破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
大西洋連邦との次世代主力MS共同開発、その名ばかりの開発委託が正式に発表され、両国政府による帳尻合わせの交渉が幕を開けた。
一応はオーブの立ち回りとしては、カガリ達が彼女はMS部門の細かい仕様決定を後回しにしつつ、農産物や工業製品の貿易協定といった別件の交渉を優先してテーブルに載せることでできる限りの時間稼ぎを行っている。
現場の状況が猶予されたわけじゃない。今回のプロジェクトは形式上、モルゲンレーテ社が主導となって、大西洋連邦から派遣される技術者たちとチームを組んで共同開発することになっている。だが、そんなものは対外的なポーズに過ぎない。
実際のところは、ほぼオーブの独力でコンセプトの提案から実際の開発までを行い、向こうから来る技術者達は、その補助をさせられるか、あるいはオーブの進んだ技術を学ぶための技術研修に来るようなものだ。
それが一番効率的だと現政権が表明してるようだが、実際の技術者達はもうプライドズタズタなんじゃねぇのか?と気にしてしまうが、案外ハインラインの様に新しい技術に触れられるとワクワクしているのかもしれないな。
まぁ、一応向こうとしても今回は下手に出る形だろうし。性格的に問題のある……それこそパイロットを生体CPUにしようぜ!だとか民間人のコーディネイターを皆殺しにするための爪先バルカンを!なんて嬉々として考える様なアホは送ってこないはずだ。多分、だが。
で、その連中がオーブに派遣されてくるまでの猶予は、カガリが稼いでくれた時間も含めて約三週間。
(勝負は、この三週間だな……)
俺はモルゲンレーテ内部の機密会議室へと足を運びながら、手元の資料を睨みつけていた。もちろん周りにはエリカさんだけではなく、ハインラインも参加してくれている。
プラント出身者のこいつがオーブと大西洋連邦の共同開発機体に関わるなんて不味くないか?と今更思うが、最早ハインラインは完全にモルゲンレーテに馴染んでいるし、顔パスで社内に立ち寄っては好き放題研究しているそうな。
さて話を戻そう。それでは、なぜ俺達が急ぐ必要があるのかと言えば、理由は極めてシンプル。向こうの技術者や軍の上層部がオーブに乗り込んできてから、あれこれと余計な口出しをされるのを防ぐためだ。
あいつらが合流した後に「やっぱり対地攻撃能力を上げてくれ」だの、「沿岸部での運用に適した仕様にしてくれ」だの、オーブ侵攻に特化したクソみたいな注文を追加されては堪ったもんじゃない。
だからこそ、奴らが到着する前に、こちらの手で MSの設計案やコンセプトに関してはあらかじめ完成一歩手前まで作り上げておく必要があるんだ。
大西洋連邦を満足させ、ユーラシアへの浮気を完全に断念させるほどのヴァローナ以上の完成度を誇る機体であり。その上で、そいつらが将来的に再び手のひらを返してオーブを敵に回した時のリスクをあらかじめ想定し、こちらの防衛網で確実に迎撃・処理できるような機体をな。
そして、三週間後に大西洋連邦の連中が「よろしくお願いしまーす」と気の抜けた顔でやってきた瞬間に、これみよがしに分厚い設計図の束を叩きつけてやるんだ。
あっ、遠路はるばるご苦労様です! 仕様書に沿った基本設計の青写真なら、もうこちらで完璧なものを用意しておきましたよー! 予算の執行スケジュールもバッチリ組んであるんで、有無を言わさずこれで進めますね!ってな。
手綱は全て俺達オーブが握り、最初のオーダー以外は全部口出しさせない。その上で双方が納得しつつオーブ侵攻に「だけ」適してない機体を作る必要がある訳だが……。
「難しいわね……」
髪をかき上げ、指で耳元をトントンと叩きながら、エリカさんが心底悩ましげに吐息を漏らした。正直ここまでエリカさんが悩んでるのは初めてかもしれない。
「単純に、大西洋連邦の現行主力機であるウィンダムをベースにして、ジェネレーターやアビオニクスを強化するだけなら簡単よ。開発期間もコストも最小限に抑えられる。だけど……それじゃ駄目。そんな小手先の改良じゃ、向こうの軍上層部が『これならユーラシアのヴァローナをライセンス生産した方が安くて強いじゃないか』って言い出すのは目に見えているわ」
エリカさんの指摘は、まさにこの問題の本質を突いていた。そう、今回の開発は常に大西洋連邦はヴァローナのライセンス生産を行うと言う選択肢が存在している事が面倒なんだ。
そんな事するはずがないって?そもそもユーラシアだって自国産のハイペリオンを開発し、独自に運用しようとしていたが最終的にストライクダガーを運用した歴史がある通り「地球連合」という一つの組織においては、常に手段の一つとして同連合産のMSを使用すると言う選択肢が存在している。そして、大西洋連邦がヴァローナを選択した瞬間こちらはジ・エンドだ。
「かといって、ウチのムラサメ改のデータを惜しみなく投入して、ヴァローナを完全に圧倒するような超高性能な空戦能力を持つ機体をお出しすれば……今度は将来、大西洋連邦の政権がひっくり返ってオーブ侵攻が始まった時に、その機体が空からウチの本土に大挙して押し寄せてくることになる。自分たちの首を絞めるギロチンを、わざわざモルゲンレーテの手で研ぎ澄まして相手に手渡すようなものよ」
そう言って、エリカさんは手元のモニターに映し出されたユーラシアのヴァローナのスペック表と、大西洋連邦からの無理難題な要求仕様書を交互に見比べた。
えっ、なんでヴァローナのスペックや詳細データが存在しているのかって?まぁ「色々」とあるんだよ。色々助かってるとはいえ、いつかあの子とんでもないやらかしを引き起こして指名手配されるかもしれん…。
基本設計において、エリカさんは優れたモビルスーツを生み出すことにかけては間違いなく天才と言えるだろう。アストレイシリーズをはじめ、オーブの国防を支える数々の傑作機を形にしてきたのは他ならぬ彼女だ。
けれど、今回ばかりはその天才の頭脳を以てしても、完全に足止めを食らっている。何より厄介なのは対抗馬として存在しているヴァローナが「安くて、今後の戦場のメインとなる空戦において滅っぽう優秀」という、コンセプトで完成してしまっていることだ。
大西洋連邦をヴァローナから引き剥がすには、それ以上の数字と性能を提示しなければならない。だが、提示すればするほど、オーブにとっての脅威度が跳ね上がる。ただ優秀なものを作れば認められるのではなく、対抗馬の存在がここまで問題を難しくさせるとは思わなかった。
なお、ハインラインは相変わらず無言のままだ。基本的にアイツは、こういう会議で積極的にアイデアをぽんぽん出すタイプではない。自身の中で理論が完璧に構築され、「100%イケる!」と確信した場合にしかしか絶対に口を開かないんだ。今はまだ、彼の脳内でも矛盾を解決策が出てこないんだろうか?
もちろん会議室にはエリカさんだけでなく、モルゲンレーテが誇る各分野のスペシャリストたちが揃ってPCと向き合っている。時折あーでもない、こうでもないと眉をひそめて議論を交わしてはいるが、状況は完全に「会議は踊る、されど進まず」を体現していた。
俺自身もまた、必死に脳内のオタク知識を辿って検索をかけてみるものの、出てくるのは「特定のシステムを立ち上げるとパイロットの精神が崩壊する」だの「勝手に暴走して周囲を無差別殺戮する」だのといった、自爆ボタン付きの欠陥機ばかりだ。そんな極端なものを大国への提案書に載せられるわけがない。バレなきゃ犯罪じゃないがバレれば犯罪なんだから。
そんな手詰まりの空気が流れる中、参加者の一人がおずおずと手を挙げた。
「……あの、いっそ開発自体は向こうの要求仕様通りに普通に進めて、ユウナ様が普段からオーブ製のMSに仕込んでいるような『バックドア』を、今回も同じように組み込めばいいのではないでしょうか?」
「あー……それは大前提なのよね」
俺が口を開くより早く、エリカさんが指先でトントンと机を叩きながら、苦笑混じりにそれを遮った。
当然だ。未来の敵になるかもしれない連中に、遠隔で機能を制限するなりシステムを落とすなりの保険を掛けないわけがない。そんなものは言われるまでもない、やるのが当たり前の最低限のセーフティネットってやつだ。
だが、俺は椅子の背もたれに体を預けながら、天井を仰いで首を振った。
「ただな、向こうの技術者も決して馬鹿じゃない。分かりやすいトロイの木馬なんかをOSに仕込んでりゃ、機体を引き渡した後の定期検査や、向こうの独自アップデートの段階で確実に発覚してややこしいことになる。かと言って、軍の専門家が解析しても気づかないレベルで、巧妙にハードウェアの電子回路レベルからバックドアを隠蔽するとなると、これまた大変なんだよなぁ…」
そりゃメイリン辺りならそう言うことも出来るだろうが、基本的にOSってものはアプデで進化するものだ。オレが仕込んでいる『黄金の秋』は基幹データに仕込んでいるがそっちだって定期的にオーブで更新されている。
だが、今回は大西洋連邦の機体なだけあって、勝手が違いすぎて難しい。
オーブ製の機体ならともかく、他国の次世代主力機となるシステムの基幹にそんなものを仕込めば、引き渡し時の検査や運用の過程で恐らくバレるだろう。
じゃあ、解析されにくいハードウェアの物理回路にじっくりと仕込んで隠蔽すればいいかと言えば、話はそう単純でもない。OSの進歩というのは日進月歩であり、あいつらだって納入後は独自にシステムを常に更新し続けるはずだ。
今ここでどれだけ巧妙なウイルスを仕込んだところで、数年後、数十年後の有事の際、向こうでアプデされ洗練され続けた最新OSに対して、今作って仕込んでおいたウイルスがちゃんと牙を剥いて機能してくれるかどうかは完全に不明なのだ。
だからこそ、ソフトウェアのアップデートごときで覆らない『機体の根幹そのもの』に、仕様レベルで明確な制約をつける必要がある。だが、大西洋連邦を満足させるヴァローナ以上の高性能機でありながら、オーブ侵攻の時だけ都合よく牙を抜かれるような根幹構造なんて、一体どうやって設計しろって言うんだ。
そんな矛盾の壁にぶち当たり、俺達は思考の再びループに陥って頭を悩ませていると……それまで会議の議論に一切加わらず、無言のまま凄まじい速度でキーボードを叩き続けていたハインラインが、ポツリとつぶやくのだった。
「それでは、発想を変えましょう」
それから数週間後。正式に大西洋連邦から派遣された技術者たちは、来賓用に用意された会議室にて、一様に張り詰めた面持ちで激しく緊張していた。
彼らは本国では有数の優れた技術者たちであり、中にはウィンダムどころか、かつての地球連合軍の正式採用 MS、ストライクダガーの開発にまで深く関わった歴戦のベテランも含まれている。しかし、そんな大国のエリートである彼らが今、立っているのは因縁深きオーブの地であった。
政府の要請により派遣され、オーブの技術を頼って新型MSを共同開発する。その事実自体が、彼らの技術者としてのプライドを容赦なくズタズタに引き裂いていたといえるだろう。
何しろ、彼らはダガーシリーズの集大成であるウィンダムという機体に、並々ならぬ情熱を注ぎ込んできたのだ。しかし、そのウィンダムはオーブという小国を落とすことができずに次々と撃破され、さらには本国におけるロゴス崩壊の余波とドッズショックによって、後継となるはずだった新型MSの開発計画すら軒並み凍結されてしまった。
そして、今やウィンダムは、オーブやザフトの最新鋭機に遅れをとっているだけではない。かつては技術的に一段劣ると見なしていたユーラシア連邦にすら、あの新型機『ヴァローナ』を相手にキルレシオ3:1で惨敗を喫しているという、目を覆いたくなるような現実に直面していたのだ。
彼らにとって、自分たちが丹精込めて育て上げたウィンダムが戦場で無残に撃破され、あまつさえその敗戦相手であるオーブに頼らざるを得ない現状は、我が子を凌辱されたに等しい屈辱であった。自分たちの誇りを木端微塵に打ち砕いた犯人の足元へ、自ら進んで教えを乞いに行くような、形容しがたい惨めさがそこにはある。
だが、その激しい怒りと屈辱に震える胸の奥底で、彼らは技術者としての「業」とも言うべき、抑えきれない期待と好奇心を同時に抱いていた。
どれほど政治的に憎かろうと、オーブの、そしてモルゲンレーテの技術力が世界最高峰である事実は認めざるを得ない。
かつて自分たちの前に立ち塞がった最高の好敵手。その連中が、今回の大西洋連邦の無理難題に対して一体どんな回答をお出ししてくるのか。そして、その世界最先端の機体開発に、自分たちも当事者として深く関わることができる――その事実に、技術者としての知的好奇心がどうしても刺激されてしまうのだ。
憎悪と、屈辱と、そして否定しきれない興奮。そんな奇妙に歪んだ熱量を孕んだまま、大西洋連邦の技術者たちが固唾を呑んでオーブ側の最初の出方を待ち受けていた、その時だった。
「お待たせいたしました」
会議室の重厚なドアが開き、落ち着いた声と共に一人の女性が入室してきた。知的な雰囲気を纏い、凛とした佇まいのその女性は、大西洋連邦の面々に向けて丁寧かつ毅然とした一礼を返す。
「モルゲンレーテ社、MS開発部門主任のエリカ・シモンズです。皆様、遠路はるばるオーブまでようこそお越しくださいました」
彼女が名乗った瞬間、技術者たちの視線が一斉に集中した。エリカ・シモンズ。言わずと知れたオーブのモビルスーツ開発を牽引してきた最高責任者であり、数々の傑作機を世に送り出してきた生ける伝説の一人だ。技術者であれば誰もがその名を知る天才の登場に、室内の緊張感はさらに一段階跳ね上がる。
大西洋連邦の面々が固くなってその一挙手一投足に目を向ける中、エリカは形式的な世間話を挟むことなく、単刀直入に本題を切り出した。
「皆様もお疲れでしょうから、挨拶もそこそこにさっそく本題に入らせていただきます。――大西洋連邦より提示された要求仕様書に基づき、我が社で開発予定の新型MSの青写真を、あらかじめこちらで用意させていただきました」
その言葉に、連邦の技術者たちの間に微かな動揺が走る。まだ席に着いて挨拶を交わしたばかりだというのに、すでに具体的な設計案が完成しているというのか。
驚きを隠せない彼らのデスクの前へ、エリカの合図によって、社員が数名入室し、新型機のデータが格納されたファイルが手際よく配られていく。オーブ側に完全に主導権を握られた形に圧倒されながらも、技術者たちは弾かれたようにそのファイルへと視線を落とす。
配られた紙面に落とされる技術者たちの視線は、まさに「舐め回すよう」という表現が相応しかった。プロとしての鋭利な眼差しが、図面の一線、スペックシートの数値の一行一行を貪るようにスキャンしていく。緊迫した静寂の中、ページをめくる乾いた音だけが室内に響いた。
やがて、その中の一人――ウィンダムの開発に深く関わってきたであろう初老のベテラン技術者が、険しい表情のまま静かに手を挙げた。
「……質問をよろしいでしょうか、シモンズ主任」
「ええ、どうぞ。何なりと」
エリカが穏やかに促すと、男は手元の資料を指先で軽く叩きながら、腑に落ちないといった口調で切り出した。
「提示された設計案を拝見させていただきましたが……これは新規開発というより、基本的には我が国の『ウィンダム』の改修機、あるいは発展型と呼ぶべき代物ですね? 我々は、例のユーラシア連邦のヴァローナに対抗し得る、全く新しい次世代の新型機が提案されるものとばかり思っていましたが」
その言葉には、微かな失望と、オーブ側が手抜きをしたのではないかという猜疑心が混じっていた。周囲の連邦技術者たちも、同意するようにエリカへ厳しい視線を向ける。
だが、エリカはそんな彼らの反応を完全に予測していたかのように、少しも動じることなく綺麗に微笑んだ。
「おっしゃる通りです。こちらの開発コード、および提案名としては、現時点で『ウィンダムⅡ』と名付けさせていただいています。皆様が困惑されるのも無理はありません。しかし、私たちは決して現状維持の手抜きを提案しているのではありません。基本設計において極めて優れた機体であるウィンダムをベースとし、それを『より高性能に、より現代の戦場に適応させる』ことこそが、現時点で大西洋連邦が取るべき絶対的な最善手であると確信したからです」
エリカは手元のリモコンを操作し、背後の大型スクリーンに詳細な比較グラフと、二つのシミュレーションデータを表示させる。
スクリーンには、既存のウィンダムをベースにした「近代化改修案」と、モルゲンレーテで完全に一からラインを起こす「新規製造品」としてのウィンダムⅡ、その2つの詳細なスペック比較が映し出された。
「まず、現在大西洋連邦が保有している既存のウィンダムを改修するプランですが、こちらは主にスラスターの配置見直しと推力向上、そして最新の大容量バッテリーへの換装といった、細かなセクションごとのアップデートが中心となります。これだけでも、従来の燃費と稼働時間の問題は大幅に改善されるでしょう」
エリカは淡々と、しかし確かな説得力を持って解説を続ける。改修案は現在も数多く配備されたウィンダムを強化するもの。確かに改修案はきめ細かく、多岐に渡るように描写されているのは感心するが、それならばモルゲンレーテに依頼せずとも大西洋とて企画していた事。
つまり、本番は後者であると技術者達は確信しながら言葉を待つ。
「そして、こちらが我が社で新規に製造する場合の『ウィンダムⅡ』の仕様です。こちらはフレームの材質から装甲の複合素材に至るまで、オーブの最新技術を用いた素材へと全面的にアップデートします。これにより、機体重量のさらなる軽量化と、空戦能力の向上するでしょうね」
画面に並ぶ、数値の羅列の数々。だが、スペックシートをさらに深く読み進めていた連邦側の一人の技術者が、ふと指を止め、怪訝そうに眉をひそめた。彼は画面の数値を食い入るように見つめると、怪訝な声を上げてエリカの説明を遮った。
「……シモンズ主任、少々よろしいでしょうか」
「はい、何でしょう?」
「今ご説明いただいた、素材の刷新やスラスターの強化によるスペックアップの意義はよく理解できました。ですが……私が先ほどからどうしても気になっているのは、そこではないのです」
男は手元のタブレットの画面を拡大し、設計図のある一点を鋭く指し示した。
「なぜ、このウィンダムⅡは、関節(駆動部)をここまで過剰なまでに強化する必要があるのですか? 明らかに、この関節部分の構造変更と要求トルクの数値は、一般的な大気圏内での空戦能力向上、あるいは軽量化という開発目的の範疇を大きく逸脱している。かなりの強化改修が施されているように見受けられますが……これは一体、どういう意図なのですか?」
男の指摘に、他の連邦技術者たちもハッとしたように手元の資料の駆動系データへと視線を走らせる。
確かに、そこには不自然なほどに重厚で、かつ極限までガチガチに固められた「関節駆動系の強化数値」が刻まれていたのだ。この数値は通常のウィンダムの3倍近いものであり、わざわざ間接部分をここまで強化するのは明らかに不自然としか言いようがない。
(やっぱり、そこには気づくか……)
エリカは、手元の端末の影で、誰にも気づかれないほどの微かな笑みを唇の端に刻む。そして、心の中で、目の前の男――そして眉をひそめて追従する大西洋連邦の技術者たちに、明確な「合格点」を出す。
もし彼らがこの異常な数値を見落とすような凡百の集まりであれば、オーブ側としての「本命の仕掛け」の発表はもっと後回しにするつもりだった。
しかし、彼らは伊達に激戦を潜り抜けてきたウィンダムの設計主幹を任されていたわけではない。自らが心血を注いだ機体の数値だからこそ、わずかな違和感も見逃さない鋭さを持っている。優秀な人材であることは間違いなかった。
つまり、ここからがエリカ自身の本当の戦いだ。この関節駆動系を通常の3倍近くまで跳ね上げるという極端な設計思想――その元となる画期的なアイディアを叩き出したのは、彼女にとっては盟友とも言えるハインラインだ。
だが、彼の存在をここで表に出すわけにはいかない。
ハインラインは元々、プラントの主要設計局の出身であり、ザフトの息がかかった技術者だ。そんな男が大西洋連邦の次世代主力機開発に深く関わっているなどと知られれば、大西洋連邦側からすればスパイ行為、あるいはマルウェアを仕込まれたに等しい猛烈な警戒と反発を招き、この共同開発そのものが破談になりかねないのだ。
だからこそ、この場はエリカが「モルゲンレーテ単独の提案」として、彼女自身の言葉だけでこの辣腕の技術者たちを完璧に納得させなければならなかった。
ここを切り抜けられるかどうかが、この三週間におよぶ極秘プロジェクト全体の天王山。
エリカはすっと表情を引き締め、技術者としての誇りと、オーブの防衛を背負う鋼の意志をその瞳に宿しながら、ゆっくりと口を開いた。
「皆様、こちらのモニターをご覧ください」
エリカの涼やかな声と共に、背後の大型スクリーンが切り替わった。そこに映し出されたのは、高度な戦術シミュレーターによって構築された、ウィンダムⅡの模擬戦闘映像である。
仮想空間において、ウィンダムⅡはザフトの現行主力機である『ザクウォーリア』の部隊と交戦していた。新素材による軽量化と徹底的な推力強化を施されたウィンダムⅡは、かつてのウィンダムとは見違えるような鋭い機動を見せ、ザクの放つ砲火を紙一重で回避しながら次々と撃破していく。
ザク相手に終始優位を保ち、圧倒していくその奮戦ぶりに、技術者たちの間からは「ほう……」と感嘆の混じった微かなどよめきが漏れる。自分たちの生み出した雛形が、見事にザフトの主力機を凌駕している。それは彼らにとって、これ以上ないほど満足のいく光景だった。
しかし、エリカが手元の端末を操作すると、シミュレーションのフェイズが無慈悲に更新される。
「――ですが、対峙する相手をこちらに変えた場合はどうでしょう」
次にスクリーンの砂漠地帯に現れたのは、ザフトが誇る最新鋭量産機『ゲルググメナース』だった。
突如として始まった第二ラウンド。ウィンダムⅡは先ほどと同様に鋭い一歩を踏み出し、果敢にゲルググへと肉薄する。だが、ゲルググの性能はザクの比ではなかった。ウィンダムⅡが放つドッズライフルの一撃は、ゲルググの洗練された機動によって容易く見切られ、逆に懐へと潜り込まれてビームナギナタ(マグヌスグラディウス)の一閃を浴びる。
その結果はコクピットへの直撃。シミュレーター上に【MISSION FAILED】の赤い文字が無情に浮かび上がった。
エリカは無言のまま、環境や戦闘パターンを変えて2回目、3回目とシミュレーションを繰り返した。市街地戦、そして障害物の多い空間戦。しかし、結果はいずれも同じだった。どれほどウィンダムⅡが優れた機動を見せようとも、ゲルググメナースの放つ苛烈な猛攻を前に、3回ともなす術なく撃破されてしまうのだ。
先ほどまでの高揚感は霧散し、会議室には冷や水を浴びせられたような沈黙が広がった。技術者たちの顔に、再び苦渋の色が混じる。
「見ての通りです。どれほど基本スペックを底上げしようとも、ゲルググメナースを相手にした場合、現状の仕様では3回戦って3回とも勝てない。……これは、何もゲルググという機体が単に高性能だから、という理由だけではありません」
エリカはスクリーンを静止させ、ウィンダムⅡとゲルググメナースの機動ラインのブレを、拡大されたグラフで指ししめした。
「根本的な問題として、コーディネイターとナチュラルのパイロット間における、肉体的な反応速度や空間認識能力の差。この残酷な現実が、最新鋭機同士のドッグファイトにおいては致命的なアドバンテージとして機能してしまうのです」
その言葉は、地球連合軍の技術者たちにとって、あまりにも耳が痛く、そして呪わしいほどに思い知らされてきた真実だった。
一部の例外を除いてコーディネイターにナチュラルは勝てない。それはどれだけ無視しようにも突きつけてくる現実であり、だからこそ数で劣るザフト軍によって多くの連合の MSは撃破され続けてきたのだから。
「だからこそ、大西洋連邦……いえ、地球連合軍の戦略ドクトリンは、常に『物量』を前提としていました。個の性能差を認め、それを全て数で勝る状況を作り上げることで補い、圧殺する。それが皆様の、そして連合軍の基本戦術であったはずです。ですから、ナチュラルの操縦する量産機が、コーディネイターの駆る最新鋭高性能機に1対1で勝てないというのは、ある意味でこれまでの常識からすれば当たり前の結果に過ぎませんでした」
実際、シミュレーションに登場したゲルググメナースは、大西洋連邦の主力機であるウィンダムと比べても、明らかに一機あたりにかかっているコストが違っていた。
プラント(ザフト)やオーブのように、大国と比べて圧倒的に人口比で劣る勢力にとって、専門の訓練を受けた貴重なパイロットの生命は何よりも重い。そのため、彼らのMS開発は「多少のコスト高には目を瞑り、機体性能を極限まで引き上げてパイロットの生存率と戦闘力を担保する」というのが絶対的なセオリーとなっていたのだ。
オーブのビームディフェンスロッドやザフトのビームリーマーは代表的なものだろう。あれらの装備は高価であり、実の所ウィンダムなどには搭載していない。しかし、ドッズライフルによって貴重なパイロットが損耗することを恐れた両陣営はこれらの対策装備を常備することを重要視している。
もし大西洋連邦が彼らと同じ「個の高性能化」という土俵に真っ向から立とうとすれば、ただでさえ膨大な配備数を必要とする軍の性質上、国家予算を逼迫させるほどに開発費と生産コストが高騰してしまうのは火を見るより明らかだった。
だからこそ、多少は個の性能が劣っていようとも、優れた生産性と物量、そして戦術の連携で勝ればいい。
オーブ側が完全な新型ではなく、あえて既存のウィンダムをベースにした近代化改修案を提示し、その長所を順当に伸ばすスタイルを説明したのも、そうした連合軍の台所事情とドクトリンに配慮した現実的な妥協の産物なのだ――。
エリカのここまでの説明を聞き、データを見せられた連邦の技術者たちは、誰もが内心でそう納得していた。オーブ側の提案の意図を、完全に理解したつもりになっていたのだ。
しかし、結論から言えばそうではなかったのだ。
彼らは後に思い知る事になる。現実は、想像力を遥かに凌駕していたのだと。自身の想像力が足りなかったのだと。
続きは明日投稿。一見普通のウィンダムですが果たして…。
大西洋連邦の選挙結果は?展開によって今後のお話に影響が出ますが、あくまで大西洋連邦国民の一人として投票して頂けると幸いです。
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【フォスター政権+親オーブ派】
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【モンロー主義派】
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【反オーブ+反プラント派】