破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
執務室内に漂う空気は、息が詰まるほどに重かった。
革張りのソファにどっかりと深く腰を掛け、目の前のカナードは腕を組んだまま不機嫌そのもののオーラを隠そうともしなかった。余程イラついているのか無言だ。基本的にコイツは本気でイラつくと言葉数が少なくなる事は俺も知っていた。
(……いや、そりゃそうか)
俺は心の中で小さくため息をつきながら、彼から手渡された分厚いファイルへと視線を落とした。そこに記された文字の羅列と、添付された現場の写真やデータが描かれたページをめくるごとに胃のあたりが重くなり、気づけば俺自身も思わず深く顔を顰めていく。
視界の端で、カナードの足先が苛立ちを揺らすように貧乏ゆすりを刻んでいるのがわかる。
カナード率いる傭兵部隊Xは、実質的にコンパスの光が届かない闇を歩む、裏の実行部隊と言っていいだろう。国際組織であるコンパスは各国の正当な要請に基づき、発生したテロの鎮圧や明確な敵本拠地を叩くのが本来の職務だ。
表舞台の正義として機能している以上、法的な正当性や明白な証拠が揃わなければ、おいそれと動くわけにはいかない。いやね?こっちも緊急でテロリストに対処する時なんかは完全に無視して俺の権限で部隊を展開させるけど、そうなると後々処理がクソ面倒くさいんだよ…!
だが、この世界には「グレーゾーン」としか言いようのない闇が幾重にも蠢いている。例えばどこぞの富豪が反コーディネイター組織へ莫大な資金援助を行っている疑いがあっても、確たる証拠がない段階ではコンパスの手は届かない。そうした法の手がすり抜ける場所にこそ、カナードたちの出番があった。
彼らは独自に潜入や情報収集を行い、現場で決定的な証拠を力ずくで引きずり出すやいなや、強攻策をもって部隊を展開させ、問答無用で現行犯逮捕へと持ち込む。
時には、オーブは加入してないとはいえユニウス条約で禁止されているミラージュコロイド技術を搭載したステルス戦艦バシレウスを用い、敵の警戒網を完全に無力化して電撃的な奇襲を仕掛けることすらあった。実際アルテミス陥落には彼らの働きが深く関わっており、最早コンパスには必須の存在だろう。
……まあ、うっかり口が滑って『ファントムペインみたいなもんか』なんて言おうものなら、確実に顔面をぶん殴られるだろうし絶対に口にしないがな。
あちらのような非人道的な使い捨ての非合法部隊とは根本的に違う。彼らは俺の手で公的な手続きを通し、あくまで「契約に基づいた民間傭兵部隊」という体裁を維持している。予算の出どころや法的な手続きは俺達が引き受けているが、傭兵という立場上、正規軍のような指揮系統が成立しているわけではない。だからこそ融通が利いて自由自在に諜報や準備を行えるのが彼らの強みだ。
以前、カガリが義兄である彼らに対して「正式にオーブ軍の傘下に入らないか」と何度も打診したことがあったが、カナードはそれを断固として拒否しているからな。国家という組織の枠組みや軍の制約に縛られず、己の倫理と腕で対象を吟味して動くことこそが、カナードという男のポリシーなのだろう。
そんな彼が、ここまで隠そうともせず胸糞悪そうな表情を浮かべ、殺気立った苛立ちを隠さないのは非常に珍しかった。
だが……彼の凄惨な出生や、実験体として利用されてきた過去の生い立ちを思えば、それも当然の反応と言えるだろう。ロドニアのラボの時はまだ飲み込めたとは言え、今回ばかりは正直巻き込んでしまった事実に申し訳なさを感じてしまう。
「……おい、ボンボン」
組んでいた腕を解くこともなく、ソファに深く沈み込んだまま、カナードが低く掠れた声で俺を呼んだ。
「知っていたのか……? こんなものが、裏で平然と行われていたってことを」
「……都市伝説の類だと思ってたよ」
あぁクソ…刃物のように尖った彼の視線が、俺の手元にあるファイルへと突き刺さる。
俺はゆっくりと首を振り、重い溜息とともにデスクに肘をついた。
「噂としては耳にしたことがあった。だが、正直言って予想外だ……いや、こんな馬鹿みたいな案件単なる胸糞悪い都市伝説であってくれと、俺自身が信じたかったんだがなぁ……」
こめかみを指先で押さえつけ、俺も思わず頭を抱えてしまった。手元の写真に写し出された現実があまりにも歪すぎて、視線を戻すだけで胃の奥が焼きつくように痛む。
「……アスク、ちょっとカナードと二人で静かに話しておきたい。一時休眠モードに入ってくれ」
デスクの上に置いたタブレットの画面を指先で操作しながら、俺が静かに語りかけると、画面の向こうのアスクは一度だけ深く頷いた。
『——了解いたしました、ユウナ副総裁。指示通りスリープモードへ移行します』
澄んだ電子声が消え、光を失った画面が真っ黒なガラスの板へと戻る。あとはタブレットに電源をつけようがアスクは今回にで知る事はないだろう。
そのやり取りを、ソファのカナードは眉根を寄せたまま、冷ややかな視線で見つめていた。
「……それが例の『心を持たせる』とかいうマザーAIか」
「ああ。対話型のな。さすがにアスクには、こんなものまで見せるわけにはいかねぇよ。AIが真の人間性を獲得する上で、人類の汚い部分や裏の闇を知る必要があるのは分かっちゃいるが……」
俺は黒い画面を見つめたまま、自嘲気味に苦笑を漏らした。
キャンサー(核兵器)やスコーピオン(BC兵器)の様な危険な兵器を将来的に運用サポートする為には、あえて人間の汚い部分を見る必要があるのは確かだ。だが、悪意の原液をそのままドロドロと流し込みたくはない。
それでアスクが人類に失望や反乱を、なんて事はないだろうがそれでも。今回はやめておこう。アイツは賢いからなんとなく予想はしてるだろうが、果たして俺の行動が正しいのかどうかは……わからない。
「……どうだ? 親バカというか、過保護すぎると思うか?」
「知らん」
カナードは吐き捨てるように短く言い放ち、鼻で笑う。
「お前の教育方針に、俺がとやかく言うつもりはない。機械に何を夢見ようが勝手だ」
「まあ、今はそう言ってるといいさ。夢は最後まで見てなけりゃやってられんぞ色々とな?」
俺は苦笑いを浮かべつつ、迷いを断ち切るようにタブレットの電源ボタンを押し、完全に電源を落とした。無機質な黒い画面を伏せ、デスクの上に静かに置く。
少しだけアスクを機械扱いされてムっとなってしまうが、カナードはなんだかんだで甘いというかツンデレ的な部分もある。今度アスクを組み込んでジェミニ(ドラグーン運用)の試験をカナードに任せてみるのもいいかもしれない。
まぁ教育方針と言ってる辺り一人の個体として認識してくれてるのは確かだ。カナードの言葉の裏に秘めてる感情くらい3年以上の付き合いである程度は理解できる。
そして、あらためてソファの男へ向けて視線を戻し、深く姿勢を正した。これから話す事はオフレコであって、記録に残ることもないだろう。
「……色々とすまなかったな、カナード。胸糞悪い現場を踏ませることになっちまって」
カナードはフンと大きく鼻を鳴らし、組んでいた腕の力を緩めることなく視線を明後日の方向へと逸らした。彼が八つ当たりで俺にキレているわけではないことくらい、嫌というほど分かっている。
この怒りは俺個人に向けられたものではなく、彼らがその目で目撃してきた惨状そのもの、そしてそれを平然と生み出し、貪っているこの世界の底なしの醜悪さに向けられたものだ。そういう事が出来るからこそ俺は彼を信頼している。
今回俺がカナード達、傭兵部隊Xに命じた任務。それは、表の法の手が絶対に届かない、地下深くで開催されていた極秘オークションの摘発だ。参加してる連中はいわば暗黒メガコーポやら暗黒金持ちってやつだな。
もちろん、表向きの経済活動や正当な流通に乗るような代物ではない。世界中の闇市場と太いパイプを持つ犯罪シンジケートが仕切る、完全会員制の無法地帯だ。
ファイルに目を通せば通すほど、その異常な実態が浮き彫りになっていく。競売にかけられていたのは、遺伝子組み換え技術を悪用して生み出された異形の見せ物や、それら『キメラ』と称される生物同士を狭い檻の中で殺し合わせる血生臭い違法賭博。絶滅危惧種の密猟個体。
それだけに留まらず、裏社会で巨額の金が動く違法な生体臓器の売買リストや、国際指名手配犯すら網膜パターンごと偽装して高飛びさせる精巧極まる偽造パスポートの予約に至るまで……世の中のあらゆる悪徳と禁忌が、そこに集約されていた。
富と権力を持ちすぎた人間たちが、退屈を紛らわすためだけに買い漁る泥の市場。国家や倫理のタガが外れた場所で繰り広げられるその光景は、まさにこの世界の闇を凝縮したような地獄絵図だったと言っていいだろう。
無論、この地下オークションの存在や開催日時を特定するまでには、血の滲むような労力と時間を費やす羽目になったけどな……コンパスが正式に設立されてから数年越しに、ようやく尻尾を掴むことができたがそれだって、いくつかの幸運が無ければ解き明かすことは不可能だったろう。
情報の糸口を解き明かすために、捕縛した裏社会の幹部との「親密で丁寧なお話し合い」から始まり、ハッカー……いやクラッカーと行った方がいいか?メイリンに命じて各国の機密データネットワークや暗号化された闇サイトへ連日連夜のハッキングを仕掛けさせ、膨大な情報の泥海を浚うことで、ようやくカナード達を現地へ送り込めるだけの手筈を整えることができたんだ。
ちなみに、今回彼らを潜入させた最大の目標……それは現場の証拠データを押さえることと同時に、俺たちが最も恐れている兵器の有無を確認することにあったんだけどな。
……核兵器、NJCの売買が行われていないかを、だ。
冗談みたいな話に聞こえるかもしれないが、前世で『0083』の惨状を知る俺からすれば、テロリストや極端組織による核攻撃だけは、どんな犠牲を払ってでも未然に防がなければならないと決意しているんだ。
富と権力が集中し、法も倫理も届かないこの手の極秘オークションであれば、極秘裏に横流しされた核ミサイルや戦術核弾頭が目玉商品として競売にかけられている可能性は十二分に考えられた。だからこそ今回は本当に核ミサイルやNJC搭載機体の出品を確認する事が第一の彼らの作戦目標だったのだが……ある意味ではカナード達は失敗したと言えるだろう。
なんせ、その競売のカタログに並び、次々と壇上にせり出してきた出品物の一つが、「人間」だったのだから。
つまり、国家間の裏社会にすらアンタッチャブルとされるはずの人身売買が、この場所では当たり前のように商取引の対象になっていた。そして、さらにその奥でお出しされていたのが……「性奴隷」だったんだ。
それも、ただの人間ではない。優れた才能や美貌を持つはずのコーディネイターの女性たちが、あたかも高価な美術品や愛玩動物のように、富豪たちの性欲を満たすためだけに平然と売り出されていたのだ。
ステージの上に立たされた彼女たちの姿は、一目見て異常とわかるものだったらしい。まだ若い少女の年齢であるにもかかわらず、不釣り合いなまでに過剰に膨らんだ胸部や、作られたように蠱惑的で虚ろな笑みを浮かべたまま、買い手たちの品定めを受けるようにポーズをとらされる。
さらには、その「商品価値」を証明するかのように、牛柄ビキニの少女が分泌させられた母乳を搾乳し、それがサービスとして振る舞われるなど、最早煌びやかなステージの壇上に置いて、人間の尊厳を徹底的に踏みにじった悪趣味な見世物な繰り広げられていく。
……興奮する? するわけねぇだろ。微塵もしねぇよ。
確かに、前世の記憶を紐解けば、その手のいかがわしいエロ同人やフィクションのシチュエーションとして存在していたのは確かだ。俺だって男なんだから「使った」経験もあるのも事実。それだけ盛り上がったコンテンツでもあったからなガンダムSEEDというものは。
だが、いざそれを生の現実として目の当たりにしたとき、湧き上がってきたのは生理的な嫌悪感だけだ。同じ遺伝子を持つ人間が悍ましく性玩具として消費されている現実。なまじ、俺の愛する妻であるミーアも同じコーディネイターであるという事実が、この胸の内の憎悪をさらに加速させているのかもしれない。
しかも、彼女たちの惨状は単に肉体を美しく、あるいは性的に魅力的へコーディネイトされたというレベルにとどまっていなかった。
ファイルや現地からの報告によれば、彼女たちはファントムペインが裏で暗躍していた頃の遺産、例の「ゆりかご」の技術をベースにした徹底的な記憶操作と精神洗浄を受けていたらしく、自我や倫理観をきれいに削ぎ落とされ、精神の根幹に至るまで「性奴隷として主人に絶対服従すること」だけを強制的にプログラミングされていたそうだ。
そんな人間としての自我を奪われた被害者たちを前にして、壇上の司会者は臆面もなく、嬉々としてその奴隷としての「機能の優秀さ」や調整の手間についてマイクでベラベラと説明し続けていたというのだから、もう色々と終わってる。マジで終わり散らかしている。
こんなのアスクに見せられる訳ねぇよ。いやアスクどころかこの後報告しなけりゃならんラクスやカガリにすら見せたくねぇなぁ…。
案の定というか、予想通りと言うべきか……現場のオークションに参加していたカナードは、当然のようにブチギレていた。別に、「同じコーディネイターの同胞だから」とか「かつて自分が実験動物として扱われていた過去を重ね合わせたから」なんて、そんなセンチメンタルな理由でもなく。純粋に目の前で繰り広げられている外道の所業と、それに群がる人間のクズっぷりに限界を迎えてしまっただけだ。
寧ろカナードはよく耐えたくらいだろう。俺だったらキレた挙句、隠し持っていた銃でその場でぶち殺してやろうかと暴発しかねずに誰かに止められていたはず。本当によくぞあの地獄絵図の中で理性をつなぎ止め、暴発せずに耐えてくれたものだと尊敬すら覚えてしまう。
だが、耐えたからこそ、彼らは迅速に次の手を打った。これ以上、あのカスの極みのようなオークションに付き合う必要などない。表向きの作戦目標である核やNJCの影こそ確認できなかったが、それ以上に放置できない人間のクズどもが目の前に大量に転がっている。
コンパスは、武力で敵を撲滅するだけが任務ではなく、何よりも最優先されるべきは、被害を受けた民間人の保護と防衛だ。
だからこそ、コンパスの規定にのっとって!正義の味方として!!民間人(性奴隷)達を現場の判断で即座に保護する必要があるよなぁ!!!
そんな大義名分を元にカナード達は即座に行動に移った。潜入任務を自ら投げ捨て、バシレウスの格納庫からモビルスーツを強引に起動させると、そのまま地下オークションの会場そのものを力ずくで制圧。逃げ惑う高級スーツを着た悪徳富豪どもを片っ端から地面に這いつくばらせ、一網打尽にしたというわけだ。
それが独断専行と言えるかどうか俺の判断にもよるが、少なくとも俺はカナードの判断を間違っていたとは言えない。というかラクスすらもカナードを支持するだろう。寧ろ子持ちになったばかりのラクスにこんなカスみたいな話を聞かせるのがもう、ね…。
今頃、あの時上品な笑みを浮かべてワイングラスを傾けていた金持ちのクズ共は、全員まとめてオーブの地下深くにある厳重な刑務所の独房で、冷たいコンクリートの床を舐めていることだろう。色々とゲンナリしているこちらとしては、最早ざまぁと中指を立てる気力すら湧いてこないが。
「……もう終わりだな、コイツらは」
俺は吐き捨てるようにそう呟き、深くため息をついた。逮捕された連中の中には、表向きは熱心な慈善家として知られていたり、社会的・政治的な大御所としてメディアに露出しているような面々も数多く含まれていたらしい。
だが、それももうすべておしまいだ。地獄の底まで落ちた今更、どれほど取り繕ったところで、彼らの社会的地位も財産もすべて跡形もなく吹き飛んだ。
デュランダルの煽ったロゴス関係者に対する魔女狩りすら要領よく生き延びたような図太い暗黒金持ちどもが、たかが下半身の欲に脳を焼かれた挙句、傭兵部隊に踏み込まれて無様に捕縛される。笑え……ねぇよなぁ、まったく。
「——そもそもさぁ!! なんでブルコスの連中まで関わってんだよ!!!」
もう耐えきれなくなった俺は思わず額を押さえながら、破って叫んでしまったが。カナードも全くだと言わんばかりに、心底同調するような冷たい目でただ無言で深く頷いている。
あのカナードがだぞ?俺が叫んだら落ち着けと鳩尾に平気でパンチしてくるカナードがだぞ?
エクステンデッドの『ゆりかご』の技術が使われている以上、今回のオークションの裏にブルーコスモスやロゴスの残党が噛んでいたのは疑いようもない事実だ。
『青き清浄なる世界のために』。
反コーディネイターを掲げ、奴らを「人類の敵」だの「害獣」だのと声高に叫び、虐殺すら正当化してきた連中がだ。表ではそうやって増悪を煽り立てておきながら、いざ裏に回れば、その忌み嫌うはずのコーディネイターの少女たちを自分の都合のいいように性奴隷へと仕立て上げ、金で買い漁って欲望の捌け口扱いときたもんだ。
どこまで都合のいい頭をしてやがる。反吐が出るほどのダブスタじゃねぇか……!もう胸の奥から煮えくり返るような激怒がこみ上げてくるが……よーし!決めた。証拠も含めて全部今回の件は世界中へぶち撒けたるからなクソがよぉ…!!
(……いや、待てよ?怒りに任せてこの胸糞悪い事実をそのまま『原液』のまま世間にぶち撒けたら、どうなる?)
一度深く息を吐き出し、煮えくり返る頭を強引に冷やす。もし何の調整もせずそのまま開示すれば、「これだからナチュラルはカスなんだ」とプラントをはじめとするコーディネイターたちの怒りと不信感に火がつき、種族間の憎悪を激化させる格好の燃料になってしまう。それでは奴らの撒き散らした毒に世界が再び飲み込まれるだけだ。
だからこそ、今回の場合徹底してナチュラルの罪ではなく、ブルーコスモスと暗黒金持ちの罪として焦点を絞り、慎重に原稿と情報を編纂する必要がある。
ナチュラルかコーディネイターかという種族の対立構造にすり替えさせるわけにはいかない。どこまでも「人間の尊厳を踏みにじった一部の暗黒金持ちと、二枚舌のダブスタブルーコスモスこそがすべての元凶なんだ。オッケー?」という構図を、揺るぎない事実として提示しなければならなねぇんだ。
被害者たちの尊厳を守るための映像処理や情報統制はもちろん、世論の誘導まで計算に入れて情報をコントロールするしなきゃな……まあ、こんな立ち回りをスラスラと考えついている時点で、俺自身もすっかりこのC.E社会に染まりきってる証拠か。
さらに懸念すべきは、ブルーコスモスの内部事情だった。現在のブルーコスモスには、過激派の暴走に異を唱え、本来の結成目的であった『環境保護団体』としての初心へと回帰することを宣言して地道な自然再生運動に取り組んでいる『コミット・ブルーコスモス』を名乗る派閥も存在している。
彼らは過激派の陰で肩身の狭い思いをしながらも、純粋な理念のもとで今も活動を続けている連中だ。ここで無差別に「ブルーコスモス」という名を糾弾し、一括りに批判の火の粉を浴びせるような真似をすれば、彼らの正当な努力まで無に帰してしまう。
コーディネイターとナチュラルの間に潜む不和の種を煽り立てるのではなく、どこまでも摘発された暗黒金持ちどもの個人的な欲望と悪徳、そして金に目が眩んだカス達の歪んだ二枚舌を厳しく糾弾する。
そのうえで、「本来あるべき姿を取り戻そうとしているコミット・ブルーコスモスのような存在を見習うべきだ」と世論に提示し、過激派と穏健派の明確な切り離しを強くアピールしなければならない。
(……はぁ、考えるだけで頭痛くなってきた……各方面への根回しが必要になるじゃん…)
各国のメディアへの根回し、報道規制のライン引き、法的なプロパガンダの構成なもやるべき課題は山ほどあった。それだけに留まらず捕らえた金持ち共からさらに奥の闇ルートや協力者を完全に割り出すため、最悪の場合はイングリットのアコードとしての能力に頼る必要すら出てくるかもしれない。
彼女の能力で奴らの脳から直接情報を引き出させたり、再度オークションなどにおびき寄せるための傀儡として一時的に洗脳・利用させてもらう……そんなカルマ極悪な手段すら選択肢に入れなければならないほど、この闇は深く根を張っているのだ。
これから当分の間、執務室に籠もりきりのデスマーチ状態が続くことは容易に想像できた。自室にまともに帰ることもできず、家で待つミーアにはまた寂しい思いと心配をかけることになるだろう。
公務の激務に追われるたび、嫌な顔一つせず笑顔で支えてくれる年下の可愛い嫁さんの顔が脳裏をよぎり、俺の胸が痛み出していると——。
「……ジョージ・グレンはこの惨状を見たら、どう思うんだろうな」
不意に、カナードがぽつりと皮肉めいた言葉を漏らした。冷ややかな嘲笑を乗せたその声は、執務室の重苦しい空気をさらに冷たく冷やす。
「何が『僕はこの母なる星と、未知の闇が広がる広大な宇宙との架け橋。そして、人の今と未来の間に立つ者。調整者。コーディネイター。僕に続いてくれる者が居てくれる事を、切に願う』だ……反吐が出る」
カナードは短く吐き捨てると、まるで口の中の毒を追い払うかのように、舌打ちとともに顔を背けた。その横顔には、深海の底のように濃く暗い憎悪と軽蔑が刻み込まれている。そう、プレアと出会う前。自身の産まれと待遇に絶望し、キラへの憎悪を糧に生きてきた時期の顔を。
それにしてもジョージ・グレンの宣言、か。俺だってこの世界に転生してからその辺りも歴史の資料と見せてもらったが、かつて世界を熱狂させ、人類に「新たなる進化の可能性」を夢見させた希望の宣言。だが、現実はどうだ。
「……あいつがまき散らした身勝手な理想のせいで、どれだけの命が歪められ、踏みにじられた? ナチュラルの嫉妬と畏怖、コーディネイターの選民思想……その衝突が生み出したのは、数億という死者の山と、互いの存在すら否定し合う果てしない殺し合いだけだ」
彼の指先が、怒りで微かに震えていた。ジョージ・グレンというひとりの男が開けてしまったパンドラの箱。そこから溢れ出た悪意と歪みが、今まさにこのファイルの中で、救いがたい地獄となって結実している。
カナードにとって、あの有名なスピーチは人類の未来を照らす光などではない。己の存在そのものを呪い、この世に生きる数多の犠牲者たちを地獄へ引きずり込んだ、悪質極まりない呪詛に他ならないのだろう。
「それどころか、欲望に狂った奴らの手で『調整』された挙句、性奴隷や臓器売買の道具として弄ばれるガキ共まで生まれちまった。挙句の果てには……俺の様に目的のために生み出され、失敗作として捨てられ——」
「……それ以上はやめろ、カナード」
俺は静かに、彼の自己否定を遮った。言葉を途切れさせられたカナードが鋭い視線を向けてくるが、俺は真っ向からその眼光を受け止める。
だめだ。それ以上は本当にダメだ。ここまでカナードを追い込んでしまったのも俺のせいだと頭を掻きむしりたくなるのを堪えつつ彼と向き合う。
「俺はお前を『失敗作』だなんて一度だって思ったことはない。それに、これ以上そんな風に自分を蔑むのはプレアだって望んでは…」
「お前に俺やプレアの何が分かる!!」
ドスン、と激しい衝撃音が室内に響いた。
カナードが感情を爆発させ、ソファの肘掛けを固い拳で叩きつけながら立ち上がっていた。その瞳には、かつてメンデルやユーラシアの闇の中で味わった激痛と、失った友への約束と焦燥、そしてやり場のない怒りの炎が痛々しいほど渦巻いている。
胸を激しく上下させ、荒い息を吐くカナード。だが、執務室を包む重苦しい沈黙の中、数秒の時が流れると、彼の肩からふっと荒々しい力が抜けていった。己の感情を制御しきれなかったことに気づいた彼は、忌々しそうに顔を背け、低く掠れた声で呟いた。
「……すまん。」
「いいさ。だが、あまり自分を『失敗作』なんて言葉で縛るなよ。そんな言葉を軽々しく使われたら、真面目過ぎるどこぞの弟辺りはまず間違いなく責任を感じるだろうからなぁ……それに、もう一度言っておくが、俺はお前を失敗作だと思ったことなんて一度もない」
俺はデスクから身を引き、穏やかに首を振った。というかこれに関してはガチだ。カナードを失敗作と言い切った連中は頭おかしいんじゃないか?となる程に彼の技能は卓越している。
特に小隊連携や雷蛇の技能に関してはコンパスでもトップであり、キラだってこなせない諜報や破壊工作も彼は容易く行える。何よりスーパーコーディネイターの本質はヒビキ博士が遺伝子操作における失敗を失くし、完璧な設計図通りのコーディネイターを作り出す研究のはずなんだけどなぁ……。
やっぱ、当時のユーラシアはその辺りを勘違いしてたんじゃないか?って思ってしまう。晩年のユーレン・ヒビキが自分の息子を全てのステータスがMAXなコーディネイターとして産み出そうとしていたのも混乱の元なんだろう。
結果的に超人兵士として幼いカナードは期待されたろうが、あんな実験動物扱いの子供がまともに力を発揮出来るわけもなく……なんかマジでムカついてきた。寧ろそんなカスみたいな環境でよくもまぁこれほどの技能を身につけたもんだ。ある意味大成功じゃねぇか。
なお、カナードは返事もせず、不機嫌そうに腕を組んで窓の外へ視線を投げようとした。俺はその頑固な横顔を見つめながら、少しだけ口角を上げ、空気を変えようとニタリと笑みを浮かべてみせた。
「だってさお前だってあのメサイアでハッキリと吐き捨ててただろ? 『失敗作? 運命? そんなカビの生えたメンデルやユーラシアのクズ共のレッテルをいつまでも、大事に抱えると思ってるのか!? 俺は俺だ! 誰かの台本通りに動く人形じゃねぇんだよ!』ってな」
「っ……!? お、おいユウナ!! お前……ッ、なんでそれを知って……!!?」
一字一句違わぬ完璧な再現と、どこか芝居がかった熱弁の暗唱。まさか人生最大のキメ台詞を目の前の男に完璧にコールバックされるとは思ってもみなかったカナードは、一瞬で顔を真っ赤に沸騰させた。跳ね起きるように俺を指差し、怒りと致命的な羞恥心で声と肩を震わせ、別の意味で本気でキレそうになっている。
俺はそんな彼の文字通り真っ赤になった惨状を心底面白がりながら、ニヤニヤと意地悪く、煽るような笑みを浮かべて見つめ返した。
「副総裁ぞ?我、コンパス副総裁ぞ?雇い主がメサイアでどんな戦果を挙げたか戦闘記録や通信ログを細かくチェックするくらい立場上当たり前に決まってんだろ」
わざとらしく胸を張り、肩をすくめてみせると、カナードの顔はさらに朱を深め、額に青筋すら浮かび上がらせた。
「お前……ッ!! 盗み聞きどころか、ログをほじくり返して遊んでやがったのか……!!」
「別に遊んでねぇよ!?偶にアグネスがやらかすからそう言う事も俺がなぁ……まあ落ち着けって。俺と違って、お前はネットの玩具にされてないだけ何千倍もマシだろ?」
俺はひらひらと手を振りながら、自虐混じりの笑いを漏らした。とはいえやっぱパイロット一人一人のログを確認するのは流れ作業とはいえ結構面倒だし、今後はアスクにも丸投げしたほうがいいかもしれんな。
「俺なんてなぁ、メサイアでのあの大演説が余すところなく全世界に配信されたせいで、未だにネットの掲示板やSNSで盛大に擦られ続けて完全なフリー素材扱いだ。それに比べたら、お前の格好良い決め台詞なんて俺の心の中にしか保存されてな……いや多分だがキラ経由でカガリ、ラクスを筆頭に結構知ってる奴もいるだろうが…」
「……殺すぞ」
カナードは低い声で威嚇するように吐き捨て、刺すような眼光で俺を睨みつけてきた。だが、その殺気立った視線からは、先ほどまで彼を苛んでいた深淵のような暗い絶望や、自己否定の影は綺麗に消え去っていた。
(……うん、これでいい)
今の彼の表情は、なんていうか……よく対戦しているポケモンの通信対戦で、耐久ハメ戦法をしつこく押し付けた時に、「お前、人間としてどうかと思うぞ」と心底嫌そうな顔で俺を睨みつけていた時の顔と、寸分違わずそっくりだった。
まぁその後対策されたりして負ける事も多いから俺とカナードの対戦は最近は互角だったりするんだけどな。コーディネイターもナチュラルも関係なく楽しめるポケモンはやっぱ最高だわ。
それにしても、変に絶望して殻に閉じこもられるよりこうして俺のウザさに辟易して苛立っている姿の方が、ずっとカナード・パルスという男らしくて安心できる。何よりコイツは否定するだろうが俺だってカナードの事を友人どころか本気で命を預けてもいいと思うくらいには信頼してるんだぞ?これでも。
重苦しく歪んでいた室内の空気は、すっかりいつもの腐れ縁特有の軽妙な距離感を取り戻していた。
「……たく、食えねぇ奴だ」
カナードは大きく溜息をつき、頭をガシガシと掻きむしりながら、勢いよくソファへ深く深く体を沈め直すのだった。
その後は、しばらくの間、雑談混じりのくだらない会話や、お互いの近況についての私的な世間話を交わした。刺々しかった彼の肩の力もすっかり抜け、室内には穏やかな時間が流れ始める。
だが、俺は息をひとつ吐くと、デスクの上に肘をついて組んだ手の上に顎を乗せ、真面目なトーンに切り替えて本題を引き戻した。
「……で、さっきのジョージ・グレンの話に戻るんだがな」
カナードがめんどくさそうに片眉を跳ね上げる。今更それに触れるのか?と言ってるのは確かだろうけど、俺にだって言いたい事や譲れない言葉もあるんだから我慢しろよ。
「正直なところ……俺は、あいつがあの時代にあれを公表して宣言してくれて、心の底から良かったと思ってるんだ」
俺がそう口にした瞬間、カナードは「……正気か?」と言いたげな、呆れと疑惑の混ざった猛烈な視線で俺をじっと射抜いてきた。
当然の反応だ。ジョージ・グレンという存在に対する評価は、この世界において極端なまでに賛否が分かれている。
プラントに住むコーディネイターたちからすれば、彼は自分たちに新たなる可能性をもたらした『偉大なる始祖』であり、神にも等しい聖人として崇め奉られている。
だがその一方で、地球連合を中心とするナチュラルの陣営からすれば、血で血を洗う破滅的な戦乱を引き起こし、世界に無用な混乱と格差を持ち込んだ『諸悪の根源』でしかない。
実を言えば、前世でただの「アニメの視聴者」として『機動戦士ガンダムSEED』という物語を画面越しに観ていた頃の俺も、ジョージ・グレンという男にはかなり冷ややかな視線を送っていた。
自分の類稀なる才能と善意を盲信し、配慮も考えもなしに技術を世界へばら撒いて混乱を招いた軽率な男。
彼自身は「自分は遺伝子を弄られて才能を付与された上で銀メダル止まりだったが、遺伝子調整をせずに金メダルを取れた人間が現れたことで人類の果てしない可能性を感じた」なんて考察があったりするが、現実には「誰もが遺伝子調整で比較的簡単に銀メダルを取れてしまう技術」が世に放たれたのだ。
それによって、血の滲むような努力を踏みにじられた銅メダリストの絶望や、メダルにすら届かず淘汰されていった市井の人間たちの痛みを、あの天才はなにひとつ理解していなかったのではないか?と当時の俺は、そんな風に彼を非難めいた目で見つめていたもんだ。ネットでも『諸悪の根源』として人として悪い奴ではないが、間違いなく人の心を理解できなかった。なんて評価はずっと続いていたのを覚えている。
だが、このコズミック・イラという狂った世界で現実の生を生きていく中で、俺の考えは少しずつ変化していった。
特に、今回のオークションで目の当たりにした、性奴隷や臓器売買のために都合よく遺伝子を調整され、玩具にされていたコーディネイターの被害者たちを見ていると、どうしても胸の中に恐ろしい仮説が浮かび上がってしまうのだ。
「……なぁカナード。もしもあの時、ジョージ・グレンの告白と技術の公表がなかったら、世界はどうなっていたと思う?」
「……どうなってた、だと? 遺伝子改変なんて胸糞悪い技術が存在しない、普通の世界のままだったんじゃないのか」
「そう思いたいところなんだがな……俺は逆だと思うんだ。もし技術がオープンソースとして世界に提示されなかったら——あの手の暗黒金持ちどもが、技術を完全に独占していたんじゃないか?」
問いかけに、カナードは訝しげに眉をひそめる。俺が危惧しているのは、まさにそこだった。ジョージ・グレンが全人類に向けて設計図を公開しなかった世界線。そんなわけがないと思いたくても、この世界には現に『ロゴス』という超法規的な巨大財閥グループが存在し、裏でエクステンデッドや『ゆりかご』といった非人道的な技術を独自に確立・運用していたという確固たる実績があるのだ。
そもそも、ジョージ・グレン自身を生み出した極秘の研究グループだって謎が多い。彼に莫大な資金を援助し、だが、出資していたスポンサーの金持ちどもが裏に存在していたのは確実だろう。
「もしもだ。あの技術が世間に開示されず、富と権力を握る一握りの特権階級だけの秘匿されていたら、どうなっていた? 自分たちとその子供だけを完璧な存在へと強化し、持たざる者を永久に支配する……それどころか、下層の人間を『性奴隷』や『臓器のパーツ』として自分たちに都合よくデザインして使い潰すかのような地獄が、誰にも気づかれないまま完成していたんじゃないのか?」
カナードはようやく俺の提示した考察の真意に気づいたのか、まるで口の中に苦虫を一気に噛み潰したかのような猛烈に嫌そうな顔を浮かべた。
「……っ、いくらなんでも、そんな事」
喉まで出かかった反論を口にしかけたカナードだったが、そのまま言葉を詰まらせ、苦々しい表情で沈黙した。
目の前のデスクの上に置かれたファイルには、あの悪趣味極まりないオークション会場の惨状と、捕縛された暗黒金持ちどものデータが表示されている。実際にあの地獄を肌で感じてきた彼だからこそ、俺の言葉を単なる妄想だと笑い飛ばすことができなかったのだ。
「……ディストピア小説の見過ぎじゃないか、と笑いたい所なんだがな」
俺は組んだ手の上に顎を乗せたまま、静かに言葉を続けた。前世の記憶を紐解けば、かつて『銀河鉄道999』という不朽の名作があった。裕福な人々は高価な機械の身体を手に入れて『機械化人』となり、老いも病も克服して永遠の生と権力を謳歌する。一方で、機械の体を買えない貧しい人々は弱者として虐げられ、あろうことか機械化人たちの退屈しのぎのための『狩猟対象』として平然と人間狩りの的にされていた——そんな凄惨な世界観だ。
創作の中だけの話だと笑うことは、このコズミック・イラにおいては到底できない。そもそもだ、それをSFだからと楽しめるのは前世だからであり、果たしてそれを実際に可能な世界になれば同じ事は起きないと誰が断言できるんだろうか?
「人間の欲望なんてものは、どこまでも底が抜けているんだよ。もしジョージ・グレンが爆弾を投下して技術を一般に解放していなければ……優れた遺伝子改造を施された一握りの支配層だけが栄光と名誉、そして圧倒的な才能を独占していた。そして自分たちに都合の良い『超人』の血統を血族内だけで維持し、持たざる一般市民を文字通り『家畜』や『パーツ』として永遠に飼い慣らす社会が構築されていたかもしれない、ってな」
権力者が己の欲望のままに遺伝子を捏ね繰り回し、美貌も、従順さも、肉体的な機能すらも商品として仕立て上げる。今回のオークションで披露されたあの惨状は、まさにその「秘匿されたルートのディストピア」の雛形そのものだったのではないか。
「……もうここまで来ると完全にタブロイド紙にあるような陰謀論だがさ」
俺は自嘲するように軽く息を吐き、デスクの上の冷めかけたコーヒーカップを指先でなぞった。
「もしもだ。ジョージ・グレンに莫大な資金を援助し、あの遺伝子調整技術の基礎を裏で支えていたスポンサーが、今の『ロゴス』の前身——あるいはその黒幕だったとしたらどうだ?……まさに、今俺たちが想像したようなディストピア社会が、文字通り完璧な形で実現していたはずだ。自分たち特権階級だけが完璧なコーディネイターへと進化し、生身の凡人たちを文字通りの家畜として永遠に支配する世界がな」
カナードは無言のまま、険しい顔で俺の仮説を聞いている。我ながら無理のある設定だ、こんなのコーディネイターのエリカさんやハインラインに聞かれりゃ、忙し過ぎてストレスで陰謀論者に走ってないか?と黄色い救急車を呼ばれるかもしれん。
「富と権力を握る奴らがすべてを独占し、神気取りで世界を裏から牛耳る——そんな理想のシナリオだったはずだ。それなのに、あろうことかそのファーストコーディネイターであるジョージ・グレン自身のアドリブ、つまりあの『全世界への技術公表』という名の爆弾によって、奴らの描いたシナリオは完璧に崩壊させられた」
だからこそ、彼の晩年の暗殺や、それに続くコーディネイターに対する世界的な底知れぬ差別と憎悪の根底には、もしかしたら——そんな「すべてを台無しにされた特権階級の特大のルサンチマンと私怨」がこびりついているのではないか、とな。
一応、第二の人生を歩んでいるジョージ・グレン本人に聞こうかな?とも思ったが辞めておこう。彼は既に殺される事で責任を取ったんだ。死人に鞭を打って今孔明する趣味はないし、聞かされた方も困るだろう、あくまで陰謀論。そう、これは陰謀論でおわってりゃいいんだ。
……いや、流石にここまで来ると頭にアルミホイルを巻いて電波対策しなきゃいけないレベルのぶっ飛んだ妄想だな。だがアコードみたいなオカルト案件がマジで技術で再現出来たりするんだから、本当にヤバい世界だなって思うよC.Eは。
「ともかくだ。そういう皮肉な意味で言うなら、世界を大混乱に陥れたジョージ・グレンという男は——結果的に、連中の思い描いた最悪のディストピア計画を盛大にブチ壊した、とんでもねぇ救世主(あるいは疫病神)だったのかもな」
俺は肩をすくめ、自分で言ってしまって少し気恥ずかしくなったように息を抜いた。
(……まあ、そうは言っても俺にとって本当の意味での『救世主』であり、生き方の指針たる心の師匠は、後にも先にもフリットただ一人だけどなぁ!)
内心でそっと、往年の救世主の名を唱えてみる。思えば彼もまた、連邦の裏でヴェイガンと泥沼の密約を交わしていた首相をはじめとする腐敗高官たちを一網打尽に粛清し、世界に蔓延る暗黒の闇を白日の下に晒してみせた男だった。
権力者が裏でコソコソと推し進める悍ましい企みを真っ向からぶち壊し、力ずくで正常な道へと引きずり戻す……案外、『救世主』と呼ばれるための絶対条件とは、そういう権力者への断罪の行使だったりするのかもしれないな。
「……ま、長々と電波な陰謀論に付き合わせちまって悪かったな。急に突飛な話を聞かされて迷惑だったろ」
俺は照れ隠しに軽く苦笑いを浮かべながら、ソファに深々と腰掛け直したカナードへ視線を向けた。
「ともかくだ。現場で保護されたあの少女たちや子どもたちの今後の身振りについては、俺が責任を持って手配する。オーブの医療機関やコンパスの保護施設をフル活用して、二度とあんな地獄に引き戻されないよう万全の保護態勢を整えてやるさ」
「……絶対だぞ」
俺の言葉にカナードは頷いてくれたが、その時の彼の表情がどんなものであったのかは、皆の想像に任せるとしよう。
だが……後日、と言うか俺とカナードが話してる最中にも絶賛行われていた捕縛した暗黒金持ちどもの自宅や、供述から判明した限りの『保管倉庫』と称される施設へ部隊を派遣した際に判明した現実は、俺たちの甘い予測を遥かに上回る惨状だった。
度重なるプレイのたびに行われた無理な調整や調教の果てに、既に人格そのものが跡形もなく壊れてしまっていた女性たち。そして、玩具として飽きられたからという理由だけで海にポイ捨てされたらしき記録すらも多数発見されたのだ。
恐らく、人格の深層に至るまで「性奴隷としての服従」を完全に固定化されてしまった少女たちは、いくら『ゆりかご』の技術や最新の精神医療を用いたところで、二度と元の自分を取り戻すことはできないだろう。
戦闘用コーディネネイター、ソキウスのように、遺伝子レベルで絶対服従の呪縛を植え付けられた存在も同様だ。奪われた「人間としての輪郭」は、どれほど科学が発展しようと二度と元には戻らない。
(……それでも、だ)
報告書によれば、比較的調整が浅く、初期段階で保護された子たちに関しては、丁寧な精神ケアとリハビリを経れば、いつか社会復帰できる可能性があるという。
そういう子たちには、もう一度まともな光の下で生きていける道を用意してやる。そして……どうしても元に戻れず、心や身体が壊れてしまった女性にも、二度と恐怖や苦痛に怯えることなく、せめて穏やかに温かい場所で過ごせるだけの環境を、責任を持って最後まで用意し続けてやるさ。
それはコンパスの副総裁としてではなく、この世界で人の皮を被った獣どもが残した悲惨な傷跡に対する、俺なりの最低限の罪滅ぼしなのだから。
・ジョージ・グレンの功罪
この辺りに関してはユウナ本人も言っていますが完全に陰謀論一歩手前です。と言うのもあくまで過去の人物であるジョージ・グレンに関する資料は少なく、キャプテンGGとしての彼も新たな人生を歩んでいますのである意味当時の彼への謎はかなり多かったり。わかっているのは彼の暗殺がロゴスの手引きによって行われた事くらいでしょう。実際に彼が死ぬまでただの万能の天才であると黙り続けたルートはどうなったのかは神のみぞ知るというものでしょうか?
・性奴隷コーディネイター
そりゃ顔とか胸とか体質とか遺伝子操作出来るならそう言うこともあり得るようなと産まれた独自要素。ナチュラルと違い予約さえしておけば自分好みの性奴隷を作ることも可能でしょうし、オークションで予め用意した性奴隷の売買だって可能。エロ同人だと割とこう言うシチュはそこそこあるようで、じゃあそれを実際に描写するとどうなるのかといえば……案の定コーディネイターを嫁にしたユウナは一瞬、衝動的に全部ぶちまけて完成者全員破滅させてやろうか?となるくらい激怒していたのは内緒。なんならテロメアを弄ったり薬剤を使えば寿命はガリガリ削られるでしょうが「発注」して数年で好みの体になっていたりするかもしれません。クルーゼやレイもキレるわ。
とはいえ臓器に関してはリジェネレイトのパイロットであるアッシュの過去として、特殊な病を患っていた少女が同じ病に侵されていた政治家の臓器移植の被験体にされてたりしますし案外プラントでも似たような事はやっているのかもしれませんが。ナチュラルやコーディネイターだけではなくカスはカスだとわかる必要があるのは大切です。
なお個人的にはアズラエルとジブリールは「使ってない」と思います。彼らを美化するのではなく前者はコンプレックスの塊である彼がそんなものに手を出した時点で負けだと思ってそうな事。後者はそもそもコーディネイターを獣畜生としてみてるのでナニを突っ込むのは穢れると思ってそうですから。
・アスク
流石に今回の話はアスクに聴かせなかったユウナ。本当なら闇も光も全て知った上で人格を形成していく必要があるのである意味賛否両論になるかもしれませんがユウナの親バカといった所でしょうか?どちらにせよ後々アスクにも話すでしょうが相当今回のお話は言葉を選ぶでしょうね。ユウナは。
少し真面目な話だったので次回辺りははっちゃけたいな。
大西洋連邦の選挙結果は?展開によって今後のお話に影響が出ますが、あくまで大西洋連邦国民の一人として投票して頂けると幸いです。
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【フォスター政権+親オーブ派】
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【モンロー主義派】
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【反オーブ+反プラント派】