破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
オーブ軍は現在、世界屈指のモビルスーツ開発能力を保有している軍隊である。それは誰もが認める事実であったが、それでは艦艇はどうなのかといえば、評価は少し複雑なものになった。
現在の宇宙軍における主力艦は、かつて三隻同盟で活躍したことで有名なクサナギを筆頭としたイズモ級である。その性能は決して低くはない。度重なる近代化改修を経て、現在では陽電子砲ローエングリンを複数搭載し、モビルスーツの運用能力に至っては最大一五機を同時搭載・運用可能という、極めてバランスの取れた優秀な傑作艦へと進化を遂げていた。
イズモ級は間違いなく優秀だった。しかし、それは裏を返せば、地球連合やプラントをはじめとする世界各国がモビルスーツの性能向上を最優先し、艦艇の新規更新を最小限に抑え続けた結果に過ぎない。他国の足踏みによって、相対的にイズモ級の優位が保たれているという状況だった。
例えばザフトが作り出したミネルバ級や、コンパスで運用されるミレニアム級、はたまたファウンデーションが作り出したバルドル級などは、明らかにイズモ級を凌駕している。対空・対艦の迎撃能力、モビルスーツの搭載能力、被弾時の防壁や脱出システムによる人員の生存性の向上、そして何より戦艦としての絶対的な火力など、そのどれをとってもイズモ級より優れていた。
それも当然だろう。それらの最新鋭戦艦は、あの第一次連合・プラント大戦という、モビルスーツの運用について凄惨な実戦の中で模索し尽くされた戦いの戦後に開発されたものである。最初からモビルスーツを中心とした現代の戦術を前提に、すべてが最適化されていたのである。
それに対して、アークエンジェルの製造よりも前に基本設計が行われていたイズモ級は、いくら近代化改修で武装やハンガーを拡張したところで、どうしても新世代の艦艇が持つ洗練さには及ばない。いわば骨組みそのものの古さからくる限界が、そこには確かに存在していたのだ。
故に、オーブ国防宇宙軍は次世代艦の開発を急いだその決定打となったのが、ファウンデーションとザフト反乱軍による一連の戦いである。オーブ軍はこの激戦を経て、多数のファウンデーション製艦艇を鹵獲することに成功した。
しかし、それらの構造や技術を精査した宇宙軍の面々が抱いたのは、勝利の余韻などではなく、明確な危機感だった。解析結果が示したバルドル級などの性能は、現行のイズモ級の限界を無慈悲に突きつけるものだったのだ。
戦いの結果を受け、プラントや地球連合の各国は、新たな脅威に対抗すべくモビルスーツの急速な更新へと追われていた。戦後の混乱も相まって、どの陣営も次世代モビルスーツの配備と前線の穴埋めにリソースを割くのが精一杯という状況だった。
だが、オーブだけは異なっていた。他国から見れば極めて贅沢な話ではあるが、オーブはモビルスーツ開発の領域において、常に世界の最先端、いやそのさらに先を進み続けている。他国のように今さら慌てて基本兵装の底上げに奔走する必要がそもそもなかったのだ。
モビルスーツにおいて常に優位性を保ち続けているからこそ、オーブは各陣営の中で唯一、次なる国防の要として艦艇の刷新に注力するだけの技術的・時間的な余裕を備えており、故に艦艇にまで手を加える事が出来たのは幸いと言えるだろう。
より正確に言えば、現在のオーブ軍が最優先で取り組んでいるのは、目先の新型モビルスーツの量産や制式採用ではない。民生利用まで視野に入れた高度な対話型AIをジャンク屋連合と共同で開発していたり、ナノマシン技術を流用することで実用的な硬度を維持できる液体金属の開発などを優先して行っていたのだ。
それは、いわば単体機体の開発ではなく、さらにその先を見据えた次世代モビルスーツのための基礎研究に注力している段階であった。既存の技術基盤で十分に世界のトップを走り続けているからこそ可能な、実に贅沢な先行投資と言えるだろう。
話が少し逸れたので、閑話休題。
ともかくとして、こうした技術的アドバンテージと現場の余裕を背景に、オーブ国防宇宙軍は今こそ次世代艦艇を建造すべき時であると動き出した。彼らは根回しと共に旧式化したとイズモ級への警鐘を鳴らし、オーブ議会、そしてアスハ代表の正式な許諾を取り付けることに成功する。
こうして、国防宇宙軍が自ら主導権を握る形で、次期主力艦艇の開発プロジェクトが正式に産声を上げたのであった。
なお、今回の艦艇開発プロジェクトには、これまでオーブの兵器開発を牽引してきた主要人物たちが意外なほど関わっていない。
まず、シモンズ主任は、大西洋連邦に依頼された主力量産機の発展型であるウィンダムⅡの開発と、前述の液体金属の基礎研究にかかりきりであり、また、今や当たり前のようにモルゲンレーテの施設をフリーパスで出入りしているハインライン大尉も、今回はまったくノータッチだった。彼はキラやアスラン、ジャンク屋組合の「8」と共に、新たな対話型AIの開発に没頭しており、艦艇開発に回す余裕など爪の先ほども残っていなかったのである。
そして何より、これまでに前世の知見を活かし、ドッズライフルをはじめとする数々の革新的な装備の概念を持ち込んできた、この様な開発大好きな副総裁のユウナに至っては、完全にこの件から離れていた。
それどころか彼は珍しく長期休暇を申請し、妻であるミーアの各地でのライブツアーに付き添うという、かつてないほど平穏な日々を享受していたのだ。
「表向きはアレだ。『No.2の俺が率先して休みを取らなきゃ、下の連中も気を遣って有給申請すら出せねぇだろ?』ってやつ。……だが本音を言わせてもらうならな、いい加減嫁さんの尻追っかけるくらいの休みが欲しいんだよ、こっちだってよぉ!?」
言い放ち強引に長期休暇を勝ち取ったユウナの顔はこの上なく晴々としたもので、久々に新婚生活と妻のサポートを満喫していたという。
だが、そのわずか一週間後、大西洋連邦内においてテロリストによる引き渡したばかり、試験予定のプロトタイプウィンダムⅡの強奪事件が発生。せっかくの休暇は最悪の形で中断されることとなった。
その際のユウナの荒れぶりは、後々まで軍内で語り草になるほどだったという。
「ふっざけんなカスが!?テメェら最近落ち着いたと思ってたのに、最悪のタイミングで暴れてんじゃねぇよクソがぁよぉぉ!!?」
限界までブチ切れた彼は怒りのまま、オーブ軍が秘蔵する超大型MA『オウガ』を自ら乗り回してテロリストをチリ一つ残さず消滅させてやると暴走。最終的にあのババが「落ち着いて下さい、ユウナ様!!」と全力で仲裁に入るという、実に珍しい事態にまで発展したそうである。
なおその結果ミーアは寧ろ、ユウナの激怒っぷりにそこまで自分を想ってくれているのかと蕩けており、ある意味幸せそうにしていたのだが……まあ、それはさておき。
そうした事情も重なり、主要な上層部や優秀な開発陣の手は完全に塞がっていた。故に、今回の新型艦艇開発プロジェクトは、軍部――とりわけオーブ国防宇宙軍の現場が中心となって推し進められることとなったのであった。
オーブ国防宇宙軍本部、その一角に設けられた密閉会議室。大型モニターを囲むように着席した将校たちの間には、シリアスで、しかしどこか純真無垢な子供の様な狂気すら孕んだ重々しい空気が満ちていた。
「……いよいよ、だな」
静寂を切り裂くように、腕を組んでいた将校の一人が重厚な声を漏らした。その眼差しは真剣そのものであり、冗談や悪ふざけの気配は微塵もない。
「我々はずっと、これを求めていた。我々の先代……いや、日本人の血を引く将校ならば、誰しも一度は想像したことがあるはずだ」
普通に聞けばあまりにも過言がすぎる主張である。そんな訳あるかと言い出すツッコミ役も本来ならばいるはずだ。だが、この場に集まった面々の誰一人として「それは言い過ぎでは?」などと口にする者はいなかった。
なぜなら、彼らは知っていたからだ。自分たちがずっとその存在に夢を見つづけ、望み、憧れ、理想として抱き続けてきたということを。
時代が移り変わり、兵器の主役がモビルスーツへと移り変わった現代においてすら、胸の奥底で燻り続けていた男のロマン。他国がモビルスーツの足踏みに終始し、自国が最高の技術的余裕を保持している今というこの瞬間だからこそ、ついにその高みへと手を伸ばす機会が巡ってきたのだ。
将校たちの胸中に、抑えきれない興奮と高揚感が急速に広がっていく。静まり返った会議室の中で、全員の歓喜に満ちた荒い呼吸音だけが微かに響いていた。
「……さぁ、始めようか」
中央に立つ将校が静かに立ち上がり、端末の起動スイッチに指をかけた。
「我々の手で、ヤマトを作るのだ!」
「「「おぉぉぉぉ――――っ!!」」」
次の瞬間、咆哮にも似た歓声が会議室の壁を大きく揺らした。モニターに映し出された威風堂々たるシルエット。そして提示されたあまりにも壮大で、男たちのロマンを極限まで刺激するコンセプト。
オーブ国防宇宙軍の面々は総立ちとなり、血湧き肉踊る興奮のままに万雷の喝采を贈っていた。
彼らの目は完全に据わっており、その顔には「自分たちの手で最高の決戦艦を作り上げてやる」という誇りと熱狂が満ち満ちていた。トダカの意思を継ぐ生真面目で実直な軍人たちが、今まさに旧世紀に作られ、皆の胸を熱くしたアニメのロマンを最新技術で現実のものとするべく、熱く固い握手を交わし合っている。
……なお、もしこの場に副総裁であるユウナが同席していた場合、「こいつらやべぇよ……」と本気でドン引きしていた可能性が極めて高い。
しかし、幸か悪か、当のユウナは今頃北米の地で、せっかくの愛妻との有給休暇を潰された怒りに目を血走らせ、正義の怒りをぶつけろ!ガンダム!とばかりにテロリストどもへ容赦のない鉄槌を下している最中であった。
故に、この熱狂の渦中にあって彼らの暴走を止める冷や水やストッパーなどは存在しない。オーブ国防宇宙軍による、理想とロマンを詰め込んだ前代未聞の新型艦建造計画は、こうして誰にも邪魔されることなく大真面目に始動したのであった。
さて、諸君らは 宇宙戦艦ヤマトというアニメをご存知だろうか?西暦と呼ばれた旧世紀、人類がいまだ地球圏の重力から完全に抜け出しきれていなかった時代に生み出された、古典的なSFアニメーション作品である。
異星人からの攻撃によって滅びの淵に立たされた人類が、銀河の彼方の惑星イスカンダルへと放射能除去装置を求めて旅立つという劇的なストーリーや、そこに織りなされる乗組員たちの濃厚な人間ドラマといった要素は、ここでは一旦脇に置いておくとしよう。
兵器の運用、そして戦術概念という視点において、この作品が掲げていた本質的なコンセプトは実にシンプル、かつ強烈極まりないものであった。
すなわち――単艦で、敵の大艦隊を粉砕する一騎当千。
無限とも思える圧倒的な物量と無数の艦隊を誇る超巨大な敵宇宙帝国を相手に、たった一隻で敵陣の真っ只中へと殴り込み、幾多の死線をくぐり抜けながら戦局そのものを力ずくで覆していく。その圧倒的な立ち回り。
そして巨艦が宙を駆けて敵を粉砕していく雄姿は、旧世紀に描かれたフィクションでありながら、現在のモビルスーツが戦場を支配する現代の軍人たちの目から見ても、なお色褪せない強烈なロマンを秘めていたのでおる。
そもそもオーブ連合首長国という国は、その成立の歴史から旧日本の文化や映像コンテンツが独自の形で色濃く継承されている土地柄である。そのため、オーブ軍の将校……とりわけ海軍や国防宇宙軍に所属する者たちの間では、旧世紀の二大SF金字塔とされる宇宙戦艦ヤマト、あるいは銀河英雄伝説のどちらかを、あるいはその双方を嗜んでいる者が実に多かった。士官学校の寮で戦術論を戦わせるネタとして、あるいは艦長としての教養や趣味として、彼らは一度ならずそれらの映像に触れ、胸を熱くしてきた経験を持っていたのである。
そして、その宇宙戦艦ヤマトという存在を決定づけ、作品の象徴として輝き続けている最も代表的な装備こそが、艦首の中央に大きく口を開けた超兵器――波動砲であった。
波動砲。それは艦の主機関から生み出される膨大なエネルギーを、そのままダイレクトに超巨大なビームとして艦首から射出する決戦兵器である。
作中で披露されたその破壊力は、まさに圧巻の一言であった。劇中初期のクライマックス、木星圏においてオーストラリア大陸に匹敵する極大の質量を持っていた浮遊大陸そのものを、たった一発の照射で跡形もなく粉砕・消滅させてしまったというエピソードは、視聴したすべての者の脳裏に深く焼き付いている。
圧倒的な力であるがゆえに、作中ではその存在自体が大きな葛藤を生む原因ともなっていた。あまりにも強大すぎる破壊力を行使することへの恐怖、これほどの兵器を生み出してしまったことで自ら「パンドラの箱」を開けてしまったのではないかという乗組員たちの苦悩。単なる爽快な必殺技ではなく、時には世界を滅ぼしかねない禁忌の力として描かれたからこそ、その圧倒的な存在感は作品のストーリー全体に重厚な深みを与えていたのだ。
だが――そうした作中での道徳的な葛藤や物語上の禁忌性といったものを理解した上で、純粋に兵器としての側面、そして一人の軍人としての本能から見ればどうだろうか。
立ち塞がる大艦隊や要塞を、正面からただ一撃で跡形もなく消し飛ばす圧倒的な極太の光。それを己の乗艦の艦首に宿し、自らの手で放つことができるとしたら。
それは兵器を扱う将校にとって、抗いがたい魅力を放つ一種の究極のロマンであった。
あんな圧倒的な火力を己の艦で扱えたらどれほど心強いか。
一度でいいから、あの巨大な光で迫り来る敵軍を薙ぎ払ってみたい。
士官学校時代から幾度となく語り合ってきたその無茶な夢想が、今や現実の国防計画として目の前に転がっているのだ。軍人として、そしてその作品を愛する男として、是非ともこの手で実現させてみたいと願うのは、彼らにとってはもはや至極当然の情熱であると言えるだろう。
だからこそ、実の所アークエンジェルや彼らの乗艦であるイズモ級に搭載された陽電子破城砲「ローエングリン」は、ある意味ではヤマトを夢見た者たちの夢の結晶であったと言えるのかもしれない。
無論、当時の設計者たちがヤマトを真似てあの破格の破壊力を付与したわけではない。初期のローエングリンは大気圏内で使用すれば周囲に凄まじい環境汚染と毒性を撒き散らすという深刻な欠陥を抱えており、あくまでアークエンジェルの武装は試験砲。それでもなお、圧倒的な威力を求めて搭載に踏み切ったのは、開発陣にとって血の滲むような苦渋の決断であった。
その後、技術の進歩と共にその弱点は着実に克服されていく。現在のイズモ級をはじめ、ザフトのミネルバ、あるいはコンパスのミレニアムに搭載されている最新型の陽電子砲は、大幅な改良を経て環境負荷を最小限に抑えつつ、安定した運用が可能となっていたのである。
だが、足りない。まだ足りないのだ。
確かに現代の陽電子砲は、通常の艦艇を一撃で撃沈し、要塞の装甲すら穿つ強大な兵器であることに違いはない。しかし、彼らが真に追い求めているのは、単に「固い敵を打ち破るための大砲」ではないのだ。
陽電子砲という既存の枠組みを遥かに凌駕する圧倒的なエネルギーの奔流。敵がどれほどの大艦隊を組み、どれほどの防衛陣形を敷いていようとも、正面からその存在ごと空間ごと薙ぎ払い、一瞬にして戦局を白紙に戻してしまうような決戦火力。
それこそが、彼らが熱望してやまない本物の「波動砲」の姿であったのだ。
全ては祖国を守るためであった。
かつてオーブに死の刃を向けた者を決して許さず、あの国家的屈辱であった大西洋連邦による占領と、惨めな臥薪嘗胆の日々を二度と繰り返さないために。彼らは決して、ただの趣味やロマンで動いているわけではなかった。他者より先へ、他者より高く、他者より上に立ち続けなければ、この激動の時代において小さな島国であるオーブを守り抜くことなど不可能なのだ。
かつて命を賭して国を貫いた「オーブの獅子」ウズミ前代表、そしてその遺志を継ぎ奔走するカガリ代表。さらには、オーブの汚ねぇドラえもん……もとい、誰よりも苦しみ、悩みながら幾多の国家的難局を乗り越え、今もなお並々ならぬ手腕で祖国に忠義を示し続けるユウナ・ロマ・セイラン副総裁。
彼ら指導者たちの血を吐くような献身と苦闘を、決して無駄にするわけにはいかない。国防を預かる軍人としての強い使命感が、彼らの背中を強力に押し込んでいた。
なお、もしユウナ本人がこの場にいて彼らの過剰な評価を聞けば、「いや俺、別に祖国への献身とかじゃなくて、カガリたちに無理やり働かされてるだけなんだが!!!」などと全力で悲鳴混じりの抗弁を口にしたであろう。
だが幸いなことに、当の副総裁は今頃、アグネスとタッグを組んで「俺の休暇を台無しにした、クソテロリスト共ぶっ殺せ大作戦」を盛大に実行している最中である。したがって、何らさしたる問題ではない。ないったらないのである。
「ディスラプターは、やはり厳しいのでしょうね」
会議室の静寂を破り、将校の一人がぽつりと漏らした。その言葉に、古参の将校が重々しく頷く。
「そうだな。あれは色々と次元が違いすぎる」
マイティストライクフリーダムに搭載されたディスラプターは、陽電子リフレクターやゲシュマイディッヒ・パンツァーといった各種偏向・遮断防御はおろか、ラミネート装甲やヤタノカガミ、果ては最新鋭のフェムテク装甲すらも一切意味をなさない防御不能の究極兵器である。
あらゆる対ビーム装甲を無視して対象を原子レベルで崩壊させるその威力は、まさに次元を超えたと呼ぶに相応しいものだった。
しかし、あまりにも圧倒的すぎる性能ゆえに使用には厳重極まりない制限が課せられており、あのファウンデーションとの戦い以降、ただの一度も使われていないのが現状であった。国家の存亡がかかった極限状態でもなければ解禁すらされない兵器など、主力艦艇の常設兵装として組み込めるはずもない。
「だからこそ、我々が目指すべき地平が見えてくるのではないか」
古参の将校がモニターの図面を力強く指し示した。
「ディスラプターという過剰な領域ではなく、既存の陽電子砲を遥かに凌駕し、それでいてこの世界で十分に再現・量産が可能な火力。多くの艦艇に搭載できる現実的な決戦兵器……そう、この世界で再現可能な波動砲モドキだ」
白髪の交じる短髪に、幾多の戦場を潜り抜けてきた男特有の鋭い眼光。トダカ海将同期である叩き上げのベテランである彼の指先が示していたのは、画面中央にドカンと描かれた、あまりにも一線を画す異形の新型艦メインフレームであった。
従来のイズモ級に見られた流麗かつスマートなシルエットとは大きく異なり、骨太で無骨、それでいて圧倒的な重量感と威圧感を放つ巨大な艦体。そして何より、艦首の中央部にうがたれた、まるで巨大な洞窟かのように不気味な存在感を放つ単一の大口径砲門――。
「神の領域たるディスラプターに頼る必要などない。我々が求めるのは、既存の陽電子砲を遥かに凌駕し、それでいて我が国の技術力をもって確実に再現・量産・実戦運用が可能な火力だ。国家の存亡を懸けた緊急時にしか使えない兵器ではなく、常に前線に立ち、敵の圧倒的大艦隊を正面から押し潰す現実的な決戦兵器……そう、この世界で実現し得る最高峰の『波動砲モドキ』なのだ!」
古参将校の熱を帯びた吐息が、マイク越しに静かな会議室へ響き渡る。その言葉を受けた周囲の将校たちの反応は、まさに劇的なものであった。
最前列に座っていた若手の戦術思想士官は、まるで引き寄せられるかのように前のめりになり、両目を極限まで見開いて図面を食い入るように見つめた。
「陽電子砲の多重重畳照射機構……あるいは、高濃度プラズマの極限収束加速か……! 確かに、既存の熱核融合炉のバイパスを直結させ、艦載ジェネレーターの出力を一瞬だけ全開集中させれば……! 特定の認証や条約の制約に縛られることなく、純粋な出力の暴力おして敵の防衛線を空間ごと薙ぎ払える……!」
「そうだ! 我々オーブが誇る最新のエネルギー制御技術と、モルゲンレーテが蓄積してきた変速コンデンサ技術を惜しみなく注ぎ込めば、絶対に絵描きの餅では終わらん!」
隣に並ぶ中堅の艦艇運用将校もまた、興奮のあまり机を叩いて立ち上がった。彼の額には汗が浮かび、その拳は力強く握り締められている。
会議室に集まった一人ひとりが、かつて憧れ、夢見た「巨艦が放つ極太の一撃」のビジョンを頭の中で鮮明に思い描いていた。全員の顔つきが、単なる国防の作業から、未知のロマンを完成させる職人にして戦士のそれに変わっていく。
「……よし、これで骨組みの理念は固まった」
古参の将校は、興奮に沸き立つ部下たちの顔を見回すと、満足そうに深く頷き、その口元に野心に満ちた笑みを浮かべる。
「我々の手で、オーブの誇る最強の決戦艦を組み上げてみせようではないか!」
「「「ハッ!!」」」
会議室に響き渡る力強い敬礼と、興奮冷めやらぬ熱気。誰一人として冷めた顔をしている者はいない。かつて少年時代に、あるいは士官学校の暗い自習室で胸を躍らせたあのロマンが、今や正式な国防戦略の台帳に載ろうとしているのだ。彼らの目は完全に熱情へと焼かれていた。
そこから、具体的な仕様策定に向けた侃々諤々の討議が始まった。ホログラムモニターには次々とデータや試算表が叩きつけられ、最早軍事会議の装いを保ちながらも、その中身は狂熱的な技術論争へと変貌していく。
「まず大前提を整理しよう」
古参の将校がホログラム画面を操作し、ひとつの大きな課題を提示した。
「当然のことだが……我々の世界に、あの夢の『波動エンジン』などという、無から無限のエネルギーを汲み出す魔法の機関は存在しない。タキオン粒子も無ければ、宇宙の虚空から無限の出力を引き出す術もないのだ」
静寂が会議室を包む。そう、それこそが現実という名の壁であった。旧世紀のフィクションのように、異星の技術で一気に超技術へ飛躍できるわけではない。自分たちが持っているのは、あくまでC.E.における最新の科学技術の延長線でしかないのだ。
「だが、だからと言って妥協した『普通の強い主砲』で茶を濁すつもりは毛頭ない!」
若手の戦術思想士官が身を乗り出し、ホログラムの仮想敵データを表示させた。
「我々が想定すべき最悪のシナリオ……それは、再び地球連合が牙を剥いた時だ。大西洋連邦のみならず、ユーラシア連邦、そして東アジア共和国を含めた三大大理事国の宇宙艦隊が、圧倒的な物量でオーブ領空へと押し寄せた場合である!」
画面上に映し出されるのは、数千隻規模で展開する連合軍の大艦隊。ドレイク級やネルソン級、アガメムノン級が密集陣形を組み、圧倒的な密度の砲火とモビルスーツの群れで押し潰してくる脅威的な映像だ。
「幾ら我が軍のモビルスーツや現行艦が優秀であろうと、あの数の暴力に真っ向から正面衝突すれば、磨耗戦に巻き込まれていずれ我が国は疲弊する。だからこそ! たった一撃で、あの密集陣形の中心を穿ち、敵の指揮系統もろとも大艦隊の三割、いや半数は一瞬で消滅させる火力が要るのだ!」
「三大理事国の連合艦隊を、単艦の射程内に入れた瞬間に沈黙させる超火力……」
「そうだ。それこそが我々の求める『波動砲モドキ』の果たすべき役割! 単なる大口径砲の枠組みを完全に壊した、概念的決戦兵器だ。……では、この波動エンジン無き世界で、どうやってその膨大な出力を捻り出し、どのようにして収束・照射させる!?」
「やはり、熱核融合炉の過負荷稼働による超高出力プラズマの多重重畳か!?」
「いや、ジェネレーターの直列繋ぎでは艦の耐久限度を超す! レーザー核融合と変速コンデンサによる超極小時間への出力集中はどうか!?」
「待て! いっそのこと、艦首全体を巨大なレールガン砲身に改修し、特殊超硬度重金属弾を連続超高圧射出するというのはどうだ!?」
「馬鹿者! 弾薬の消費量と補給効率を考えろ! それでは長距離航行での単艦運用に支障が出る!」
そこからは、まさに怒涛の如き議論の嵐であった。
将校たちがそれぞれ温めていた「僕の考えた最強の巨砲」という半ば妄言に近いアイデアから、この日のために個人的にデータを集め、夜な夜なシミュレーションを回していたという筋金入りのマニアックな案まで、次々とホログラムモニターへ叩きつけられていく。
更には、軍内部の妙な熱気に感づき、「何か面白そうな、もとい国家国防に資するプロジェクトがあると聞いて」としれっと会議に混ざり込んできたモルゲンレーテの技術スタッフたちまでもが参戦。軍人と技術者が額を突き合わせ、理論値と限界の狭間で怒号混じりの熱い激論を交わすこととなった。
――そして、その過激になっていく議論は、なんと不眠不休で三日三晩にも及んだのである。
三日目の深夜。コーヒーカップの山とエナジードリンクの空き缶が散乱する惨状と化した会議室で、ようやく一つの現実的な解が導き出された。
「……ドッズライフルの機構を応用した、陽電子砲の螺旋回転収束……『ドッズ・ローエングリン』、か」
古参の将校が、ホログラムに映し出された最新の設計案を疲れた目で見つめながら呟いた。
セイラン副総裁が提案したとされ、世界にドッズショックを引き起こしたビームを回転させ、貫通力を付与する技術を応用し、陽電子粒子に強力な穿孔力を伴う回転運動を与える。これにより、従来のローエングリンを遥かに凌駕する直進性と貫通力を獲得し、敵陣の最深部まで光線が減衰することなく突き抜けるという理論だ。
「これならば……確かに現行の技術の延長線上で即座に設計・製造が可能だ。既存の熱核エネルギーでも耐えうるし、威力も従来のローエングリンの数倍は見込める」
技術スタッフの言葉に、集まった将校たちは互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
「……まあ、現実的ではあるな」
「うむ。ロマンと現実の落とし所としては、これが精一杯といったところか……」
確かに強力だ。間違いなくコズミック・イラにおける最凶クラスの大砲にはなる。だが――彼らの胸の奥底にある「あの極太の光で世界を薙ぎ払う波動砲」という果てしないロマンから見れば、どこか「収まりが良すぎる優等生な回答」に思えてしまったのだ。
ロマンを求めた、予算も確保した。だが結局ロマンを求めつつ現実的な回答に辿り着いてしまう。それはロマンを夢見た少年少女ではなく、ある意味では、社会人になってしまい現実を知ってしまった大人達の限界と言えるのだろう。
誰もが思ってしまうのだ。夢を見たいと。だが、それを実現するよりも、予算な量産効果を考えてしまい、結局はバカにはなりきれないのだと。
「今の我々の技術と、この世界で再現できる限界がこれか……まあ、致し方あるまい」
古参の将校が諦め混じりの溜息をつき、これで手打ちにしようと決定の言葉を口にしようとした、その時だった。
「あの……一つ、よろしいでしょうか?」
会議室の最後列、これまで先輩たちの熱気と怒号に押されてひっそりと控えていた一人の若手技術士官が、恐る恐る手を挙げたのだった。
・イズモ級
オーブ軍の主力戦艦。イズモ級は決して弱い艦艇ではありませんが、流石にC.E世界では5年も経つと基礎設計の古さ。具体的にはMSのデータが殆ど存在しない時期に設計された艦艇である事から、ミネルバやミレニアム。ファウンデーション軍の艦艇と比べると全体的なスペックが劣ってしまうという結果に。さらにドッズショックにより盾艦の寿命があっという間に尽きてしまった事もあって現在宇宙軍では新型の艦艇の開発会議を実行中。ただし、今回はユウナやエリカ、ハインラインも色々な意味で忙しい為参加せず、宇宙軍が主軸となって計画を進めている段階です。とはいえ青写真もまだ設計されていませんし、古参の将校さんがモニターに描写してるのはあくまで一例でヤマトっぽい艦を示してるだけ。そして会議の結果、現実的なドッズローエングリンが搭載される事になったそうですが……?
・液体金属
現在エリカさんが開発中の最新研究。ユウナがポロッと漏らしたゾイドジェネシスのバイオ装甲や、エリカ自身も知っているターミネーターの様なもの。即ち硬さとしなやかさを両立し、場合によっては自己回復も可能かナノマシン技術を応用し攻撃にも転用可能な流体金属を研究を行なっており、流石にこちらは難航中。
とはいえ史実と比べてリヴァイアサンによってナノマシン制御技術に関してはオーブはかなり進んでおり、大西洋連邦が発注した莫大なウィンダムⅡ開発予算をしれっと流用しながらも将来的な実用を目指しています。なお、どこぞの汚ねぇドラえもんは現在同時にAI開発も進めてる為か「あれこれ、最終的にデビルガンダム作れちゃうのでは?」と若干怯えつつ、AI担当のハインラインやアスラン達にその辺りの懸念や前世知識によってAIには情緒を理解させる案などを口出ししてるそうな。なおユウナが知るGジェネDSではデビルガンダムにアズラエルが乗っていたりします。
大西洋連邦の選挙結果は?展開によって今後のお話に影響が出ますが、あくまで大西洋連邦国民の一人として投票して頂けると幸いです。
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【フォスター政権+親オーブ派】
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【モンロー主義派】
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【反オーブ+反プラント派】