破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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 前回のお話についての追記。実はユウナも含めたオーブの閣僚は出来ればモンロー主義、だめなら現政権の維持を求めており。もう下手に大国を刺激したくないと思っています。しかし、モンロー主義者は排他的ではありませんが閉鎖的な為に下手に支援もできず、現政権は腐っても与党ですので資金などに問題はなく。結果として支援する先が親オーブ派しかありませんでした。引きこもってくれねぇかなぁ…とプラントもオーブもその他の国家も願っているのは内緒です。


EX7 戦車の可能性

 

 

 

 

 リニアガンタンクという機体を知ってるだろうか?モビルスーツという規格外の化け物が生まれる前、それは地球連合軍だけでなく、オーブ軍も長年にわたって主力として使用してきた、紛れもない名戦車だった。

 

 

 車体の全長を超えるほどに長大でスマートな菱形断面の電磁リニアガンは、一般的なレールガンと違って砲身の摩耗が少なく。圧倒的な初速と連射性を両立したその一撃は、かつて数多の建造物や装甲車両を消し飛ばしてきた。

 

 

 さらに足回りは、独立した4基の無限軌道という独特な構造であって、万が一そのうちの1基が吹き飛ばされても残りの足で平然と自走し、変幻自在のアクティブサスペンションによって、砂漠だろうが泥濘だろうが山岳地帯だろうが、あらゆる悪路を戦車とは思えない滑らかさで走破する。

 

 

 C.E.70年の大戦初期、ザフトが意気揚々と地上に投入してきた鈍重なザウートなどはこいつの機動力と射程の前には格好の的でしかなかった。当時は誰もがこいつを信頼し、地上戦の決定打と信じて疑わなかった。それこそ『地上の覇者』の名にふさわしい、時代を代表する傑作兵器――。

 

 

 

 そう、名戦車「だった」。

 

 

 

 モビルスーツという万能兵器が、戦場の生態系を完全に塗り替えてしまうまでは。

 

 

 

 砂漠を文字通り犬のように四足歩行で縦横無尽に駆け回るバクゥという異形が現れボロ負けしたのを皮切りに、連合自身がダガーシリーズを、オーブがアストレイやムラサメをといった具合に、 MSを大量普及させた結果、リニアガンタンクの立場は一転した。

 

 

 三次元的な跳躍と柔軟な近接格闘をこなすMSの前では、どれほど足回りが優秀な戦車であっても「平地を這い回るだけの二次元の標的」に過ぎない。主役の座を追われた戦車たちは、いつしか動く固定砲台か、あるいは後方基地の警備、悪く言えばMSの引き立て役に甘んじるようになる。

 

 

 

 そしてファウンデーション王国との激闘を乗り越えた今では、未だに一部の発展途上国や、予算の限られた後方部隊では現役で配備されているものの、最前線の基準から見れば、こいつはもはや完全に時代遅れと言い切っていい骨董品だ。

 

 

 

 なんせ、現在の最前線における主力量産MSは、まず飛行することが前提の戦闘ドクトリンで動いている。オーブの誇る可変MSムラサメ改を筆頭に、ザフトの新鋭機であるゲルググやギャン、地球連合のウィンダムに至るまで、現代の量産機は地上の戦闘であっても当たり前のように大気圏内を飛行し、立体的な高速戦闘を仕掛けてくるんだ。

 

 

 

 そんな超高速の空中戦が繰り広げられる戦場に、地面にしがみつくことしかできない戦車なんぞ放り込んでみろ。上空からの死角を突いた上面攻撃一発で、中の乗員ごと消し炭にされるただの鉄屑、移動式の棺桶に過ぎないのは明らかだ。装甲をいくら堅くしたところでドッズライフルの普及によって最早安全性など吹き飛んでいる。

 

 

 

 

 それでも、アウトレンジからの遠距離支援機としてなら、まだ使い道があるのでは?

 

 

 

 答えはNOだ。何故ならただでさえ、ザフトで開発された、アイアンコングは最早戦場からそれまでの支援機であったガズウートを完全駆逐する勢いで量産されているからだ。

 

 

 ゴリラを思わせる重装甲の巨体に、強力な支援砲撃能力。それだけならまだしも、あいつらは獣じみた凄まじい跳躍力と素早さまで両立してやがる。

 

 

 重砲撃をぶっ放しながら戦場を縦横無尽に爆走する化け物が相手では、最早ガズウートの射程や火力アドバンテージなど何のアドバンテージにもなりゃしない。なら、それに劣るリニアガンタンクがどうなるかは最早議論の余地もないだろう。

 

 

 

 実際、オーブ国防軍のデータリンクを用いて行われた最新のシミュレーション試験の結果は、目も当てられない惨状だった。

 

 

 

 アイアンコングわずか1機を相手に、リニアガンタンク側は実に7〜8両損害を出さなければ撃破できないという、絶望的なキルレシオを叩き出したのだ。

 

 

 しかも、コストパフォーマンスという政治家や軍が最も気にする面で見れば、事態はさらに致命的だった。最新鋭MSであるアイアンコングは、当然ながらパイロットが1人いれば完全に機能する。

 

 

 対するリニアガンタンクは、操縦手、砲手、車長、通信手……と、ただ動かすだけで最低でも3〜4名の人間が必要になるのだ。つまり、たった1機のMSを止めるために、最悪の場合30人近い熟練の戦車兵の命をドブに捨てることになる。

 

 

 リニアガンタンクの延命を主張していたオーブ軍の一部軍人やこれらの試験を見学した東アジア、ユーラシアの将校は口を合わせて一つの結果を導き出したんだ。

 

 

 

 割に合わないと。

 

 

 

 なんなら、オーブには既に、汎用性の塊である芋虫型のMA――「モルガ」が存在している。俺が開発を主導したこのモルガという機体は、本当に恐ろしいほどの万能っぷりを発揮していた。

 

 

 分厚い装甲を活かした突撃や砲兵としての運用はもちろん、アタッチメントを換えれば土木作業から簡易医療施設の牽引、さらには対空戦闘まで、文字通り何でもこなせてしまう。なんならビームガトリングすら搭載可能になり、歩兵やMSの頼れる相棒としてアルテミス攻略戦でも高い評価を出したんだ。

 

 

 それでいて、これだけ多機能なMAでありながら、必要なパイロットはたったの1人で済むのだ。わざわざ3〜4人も乗員を拉致して棺桶に詰め込むリニアガンタンクの必要性など、どこを探しても見当たらない。

 

 

 

 俺が前世の知識をフル活用してこの世界に再現したゴリラと芋虫の異形コンビによって、旧世紀から続いた伝統的な戦車の存在意義は、文字通り根底から完全に崩壊したのである。

 

 

 ――という訳で、かつて地上の覇者と呼ばれた名戦車リニアガンタンクは、時代の荒波に押され、多くの戦車兵たちに惜しまれながら、静かに歴史の闇へと消えていくのでした。

 

 

 

 ……と、このお話綺麗に終わりになるはずだったのだ。そう、目の前でモルゲンレーテの開発主任であるエリカさんが、信じられない内容が書かれた新たな設計図をデスクに広げさえしなければ。

 

 

 

 

「無理!! いや無理だって、エリカさん! 今更リニアガンタンクを延命しろって!?」

 

 

「どうにかならないかしら、ユウナ様……?」

 

 

 

 エリカさんは珍しく自信なさげに眉を下げて、すがるような視線を向けていた。いや気持ちはわかるよ?わかるんだけどさぁ!こっちはさっきまで、愛妻弁当をのんびり食ってたのに、『リニアガンタンク延命計画』なんて正気を疑う書類をお出しされる気持ちにもなれよ。思わず卵焼き吹き出したわ!?

 

 

 緑茶で喉を癒しつつ、エリカさんを見つめればもう明らかに彼女も「いやー無理じゃない?」という表情を隠しきれてない。彼女としても不可能だと納得した上で俺にぶっちゃけてきたんだろう。出来れば飯食った後だと嬉しかったが…まぁ仕方ない。

 

 

 

「延命はもう無理だと思うな……。基礎設計が古過ぎる訳じゃないけど、『それってゴリラでよくね?』ってなるくらいコングが優秀過ぎてさ」

 

 

 

 湯呑みをデスクに置き、ハァと深いため息を吐き出しながら椅子の背もたれに体を預けた。

 

 

「そうね。なんならムラサメ改に『ライコウ改』を装備させれば、火力支援としてもそれで解決するわね」

 

 

 

 こちらの言葉に、エリカさんもあっさりと同意の言葉を口にした。ライコウ改。ガイアティターンズでシンが運用していたライコウの発展型であり、従来型よりも静音性と火力が大幅に向上している新鋭装備だ。

 

 

 ただでさえ空を飛べる万能機であるムラサメ改にそんなものを背負わせれば、超高速で3次元を飛び回る極悪な移動砲台が完成してしまう。

 

 

 もはや、リニアガンタンクの数少ない売りの一つであったはずの火力すら、モビルスーツの凄まじい火力インフレの前には完全に置いてけぼりを食らっていた。わざわざ地べたを這い回る旧式戦車を金と手間をかけて延命させる理由が、技術的な側面から見ても完全に消失しちまってる。

 

 

「すまんエリカさん、今回ばかりは本当に無理だ」

 

 

 

 首を横に振り、きっぱりと告げた。どう考えても、これを延命させるのは無理がある。コストや運用の役割として見れば、格安で万能なモルガがすでに広く普及しているし、砲撃支援機としてもコングの性能が最高すぎて付け入る隙がない。

 

 

 今オーブ軍の倉庫に眠っているリニアガンタンクの在庫に関しちゃ、新兵器や新型MSの試験の攻撃目標として、裏できれいに使い潰すしかねぇな、という結論しか出てこない。

 

 

 

 ――いや、実際のところ、いくつか打開策を考えなかったわけじゃない。

 

 

 

 前世の記憶も含めて、戦車という兵器が主役として泥臭く大活躍する作品はいくつか存在しているし、そういったミリタリー的なオタク知識は一通り持っている。

 

 

 無論、付け焼き刃なもので、実際の戦車についてはHOI2なんかをプレイした程度の知識で、中身のことなんてほとんどわからんからな。それこそ戦車をメインにした美少女アニメでもあれば、前世で穴が開くほど見てただろうが……あいにくそんな都合のいい記憶はない。

 

 

 それに、だ。

 

 

 今ここにある、すでに基本フレームの設計が終わり、完全に型落ちしてしまっているリニアガンタンクのガワをちょこちょこと弄ったところで、どうにかなるような生易しい話じゃない。

 

 

 

 ザクⅡをどれだけ執念深く改修したところで、ギラ・ドーガには逆立ちしたって勝てないのと同じ理屈だ。世代の壁というのは、それほどまでに残酷で当たり前なのだから。

 

 

「……まぁ、無理よね。やっぱり」

 

 

 

 こちらの明確な正論という現実を突きつけられ、エリカさんはあっさりと肩をすくめた。はなからこの人も期待してなかったんだろうな。本当に期待してるなら俺の肩を掴んでブンブン振り回してそうだし。

 

 

「軍の上の方からね、『まだ動くのにもったいない』っていう貧乏性の精神で、どうにか延命できないかって無理やり相談されたのよ。でも、これだけはっきり性能差が出ているなら、今の在庫を綺麗に使い潰して、最初から全く新しい戦車を作る方がよっぽどマシね」

 

 

 

 そう言いながら、デスクの脇にあるシュレッダーの電源を入れるエリカさん。

 

 

 ウィィィン……と、どこか小気味いい作動音が静かな室内に響き渡る。彼女はその吸い込み口へ、たった今まで自信なさげに差し出してきたはずのリニアガンタンク延命計画書を、躊躇なく滑り込ませた。

 

 

 

 上層部の「もったいない精神」が詰まっていたであろう書類が、無残に細切れの紙屑へと変わっていく。その思い切りの良さは、見ていて実に清々しい。もったいないと思う気持ちは美徳だがそんなもんで旧式の兵器に乗らされて兵士が死ぬ羽目になるのなら本末転倒なんだから。

 

 

「骨董品に無駄な予算を割く余裕がないのは、お互いに重々承知しているわ。……だからこそ、ユウナ様に見て欲しいものが、実はもう一つあるの」

 

 

 

 シュレッダーが計画書を全て飲み込んだのを見届けると、エリカさんは自身の端末から別のデータをホログラムとして空中へと投影してみせた。

 

 

「リニアガンタンクのガワを弄るのが無駄なら――これなら、どうかしら?」

 

 

「蜘蛛……?」

 

 

 青白いホログラムを見つめた瞬間、思わずそんな言葉が口を突いて出た。画面に浮かび上がっているのは、見慣れたキャタピラでも、ましてや俺が前世の知識で持ち込んだモルガのような芋虫型でもない。

 

 

 細身ながらも強靭そうな複数の「脚」が不気味に蠢く、文字通り多脚の肢体を持った異形のシルエットだった。

 

 

 

「多脚型戦車ヤツカハギ。旧世紀にヤマト王権に恭順しなかった土蜘蛛と呼ばれる豪族達の別名よ。戦車という時代の徒花になりつつある機種に対して、それに贖うって意味合いもあるけれど……まぁ、正式採用されれば名前は変わるかもしれないわね」

 

 

 

 エリカさんはどこか楽しげに、しかし、技術者としての強い矜持を滲ませながらその異形のメカニズムを語る。ヤツカハギ。時代の圧倒的な趨勢――すなわちモビルスーツという絶対強者に抗い、地べたを這いずり回ってでも生き残ろうとする反逆者、か。

 

 

 

 技術者らしいいじらしいこだわりは嫌いじゃないが、まずはロマンよりも先に、まずその戦闘能力とサイズ感に目がいく。提示された詳細なスペックシートへと視線を移し、思わず目を細めた。

 

 

 

 小さいな……。

 

 

 

 一般的なモビルスーツの半分、いや、それ以下だ。全高でおおよそ6〜7mくらいといったところか。この極端なまでのコンパクトさが、新たな時代の戦車としての答えだと言うのだろうか?

 

 

「ところで質問だけど戦車の役割とは、一体何かしら? ユウナ様」

 

 

「えー……ごめん、わからん。いや、役割が色々ありすぎて、どれが正解か答えられないわ」

 

 

 ふいに、エリカさんがそんな根本的な質問を投げかけてきたが、少し困惑しながら、素直に両手を上げて降参してみせる。

 

 

 内心では、前世のゲーム知識や生半可なミリタリー知識がぐるぐると渦巻いていた。軽戦車による威力偵察や機動戦、重戦車による強固な陣地の突破、あるいは歩兵に寄り添って敵の機銃陣地を潰す直接支援……戦車の役割なんて、時代や国、状況によって変わりすぎる。

 

 

 このモビルスーツ全盛の C.E.において、今更戦車に何を求めればいいのかなど、一言で表せるはずがないのだ。

 

 

「そうね。明確な答えなんて存在しないわ。では、もう一つ質問させて。――今からそのあらゆる役割を想定した新型戦車を開発したとして、あのモルガやコングを上回れるかしら?」

 

 

「無理」

 

 

 考えるまでもなかった。即座に断言する。コスト面、純粋な火力、そして悪路の走破性に至るまで、あの芋虫とゴリラはすでに各分野において完成されている。

 

 

 どれほど技術の粋を集めた新鋭戦車を仕立て上げたところで、あの二機の性能や圧倒的な費用対効果を総合的に上回ることなど、現状天地がひっくり返っても現状は不可能なはずだ。

 

 

「ええ、その通りよ。かつてユウナ様は仰っていたわね。マルチロールという言葉は魅力的だけれど、必ずしもそれが正しいわけではない、と」

 

 

 エリカさんはフッと不敵な笑みを浮かべ、誇らしげにホログラムの蜘蛛を見つめた。

 

 

「東アジアの局地専用MSのように、一つのことに特化させた機体、一つのコンセプトにすべてを注ぎ込んだ機体は、時に万能機すらも容易に凌駕する。……そして、このヤツカハギのコンセプトは、歩兵戦闘――徹底した対人戦闘に特化したものよ」

 

 

「対人、戦闘……?」

 

 

 

 思わずホログラムの蜘蛛を二度見した。モビルスーツの火力がインフレし、戦場を航空兵器や重火器が飛び交うこの時代に、わざわざ新型戦車を作ってまでやる事が「対人」だって?

 

 

 

 あまりに斜め上すぎる回答に一瞬脳がフリーズしかけたが、提示された「6〜7m」という小柄なサイズと、その多脚のフォルムを凝視しているうちに、エリカさんの意図が急速に点と線で繋がり始めた。

 

 

 なるほど……そういうことか。

 

 

 モビルスーツやコングのような巨体では、都市部の狭い路地裏や、ビルや拠点の内部、あるいは入り組んだ地下施設に潜り込んだ敵の歩兵やゲリラを精密に掃討することはできない。大雑把に建物ごと踏み潰すか、大口径の火器で区画ごと吹き飛ばすくらいが関の山だ。

 

 

 

 だが、この蜘蛛なら話は別だ。

 

 

 

 人間の手が届かない絶妙なサイズ感と多脚の機動力を活かし、瓦礫の山を乗り越え、建物の内部にまで侵入し、潜む敵歩兵を文字通り害虫駆除のように徹底的に磨り潰すことができる。

 

 

 少し弄れば非殺傷兵器を内蔵する事だって出来るだろう。 MSにはジンにだってボロ負けしてもいい。ただ歩兵を相手にするのなら圧倒的な力を見せつけて欲しいんだ。

 

 

 ある意味ではこの機体は世界初の対人戦車としてリリースされる事になるかもな。実の所戦車は敵の陣地だとか塹壕を突破するために対歩兵を想定としたものならイギリスなんかでは初期の頃から運用されていた。しかし、純粋な対人戦闘に特化した戦車はほぼ存在しない。

 

 

 だからこそ、エリカさん達は気付いたんだろう。 MSよりスマートなソフトキルをメインとした小型戦車こそが、ブルーオーシャンであり。現場に求められるものだと。

 

 

 なんだかんだでこの人ロマンを求めたりするが、兵士が何が欲しいのか?軍は何を求めているのか?を常に追求した上で設計してるんだから本当に尊敬ものだ。セイバーをオモチャにしようとしたのはまぁ忘れよう。

 

 

「モビルスーツと正面から撃ち合うのをハナから諦めて、MSじゃ手が届かない隙間に潜り込んだ人間を確実に仕留めるための兵器……。だからこその、このサイズなわけね」

 

 

「ご名答よ、ユウナ様。最終的にはもっと小型にしてみたいのだけれど、現行のジェネレーターや駆動系の技術だと、今はこれが限界ね。その代わり、防御面には少し面白い趣向を凝らしているわ。……もちろん、ドッズライフルのようなMSクラスの直撃に対抗することは、ハナから完全に諦めているけれど……」

 

 

 

 エリカさんはそう言って、ホログラムに表示されたヤツカハギの装甲断面図を指差した。狙いはあくまで、歩兵用のライフルや対戦車ロケット弾。

 

 

 

 そして、将来的に歩兵用装備として携帯型のビーム兵器が普及したとしても確実に耐え切る構造を目指した結果――なんと、先の戦いでファウンデーションから接収した『フェムテク装甲』の技術を、ここに組み込んでいるというのだ。

 

 

 

「……おいおい、クソ高くなりそうだが大丈夫か? というか、それなら実績のあるフェイズシフト装甲の方が、まだ安牌なんじゃないのか?」

 

 

 

 実弾対策がメインなら、わざわざそんな最新の高級素材を使わずとも、PS装甲で事足りるだろう。そう思って疑問をぶつけてみたが、エリカさんは首を横に振った。

 

 

 

「PS装甲は、実弾の衝撃を無効化するたびに激しく電力を消費するでしょう? 補給なしでの継戦能力が命になるこの機体にとって、その大食い仕様は致命的なのよ。その点、フェムテク装甲は防御時の電力消費が驚くほど少なくて低燃費。……気になるお値段に関してだけど、現状だとこれ一機つくるのに、アストレイ一機程度のコストって所かしら?」

 

 

「アストレイ一機程度……!?」

 

 

 

 提示された見積もりに、思わず絶句する。いや、冷静に考えれば高いよ?たかいんだよ?小型の戦車一両に対して、旧式とはいえオーブの主力量産型MSであるM1アストレイ一機分と同等の国家予算が吹き飛ぶのだから、通常なら眉をひそめるべき金額。

 

 

 だが、驚いたのはそこじゃない。まだ接収して技術が確立されたばかりのフェムテク装甲を組み込み、しかも最もコストが跳ね上がるはずの量産試作機の段階において、すでにアストレイ程度にまでコストダウンを成功させているという事実だ。

 

 

「いやすげぇなモルゲンレーテ!? どうやってそんな力技を成立させたんだよ!?」

 

 

 思わず身を乗り出して尋ねれば、エリカさんはどこか誇らしげに、フッと口元を緩めた。

 

 

「フェムテク装甲というものはね、ユウナ様。フェムトメートルの領域を物理的に制御する技術であって、フェイズシフト装甲のように電圧や電流を流すことで装甲を相転移させ、衝撃を無効化する技術とは根本的にアプローチが違うの。つまり、稼働に必要な電力消費は最低限で済むし、半永久的にあの超高強度を維持できる。……とはいえ、本来ならそんな極小の世界をコントロールして兵器として運用するのは、技術的にもコスト的にも至難の業よ」

 

 

「だろ? だからアストレイ一機分に収まってるのが意味不明なんだよ」

 

 

 手元のスペック表を睨みつけるこちらに、エリカさんは「種明かしはここからよ」とばかりに人差し指を立ててみせる。

 

 

「実は、オーブには既に大きなアドバンテージがあったの。海水をナノマシンによってコントロールする、あの技術よ」

 

 

「……あぁ…リヴァイアサンか」

 

 

 今もプラントや連合に徹底的に秘匿し続けてる巨大MAリヴァイアサン。それまで最強を誇っていたフォビドゥンヴォーテクスを中心とした侵攻部隊を文字通り一機残らず殲滅した水中戦最強のMAだ。

 

 

 

 余談だがコンパス設立の際でも大西洋連邦とプラントから情報開示を求められたが全て拒否しているのもあって、この技術はオーブだけが独占をし続けられている。

 

 

 お陰で噂に尾鰭がついて、オーブにはムー大陸やアトランティス大陸生まれの怪物が云々なんてオカルトじみた話さえ聞こえてくるが、そういって恐れられてる内は問題ないと放置しているがな。

 

 

「元々リヴァイアサンの研究は戦後もずっと地道に続けてきたものだから、私たちのナノマシン技術は、いつの間にかプラントに匹敵するか、あるいはそれを部分的にすら凌駕するものにまで成長していたのね」

 

 

「つまり、そのリヴァイアサンのナノマシン技術を応用することで、本来なら目玉が飛び出るほど高価なフェムテク装甲を、これだけ安価に再現したってわけか」

 

 

 

「そうなるわね。ファウンデーションの設計を真面目にそのまま再現しようとすれば莫大な予算が吹き飛ぶけれど、私たちが培ってきた比較的安価なナノマシンを媒介に利用することで、フェムトメートル領域の構造制御を効率的に代替、サポートさせるシステムを構築したの。だからこれはファウンデーションの純正技術ではなく、良く言えば彼らの基礎概念から独自に発展させた別枝の技術。悪く言えば、データをパクった上でオーブの都合に合わせてアレンジした、ある意味では劣化版の『猿真似』に過ぎないわね」

 

 

 

 こちらの言葉に、エリカさんは満足そうに深く頷いた。

 

 

 猿真似だろうがなんだろうが、安価に量産できるというならこれ以上ないほどの大正解だ。カガリ辺りは泣いて喜ぶんじゃないか?

 

 

 いや、ただでさえ軍拡のための予算が湯水の如く消費されてる中でまた新しい新型兵器を開発しようぜ!!なんて言えば泡を吹きかねないが、まぁヨシとしよう。これもオーブの為だ。

 

 

 

 ちなみにファウンデーション王国はユーラシア連邦に吸収されてたりするので、今更「知的財産権の侵害だ」などと不躾な文句を言ってくる国家なんて地球上のどこにも存在しないからパクっても問題なし!

 

 

 

 まあ、オルフェあたりは自国の誇る至高の技術をコピペされたと知って青筋を立てて怒り狂ったかもしれないが、あいつは今は大人しく冷凍睡眠の箱の中に収められている身だ。こちらのやることにケチをつけられるはずもなかった。

 

 

 

 それに、いくら純正品に比べて劣化しているとはいえ、仮想敵が歩兵の携帯火器や、将来的な歩兵用のビーム兵器だというなら、これでも十分すぎるほどの防護力を発揮してくれる。

 

 

 モビルスーツの主砲クラスの直撃を想定しないのであれば、これでいい。妥協ではなく分相応な選択。マルチロールという言葉に踊らされて、さらなる高みへ!なんて考える必要はないのだから。

 

 

 

 それにしても、だ。

 

 

 

 結局のところ、ここまで完成度の高い青写真が最初から用意されていた以上、彼女はあの『リニアガンタンク延命計画』なんて代物を、本気で進める気なんてさらさらなかったわけだ。

 

 

 

 「やってくれたな」という意味を込めて、じっとジト目でエリカさんを睨みつけてみる。だが、当の本人はどこ吹く風といった様子で、こちらの視線をほぼ完全に無視してホログラムの調整を続けていた。

 

 

 

 ……待てよ。これってあれか? 最初に絶対に不可能な無理難題を突きつけてこちらを絶望させておき、その後に本命の妥協案や副案を提示することで、さも魅力的な提案に見せてスムーズに採用させるという……心理学で言うところの高度な交渉術ってやつか?

 

 

 

 ――いや、な訳ねぇか。相手はあのエリカ・シモンズだ。

 

 

 

 仮にさっきの段階で、俺が前世の知識か何かを総動員して、リニアガンタンクの画期的な延命策なんかをうっかり思いついて口にしていれば、彼女は交渉術どころか血走った凄い目つきでデスクに両手を叩きつけ、「オラ!吐け! その構造を詳しく教えなさい!」とばかりに、あらゆる技術的アイデアを貪欲に毟り取りにきていたはずだ。そっちの野生味溢れる姿の方がよっぽど彼女らしい。

 

 

 

 ただ、なんと言うか。

 

 

 

 してやられたという腹立たしさの反面、この『ヤツカハギ』の青写真を眺めているうちに、どうしようもなく胸の奥がワクワクと粟立つような、奇妙な面白さを感じている自分もいた。

 

 

 なんせ、この蜘蛛型の多脚戦車は、俺が前世のミリタリー知識やオタク知識をそのまま横流しして作らせたものでは断じてない。それどころか、俺の知る本来のC.E.の世界にだって、こんなゲテモノじみた兵器は存在していなかったはずなのだ。

 

 

 これは、俺がこの世界にもたらしたモルガやアイアンコング、ついでに言えばグルドリンといった異端の機体群が、この世界の人型兵器至上主義を少しずつ、しかし確実に内側から崩壊させていった結果として、エリカさんたち現地の天才たちが独自に産み出した『答え』なのだ。

 

 

 自分がばら撒いた歪みが、現地の技術の蓄積と混ざり合い、自分の予想を遥かに超えた「自分の知らない全く新しい機体」を形作っていく、バタフライエフェクトが織りなす、未知のテクノロジーの進化。

 

 

 

 一人のロボオタとして、そんな世界の変転の最前線に立ち会えている事実に、どうしようもなく男のロマンの血が騒がずにはいられなかった。

 

 

「なぁ、エリカさん。多少予算を上乗せしてもいいから、ドムトルーパーのホバリング推進システムなんかを一部に応用してみるのはどうだ?」

 

 

 だからこそだろう。柄にもなくワクワクした俺は、素人知識で改良案を軽い気持ちで口にしてしまった。

 

 

 

 

「いや、何もドムみたいに常にホバー状態で戦場を滑走しろってわけじゃない。普段は多脚で移動させて、例えば目の前の河川を渡る時だとか、特定の障害物を乗り越える瞬間とかに限定して、補助的にベクタードスラスターとしての推力を発生させる程度でいいからさ。そうすれば、多脚の弱点である河川や洪水地域なんかでの運用も一歩をカバーできるだろ……」

 

 

 

 ――と、そこまで口にした瞬間だった。

 

 

 

 エリカさんが、言葉もなく「にっこり」と、それはそれは満面の笑みを浮かべてこちらを凝視していることに気がついた。その瞳の奥には、獲物を見つけた猛獣のような、狂気的なまでの技術的好奇心の炎が爛々と輝いている。

 

 

(あ、やべ。完全に余計な琴線に触れちまった……!)

 

 

 気づいた時には、もう何もかもが手遅れだった。俺も学習しねぇな畜生……!!

 

 

 

「素晴らしいわ、ユウナ様! 多脚の接地圧分散とホバーの瞬間減圧を組み合わせれば、理論上は泥濘地での移動速度をさらに三割は引き上げられる! すぐに基本フレームの負荷計算をやり直すから、あなたも手伝って。ドムの推進器のどの部分をデチューンすればそのサイズに収まるか、あなたのイメージをトコトン聞かせてもらうわ!」

 

「いや、俺はただの素人オタクの思いつきをだな――」

 

 

「さぁ、お昼休みの時間は終わりよ。カガリ様には連絡しますから早くペンと端末を持って!」

 

 

 結局、愛妻弁当をのんびり食べていたのどかな昼下がりの余韻は完全に吹き飛び、俺はそのまま深夜になるまでエリカさんにモルゲンレーテの執務室に連行された挙句、缶詰にされちまい。

 

 

 既婚者同士、二人っきりで最高にあつーい夜(ひたすら多脚戦車の駆動系と流体力学について時には怒号混じりで語り合うという意味で)を過ごすことになりましたとさ。

 

 

 

 

 





 ・リニアガンタンク
 ボロカスな評価ですが、機体そのものは決して悪い機体ではありません。ただ、リニアガンタンクで出来ることは MSで大体出来る上にら値段と汎用性でモルガ。火力や速力などではコングが優秀過ぎて、最早近代化改修でどうにかなるレベルではなく、徐々にリニアガンタンクはその数を減らしていくことでしょう。

 それだけこの世界の技術発展が異常な速度なのが悪いだけですね。ちなみにザウート、ガズウートも最早支援機としてゴリラを採用しつつあるザフト軍からはお役御免されて数を減らされています。いや本当どうすればリニアガンタンクは生き残れたんでしょうね。

・多脚型戦車ヤツカハギ
 見た目は攻殻機動隊のタチコマ2割、ヤマトに登場する殲滅多脚戦車ガーム・ビゥを8割で組み合わせたようなイメージ。初期ロットこそ6〜7m程度ですが最終的には軽自動車程度にまで小型化する事を目標となっています。

 その役目は徹底したソフトキル、対人戦闘に特化させたもの。ありとあらゆる兵器が「ムラサメ改でよくね?」「芋虫やゴリラでよくね?」と言われる中、対人戦にのみに徹底して特化させたこの多脚戦車はその後少なくはない実績を上げ。災害救助モデル、完全無人機運用を想定したOOのオートマトンの再現。そして、数十年後に開発される最強の国防MAデススティンガー開発に深く影響を与える事になりましたとさ。

 なお、普段の動いているイメージはコードギアスのアレクサンダをイメージしてもらえればいいかと。ユウナも含めた関係者の多くが「動きがその……キモくない?」と思ったのは内緒です。仮に大西洋連邦がオーブに侵攻して、万が一、歩兵隊が上陸出来たとしても。すごい勢いでカサカサ!と動いてる蜘蛛の大群に襲われた事でしょう。

・ザクⅡはギラ・ドーガに勝てない
 なお実際には、一年戦争中に開発されたジム改をベースにグリプス戦役において魔改造を続けた結果、マラサイとも渡り合えるようになったワグテイルという機体や色々な意味で有名なアージェント・キール仕様などもあって、意外とどうにかなるかもしれませんが、そこは言葉のアヤです。

大西洋連邦の選挙結果は?展開によって今後のお話に影響が出ますが、あくまで大西洋連邦国民の一人として投票して頂けると幸いです。

  • 【フォスター政権+親オーブ派】
  • 【モンロー主義派】
  • 【反オーブ+反プラント派】
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