少しだけオルフェに同情する。これ、死ぬよりきついだろ……

 

 

 

 

 俺はオウガのシートに深く背を預け、冷や汗を流しながら苦笑した。自由を掴む為に出撃するラブラブカップル機体の背後で揺らめく極光が、あまりにも眩しすぎて、全てにおいての敗北者であるたった一人の青年の惨めさを、これ以上なく残酷に照らし出しているのであった。





・FREEDOM
 劇場版ガンダムSEED FREEDOMの冒頭でながれたテーマ曲。今作では以前から何度も描写されていたハイネの副業はミュージシャンという今作限定の設定を元に、彼がザフト軍として働く合間に作り出して歌っていた曲という設定に。

 ユウナとしては本当にダメ元であり、ダメならダメで仕方ないから切り替えようとしていたのですが……以前後書きでも語らせていただいたエヴァンゲリオンのスピンオフ作品、ピコピコ中学生伝説でも描かれた理論。「人間の心の壁はそれ以上の衝撃が与えられると上書きされて打破されてしまい、ATフィールドは破られる」という設定通りの結果に。

 つまり、アコード達によって広く、浅く思考を固定化された兵士達は爆音で国際救難チャンネルから強制的に流れてくるハイネの曲を無理やり聞かされてしまい、その内容と爆音による衝撃によって解除。その上でアルテミスの陥落、レクイエムの破壊。そして圧倒的に不利な多国籍連合軍に包囲されてるという状況を咄嗟に見せつけられた時……果たして目覚めた後の兵士達はどうなるのかと言えば…。元々ファウンデーション出身の人間は士気が低いと劇場版でも描写されており、圧倒的不利な状況から与えられたユウナのこの演説は。最後の蜘蛛の糸のように感じられたでしょう。

 隠してファウンデーション軍の多くは「士気と前線が完全崩壊した通常の軍らしく」降伏や逃亡、徹底抗戦など「当たり前の」行動をとるようになり次々と統制は崩壊。旗艦グルヴェイグも最早これまでと降伏派の兵士も少なくないことに気づいたオルフェは即座にカルラに乗って出撃することを選び、半ばヤケに。だがアコードとしての能力をフル活用できる自分一人だけでも生き残れば、役目を果たせると信じつつも。それでも盤面を全て台無しにしたイレギュラーであるユウナを抹殺するために、一人孤独なたったひとりの最終決戦を挑むのでした。

 なおユウナはマジで驚いており。ダメ元で行った行為で次々と戦場が沈静化するのを見て「知らん…なにそれ怖…」とドン引きしているのは内緒。多国籍軍の兵士達も、音楽が流れ始めてしばらくしてから汚ねぇドラえもんの演説が始まったかと思えば、次々と敵兵士達が降伏や戦闘停止を選び始めて「なんで…?」となりつつも指揮官達は降伏を受け入れたそうな。ファウンデーションの捕虜なんているかよ!なんて場面を見られた瞬間多国籍軍に次にボコボコにされるのは自分達ですから。

・オルフェ
 今作で史実と比べて遥かに割を食ってしまい、申し訳なく感じる宰相閣下。プロパガンダでよりにもよってプラントを中心に支持されているラクス・クラインの身柄を嫁として欲しいと暴露(デュランダル情報)された挙句、ラクスには結婚を前提に付き合っている婚約者がいると発表されたが為に。人妻を相手に強奪する為に軍を起こして核やレクイエムを吹っ飛ばした間男野郎として、レクイエム陥落後に世界中に知られてしまい。ユウナと同じく顔を知られた上でネットの玩具になるのはほぼ間違いないでしょう。

 この辺りは悪意もありますが、万が一オルフェを逃した場合の保険もかねており、多かれ少なかれ多国籍軍の正統性を世に知らしめる為にアウラやオルフェの醜聞に対する噂はデュランダル議長からの情報によって真実と虚飾を織り交ぜながら公開されており、ファウンデーション兵士達が降伏を選んだ理由も「俺達は女を寝取ろうとした、独裁者の一族の間男の為に戦ってたのか…?」という絶望も含めてだったりします。


 実際にはオルフェはラクスにかなり好意的で、欲望の為にと言うよりはアコードやデスティニープランの導き手としての役目を果たす為に共に、責任を持ってツガイになろうとしており。ラクスへの扱いは本来ならかなり丁重なのですが……故にオルフェは相当ブチギレており、ユウナもまたこの一年近くの溜まりに溜まった怒りをぶつけて、こんな馬鹿みたいな会話につながるのでした。


・キラとラクス
 なおキラからすればある程度フェイクが混じってるとは言え。ユウナを殺そうとしてラクスを奪おうとしてる男だとオルフェを普通に嫌っており、ラクスもまた史実と比べて微塵も絡みがないので「さっさと降伏してほしい」と思ってる恥知らずで破廉恥な男だと認識しています。Bデバイスのせいでラクスとキラの感情を読み取れなくてある意味オルフェは幸運でした。二人の本音や内面まで知ってしまえばオルフェは発狂していますから。

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
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