破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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番外編
EX1 ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ


 

 

 

 

 

 ゾイドシリーズにおけるアイアンコングという機体を皆は知っているだろうか?

 

 

 

 唐突にゾイドの話を始めて悪いが、少しだけ聞いてほしい。アイアンコングは、その名の通りゾイドシリーズに登場するゴリラ型ゾイドだ。ゼネバス帝国における最良のゾイドとして名高く、俺たちの世界におけるMSや艦船の運用思想にも通じるものがあるんだ。

 

 

 

 かつて、戦場にはヘリック共和国の「ゴジュラス」という恐竜型が君臨していた。格闘戦においては無敵、正面からぶつかれば粉砕される。そんな絶望的な状況を打破するために、ゼネバス帝国が心血を注いで開発したのが、この鉄のゴリラ――それがアイアンコングだ。

 

 

 

 この機体の凄まじい点は、その万能性にあるんだ。ゴジュラスが荒地や格闘戦に特化していたのに対し、コングは全天候型、つまりどんな環境でも安定したスペックを発揮できる。背負った6連装ミサイルランチャーによる遠距離攻撃、さらにはその巨体に似合わぬ機動力で一気に肉薄しての格闘戦。 

 

 

 

 まぁ帝国だの共和国だのという単語はスルーしてもらって構わない。とにかく何故ゴリラ型機体が万能なのかといえば、このゴリラという形が戦闘兵器として極めて優秀なのだと、この世界でMSの開発に少なからず携わり口を出してきた俺には改めて理解できた。

 

 

 

 通常MSは二足歩行だが実はこれは難しい。18メートルクラスの機体を姿勢制御して歩かせるなんて前世においてはアニメの世界限定であり、OSの構築からして文字通り次元の違う話だったんだ。

 

 

 

 この世界に来て、ムラサメの開発やナチュラル用OSの調整に苦労していたモルゲンレーテの社員達の苦悩を知るからこそ痛感するが、重力下で数十トンもの質量をたった二本の足で支え、姿勢を維持しながら走らせるなんて、本来は狂気の沙汰なんだよ。

 

 

 

 よくそれを実現したプラントのコーディネイター達は素直に凄いと思うし、かつて戦場であっさりとストライクのOSを書き換えて、砂漠戦にまで力技で対応させたキラのヤバさはもはや異常という他ない。

 

 

 

 普段はのほほんとした笑みを浮かべて、カナードを相手にポケモンで害悪戦法をかまして楽しそうに遊んでいるような奴だが(その後にやる格ゲーだと8割方カナードにボコボコに負けているのが微笑ましいが)、技術的な面におけるあいつは完全にバケモノといっていい。口にしないよ?そんな事口にしたらヘイトスピーチ手前になるから畏怖としてだ。

 

 

 

 ……まあ、そんなキラでさえ完璧ではなく、あいつが組んだOSにもまだ細かなバグが残っていた。それを最終的にサーペントテールが修正を行って、ようやく今のオーブ製OSは完全な実用レベルとして完成したんだがな。

 

 

 

 

 さて、話を戻そう。

 

 

 

 

 ではなぜ、俺がここまでMSのOSや二足歩行の難しさについて長々と語ったのか。それは、二足歩行というシステムがいかに綱渡りの困難さの上に成り立っているかを、まず理解してもらうためだ。

 

 

 

 では、ひるがえってアイアンコングはどうかといえば、あれは足だけではなく、前肢である「腕」を地面につけて移動する、いわゆるナックルウォークによる四足歩行が基本ベースになっている。

 

 

 

 それも、ザフトのバクゥのような「完全な四足歩行の獣型」として固定されているわけじゃない。必要があれば、上体を起こして直立二足歩行モードへとスムーズに切り替えることができるという特殊な構造をしているんだ。

 

 

 これが実は、OSの姿勢制御という観点から見ると、通常の二足歩行MSよりもはるかに安定していて優秀なんだよ。

 

 

 移動時や不整地での高速機動時は、四つの支点でガッチリと巨体を支えるから、重心移動の計算が格段にシンプルで済む。足場が崩れそうな泥濘や砂漠でも、接地面積が広いから自重で沈み込むリスクが低い。そして、いざ格闘戦や武装の運用で両腕を自由に使いたい時だけ、下半身とOSの制御を一時的に直立モードへ回せばいい。

 

 

 最初から二本の足だけで全てをこなそうとするからOSが過労死するんであって、基本は四足、必要な時だけ二足、というハイブリッドなアプローチは、制御系の負荷を減らす意味でも理に叶っているんだ。

 

 

 

 

 大体、自然界を見渡してみてほしい。直立二足歩行をまともに、かつ恒常的に行っている生物なんて、俺たち人間(ナチュラルもコーディネイターも含むが)くらいのものだろ?あとはカンガルーなんかもいるがまぁ大体は猿系ばかりだ。

 

 

 

 なぜ自然界に二足歩行の生物が少ないかといえば、単純に動物としての基本設計に無理がありすぎるからだ。鳥類や、かつての恐竜の一部も二足だが、あいつらは巨大な尾で天秤のように前後のバランスを取るか、前傾姿勢を維持するための特殊な骨格を持っている。

 

 

 

 人間みたいに背骨を垂直に立てて歩くなんてのは、脳の肥大化や道具の使用というメリットと引き換えに、慢性的な腰痛やヘルニアという構造的バグや爆弾を抱え込みながら無理やりやっている曲芸なんだよ。いやすげぇな人間。そりゃ無理やり二足歩行してるなら長く生きるとバグって腰痛なんかで苦しむ事になるわ。なんせ猿は元々二足歩行に適してない生命体なんだから。

 

 

 

 それに加えて四足歩行なら、体重は四本の柱に均等に分散され、重い内臓もハンモックのように骨盤と肋骨の間に吊り下げられる。アイアンコングのナックルウォークは、まさにこの自然界が何億年もかけて洗練させた芸術品と言える形を再現したものと言えるだろう。まぁゾイドシリーズは金属生命体を改造して兵器にするんだからそりゃそんな形になって当たり前なんだけどな。

 

 

 

 そもそも二足歩行のMSが歩くとき、支持基底面――つまり地面と接している面積は、常に片足分、あるいは両足の間の狭い空間だけだ。しかも大体は18メートルもの巨体だから、重心は遥か高い位置にある。

 

 

 二足歩行ってのは常に前方に倒れ込もうとする慣性を、絶妙なタイミングで出したもう片方の足で受け止めるという、クソ面倒くさい制御の連続なんだよ。だからちょっと足場が傾いたり、爆風の衝撃を受けたりしただけで、重心が支持基底面から飛び出して、OSのアラートが鳴り響く羽目になる。

 

 

 

 

 だが、アイアンコングはどうだ。前肢を地面につけたゴリラスタイルは、地面に対して巨大な台形、あるいは三角形の強固な支持基底面を作り出す。しかも前傾姿勢だから重心が極めて低い。少々の砲撃を受けようが、不整地で傾斜を登ろうが、重心がその広いベースの内側にガッチリ収まり続けるから、そもそも「転倒する」という概念自体が希薄なんだ。

 

 

 この圧倒的な低重心と安定性は人型機動兵器ではなしえない走破性へと直結したんだ。一般MSでは砂漠や湿地、あるいは瓦礫の山。MSなら一歩進むごとに足の沈み込みを計算し、接地圧のモーター出力をミリ秒単位で微調整しなきゃ泥に足を取られて操縦不能になる。OSはそれをどうにか行なってくれているが戦闘なんて事になると限界が来るのは当たり前。その結果がイザークとディアッカがまともに砂漠で戦えなかった理由の一つだ。

 

 

 

 かつて砂漠の虎がバクゥ隊を使ってストライクを苦しめたのも、四足歩行の接地圧分散と走破性があったからこそだ。スパロボで例えるのなら地形適正Bで固定化されてると言えるんだろなMSは。

 

 

 

 アイアンコングは、そのバクゥ以上の質量を持ちながら、前肢の強靭なサーボモーターのパワーをそのまま地面を「掻く」推進力に変えられる。障害物があれば、避けるのではなく、その太い腕で引きちぎり、文字通り強行突破する。二足MSのドタバタした歩行とは、悪路での最高速度もエネルギー効率も桁が違うんだよ。

 

 

 

 そして何より恐ろしいのは、これだけのメリットを享受しながら、コングは「人型」としての最大の武器である自由な腕を捨てていない点だ。

 

 

 

 移動中は四足としてOSの計算リソースを極限まで節約し、いざ戦闘になれば、上体を起こして直立モードに移行する。背部の重火器をぶっ放すための砲台にもなれば、敵を掴んで引き裂く質量兵器にも変わる。

 

 

 

 通常時は姿勢制御の負担を最低限に抑え、必要な瞬間だけ二足のアドバンテージを引っ張り出す。このハイブリッドなパッケージは、兵器としての生存率、そしてOSの負荷軽減という意味において、一つの究極形と言っていい。

 

 

 

 

 

――なんて、ハインラインが熱烈に支持をしていた。

 

 

 

 

 

 いや普通に考えて、俺がそんなクソ面倒な機体制御だの物理法則だのの知識を持ってるわけねぇだろ。全部ハインラインの受け売りだ。

 

 

 

 そもそも、俺としてはアコード対策の一環として、デュランダルを秘密裏に刑務所からオーブ本国へと連れてくるための口実が欲しかっただけなんだ。

 

 

 

 だから本当に軽い気持ちで、「そういやザフトってあんま支援機や砲撃機の開発に積極的じゃねぇな?」と思って、ザフトのタンク型MSであるザウート系列の発展型という建前で、ほんの少しのロマンを詰め込んだゴリラ型のコンセプトを提案してみただけだったんだよ。

 

 

 

 

「なるほど副総裁のコンセプトは素晴らしい。我々コーディネイターはMSをヒトの延長線たる二足歩行に拘泥するあまり、重力下における接地圧の分散や支持基底面の絶対的不足という構造的欠陥をOSの超絶的な演算処理だけで力技で解決しようとする悪癖がありました。しかしこの四肢を活かした低重心のナックルウォーク移動形態は天啓と言える。これならば不整地走破性はバクゥを遥かに凌駕しつつ、ザウートのような履帯式が抱える旋回性の悪さや、超大型火器の反動による車体へのダメージという致命的な弱点を完璧に克服できます。それだけではない、直立二足形態へのシームレスな移行によって、上肢を多機能マニピュレーターとして独立稼働させ、敵機を物理的に破砕する質量兵器としての運用から、大口径長射程砲の多角的な射界確保までが、単一の機体パッケージで完全に成立している!姿勢制御に必要なOSのソースコードは、通常移動時においてバクゥの6割以下にまで軽量化が可能であり、その余剰処理能力をすべて火器管制と装備するのであれば複合装甲のフェイズシフト制御、さらには索敵レーダーの並列処理に回せるとあれば、これはもはや単なる支援砲撃機の枠に収まる代物ではない!局地戦における面制圧と拠点防衛、さらには単機での強襲突破までも可能にする、重力下戦術思想の破壊者だ。なぜ今まで我々はこの『獣の強靭さ』と『人の万能さ』を融合させた黄金比に気づかなかったのか。そもそも我々コーディネイターの兵器開発史を紐解けば、すべては人類初のコーディネイターであるジョージ・グレンが木星探査船『ツィオルコフスキー』に搭載した、あの外骨格補助動力装備の宇宙服……それこそがモビルスーツという概念の産声であり、すべての源流でした。我々技術者は今日に至るまで、彼が遺したその偉大な偉業のトレース、あるいは正統進化にのみ血道を上げてきたのです。ですが、恐ろしいことに、それこそが我々にとっての最大の盲点、いや『呪縛』だったのかもしれない! ジョージ・グレンというファーストコーディネイター、我々コーディネイターにとっての始祖であり神とも言える存在。彼の発想を無意識のうちに神格化し、一種の信仰とするような精神状態に陥っていたがために、我々の思考は『宇宙服の延長線たる人型』という狭い檻の中に閉じ込められていたのです。ザフトがバクゥやラゴゥといった四足歩行機を開発した際も、それはあくまで砂漠などの局地戦用に特化させた例外的なアプローチに過ぎず、主力機や最新鋭機の多くが頑なに人型であり続けたのは、純粋な技術的合理性以上に、この内なる始祖への信仰心が原因だったと言わざるを得ません! それが間違いだとは言いませんし、宇宙という三次元空間におけるデッドウェイトのない環境下においては、ヒトの形状は極めて高い運動汎用性を誇ります。しかし、この地球という重力に縛られた絶対的な環境下において、その人型への執着は単なる思考停止、あるいは退化でしかなかった。副総裁が提示されたこのゴリラ型の機体……これは、ジョージ・グレンの遺産を妄信する我々の硬直した頭脳からは、逆立ちしたって絶対に生まれることのなかった異次元のイノベーションと言えるでしょう。既存のドグマを粉砕し、真の意味で重力下に最適化された兵器のあり方を、コーディネイターの我々ではなくナチュラルである副総裁が突きつけてみせた。まさにこれは、副総裁が我々に『神殺しの刃』を与えてくださったに相応しい! 硬直した人型至上主義を打破するきっかけ、マルチロールという甘美な言葉に踊らされて、何でもかんでも人型を求め続けてきた愚かな我々に、副総裁は真の最適解を突きつけられたのです! これはまさしく技術的なシンギュラリティであり、ある意味でかつてのドッズショック以上の衝撃を世界の兵器開発史に与えることになるでしょう。さらに言えば、この腕部フレームの伸縮機構に水圧駆動の応用を組み込み、背部のラッチには新開発の――」

 

 

 

「わかった!ステイ!ハインラインステイ!!ザフトで開発する様こっちも動いてやるからそんな血走った目で早口するのやめろ!あとエリカさんも無言で後ろに立ち尽くすな!怖いんだよ!!」

 

 

 

 ――思い出すだけでも、あの時はマジで怖かった。

 

 

 

 普段の冷静な知性派というイメージはどこへ行ったんだと問い詰めたくなるほど、どんどんキャラ崩壊かと思える規模で凄まじい密度の会話(というか、一方的な弾幕)を行い、最終的には専門用語を詰め込んだ圧縮言語じみた超高速会話と化していくハインライン。

 

 

 それだけでも胃が痛いのに、そのすぐ後ろでは、エリカさんが一言も発さずにギラギラとした肉食獣の目で図面を見つめてにっこりと微笑んでるんだからマジで怖い。

 

 

 

 

 まぁそんな訳で、アコード達とのアレコレが終わって戦後処理をしつつ、偶にミーアと過ごす日々を送る中、ようやくアイアンコングが完成した訳だが……。

 

 

 

「凄いですね、アレ……」

 

 

 

 ぽつりと、俺の傍らでじっと試験場を見つめていたキラが呟いた。視線の先、砂塵が舞う広大な演習場には、お馴染みのパーソナルカラーである鮮やかなオレンジに塗装されたアイアンコングが、その巨体を静かに佇ませている。操縦席にいるのはハイネだ。

 

 

 

 彼のパーソナルカラーであるオレンジカラーに染まった鉄のゴリラの姿は、それだけでなかなかに絵になる。そのオレンジ色のコングが、背部にマウントされたクソでかいレールガンの銃身を持ち上げた。

 

 

 

 狙いが定まった瞬間、火花も硝煙も、そして耳を劈くような爆音すらもなく、超高速の弾頭が射出される。

 

 

 

 ――ッ!!

 

 

 

 次の瞬間には、遥か数キロ先にあるダミーの拠点目標が、文字通り跡形もなく消し飛び、沈黙していた。アレはガイアティターンズが運用している「ライコウ」をベースに、砲撃特化型として改良を重ねた最新鋭のレールガンだ。最大の特徴は、極限まで高められたその消音機能にあって、発射に際しての音に関しては、マジで全くと言っていいほど何も聞こえない。

 

 

 実はこれ、次世代の砲撃機においては必須と言える絶対条件なんだよなぁ。

 

 

 

 大口径の砲撃を行う際、音によって一発で居場所が露見してみろ。レーダーや目視に頼るまでもなく、空を自在に飛ぶ敵機に位置を特定され、上空からドッズライフルを乱射されて即座に沈黙させられるのがオチだ。

 

 

 だからこそ、最新鋭の砲撃機に求められているのは、火力よりもまず「見つからないこと」なんだよな。

 

 

 

「なんならザフトの連中あのゴリラにミラージュコロイドまで搭載して『姿なきゴリラ軍団』なんてイカれた部隊を運用しようと、真面目に考えてるらしいぞ。差し詰めファントムコング部隊って所かな?」

 

 

 

 幽霊ゴリラってなんだよ。いやまぁここまで音がなけりゃ案外成立すると思うがそこまでする必要は正直あるか?

 

 

 

 俺がそう言って肩をすくめると、傍らのキラは引きつった苦笑いを浮かべて言った。

 

 

 

「……それはさすがに、コストが跳ね上がりますね」

 

 

「全くだ。あいつら技術屋はすぐロマンに予算を突っ込もうとするから困る」

 

 

 

 だが、それくらい隠密性に必死になるのも無理はない。これまでの砲撃機に求められる性能といえば、単純に「火力」と「射程」の二つだった。敵の届かない遥か遠方から、デカい大砲を一発ぶち込めばそれで合格。これまではそれで通用していたんだ。

 

 

 

 だが、これからは違う。これからの戦場では、火力と射程に加えて「消音機能」、そして何より「素早く移動して敵に場所を特定させないこと」 が絶対に必要になる。要するに、一箇所に居座って狙撃を続ける芋砂の時代は終わったんだよ。これからは徹底したヒット&アウェイの時代だ。

 

 

 

 ある意味WW1では成立していた砲兵が移動力も求められてる改良されWW2にて戦車という新たなカテゴリが生まれた事への焼き直しだな。盾艦のファランクスといい、オーブ騎馬隊といい改めて見ると俺が提案した技術は大体旧世紀のパクリだな。

 

 

 

 まぁパクリというか、実績があるからこそ通用する。過去の優れた技術をC.Eで再興するってのは悪くない。物は言いようと言えるが古代中華よろしく過去の慣例や事例は何よりも重視されるのと同じかね。

 

 

 

 無音のレールガンでドカンと一発砲撃して敵陣を消し飛ばし、撃ち終わった次の瞬間には、あのゴリラ特有の圧倒的な四肢の機動力でガンガン走って即座に位置を変える。そして、敵が慌てて反撃の砲火を浴びせてくる頃には、別のポイントからまた無音の砲撃を叩き込む……。

 

 

 

 そりゃあ、あのハインラインがザウートやガズウートより、こっちのゴリラに猛烈に食いつくわけだ。

 

 

 

 ザウート系列は砲撃形態に変形するとはいえ、上体の固定や拡張性にはどうしても限界があった。だが、このコングは違う。ナックルウォークによる強固な自律安定性がある上に、背中のプラットフォームが丸々空いているわけだから、ザウート以上の超火力の追求だって、兵装の換装次第でいくらでも可能だ。

 

 

 

 ハインラインの奴、以前「ザウートもガズウートも兵器としての思想が中途半端極まりなくてダメだ」とバッサリ酷評して否定していたが、確かにこれほどの完全上位互換といえる機体が量産されちまえば、あいつらはザフトの正規軍からは完全に姿を消すことになるだろうな。

 

 

 

 あとは型落ち品として、ジャンク屋や商人経由でどこぞの第三国での運用がメインになっていくのが関の山だ。

 

 

 とはいえ、広大な陸地やジャングル、劣悪な環境の拠点を多く持つ親プラントの大洋州連合あたりも、この圧倒的な走破性と隠密火力を備えたゴリラを血眼になって欲しがるはずだ。これからのC.E.の戦後は、きっと親プラント各国による壮絶な「ゴリラの奪い合い」が始まることになる。

 

 

 ……って、さっきから俺は何を大真面目に分析してるんだ。

 

 

 

 ゴリラの取り合いってなんだよ。何の哲学だ。

 

 

 世界の覇権を握る鍵の一つが鉄のゴリラだなんて、前世の俺が聞いたら全力で抱腹絶倒してるところだが、これがこの世界の最先端技術の現実なんだから、人生ってのは本当に何が起こるか分からない。

 

 

 

「ただまぁ、迷ってるんだよなぁ……」

 

 

「……それが、僕を今日ここに呼んだ理由ですか?」

 

 

 

 

 とはいえ俺は隣に立つキラに、ため息混じりの愚痴をこぼした。コングに関しては優れた機体というか最早第二世代砲撃機としてプラントでも量産は決定している。だからこそ、開発に少なからず関わってた俺にも白羽の矢が立ったというか、無理やり刺されたという訳で…。

 

 

 

 

 キラがどこか苦笑交じりに、ようやく合点がいったというような顔でこちらを見てくる。本当に悪いな、ラクスが妊娠してるから育児休暇中のキラを連れ出したくはなかったが今回は例外だ。あとで防弾ベビーカーを送りつけるから許して欲しい。

 

 

 

 なお後日ミーアにそのことを話せば「はっ?」とバカを見るような目で見られた結果、最終的にはミーアセレクトでお子様に大人気のアンパンマングッズを送る事になったけどな。何故だ。

 

 

 

 

「うん、そう。大正解だ。お前ってOS方面ですげぇ貢献というか、ある意味この世界のMSの基礎を作った実績があるだろ? だからちょっと相談に乗ってほしいんだよ。……実は今、プラントの方でな、二つの『ゴリラ派閥』がめちゃくちゃ激しく争ってて、その件について意見を聞きたいんだ」

 

 

「それって……ユウナさんに関係あります……?」

 

 

 

 俺は素直に頷いて、本題を切り出した所キラが心底困惑したように、半ば引き気味の声を漏らした。

 

 

 

 関係あるかって?

 

 

 

 ねぇよ! 他国の面倒くせぇ案件なんか俺のところに持ってくんな!!

 

 

 

 ……と、全力で突き返してやりたいのは山々だったんだが、そうもいかないのが大人の、いや政治の世界の辛いところだ。

 

 

「と言いたい所なんだがな。最初にゴリラの青写真を送っちまった手前、こちらにも少なからず責任があるんだよ。それに、実はオーブでもこの機体を少しライセンス生産する予定があってな。そういう今後の諸々も含めて、OSの生みの親とも言えるお前の意見を聞きたいって訳だ」

 

 

 そう、オーブは中立国ではあるし、その理念自体は今も変わっていない。

 

 

 しかし、今のカガリの方針は先代のウズミ代表のそれとは少し違っていた。理念を頑なに守るために自滅する道を選ぶのではなく、例え他国であっても優れた兵器であればライセンス生産や輸出、あるいは共同開発を積極的に行い、その結果としてオーブに莫大な利益をもたらすという新たな外交路線へとシフトしているんだ。

 

 

 現に、今も増産され続けているリビルドシリーズの後継機が良い例だ。

 

 

 あの「芋虫」ことモルガはユーラシアで大好評を博している上に、東アジアでも運用する為にさらなる増産体制が敷かれている。それだけじゃない。その東アジアに対しては、ムウとマリューを現地へ派遣して、新型戦闘機の開発にまで大真面目に勤しんでいる状況だからな。

 

 

 

 もちろん、こうしたカガリのやり方に対して、「『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』というオーブの基本理念においてどうなんだ?」という批判や議論は、国内外で少なからず湧き上がっている。

 

 

 だが、その批判をねじ伏せるだけの莫大な経済的利益が実際に出ている。それに加えて、ミヤビが東アジアで行っている精力的な復興支援活動や、それに伴うオーブ系企業の現地進出という確固たる実績なども含めれば、ただの「死の商人」という謗りは当たらない。

 

 

 

 

 まあ、綺麗事の裏にある詭弁ではあると俺も思うよ?

 

 

 

 

 だが結果的に見れば、ロゴス崩壊の大激震とその余波で混乱中の東アジア共和国とユーラシア連邦の双方に、オーブがガッツリと唾をつけることに成功したわけだ。

 

 

 

 これによって、戦前には到底不可能だったレベルでの外交関係の向上に繋がっているし、何かといろいろとやらかしが多すぎる大西洋連邦に対する、強力な脅迫……もとい、睨みにもしっかりと繋がってはいるんだからな。

 

 

 

 

 なにも、ウズミ前代表の方針にいつまでも盲目的に固執する必要はない。国際社会が常に変化し、ドロドロとした力関係が塗り替えられているのなら、オーブもそれに合わせた国家戦略をとるべきだ。

 

 

 

 毎回思うがホムラ前代表が空気過ぎると思うんだがいいのか?まぁ忘れてもいいか。うん。

 

 

 

 その点、カガリは本当によくやっていると思うし、そんなカガリの支えとして、アスランの奴も裏で死に物狂いで頑張っているさ。とはいえ、あの二人の子作りや正式な婚姻などに関しては、しがらみが未だに山積みで、なかなか一筋縄ではいかないのが見ていて歯痒いところなんだがな。

 

 

 

 そんな訳で、遠距離砲撃試験を終えたオレンジ色のゴリラが、今度は模擬戦エリアでオーブのアストレイやプラントのザクウォリアーを相手に激しい格闘戦を繰り広げているのをぼーっと眺めながら、俺は隣のキラに改めて話を戻した。

 

 

 

 

「で、さっき言ったプラントの二つの派閥の話なんだがな」

 

 

「はい」

 

 

「まず一つ目の派閥は、コングにこれまでのMSと同じように多種多様な手持ち武装を装備させて、汎用性の高いオールラウンダーにしようっていう思想だ。ビームサーベル、ドッズライフル、リーマーシールドといった外付け式の装備を流用すりゃあ、ゲルググやギャン、ザクの兵装をそのまま使い回せるからな。開発コストも格段に安価に抑えられるし、既存の生産ラインも活かせるっていう、手堅く現実的な案だ。ぶっちゃけると多数派はコチラだな」

 

 

 まぁこっちはゴリラをMSとして扱う派閥と見ていいんだろうな。プラントは元々MS至上主義に染まっているし、多数の生産ラインを流用してお安く作ろうとするのは悪くはない。

 

 

 

そして、同時にアストレイの突撃を低い姿勢でいなし、その巨大な前肢でザクを強烈にハグしてホールドしているオレンジゴリラを指差しながら二つ目の派閥を発表する。

 

 

「そしてもう一つの派閥は、その真逆。せっかくの特殊なゴリラ型フレームなんだから、手持ち武器なんて野暮なものは持たせずに、多くの武装を『内蔵武装』として集約すべきだって主張してるんだ。たとえば、グフのドラウプニル(4連装ビームガン)やヒートロッドみたいに、多くの武装を最初から内部に搭載しちまおうって訳さ。これなら格闘戦の最中に武器を落とす心配もないし、ナックルウォークの動きを一切阻害しないからな。ちなみにこっちは少数派。ちなみにハインラインはコチラの派閥だな」

 

 

 

 

 要するにこっちの連中は、コングを純粋なMSじゃなくて、むしろ連合が得意とするMAのノウハウを詰め込んだ特異機として作ろうぜって言ってる訳だ。

 

 

 

 これの最大のメリットは、何と言っても『緊急時の即応性』にある。手持ち兵器をラックからマウントしたり、出撃前にいちいち武装のセッティングを調整したりする手間が一切ないから、文字通りスクランブルがかかった瞬間に即戦線へと投入できるんだ。

 

 

 

 おまけに、遠距離からの砲撃戦を行いつつ、死角から近づいてくる敵を懐の内蔵兵器でタイムラグなしに即座に迎撃できる。もし両腕の装甲内にビームガトリングガンでも仕込んでおけば、四足で走り回りながら全周囲へ弾幕を張る対空迎撃だって朝飯前だ。

 

 

 

 それに、手持ち武器みたいに『戦闘中に叩き落とされる』とか『敵に奪われる』なんてマヌケなリスクとも無縁だし、何よりゴリラ特有の野生味溢れる格闘モーションの邪魔を一切しない。ゴリラにドッズライフルを装備させる事もできるがそれだと通常MSとほぼ変わらないし「万能機のゲルググでよくね?」と言われるんだろうからな。

 

 

 

 だが……その代わりに、デメリットも少なくはない。

 

 

 

 

 

 まず、地球連合と違ってプラントには、MAの体系的なノウハウがそこまで潤沢に蓄積されていないという点だ。

 

 

 

 一応、前大戦中に鹵獲したザムザザーやゲルズゲーのデータなんかは残っているが、元々は手持ち武装を前提としたMS寄りの試作機として進めていたものを、ハインラインたちのこだわりでわざわざMA的な内蔵武装仕様に再設計するなんて、二度手間で予算と時間の無駄遣い以外の何物でもないからな。

 

 

 

 当然、開発コストは跳ね上がるし、専用の新しい整備マニュアルを一から作って各地の基地に配らなきゃならん。そんなことをすれば、ただでさえゴリラという意⭐︎味⭐︎不⭐︎明な機体に戸惑う現場のメカニックたちが大混乱に陥るのは目に見えている。これでどうやって整備すりゃいいんだって心折れるわ初見だと。

 

 

 実際、オーブがユークリッドを運用した時は相当苦労したらしいぞ? その苦い教訓があったからこそ、オーブがグルドリンを開発した時は、ユークリッドのデータを参考にしつつ「多少性能を犠牲にしてでも、徹底的に整備性と生産性を向上させろ」って結論に達したくらいなんだからな。

 

 

 それに加えて、武装を装甲の内に無理やり内蔵しちまった場合、整備性やコストの他にも大きな問題がある。

 

 

 それは、機体の「拡張性」が致命的なまでに失われるってことだ。手持ち武器なら、戦況に合わせてドッズライフルからビームガトリング、あるいは実体剣へと出撃前に自由にパパッと換装できる。

 

 

 だが内蔵式にしたら最後、ビームの出力を上げたいとか、実弾の口径を変えたいとなっただけで、骨格フレームのレベルから削って調整し直さなきゃならなくなる。

 

 

 さらに、密集した内蔵火器が放つ熱の排熱処理問題や、万が一装甲内に直撃を食らった時に誘爆して腕が丸ごと吹き飛ぶリスク、直立時のデッドウェイトによる運動性の低下など、挙げればキリがないほどデメリットが芋蔓式に出てくるんだよ。

 

 

 俺の説明を一通り聞き終えたキラは、腕を組み、顎に手を当てながら、ドラミング中のオレンジ色のコングを真剣な目で見つめていた。いや待てや!!そんな機能つけた覚えはないぞ!?えっ戦闘中にアドリブでドラミングしてんのハイネ!?ヤベェなあいつ…。

 

 

「うーん……確かに、これは難しい問題ですね……」

 

 

 眉間にシワを寄せ、すっかり「OS開発者」としてのスイッチが入ったキラの瞳が、急にプロのそれへと変わる。

 

 

「ユウナさんの言う通り、手持ち武器ならOS側の負担は最小限で済みます。武器側のFCS(火器管制システム)のデータをプラグ&プレイでメインOSに読み込ませるだけでいいですから。でも、もしハインライン大尉の言う通り内蔵式にするとなると……」

 

 

 キラは指を一本立てて、少し早口に、しかし理路整然と語り始めた。

 

 

「単にコストや整備性だけの問題じゃないんです。四足から二足への変形機構に加えて、あの巨腕の中に武装を仕込むとなると、駆動時の質量移動のリアルタイム演算が地獄のような処理負荷になります。弾薬を消費して腕が軽くなるたびに、四足歩行や直立時の重心バランスの補正値を、OSがミリ秒単位で予測再計算しなきゃいけない。さらに、連続してビームを撃った時の排熱でフレームや関節のサーボモーターに熱膨張の狂いが出たら、ナックルウォークの繊細な姿勢制御プログラムがエラーを起こして、最悪その場でクラッシュしかねません。それに、内蔵火器を稼働させながら格闘戦をするとなると、格闘モーションの四肢駆動フレームと、火器管制の照準フレームがハードウェアレベルで干渉し合います。制御がバッティングして、敵の目の前で腕が完全にロックされる……なんて致命的なバグが起きる可能性だってある。手持ち武器なら最悪、武器を捨てることでOSの負荷を強制的にリセットして格闘に専念できますが、内蔵式はそれができない。……間違いなく、開発者泣かせの設計ですね」

 

 

 そう言って一度は困ったように息を吐いたキラだったが、腕を組んだまま、今度は少しだけ目を輝かせてブツブツと呟き始めた。

 

 

「……でも、もしその問題をクリアするなら、腕部専用に完全独立したクローズド(閉ざされていて、参加や利用に制限がある状態や仕組み)な小型FCSを割り振って、機体のメイン姿勢制御OSとは完全に切り離した並列分散処理のアーキテクチャ(何で構成され、どのように組み合わさって動くか」を定めた基本構造・設計思想)にすれば……理論上は処理速度を従来の2倍以上に跳ね上げられるはずです。……あ、でもそれだと今度は両モード移行時のカーネル(階層型に設計されたOSの中核となる部分でアプリケーションとハードウェアの架け橋である所)の動的書き換えのタイムラグが……」

 

 完全に自分の世界に入り込んで、専門用語の迷宮に潜り込み始めたキラの横顔を見て、俺は気づいてしまった。

 

 

(あ、忘れてたわ。こいつも根っこはハインラインやエリカさんと同じ、脳髄まで浸かったタイプの『変態技術屋』だったわ……)

 

 

 そういやコイツ本編開始前だとプロラミングオタクの学生だったし、ディスラプターだって開発するくらいの実績があるんだ。

 

 

 

 ちょっとどう思う?なんて聞いたが最後、こうなる事はまぁ……ほんの少し引き込む相手を間違えたかもしれないと、俺はちょっとだけ遠い目になった。

 

 

 

 

「待てよ? ……もし、腕部専用のサブプロセッサに処理を丸投げするんじゃなくて、機体制御のメインOS自体をハイパーバイザ型の動的仮想化アーキテクチャに再設計すれば、コンテキストスイッチのオーバーヘッドは実質ゼロにできるんじゃないか?そうだよ、通常移動のナックルウォーク形態と、直立砲撃形態のタスクスケジュールを完全に独立した仮想マシンとして並列稼働させておけばいいんだ。変形移行時のカーネルの動的書き換えなんてまだるっこしい真似をしなくても、メモリ空間を最初から物理的に2セクタに完全分割して、機体各部のリミットスイッチと同期させてミリ秒以下でコンテキストを切り替えれば、OSのクラッシュリスクは理論上完全に回避できる!問題の腕部内蔵火器の質量移動に起因するリアルタイム・キネマティクスの補正計算だけど、これも事前に残弾数と重心移動の相関マップを三次元ルックアップテーブル化してROMに焼き付けておく必要はないな。それだと弾種の変更や混載に対応できなくなる。むしろ、各弾倉とジェネレーターのエネルギーコンデンサに超高精度な歪みゲージを直結させて、トリガーの作動ログからミリ秒単位での質量変化と反動のベクトルデータを逆算、それを姿勢制御OSの割り込み処理として直接流し込んで、ラフソン法を用いた逐次近似計算で動的バランサー関数にリアルタイムフィードバックをかければいいんだ。熱膨張によるサーボモーターの狂いだって、関節各部に配置したサーミスタの温度ログから熱伝導方程式の近似解をリアルタイムで常駐スレッドに計算させて、逆キネマティクスの座標系に動的なオフセット値を常に前方向から掛け続けられれば、OSの制御ループが破綻することなんてあり得ない。……あ、でもそうなると、格闘戦時の外部からの不規則な大質量衝撃と、内蔵火器の発射反動が同調した際、プリエンプティブ・マルチタスクの優先度制御がコンフリクトを起こす可能性があるか。火器管制の照準スレッドと、回避・格闘のモーションフレームが同じバスの帯域を取り合ったら、パケット詰まりを起こして一瞬だけ四肢の駆動が完全にロックしてしまう。そこはメッセージパッシングの同期アルゴリズムに非同期のセマフォを導入して、格闘フレーム側の優先度を常に最上位に固定しつつ、銃撃タスクは完全に『背景処理』として非同期実行させれば……。いや、いっそのこと、腕部の駆動アクチュエーター自体をFPGAのような動的再構成可能なハードウェア構造にして、格闘モードと射撃モードで論理回路そのものをナノ秒単位で組み替えられるようにOS側から制御信号を送ればいいんだ。これならソフトウェア側の行数は増えるけど、ハードウェアの干渉は論理的に100%遮断できる!そうすれば、ハインライン大尉の言う内蔵式のメリットをすべて維持したまま、僕が懸念したバグも、ユウナさんの心配してる拡張性のなさも、OS側のシステムアップデートだけで完全に解決できるはず……うん、できる!よし、まずは変形時の重心移動をシミュレートするための、16階層の並列分散処理用パッチのソースコードの素案を書いてみよう。まずは変形機構の逆運動学の数理モデルを再構築して、それから熱膨張補正の予測アルゴリズムをマージして……」

 

 

 

「おーい、キラ? キラくーん?」

 

 

 

 完全にトランス状態に入っちまったプログラミング怪獣の顔の前に、俺はひらひらと手を振ってみた。だが、返ってきたのはいつもの温厚な声からは想像もつかない、鬱陶しそうな声音だ。

 

 

 

「話しかけないでくださいユウナさん。僕は今、大事な計算をしてるんです」

 

 

「あ、はい、すみません」

 

 

 

 思わず敬語で謝っちまった。そして、キラはどこから取り出したのか、愛用のノートPCをもの凄い勢いでひったくるように開くと、画面に向かって指が視認できないレベルの爆速タイピングを始めやがった。

 

 

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタッ!!!

 

 

 

 静かな試験場に、キモいくらいの速度の打鍵音と、キーボードのバックライトの残像が激しく踊る。口元では相変わらず「……ここで設計局の共有ライブラリを動的リンクさせて、例外ハンドラを……」とか不穏な呟きが漏れ出している。

 

 

「えっ、何? なにラフソン法? プリエンプティブ・マルチタスク? セマフォ? ……お前ら技術屋って、オーブ語喋っちゃいけない決まりでもあるの?」

 

 

 最早完全に話についていけなくなった俺が、一人でアワアワと宇宙語の洪水に溺れていると、背後から凄まじい足音が響いてきた。

 

 

「――その構築案、まさに盲点っ!! 素晴らしいですね准将」

 

 

 

 ハインラインだ。さっき俺が脳内で「ステイ」って言ったのに、どこで聞きつけてたのか、目の色を血走らせたハインラインが、文字通り滑り込むような勢いでキラのPCの画面に割り込んできた。

 

 

 あーそっか当たり前だけどハインラインもそりゃ試験に参加してるわな。というかお前ちょっと前まで技術スタッフとして参加してるだろどっからあらわれた。ワープか?ワープなのか?

 

 

「准将! 今おっしゃった非同期セマフォによる格闘フレームの優先度最上位固定ですが、それだと両モード移行時の動的論理回路のナノ秒単位の組み替え時に、バスのアービトレーションがバッティングしてインピーダンスの不整合によるハードウェアエラーを誘発しませんか!?」

 

 

 

「いえ、ハインライン大尉、それは大丈夫です!FPGAの動的再構成の直前に、全I/Oポートを一瞬だけスリーステート(高インピーダンス状態)に保持する専用のマイクロコードをカーネルの最深部に常駐させます。これでハードウェア側の干渉は論理的にも電気的にも100%遮断できます!」

 

 

「なるほど! 遮断後に即座に仮想マシンのコンテキストを切り替える……! しかし准将、それでは16階層の並列分散処理において、メモリのページフォールトが発生した際の例外処理が完全にデッドロックに陥る危険性があります! 3次元ルックアップテーブルを廃したツケがここで回ってくる!」

 

 

「そこは大丈夫、想定内です!例外ハンドラ側に投機的実行アルゴリズムを組み込んで、質量変化の予測ベクトルが閾値を超えた瞬間に、メモリの先読み(プリフェッチ)を非同期で行わせます。ニュートン=ラフソン法の逐次近似計算が収束するより前に、次のセクタのキャッシュを物理的に確定させておけば、デッドロックなんて絶対に起きません!」

 

 

「おおお……! これならば、内蔵火器の熱膨張によるサーボモーターの座標狂いすらも、逆キネマティクスの補正スレッドだけで完全に吸収しきれますね。ガズウートの無骨なハードウェア制御に泥を塗る、究極のソフトウェア主導型可変兵器の誕生だ……!!」

 

 

「はい! これでハインライン大尉の理想とする内蔵式武装やユウナさんの懸念するコストや拡張性の問題をクリアした状態で、完全に成立します!!ハインライン大尉は排熱処理のスレッドに関しては、そちらのモジュールをそのままマージしたいので、APIの仕様書をください!」

 

 

「喜んで!」

 

 

 

 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタッ!!!!!

 

 

 

 

 ターンッ!!(力強いエンターキーの音)

 

 

 

 ……だめだ、もう何言ってるのか1ミリもわからん。

 

 

 

 目の前では、二人の「変態天才技術屋」が、最早人間が発音していい速度ではないテンポと密度で、互いに圧縮言語じみた専門用語をぶつけ合い、恐ろしい速度で新型ゴリラのOSを書き換え始めている。

 

 

 

 

 そしてその二人の狂乱を、すぐ後ろで、エリカさんが「フフ……実に興味深いわね……」と言いたげに、ギラギラした肉食獣の目で微笑みながら無言で見つめ続けていたんだ。だからワープすんなよ!お前ら!?

 

 

 

 俺はそっと、天を仰いだ。

 

 

 

 キラ。お前、さっき「コストが跳ね上がりますね」とか冷静に引いてただろ。なんでハインラインよりノリノリで最強の戦闘ゴリラを完成させようとしてるんだよ……。

 

 

 

「あー……ごめんエリカさん? この2人何言ってんのか翻訳してくんない?」

 

 

 

 俺が悲痛な声をあげると、エリカさんはギラギラした目を一瞬だけこちらに向け、フッと笑みを浮かべた。いやもうわっかんねぇよ。さらにカタカタする速度が早まってるし何言ってんだコイツら。

 

  

 

「いいわよ、ユウナ様。要するにね、あの2人は今、『ゴリラが走りながら内蔵ガトリングを猛連射しても、絶対にすっ転ばないゴリラの脳みそ』を突貫工事で作ろうとしているのよ」

 

 

「……もうちょっと詳しくお願いできますかね、エリカさん?」

 

 

「手持ち武器なら、撃ち尽くして邪魔になれば捨てればいいわ。でも、腕の中に大砲を埋め込むとなるとそうはいかない。弾を撃てば撃つほど腕が軽くなって左右のバランスが崩れるし、連射した熱で関節の金属がほんの少し膨張するだけで、人間の腕でいう『引き攣り』や『痺れ』が起きるの。普通なら、その狂いのせいでナックルウォークの着地に失敗して、自分の重さで激しく転倒しちゃう可能性だって出てくるわ」

 

 

 エリカさんは人差し指をチッチッと横に振りながら、実におもしろしそうに解説を続ける。

 

 

 なるほどザムザザーの形の理由がわかる気がする。あれは最初から空や宇宙を飛ぶのを目的としていて陸を移動することなんて微塵も考えてない。だからその分、そんな問題は解決しているのね。

 

 

 

「今までの技術だと、そのバランスの崩れをあらかじめ予想して『これくらい狂ったらこう動く』っていう辞書を機械に覚え込ませていたんだけど、それだと新しい武器に変えた時に対応できない。だからハインライン大尉は悩んでいたの。……そこへきて、准将がとんでもない悪魔の知恵を出したのよ」

 

 

「悪魔の知恵、ときたか」

 

 

「ええ。准将のアイデアはこうよ。『辞書なんて生ぬるいものに頼るからダメなんです。銃を撃った瞬間の衝撃や、弾が減った瞬間の重さ、関節の温度変化を、100万分の1秒単位で脳みそがその場でリアルタイムに超高速計算して、転ぶ前に『先回り』して全身の筋肉(モーター)の動かし方を微調整し続ければいいじゃないですか』ってね」

 

「……は?」

 

 

「おまけに、格闘戦の動きと射撃の計算が脳みその中でごっちゃになってフリーズしないように、頭の中に壁を作って完全に別々の部屋で処理させる。なんなら、格闘モードと射撃モードが切り替わる瞬間に、電気回路の形そのものを一瞬で組み替えちゃいましょう、そうすれば絶対にバグりません!……なーんてことを、あの可愛い顔でサラッと言ってのけたのよ、この准将は」

 

 

 エリカさんはそう言って、カタカタと狂ったようにキーボードを叩き合っている男二人を、心底満足そうに見つめていた。

 

 

「ハインライン大尉は、その処理負荷を耐えきるための基本OSの仕組みの美しさに脳髄を焼かれちゃったのね。『それなら、熱でどれくらい関節が狂うかの予測データは我が設計局の最高機密を提供します!』って、今まさに二人の間でオーブとザフトの技術の暗黒合体が起きてるわ」

 

「つまり……どういう事だってばよ?」

 

 

「そうね。ユウナ様が心配していたコストや整備性の問題を、准将が『すべてOSのバカみたいに優れた演算だけで力技でねじ伏せる』という離れ業で解決したわ。これで、どんな悪路でも一切速度を落とさず、姿を消したまま無音のレールガンと内蔵ガトリングを乱射し、近づく敵はゴリラパワーの肉弾戦で粉砕する……正真正銘、重力下最強の『化け物戦闘ゴリラ』が爆誕するわよ。おめでとうございます、ユウナ様。あなたのせいで、世界にまた一つ恐ろしい兵器が生まれそうだわ」

 

 

 エリカさんににっこりと微笑まれ、俺は完全に冷や汗が止まらなくなる。

 

 

 いや、俺のせいか!? 青写真出したのは俺だけど、ここまで盛れとは言ってないだろ!向こうでゲルググ相手にをラリアットしながら岩盤に叩きつけたオレンジのゴリラを見ながら、俺は本気でプラントへの技術供与を一度ストップすべきか悩み始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に見れば、この後に起きた泥沼の議論を経て、最終的には少数派であったハインラインら「内蔵武装派」の意見が全面的に採用されることとなり、こうして完成したアイアンコングは、ザフトが誇る無音・隠密の最新鋭砲撃機として、後の対テロ戦や小競り合いにおいて凄まじい大活躍を果たすことになる。

 

 

 それだけに留まらず、この時キラとハインラインが狂気とも言える熱量で組み上げた「複雑な多足・多肢フレームの質量移動をOSの超絶演算でねじ伏せる」というイカれたデータは、後に開発されるオウガやリヴァイアサンといった怪物機たちの後継機体にも惜しみなく流用され、その性能を飛躍的に高める基盤となったのだ。

 

 

 

 そして、その狂乱を特等席で見ていたエリカさんが率いるモルゲンレーテ社、ひいてはオーブ国防省もまた、「我が国も中立を堅持するための、本土防衛用特殊機体を複数開発すべきである」という流れに完全に舵を切ることとなり、カガリの予算承認も得て開発開始。

 

 

 

 その結果としてかなりの苦労と年月の果てに生まれたのが、圧倒的な火力と強固な装甲を誇るサソリ型超大型MA「デススティンガー」であり、島国であるオーブの険しい地形を縦横無尽に駆け巡る本土防衛用のラプトル型機体たちであった。

 

 

 これらは汎用MSとは違って生産数こそごく少数に絞られたものの、その圧倒的な防衛能力によって、その後長きにわたりオーブの不磨の大地を守り続ける守護者として長きにわたり活躍して云々かんぬんエトセトラ、エトセトラと。

 

 

 

 

 

 ……とまあ、歴史の教科書風に語れば、俺の「鉄のゴリラの青写真」は世界の軍事史に偉大な一歩を刻んだと言えなくもない。

 

 

 

 

 うん、言えなくはないんだが。

 

 

 

 ついでにいえば、ハインラインは後に「科学の森の賢者」なんてやたらかっこいい異名をつけられ、芋虫野郎や汚ねぇドラえもんなんて呼ばれてるこっちからすれば色々文句の一つも言いたくはなったんだが!!!

 

 

 

 

 それはそれとして、開発の初期段階において「実戦環境での運用テストと、OSの更なるバグ出しに協力してほしい」「ついでに航空、宇宙運用も試して欲しい」という名目で、プラントからオーブに向けて試作型のアイアンコングが一度に複数機も送り付けられた結果。

 

 

 

 一時的にミレニアムのMSデッキが文字通り「パーソナルカラーで染まったゴリラまみれ」という極めてシュールかつむさ苦しい大惨事動物園になったのは、俺の心の引き出しの奥深くにそっとしまっておくべき秘密である。

 

 

 






・早口会話
 今回のお話のためにわざわざ図書館や倉庫にしまったの技術やPCの教科書でOS関係について調べまくり、ゆっくりと執筆しましたが多分間違ってる部分も結構あると思いますのでその時はご容赦くださいませ(途中から面倒になって用語解説も放棄)。
リアルで一週間以上OSについて調べては話を修正していたので正直今までで二番目に書いてて大変な作品でした。1番は報連相アスランですが。

・ゴリラ
 ゾイドシリーズにおけるアイアンコングの事。以前後日談でやたらゴリラまみれになっていましたがそのアンサーがこのお話。それまでMSといえばヒト型であったというのに、東アジア共和国における流星やオーブのスペース騎馬隊(少しずつグルドリンを開発中)により、MS至上主義にも翳りが見えた上で、今回のコングという人型に縛られず、なおかつ武器を内蔵装備にした新たなるMAとMSの折衷案という機体が生まれた事により、 MSは自由な発想で適したものを作ればいいんだという流れが生まれる事に。ある意味ではゲルググやムラサメ改という「行き着くところまで行き着いた」機体が生まれたからこそ、新たなる着眼点としてゴリラがMSという概念に風穴を開けるきっかけとなるのでした。とはいえ基本的には飛行可能な万能型MSであるゲルググ達の天下であって、徐々に回避に特化するためにゲルググやムラサメ改の小型化の研究と進むでしょうね。


 今後も不定期外伝作品を描きますので気長にお待ちしてくださると幸いです。

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