破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
「……君はアグネス・ギーベンラート中尉か?」
アスランは警戒を解かぬまま、努めて冷静に問いかけた。目の前の「忍」の手にあるライコウは、今やシュラの残骸を焼き切り、次の獲物を求めているようにも見えている中、それでも話しかけられるのは流石アスランなのだろう。
「……助かった、感謝する。君の援護がなければ、今頃どうなっていたか分からない。だが、なぜ君がここに……? 君は別宙域での作戦に参加していたはずでは――」
アスランが言葉を紡いでいる間も、アグネスは激しく、そして嬉々として笑い続けていた。彼女にとって、アスランの言葉など耳に入っていないのではないかと思わせるほどのトランス状態。
しかし。ある一点を境に、彼女は「ふぅー……」と、長く、重い溜息を吐き出してみせる。それは、昂ぶった熱を強制的に排熱するかのような、不気味なほどに冷ややかな呼吸であり。そして、次の瞬間、通信回線から聞こえる彼女のトーンは、先刻までの狂乱が嘘であったかのように、凪いだ水面のような静けさを取り戻していたのだ。
「……失礼いたしました、ザラ一佐。少し、取り乱してしまい申し訳ございません」
一転して、丁寧で、それでいて感情の起伏を一切感じさせない事務的な声。その急激すぎる「変貌」に、アスランは背筋に冷たいものが走るのを感じる。
「……君、は……」
「コイツは、殺された私の恋人の仇なんです」
アスランの問いかけに、アグネスは冷徹に吐き捨てるように言葉を返した。
その言葉に含まれた「殺意」の純度に、アスランは息を呑む。アグネスの声は震えてすらいない。ただ、事実を冷たく陳列するかのように続いた。
「私に相応しい、優秀で、優しくて、頼りになる最高の恋人だった……。ザフト赤服のエースパイロットで、家柄もいい。見た目だって最高に格好よかった。私の隣に並ぶのに、これほど相応しい男はいなかったわ」
彼女が語るその「恋人」への評価は、どこまでも自己中心的で、まるで自分の価値を証明するための『装飾品』を慈しむような響きを孕んでいた。
「なのに、この屑に殺された」
NダガーNが抱えるライコウの砲塔が、宇宙を漂うシヴァの無残な残骸へと向けられる。
「あの『フリーダム強奪事件』の時、テロリストに殺されたテストパイロット。……あれは私の恋人、レオナード・バルウェイだったのよ。私は彼を殺したブルーコスモスのテロリストが許せなくて……だから『コンパス』に入った。殺して、殺して、一匹残らず殺し尽くしてやるために」
アスランの脳裏に、かつての事件の記録が浮かぶ。ユウナの活躍により未遂に終わったものの、テロリストの襲撃により少なくない悲劇を出し。そして、強奪されたストライクフリーダムのパイロットはテロリストにより射殺されていたと。
アグネスがそれほどまでの執念で戦っていた理由を、アスランは初めて知る。だが、彼女の告白はそこで終わらない。
「そうしたら、少し前の格納庫でセイラン副総裁に伝えられたわ。……彼を殺した真の黒幕は、ファウンデーションのアコードだったんだってね。監視カメラの映像や通信記録……それらを解析して導き出された『最も可能性の高い犯人』」
通信越しに、アグネスが自嘲気味に、しかし狂おしいほどの憎悪を込めて名前を呼んだ。
「……シュラ・サーペンタイン。私を舞踏会で、あんなに優雅にダンスに誘ったあの男。私の『最高の恋人』を無残に、まるでゴミのように処理したのがコイツだったんです」
アグネスの言葉が、アスランの背筋を氷のように冷やす。シュラという男は、確かに人間らしい情緒を欠いた怪物だった。だが、それを討ったアグネス・ギーベンラートもまた、別の意味で常軌を逸している。
アスランは彼女の本当の「悪癖」を知る由もない。優秀な男を見つけては自らを飾るアクセサリーのように側に置き、時として他人の恋人を奪うことすら厭わない。そして、より自分を輝かせる「価値ある男」を見つければ、それまでの相手を未練なく切り捨てて次へ走る。
カガリという唯一無二の存在と添い遂げようとするアスランにとって、それは到底理解し得ない空虚な行動原理だ。だが、そんな彼女の背景を知らずとも、アスランの戦士としての直感は、彼女の告白の裏に潜む致命的な歪みを鋭く捉えていた。
(……私に相応しい、か)
アスランは内心でその言葉を繰り返す。彼女が怒っているのは、決して愛する者を奪われた悲しみゆえではない。「自分という優秀な存在に相応しいツガイ」という、自分の価値を担保するためのパーツを壊されたこと。それが彼女のプライドを、何よりも深く傷つけたのだ。
自分に相応しいはずの男を、ゴミのように殺される。それは、異常なまでの承認欲求を抱える彼女にとって、自身の存在根底を泥靴で踏みにじられるに等しい屈辱であったに違いない。
彼女にとってレオナードという男は、一人の人間ではなく、自分の美しさと有能さを引き立てるための「額縁」に過ぎなかったのだ。その額縁を壊したシュラが、あろうことか自分を誘惑し、自分を「選ぼう」としていた。その事実こそが、彼女にとって耐え難い自己否定に繋がったのだろう。
だが、同時にアスランは気づく。アグネス自身は、その救いようのない歪みを一欠片も自覚していないということに。
「……あは、あはは! 本当にスッキリしたわ。これでようやく、レオナードも報われる……」
通信越しに聞こえる声は、いまや「悲劇のヒロイン」を演じきった充足感に満ち溢れている。彼女の中では、この凄惨な闇討ちは「純粋な恋人の仇討ち」という美しい物語として完結しているのだ。
自分の肥大化した自尊心を守るための殺戮を、無垢な愛情ゆえの復讐だと思い込める精神の在りよう。それは、ある意味ではシュラの虚無よりも恐ろしい、「自己愛」という名の底なしの沼であった。
人を愛しているようで、その価値観の根底が決定的に違う。嫌悪感を超え、あまりに異質なその精神性にアスランが苦い顔を隠せずにいると、アグネスはまるでお気に入りのおもちゃを与えられた子供がそれを見せつけるかのように、聞いてもいない内情を饒舌に語り始めた。
「この機体はセイラン副総裁に与えてもらったんです。NJCに加えてミラージュコロイドを搭載した究極のステルス機……。先の戦乱のどさくさで連合から接収した機体の一つだったみたいですけど、副総裁はいざという時の『切り札』として密かに修復・調整させていたんですって」
恍惚とした表情が目に浮かぶような声色。アスランにとって、NダガーNという機体は「悪い意味」で有名すぎる存在だった。かつて非人道的な任務を遂行した地球連合軍特殊部隊。ロゴスの私兵であるファントムペインの象徴。
ユニウス条約を公然と無視して開発された禁忌の機体だ。それがデータ上ではなく、現物としてオーブに、それもユウナの私物に近い形で保持されていたという事実。
「最初は私、インパルスに乗るつもりだったんですけど……二人きりになった時に、副総裁が事件の真相を教えてくれたんです。あいつらが、私からレオナードを奪った黒幕だって。その上で、あの方は仰ってくださいました。『君に相応しい舞台と、仇を討つための牙を用意しよう』って」
そう語るアグネスの背後にあるのは、執念を超えた「承認」への飢えだ。ユウナは彼女の自己愛性パーソナリティ障害とも呼べる危うい自尊心を完璧に見抜き、復讐という甘い餌で、この高性能な「暗殺者」を飼い慣らしたのだ。
「それからの私の任務は、ただ一つ。常にミラージュコロイドで潜伏し続け、戦場を俯瞰し、あなたを……ザラ一佐を絶好のタイミングで援護すること。いえ、援護なんて建前はどうでもいい。あいつが止まる、最高の一瞬まで息を潜め続けて、一撃でその誇りを粉砕することだけを考えていました。……ねえ、一佐? 私の今の狙撃、完璧だったでしょう? あのアコードが、自分が死ぬことすら気づかずに真っ二つになったんだから」
シュラという最強の武人が、たった一度、アスランという強敵を前にして「己の勝利」を確信し、立ち止まった刹那。そこだけを狙い澄まし、ミラージュコロイドの闇から引き金を引く。
アスランは戦慄と共に、一つの疑念を抱かずにはいられなかった。
(ユウナは……最初から俺を『囮』にするつもりだったのか? アグネスのこの一撃こそが、彼の本命だったというのか)
だが、その推測は半分正解で、半分は外れていたのだ。あのアコード達の中でも推定最強と目され、かつてあのカナードすらも苦戦させたシュラ・サーペンタイン。その化け物を確実に仕留めるための「保険」として。
そして、万が一にもアスランが窮地に陥った際、彼を死なせない為。友人の命を救い、カガリを悲しませない為にユウナはアグネスを配置していた。
アスランがその真実を知るのは、すべてが終わった戦後、ユウナを問い詰めた時のことになる。
「……何故、彼女を選んだ。お前なら、アグネス・ギーベンラートの危うさを……あの精神性の歪みに気づかなかったはずがないだろ」
アスランの厳しい追及に、ユウナ・ロマ・セイランはいつものように食えない笑みを浮かべ、肩をすくめて見せた。
「んなもん、あの子が色々とヤバい事くらい分かってるさ。だがね、復讐っていうのは、前を向くために必要な工程なんだ。抱えすぎればいつか暴発して、自分も周囲も焼き尽くす。だから、吐き出させる場所が必要だった」
ユウナはデスクの上の書類に視線を落とし、どこか遠くを見るような、それでいて深い敬意の混じった声で続けた。
「復讐は決して悪いことじゃない。……俺はね、復讐のために何十年も、己のすべてを削って苦しみ続けた、尊敬すべき人間を二人程知っているんだ。彼らの背中を見てきたからこそ思うのさ。周囲のためにも、そして何よりあの子自身の未来のためにも、ちょっとくらい手助けしてやって、その『喉に刺さった棘』を抜いてやってもいいだろう?」
ユウナの言葉に、アスランは言葉を失う。アグネスの歪みすらも暴発を防ぐための調整対象として扱い、その裏に「復讐者への敬意」という、彼なりの奇妙な倫理観を忍ばせている。
「復讐は何も産まない、だから飲み込めばいい。我慢すればいい。……綺麗事としてはそれでいいが、アグネスみたいなタイプはそうもいかない。実に厄介だからな」
ユウナは手元の資料を片付け、背もたれに深く体を預けた。その目は、かつて戦場を俯瞰していた時と同じ、冷徹で客観的な光を宿している。
「本人は上手くやってるつもりだろうが、彼女はテロリストを捕らえる際、合間合間に必要以上の残虐さで殺してやがる。今はその矛先がブルーコスモスに向いているから熱心な平和の番人で済んでいるが、いつか取り返しの付かないことをしかねない。俺はそれが心配だったのさ」
「……お前は、彼女をどうしたいんだ」
「勘違いしないでくれ。アグネスに関しては、俺だって個人的にはお友達になんてなりたくないし、たとえミーアがいなかったとしても、彼女を恋人にするなんて真っ平ご免、ノーセンキューだ」
アスランの問いに、ユウナは苦笑して首を振った。
あまりに正直で、それでいて身も蓋もない物言いにアスランが呆れを隠せずにいると、ユウナは表情を引き締め、核心に触れた。
「だがなアスラン。あの子は……レオナードを失う前から、あの悪名高い『鬼畜ミッション』に執念で挑み続け、クリアするまで自分を追い込める人間なんだ。……自身を磨き、努力し続けることを、彼女は決して恐れていない」
ユウナの視線がアスランを射抜く。
「コーディネイターのお前ならわかるだろう? 初めからナチュラルより遥かに優秀で片手間に結果を出せるコーディネイターが、それでも『努力』を積み重ねるということが、どれだけ凄まじい熱量を必要とするか。彼女の承認欲求の強さはともかく、その技能は凄まじい努力の裏返しでもあるのさ。自分を磨き抜いたという自負があるからこそ、それに見合う価値を世界に求めずにはいられない」
だからこそ、勿体なく思った。そう、ユウナの声には、打算や利用を超えた、一人の才能ある若者への冷徹なまでの「慈しみ」があったのだ。
それはある意味では元々はヴィランとして、小悪党として生み出されたユウナという男が。危うい彼女に自身を重ねて見せたと言うシンパシーの現れなのかもしれない。
「アイツは確かに歪んでいる。だが、人の道を外れた『外道』ではない。性格の悪い、鼻持ちならない女かもしれないが、根っからの『鬼畜』でもない。……そんな奴が、ただ復讐という棘を喉に刺したまま、ドス黒い憎しみに飲み込まれて本当の怪物に成り果てる。バカみたいなケチな結末なんぞオーブの副総裁として、そして何より一人の人間として嫌だろ?」
ユウナが彼女にNダガーNという「禁忌の牙」を与え、シュラという怨敵をあてがったのは、単なる戦力としての活用だけではない。
それは、アグネス・ギーベンラートという少女が、自分という価値を証明するために積み重ねてきた努力を、憎しみという泥沼の中で腐らせないための後押しであり、彼なりの自己満足である。
だが、ユウナの真意を知る由もない今のアスランにとって、その光景は「守るべき規律」から大きく逸脱したものに見えていた。
ようやく信頼関係を築けつつあると思えていたユウナ・ロマ・セイランへの拭い去れぬ疑念。本当に彼女に撃たせてよかったのか。私怨による処刑を肯定してもいいのか?
アスラン・ザラという真面目すぎる男にとって、ファウンデーションとの戦闘そのものに迷いはなかったが、目の前で歓喜するアグネスの姿を肯定すべきか否定すべきか、その答えを出すことはできなかった。
だが、彼女に命を救われたのは確かなのだ。彼女を否定すれば、自分の命を救ってくれた彼女の献身を無下にする。確かなことは、彼女の放ったライコウの一撃がなければ、今頃自分はこのデブリの迷宮でシュラの刃に沈んでいたかもしれないという事実だけだった。
「……ザラ一佐。何を呆然としているんですか?」
通信越しに、先程の狂乱を収めたアグネスの声が届く。その冷徹な事務的トーンは、かえって彼女の底知れなさを強調していた。
「さっきまで全力で戦っていたんでしょう? 推進剤も弾薬もギリギリなはずです。一佐はさっさとミレニアムに帰還して補給を受けるか、友軍の支援に回ってください。キラ准将たちが待っているんでしょう?」
まるで不要になったおもちゃを払いのけるような、あるいは自分の手柄をこれ以上邪魔させないためのような物言い。
アスランは、機体の残量アラートを確認し、短く「了解した」と応じた。だが、機体を反転させる直前、彼はどうしても言葉をかけずにはいられなかった。
「アグネス中尉。……何かあれば相談に乗る。だから、一人で抱え込むな」
かつて自分もまた、独りで復讐や大義に囚われ、多くの過ちを犯してきた。そんなアスランなりの、精一杯の不器用な誠実さ。だがアグネスは、フンと鼻で笑うような気配だけを残し、通信を一方的に遮断した。
真紅のジャスティスが加速し、戦域を離脱していく。アスランは背後に残る濃緑色の機影に言いようのない不安を覚えながらも、キラたちが待つ最終局面へと向かうしかなかった。
静寂が戻ったデブリの海。
だが、そこには一機、ミラージュコロイドを再展開せずに漂う影がある。アグネスは、上半身だけとなり、内部の回路を火花と共に散らしているシヴァの残骸へと、ゆっくりと機体を近づけていく。
ライコウの直撃によって溶解した切断面からはまだ熱気が立ち上っているが、そのコックピット・ブロックは皮肉にも、まだ最低限の生命維持を稼働させていた。
「……さてと」
アグネスは、モニターに映る無残な鉄の塊を見つめ、艶やかに唇を吊り上げた。
「まだ生きてるんでしょ、シュラ。そんな無様な姿でよく自分こそが最強だと言えたものね」
「…月光の…ワルキューレ…!」
シュラの、掠れた、絶望に震える声が通信回線を這い、アグネスはその声を、極上の音楽でも聴くかのように目を細めて受け止めた。
彼女の指先は、まるでピアノを弾くような軽やかさでコンソールの上を踊っていく。
「万が一にも、記録が残っちゃ困るものね。機体の通信ログ、周辺機体への発信履歴、それから……ブラックボックスの外部通信データも。全部、上書きして消去。ふふ、これでここには『誰もいない』ことになったわ」
証拠隠滅を完璧に終えたアグネスは、操縦桿をゆっくりと、慈しむように引き寄せた。漆黒の闇に佇むNダガーNが、亡霊のような動きでシヴァの残骸へと寄り添う。
機体の巨大なマニピュレーターが、熱を帯びたシヴァのコックピット・ブロックを包み込むように伸ばされた。
「……ねえ、シュラ。最後くらい、温かくしてあげる」
鉄の手が、装甲を優しく、愛撫するように「抱擁」する。だが、その接触から伝わるのは温もりではなく、死の予感だった。アグネスは加虐の悦びに頬を染め、スロットルをミリ単位で押し進める。
ギチ、ギチチッ……!!
静寂の宇宙で、金属が悲鳴を上げる振動だけが機体を伝って直接シュラの耳へと届く。
「やめろ……! 何を……やめろッ!!」
「あら、大きな声。さっきまでの余裕はどうしたの? あなたは『最強』なんでしょう? 戦士なんでしょ? だったら、この程度の力、跳ね返してみせなさいよ!」
アグネスは冷酷に、さらに出力を上げた。NダガーNのパワーが、歪んだシヴァの装甲を容赦なく内側へと押し込んでいく。逃げ場のない円筒状のコックピットの中で、内壁がじわじわとシュラの肉体へと迫る。
「やめろ……やめてくれ! 俺は……こんな、戦いでもない、こんな無様な死に方が……ッ!」
絶叫は、もはや言葉の形を成していなかった。NダガーNの鋼鉄の指が、シヴァのコックピット・ブロックを歪な形に締め上げる。内壁は非情にも、シュラの肉体を四方から等しく、そして容赦なく圧迫し始めていた。
ベチャリ、と嫌な音が通信に混じる。
最初に限界を迎えたのは、シュラの四肢だった。押し寄せる装甲の壁に挟まれ、逃げ場を失った脚の骨が、自らの皮膚を突き破って肉を裂き、スーツの中にどす黒い鮮血を溢れさせる。肺はひしゃげた肋骨に突き刺さり、呼吸のたびに泡立った血が口から溢れ出た。
「そう、それよ。戦場での名誉ある死? そんなの、あなたには勿体ないわ。ゴミを片付ける時は、こうしてギュッと潰して捨てるのが一番でしょ? ……レオナードが味わった恐怖、その百分の一でもいいから味わいなさい!」
メキメキ、バリッ!
ついに装甲が限界を迎え、内壁がシュラの脚を、胴体を圧迫し始める。骨が軋む音、内臓が押し潰される苦悶の喘ぎ。シュラのプライドに満ちていた声は、いまや形を成さない獣のような悲鳴へと変わっていた。
アグネスは狂喜に瞳を輝かせ、さらにスロットルを押し込んだ。
NダガーNの核エンジンが生み出す強大なトルクが、シヴァの装甲を紙細工のように丸めていく。シュラの視界には、砕けたモニターの破片が自らの眼球に突き刺さる光景が映っていたかもしれない。だが、それすらも瞬時に訪れる「圧殺」の苦痛にかき消される。
グシャ、メキッ、ジュウ……ッ。
高熱の電気系統がショートし、シュラの生身の肉を焼きながら、圧力がいよいよ彼の胴体へと達した。声帯は潰れ、内臓が口や鼻から飛び出し、最強と謳われたアコードの意識は、激痛と絶望の極致の中で汚泥のように溶けていく。
彼が最後に見たのは、自分を愛撫するように抱きしめる、死神の如き濃緑色のモビルスーツの冷徹なカメラアイであった。
「……あーあ、壊れちゃった。本当に、脆いのね」
通信回線から、シュラの命の灯火が消えたことを示す不快なノイズが消える。残されたのは、かつてMSの心臓部だった場所にある、赤黒い液体を垂れ流す「鉄の塊」だけだ。
アグネスは満足げに鼻歌を口ずさみながら、NダガーNをわずかに後退させた。そして、その手に握られた『ライコウ』の巨大な銃身を、その「塊」の至近距離へと突きつける。
「サヨウナラ。……誰にも見つけられないように、綺麗にしてあげるわ」
引き金が引かれた。超高速で射出された質量弾は、至近距離からシヴァの残骸を直撃。
運動エネルギーと超高周波を合わせた回転が、シュラの肉体が含まれた鉄の残骸を一瞬で分子レベルまで粉砕したと同時に爆破。灼熱の爆炎の中に蒸発させてしまう。
そこにはもう、シュラ・サーペンタインという男が生きていた証すら残っていない。彼の機体も、プライドも。何もかもが消え去り。この世から消滅させられたのであった。
「ふふ、あははは……! スッキリした。本当に、最高の気分だわ」
アグネスはモニターに映る虚空を見つめ、陶酔したように自らの肩を抱きしめた。自尊心を傷つけた敵を処刑し、証拠隠滅を終えたアグネスは、再びミラージュコロイドの闇へとその身を隠す。
彼女の目的は果たされたのだ。歪んだ承認欲求と過去との決別を燃料に、アグネスは再び「輝ける自分」を証明するために。
復讐を。そしてプライドを傷つけた男を抹殺する事で、彼女は再び前を向いて、明日に歩き始めるのであった。
・アグネス
基本的にアグネスの根底は劇場版とほぼ変わりませんが、転換点は恋人をテロリストによって射殺されたこと。それが彼女をテロリスト絶対殺すウーマンへと変貌させましたが、その根底は自分が伴侶として認めた最高の男を殺された事への憎悪。アグネス本人はレオナードの仇と思っていますが、実際にはどちらかといえば卑怯にも最高のアクセサリーを踏み躙ったクズどもを叩き潰そうとしていたというのが真相です。流石の彼女の根底に言動の節々から気づいたアスランはドン引き。ユウナのやり方に疑問を抱くことになるのでした。まぁ報連相を学んだアスランは即座にユウナに問い詰めてその辺りの真意を聞いて納得はしましたけどね。対話って大事。
・NダガーN
ファントムペインが保有していたC.E.をこれでもかと現したと言われる最低のMS。相当前から伏線としてオーブはこの機体を保有していると描いていましたので約60話ぶりの伏線回収です。アグネスにユウナが命じたのはエルドア地区にて信じられないほど無双した最強のアコードであるシュラを仕留める為だけの保険。
かなり厳しいことをいえばアグネスの技量は凄まじいものですがキラ、アスラン、シンの様に単独でアコードとやり合えるレベルではなく、カナードはアルテミス攻略。ハイネはオウガの護衛と、アグネスだけやる事がなく(かと言ってアルテミス攻略かオウガの護衛においてもいいが過剰戦力過ぎて勿体無い)そこで確実にシュラを仕留める為だけに特務として味方すらインパルスに乗っていると騙して、禁忌の機体で息を潜めてチャンスを待ち続けていたのでした。仮にアスランがシュラを仕留めるか、逆の結果になれば色々拗らせてそうですが……ユウナがここまでアグネスの復讐に肯定的なのは彼女の根底はまだ外道にはなってない(人の彼氏をNTRのは普通にアレですが)、自身を磨くコーディネイターとしては貴重な努力家である事を見抜いた上で。彼自身もガンダムAGEでグルーデック艦長やフリットなどを知っていたからこそ、復讐に囚われた彼女をどんな形でアレ前を向いて歩めるようにと機体を与えたのでした。本当はシュラを捕虜なできれば万々歳ですが記録的には「ライコウ」で撃たれた時点で戦死したので仕方ありませんね。
インパルスファンの方は申し訳ございません。インパルスなら今頃オーブで埃かぶっていますよ。
ユウナのアコード対策について。果たしてユウナはアコードの無力化の為になりふり構わない外道な手段(ユウナ視点)を取るべきか?
-
原作通り。
-
平和の為に覚悟を決める。