破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第七十三話 闇に潜む者

 

 

 

 

 

 キラとオルフェが「愛」と「運命」を賭けた……訳でもなく、一方的にブチギレるオルフェに(なにこの人…)と白い目を向けながら、キラとラクスが最後の一騎打ちに突入する直前――別の戦域では、見る者が息を呑むほどの濃密なMS同時の激突が繰り広げられていた。

 

 

 アスラン・ザラの駆るズゴックと、シュラ・サーペンタインのブラックナイトスコード・シヴァ。宇宙を駆けるズゴックというギャグのような構図でありながらも、人類最高峰と言えるエース同士の激突がそこにはあった。

 

 

 

「ハハハッ! やるなアスラン・ザラ! だが貴様は私には勝てない。それがお前の、変えられぬ『運命』だからだ!!」

 

 

 

 高揚感に酔いしれるシュラの叫びが、通信回線を叩き切らんばかりに響く。シヴァの動きは、もはやモビルスーツの範疇を超えていた。近接格闘に特化したその機体は、踊るようにアスランを追い詰めていく。

 

 

 翻るビームマントがズゴックの視界を遮り、死角から三本のビームサーベルが容赦なく突き立てられる。それを紙一重でかわしたアスランの目の前には、既に赤く焼熱したヒートソードが迫っていた。

 

 

「……っ!」

 

 

 アスランに射撃の余裕など一瞬たりとも与えられない。戦場は、ザフト反乱軍の成れの果て――轟沈した艦艇や撃破されたMSが折り重なる、広大なデブリ地帯へと移っていた。

 

 

 二人は巨大な鋼鉄の残骸を足場にし、反動を利用して宇宙を縦横無尽に駆け抜ける。シヴァの鋭い一撃が、足場にしていた戦艦の装甲をバターのように切り裂き、爆発の光が二人の機体を交互に照らし出す。

 

 

「どうした! 逃げ回るだけか、最強の騎士と謳われた男が!」

 

 

 なお、そんな事は自称でも他称でも認定された事はないが、シュラの猛攻は止まらない。

 

 

 格闘戦において無敵を誇るシヴァの連撃に対し、アスランはあえてその懐へと飛び込み、ズゴックの太い腕で攻撃を捌き続ける。何十分にも及ぶ、神経を削り取るような超高速の白兵戦。最強を自負するアコードの剣技と、数多の修羅場を潜り抜けてきた戦士の直感。

 

 

 静寂の宇宙に火花だけが激しく散り、二人の意地と技が、デブリの迷宮の中でより一層深く、鋭く交錯していく。

 

 

「……確かに我々の軍は敗北した。それは認めよう」

 

 

 シヴァのヒートソードが、ズゴックのアイアンネイルと激突し、凄まじい火花が二機のコックピットを白く照らし出す。シュラの顔は、狂気すら感じさせる昂揚感に歪んでいた。

 

 

「だが、私自身は勝たせてもらう! ここで『コンパス』最強のパイロットである貴様を仕留め、その後にキラ・ヤマトも、シン・アスカもすべてを私の手で屠って見せる!!」

 

「シンは既にホーク姓だ」

 

「知らん!殺されるのであれば名前なぞどうでもいい!」

 

 

 シュラの瞳は、事実を認めているにもかかわらず、勝利への執着によって爛々と輝いている。その姿は、軍が敗北し、組織が崩壊しているという客観的な現実を、個人の武勇という矮小な価値観で塗り潰そうとする執念の権化だった。

 

 

(……軍が負けても、自分は負けていない、か)

 

 

 

 アスランは冷静に、そして冷徹にシュラの剣筋を捌き続ける。シュラの目から見れば、アスランは防戦一方。このまま押し切れば勝利し、更なる高み、更なる「強さ」という称号を手にできると信じて疑っていない。

 

 

 だが、数多の戦場を潜り抜け、人類の興亡を背負い続けてきたアスランの目には、その姿はあまりにも歪んで映っていた。

 

 

 

 この男は、戦っているのではない。

 

 

 

 自分の「強さ」を証明するためだけに、他者を、そして戦場を消費している。

 

 

 

 それは武人としての誇りなどではなく、ただの自己中心的で幼稚な独りよがり。シュラがどれだけ鋭い剣技を見せようとも、アスランにとってそれは、大義も守るべきものも持たない子供が、ただ「最強」という言葉に縋って武人ごっこに興じているようにしか見えなかった。

 

 

 

 絶望的な状況にヤケになっているわけでも、能力が低いわけでもない。ただ、その性根が、救いようがないほどに空っぽなのだ。

 

 

 

「……やはり使えないな」

 

 

 

「何を?だが、貴様は負ける! 俺の剣に、その鈍重な機体と共に切り裂かれるのだ!!」

 

 

 

 心底見下げ果てた、氷のような呟き。それを聞き咎めたシュラが、逆上したようにシヴァの推力を最大まで高める。

 

 

 噛み合わない対話。同じ言葉を用いながらも、見ている地平が、魂の在り方が、決定的に異なっている。アスランにとって、眼前のシュラ・サーペンタインという男は、もはや人間という枠組みを共有する者ですらなかった。ただの異質な、理解を拒絶する「ナニカ」――。

 

 

 

 アスランの瞳に宿ったのは、敵意でも憤怒でもなく、底冷えするような「哀れみ」だった。

 

 

 

 目の前の男――シュラ・サーペンタインは、己の役割以外の生き方を知らない。戦うために望まれて産まれ、最強であるための教育だけを施され、それが人格のすべてを支配している。

 

 

 

 それはかつて、父パトリック・ザラの掲げる大義のままに、ナチュラルへの怒りを燃料として戦い続けていた頃の、そしてキラと決着をつける前の自分自身が辿ったかもしれない、もう一つの可能性の成れの果てだ。

 

 

 

 だが、同情の余地など微塵もなかった。

 

 

 

 哀れには思うが、あまりにも歪みすぎ、思考の前提が違いすぎる。

 

 

 

(……父上は、母上を失った悲しみと怒りに狂い、あのような凶行に走った。ムルタ・アズラエルはコーディネイターへの深い憎悪という根源的な歪みがあった。だが、お前は何だ?)

 

 

 パトリック・ザラのように、妻レノアを奪われた絶望から大量虐殺を企てたわけではない。アズラエルのように、執拗なまでの反コーディネイター思想に基づき、プラントを丸ごと消し去ろうとしているわけでもない。

 

 

 シュラには、思想がない。

 

 

 自国民を含めた大量殺戮の完遂を目の前にしてなお、そこには罪悪感もなければ、歪んだ義憤すらない。ただ「アウラやオルフェがデスティニープランのために必要だと言ったから」という理由だけで、数億の命を削る決断を、何の感慨もなく、ただの作業として受け入れている。

 

 

 例えば、ゲームの中で罪のないNPCを殺すときのような、残酷な興味本位や憂さ晴らし、あるいは背徳的な満足感という感情すら彼には欠落している。ただ無機質に、淡々と仕事をこなすだけの精神性。

 

 

 

「……やはり、お前はヒトではないな」

 

 

 アスランの言葉は、もはや罵倒ですらなく、冷徹な事実の指摘である。感情があるからこそ、人は迷い、苦しみ、そして変わり得る。だが、感情を「効率」のために切り捨て、役割の中にのみ自己を投影するシュラは、アスランにとって同じ言葉を話すだけの、全く異質な生命体にしか見えなかった。

 

 

 だが、その異質な強敵を前に、アスランはかつてない窮地に立たされていた。原因は、ユウナがアスランたちに内緒でズゴックに組み込んだ、忌まわしき『Bデバイス』にある。

 

 

 

 この禁忌のデバイスは、パイロットの思考を読み取ろうとするアコードの能力に対し、出鱈目な操作コマンドや膨大な思考ノイズを同時に叩きつけることで、強制的に読心を無効化する。シュラがアスランの心を覗こうとしても、そこには荒れ狂う嵐のような情報の濁流があるだけで、次の動きを予読することは叶わない。

 

 

 しかし、劇場版のシナリオという「正解」を知らぬユウナの施策は、皮肉な結果を招いていた。

 

 

 

 読心が完全に封じられたことで、アスランはカガリのリモート操作による撹乱や、あの「破廉恥な妄想」でシュラの精神を乱すという搦め手を使う必要も、機会も失ってしまったのだ。

 

 

 

 結果として、この宙域で繰り広げられているのは、小細工一切なしの、純粋なモビルスーツ戦における実力勝負であり、そしてその領域において、近接格闘に特化した最新鋭機シヴァと万能機であるズゴックとの差は、あまりにも残酷だった。

 

 

 

「アスラン・ザラ!!」

 

 

 

 シュラの叫びと共に、シヴァのヒートソードがズゴックの右腕を掠め、火花が散る。アスランは反射的に機体を翻し、漂流する反乱軍艦艇の残骸を盾にした。直後、その巨大な鋼鉄の塊がシヴァのビームマントによって両断される。

 

 

(……くっ、速い……!)

 

 

 

 読心さえできなければ勝機はあると考えていたが、シュラ本人の卓越した剣技は、それを補って余りある。アスランは轟沈した戦艦の甲板を蹴り、デブリの影へと逃げ込むが、シヴァは残像を残すほどの加速で肉薄してくる。

 

 

 時には爆発するエンジンの光を眩惑に使い、時には味方の残骸を足場にして加速する。数多の戦場を潜り抜けたアスランの直感をもってしても、この狂気的なまでの最強への執着を持つ男を振り切ることができない。

 

 

 アスランの額に、じりじりと汗が滲む。Bデバイスによる「純粋な実力勝負」という土俵。それはアスランにとって、己の技量のすべてを限界まで引き出さねば一瞬で命を刈り取られる、最も過酷な死地へと変貌していたのだ。

 

 

「どうした、最強! 思考が読めずとも、貴様の機体の動きは止まって見えるぞ!!」

 

 

 

 その時だ。アスランの鋭敏な視界が、デブリの合間に漂流する一機のザクを捉えた。頭部と脚部を欠損し、岩塊に激突した衝撃で止まったままのその機体は、コックピットこそ無事だが生体反応は皆無。

 

 

 パイロットはなんらかの不慮の衝突による事故死を遂げたのだとアスランは即座に断定した。だが、動力源はまだ生きている。

 

 

 

「逃がさんと言っているだろう!」

 

 

 

 アスランはズゴックを翻し、執拗に追従するシヴァをそのザクの残骸の影へと誘い込んだ。

 

 

 猛追するシヴァがザクの至近を通り抜ける刹那、ズゴックのビームがザクの腹部を正確に貫く。直後、零距離で発生した高出力の爆発が紅蓮の炎となってシヴァを飲み込む。

 

 

 だが、シュラは怪物じみた反応速度でこれに応じた。サブアームで保持したシールドを即座に展開しつつ、装甲表面のゲシュマイディッヒ・パンツァーを正面に集中。爆風を物理的に弾き飛ばし、その無傷の姿を三秒と待たず爆炎の中から現した。

 

 

「小細工をォッ!!」

 

 

 激昂するシュラ。だが、そのわずかな「三秒」こそがアスランの狙いである。ズゴックの両腕だけではなく、そして頭部ミサイルランチャーも含めた全砲門が正面へと火を噴き、その灼熱の濁流がシュラのシヴァを飲み込もうとした、その瞬間だった。

 

 

 爆炎を切り裂き、シュラのシヴァの胸部装甲が展開され、やがてあたかもアスランの動きが予読されているかのような超人的な精度で、無数の硬質ニードルが降り注いのだ。

 

 

 青白いエネルギーを纏った鋼鉄の針の雨が、アスランのズゴックに降り注ぐ。外部装甲はめった刺しにされ、各所から火花と警報音を吹き上げながら崩壊していく。

 

 

 

「……ッ、この程度!」

 

 

「……ほう。外部装甲か。小癪な! ……第二ラウンドだな、アスラン・ザラ!」

 

 

 

 ズゴックの装甲は崩れ落ちるが、シュラは一瞬でその真実に気づき、その声は興奮を帯びて響きわたる。そして、爆散するズゴックの装甲。その破片の向こうから、鋭利な殺気を纏った真の姿を現したのだ。

 

 

 

 全身を真紅の輝きを宿した機体――かつてメサイア攻防戦を戦い抜いたアスランの乗機であるインフィニット・ジャスティス弐式がシュラの眼前に現れる。

 

 

 

 仮初めの皮を脱ぎ捨てたアスランは今、最強のアコードを屠るためにその全力を解放する中、己が力を示さんとするシュラ。今度こそと。今度こそ敵を仕留めんと二人の死闘が再会する。

 

 

 

 

「来い、アスラン・ザラ! その首、俺の武功として……!」

 

 

 

 

 

 シュラが狂喜に歪んだ顔でシヴァの推力を最大まで引き上げ、ヒートソードを振りかざしたその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――音が、消えた。

 

 

 

 

 

 

 真空の宇宙において音など元より存在しないはずだが、アスランの感覚の中では確かに、全てのノイズが消失したかのような奇妙な静寂が訪れた。直後、ジャスティスのメインモニターに、一条の青白い閃光が走る。

 

 

 

 それはビームのような光の帯ではなく、空間そのものを削り取るかのような、超高速の質量弾が残した破壊の軌跡。

 

 

 

 シュラの叫びが「断末魔」に変わる暇すらなかった。無敵を誇ったシヴァの胴体中央――腹部の装甲の真下辺りに何かに「触れられた」かのように一瞬で赤熱し、次の瞬間には膨大な運動エネルギーに耐えきれず、爆発的にひしゃげた。

 

 

 

「……え?」

 

 

 シュラの、困惑に満ちた声が通信回線に漏れる。シヴァの機体は、まるで目に見えない巨大な巨人の刃に叩き切られたかのように、上半身と下半身が無残に分かたれ、火花を散らしながら別々の方向へと吹き飛んでいく。

 

 

 

 アスランは機体を静止させ、眼前で起きた凄惨な場面に呆然と立ち尽くす。最強のアコード。自分をここまで追い詰め、これから死闘を演じるはずだった怪物が、たった一撃――それも、自分ではない「何者か」の放った一撃によって、ゴミのように散らされたのだ。

 

 

 

(……この、弾道と威力。シンが使っていたレールガンか?)

 

 

 

 アスランの脳裏に、ユウナが持ち込んだ特殊装備『ライコウ』のデータが過った。レールガンの加速力と、ドッズ技術による超高周波の回転を加えた質量弾。収音性を高められたガイアティターンズの主武装であったそれが使用された事を彼は知る。

 

 

 

 

 誰が。どこから。

 

 

 

 アスランが視線を巡らせると、爆散するシヴァの残骸の影から、空間が不自然に揺らぎ始めた。陽炎のように揺らめく空間から、ミラージュコロイドの粒子が剥がれ落ちていく。

 

 

 

 そこに現れたのは、かつてのニコルが駆ったブリッツを彷彿とさせる、不気味なほどに深い濃緑色の機影――NダガーNであった。

 

 

 

 その機体は、今の惨劇を引き起こした巨大な砲身「ライコウ」を両腕で抱えるように保持している。砲身からはまだ、放たれたばかりの熱気が陽炎となって揺らめいていた。

 

 

 

「……ミラージュコロイドだと? 誰が……」

 

 

 

 流石にアスランは戦慄する。この距離、このタイミング。自分がシュラと切り結ぶ寸前の、一分一秒を争う彼が立ち止まった僅かな隙を完璧に突いた狙撃を。NダガーNは沈黙を守ったまま、ただ静かにカメラアイをアスランへと向けた。

 

 

 

  最強を自称した男は、もはや宇宙の塵に等しい残骸と化している。代わりに現れたのは、亡き戦友の面影を持つ、音も無く立ち尽くす「忍」――NダガーNであった。

 

 

 静寂が支配する戦場。だが、その沈黙を切り裂いたのは、MSの駆動音ではなく、通信回線から流れ込んできた、耳を刺すような狂気の笑い声だった。

 

 

 

「……ふふ、あははは……っ! あははははははッ!!」

 

 

 

 アスランは息を呑む。それは勝利を噛みしめる戦士の叫びなどではない。

 

 

 もっとドロドロとした、どす黒い歓喜。何かにとり憑かれたかのような、残酷で、凄惨な、剥き出しの「快楽」が混ざった笑いだ。

 

 

 

「やった……やったわ……! ついに、ついにやったのよッ!!」

 

 

 

 狂ったように繰り返される言葉。その声の主を、彼は即座に特定した。

 

 

 コンパスに所属する、アグネス・ギーベンラート中尉。

 

 

 

 彼女の名前と顔は知っているし、ミレニアムの格納庫やブリーフィングルームで何度か見かけたことはある。しかし、直接言葉を交わしたことは片手で数えるほどしかないアスランにとって、彼女はハイネから聞いたことのある。「才気はあるが扱いづらい若手パイロット」の一人に過ぎなかったはずだ。

 

 

 だが、今モニター越しに聞こえてくる声は、彼の知る高慢なエリート兵士のアグネスとは別人のそれであった。例えるのなら……コーディネイターを殺戮するブルーコスモスや、ナチュラルを軽蔑するコーディネイター兵士のような憎悪と歓喜に塗れたものであった。

 

 








 実の所ユウナは、半壊したNダガーNの現物を戦後のどさくさで入手しているなど、その気になればミラージュコロイド搭載機によるカウンターテロも行える立場だ。
 
 とはいえコンパスの理念を考えれば、やはり正面切ってテロリストを駆逐することが望ましい。自分たちの組織のアピールを国内外に示しつつ、テロリストに恐怖を与える為に。故にユウナは乗りたくもないアカツキに再び乗る羽目になったのだから。

第一三話 コンパス初出撃
 ユウナの内心より。

ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?

  • 原作通り。
  • 平和の為に覚悟を決める。
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