破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
技術士官という存在。それは主に兵器の研究、設計、開発、そして、運用テストに携わる軍属の専門士官たちのことである。『機動戦士ガンダム MS IGLOO』におけるオリヴァー・マイ技術中尉やC.E.世界ならばラミアス艦長もまた技術士官出身である。もっとも、PS装甲開発に携わっていたラミアス艦長は正規に士官としての教育も受けているのだが。
国家の防衛力を左右する先進技術の模索と具現化こそが彼らの本義であり、オーブ連合首長国国防軍にとっても、本来であれば極めて重要かつ、尊敬されるべき存在……であるはずであった。
しかし、現在のオーブにおける若手技術士官たちは、どこか肩身の狭い思いを抱えて日陰を歩いていたのである。その理由は、言わずもがな大体ユウナのせいだろう。
彼がこのC.E.の世界に憑依転生を果たして以来、良くも悪くも前世で嗜んだ莫大なサブカルチャーの概念やアイデアを次々と持ち込み、モルゲンレーテ社とタッグを組んで現実の兵器として形にしてきたからだ。
ケイオス爆雷、ドッズライフル、リヴァイアサン、盾艦。さらにはC.E.版クランシェとでも言うべき可変量産MSムラサメ改に、人型でないMSであるモルガ、アイアンコング。そして、本人肝入りの突撃艇「グルドリン」に至るまで――その他現在開発中の多種多様かつ常識破りな兵器群を、信じがたいペースで現実の戦場へと送り出してきたのである。
当然ながら、ユウナは最愛の妻であるミーアにすら「実は自分には前世の記憶がある」などという事実は絶対に口に出さなかった。何があろうが言えるはずもなく、その事実を彼は墓まで持っていくつもりだ。
故に、事情を知らない第三者から見れば、ユウナ・ロマ・セイランという男はまさに内外を問わず、自らの脳内にある「四次元ポケット」から無限に新しい技術と発想を取り出し続ける、恐るべき天才アイディアマンとして映ってしまうのである。
彼はその功績をすべて「モルゲンレーテのスタッフたちの優秀な研究成果である」と公言し、自らは陰に隠れようと必死に画策したものの、流石にそれにも限界というものがあった。
あの技術狂のハインラインが出会った瞬間、挨拶もそこそこに早口かつ猛烈な勢いでドッズライフルの機構について問い詰めてきた件は、未だに記憶に新しい。
どれほどカモフラージュを決め込もうと、技術の出所を全て誤魔化す事など不可能だったのだ。これに関してはユウナが口先だけで済むと甘く考え、本格的に誤魔化すための手を撃たなかったのも理由ではあるのだが。
その結果――本職であるはずの技術士官たちがどのように見られ、どういう立場に追い込まれたかは、言うまでもないだろう。
「政治家が、なぜ兵器開発の第一線でそんな革新的な成果を出しているんだ……?」
何より屈辱的であり、かつ恐怖だったのは、相手が専門の科学者でもなければ技術者でもないということだ。それどころか、かつては「セイラン家のドラ息子」「甘やかされたボンボン」とタカを括り、完全に舐めきっていたはずの男である。
そんな男が突如として本職の技術士官たちが何年も頭を抱えて出せなかったブレイクスルーを、まるで日常の思いつきかのように次々と提示し、次々と現実のものに変えていってしまえばどうなるだろうか?
今や、軍内外におけるユウナの評価は、かつての嘲笑から一転し、「芋虫の貴公子」だの「オーブの汚ねぇドラえもん」だのと、良くも悪くも圧倒的な知名度と畏怖を込めて語られるようになっており。
そして、「汚ねぇドラえもん」の異名が輝かしさを増せば増すほど、それに反比例して本職たる技術士官たちの肩身は狭くなる一方だったのだ。
ユウナが何かの拍子に突拍子もない奇抜なアイデアをぽろっと漏らす。すると、それを聞きつけたモルゲンレーテの技術陣が目を爛々と輝かせ、ぶっ倒れる寸前の過酷なデスマーチ――当人たちは嬉々として栄養ドリンクを煽りながら行っている狂気の徹夜作業を経て、恐ろしいまでの短期間でそれを形にしてしまう。
そして、軍に所属する技術士官たちに回ってくる仕事と言えば、モルゲンレーテ側で既に徹底的な動作確認とテストが済まされた完成品に対し、軍で正式採用するための、最終テストと書類チェックを行うことくらいであった。
勿論、安全性の担保や実用性の最終判断という観点において、それは決して不要な作業ではなく、軍組織としてきわめて重要なプロセスであることは間違いない。
だが――プロとしての自尊心とプライドを抱く技術士官たちの内心が、ズタズタに引き裂かれていたのもまた動かぬ事実であった。
「我々の仕事は……天才が思いつき、職人が完璧に作り上げた兵器に、最後のお墨付きの判子を押すだけの作業員なのか……?」
何より彼らを苛み、悔しがらせたのは、相手に対する怨嗟や嫉妬すら抱かせてくれない事実だ。
なまじ、ユウナ・ロマ・セイランという男がどれほど血を吐くような献身でオーブを支え、自らを盾にして祖国を救ってきたかを理解しているからこそ。
なまじ、彼がモルゲンレーテと共同で世に送り出してきた数々の兵器が、混迷する戦乱においてどれほど多くの味方の命を救い、戦局を覆す圧倒的な成果を上げてきたかを、技術者として素直に認めざるを得ないからこそ――彼らの苦悶は深かった。
彼等からすればユウナ達はぐうの音も出ないほどに正しく、優秀だったのだ。技術者として尊敬と敬意を持ち、興奮するほどの好奇心が脳内で次々と生み出されていく。だからこそ、反論の余地などどこにも存在しない。
嫉妬できれば楽だった。
恨むことができれば楽だった。
だが、技術士官達はだれもがユウナという男を尊敬すれど、恨むことができない。
(……我々の存在意義とは、一体何なのだろうか?)
政治家であるはずの副総裁が最前線でアイデアを出し、国営企業がそれを即座に具現化する。ならば、軍の制服を着て、兵器開発のプロフェッショナルとして士官学校を卒業した自分たちは何のためにここにいるのか。
そんな胸の中の焦燥を奥底に秘めながらも、かといって己の頭から革新的なアイデアが湧き出てくるわけでもなく、この会議に参加をしていた若手士官の心は緩やかな諦観に呑まれかけていた。
手を挙げた技術士官の彼もまた、国防軍の若手技術士官としてこの最高レベルの戦略会議への出席を許される程度には優秀な男であった。だが、この怒号と熱気が渦巻いた三日間、彼は何一つとして自分のアイデアを提示することができずにいたのだ。
士官学校時代から夢見た巨砲のロマン、そして本気で国防を願う叩き上げの将校たちが交わす熱狂的な議論。その渦の中に飛び込む度胸すら持てず、早々に諦めてしまった彼は、熱弁を振るう将校たちの横で、タブレットを片手に黙々とデータを打ち込み、「そのジェネレーター構成では試算コストは?」「既存のドックでは建造予算の枠を超えないか?」「耐圧強度の問題で現実的ではないか?」などとと、どこまでも現実的な数値ばかりを弾き出す計算係に終止していたのである。
そして、会議が終わりを迎え、そうして導き出された結末が、あの「ドッズ・ローエングリン」であった。成る程、確かに結論としては悪くはない。コストも抑えられ、実現可能性も極めて高い。だが、どこか無難で、優等生すぎる落とし所であるといえる結果。
(……これで、本当にいいのか?)
古参の将校が満足と諦めが混ざったような顔で会議を締めくくろうとしたその時、若手士官の手が、勝手に上がっていた。
このまま何もせず、また副総裁やモルゲンレーテが作ってくれた、兵器に判子を押すだけの存在で終わりたくないという、半ばやぶれかぶれの衝動が、彼の背中を強く押し込んだ。押し込んでしまったのだ。
「あの……一つ、よろしいでしょうか?」
静まり返った会議室で、彼の引きつった声が響いた。三日間の激論で疲弊しきった古参の将校たち、そしてモルゲンレーテのスタッフたちの視線が一斉に最後列の彼へと集まる。
刺さるような視線の圧力に心臓が早鐘を打ったが、彼はタブレットを握りしめる手にギュッと力を込め、意を決して言葉を紡ぎ出した。
「ふ、ふと思ったのですが……先の戦乱で鹵獲した、ファウンデーション軍の装備を流用することはできないでしょうか」
一度言葉が唇を突いて出ると、もう後戻りはできない。最早、天王山もルビコン川を超えてしまった彼は破れかぶれになって語るしかない。
「具体的には……ブラックナイトスコードに搭載されていた、あの擬似反重力機関『レヴィテーター』です」
言った。言ってしまった。
喋れば喋るほど口の中はカラカラに乾き上がり、タブレットを握りしめる掌は嫌な冷や汗でびちゃびちゃに濡れていく。
(なんで俺は、こんな土壇場で血迷ったことを口走っちまったんだ……!?)
心臓が肋骨を裏側から叩き割らんばかりに暴れ狂い、猛烈な後悔が脳裏を駆け巡る。周りの将校たちやモルゲンレーテの技師たちの刺さるような無言の視線が、皮膚を灼くように痛かった。
確かに、ファウンデーションとの戦いで機体・艦艇の残骸が多数回収され、軍内部でもその解析と評価は進められていた。だが、これまでの議論はあくまで新型艦艇を開発計画であり、せいぜい鹵獲・接収した技術においても、その基礎技術を我が国の次期艦にどう活かすかという枠を出ていなかったのだ。
本来戦艦サイズでしか採用されなかった機関をMSという極小の枠組みに押し込まれた高密度な異形の技術――『擬似反重力機関レヴィテーター』。
そもそも擬似反重力技術自体は、かつてのアークエンジェルやイズモ級などにも既に採用されている周知の技術だ。しかし、それをMSサイズにまで極限まで縮小させ、機体の機動力と戦闘力へダイレクトに組み込んだファウンデーションの設計思想は、素直に称賛すると同時に、技術者として「面白い」の一言に尽きた。
「あ、彼らはあそこまでの高度な制御機構を、MSの中に押し込めました。ならば……ならばです!」
若手士官は乾いた唇を舐め、必死に頭を回転させながら言葉を続ける。逃げ出したい、叫びたい、少し前の自分を殴りたい。
だが彼は諦めなかった。どちらかといえば追い詰められたネズミが猫に噛みつくかのように、やけっぱちになって語り尽くす。
「それほど高密度に完成された擬似反重力機関を、艦載用に巨大化・大型化させる事はできませんか?それも単に艦体を浮かせるための機関としてではなく……艦載炉から供給される膨大なエネルギーを叩き込み、極大の力学歪曲――強力な重力波の束として艦首から指向・放射する波動砲として転用するのです!」
――静寂が、会議室を包み込んだ。
あまりにも突拍子もない、そして完全なるアドリブの提案。やってしまった、という冷や汗が若手士官の背筋を吹き抜ける。モルゲンレーテのスタッフも、叩き上げの将校たちも、誰一人として口を開かない。カチ、カチと壁の時計の針が進む音だけが、耳障りなほど大きく響いていた。
あまりの静けさに耐えかね、彼が「申し訳ありません、今のは忘れて――」と撤回しようと口を開かけた、その時だった。
会議室の最前列に座っていたあの古参の将校が、ゆっくりと椅子を軋ませて立ち上がる。
白髪交じりの鋭い眼光が、まっすぐ最後列の若手士官を射抜く。その顔には先ほどまでの、無難な落とし所に対する冷めた表情は微塵も残っていなかった。
「……おい、君」
重々しい声が響く。目は爛々に輝き、ロマンという名の炎を燃やし尽くす男の姿がそこに確かにしていた。
「詳しく、聞かせてくれないか?」
こうして提案され、会議の参加者達によりブラッシュアップされた兵装の根幹をなすのは、本来「大気圏内において機体を浮遊させる」ために開発された技術の応用と言えるだろう。かつてアークエンジェルやイズモ級などの大型艦に初期型が導入され、後にファウンデーション王国の手によってモビルスーツの狭小なフレーム内へ収縮・高度化された擬似反重力機関『レヴィテーター』。
その本質とは、単なる浮力発生装置ではない。対象の周囲に局所的な負の重力場を作り出し、惑星の重力線を偏向・相殺させることで空間の力学バランスを書き換える重力場制御技術に他ならなかった。
「反重力」とは重力制御の一側面に過ぎない。重力場そのものを操作できるのであれば、理論上では外部への攻撃力へと反転させることなど十分に可能であったのだ。
モビルスーツ用に極限まで凝縮されていた擬似反重力制御ユニットを、あえて真逆に大型艦艇の艦首ブロック全体を満たすほどのスケールへと過剰拡張する。
そこに、複数基の艦載熱核融合炉から生み出される莫大なバイパスエネルギーを、過負荷状態で一気に叩き込むことで、通常運用であれば艦体を浮上させる程度で収まるはずの負の重力場は、桁外れのエネルギーを吸収したことで過飽和を起こし、艦首前方に常軌を逸したスケールの極大重力歪曲域を形成する。
そのまま解放すれば全方位へと拡散し、自艦すら巻き込んで崩壊させかねない巨大な重力の歪みに対し、オーブがこれまで培ってきた空間偏向技術にて、ゲシュマイディッヒ・パンツァーやヤタノカガミの磁場・曲率偏向理論を応用。拡散しようとする重力場を力づくで前面の一点へと収束。艦首の砲門前には、周囲の光すら歪ませる極超密度の重力歪曲の渦が凝縮されていく。
そして、極限まで圧縮された強力な重力波の束が、高濃度電磁プラズマ流とともに一直線へと解き放たれるのだ。
高濃度プラズマと融合した重力波の束が目標へ着弾した瞬間、巻き起こるのは熱による融解でも、ビームによる貫通でもない。
その結果生み出される事象は「巨大な不可視の拳で空間ごと叩き潰す」としか表現できない、凄まじい圧砕。着弾した領域では空間そのものが激しく歪み、そこに存在するあらゆる物体は内外から同時に押し潰されていく。
どれほど分厚い装甲を誇る超大型艦であろうと、まるで空き缶を力任せに握り潰すかのように一瞬でひしゃげ、内部の機構もろとも破砕されていくのだろう。
熱を殺すラミネート装甲も、ビームを跳ね返す特殊鏡面装甲も、硬度を極限まで高めた最新鋭の特殊装甲すらも一切意味をなさない。
防御の概念そのものを無視して物体を有機物、無機物問わず破壊し尽くすその威力は、文字通り敵の密集陣形をたった一撃で消滅せしめる『決戦兵器』の名にふさわしいものであった。
そして、この兵器が持つ最大の強みは、その常軌を逸した威力でありながら、意外なことに開発コストと期間を大幅に圧縮できる点にある。
基礎技術はすべて鹵獲したファウンデーションの機関と、オーブが培ってきた既存の偏向技術の応用で完結しているため、まったくゼロから新兵器を開発するような莫大な研究予算も膨大な年月も必要としない。すでに手元にある技術と理論の組み合わせだけで構築できることこそが重要なのだ。
0から1を生み出す技術革新には、莫大な時間と天文学的なコストが伴う。しかし、既に存在する1を2へ、あるいは10へと拡張する、技術の発展や再構成であれば、それに要するリソースは遥かに節約可能と言えるだろう。
もちろん、現段階ではあくまでシミュレーション上の試算に過ぎず、実際の運用に向けた実証実験などは何一つ行われてはいない。艦載炉へ強烈な負荷をかけることによる自滅のリスクや、連続射撃が不可能な構造的欠点など、運用上のデメリットや危険性がゼロでないことは明白だ。
だが――そうだとしても。
理論さえ実証できれば。テストさえ無事にクリアできれば。そして、運用の安全性さえ保証できれば。
オーブは既存の陽電子砲をも遥かに凌駕する、巨砲を自国の艦艇に搭載することが可能となるのだ。さらに言えば、この技術の恩恵は単なる、攻撃力の獲得だけに留まらない。
反重力――すなわち重力場の精密な指向性制御技術を応用・発展させることができれば、艦艇の周囲にドッズライフルのような貫通力を誇る兵器すら対処不可能な、強力な重力偏向フィールドを展開することすら可能となるのだから。
それは、まさに、彼らが夢見た一騎当千の『ヤマト』そのものだ。ヤマトは強かった。ヤマトは凄かった。
どんな攻撃も寄せ付けぬほどに硬く、巨躯からは想像もつかぬほどに速く、そして艦首に据えられた波動砲は、立ち塞がるあらゆる敵を絶望の渦へと叩き落とす。
そんな架空のロマンでしかなかった存在が、いまや確かな現実味を帯びて目の前に現れようとしているのだ。決して絵空事などではなく、現代の技術体系と物理理論の延長線上において、技術的には確実に実現可能なのである。
もちろん、世界最高峰の技術力を誇るオーブであったとしても、これほどの概念をわずか一、二年で形にするなど到底不可能な難事業であった。試作機関の建造から制御理論の構築、安全性の立証に至るまで、数年、下手をすれば数十年単位の開発期間と地道な試行錯誤を要することは間違いなかった。
だが――完成した暁には。
絶大な攻撃力と鉄壁の防護能力を兼ね備えたその「無敵の決戦艦」が宇宙の大海原へと解き放たれた暁には、オーブはどの超大国の威勢にも決して屈することのない、揺るぎなき抗う力を手に入れられるだろう。
「――凄いわね、ユウナ様」
数日後、ようやくテロリスト達を壊滅させた、ユウナは、ミレニアム内の執務室にある自身の専用端末にて、画面に映し出されているエリカの瞳は、新たなる科学的な構想(クソ面白そうな玩具)に触れた興奮で爛々と怪しい輝きを放っていた。
「若手士官の発想と聞いて少し侮っていたけれど、提出された理論値を見る限り筋は悪くないわ。むしろ、ファウンデーションの技術と我が国の空間偏向理論をこう繋げてくるとはね……。小型化した技術をあえて大型化する発想に加えて、反重力技術で重力そのものを武器にする発想。あぁ、本当に自分の身体を影分身でもして三人に増やせないかしら。今すぐにでも実験室に籠もりたいくらいだわ…!」
過酷なデスクワークと徹夜作業が確定しているというのに、目の前の技術狂は心底楽しそうにそんなボヤキを漏らしている。
もしも彼女とハインラインが影分身やタンクベッド(銀河英雄伝説に登場する1時間で8時間以上の睡眠効果を得る特殊ベッド)を与えれば、休日を返上して嬉々として計画に参加するのは間違いないだろう。かといって液体金属の研究も全力で楽しんでいるのが実に彼女らしいと言えるが。
「あ、はは……確かに。これだけのプロジェクトとなると、開発予算の概算を見た時点でカガリがいよいよ血を吐いて倒れそうだけど……シミュレーターでも成立してるんだ。それを、机上の空論として捨て去るには、勿体無いよなぁ…」
ユウナは顔に貼り付けたような愛想笑いを浮かべ、良き理解者として無難な相槌を打っていた。いつもの事だ、ハインラインのように興奮すれば、専門技術を連呼するタイプと比べてエリカは、噛み砕いて解説してくれるので話がわかりやすい。
――だが。
その表面上の穏やかさとは裏腹に、ユウナの脳内は絶叫と滝のような冷や汗で埋め尽くされていたのだ。
(いやいやいや! ちょっと待て!! ……これ、どう見てもさぁ!? ナデシコのグラビティブラストじゃねぇか!?)
『機動戦艦ナデシコ』――それは前世の彼にとっても、屈指のお気に入りの一つであり、思い出深いアニメ作品の一つだった。
伝説的金字塔である『宇宙戦艦ヤマト』への深いオマージュと敬意を捧げつつ、90年代独特の緻密なSF設定とポップさに萌えと熱血さ、そして何より皮肉と露悪を融合させた名作ロボットアニメ。スパロボにも多く出演したそれをユウナは知らないはずもなく、劇場版も含めて履修済みである。
当然ながら、このC.E.という世界に『ナデシコ』などというアニメが放送されていた歴史など存在しない。……存在しないはずなのだが、何故かその作中アニメであったはずの『ゲキ・ガンガー3』が普通に本放送されている。
そして、同時にエリカの端末から転送されてきたモルゲンレーテの最新演算シミュレーション――若手士官の突拍子もないアイデアをベースに、メインフレームが膨大な試算を経て弾き出した「重力砲」の発射概念映像では、艦首の空間が力学的に歪み、圧縮された重力波の束が、赤黒い高濃度プラズマの光彩を纏って一直線に空間を薙ぎ払う光学CG。
それは、どこをどう切り取っても、赤く染まった「グラビティブラスト」そのものであった。寧ろ色がドス黒いだけあってより凶悪な印象を与えるだろう。
(俺なんも言ってねぇよ!?なのに何で現存の技術をこねくり回したら、最終的にグラビティブラストに辿り着くんだよ!?しかも赤く染まってドス黒いせいで絵面がヤバいんだよ!!)
これが自身の手で提案した技術であったなら、まだ彼とて腹を括って落ち着いていられただろう。
だが、前世で慣れ親しんだSFロボットアニメの技術が、自分の与知せぬところで唐突に現実の兵器として再現され、しかも現在進行形で本気の研究対象として進められているのだ。頭を抱えたくもなるというものである。
もはや、彼がこれまで培ってきた「ガンダムSEEDシリーズ」の原作知識など、何一つとして頼りにはならなくなっていた。目の前の現実が、あまりにも加速度的に明後日の方向へと突き進みすぎている。
そんなユウナの心中を知る由もないエリカは、画面の向こうで画面上のデータを軽快に操作しながら、思い出したように言葉を付け加えた。
「ちなみに、この新規開発プロジェクトの開発コードネームだけど……今回は『ヤマト』ではなく、花の名前にしようって話になっているのよ」
「……花の名前?」
「ええ。流石にヤマトと名付けるのはまだ恐れ多い。だけど、新型艦艇には独自の名前をつけたいという意見が多くてね。その結果いっそ、船は女と言えるのだから、ここは花の名前なんてどう?って決まって……何か副総裁からの良い案はあるかしら?」
思考を完全に放棄しかけていたユウナの脳裏に、投げやりな「どうにでもなーれ」という自暴自棄な感情が渦巻いた。もはや拒絶やツッコむ気力すら湧いてこない。
「あぁ……じゃあ、『ナデシコ』とかどうかな? ほら、大和撫子って言葉もあるしさ」
「『ナデシコ』……。なるほど、凛とした美しさと芯の強さを感じさせる、花言葉は『大胆』……良い名前ね。気に入ったわ、宇宙軍の方にも「ユウナ様が名付けてくれたわ」ってそう伝えておくわね」
エリカは心底感心したように頷くと、満足げな笑みを浮かべて「では、私は解析に戻るわ」と通信を切断し、暗転するホログラムモニター。
しんと静まり返った執務室の中で、ユウナは力なく椅子へと沈み込み、天球儀を見つめた。その瞳からは完全に光が消え失せ、すっかり生気を失った死んだ目になっていた。
「……なんかもう、アスラン達は今、新しいAIを開発中らしいけど……」
誰もいない部屋で、ユウナはぽつりと、魂の抜けたような声で呟く。偶然にしてはなんと言う巡り合わせなんだよと愚痴るように、そして、オーブなら必ず完成させるはずだと言う一種の確信を心に秘めながら。
「……これも最終的に、オモイカネになったりすんのかな……」
彼が抱く胃の痛みを知る者は、この世界には誰一人として存在しなかった。
それはそれとして、数年後に完成したオーブ国防軍新型戦艦『ナデシコ』にテンションが上がって興奮していたユウナの姿があり、余計な事を口にした結果、『相転移エンジン』の基礎研究がスタートしてしまい。
遠い未来にて、宇宙移民船団にて相転移エンジンが採用される事になる事を、彼は知る良しもなかった。
・擬似反重力機関『レヴィテーター』
ファウンデーションが開発した反重力機関発生装置……という訳でもなく、C.E.世界の艦艇ではメジャーとして搭載されているもの。今回のお話の肝であり、技術士官が咄嗟に述べたのはMSサイズまで小型化された反重力機関をあえて大型化する事で、それまで不可能だった武装としての転用の研究を。つまり、ローエングリンを超える次世代の『波動砲』のような艦艇専用の決戦兵器を作れないか?という主張でした。なお、これに関してはアニメ『機動戦艦ナデシコ』におけるグラビティブラストに発想が近い兵器であり、ユウナは前世の知識ゆえに直ぐに気がついたのだが。色はドス黒い赤と黒が混じり合ったもので、彼は相当ドン引きしたそうな。
感想欄にてフォトンブラスターや波動エンジン、GNドライブなど多数の技術を読者の方々は挙げられていましたが、それらの技術はこの世界で再現できる概念や技術であるかは不明なのですが、グラビティブラストであればC.E.世界の技術でも理論上は再現可能であると今回は採用されるのでした。
なお、あの世界は相転移理論がフェイズシフト装甲にて採用されていたりするので、テンションが上がった本人の指摘の結果.ユウナの死後辺りには相転移エンジンが開発される可能性は高く。以前にちらっと触れた移民船団の旗艦「トダカ」は恐らく相転移エンジンと、ディストーションフィールドやグラビティブラスト。そして、アスラン達が開発したAIが採用される可能性も高く、ほぼナデシコとマクロスが融合した凄まじいものになるかも知れません。
全く無関係のアニメであるナデシコとガンダムSEED。それらの技術を紐解いていけば、意外と類似点は多く、将来的にはSEEDの技術がナデシコに集結していくのは、ある意味ロボットアニメだからこその面白さと言えるでしょう。なおディスラプターと比べればまだグラビティブラストの方がマシです。MSに搭載可能でアルテミスサイズの要塞を真っ二つにできるアレは本当におかしい。
・次世代艦艇
とはいえ本来はイズモ級の後継艦を開発するプロジェクトですし、あくまで今回は『C.E、世界で波動砲(実際にはグラビティブラスト)』を搭載可能な次世代型艦艇の開発が決定しただけで、その他技術はまだ手付かずですし、将来的なナデシコ級の開発は数年単位のものになるでしょう。故に恐らく、最初の内は前述の通り『ドッズ・ローエングリン』や主砲ゴットフリートにドッズ技術で改良した『ドッズ・ゴッドフリート』。その他MS搭載能力や指揮系統などを強化した改良型の『仮称イズモ改級』が現実的な案として改修され、しばらくは運用されていくでしょう。
大西洋連邦の選挙結果は?展開によって今後のお話に影響が出ますが、あくまで大西洋連邦国民の一人として投票して頂けると幸いです。
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【フォスター政権+親オーブ派】
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【モンロー主義派】
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【反オーブ+反プラント派】