破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
アンケートを見ましたけど、多分レオかスコーピオン、キャンサー辺りが人気だろうなと思ってましたが、ヴァルゴとアリエスが特に人気な様でびっくり。アクエリアスも含めて戦闘以外のアスクの妹が望ませてるのはなかなか面白いなと思いました。
視界の隅々までが、焼けた鉄とコンクリートの臭いで満たされていた。破砕された高層ビル群が崩れ落ち、瓦礫の山となった市街地は、あちこちに上がる赤い炎に照らされて不気味に揺らめいている。
破裂した配管からは高圧の蒸気が吹き出し、粉塵と黒煙が空をどんよりと覆い隠していた。至る所で火の手が上がり、折れ曲がった鉄骨が地を這うように転がっている。
その惨禍の中心で、二機のザクが重々しい足音を響かせて暴れ回っていた。荒々しく機体を躍らせる一機のザクが構えたビームライフルから容赦のない閃光を乱射する。放たれた光弾が辛うじて残っていたビルの一角を抉り取り、数トンのコンクリート塊を地上へと落下させた。
さらに肩部のミサイルポッドから白煙を引く弾体を一斉に射出。目標となったのは、避難用シェルターの頑丈な鋼鉄製ハッチだ。連続する爆発が地響きを起こし、シェルターの防護壁を容赦なく削り取っていく。
逃げ場を失った市民の悲鳴すら掻き消すような轟音の中、ザクのモノアイが冷酷な光を放ち、さらなる破壊の銃口を次の標的へと向ける……その時であった。
「うぉぉぉ――っ!!」
轟音を切り裂くような闘志の咆哮とともに、黒煙渦巻く上空の天蓋を割り、一機のMSが急降下すふ。その両手が携えていたのは、見る者の度肝を抜くほどに規格外な、あまりにも巨大な鈍器のような塊であった。
モビルスーツの全高に匹敵せんとするその携行武器は、角柱状のソリッドな装甲に覆われ、前面には複数の砲塔や丸型の放出口が殺意を前面に向けている。最早それはただの銃火器の枠を完全に超越し、戦艦の主砲身をそのまま引きちぎったかのような異形の鉄塊とまで例えてもいいだろう。
重力と加速のすべてを乗せたその超重量の鈍器が、逃げ惑う市民を脅かしていたザクの頭上から、容赦なく振り下ろされる。
「――ッ!」
振り返ったザクのモノアイが恐怖に揺らいだ瞬間、回避する間など微塵も存在しなかった。底知れぬ質量と、機体の全推力が生み出した破砕エネルギーが、ザクの肩部シールドと頭部を正面から直撃する。金属がひしゃげる凄まじい悲鳴とともに、頑強な装甲が紙細工のように内側へとへこみ、次いで文字通り地面へと叩きつけられてすり潰された。
直後、耐え切れなくなった装甲内部のエネルギー回路が連鎖誘爆を起こし、周囲の瓦礫ごとすべてを吹き飛ばす真紅の爆炎が沸き上がる。
凄まじい爆風と衝撃波が周囲の粉塵を吹き払い、燃え盛る炎と黒煙の向こうから、その圧倒的な巨大武器を軽々と構えた一機のMSの姿がその全貌を現す。
それは、オーブの主力量産機であるM1アストレイであった。だが、その姿は通常の量産機とは似て非なるものだ。背部には空中行動用のオプション装備であるシュライクを換装し、機体各所のフレームや装甲に至るまで、深く沈み込むような鮮烈な紺碧色に染め上げられたまぎれもない特別仕様機である事を伺える。
そして、その機体が両手で保持している異形の鉄塊――それこそが、この極秘裏に進められている計画の一環として持ち込まれた試作武器。ガナリー・カーバーに他ならなかった。
「やらせるかぁっ! GSコンバット・アクション! 7-A2!!」
コックピットの中で滾るような咆哮が響き渡る。同僚機を一瞬で叩き潰された事実にすぐさま反応したもう一機のザクが激昂のままにビームライフルを向け、トリガーが引き絞られ、緑色の照射光が間髪入れず連続して解き放たれる。
至近距離からの容赦ないビームの連射。空気を焼き焦がす熱線が束となって押し寄せ、破砕されたビームの余波が周囲のコンクリートを爆発的に砕き散らす。
しかし、紺碧のアストレイは揺るがない。
背部のシュライクが甲高い音を上げて噴射スラスターの角度を微細に変え、驚異的な反応速度で巨体を滑らせる。機首を削るように迫る熱線の隙間を、まるで舞踏でも演じるかのように紙一重の踏み込みで次々と回避。ビームが交錯する死線の中で、アストレイの手元にあるガナリー・カーバーの砲口群が確実に相手を始末すべく標的を捉えた。
——カチリ、と重厚なロックオン機構が噛み合う。
「ストレイターレット!!」
ズドン! ズドン! と、腹に響く重厚な駆動音とともに、ガナリー・カーバーの前面砲身から二発の大型特殊弾頭が叩き出される。
ドッズ技術の理論を融合・応用して開発されたその特殊旋回弾丸は、射出された瞬間に弾体周囲のそのものを捻じ曲げるような凄まじい超高回転となり、まるで空気を削り取りるような激しい旋風の渦を巻き起こしつつ、破砕ドリルのような不可視の螺旋を描いて貫通軌道へと突き進む。
ザクのパイロットが回避の機動に移る隙すら与えない、一発目の弾丸がザクの胸部中央……パイロットの命を保護する高張力ピットハッチへと正確無比に食い込んだ。旋回するドリル状の運動エネルギーが装甲の分子構造を瞬時に破砕・磨耗させ、文字通り豆腐に針を刺すかのごとく装甲を穿ち抜く。
続いて放たれた二発目の弾頭は、やや上方の角度から頭部モノアイユニットを真っ向から粉砕し、センサー系とメインカメラを一瞬で破壊し、そのまま機体内部のフレーム構造をずたずたに引き裂いて背後へと突き抜けた。
だが、その着弾の波及を見届ける者はもうそこにはいなかった。
二発の弾丸が敵機に到達したその刹那、アストレイはもはや結果にすら興味がないと言わんばかりに、スラスターの噴射炎を爆発させて身を翻していた。ガナリー・カーバーを軽々と保持しながら、機体は完全にザクへ背を向け、すでに次の獲物を喰らおうと遠方で逃げ惑う市民を狙う別の敵機へと視線を移し、跳躍を開始している。
背後に残されたザクは、爆発すら許されない。ドリル状に穿たれた穴から生々しい高熱の火花と僅かな黒煙を漏らすだけで、動力を司るメインジェネレーターを回路ごとピンポイントで精密破壊されたその巨躯は、一滴の爆炎も上げる間もなく膝から崩れ落ち、
重機が倒れるような虚しい金属音を残して冷たい瓦礫の街路へと突っ伏して沈黙してするが、それだけではアストレイの咆哮は止まらない。
「ここは接近戦で……一気に決める!」
跳躍の軌道のまま、アストレイは空中で瞬時にガナリー・カーバーのグリップを握り直し、兵装のシステムモードを切り替える。重厚な側部装甲がシャキッと滑らかな作動音とともにスライドし、その先端から鈍い銀色に輝くナイフ状の高周波ブレード――銃剣であるバヨネットのようなそれは一気に飛び出した。
超高周波振動を帯びた刃先が、摩擦熱によって空気を灼き、微細な歪みを引き起こす。狙いを定められた三機目のザクウォーリアが脅威を察知し、シールドを掲げて必死の防御姿勢をとる。しかし、それすらも無意味であった。
急降下の速度エネルギーをそのまま乗せたアストレイの一閃。バヨネットの刃は、ザクのシールドどころか、胸部のコックピット装甲すら熱したナイフで溶けたバターを割るかのように抵抗感ゼロのまま容易く切断していく。
刃が滑り抜けた直後、ザクの上半身と下半身は滑らかにズレ落ち、切断面から凄まじいスパークを撒き散らしながら瓦礫の地面へと転がり落ちた。一撃必殺……まさに相手の生存を絶対に許さない文字通りの両断だった。
「今度はこれだッ!」
上半身を失ったザクの残骸を踏み台にするように、アストレイはスラスターを全開にして再び空へと躍り出る。滞空する一瞬の間、アストレイは間髪入れずにガナリー・カーバーの内部機構を再度シフト。実弾ストレージからエネルギーセルへとラインが切り替わり、高出力ビームモードへと切り替わる。
狙うは、四機目の敵機。跳躍をしながら一気に敵機の真上という完全な死角を狙わんと「ゼロ距離」へと陣取ったアストレイは、ガナリー・カーバーの主砲口を敵の脳天へと垂直に突きつけた。
――トリガーが引き絞られる。
空気を震わせる強烈なプラズマ放出音とともに、砲口から解き放たれたのは単純な熱線ではない。ドッズ効果によって凄まじい螺旋を描きながら収束された、超高密度の貫通ビームだ。渦を巻く光のドリルは、頭部モノアイから胸部ジェネレーター、股関節フレームに至るまで、機体の縦軸すべてを一直線に撃ち貫き、外側へ拡散する爆破エネルギーすら貫通力に変換されたその一撃により、敵機は爆発する暇すら与えられず、ただ内側から蒸発するように撃破された。
無駄な挙動は一切ない。
どの機体に対しても攻撃を外さず、確実に急所だけを打ち抜いて一撃で屠っていく。凄絶に敵を撃破していくその様は、戦場における恐怖を通り越して、どこか洗練された死の舞踊すら思わせる恐ろしさと美しさ纏っていた。
「これでぇ! 終わりだぁぁぁッ!!」
そして、戦場を縦横無尽に駆け抜けたアストレイが、崩壊した高層ビルの最頂部から大空へと大きく跳躍する。
その視線の先、はるか遠方の丘陵地帯に陣取るのは、この惨禍を引き起こした敵部隊の戦術司令部テントと重装甲車輌の群れだ。
空中で旋回しながら、ガナリー・カーバーのすべての砲門が開帳される。超高回転実弾ストレイターレットの装填完了シグナルと、ドッズライフルのチャージシグナルが同時に点灯し、上下左右同時に光線の発射口と実体弾頭がひとつの束となって照準を固定した。
狙うは敵司令部。狙撃の難易度は高く、チャンスは一回限定だ。ガナリー・カーバーの燃費を考えればこの1発に賭けるしかない。だがやれる、この機体なら確実に。パイロットは全身にたぎる高揚感と共に叫びながらトリガーに手を伸ばす。
「アストレイGS(グローリースター)!フル・バーストォ!」
かつてとある世界で名付けられた栄光の星と同じ名を付けられたその機体によって全弾斉射の衝撃波が上空に咲き誇る。大気を抉る螺旋のビームと、ドリル状に旋回する実体弾頭の群れが夜空を切り裂く連続した光柱となって遠方の司令部へと着弾。直後、弾薬庫に被弾したのか丘陵地帯全体を飲み込むほどの巨大な爆炎が巻き起こり、敵の指揮系統は一瞬にして跡形もなく焦土へと変えられたのだった。
「お疲れ様です、シン大尉!」
シミュレーターのハッチがプシューッとエアを吐き出して開き、コックピットから降りてきたパイロット……シンに向かって、待ち構えていたかのように一人の青年が駆け寄ってきた。
白衣を羽織ったその青年、エーデル・ジ・リンは、よほど胸が高鳴っているのか頬をうっすらと朱に染め、どこかうっとりとした瞳でシンと、彼が降り立ったばかりの紺碧の機体を見上げている。その手には、冷えたスポーツドリンクのボトルが握られていた。
「素晴らしい……実に素晴らしいデータです、大尉! はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます、エーデル三尉」
差し出されたボトルを受け取りながらシンが会釈すると、エーデルは少しだけ身を乗り出して苦笑いを浮かべた。
「ああ、エーデルで構いませんよ。私の方こそ、本当はホーク大尉とお呼びするべきか迷っていたくらいですし」
「あー……まあ、俺も嫁の家に婿入りした身だからさ。アスカからホークに変わったの、まだ自分でもあんまり慣れてなくて……」
シンは少し照れくさそうに頭を掻きながら、スポーツドリンクのキャップをひねってゴクゴクと喉を鳴らす。
レモンの爽やかな風味が喉を駆け抜けていく。酸味がそこまで得意ではないシンは思わず顔を顰めそうになったが、相手の善意で渡された飲み物を残すわけにはいかない。「疲れには酸味が効くんだぜ」と、そういえばハイネが笑顔で言っていたのを内心で思い出しながら、ぐっと息を呑んでボトルを飲み干した。
ちなみにハイネはと言えば現在はパイロットとしてより広報部門での活躍が多く、新たなCDをリリースしたのも記憶に新しい。どうしてこうなったと時折頭を抱えているそうだがシンから見てもパイロットと歌手の二足の草鞋を履く彼の姿は何処となく輝いて見えるのだから仕方ないのだろう。本人も満更ではないのだから。
「ふう……ごちそうさまです」
シンが息をついたその横で、エーデルは専用のノートPCを開き、細い指先でカタカタと軽快なタイピング音を響かせながら身を乗り出してきた。
「それで、どうでしたか? このバル……いえ、アストレイGSは!」
その瞳は純粋な知的好奇心と自尊心に満ちあふれている。それもそのはず、この機体はあのユウナが自ら東アジア共和国からスカウトしてきた目の前の優秀な青年、エーデル自らが設計・構築を担当した最新の試作機なのだ。
ベースとなったM1アストレイは、最新鋭の構造力学と素材技術によって関節部と骨格(フレーム)を徹底的に再設計され、脅威的な柔軟性と操作性を両立させている。
そして何より、その右腕に携えられた最大の特徴——試作型複合兵装プラットフォーム「ガナリー・カーバー」は一機で多種多様な戦況に対応せんとする野心的な構造だ。
かつて地球連合軍で開発されたGAT-Xシリーズの試作機、ブリッツ。その特殊兵装として搭載されていた「トリケロス」を発展・再解釈させたとも言えるそれは、シンも過去に搭乗したゲイツRや、親友であるレイの搭乗機レジェンドのベースとなったプロヴィデンスにも採用されていた「複合兵装防盾システム」の極大化・進化系とも呼べる異彩を放つ武装だった。
たった一つの武器に、単機で戦況を一変させる高火力・貫通力の「ドッズライフル」、小型のドッズレールガンとも言える超高回転実弾兵装「ストレイターレット」。更には銃剣のように先端へ設置されたバヨネット状の大型高周波振動実体剣「ジャック・カーバー」に至るまで、あまりにも野心的な機能群が凝縮されている。まさかこの武器自体も乱暴に振り回す事で鈍器の様に扱えると事を想定していると知ったシンは一瞬言葉を失ったのは秘密だ。
このガナリー・カーバーを十全に駆使し、目まぐるしくモードを切り替えながら敵を圧倒する戦術プログラム「GSコンバット・アクション」によって展開される戦闘スタイルは、まさに次世代の単機完結型兵器が切り拓く新たなる可能性を強く感じさせるものであった。
これを大学を卒業したばかりの青年があっという間に作り上げたのだから、その才覚は本物と言うほかない。一時は「ユウナの特別扱いではないか」、あるいは「経験の浅いたった一人の若者に、いくら試作改修機とはいえMSと新型兵装の設計を丸ごと任せるのは危険だ」と不安視する声も上がっていたのは事実だ。
だが、エーデルは提示してみせた完成度によって、それが単なる贔屓などではなく純然たる才能による抜擢であったことを証明してみせたと言えるだろう。
ちなみに、この成果を聞いたユウナが、どこぞの檻の中に収監されている「人材登用スキルUR」な元議長から「それでこそユウナ君だ」とドヤ顔で肩を叩かれ、微妙な顔をしたのはここだけの秘密である。
「忌憚のない意見をお願いします、シン大尉。今後の改修の参考にしたいので!」
ノートPCの画面から目を離し、エーデルが真っ直ぐな眼差しでシンを見つめてくる。そんな目を輝かせたシンは一瞬返答に迷い、申し訳なさそうに頭を掻きながらも、嘘をつけない性格ゆえに正直な言葉を口にした。
「えっと、正直に言わせてもらうと……これを一般兵に普及させるのは、現状だとかなり難しいんじゃないかなって思いますよ」
その言葉を聞いた途端、エーデルは一瞬だけ表情を硬直させた。先程までの高揚感は一瞬で消し飛び沈黙が辺りを包み込む。
「はぁ……」
次の瞬間、彼はまるで最初からその言葉を予想していたかのように、深いため息を漏らした。その表情には怒りも悲しみもなく、ただただ疲労感を含んだ諦めのような色が漂っている。
「やはり、シン大尉もですか……」
エーデルは力なく肩を落とすと、キーボードを叩く手すら止めてしまい、どこか遠い目をして呟いた。
「何となく分かりますよ。現状、ガナリー・カーバーを普及させるのは難しいというのは……エリカ主任やハインライン大尉、それにヤマト准将にも既にダメ出しをされましたから……」
「え、そうなんですか……?」
思わずシンが問い返す。
白衣の袖を力なく下ろし、まるで我が子を見るような愛おしさと悲哀の混じった眼差しで、手塩にかけて組み上げた「栄光の星」――アストレイGSを見上げるエーデル。その背中には、自身が思い描いた理想と、現場から突きつけられる厳しい現実の狭間で苦悩する若き技術者の姿が、痛々しいほどに重なっていた。
「シン大尉のような一握りのエースであれば、この機体は十二分にその性能を発揮できるでしょう。迷うことなく戦場で敵を目視し、その瞬間の戦況に合わせてガナリー・カーバーの機能を最適に切り替え、咄嗟に理想的な機動へと落とし込める……。今の一連の戦闘データを取らせてもらって、改めてそれを痛感しました」
そもそもの話だ。原作の主人公たるシンというパイロットのポテンシャルは常人の域を遥かに凌駕しているのだ。かつてデュランダルが名指しでミネルバの主力パイロットへと抜擢したほどの高い遺伝子適性と天性のセンス。
そして、セカンドステージシリーズの中でも換装機構という最も煩雑かつ高度な操縦技術を要するインパルスを任された、真の意味でのミネルバ隊のトップエースとなった男だ。
接近戦用のソード、高機動戦用のフォース、砲撃戦用のブラスト——まったく異なる特性を持つ三つのシルエットを戦況に応じて瞬時に使い分け、戦場を自在に駆けるその腕前は、まさにザフトの赤服という名誉に恥じない傑物であったのだ。
シンと互角レベルでインパルスを乗りこなせる存在など、地獄のような難易度を誇る換装シミュレーションを日課のようにクリアし尽くし、執念で機体を自分の手足としたアグネスくらいのものだろう。
それほどまでに「性質の異なる複数の武装を、戦場で瞬時に判断して使い分ける」という過酷な選択に慣れ親しんでいるシンだからこそ、このガナリー・カーバーという規格外の複合兵装を初見同然でここまで完璧に扱いこなせたのだ。
では、新兵や一般兵はといえば、到底同じ芸芸ができるはずもない。
「俺はインパルスやデスティニーでこの手の武装の切り替えには慣れてますけど、新兵や一般兵にはやっぱ迷うと思うんですよね。選択肢が多すぎるからこそ、咄嗟の場面で『何をすればいいのか』戦場で判断が遅れて迷ってしまう。例えば、ストレイターレットとドッズライフルはどっちも凄く良い装備ですけど、比較的扱いやすいのはストレイターレットで、ドッズライフルは完全な貫通特化。どっちをどのタイミングで使えばいいのか、実戦の混乱の中じゃ分からなくなりますよ」
シンは言葉を選びながら、パイロットとしての率直な実感をエーデルに語る。彼はこの世界ではフリーダムとぶつかり合う事は無かったが、本来ではフリーダムを撃破するためにシミュレートを繰り返し、対策な作戦を入念に行った上でフリーダムを撃破した努力家な側面もあるのだ。
決して彼はほかのコーディネイターと比べても赤服として最初からトップクラスの成績であったわけではない。遺伝子適正だけでインパルスのパイロットになったのではなく、努力に努力を重ねた上で勝ち取ったものでもあるのだ。だからこそ、彼の分析に耳が痛いと思っていてもエーデルはそれに傾けど続けるしか無かった。
「それに加えて……仕様書を見させてもらいましたけど、これ、さらにビームサーベルみたいな近接兵装とか、砲撃特化の超高火力ビームまで追加する予定なんですよね? 正直、そこまで機能をぶち込むと、核動力機でもない限り機体側のリソースが到底持ちませんよ。どんなに強力な武装でも、戦闘の真っ只中で即座にガス欠を起こすようじゃ本末転倒ですから」
技術革新によってパワーエクステンダーの効率やバッテリー性能はある程度向上させたとはいえ、やはりというべきか、複合兵装というものは「ありとあらゆる状況に対応できる」からこそ、その代償としてリソース管理が極めてシビアになる。
エーデル自身もその懸念を重々理解していたからこそ、試作機であるこのアストレイGSにおいては、高出力の鎌状ビームによって破砕エネルギー波すら放つことが可能な近接兵装「バーレイ・サイズ」や、対艦・対拠点攻撃を想定した超高出力ビーム砲「レイ・ストレイターレット」といった巨大なエネルギー消費を伴う機能をあえてオミットしていたのだ。
しかし、そうして機能を絞り込んだ現段階ですら、現場のトップエースであるシンから「選択肢が多く」「リソース管理が難しすぎる」という根本的な欠点を明確に突きつけられてしまった。
どれほどロマンと可能性を詰め込もうと、実戦でパイロットを迷わせ、機体の活動時間を削り取る設計である以上、兵器としての完成度には程遠い。だからこそユウナが提案したウェアシステムを「現状では玩具と変わらない」とバッサリと切り捨てた事もあるエリカ主任などは容赦なくその点を指摘している。浮き彫りになった理想だけではどうしようもない、現実を前に、エーデルの理想はいよいよ分厚い現実の壁へとぶち当たっていたのだ。
「一応……AP計画が進んで『アスクレピオス』に妹たちが完成すれば……例えばMS全般の基本制御やエネルギー最適化を担当する獅子座担当の『レオ』がサポートに入れば、リソース管理に関しては彼女たちが最適な助言をして解決できそうではあるのですが……」
エーデルは藁にもすがる思いでノートPCの画面に視線を落としながら呟くが、シンは苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「でも、今のところレオの開発は難航してるんですよね……。アスクに聞いた話だと、副総裁も民生利用を最初から見据えている医療担当の乙女座の『ヴァルゴ』や、軍の根幹に関わっている兵站担当の牡羊座の『アリエス』の調整を優先させてるみたいですし」
「ああ…あの人コンパスの副総裁ですけど政治家でもありますからね。モルガやリビルドの事も含めて技術を軍用から民生品へ応用発展させるのが大好きな方ですし……」
エーデルは何か遠い目になりながら、はぁ、と小さく溜息をついた。
ちなみに、ユウナ本人やAI開発主任であるアスランから言わせれば、アスクレピオスの学習と成長過程においては可能な限り本人の自主的な希望や適性を優先する方針をとっている。彼女は対話式AIの雛形となるのだから子育ての様にまず自身がやりたい事を優先させる事が一番だと理解しているからだ。
そのため、妹たちの開発順序に関してもアスクレピオス自身の選択による部分が大きいのだが、当然、今ここで話している二人には知る由もなかった。
「いっそのこと……副総裁に直接アドバイスを受けてみたらどうですか?」
シンの突然の提案に、エーデルは「ですが……」と露骨に躊躇する表情を見せた。コンパスの副総裁であり、カガリ・ユラ・アスハを筆頭とした五大氏族からも深い信頼を受けているオーブの重鎮。官民問わず外交にすら強い影響力を持つユウナという人物は、エーデルのような現場の一エンジニアからすれば遥か雲の上の存在だ。
だからこそ気がひけるのだ。彼が直接スカウトしてくれたからこそ自身は『夢』の実現に邁進できる。それだけでも感謝しているというのにこれ以上迷惑をかけるべきなのだろうか?と。
「あの人、周囲からは『汚いドラえもん』とか言われるくらい色んな兵器開発に関わってますし、案外頼めばノリノリで色々教えてくれるんじゃないですか? 俺のガイアティターンズのチドリだって、副総裁が『グリフィン2から発展させて可動域を増やしつつ、大型の高周波ブレードを二本装備させれば』って提案して採用された経緯がありますし」
「えっ……! あ、あれってそうだったんですか!?」
エーデルは目を見張り、驚きの声を上げた。なお、当のユウナ本人は単に前世で好きだったアニメである『ゾイドジェネシス』に登場するムゲンライガーの雄姿を思い出して軽いノリで口出ししただけであり、内心では「いや完全にパクリだな……」と自虐しているのだが、当然ながらゾイドという作品が存在しないこのC.E.の世界において、その近接格闘コンセプトは高い評価を獲得していた。
その結果、プラントでは名機バクゥの正統後継機としてガイアティターンズをベースとした次期主力陸戦MSの量産化計画が着々と進行中なのだが、新人であるエーデルはもちろん、提案者であるユウナの裏の葛藤も含め、シンたちが知る由もないのは言うまでもなかった。
「わかりました……! 恥を忍んで、副総裁に直接アドバイスを仰ぎに行ってみます」
エーデルは覚悟を決めたように力強く頷く。その決意に満ちた表情を見て、シンは爽やかな笑みを浮かべてみせる。
「頑張ってください。俺、個人的にはこの機体のこと、結構好きですから」
その言葉を聞いた瞬間、エーデルはぽかんと一瞬フリーズした。
だが、すぐにその顔にパッと花が咲いたような、純粋で誇らしげな笑みが広がる。先ほどの様な疲れた表情ではなく、それは自身が作り上げた夢の結晶が他の誰かに理解された事への高揚感で彩られており、その目はやる気と気合いで満ち溢れている。
「……ありがとうございます! なら、次の試作機が上がってきた時は、真っ先にシン大尉がテストパイロットになってくださいね。約束です!」
「ああ、もちろん! 喜んで引き受けますよ」
差し出されたエーデルの手を、シンは迷いなく力強く握り返した。
互いの技術と実力を認め合い、固く交わされた情熱的な握手は一点の曇りもなく信頼関係によって結ばれている。
「黙れよ!やり方は間違いだったかも知れないけど、議長は世界のために戦ってたんだ!議長はお前という存在を危険視し、俺達にも警告してくれた!」
「だから何!?議長の代わりにボクを倒すの!?」
『お前を討つのは誰かの意志じゃない!俺がお前という奴を許せないから戦うんだ!お前が戦争を望むのなら、俺が相手になってやる!!』
過酷な運命の悪戯によって憎しみ合い、殺し合うことしか許されず、とある世界では永遠にわかりあうことすら叶わなかったかもしれない二人の青年。
彼らは今、この平和を切り拓くための戦場と技術の狭間で、確かに強く結ばれ共に未来を見据えていたのであった。
「……ちなみに、キラさんからはなんて言われたんですか?」
「ああ、ヤマト准将ですか? あの人は『寧ろガナリー・カーバーは色々と集約し過ぎていて、僕は慣れないかもしれないな』って苦笑いしてましたよ」
「えっ……」
「どうも『一つの武器で切り替えるより、最初から別々の武器を同時に扱った方がやりやすい』らしくて。まああの人、常に両手で同時に武器を使いながら、ドラグーンとか腰のレールガンを全部並列処理でぶん回して戦ってますからね……」
「……あはは、あの人らしいや」
・アストレイGS
オーブにスカウトされて技術少尉に抜擢されたエーデルが作り上げたガナリー・カーバーの実験機体。ムラサメ改の配備が進む中旧式のアストレイをどうにか延命できないか?という側面もあったり。勿論新人がいきなりこんなプロジェクトを任されることに大丈夫か?と思われたそうですが、ダメ出しされつつも一つの形として実現したのはエーデルの頑張りのおかげです。なおハインライン大尉は結構手厳しくダメ出し(これを量産機や他国への輸出機として運用するのなら)してますが、この人本来興味ない人間に関してはガン無視するらしいのである意味ツンデレです。
なおシンがグローリー・スターと名のつく機体に乗るのはある意味因縁すら感じられますね。彼はインパルスを乗りこなしてますし、天才ではなく実は本人の対フリーダム戦での研究などもふくめて努力家タイプだったり。バルゴラ開発のテストパイロットにおいては彼が最も適任であると言えるでしょう。
・ガナリー・カーバーの問題点
作中でも挙げられてますがなんでも出来るマルチツールというものは逆に言えばなんでも出来るからこそ、一瞬の判断が命取りになる戦場では大問題。GSコンバットアクションの研究が進み、対話式AIとしてオーブ軍のMSにデフォルトで搭載されるであろう『レオ』さえあればその手の問題はある程度解決しますが、『レオ』の開発が難航し。まだ試行錯誤で運用してる状態である現状ではコンパスの様なエースをかき集めた部隊では運用可能ですが、本来想定された運用は難しいという現実に頭を悩ませています。果たしてエーデルの相談にユウナがどう前世の知識も踏まえたアドバイスを送るのか?は長くなり過ぎたので次回。トリケロス系列の武装を扱うのは本当に大変です。
黄道十二星座の妹達のなかで誰が長女になってほしいか。一足先に見てみたい対話式AIは?
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牡羊座のアリエス
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牡牛座のタウロス
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双子座のジェミニ
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蟹座のキャンサー
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獅子座のレオ
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乙女座のヴァルゴ
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天秤座のリーブラ
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蠍座のスコーピオン
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射手座のサジタリウス
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山羊座のカプリコーン
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水瓶座のアクエリアス
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魚座のピスケス