破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第二十一話 揺れる瞳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は椅子の上で小躍りした。深夜の執務室に、ユウナ・ロマ・セイランのゲスな笑い声が響き渡る。

 

 

 

 だが、笑いながらも俺の脳は冷徹にシンのログを解析し続けていた。

 

 

 

 

(いいか、よく考えろ。シン・アスカという男は、本来なら敵のコックピットを対艦刀でぶち抜き、掌のパルマフィオキーナで顔面を握り潰すような、荒々しい闘争本能の塊だ。デスティニーで見せたあの『容赦のなさ』こそが彼の本質のはず……)

 

 

 

 気になって、俺は模擬戦以外のトレーニングデータを――つまり、相手が人間ではない対CPU戦のログを検索し、再生した。

 

 

 

「……やっぱりな」

 

 

 

 

 画面の中のインパルスは、迷いなく仮想敵の胴体中央(コックピット)をビームライフルで貫き、至近距離からサーベルで引き裂いている。一切の無駄がない、効率的な殺しのリズム。

 

 

 

(CPU相手なら、完璧に殺せる。連合兵が相手なら、家族の仇として憎悪を燃料にコックピットを狙い撃つこともできるだろう。……なのに、なぜ模擬戦(オーブ軍)相手だと『メインカメラ』に逃げる?)

 

 

 

 答えは一つだ。

 

 

 

 今のシンにとって、オーブの軍服を着たパイロットたちは「敵」じゃない。トダカ一佐に拾われ、この国で再び「居場所」を与えられた彼にとって、ムラサメに乗っているのは「仲間」であり「自分と同じ、オーブで生きる人間」なのだ。

 

 

 

「……優しいんだよ。優しすぎて、同じ空気を吸っている『隣人』を撃つことに、本能的なブレーキがかかってやがる。キラ・ヤマトのような悟りじゃない。ただの、甘ったれで繊細なガキの拒絶反応だ」

 

 

 

 俺はモニターに映るシンの不器用な戦跡を見て、鼻先で笑った。

 

 

 

 憎悪に支配された復讐鬼でもなく、理念に殉じる聖者でもない。仲間にだけは牙を向けられない、最高に不器用で、最高に制御しやすい「正義の味方」。

 

 

 

 

 

 

「……向いてないんだろうな。これだけの才能があっても、根っこがこれじゃあ……そんなんだからあの、やたら良い声の種無し浮気ちんぽ野郎に利用されるんだよ」

 

 

 

俺はモニターに映る「メインカメラだけを破壊されたムラサメ」の残骸を見つめながら、ぽつりと漏らした。さっきまでのゲスな高揚感が、急速に冷めていくのを感じる。

 

 

(……思い出したよ。シン・アスカって男は、本来そういう奴だった)

 

 

 

 

 家族を理不尽に殺され、その怒りを連合やアスハに向け、復讐心だけで戦っているように見えて、その実、彼の行動原理はいつだって「悲しみの拒絶」だった。

 

 

 

 

 

 

『自分のような思いを誰にもさせたくない』『家族を奪う戦争を許さない』

 

 

 

 憎悪を燃料にしていても、その火種は「誰かを守りたい」という痛いくらいの優しさだ。原作で彼が壊れていったのは、その優しさを戦うための怒りに変換し続け、限界を超えてしまったから。アスランは過剰な暴力で連合兵を撲滅して民衆を救ったシーンをヒーローごっこじゃないと言ってたが、原作一話を振り返るとシンは無意識に自分を重ねてたんだろうか?    

 

 

 

「本当なら、戦いなんてするべき人間じゃなかったんだよな、お前は」

 

 

 

 この世界には、平気で人を殺せる奴らや、大義のために犠牲を厭わない奴らが腐るほどいる。俺だってロゴスの中将の配属先だった、無関係の兵士もいたであろう、数千人規模の基地が吹き飛んだと言うのに微塵も後悔や罪悪感は出てこないクソ野郎だ。

 

 

 

 そんな中で、これほどの「力」を持ちながら、オーブ機のカメラアイを撃ち抜くことでしか自分を保てないこの少年は、あまりに繊細すぎる。

 

 

 

「……でもな、シン。今のオーブには、その『優しすぎる最強』が必要なんだ」

 

 

 

 俺はデスクの端に置かれた、家族と笑うシンの古い写真データ(調査資料の一部だ)に視線を落とした。

 

 

 

 彼を「駒」として利用している自分への自己嫌悪がないわけじゃない。だが、彼が戦場に出ることで救われる命が確実に増える。彼が「不殺」でいられるように俺が裏で泥を被り、エリカさんと共に理不尽なまでの軍事力を整える。それが、俺にできる彼への、そしてこの国への唯一の贖罪なのかもしれない。

 

 

 

「……悪いな、シン。お前のその優しさを、俺は最大限に利用させてもらう。その代わり――お前には二度と、あんな悲しい思いはさせない。出来る限りだけど、な。」

 

 

 

 

 俺は自嘲気味に笑い、再びモニターのログを閉じた。しんみりしている暇はない。彼が「誰も殺さなくていい世界」を作るために。

 

 

「……俺は今日も、このクソ忙しい『悪役』を演じ続けなきゃならないんだ」

 

 

 

 深い溜息とともに、俺は椅子の背もたれに体を預けた。

 

 

 

 もし、万が一。歴史の濁流に抗いきれず、シンがいつかオーブの敵に回るような日が来たとしても、今のこの「不殺の癖」が染み付いていれば、彼はオーブの軍人を殺せなくなる。それはこの国を預かる者として、これ以上ない理想的な「保険」だ。

 

 

 

 だが、その一方で、ロゴスやファントムペイン……救いようのない連中を相手にする時は、シンのその圧倒的な暴力で完膚なきまでにブチ抜いてほしいと願っている自分がいる。

 

 

 

 

(結局、俺がやってることは『優しい少年の心』を歪めて、都合のいい防衛システムに作り変えてるだけじゃないか……)

 

 

 

 そんな下衆な思考が胸を焼く。自己嫌悪の苦い味が口の中に広がった。

 

 

 

 せめて――。せめて、俺の知っているあの悲劇だけは、彼らの周りから排除してやろう。

 

 

 

「シン、レイ、ルナマリア……。お前らには、死なせやしない。少なくとも、この世界の理不尽に使い潰されるような真似はさせない」

 

 

 

 俺は立ち上がり、通信機を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜のミネルバのブリッジには、張り詰めた、だがどこか穏やかな空気が流れていた。艦長タリア・グラディスは、モニター越しに語りかけるオーブの代表代行の顔を、探るような目で見つめていた。

 

 

 

「深夜に悪いね。グラディス艦長」

 

 

 

「代表代行、これは……一体どういうおつもりで?」

 

 

 

 

 ユウナ・ロマ・セイランは、少し疲れたような笑みを浮かべながら、手元のデータを転送した。

 

 

 

「模擬戦のお礼だよ、艦長。あんなにこっぴどく、うちのエースたちがやられたんだ。その『授業料』だと思って受け取ってくれ。大気圏内飛行用ユニット『シュライク』を3基。それから、前大戦でオーブが保管していたサブフライトシステム『グゥル』を3機。後は補修パーツを幾つか。それらを全てミネルバの艦載機として譲渡する」

 

 

 

 

 

 タリアは息を呑んだ。現在のミネルバにおいて、大気圏内で十全な空戦能力を持つのはインパルス(フォースシルエット)のみだ。レイやルナマリアのザクでは空中での機動性には限界がある。

 

 

 

「今後、ユニウスセブンの落下の影響で、地球上の反コーディネイター思想はさらに過熱するだろう。そんな最中に、海上戦闘を強いられて満足に動けるのがインパルスだけというのは、あまりに心許ない。……だろう?」

 

 

 

「……それは事実ですが。よろしいのですか? このような貴重な装備を、他国の、それもザフトの最新鋭艦に」

 

 

 

 

 

 

 タリアの問いに、ユウナは肩をすくめてみせた。

 

 

 

 

「本当ならムラサメの数機でも融通してやりたいところなんだがね。生憎、あれはオーブでも配備が始まったばかりで、他国に譲るとなると国内の反発が強すぎて難しくてね。古臭い装備で申し訳ないが、無いよりはマシだろう?」

 

 

 

 

「いいえ。十分すぎるほどです。感謝いたします、ユウナ様」

 

 

 

 タリアは深く頭を下げた。この男、かつての「軟弱なバカ息子」という噂とは似ても似つかない。世界の情勢を冷徹に見据え、必要な場所に、必要な「力」を配置しようとしている。

 

 

 

 

「いいんだ。君たちには、無事にプラントへ帰ってもらわなきゃならない。……特に、シン・アスカを頼む。彼はオーブにとって、かけがえのない『息子』なんだ」

 

 

 

 

 

 通信が切れた後、タリアはコンソールを見つめ、小さく独り言を漏らした。

 

 

 

「……ユウナ・ロマ・セイラン。あなたは一体、どこまで先を見ているの……?」

 

 

 

 その「餞別」が、のちに地獄のインド洋を駆け抜けるミネルバのクルーたちの命を繋ぐことになると、彼女はまだ確信できずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日のミネルバの格納庫。搬入されたばかりの『シュライク』ユニットと、オーブ軍カラーの無骨な『グゥル』を見上げながら、シン・アスカは、渡されたタブレットの譲渡目録を凝視したまま、言葉を失っていた。

 

 

 

 

 

「……セイランが、これを?」

 

 

 

「そうよ。模擬戦の授業料だって。あんたがあんまり派手にムラサメのカメラをブチ抜くから、代表代行も太っ腹になっちゃったんじゃない?」

 

 

 

 ルナマリアは軽口を叩くが、シンの心中は穏やかではなかった。かつて家族を見捨てたアスハの国。その代表代行であるユウナ・ロマ・セイラン。彼の真意は分からない。しかし、得体の知れない熱量でオーブを守ろうとし、さらに自分たちにまで「生き残れ」と資材を投げ与えてくる。

 

 

 

 

 

「シン、ちょっといいか」

 

 

 

 

 声をかけてきたのは、先日の模擬戦で完膚なきまでに叩きのめしたはずのムラサメのパイロットたちだった。シンは反射的に、いつもの「無愛想な壁」を作って身構える。

 

 

 

「……なんだよ。文句なら、トダカ一佐に言ってくれ」

 

 

 

「ははっ、相変わらず可愛げねぇな……これ、受け取れよ」

 

 

 

 

 差し出されたのは、基地内の売店で売られているオーブ特産のジュースだった。

 

 

 

 

「……なんだよ、これ」

 

 

 

「礼だよ。あの模擬戦、俺たちにはいい薬になった。お前みたいな『エース様』にコテンパンにされないと、実戦じゃ死んでたからな。……ありがとな、シン。またいつでも相手になってやるよ。今度はメインカメラも守りきってみせるからな」

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

 

 彼らは笑っていた。敗北の屈辱などではなく、同じ空を守る仲間として、純粋にシンの腕を認め、慈しむような目で。

 

 

 

 「エース様」という呼び方は、からかい半分だが、そこには確かな敬愛が混じっている。シンは、握らされた缶の冷たさに震えた。拒絶したいのに、向けられる善意が温かすぎて、どう接していいか分からない。

 

 

 

 

「……勝手にしろよ」

 

 

 

 

 

 受け取りつつ、ぶっきらぼうに吐き捨てて背を向ける。だが、その視界は不自然に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 信頼。期待。そして、自分を認めてくれる居場所。

 

 

 

 それらが積み重なれば積み重なるほど、シン・アスカという少年の「戦士としての芯」が、ボロボロと音を立てて崩れていく。

 

 

 

 

 その様子を、格納庫の影にてレイ・ザ・バレルは冷徹な、しかしどこか憂いを含んだ目で見つめていた。

 

 

 

 

「……危険な兆候だな」

 

 

 

 

 レイは独りごちる。シンは今、憎悪という名の鎧を剥ぎ取られようとしている。オーブという「優しさ」に触れることで、戦うための純粋な怒りが鈍っていく。

 

 

 

 

 戦士に迷いは死をもたらす。ユウナ・ロマ・セイランが意図してやっているのか、それとも天然の善意なのか。

 

 

 

 

 

 

「……シン。お前は、このままでいられるのか」

 

 

 

 

 ギルバート・デュランダルから与えられた「駒」としての役割。だが、目の前の親友は、オーブという名の深い慈愛の泥沼に、今まさに飲み込まれようとしていた。

 

 

 





・キラは悟りを開いている
劇場版SEEDなどを知らないが為にユウナの知識ではラクス暗殺未遂事件前はメンタルボロボロ。その後は悟りを開いてカガリやラクスのために戦う鋼のメンタルキラ准将と思ってたりしますが……実際には普通に暗殺未遂事件の後、フリーダムに乗り始めてからとメンタルは常にボロボロだったと言うことを知りません。


・古臭い装備
 グゥルは勿論、シュライクも決して古くはない装備ですし。それを多少の改造と共にザクに装備できる様になればきっと今後の海上戦でも役に立つでしょうね。勿論連合にバレれば追及されかねませんが現在大西洋連邦は何故か大人しいですし国内にバレてもユウナはきっとムラサメのパイロット達を連れて美談として発表するでしょう。


・ムラサメのパイロット達
 全員名無しのモブキャラ。腕はいいのですがトダカの見ている前での模擬戦にてシンに全員「たかがメインカメラをやられただけだ」とされた挙句、腕やバックパックを破壊されてしまう。自分より年下の少年を侮った上での敗北は彼らに反省を促しつつ、同時に戦友としてシンに生き残って欲しいと後方保護者面する様になった気の良い人達です。なお「史実」ではほぼ全員精鋭パイロットとして派遣され、ダーダネルスやクレタで命を散らしました。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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