破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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EX18 対人撲滅多脚戦車

 

 

 

 

 

 地下基地は地獄と化していた。

 

 

 頭上を支える数メートル厚の耐圧コンクリートと岩盤を何物かが易々と穿ち、凄絶な衝撃波が地下坑道を駆け抜けていく。非常用照明は瞬く間に叩き割れ、空間を満たすのは不気味に明滅する赤色の警報灯と、吹き荒れる猛烈な粉塵のみ。頭上からは鉄骨が悲鳴を上げて歪む鈍い音が鳴り響き、逃げ惑う人間たちの足音が落盤の轟音に掻き消されていく。

 

 

 突如として見舞われたこの砲撃は、単なる力任せの破壊ではなかった。敵軍が放った穿孔貫通弾は、寸分の狂いもなく基地の心臓部を正確に撃ち抜いていたのだ。

 

 

 

 メインアンテナの基部は一瞬で破砕され、通信管理室は天井ごと押し潰され、さらには地下深くに隠蔽されていた広域データ中継ブロックまでもが跡形もなく蒸発した。

 

 

 外部とのあらゆる通信回線は瞬時に切断され、この巨大な地下要塞は外界の情勢を完全に察知できない深海へと突き落とされた。司令系統が混迷を極める中、唯一残された対抗手段として、慌ただしくMS隊が地上へと出撃が命じられる。

 

 

 重厚な足音を響かせ、格納庫の巨大ハッチを抜けて地上へ駆け登っていくモビルスーツの群れ。その巨体を見送る兵士達たちの目には、危機を脱するための唯一の希望が宿っているかに見えただろう。

 

 

 だが、主力であるMSが出払ったその直後、希望はさらに潰えていく。腹に響く不気味な連鎖爆発が、基地の各所で次々と巻き起こり、主要な搬入口は巨大な岩塊によって瞬時に塞がれ、数層に及ぶ非常用通路も次々と落盤。

 

 

 さらには、万が一の際の脱出路として極秘裏に掘削されていたはずの隠し通路に至るまで、あらかじめ位置を把握されていたかのように念入りかつ完璧に爆破し尽くされていった。

 

 

 

 外部に通じるすべての脈管を断たれた地下基地は、逃げ場のない完全な「陸の孤島」へと変貌を遂げる。分厚い土砂と崩落した装甲板によって密閉された暗闇の中で、パニックに陥ったテロリストたちは、なおも「MS隊が無事に出撃できたこと」だけを不幸中の幸いだと信じ込もうとしていた。

 

 

 希望がない。あるのは絶望だけ。それでも、ほんの少しの光明や蜘蛛の糸を追い詰められた人間達は嫌でも状況打開のための切り札だと信じ込もうとする。かれらは、地上へ向かった機体群が外の敵を排除し、脱出への道を切り開いてくれるはずだと、喘ぐような呼吸の中で自らに言い聞かせていたのだ。

 

 

 

 

 しかし、死の恐怖によって半ば狂乱状態にあった彼らは、気づいていなかった。いや、気づけなかったのだ。これほど精密に通信施設を破壊し、あらゆる隠し通路の存在すら見抜いて完璧に退路を塞いだ襲撃者が、なぜ「MSの出撃ブロック」だけを手付かずのまま放置していたのか。

 

 

 それが、基地内に存在する唯一の脅威であるモビルスーツを速やかに地上へと追い出し、残された無力な生身の人間たちだけを、この巨大な地下の棺桶の中に永久に閉じ込めるために仕組まれた、罠であったということに。そして、降伏勧告すら許さずテロリスト達を撲滅するという暗黙の死刑宣告に彼らはまだ、気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄暗い非常灯の赤光が怪しく明滅する地下最深部の一角で、一人の男が浅い息を吐きながらジープの運転席へと飛び乗った。彼は震える指先で鍵穴を探し当て、金属音を立ててキーを差し込む。イグニッションを回すと、重低音とともにエンジンが爆発的な回転音を上げる。

 

 

 

 この坑道は、かつてこの施設を建造した政府要人らが極秘裏に出入りするためだけに設けられた、隠し通路の一つだ。地図にも記載されておらず、この地下基地を拠点として占拠しているテロリストたちの中でも、その存在を知る者は数名に満たない。

 

 

 

 男は狂ったように荒い息を吐きながら、バックミラーに映る己の惨めな顔を睨みつける。

 

 

「……ハッ、死んだと思っているはずだ。あの爆撃の混乱の中でな……!」

 

 

 

 男の脳裏に浮かぶのは、数日前に実行された「新型ウィンダム強奪作戦」の記憶だった。男は確信していたのだ。遅かれ早かれ、こんな厄ネタを強奪してしまった以上。オーブや大西洋連邦は血眼になって報復するだろうと。

 

 

 

 だからこそ、男は誰にも悟られぬよう密かに準備を進めていた。自分が一人だけで逃げ延びるため、この隠し通路に配置されたジープへ、基地内からかき集めた高価な貴金属、大量の紙幣、偽造身分証、そして長期保存食を密かに積み込んでいたのだ。

 

 

 

 その浅ましいまでの用意周到さが、皮肉にも功を奏したと言えるだろう。突如として見舞われた地獄のような砲撃の際、男は司令部に留まることなく、真っ先にこの極秘坑道へと逃げ延びていた。

 

 

 今頃、地上の混乱も知らずに地下の暗闇に取り残された同志たちは、必死に武器を取り、迎撃の準備を整えようと無駄な足掻きを続けていることだろう。

 

 

 

「知ったことか……! くだらん理想のために死ねるのは、あいつら頭の悪い兵士どもだけで十分だ」

 

 

 

 かつて男は、演壇の上で拳を突き上げ、「青き清浄なる世界のために」と高潔な理念を熱弁していた。若い部下たちに命を捨てる覚悟を説き、笑顔で彼らを惨劇の死地へと追いやってきたのだ。しかし、死の牙が自らに向けられた瞬間、そこに残されたのは化けの皮が惨めに剥がれ落ちた、ただの浅ましいエゴイストの姿であった。

 

 

 

 かの有名な狂人ムルタ・アズラエルが今の彼を見れば、どう思ったであろうか?理念なんて知ったことではない、コーディネイターなんてもはやどうでも良いと切り捨てた彼を、きっと地獄の底で血走った目で殺意の籠った憤怒の表情で睨みつけていたはずだ。

 

 

 

「これだけの金と物資があれば、どこかの辺境で名を変え、別の人間として死ぬまで優雅に暮らせる……!」

 

 

 男は獰猛な笑みを浮かべ、ギアを叩き込むとアクセルを踏み込んだ。ジープは強烈な排気音を響かせ、タイヤを悲鳴のように空転させて猛然と発進しようとした――その、直前だった。

 

 

 

 

カサ……カサカサカサ……ッ!

 

 

 

 

 暗黒の坑道奥から響いたのは、およそ兵器の駆動音とはかけ離れた、無数の硬質な爪がコンクリートを掻きむしる不気味な接地音だった。

 

 

 

「……な、んだ……?」

 

 

 

 アクセルを踏み込む男の足が、恐怖で凍りつく。

 

 

 

 

 ヘッドライトの強烈な光線が、闇の向こうから這い寄る『異形』の姿を鋭く浮かび上がらせた。

 

 

 

 それは、あまりにも異常だった。

 

 

 それは、あまりにも異形であった。

 

 

 

 地球連合軍が誇る大型MA『ゲルズゲー』のような、多脚昆虫を思わせる有機的な下半身のシルエットを歪に連想させはする。しかし、目の前の『ナニカ』は、連合やザフトといった既存のいかなる軍事体系のデザインラインとも根本から異なっていたのだ。

 

 

 

 

 ぬらぬらと暗闇を吸い込むような漆黒の装甲。

 

 

 

 不気味なカーブを描いて蠢く、鋭利で長大な8本の関節脚。

 

 

 

 胴体中央で、生き物の死んだ眼球のように冷たく黄色く発光するスリット状のメインバイザー。

 

 

 

 そして背部から不気味に鎌首を持ち上げる、血のような赤を呈した異様なカメラユニット。

 

 

 

 兵器としての美徳や合理性など微塵も感じられない。人間が持つ幾何学的なデザイン思想を嘲笑うかのようなその造形は、まるで遥か外宇宙から飛来した「異星人の殺戮機械」そのものであった。

 

 

「ヒッ……!? あ、あ……っ!?」

 

 

 

 肉眼でそれをはっきりと視界に収めた瞬間、男の喉から情けない引きつった悲鳴が漏れた。

 

 

 

 人は、己の理解を超えた未知の存在と相対したとき、理性よりも先に全身の細胞が拒絶反応を引き起こす。とりわけ、蜘蛛や節足動物のように無数の脚を持つ異質な形状に対して抱く強烈な生理的嫌悪感――それは、人類がまだ類人猿であった遥か太古の時代から、毒や死を運ぶ暗闇の脅威と同じくして遺伝子レベルで刻み込まれてきた、抗いようのない原初的な根源的恐怖そのものであったのだから。

 

 

 

 目の前で蠢く黒い異形は、まさにその太古の悪夢を巨大な鋼鉄で具現化した存在にほかならなかった。

 

 

 

 カサリ……カサ……カサカサ……ッ

 

 

 

 歪に折れ曲がった8本の漆黒の脚部が、不規則なリズムでコンクリートを掻きむしる。その駆動音には、通常の油圧機器やモーターが発するような機械的な規則性が存在しない。滑らかでありながら、どこか生物的な生々しさを伴う不気味な旋回運動。

 

 

 金属でありながら、暗闇を吸い込んでぬらぬらと鈍く光る不自然な装甲の質感。そして、逃げ場のない狭隘な坑道の中で、男をじっと見下ろす冷酷な黄色い発光スリット――。

 

 

 

「あ……が……あ……っ……」

 

 

 

 

 男の喉から、声にすらならない引きつった喘ぎが漏れ出た。ジープの強烈なヘッドライトが照らし出す異形の影は、壁面や天井へと歪に大きく伸縮し、密閉された空間を狂気と絶望で塗りつぶしていく。

 

 

 

 逃げなければならない。

 

 

 アクセルを固く踏み込めば、このジープは発進するはずだ。

 

 

 

 そう脳が必死に命じているにもかかわらず、全身の筋肉と関節は金縛りに遭ったかのように硬直してピクリとも動かない。

 

 

 

 

 蜘蛛のような『ナニカ』が、明確にこちらを捉えた。胴体中央の黄色いバイザーが、獲物を定めるかのように怪しく輝く。次の瞬間、異形は滑るような手応えで、暗闇を滑空するかのように距離を詰め始めてきた。

 

 

 

 その接近が、男の金縛りを無理やり引きちぎった。

 

 

 

「ひぃぃっ……! あ、悪魔め……ッ!!」

 

 

 

 

 狂乱した男はステアリングを激しく切り倒し、アクセルを限界まで踏み込んだ。狭い坑道の中でタイヤが白煙と焦着音を上げ、ジープの車体が大きく横滑りしながら決死のUターンを試みる。逃げる、逃げようとする。とにかくこの悪夢から離れる――それだけが男の頭を支配していた。

 

 

 

 

 しかし、『ナニカ』はその致命的な隙を絶対に見逃さなかった。

 

 

 

 

 カサササササササッ……ッ!!

 

 

 

 

 空気を切り裂く不気味な爪音が耳腔を刺したと思った瞬間、MAとは思えぬ程の異常な制動と旋回で、異形は一瞬にしてジープの側面にまで肉薄していた。

 

 

 

 逃がさない。一切の猶予も与えない。

 

 

 

 シュッ、と空気を突く鋭利な破断音とともに、漆黒の8本脚のうちの1本が、鞭のようにしなって繰り出された。

 

 

 

 ゴオォンッ!!

 

 

 

 槍のごとき脚先がジープの側面に叩きつけられる。トン単位の重量を持つ金属の塊が、まるで空き缶でも蹴飛ばされたかのように軽々と宙を舞い、猛烈な破壊音を立てて坑道の壁面に激突、そのまま横転した。

 

 

 

「ぐはあっ!? あがぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 上下転倒した車内で凄まじい衝撃を受け、男の右腕と肋骨が鈍い音を立てて砕け散る。激痛とショックで視界が真っ赤に染まり、喉から惨めな悲鳴が迸る。

 

 

 

 

 だが、腕が折れる激痛すら、直後に訪れた恐怖によって瞬時に吹き飛ぶ。

 

 

 

 ひしゃげた車体から漏れ出すガソリンの臭いと粉塵の中、男は折れた腕を庇いながら、血反吐を吐き散らして必死にドアを蹴り開けた。半狂乱で車外へと這い出し、惨めにコンクリートの床を這いずり回る。

 

 

 

 どこでもいい、とにかく遠くへ――。

 

 

 

 そう願いながら這い進もうとした男の視界を、巨大な「影」が遮った。

 

 

 

 男が恐怖に震える顔を上げた、すぐ目の前。

 

 

 

 そこには、横転したジープを見下ろすように、静かに佇む『ナニカ』の姿があった。

 

 

 

 至近距離。手を伸ばせば触れられるほどの距離に、ぬらぬらとした漆黒の装甲と、不気味に歪む8本の脚が存在していた。黄色いバイザーが、足元で血まみれになって蠢く惨めな人間を、何の感情も交えずに機械的にじっと見つめ返している。

 

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!? 助け……ヒっ、許しっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 

 

 逃げ場はどこにもない。絶望と死の冷気が全身の皮膚を突き刺し、男は地獄の底から響くような狂乱の悲鳴を暗闇に撒き散らす。

 

 

 

 しかし、『ナニカ』はゆっくりと、一本の漆黒の関節脚を上空へと持ち上げる。先端の鋭利な爪部が、赤熱化した高熱を帯び始め、暗闇の中で怪しく不気味な光を放ち始める。

 

 

 

 一瞬で命を奪う慈悲などではなく、『ナニカ』が振り下ろす脚の速度は、恐ろしいほどに緩やかだ。

 

 

 

 男にとって、その赤熱した槍のごとき脚先がじわじわと肉薄してくる数十秒間は、脳髄が焼き切れるほどの無限の拷問に等しかった。死そのものが目に見える形で自らの体を解体しに迫ってくる。絶望と恐怖で全身の細胞という細胞が狂乱の悲鳴を上げ、喉からは掠れた喘ぎしか漏れない。

 

 

「あ、やめ……頼む、やめ……やめろぉぉぉっ!!」

 

 

 ズシュッ……ッ!!

 

 

 

 高熱化した尖端が、男の腹部の中心を容赦なく撃ち抜いた。肉と皮膚が焼き焦げる嫌な音と、背骨が砕け散る鈍い衝撃が男の全身を穿つ。一瞬の即死すら与えぬまま、体内に刺し込まれた脚は、さらに深く、抉り込むようにしてコンクリートの床へと突き立てられた。

 

 

 

「ガハッ……!? ぐっ……ぁ……っ!!」

 

 

 

 男の口から大量の血と気泡が吐き出され、見開かれた瞳孔から急速に光が失われていく。腹部には巨大な穿孔が穿たれ、潰された内臓が猛烈な圧力と熱によって生々しく破裂していた。

 

 

 

 『ナニカ』が突き立てた脚をゆったりと引き抜くと、赤熱した爪の先端からは、粘り気のある暗赤色の血の跡が残り、破壊された臓物の破片を交えながら滴り落ちていく。

 

 

 だが、男だった「肉塊」を一瞥することすらなく、異形は再び無機質な音共に、不気味な爪音を響かせてコンクリートを踏み締める。自らが作り出した凄惨な惨劇を踏み越え、異形な『ナニカ』はさらなる生存者を駆除すべく、暗く狭隘な地下基地の深部へと、静かに前進を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下基地は不気味な赤光が一定のリズムで染め上げていた。天井に取り付けられた非常用警報灯が旋回し、破調のサイレンが果てしなく耳腔を穿ち続ける。

 

 

 

 その赤と黒の狂乱の中で、最初の悲鳴が上がった。

 

 

 

 

「来、来たぞ……! 奥から『ナニカ』が来る!!」

 

 

 

 

 防衛ラインを敷いていたテロリストたちが、目を見開いて叫ぶ。狭隘な通路の暗闇から聞こえてくるのは、カサカサ、カサカサとコンクリートを掻きむしる、吐き気を催すような硬質な爪音だ。

 

 

 

 

「撃て! 撃ち殺せぇぇぇっ!!」

 

 

 

 

 動揺を掻き消すように、十数人の兵士が一斉に引き金を引く。アサルトライフルのフルオート射撃が激しい閃光を放ち、無数の銅被弾が暗闇を切り裂く。さらに後方に構えた兵士が対戦車ロケットのトリガーを絞り、橙色の火炎を吹き散らして弾頭が直撃した。

 

 

 

 閃光。密閉された通路内で炸裂した爆炎と衝撃波が、兵士たちの鼓膜を叩き、激しい黒煙が充満する。「やったか!?」と誰かが叫ぶ。

 

 

 

 だが――その煙を押し開くようにして現れたのは、擦り傷一つついていない漆黒の異形であった。ぬらぬらと闇を吸い込む不自然な装甲の質感。それはフェイズシフト装甲などとは全く別の代物だと詳しいものがみれば理解したかもしれない。

 

 

 

 歩兵用の火器はおろか、重装甲を打ち抜くはずの対戦車ミサイルすら完全に無力化していく。潰れた弾芯が、まるで害虫の死骸のようにカラカラと床へ転がり落ちる。

 

 

 

「ヒッ……!? 効いてない……バズーカも、グレネードも効かないぞ!?」

 

 

 

 

「MS隊はどうした!? 早くMS隊を地下に呼び戻せ!!」

 

 

 

「本部よりMS隊へ! 応答しろ! 基地内部に未知の襲撃者! 至急戻って迎え撃て!!」

 

 

 

 半狂乱となった通信兵が、壁際の通信機にしがみつき、震える手で周波数を合わせた。しかし、ノイズ混じりのスピーカーから返ってきたのは、救援の頼もしい足音ではなく、地獄の底からの絶叫だった。

 

 

 

『ダメだ! 地上に出た瞬間に……上空から飛来したMSが――っ!!』

 

 

『たった一機のMS相手に迎撃できなっ……ぐあぁぁぁぁっ!?』

 

 

 

 

 ブツリ、と通信が途切れてしまう。地上へ打って出たはずの主力MS隊は、ハッチを抜けた直後に待ち構えていた敵MSの精鋭によって一方的に狩り尽くされ、全滅の途を辿っていた。基地へ戻って救援に入る余裕など、最初から一秒たりとも存在しなかったのだ。

 

 

 それもたった一機のMSによって、次々とMSが破壊されていく。狙撃と近接攻撃を織り交ぜたそれは、まさに無双と言えるほどの破壊を生み出しており、数少ない生き延びたMSも次々と撃破されていく。

 

 

 

 

 通信機を落とし、絶望にガタガタと顎を鳴らす通信兵。その背後に、密かに忍び寄る「影」があった。

 

 

 

 カサリ……。

 

 

「ひっ――」

 

 

 振り返った通信兵の眼前には、不気味に蠢く8本の漆黒の脚があった。異形が通路の壁面、さらには天井へと跳ね上がり、頭上を滑っており、その不規則な運動は、音に至るまで見る者の脳髄にダイレクトに生理的な嫌悪感を植え付ける。

 

 

 

「あ、あ……あぁぁぁっ!?」

 

 

 

 逃げる間すら与えられなかった。天井から吊り下がった異形の爪先が、赤熱した高熱を帯びて微かに発光する。シュッ、と空気を切り裂く短い音とともに、高熱化した脚先が通信兵の脳天から垂直に突き刺さる。

 

 

 

 人間の頭蓋骨が、熱せられたナイフを通すバターのように易々と削り開かれる。脳漿と頭髪が瞬時に焼き焦げる嫌な臭いが立ち込め、突き抜けた爪先が胴体をそのまま貫通して床ごとグチャリと踏み抜いていく。通信兵は悲鳴を上げる暇もなく、肉の塊となってその場に縫い付けられたのだ。

 

 

 

 ツギハ オマエダ。

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁっ! 死にたくない! 死にたくない!!」

 

 

 

 その惨劇を目撃した数名の兵士が、銃を投げ捨てて脇の隔壁の陰や資材置き場へ逃げ込み、息を殺して身を潜めた。

 

 

 だが、『ナニカ』の胴体中央で冷たく光るスリット状バイザーと、背部から鎌首をもたげる赤色のカメラユニットは、壁の裏に潜む人間の生体反応を完璧に捉えていた。

 

 

 

 異形は滑らかな駆動音とともにゆっくりと近づくと、赤熱化させた爪先を頑丈な鋼鉄製の防火ドアへ突き立てた。

 

 

 

ギィィィィィィッ……ッ!!

 

 

 

 

 高熱を帯びた8本の脚が、厚さ数十センチの耐圧ドアをまるで紙細工のようにドロドロと溶かしながら引き裂いていく。不気味な金属の悲鳴とともに扉が抉り開かれ、中に隠れていた兵士たちの引きつった顔が露出した。

 

 

 

「許し……頼む、降伏する! 降伏するから――」

 

 

 

 

 今更の命乞いの叫びは、虚空を切り裂く重砲砲声によって完膚なきまでに押し潰された。機体に増設された20mmガトリング砲と12.7mmチェーンガンは降伏宣言ごと彼らを撃ち抜いていく。

 

 

 

 それは最早掃射というよりは、肉体の粉砕作業と言えるだろう。大口径の実弾線が狭い小部屋の中で乱反射し、逃げ場のない人間たちを容赦なく肉片へと変えていく。四肢は根元から千切れ飛び、胸腔は原型を留めないほどに破砕され、潰された内臓と生暖かい血の泥が、部屋中の壁と天井一面に生々しくぶち撒けられていく。

 

 

 

 

 死体が次々と量産されていく。『ナニカ』は残虐に一人、また一人と命の灯火を消していく。逃げても、隠れても、抵抗しても無意味だ。時に建物ごと機銃で人を粉砕し、非戦闘員だろうが戦闘員だろうが関係なく殺戮の嵐が吹き荒れる。後に残ったものは最早原型すら残らない肉塊だけだ。

 

 

 

 

 

 

「死ねぇぇぇ! 潰れろ化け物ぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 正気を失った一人の兵士が小型の軍用ジープに飛び乗り、狂ったようにエンジンを吹かした。アクセルを床まで踏み込み、時速数十キロの金属の塊となって『ナニカ』へ体当たりを試みる。

 

 

 

 

 しかし、異形は避けることすら怠った。

 

 

 

 迫り来るジープに対し、8本の脚のうち2本を交差させるように突き出す。高熱化した尖端が、フロントガラスとボンネットを斜めに擦れ違いざまに切り裂く。

 

 

 

 

 激しい破壊音とともに、ジープはまるで薄い缶詰のように斜めに二つへと真っ分断された。勢い余って横転した車体の中で、ドライバーだった兵士はシートベルトと潰れたフレームに挟み込まれ、上半身と下半身が歪にねじ切られていた。断ち切られた動脈から噴き出す赤黒い血が、ひしゃげたエンジンブロックの熱でジューッと嫌な音を立てて蒸発していく。

 

 

 

 命乞いも、抵抗も、逃亡も、一切の奇跡を許さない。

通路は刻一刻と、足の踏み場もない血と臓物の屠殺場へと塗り替えられていく。

 

 

 

 無機質な黄色い発光バイザーは、転がる首級や撒き散らされた器官を一瞥することもなく、ただ機械的に次の「駆除対象」を探して暗闇の奥へと爪音を響かせていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがヤツカハギの力か……」

 

 

 

 

 後方から薄暗い坑道へと慎重に突入してきた兵士の口から、慄然とした呟きが漏れた。彼らはオーブ軍の歩兵部隊であり、最新鋭のボディアーマーと各種防弾装備、最新型の小銃で身を固めた精鋭たちである。

 

 

 

 本来の作戦計画では、先行した機体が基地の防衛線を穿った後、後続として速やかに侵入し、内部に残存するテロリストを鎮圧・掃討するのが彼らに課せられた任務のはずだった。

 

 

 

 だが、彼らは与えられた任務を遂行することなど、端から出来はしなかった。

 

 

 

 通路の奥から、なおも重々しい爆風の轟音と、人間のものとは思えない狂ったような悲鳴が途切れ途切れに届いてくる。しかし、彼らが足を踏み入れたエリアには、銃を構えて迎え撃ってくる敵兵の姿など影も形も存在しなかった。

 

 

 

 視界を埋め尽くしていたのは、文字通り果てしない「肉片の山」である。

 

 

 

 

「な……んだ、これは……っ!?」

 

 

 

 防弾ゴーグル越しに光景を捉えた兵士が、絶句して脚をガクガクと震わせた。通路のそこかしこに転がっているのは、原形を留めない惨憺たる肉塊ばかり。

 

 

 壁から天井に至るまで、生暖かい血と破砕された内臓の破片が泥のようにベタリと塗りたくられている。靴底を踏み締めるたびに、ズボッ、と粘り気のある赤黒い汁が音を立てて滲み出し、歩兵たちの足元を濡らした。

 

 

 

 

 生存者は、文字通りゼロだった。

 

 

 

 たまに足元に転がっている頭部を覗き込めば、開いたままの眼球と歪んだ口元は、どれもが死の瞬間に叩き込まれた圧倒的な恐怖と絶望によって不気味に歪みきっていた。命乞いをする時間すら与えられず、ただ命を磨り潰された者たちの無念が、暗闇に凝固している。

 

 

 

「うっ……」

 

 

 

 あまりにも壮絶で、あまりにも狂気に満ちた凄惨な光景に、精鋭であるはずの歩兵たちの胃袋が激しく蠢いた。過酷な訓練を耐え抜き、数々の修羅場を潜り抜けてきたはずの彼らですら、こみ上げる強烈な吐き気と生理的嫌悪感を抑え込むことができない。何人もの兵士が銃を落とし、その場に膝をついて吐瀉物を撒き散らした。

これは戦闘などではない。

 

 

 

 軍隊による過酷な掃討作戦などという言葉すら生緩い、ただ異形の殺戮機械が執り行った屠殺の痕跡そのものだ。

 

 

 

「お前達——っ! 武器を落とすな!」

 

 

 

 副隊長が引きつった顔で叫び、膝をついて胃液を激しく吐き出す若い兵士の襟首を掴み上げようと手を伸ばす。

 

 

 とはいえ武器を落とすのは論外だ、部隊の規律をなんとか保とうと嫌われ役を買って出た彼は、怒号を張り上げる。しかし、恐怖と生理的嫌悪で蒼白に引き攣っていた。

 

 

 

「やめとけ」

 

 

「しかし、隊長……っ! これではオーブ軍として——」

 

 

 

 

 低く重い声がそれを制した。手袋をはめた手で副隊長の腕を押し止めたのは、部隊を率いる隊長だ。副隊長は食い下がろうと口籠る。だが、その言葉の末尾は、通路のさらに奥深くから響いてきた重厚な構造物の崩壊音によって完全に掻き消された。

 

 

 

 地下基地の分厚い壁面と岩盤を揺らす凄まじい振動とともに、熱を帯びた赤黒い粉塵と、生暖かい血の匂いが突風となって通路を駆け抜けていく。『ヤツカハギ』が阻むもの全てを粉砕し、容赦なく踏み荒らしながら深部へと進んでいる証拠だった。直接目に見えずとも、音と皮膚に伝わる圧力だけでそこに生息する「死」の異様さが伝わってくる。

 

 

 

 隊長は重く息を吐き出すと、なおもその場に膝をつき、激しい吐気で肩を震わせている一人の兵士のそばへ腰を落とした。そして、その丸まった背中をゆっくりと、さするように優しく叩き始めた。

 

 

 

「人間を殺戮する事に特化した多脚戦車……と聞いてはいたが、中々どうして凄いじゃないか」

 

 

 視線の先、防弾ゴーグルのレンズ越しに映る壁面には、泥のようにベタリとへばりついた臓物の痕跡と、足元で絶望に歪んだまま転がる幾つもの首級。隊長の額にも冷や汗が一筋滲み、部下の背中をさする手袋越しに僅かな震えが伝わっていた。

 

 

 

「だが……あんなもんが活躍するような戦場には行きたくもないし、相手にもしたくないな」

 

 

 

 

 確かあの機体は、自動制御された無人機の類ではない。中に生身の人間——パイロットが搭乗して直接操縦している有人機であるはずだ。隊長は拭いきれない冷や汗を手袋で拭いながら、内心でその異様な完成度に戦慄していた。

 

 

 

 兵器として見れば、『ヤツカハギ』は間違いなく卓越している。オーブが極秘裏に独自開発した最新鋭のフェムテク装甲が試験的に与えられており、ホバー推進と多脚駆動が組み合わさることで生み出される機動力は、文字通り不気味な昆虫そのものだ。

 

 

 逃避行の叶わない地下坑道や狭隘な建造物内において、これほど圧倒的かつ絶望的な戦闘能力を発揮する機体は他に存在しない。

 

 

 だが——同時にあの機体は、「人そのものを殺すこと」だけに特化しているという残酷な宿命を背負っていた。モビルスーツに搭乗して戦うのであれば、引き金を引いて打ち抜く対象はあくまで鉄の巨躯——敵の機体そのものだ。

 

 

 戦闘機に乗るのであれば、高空からの爆撃や敵艦艇の破壊が主となり、そこに生身の人間を直接殺害しているという実感は、どこかフィルター越しに希釈される。装甲の向こう側にいる敵の死は、ある種の物理現象として処理することができた。

 

 

 

 しかし、あの対人撲滅多脚戦車は決定的に異なる。

 

 

 

 歩兵戦、それも狭隘地での対人掃討に特化しているということは、操縦席を包む高精細なメインカメラ越しに、逃げ惑う人間の絶望に歪んだ顔や、肉体が惨破される凄惨な瞬間を、逃げ場もなく至近距離で突きつけられ続けることを意味していた。

 

 

 脚をたった一本動かして突き立てれば、生身の人間の腹が嫌な音を立てて貫かれ、内臓がぶち撒けられる。

 

 

 

 機関砲のトリガーを一瞬絞るだけで、大口径の実弾が人間の肉体を微塵に削り飛ばし、血の泥となって壁にへばりつく。

 

 

 

 手応えと視覚の双方から、死の感触がダイレクトに脳髄へ叩きつけられるのだ。

 

 

 

(よく……よくまあ、あんなものの操縦席に座って、平然と殺戮を続けられる……)

 

 

 

 隊長は胃の奥が凍りついたように冷たくなっていくのを感じた。どれほど過酷な訓練を積み、どれほど冷血な軍人であっても、あのカメラ映像越しに「人間が肉塊に変わる瞬間」を繰り返し見せつけられれば、吐き気の一つも催すだろう。

 

 

 

 あの中のパイロットは、いったいどんな冷酷な精神の持ち主なのか。あるいは、とうの昔に狂気に呑まれ、ただ無感情に人を殺すだけの機械と化しているのか。それともテロリストへの覚悟や憎悪がそれらを塗り替えるほどに強大なものなのか。

 

 

 

(……考えるのは、やめよう)

 

 

 隊長は深く息を吐き出し、頭を振って思考を強引に切り落とした。今自分たちがなすべきは、余計な感傷や恐怖に囚われることではない。与えられた任務を遂行することだけだ。

 

 

 

「よし、全員姿勢を正せ!」

 

 

 

 隊長は声を張り上げ、未だ動揺の残る兵士たちを見回した。

 

 

 

「これより各隊は散らばり、残存するテロリストを探索・掃討する! 捕虜にする必要は一切ない、発見次第撃ち殺せ! 一人たりとも逃がすな!」

 

 

 

「「「ハッ……!」」」

 

 

 

 返事こそ戻ってきたものの、その声には力がない。兵士たちの防弾ゴーグルの奥に宿っているのは、敵への憎悪ではなく、先ほど目撃した『ヤツカハギ』がもたらしたあまりにも惨烈な惨劇に対する、底知れぬ恐怖と畏怖であった。

 

 

 

(いかんな……このままでは、まともな索敵すら覚束ない)

 

 

 

 

 隊長が兵士たちの昂ぶらない士気を案じた、その時である。

 

 

 

「お前たち、何を情けない面をしている!!」

 

 

 

 

 副隊長が前に踏み出し、活を入れるように朗々とした声を張り上げた。その瞳には、恐怖を完全にねじ伏せた 光が宿っている。

 

 

 

 

「あの『ヤツカハギ』には、我がオーブが誇る最新鋭の高度な敵味方識別機能が搭載されている! 我々が誤って巻き込まれることなど絶対にあり得ん! 駆るパイロットはプラントから派遣された最精鋭のコーディネイターだ! 我々が臆する理由がどこにある!」

 

 

 

 

 副隊長は兵士一人ひとりの顔を睨みつけ、さらに言葉を重ねた。

 

 

 

「それとも何だ! お前たちは、セイラン副総裁の顔に泥を塗るつもりか!? 自らの命をかけてでもこのオーブを救おうと立ち上がられた、真の愛国者……あのユウナ様が、後方で我々の戦いを見守っておられるのだぞ!!」

 

 

 

 『セイラン』——その名が暗闇の通路に響き渡った、まさにその瞬間だった。

 

 

 

 兵士たちの身体が、まるで電流でも流されたかのようにピンと跳ね上がった。先ほどまで彼らの瞳を支配していた生ぬるい恐怖や吐き気は、瞬く間に雲散霧消していった。

 

 

 

 ユウナ・ロマ・セイラン——その名を知らぬ人間など、今のオーブにはもはや一人として存在しない。かつて祖国が最も苛烈な国難の渦に揺れていた時期、未熟だったカガリ代表を陰になり日陰になり支え続け、傾きかけた国家を泥をすする思いで立て直した男。

 

 

 

 そればかりか、セイラン家が保有していた莫大な財産のすべてを惜しげもなく国庫へ返上し、文字通り自らの身と命のすべてをオーブのために捧げ尽くした「真の愛国者」。

 

 

 

 彼の功績は国内に留まるものではなかった。『ブレイク・ザ・ワールド』による惨劇の折には、復興支援のために作業用MS『リビルドアストレイ』を即座に全世界へと大量派遣し、幾多の命を絶望の淵から救い上げた。

 

 

 さらには、デスティニープランを推し進めたプラントとの戦い、そして世界を揺るがしたファウンデーション王国との決戦においてすら、彼は一国の政治家でありながら自ら機体に乗り込み、死線を潜り抜けながら最前線で兵士たちを鼓舞し、勝利をもたらしたのだ。

 

 

 

 

 過ちを犯さぬ指導者。民とともに血を流す指揮官。彼こそは、紛れもなくオーブにとっての『救世主』そのものであった。

 

 

 

 そんな偉大な人物が今、まさにこの作戦の後方において、自分たちの戦いを共に見守り、後押ししてくれているのだ。

 

 

「……ユウナ様が……」

 

 

 膝をついていた一人の若い兵士の瞳に、激しい闘志の火が宿った。あの『ブレイク・ザ・ワールド』の際、猛威を振るった巨大津波から自らの家族を救い出してくれたのは、他ならぬユウナが開発を指示したワダツミによるものだった。あの恩義に報いる機会が、今ここにあるのだ。

 

 

「俺たちが……怯えてどうする……っ!」

 

 

 

 別の兵士が、小銃を握りしめる手にぎりぎりと強い力を込めた。彼は前大戦時に祖国が蹂躙される事を見ているしかなかった者の1人だ。

 

 

 

 もし当のユウナ本人が「救世主」などという兵士たちの熱狂的な賛辞を耳にすれば、「俺が救世主なんて烏滸がましいわ!」と、自身がガンダムシリーズで最も尊敬する偉大な救世主、『フリット・アスノ』の名を引き合いに出し、ブンブンと猛烈に首を振りながら全力で否定したに違いない。

 

 

 

 だが、彼が積み重ねてきた泥臭く愚直なまでの行動と、民や兵士と同じ視点に立って血を流した軌跡は、控えめに言ってもオーブ軍全体の脳を完全に焼き尽くしていた。今や軍の上層部から最前線の歩兵に至るまで、彼のために命を捨てる覚悟を持った者たちが溢れかえっているのだ。

 

 

 彼らの士気を一瞬で跳ね上げた副隊長もまた、かつてあの凄絶極まる戦場において、ユウナが放った魂の演説を直接その耳で打ち付けられた者の一人だった。

 

 

 副隊長の脳裏に、あの日、血と炎の中で叫ばれたユウナの泥臭く、それでいて胸を打つ言葉が鮮明に蘇る。

 

 

 

 

『お前達の物語は!お前達の手で今、綴るんだろ! 傷つくことを恐れて役割の中に引きこもって、ページをめくるのを止めていいのかよ! 完璧な正解なんてなくていい! 誰もが迷いながら!後悔をしながら!ボロボロになりながらでも、自分自身で選ぶ一歩にこそ価値があるんだ!!』

 

 

 

『俺は死にたくない! そして、次の世代に、俺達の経験した悲惨な戦争や経験を!ただ、押し付けられた役割で遺したくもないんだ! だから……だから今だけは、敵も味方も関係ねぇ! お前たちの力を、俺に貸してくれ! 諦めずに想いを貫くんだ!ここで俺が要請してやる!!!決められた『運命』を壊して、子供たちが『自由』に夢を見られる世界を……俺と一緒に作ってくれよォォォ!!』

 

 

 

 

 あの言葉を、どうして忘れられるだろうか。飾り立てた政治家の理念などではない。死の恐怖に怯え、傷つき、それでも子供たちの未来のために立ち上がろうと叫んだ、一人の人間の咆哮。

 

 

 

 あの演説を聞いたすべての兵士の脳髄には、彼と共に戦い、彼と共に未来を掴み取るという不可逆の決意が焼き付けられていた。

 

 

 

「そうだ……俺たちは、あの方の背中を見てここに来たんだ!」

 

 

 

 膝をついていた兵士が力強く立ち上がり、小銃の安全装置を解除した。防弾ゴーグルの奥に宿るのは、先ほどまでの恐怖など微塵もない、燃え盛るような狂熱の火だ。

 

 

 

 異形の殺戮機械『ヤツカハギ』が作り出した屠殺場のような暗闇の中で、オーブ軍の精鋭たちは再び統制を取り戻し、獰猛な瞳を奥へと向けた。

 

 

 

「ユウナ様の掲げる未来のために……残存敵勢力を徹底掃討するぞ!我に続け!」

 

 

「「「オーッ!!」」」

 

 

 

 死の冷気が満ちていた地下通路に、兵士たちの地鳴りのような咆哮が轟く。彼らはもはや恐怖に怯える歩兵ではない。救世主の理想を具現化するため、地獄の底へも迷いなく踏み込んでいく熱狂の軍勢へと変貌を遂げていた。

 

 

 

 

 男達の救世主は、ユウナ・ロマ・セイランであったのだ。

 

 





・ヤツカハギ
 戦闘シーンを描いているうちにホラーテイストになってしまった機体。実はアグネスはこれでも割と「私的に」使用している節もあって、本来ならもっと早く敵兵士はどんどん殺戮されたでしょう。なお無敵の様に思われますが、MSと真正面から戦うのは機体サイズが6〜7mクラスなのもあって厳しく。PS装甲持ちがドッズライフル片手に挑めば基本的には無傷で制圧できます。とはいえ、そもそも極限まで対人戦闘に特化した機体であるが為。MSに勝てないというよりは「MSと戦う状況になった時点で運用ミス」と言えるでしょう。

 余談ですが本来はアグネスが喋りまくる予定でしたが「これリヴァイアサンの時みたいにホラー風に描いたほうがいいな?」となった結果アグネスの台詞は没に。より異形の兵器(一応見た目が異形なのはわざと対人戦闘における威圧感を与える為)という感じが出ましたが、アグネスファンの皆様には申し訳ございません。


・救世主
 控えめに言ってユウナはオーブ軍の技術者と軍人の多くの脳を焼いてます。とはいえユウナは基本一般兵よりコンパスの皆やトダカ達上級将校と関わることが多い為、一般兵からどう思われてるのか?に関してはイマイチ理解が薄いのが正直な所。また、本人は褒められ慣れておらず、自認がユウナ(原作におけるヴィランや小物)である影響も含めて、そう言う目で見られるのは烏滸がましいと本気で本心から嫌がります。この辺りは勘違い系というよりは、ユウナ本人の気質なのでもうずっと治らないでしょう。

 いずれ色々な陣営の市民やモブ兵士からまたユウナというお話も案としてはあるのですが、ユウナが凄いと言われまくるだけのお話になるのでは?と考えちゃう。やるにしてもユウナ凄いで終わるのではなく徹底的にユウナを辱めます。

大西洋連邦の選挙結果は?展開によって今後のお話に影響が出ますが、あくまで大西洋連邦国民の一人として投票して頂けると幸いです。

  • 【フォスター政権+親オーブ派】
  • 【モンロー主義派】
  • 【反オーブ+反プラント派】
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