破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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 FREEDOM ASTRAY完結記念。

 また前回ファンアートを頂いたミスレイ様より、ハイネ専用イモータル・ジャスティスのガンプラ制作の動画がニコニコ動画にて投稿なされていますので是非!ミスレイ様この場を借りてありがとうございます!!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm46366121


EX3 なんでここに副総裁が!?

 

 

 

 

 

 

 ユウナはC.E.という過酷な世界に憑依転生して以来、数多くのいわゆるネームドキャラクターたちと顔を合わせてきた。

 

 

 キラ、アスラン、シン、カナード……表舞台の歴史を動かす最強の世代たち。さらには最愛の妻となったミーアを含め、物語の核心に深く関わる人間たちと関わり、時にはその運命を強引に書き換えてきたという自覚はある。

 

 

 それがどのようなものであれ、前世の知識を総動員して生き残る為に彼は必死になって足掻き。その結果本来死にゆく定めであったトダカやハイネ、ババといった者達の未来を変えたと言えるだろう。

 

 

 だが――そんなユウナにとって、どうしても意図的に距離を置き、これまで極力触れないようにしてきた領域が存在しており、それが、いわゆるSEEDシリーズにおける外伝『ASTRAY』シリーズの界隈である。

 

 

 理由は極めてシンプルだった。真面目な話、ユウナは彼らの歩む物語を「よく知らない」のだ。前世の記憶があるとはいえ、彼の持つガンダム知識はアニメの本編がベースである。外伝であるアストレイに関しては、せいぜいスパロボやGジェネといったゲーム作品に参戦した際の、薄っぺらい知識しか持ち合わせていなかった。

 

 

 一応、最初の『SEED』時代の彼らの足跡なら、ゲームの定番参戦シナリオとしてある程度は把握しているつもりだった。レッドフレームが150メートルもある巨大な日本刀を振り回して、ブルーフレームが特注のタクティカルアームズをガチャガチャ変形させて戦場を駆けていただの。あるいは核のデータが詰まったドレッドノートを巡ってカナードとプレアがなどの足跡はゲームのイベントステージで何度も見た記憶がある。

 

 

 

 だが、問題はそれから先だ。いわゆる『運命(DESTINY)』時代以降、彼らが裏でどんなことをしていたのかとなると、これが本当に……驚くほど何も分からないのだ。

 

 

 

 前世のオタクの記憶をどれだけ呼び起こそうとしても、ゲームの仕様上、本編のDESTINYがメインのシナリオに据えられると、外伝であるアストレイ組の扱いは急に薄くなる傾向があった。それどころか、作品によっては「SEED時代は参戦していたのに、DESTINY編になったら完全に枠から外されている」なんてケースもザラだったのだ。

 

 

 

(わからん…なんも分からん!!ロウたちがその時どこで、誰と、何の目的で戦って、どうやって運命時代を生き延びたのかなんて1ミリも追えていないぞ……!?)

 

 

 

 アニメ本編の裏で繰り広げられていたはずの、ジャンク屋や傭兵達の活躍。そこにはユウナの知らない未知のテクノロジーや、聞いたこともないようなヤバい組織が暗躍していたはずなのだ。しかし、それが具体的に何なのかがさっぱり分からない。

 

 

 だからこそ、彼は怖かったのだ。この世界が現実として地続きである以上、ゲームのように親切なナレーションやイベントフラグが用意されているわけがない。

 

 

 彼の脳裏に 「バタフライエフェクト」――羽ばたく蝶の羽振りが、巡り巡って遠くで竜巻を引き起こすという、歴史の改変がもたらす恐怖の連鎖が浮かんでしまう。ユウナという「原作の運命を捻じ曲げる異物」が表舞台で好き勝手に立ち回った影響が、もしも裏社会の歴史にまで波及していたらどうなるか。

 

 

 本来の歴史であれば、ロウや劾といった男たちが、持ち前の強運と実力で綺麗に解決していたはずの「裏の事件」が、ユウナのせいで狂ってしまうかもしれない。

 

 

 

(もし、俺の存在が原因でバグが生じて、ロウや劾が本来死なないはずのタイミングで戦死してたらどうするんだよ……!?)

 

 

 

 その時、ユウナの脳裏をよぎったのは、前世で読んだことのある『傾物語』という作品だ。過去へとタイムスリップした主人公が、本来であれば交通事故で死ぬはずだった一人の少女を救う。それは純粋な善意であり、正しい行動だったはずだ。

 

 

 

 しかし、少女が生き延びたというその僅かな歴史の改変が巡り巡ってピタゴラスイッチを引き起こし、元の時代に帰った時には世界がゾンビパニックによって、文字通り完全滅亡していたという印象的なエピソードである。

 

 

 

(ちょっとした善意や、ほんの些細な行動一つで、世界なんてものは簡単に滅びかねないんだよ……!)

 

 

 

 ましてや、ここは大前提として、人がゴミのように死ぬガンダムの世界であり、もっとも民度最悪とまで言われてるC.E.世界なのだ。ユウナの頭の中には、前世で培った数々のロボットアニメにおける非人道的な殺戮の知識が嫌というほど詰まっていた。コロニー落とし、ソーラ・レイ、無差別に人間を切り刻む自律型殺人兵器バグ、あるいは地球全土を不毛の荒野に変える大量破壊兵器の数々。

 

 

 そしてユウナの知るこの世界でもサイクロプスやジェネシス、レクイエムといった狂気の代物が平然と実戦投入されているのだ。いくら外伝作品だからといって、アストレイシリーズにそんな狂ったエグい概念や兵器が出てこないと、一体誰が断言できるのだろうか。否、できるはずがない。

 

 

 それこそ、彼のうろ覚えの記憶の底にも、何やら不穏極まりないワードの残像が確かに存在していた。

 

 

 

 ――例えば、「アスタロス」。

 

 

 

 異常なまでの繁殖力を持つ生物兵器であり、他の植物を枯死させる因子を周辺の土壌にまき散らし、周囲の植物を駆逐した後に、その旺盛過ぎる繁殖力でアスタロスのみが成長するというサイクルを超高速で繰り返すことで生態系を完全に破壊する。

 

 

 もしも、そんなアスタロスを地球全土にばら撒きでもすれば、地球上の植物は完全に破壊され、生態系は瞬く間に破綻へと追い込まれることになるだろう。他の植物がすべて壊死することにより、人類の食糧生産には致命的どころではない壊滅的な打撃が与えられるのだ。

 

 

 

 核兵器の禁止や非人道兵器の使用を制限したあの南極条約の文言を巧妙にすり抜け、法的な網の目を潜り抜ける形で運用される最低最悪の環境破壊兵器。それが、あろうことか宇宙世紀の「外伝」作品に平然と登場していたのだ。

 

 

 

 

 そう、本編の裏側を描いた「外伝」に、だ。

 

 

 

 

 仮にあの時、ホワイト・ディンゴ隊をはじめとするそれを阻止する為に立ち上がった者達が、アスタロスの阻止に失敗していれば、地球は青い星から一転して緑を失った死の星と化していたか、そうでなくとも世界中に天文学的な数の餓死者が溢れ返り、社会基盤が。下手すると文明そのものが崩壊していたリスクすらある。

 

 

 

 本編の陰で、世界はそれほどまでに際どい綱渡りを強いられていたのだ。

 

 

 

 

 さらに言えば、これは転生者であるユウナすらも知る由もないことだが――別の宇宙世紀の外伝作品である『クロスボーン・ガンダム・ゴースト』においては、全生命体そのものを完全に融解・殺戮する恐るべき宇宙細菌「エンジェルコール」なる代物が存在している。

 

 

 

 

 惑星一つを死星に変える悪魔の細菌を巡り、泥沼の争奪戦が繰り広げられた結果、ウッソたちがザンスカール帝国と戦っていたVガンダム本編のすぐ裏側で、地球圏の全人類は本当にあと一歩で絶滅しかけていたのである。

 

 

 

 その恐怖ゆえに、ユウナはこれまでアストレイ関連のキャラクターとの接触を、避けて避けて避け倒し続けてきたのだ。

 

 

 

 

 かつて劾がネオジェネシスを破壊したという一件にしても、苦肉の策であり、綱渡りの連続でしかなく、内心神仏に祈り続けながら過ごしてきたのが隠された真相であったのだ。なお、当の本人はその戦場ではアカツキに乗らされてババの操縦に喚いていたのだが。

 

 

 

 

 その、唯一の例外として関わりを持ったカナードはプレアとの決戦を経た後、脱走兵たちを率いて、独自の傭兵組織として地道に活動しているはずであり、比較的アストレイ本編に登場する確率が低い。もしくは役割はそこまで重要ではない筈だと予測していたのだ。

 

 

 

 そして、紆余曲折を果てに、ユウナはついにグフの巨体に踏み潰されて哀れな肉塊と化すという残酷な未来を完全に乗り越えてみせる。それどころか、前世の彼すらも知らない未知の未来であった、あのファウンデーション王国との壮絶な決戦にすら勝利をもぎ取ったのだ。

 

 

 

 世界の裏も表もひっくり返るような大戦を五体満足で生き延び、副総裁という確固たる地位を築き上げたこと。何よりミーアという妻を得て「セイラン」の名を捨てた事で、ユウナはここでようやく、心からの安堵を覚えることができた。そこで初めてユウナは避け続けてきたジャンク屋組合とのコンタクトを直接取る事を選択したのである。

 

 

 

 

 ある意味それはユウナ・キャンベルとして生きる事を決めた男の新たな一歩であり。ケジメであったと言えるかもしれない。そして彼はジャンク屋組合のメンバーである……ロウ・ギュールとコンタクトを取る事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ――そう、なる筈であったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ございません、セイラン副総裁。せっかくコンパスの最高幹部である貴方様から直接のご指名をいただいたというのに……。組合長として、深くお詫び申し上げます」

 

 

 

「あっ、いえいえ! 本当にお気になさらず! そもそも、事前の正式なアポイントメントもなしに、こちらの都合で無理を言って急な会談を申し込んだのはこっちですから! どうか頭を上げてください!!」

 

 

 

 ジャンク屋組合が保有する豪奢な応接室のソファで、ユウナは申し訳なさそうに深く頭を下げる一人の青年に向かって、大慌てでブンブンと両手を振りながら「こちらこそすみません!」と逆に全力で謝罪を返していた。

 

 

 

 目の前で胃の痛そうな表情を浮かべている男の名は、リーアム・ガーフィールド。弱冠20代という若さでありながら、あの曲者と無法者が揃う「ジャンク屋組合」の組合長に就任した凄腕のコーディネイターであり、同時にあのロウ・ギュールの公私にわたる親友。最大の理解者(にして最大の被害者)たる同僚であった。

 

 

 

 

(確かこんな奴いたなぁ…!)

 

 

 

 

 半ば曖昧になりつつある前世のスパロボ知識を思い出しつつ、必死に営業スマイルを維持するユウナ。やたら丁寧な口調で常識人ポジとしてそんな奴が居たとやって思い出すが、やはりというかロウはこの場に居ないらしい。

 

 

 

 そりゃそうか、とユウナは内心で深く得心していた。

 

 

 

 ロウという男は、原作の作中において、地球圏全体が激しい大戦争の真っ只中だろうが何だろうがお構いなしに、宇宙へ行ったと思えば次の瞬間には地上に降りて砂漠でジャンクあさりをしている様な文字通り規格外のバイタリティと行動力の塊だ。

 

 

 そんな神出鬼没のレアキャラを相手に、こちらが「急に時間が空いたから会いたいです」などと突発的にアポイントメントを入れたところで、ホイホイ捕まるはずが最初からなかったのである。

 

 

 

 むしろ、ジャンク屋組合の最高責任者であり、普段はそれこそ激務に追われているはずの組合長リーアム本人が、こうして直々に時間を割いて会談の席についてくれたこと自体、幸運というほかになかった。

 

 

 

 そして何より――現時点において、実の所ユウナの中でのリーアムに対する好感度は、かなり高いものになっていたのだ。爆上がりである。それはもう爆上がりしていたのである。

 

 

 

(丁寧な口調! 礼節を弁えた態度! そして何より、ナチュラルだのコーディネイターだのといった偏見に基づくヘイト優先の言動が、これっぽっちも含まれていない……!!)

 

 

 あり得ないかも知れないがただそれだけのことだった。相手に敬意を払い、社会人としての常識的な会話を行う。前世の感覚からすれば、ビジネスの場において「できて当たり前」の最低限のマナーでしかない。

 

 

 

 だが、ここはどこか。大前提として、全ガンダムシリーズの中でもトップクラスに民度が最悪と名高い、あの暗黒のC.E.世界なのだ。

 

 

 遺伝子を弄っていないナチュラルと、弄ったコーディネイター。この二つの陣営の人間が顔を合わせれば、まず第一声で「青き清浄なる世界のために!」と叫んで核ミサイルをぶち込んでくるか、「ナチュラルの捕虜なんているかよ!」と見下して罵倒し合うか、あるいは会話の前にとりあえず銃を抜いてトリガーを引くのがデフォルトという、およそ人の心が通じない狂気の世界なのである。

 

 

 

 コンパスの副総裁として、これまでそんなドロドロの相互ヘイトに塗れた狂人や政治家たちを嫌というほど相手にしてきたユウナからすれば、リーアムのこの「当たり前の対応」が、どれほど砂漠のオアシスのように尊く、五臓六腑にしみ渡る貴重な癒やしであることか。

 

 

 

 繰り返すがユウナがチョロい訳ではなく、余りにもこんな対応がデフォであった運命時代がおかしいのである。とはいえ現在ではそんな絵に描いたようなヘイトを隠さない人間はプラントではジャガンナートの騒ぎによって多くが投獄、沈静化せざる得なかった。

 

 

 

 連合においてもその数を多く減らしているのが事実ではあるが……それでも隠しきれない嫌悪が礼儀という名の仮面越しから溢れ出るもの達も多く。ユウナにとって最初から最後まで1ミリも嫌味を言われずに、まともな大人の会話が成立しているだけで涙が出そうになる程感動してしまう程なのである。末期である。

 

 

 

 

 とはいえ――そんなユウナの感動など、目の前で頭を下げているリーアムが知るはずもなかった。知るはずもないどころか、現在のリーアムの内心は、警戒を通り越して、恐怖すら覚えて怯えていたそうな。

 

 

 

 

(何故、この人は殆ど事前のまともな連絡もなしに、たった一人で我々組合の本部に乗り込んできたんだ……?)

 

 

 

 

 リーアムの手のひらは、冷や汗でじっとりと濡れていた。ユウナという男が、これまで世界中で引き起こしてきた壮絶な騒動と実績の数々は、当然ながらジャンク屋組合の長であるリーアムの耳にも届きすぎていたのだ。

 

 

 

 

 

 技術的な側面から見れば、数多くの革新的な軍事技術に口出しした挙句、あの「ドッズショック」を引き起こして世界の兵器体系をひっくり返し、さらにユーラシアや東アジアで急速に普及した芋虫型MAたるモルガが市場を席巻する要因を作った、まさに裏の技術界隈における最大の怪物にして元凶。

 

 

 

 

 政治的な側面から見れば、かつてオーブ共和国において文字通りの電撃的なクーデターを成功させ、一時期は国家の全権を掌握して、独裁者へと君臨し。ロゴスとの癒着疑惑によってその地位を返上するもコンパス副総裁として返り咲いた稀代の怪傑。(なお本人は引退する気であったのは内緒である。)

 

 

 

 極め付けはファウンデーション王国によって占拠され、地球への大虐殺を行おうとした大量破壊兵器「レクイエム」に対し、各国を説得した上で。躊躇なく、報復のための核攻撃を立案し、最前線に撃ち込ませたという、恐るべき苛烈さと果断さを併せ持つ男。

 

 

 

 彼に関する噂の多くは、良くも悪くも、この世界において知らぬ者はいないほどに有名であり、同時に「最も敵に回してはならない狂人」として恐れられていたのである。

 

 

 

 

 そう、狂人である。

 

 

 

 

 まともな神経をしているのならこの様な男に近づきたくなるはずも無く、それによって利益を得た人間と同じだけ破滅した者も少なくはない。本人が知れば「俺そんなふうに見られてたの…?」とガチで傷ついた挙句「はっ?気づいてなかったの?」とオーブやコンパスの皆にさえ追撃される運命なのである。慰めてくれるのはデュランダルとミーアくらいのものだろう。

 

 

 

 そんな、歩く大量破壊兵器一歩手前の男が、満面の営業スマイル(ユウナとしては親愛の証)を浮かべながら唐突に「ロウ君に会わせてくれない?」とやってきたのだ。リーアムからすれば、「なんで? うちが一体何をした……!?」と、死ぬ程警戒するのも当たり前であった。

 

 

 

 そもそも、ジャンク屋組合はその性質上、世間からは戦場に群がる「ハイエナ」扱いをされることも多く、いくら国際条約で認められた中立組織であろうとも、戦意に満ちた軍隊や国家からは問答無用で攻撃されることが全く少なくなかったのだ。

 

 

 

 

 思い返せば、最初の戦争の時から彼らはそんな目にばかり遭ってきた。

 

 

 

 例えばジャンク品においてもちゃんと返還要求さえ行えば証拠さえあれば全てのデータを引渡したというのに、問答無用で「オラ死ね!!」と蛮族や世紀末モヒカンムーブで襲われた事など最早数え切れない程だ。

 

 

 

 それどころか、連合の汚い謀略によって、何の根拠もなく一方的にテロリスト扱いを受け、組合ごと指名手配されて理不尽な潜伏生活を余儀なくされた時期すらある。さらには、歴史の表舞台に決して名前が出ないような、世界の裏側で暗躍する正体不明の組織と交戦を繰り返した事なども一度や二度ではなかったのだ。

 

 

 

 これまで、ありとあらゆる理不尽な修羅場をくぐり抜け、その度に胃に穴を開けながらも、仲間達のケツを叩いて組合の看板を守り抜いてきたリーアム・ガーフィールド。そんな、C.E.生き地獄を嫌というほど経験してきたはずのリーアムから見ても――今、目の前で優雅に紅茶を啜っているユウナという男に「得体の知れない恐怖」を抱いても仕方ないだろう。最早扱いが神話生物か何かである。

 

 

 

 

 自分が今や、リーアムの脳内では出会ったら理性を失って発狂するか破滅する、クトゥルフ神話の邪神か神話生物のような扱いをされているとは露知らず、ユウナは上品に紅茶のカップをソーサーへと戻した。そして、この友好的(と本人は信じている)な場をさらに和ませようと、最近彼が個人的に注目していた「ある技術」について、満面の笑みで話を切り出したのだ。

 

 

 

「いやぁ、それにしてもリーアムさん。カナードから報告がありましたが貴方達が最近開発した自衛用の新型モビルスーツ……そう、あの『リバティアストレイ』!あれは本当に素晴らしい機体だ、私個人としても心から感動しましてね」

 

 

「っ……!?」

 

 

 

 

 ユウナとしては、純粋な賛辞であり、フレンドリーな世間話のつもりだった。だが、その言葉が鼓膜に届いた瞬間、リーアムの背筋には文字通り氷水を一気浴びせられたかのような激痛に近い戦慄が走り、端正な顔が恐怖で完全に硬直した。手のひらどころか、全身から嫌な冷や汗がドバドバと噴き出し始める。

 

 

 

(き、来た……!! 本題はそれか……!!)

 

 

 

 これまでのC.E.生き地獄で培われたリーアムの被害妄想は、ユウナのその穏やかな笑顔の裏に、最低最悪の「世紀末モヒカンムーブ」を幻視していた。

 

 

 

 間違いない。この男は慇懃無礼に獲物を追い詰めるかのごとく、 『おい民間人の分際で、何勝手に正規軍の最新鋭機に対抗可能な高性能MSなんて作ってんだあ? ああ?』っていう脅しを仕掛けてきたと。

 

 

 

 アストレイの名前とブランドがある以上、これまでの売り上げと技術データを全部無償で寄越せ。さもなければ、国際社会の敵として核で吹き飛ばすぞ。そう脅すのではないか?と目の前の男の次の言葉をまるで死刑宣告を待つ罪人の様にリーアムは待つ。

 

 

 

「性能も素晴らしい上に、あの、機体が派手に発光することで隠密行動を不可能にし、テロなどの悪用を根本から厳禁とする仕様……! いやはや、本当に素晴らしい発想ですね!」

 

 

 

 ユウナは身を乗り出し、我が意を得たりとばかりに熱弁を振るう。ユウナとしては本気で褒めているだけなのだ。これでも。本当にこれでも。

 

 

 

 

「実はね、リーアムさん。当初、貴方達が正規軍の最新鋭機に匹敵する性能のMSを開発したとカナードから聞いた時は、コンパスの副総裁という立場上、少し身構えたんですよ。いくら中立のジャンク屋組合とはいえ、そんな強力な兵器を世界中にばら撒くのであれば、いずれテロリストや過激派によって悪用される可能性も否定できない。だからこそ……こちらも最悪のケースを想定して、其方に対してかなり厳格な『査察』を申し込んでいたかもしれませんが……」

 

 

「っひ……!?」

 

 

 

 査察。その二文字がユウナの口から飛び出した瞬間、リーアムの脳内モヒカンレーダーは最大警報を鳴り響かせた。

 

 

 

 彼の脳内では、ユウナの言葉が即座に『もしあの仕様がなかったら、今頃コンパスの総力を挙げた強制査察(という名のキラ達エースパイロットを総動員した武力制圧)で組合を更地にし、技術を身ぐるみ剥いでいたところだったぞ』という、脅迫へと世紀末式に自動翻訳されていたのだ。

 

 

 

 首の皮一枚、本当にリバティアストレイに悪用防止ギミックをつけておいて良かったと、リーアムは心の中で涙を流してロウの設計案に感謝する。

 

 

 

 しかし、そんなリーアムの決死のパニックを余所に、ユウナはこれ以上ないほど温和で、慈愛に満ちた笑みを浮かべて言葉を続ける。

 

 

 

「ですが、あの機体の仕様を見て安心しました。あなた方が自分たちの安全をいかに真剣に考えているかが痛いほど伝わってきた。ですから、安心してください。全面的に、私個人としてはあなた方の活動と、その防衛方針やリバティを支持しますよ!」

 

 

 

 ユウナからすれば、これほど「悪用リスクが低く、自衛に徹してくれる頼もしい民間組織」は他にない。味方、あるいは無害な勢力として、これ以上なく丁度いい存在なのだ。

 

 

 すっかり気を良くしたユウナは、コンパス副総裁としての特権と、前世から続く「有力者にはとりあえず恩を売っておくに限る」という悪癖を大盤振る舞いし始めた。それがリーアムからどう思われるのか?を知りもせずにだ。

 

 

「そうだ。口頭だけでは貴方達の今後の活動で色々不安でしょう。大西洋連邦やプラントの耳の痛い連中が、また難癖をつけてくるかもしれない。なんでしたら……ここで私が『コンパス副総裁ユウナは、ジャンク屋組合の自衛権利とリバティアストレイの運用を全面的に支持・保証する』と、公的な効力を持つ一筆を書いて差し上げましょうか? 必要であればカガリ・ユラ・アスハやラクス・クラインのサインも……」

 

 

「えっ――あ、いや、それは……っ!?」

 

 

 

 

 コンパス副総裁のみならず、オーブの代表首長、さらにはプラントに絶大な影響力を持つコンパス総裁の連名によるお墨付き……。確かに魅力的だが、あまりにも分が良すぎる。これを無条件で受け取れば、独立組織であるジャンク屋組合はコンパスの完全な傀儡と世界からみなされ、大西洋連邦やプラントの強硬派を無用に刺激することになるかも知れない。

 

 

 放っておいてくれ。頼むから!そうリーアムは内心叫びたくなってしまう。ユウナとしては何かあれば自分達が助けますよ!なんだったらプラントや大西洋連邦にも公的な効力を持つ書類を用意するから、お仕事頑張ってね!と激励しているだけだというのに、初手でここまで大盤振る舞いされれば彼も組合長として警戒するしかない。

 

 

 誰が初対面の相手に出会って早々、宝石の詰め合わせセットを渡されて素直に喜ぶというのか?この世はギブ・アンド・テイクだ。提供される利益が大きければ大きいほど、その後に要求される「対価」も相応の、あるいはそれ以上のものになる。それが国際政治の場における普遍的な真理であることを、リーアムは若くして組合長を任されるだけあって深く理解していた。

 

 

 

 この副総裁の真意はどこにあるのだろうか?こちらの独自の技術力の独占か。あるいは何らかの目的のために協力せよという暗黙の要求か?

 

 

 ユウナの底の知れない笑顔を前にしても、リーアムの視線は決して揺るがない。彼はすっと背筋を伸ばし、一歩も引かない毅然とした口調で言葉を返した。

 

 

 

「最高幹部の皆様方による直筆の保証書、ですか。……セイラン副総裁、我がジャンク屋組合の安全をそこまで深く案じていただき、組合長としてこれ以上の光栄はございません。お気持ちだけを深く感謝いたします」

 

 

 

 リーアムは一度綺麗に一礼し、それから滑らかな手つきで自身のカップに手を伸ばした。

 

 

 

「ですが、大変不躾ながら、その過分なお申し出は辞退させていただきたく存じます」

 

 

「おや、どうしてです? これがあれば、連合やプラントの過激派が難癖をつけてきても、コンパスの権限で一発で黙らせられますよ?」

 

 

 

 不思議そうに小首をかしげるユウナに対し、リーアムは薄く笑みを浮かべたまま、論理で切り返していく。

 

 

 

「お言葉ですが、我がジャンク屋組合は中立組織でございます。もし私どもがコンパス、およびオーブの最高権力者の方々の特別な庇護下にあると公に示されてしまえば、それは他国から見れば『中立の放棄』、すなわちコンパスによる実質的な技術囲い込みと受け取られかねません。それはかえって、現場で汗を流すジャンク屋たちに、政治的な摩擦などに巻き込むリスクを生み出すかと存じます」

 

 

 私達は中立組織なんだから誰の庇護も受けられない。だから技術の囲い込みの為に大盤振る舞いするのはやめろというハッキリした宣言。

 

 

 

 淀みのない言葉は流水の様に流れていくどれほど巨万の富や権力を積まれようとも、組合の根幹たる「中立」だけは決して売り渡さないという、リーアムの信念と聡明さがそこに異彩を放っていた。

 

 

 一見すればただの親切な大盤振る舞いに見せて、こちらの独立性を試しにきた。あるいは断れない状況を作って取り込もうという腹積もりか?リーアムは内心でユウナという男への警戒を強めつつも、表面的にはユウナの攻勢を受け流してみせたのであった。

 

 

 

――が、当のユウナ本人からすれば、このリーアムの完璧な対応は、まさに「寝耳に水」の大誤算であったのだ。

 

 

 

(えっ……? 断られた……!? いや、え? なんで??)

 

 

 

 ユウナは引き攣りそうになる営業スマイルを必死に固定しながら、内心で激しく混乱していた。リーアムの脳内では「底の知れない怪物の老獪な政治的策略」ということになっていたが、ユウナにとっては善意8割、自分のための打算2割程度の、この上なく譲歩した善意の提案だったのだ。

 

 

 彼としては、「同じように過酷な世界で苦労している常識人(リーアム)」に深く同情し、なんとか安全に生きてほしいという純粋な善意が8割。そして残りの2割は今後仕事を念入りに進める為の前金として用意した程度のもの。それだけの話だったのだ。

 

 

 なんだったら、彼らが望むのであれば、カガリやラクスだけでなく、大西洋連邦の現大統領や各国の主要高官にまで頭を下げて、さらに強力な公的一筆(国家間レベルの不可侵条約的な書類)をいくらでも用意しようとしていたのだからリーアムの拒絶に「なんで…?」と困惑したのは当たり前なのかもしれない。

 

 

 差し出した宝石箱を「不要です」と突き返されたような、何とも言えない意外さと気まずさに襲われながら、ユウナは改めて目の前の青年を見つめ直すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――後に語られる話になるが。この初対面での壮絶なバッドコミュニケーション以降、数度にわたる公式・非公式の会談を経て、ようやく二人の間の致命的な誤解は解けることになる。

 

 

 リーアムは、ユウナという男の真の目的が「他国の侵略」でも「技術の独占」でもなく、ただひたすら善意によるものだと理解するのにはしばらくの時間が必要だった。そして、彼の性格を知った上で、互いに利益を得る為に行動をするユウナを見てリーアムもまた組合長として、一人の個人として協力を惜しまなくなったのである。

 

 

 

 しかし。誤解が解けて懇意の仲になったからといって、リーアムの苦労が減ったわけでは断じてなかった。リーアムは後に、周囲の仲間たちへ向かって、常に遠い目をしながらこう語っていたという。

 

 

 

「ナチュラルだとかコーディネイターである以前に、副総裁との会話は本当に疲れます……あの人と会話をした夜は大体固形物が喉に通らないんです…」

 

 

 

 ナチュラルとコーディネイターの融和を両親から切に望まれ、その架け橋となるべくこの世界に生を受けたリーアム。それゆえに偏見を持たず、他者への深い理解を試みる、ナチュラルの人間観察を密かな趣味としていた彼であったとしても、ユウナという規格外の異物だけは、ただただ自分の胃壁を深刻に痛めつける天敵でしかなかったのだ。

 

 

 なんせこの男、誤解が解けて以降、事あるごとに信じられないような「お土産」をジャンク屋組合の本部へと持ち込んでくるのだ。ある時は、顔を合わせるごとにプラントが誇る世紀の天才にして、話が通じないことで悪名高いハインラインを「技術交流の触媒として、ちょっと連れてきました!」と笑顔で引き連れてきて、組合の技術者たちと徹夜の超高度な専門トークを開幕させる羽目となったり。

 

 

 またある時は、「ちょうど不要になったから処分に困っててさ!」と、『ピカピカの』旧式のリビルドアストレイを、まるで実家から送られてきたミカンのように、丸ごと1ダースも完全無料で進呈してくる事もあった。

 

 

 ロウなどは大喜びであったものの、当然、書類上は「廃棄パーツの譲渡」として完璧に偽装されているため、リーアムは唐突に増えた莫大なMS群を登録・保管するための準備や裏工作に死ぬ気で奔走させられる羽目になる。

 

 

 そして挙げ句の果てには、リビルドシリーズの後継機としてユーラシアを中心に広まりつつある。あの芋虫型MA「モルガ」と、圧倒的な重装甲とパワーを誇る謎のゴリラ型MS「アイアンコング」複数機体を同時に、自らトレーラーを牽引する勢いで搬入してきたのだ。

 

 

「いやぁ、うちのドックに眠らせておくのも勿体ないし、これ、良かったらロウ君のおもちゃにしてよ! あいつなら、これの装甲ひっぺがしたり変な改造したりして遊ぶでしょ? で、もし何か面白いデータが取れれば、後でこっそりコンパスの方に送ってもらえると助かるからさぁ!」

 

 

 笑いながらそんな風に、まるで近所の子どもにいらなくなった玩具でもあげるかのような軽さで、MAを贈呈してくるのである。当然正気を失ったのか?と裏を取ったところでプラントやオーブの許可も得ていることが判明しているのがタチが悪い。

 

 

 

 繰り返すがジャンク屋組合はこれでも民間組織である。そんな民間組織に最新鋭のゴリラや芋虫に1ダースものピカピカの旧式機体を引き渡す組織のNo.2がどこにいるというのだ?

 

 

 

(おもちゃにしてくれ、と!? よりによってあのロウに、これ以上玩具を与えてどうするつもりなんだ、この人は……!!)

 

 

 

 ロウがモルガやアイアンコングの駆動系を見て目を輝かせ、即座に工具を持って突撃していく未来が、リーアムには100%の確率で予見できた。

 

 

 

 というかロウ達が感銘を受けてモルガを好き放題いじくり回した技術が後にオーブにフィードバックされ、民製品として普及する手助けとなるのは後日の話である。

 

 

 ユウナの行動には、他国を侵略しようという野心も、ジャンク屋を騙して技術を搾取しようという悪意も本当にない。基本的には彼の行動は敬意と純粋な善意なのだ。無論ユウナはただ無料で物資を差し出した訳ではなく、その後いくつかの提案をした所、ロウは激怒……するどころかノリノリで彼の提案に賛同し、協力者として定期的にデータの提供をしているらしい。

 

 

 

 それが分かっているからこそ、無下に断ることもできず、ユウナから差し出された超重量級の宝石箱を笑顔(を貼り付けて)で受け取りながら、リーアムは今夜も固形物が喉を通らないほどの深刻な胃痛と共に、夜空の月を見上げて深く、深くため息をつくのだった。

 

 






・リーアム・ガーフィールド
 アストレイに登場するジャンク屋組合のトップ。そしてある意味ではユウナが世間一般ではどう見られているのか?というのを教えてくれた人であり、今回のお話の被害者。ユウナはある目的をもってジャンク屋組合に顔を出したのですが、そこで彼のまともな対応(ユウナは実はかなりクソチョロいので、悪意無く対応してくれる+警戒の必要がなくなった相手には相当甘々になります)に気に入ったユウナは大盤振る舞いしたのですが、それがまたリーアムの胃にダイレクトアタックを仕掛けるのでした。

 なお書類に関してはその場での提案では無く、交渉材料としてあらかじめ用意したものだったりしますので問題ありません。逆に言えばそれ程大盤振る舞いしてでもジャンク屋組合の協力を求めていたと言えるでしょう。それに関しては次回にでも。

・リバティアストレイ
 ジャンク屋組合が自衛用に開発した機体。連載当初はロウが闇堕ちしただの、自衛用にレッドフレームなんて量産したら連合とザフトに死の商人扱いされて攻撃されるだろなどの読者の指摘がありましたが、いざ完成したものは自衛用 MSとしては完璧なもので、混沌たるC.E.においても通用する名機となるのでした。詳しくは是非漫画本編を。

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