破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第十九話「たかがメインカメラをやられただけだ!」×9

 

 

 

「……死ぬ。これ、確実に過労で死ぬわ」

 

 

 

 

 

 

 オーブ行政院、代表代行執務室。俺は山のように積み上がった電子書類の山を前に、完全に魂が口から抜けかけていた。

 

 

 

 

 

 外を見れば、空を切り裂くような轟音。エリカさんが「ユウナ様のアイディアを試したわ!」と、試作型のアンビリカルケーブルを搭載したエタニティアストレイが海に向けてゲロビ(極太ビーム)をぶっ放している光景が日常茶飯事になりつつある。

 

 

 

 

 

(誰だ、代表代行になればいい暮らしができるなんて言ったやつ。……俺か。俺だよ!)

 

 

 

 

 

 現在のオーブの状況は、まさに「火の車」どころか「火の付いたジェット機」だ。

 

 

 

 ブレイク・ザ・ワールド直後、俺は「緊急時における国家の意思統一」という名目で、親連合派かつロゴスの犬だったウナト派の政治家たちを、文字通り一掃した。

 

 

 

 証拠なんていくらでもある。連合との密約、私的な利権、そして「未来の知識」という名のハメ技で、ほとんどを左遷、あるいは反逆罪に近い容疑で幽閉した。

 

 

 

 その結果どうなったかといえば……まともに政治ができる人間がいなくなったのである。

 

 

 

 

 

「ユウナ様、次の決裁です。復興予算の配分見直しと、モルゲンレーテへの特別追加予算、それから幽閉中の議員たちの親族からの苦情処理……」

 

 

 

 

 

「わかった、置いてけ! 苦情は『国家存亡の危機に私情を挟むなら君らも同室にするぞ』と返しておけ!」

 

 

 

 

 

 本来なら親父(ウナト)がやるべきだった汚い仕事も、実務の調整も、すべてが俺の机に回ってくる。カガリ? 彼女は今、現場で被災者の手を取り、国民の精神的支柱になるという「彼女にしかできない仕事」に専念してもらっている。……つまり、裏方のドロドロした実務はすべて俺が抱えている。

 

 

 

「くそ……。フォックストロット・ノベンバー(核ミサイル発射)の足音が聞こえてくるってのに、なんで俺はこんな……あっ、待て、この予算書! 誰だ、『オーブ全域を網羅する超大型防磁シールドの構築案』なんて出したのは!」

 

 

 

 

 

「エリカ・シモンズ様からです。『ユウナ様のアンビリカル構想を突き詰めると、国ごと守る方が効率的だ』と仰って、今朝から地下工事を始めています」

 

 

 

 

「早すぎるんだよあの人ぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 俺はペンを投げ捨て、椅子の背もたれに深く沈み込んだ。天井の照明が、妙に白々しく俺を照らしている。

 

 

 

 

 ……もういい。別作品の技術開発パートはしばらくお休みだ。これ以上、俺が「思いつき」を口にしたら、オーブの全予算どころか、国民の明日のおかずまで兵器開発費に消えかねない。

 

 

 

 

 俺は手元のタブレットで、エリカさんから送られてきた『オーブ全土完全防衛構想』の概算見積もりを表示した。そこに並んだ「0」の数を見て、思わず乾いた笑いが漏れる。

 

 

 

 

「……ハハッ。天文学的っていうのは、こういう時に使う言葉なんだな」

 

 

 

 

 

 

 ウナト派を切り捨てたことで自由になった国家予算。さらにセイラン家の私財を全額ぶち込んだとしても、まだ足りない。

 

 

 

 

 

「モルゲンレーテの連中、俺のことを叩けば金が出てくる魔法の壺か何かだと思ってないか? それとも、俺がどこかの金鉱山でも隠し持ってると思ってるのか……」

 

 

 

 

 確かに俺は「未来の知識」という名のチートを持っているが、それは物理的な金塊を生み出す打ち出の小槌じゃない。

 

 

 

「おい、エリカさんに伝言だ! 全土防衛なんて夢物語は一旦白紙! シールドの設置場所は、第一防衛線と、その動力を供給する発電施設周辺に限定だ! それ以上は一銭も出さない、いや、出せない!!」

 

 

 

 俺は血眼になって予算書を書き換えた。

 

 

 

 国を丸ごと守りたいのは山々だが、破産して国が崩壊したら元も子もない。ギリギリの、本当に首の皮一枚繋がるラインでの予算配分。一円単位の計算が、俺の脳をガリガリと削っていく。

 

 

 

 

「……ふぅ。これでどうにか、核ミサイルの余波くらいには耐えられるか?」

 

 

 

 

 宇宙(そら)で放たれるであろう核の劫火。その直接打撃を受けずとも、地球に降り注ぐ電磁パルスや副次的な被害から、オーブの「心臓部」だけは守り抜く。そのための最低限のシールド。

 

 

 

「政治家っていうのは、本来なら未来を語る仕事のはずなんだけどな。なんで俺は、計算機を叩きながら『いかに安く、効率的に世界末日(ハルマゲドン)を凌ぐか』なんて考えてるんだ……」

 

 

 

 窓の外では、夕闇が迫っていた。

 

 

 

 

 

 遠くにはウナト派の連中が幽閉されている別荘という名の、監獄の灯りが見える。あいつらの方が、よっぽど安眠できているに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて。次は食料備蓄の調整か。軍拡だけじゃ、腹は膨れないからな」

 

 

 

 

 

 

 

 俺は重い腰を上げ、冷めきったコーヒーを一口啜った。ユウナ・ロマ・セイランの「金と命の算定」は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……疲れた。もうやだ。帰りたい……っていうか、ここ俺の家のはずなのに帰る場所がない……」

 

 

 

 

 

 深夜、誰もいなくなった執務室の冷たい絨毯に、俺は文字通り突っ伏していた。エリートのプライド? 代行の威厳? 知るかそんなもん。脳みそがオーバーヒートして、耳から煙が出そうだ。

 

 

 

 

 

 

 そこへ、カツ、カツと響く規則正しい足音。

 

 

 

 

 

「代表代行。あまりそのような格好をされていると、風邪を引きますよ」

 

 

 

 

 

「……トダカかぁ。トダカぁ……。仕事代わってよ。君が今日から代表代行ユウナ・ロマ・セイラン。俺が今日から一佐。いいよね? 決定ね?」

 

 

 

 

 

 

 床に這いつくばったまま、俺はトダカ一佐のズボンの裾に縋り付いた。だが、トダカは困ったような、それでいて慈父のような微笑みを浮かべつつ、すっぱりと言い放った。

 

 

 

 

「無理ですね。私には書類仕事よりも、現場の兵たちを預かる方が性に合っています」

 

 

 

 

「つれないなぁ、もう……」

 

 

 

 

 俺は這い上がって椅子に座り直し、乱れた髪をかき上げた。愚痴を言っても始まらない。仕事の話をしよう。

 

 

 

 

 

「……で、どうだった。モルゲンレーテで秘密裏に行わせた、ミネルバのMS隊との合同模擬戦の結果は」

 

 

 

 トダカの表情が、一瞬で武人のそれに引き締まる。

 

 

 

 

「はい。ミネルバのパイロットたちは極めて優秀です。中でも……シン・アスカ。彼は怪物ですよ」

 

 

 

「怪物?」

 

 

 

「ええ。模擬戦において、彼は一人でこちらのムラサメ3小隊を完封。……いえ、文字通り『撲滅』しました。こちらのパイロットたちが反応する間もなく、すべてのカメラアイを焼き切られましたよ」

 

 

 

 

 俺は言葉を失い、持っていたペンをポロッと落とした。

 

 

 

 

 

(えっ……弱体化してなくね? というか、むしろ原作よりヤバくなってないか?)

 

 

 

 

 

 俺は慌てて、模擬戦のデータログを引っ張り出した。ムラサメ3小隊といえば、合計9機。

 

 

 

 しかもトダカが選抜したパイロットたちは、前大戦を生き抜いたオーブ軍の中でも「上澄み」の精鋭たちだ。それを作中の序盤も序盤であるはずの今、たった一機で……?

 

 

 

 

 

「……トダカ。選んだパイロットって、まさか新兵じゃないよな?」

 

 

 

 

 

 

「まさか。我が国が誇るエース級を揃えました。それが……インパルス一機に、赤子の手をひねるようにあしらわれたのです」

 

 

 

 

 

「……トダカ。データは、まだ流してないよな? エリカさんの回転式ビームも、ケイオス爆雷も、リヴァイアサンの理論も、まだ秘匿中のはずだ」

 

 

 

 

 

「ええ、一切。彼は現行のインパルスのスペックのみで戦いました」

 

 

 

 

 

 ……俺は心の中で絶叫した。

 

 

 

 

 

(あぁぁぁもうやだぁぁぁぁぁ!!! なんでだよ! おかしいだろ! 才能のインフレか!?ジャンプ漫画かよ畜生ぉぉぉぉ!!!!!????)

 

 

 

 

 

 

 心の中で涙を流して絶叫しながら、俺は投げやりに手元のタブレットで模擬戦の録画ログを再生した。八つ当たり気味に一時停止ボタンを連打し、撃破されたムラサメの姿を確認した……その時だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? そういえばカメラアイって……なんだこれ」

 

 

 

 

 

 画面に映る九機のムラサメ。そのすべてが、「頭部」だけを正確に撃ち抜かれている。あるいは斬り飛ばされている。まさに「たかがメインカメラをやられただけだ!」というガンダム史に残る名セリフを体現したかのような状態。

 

 

 

 

「トダカ?これ、模擬戦用の演習ビームだよな? 直撃させてもパイロットに怪我はない設定だし、コックピットを狙っても問題ないはずだけど……なんでわざわざこんな手間を?」

 

 

 

「ああ、そこです。私も彼に聞いたのですが……。シン君は酷く機嫌が悪そうに顔を背けながら、『ブースターや頭部を狙う方が確実だと思っただけです』と。その執拗なまでの狙撃精度……かつてのキラ・ヤマト様を彷彿とさせる見事な不殺の技巧でしたよ」

 

 

 

 

 トダカは感心したように、目を細めてシンの成長を讃えている。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 俺は固まった。そして、先ほどまでの絶望が嘘のように、口角がニチャァ……と吊り上がっていく。

 

 

 

 

 

(……待てよ。不殺? キラ・ヤマト? 違う。違うぞトダカ。この男は鬼神の如き強さで敵を容赦なく薙ぎ払う怒れる瞳のシン・アスカだぞ?)

 

 

 

 

 

 脳内でパズルが組み上がっていく。

 

 

 

 

 原作の彼は、守れなかった家族への想いや自分だけが生き残った故の怒り。そしてオーブに関しては憎悪の裏で、僅かに残った期待と郷愁に激しく揺れていた。だが、今の彼はトダカと再び交流を重ね、オーブという「帰る場所」を失っていない。その結果――。

 

 

 

 

(……こいつ、『オーブの人間を殺すのが怖くて、コックピットを狙えない』んじゃないか!?)

 

 

 

 

 そう考えると合点がいく。執拗なまでの頭部・ブースター狙い。それは高度な技術であると同時に、相手の「命」を奪う事への忌避感故の必死の拒絶反応だ。

 

 

 

 

「……ヒヒッ、ヒヒヒヒ……!」

 

 

 

「……代表代行? 急にどうされたのです、そのゲスな笑いは」

 

 

 

 

 トダカが引いている。だが止まらない。不殺のキラ・ヤマトは「理念」でそれをやった。だが、このシン・アスカは「優しさと恐怖」でそれをやっている。

 

 

 

 

(いいぞ、これだ! 精神的に未熟で、人を撃てない最強のパイロット! これこそ、俺がコントロールすべき『主人公』の姿じゃないか!)

 

 

 

 

「トダカ、いいか。シンには『素晴らしい技巧だ、その不殺の剣を磨け』と褒めちぎっておけ。絶対に『敵を殺せ』なんて言うなよ。彼にはそのまま、オーブの『不殺の守護神』になってもらう……!」

 

 

 

「は、はあ……。承知いたしました」

 

 

 

「……ヒヒッ、ヒヒヒヒ……! ああ、愉快だ。実に愉快だよ、トダカァ!!ひゃぁぉぁっはぁぁぁー!!!」

 

 

 

「……はぁ…」

 

 

 トダカが奇声を上げた俺を見ながらも、「この代表代行、本当にもうダメかもしれん」という顔で退出するのであった。

 

 





 次回は19時より。やっぱこいつ悪役なのでは?

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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