破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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 日間ランキング一位となりました!ありがとうございます!
と言うわけで記念に、本来7時にユウナ視点のお話の予定のお話でしたが、その前に別のお話を番外編として!


第二十話 オーブ国際救援隊

 

 

 

 空が割れ、火の雨が降り注いだあの日から、世界は決定的に変容した。

 

 

 ユニウスセブンの残骸が地上に激突した大規模災害「ブレイク・ザ・ワールド」。

 

 

 

 その激突地点の一つとなった北京は、前世の歴史――いわゆる「史実」では物理的に消滅したはずの場所だった。しかし、この世界ではわずかなオーブ軍の奮戦の結果も幸いしたのか、地表が消失するという最悪の事態だけは免れていた。

 

 

 だが、残ったことが救いだったのかは分からない。

 

 

 

 都市機能は完全に沈黙し、未曾有の津波と震動が街を蹂躙した。引き波によって多くの人命と財産が海へとさらわれ、泥にまみれた街路には、変わり果てた姿の市民と破壊された文明の残骸が積み重なっている。

 

 

 

 まさに地獄だった。

 

 

 

 だが、その地獄をさらに深化させるのは、自然災害ではなく「人間」だった。

 

 

 

 混乱に乗じ、略奪を繰り返す暴徒。そして最悪なのは、壊滅した軍事基地やユーラシア連邦や東アジア共和国の指揮系統から離脱し、野盗へと成り下がった軍人崩れや、腐った傭兵たちだ。

 

 

 彼らは持ち出した地球連合軍の主力機「105ダガー」を暴力の象徴として振るい、生き残った人々からなけなしの物資を奪い、時には女たちを「徴発」と称して連れ去っていく。

 

 

 

 そんな無法の街に、場違いなほど洗練された軍靴の音が響き渡った。

 

 

 

「こちらオーブ軍派遣部隊、先行班……。司令部、聞こえるか。予定通り北京に入ったが……いや、ひどいもんだな。まさにゴミ溜めだ」

 

 

 

 通信機を握るオーブの一兵士は、不快感でわずかに声を震わせた。

 

 

 出発前、上官からはオーブの理念を背負った覚悟を問われたが、今の彼の本音は「今からでも帰りたい」という一点に尽きていた。もちろん、そんなことは口には出せない。だが、そう思わずにはいられないほど現地の惨状は凄まじかった。

 

 

 ハッチを閉じたコックピットの中まで、換気システムを通じて「匂い」が入り込んでくる。

 

 

 

 鼻を突く死臭と、ヘドロのような泥、そしてすべてを飲み込んだ海水の混じり合った、筆舌に尽くしがたい悪臭。

 

 

 

 北京の中心部には辛うじて機能している避難所があるが、そこから少しでも離れれば、そこはもう死の領域だ。泥濘の中に半分埋まった遺体が無造作に転がっており、顔を顰めずにはいられない光景が延々と続いていた。

 

 

 

「隊長、前方に熱源反応。ダガーが三機、トラック数台。……民間人を囲っています。物資の略奪……いえ、『徴発』の最中のようです。連中、こちらに気づいていません」

 

 

 

 部下の報告に、先行班の指揮官は奥歯を噛み締めた。

 

 

 本来なら国を守り、民を救うべきダガーの銃口が、今は震える市民に向けられている。泥水を啜るような生活を強いられている人々に、さらなる絶望を叩きつけているのは、同じ人間、それも軍の皮を被った野盗どもだ。

 

 

 

「交戦を許可する。ただし、北京市民の命を最優先だ。流れ弾一発たりとも市民に当てるなよ」

 

 

 

 先行班指揮官に冷徹な、だが熱を帯びた声が通信回線に響く。

 

 

 直後、オーブ軍の陣形が鮮やかに組み変わった。非武装の救護車両や、最新の医療設備を積み込んだ「ホスピタル・アストレイ」が、防護のため後方の瓦礫の陰へと下がる。

 

 

 代わって前に躍り出たのは、三機の「M1アストレイ」だった。

 

 

 

「やるぞ! 市民とトラックの間に割って入れ!」

 

 

 

 オーブの誇る機動性が、泥濘の北京で牙を剥く。野盗化した連中の105ダガーが、鈍重な動作でこちらの接近に気づき、慌ててライフルの銃口を向けようとした。だが、それよりも早く、M1アストレイの背部スラスターが火を噴く。

 

 

 

 一機がダガーの腕をビームサーベルで正確に切り落とし、もう一機が脚部を蹴り砕く。洗練された連携の前に、規律を失った軍人崩れどもは、まともな反撃すら許されなかった。わずか数十秒。略奪の象徴だった三機のダガーは、市民を傷つけることなく、泥水の中へと崩れ落ちた。

 

 

 

 沈黙が支配する現場。怯えて身を縮めていた市民たちが、信じられないものを見るかのように、目の前の「赤い巨人」を見上げた。

 

 

 

 直後、M1アストレイの外部スピーカーから、静かだが力強い放送が流れる。

 

 

 

『――北京市民の皆さん、聞こえますか。我々はオーブ国際救援隊(ODR)です。繰り返します、我々はオーブ軍です』

 

 

 

 アストレイのハッチが開き、中から防護服に身を包んだ兵士たちが、銃ではなく医療キットや保存食を手に、泥の中に降り立っていく。

 

 

 

『救助活動および治安維持のため、この地区をオーブ軍の管理下に置きます。もう、安心してください。我々が来た以上、暴徒の好きにはさせません』

 

 

 

 

 その言葉は、絶望の淵にいた人々の心に、死臭漂う北京で初めて「希望」という名の風を吹き込んだ。

 

 

 

 兵士の一人は、震える子供の肩を抱き寄せながら、心の中で自分に言い聞かせた。

 

 

 

(……ああ、やっぱり帰らなくてよかった。これを見るために、俺たちは来たんだ)

 

 

 

 泥だらけの街に、オーブの獅子の紋章が、かつてないほど気高く輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泥濘と絶望に支配されていた北京の一角に、奇跡のような「日常」の断片が戻り始めていた。

 

 

 オーブ軍の設営能力は、市民たちの想像を絶していた。道路の復旧作業に投入されたのは、最新鋭の「リビルド・アストレイ」だ。その繊細かつ剛力なマニピュレーターが、人力では数日かかる巨大な瓦礫の山を数分でどかし、泥に埋まった主要幹線道路を次々と掘り起こしていく。重機の代わりにMSが街を「作り直して」いく光景は、人々の目に希望の象徴として焼き付いた。

 

 

 

 拠点の中心部では、巨大な野外調理場が組まれ、湯気が立ち上っていた。配られているのは、温かいスープとオーブ産の米を使った粥だ。死臭しか漂わなかった街に、出汁と米の香りが広がる。凍えていた子供たちが、湯気の立つカップを小さな手で大事そうに握り、一口啜るごとに頬を赤らめていく。

 

 

 

「……風呂? 本当に、風呂に入れるのかい?」

 

 

 

 一人の避難民の女性が、信じられないという顔でオーブの兵士に問いかけた。拠点の端では、大型の給水車と簡易ボイラーを連結させた、移動式のコンテナ風呂が稼働を始めていた。泥と海水にまみれ、衛生状態の悪化から疫病が懸念されていた市民にとって、温かい湯に浸かることは何よりも贅沢な医療だった。

 

 

 

 支給された厚手の毛布を肩からかけ、並んで風呂を待つ人々の顔からは、刺々しさが消えつつあった。

 

 

 

 オーブ軍は、単に暴徒を追い払っただけではない。彼らは「明日も生きていていいのだ」という確信を、食事と、清潔な水と、温もりを通じて配っていた。

 

 

 

 

 その光景を遠巻きに見ていた、東アジア共和国の制服を纏った一人のパイロットがいた。

 

 

 

 

 彼はブレイク・ザ・ワールドの直後、絶望的な混乱の中で踏みとどまり、この被災地の防衛を任されていた兵士の一人だった。だが、彼がこの数日間見てきたのは、軍としての誇りなど微塵も残っていない泥沼の惨状だ。

 

 

 

 共に戦ってきた同僚は、飢えと絶望に耐えかねて指揮系統を離脱し、野盗へと落ちた。昨日の友が、今日は市民からパンを奪う略奪者へと変わる。そして、まだ十代にも満たないであろう少女たちが、家族を亡くしたのか、泥に汚れきった体で「春」を売りに来る。

 

 

 

 銃を握る自分の手も、彼女たちを追い払うのか、あるいはその絶望に加担するのか、その境界線すら曖昧になりかけていた。

 

 

 

 だが、今、目の前の光景はどうだ。

 

 

 

 オーブ国際救援隊が持ち込んだオレンジ色の灯火。温かいスープの匂い。そして、泥を洗い流す湯気の向こうで、初めて人間らしい表情を取り戻しつつある市民たち。

 

 

 

「……はは、勝てるはずがないな」

 

 

 

 男は自嘲気味に笑い、自分の隣に立つ、ひしゃげた装甲の自身のダガーを見上げた。

 

 

 

 自分たちはこのダガーの銃口で、ただ混乱を抑え込むことしかできなかった。力で抑え、恐怖で統治しようとした結果、自分たち自身も人らしい感情を失いつつあった。後少し彼らがくるのが遅ければ自分も野盗に落ちていたかもしれない。

 

 

 

 

 対して、あのアストレイはどうだ。

 

 

 

 同じMSでありながら、彼らはその巨大な手で子供たちに毛布を運び、瓦礫を退け、道を切り拓いている。力があるから助けるのではない。助けるためにその力を使っている。その「意志」の圧倒的な差に、男は打ちのめされていた。

 

 

 

「あいつらは……オーブは、これを見せるためにわざわざここまで来たっていうのかよ」

 

 

 

 男は、久しぶりに感じた「人間らしい敗北感」を噛み締めながら、懐からクシャクシャになった煙草を取り出した。火をつける手はまだ震えていたが、その瞳からは、数日前まで宿っていた昏い絶望の色が、わずかに消えかけていた。

 

 

 

 

 北京の夜は更けていく。だが、灯火の周りに集まる人々の笑い声は、泥濘に沈んだこの街が、まだ死んでいないことを静かに証明していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北京での成功を皮切りに、オーブの獅子の紋章を……かつてカガリがストライクルージュにペイントしたエンブレムを掲げた輸送機は、ユーラシア、そして東アジア共和国の各地へと飛び立っていった。

 

 

 

  オーブ国際救援隊(ODR)。

 

 

 

 

 人道的支援という美名の下で行われるこの大規模な派兵において、実質的な現場の司令塔を務めているのは、五氏族の一つであるキオウ家の令嬢、ミヤビ・オト・キオウであった。彼女の判断により、特にユーラシア連邦の各都市へは、他を優先して極めて迅速に支援の手が向けられている。皮肉な事に『本来の』活動内容ではなく、彼女は表向きの活動に忙殺されていたのだ。

 

 

 

 その理由は、極めて現実的で切迫したものだった。

 

 

 

 ――現在は10月……間もなく、この地には「冬」がやってくるのだ。

 

 

 

 ミヤビの脳裏には、かつての悲劇……「エイプリルフール・クライシス」の記録が刻まれている。

 

 

 

 ニュートロンジャマーの投下により地球上の核エネルギーが封殺されたあの時、ユーラシア北部は極寒の地獄へと変貌した。エネルギー供給を断たれた都市では暖房が止まり、飢え以上に「寒さ」によって数え切れないほどの人々が、ただ静かに凍え死んでいったのだ。

 

 

 

 今回のブレイク・ザ・ワールドによる被害は、当時の混乱に勝るとも劣らない。

 

 

 

 家を失い、インフラを破壊された避難民にとって、冬の到来は死刑宣告に等しかった。シェルターが、毛布が、そして熱源が今この瞬間に供給されなければ、被災地の数百万人は春を迎えることすら叶わない。

 

 

 

「……エイプリルフールの二の舞は演じさせない。死ぬのはもう、あの日だけで十分でしょう」

 

 

 

 ミヤビは極寒のユーラシア戦線を見据え、冷徹なまでに効率的な物資投下スケジュールを組み上げていく。

 

 

 

 オーブ国内では「なぜ他国の、それも連合の主要国をこれほどまで厚遇するのか」という反発の声も少なくなかった。しかし、実質的な独裁者ユウナ・ロマ・セイランの全面的なバックアップを受けた彼女は、それらを一蹴し続けている。

 

 

 

 ユウナの狙いは、かつて見捨てられた人々を救うことで、ユーラシア内部に「オーブこそが真の救世主である」という楔を打ち込むことにある。

 

 

 

 政治的な野心と、過去の悲劇への贖罪。それらが複雑に絡み合いながら、ODRの支援は凍てつく大地を温め始めていた。

 

 

 






 フォックストロット・ノベンバーの開始は11月と言われており、ブレイクザワールドが10月3日の出来事。本編で悪どいことをしてるユウナ達ですが裏では、ユーラシア連邦と東アジア共和国を中心に世界各地に支援。派遣しています。

 えっ?連合(大西洋連邦)が遺伝子弄った化け物が生息してる砂時計潰すからMS派遣しろって言ってなかったって?なんかさー最近全然要請来ないので嬉々としてリビルドやM1アストレイを派遣してるってさ!

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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