破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
ユニウスセブン落下の衝撃は、物理的な破壊以上に、人々の心に癒えぬ傷と、どす黒い「憎悪」を刻みつけた。
地球連合軍、月面アルザッヘル基地。そこには、家族を奪われ、故郷を焼かれた兵士たちの、行き場のない怒りが充満していた。
「……忘れるな。あの上空で、笑いながら石を落としたのはコーディネイターどもだ」
核ミサイルを搭載したウィンダムのコックピットで、一人のパイロットが震える手で操縦桿を握りしめる。モニターに映るプラントの影は、彼らにとって平和を脅かす「怪物」の巣窟にしか見えていなかった。
「奴らさえいなければ…!!こんな思いはせずに済んだんだ!!!……これは報復じゃない!!汚物の浄化だ!!!」
連合の将兵たちを突き動かしているのは、ロゴスの甘い言葉ではない。もっと根源的な、自分たちの世界を壊されたことへの「恐怖」と「生存本能」だ。その狂熱を燃料にして、巨大な死神が宇宙へと鎌を振り上げる。
「全艦、発進! 作戦名『フォックストロット・ノベンバー』を発動する!」
旗艦ネタニヤフのブリッジで、司令官が冷酷に宣告した。次々と発艦していく核装備のモビルスーツ隊。それは、何千万ものコーディネイターを塵に変えるための、あまりに短絡的で、あまりに凄惨な解答だった。
同時刻、暗礁宙域の影。
漆黒の宇宙(そら)に溶け込むように佇む一機のMSがあった。
「……反吐が出るな。憎しみに身を任せて、またあの『火』を弄ぶか」
偽装用の増加装甲を纏い、オーブから秘密裏に届けられたローエングリンランチャーを構えるドレッドノートイータ。
そのコックピットで、カナード・パルスは忌々しそうに、だが極めて冷静にターゲットをロックした。
彼の視界には、憎悪に駆られる連合兵たちの熱狂など映っていない。
ただ、自分の居場所を守るために、この醜悪な茶番を終わらせるという冷徹な意志だけがある。
「悪いな、連合共。あんたたちの『正義』は、ここで俺が買い取らせてもらう」
カナードの指が、トリガーにかかる。核ミサイルという「最悪の選択」を選んだ連合艦隊に向け、物理法則を書き換える陽電子の輝きが、今まさに解き放たれようとしていた。
プラント防衛線の外縁、デブリが密集する暗礁宙域の死角。
主力艦隊がザフトの防衛隊を正面から引きつけている隙に、その「別動隊」は音もなく、しかし着実に死の準備を進めていた。
「目標プラント、射程まであと数分……いよいよだな」
旗艦ネタニヤフを中心とした隠密特務部隊。自らを『クルセイダーズ(十字軍)』と呼称する彼らは、正規の軍指揮系統からも半ば独立したロゴスの狂信者たちだ。
ウィンダム達の機体各部には、ハザードマークをこれ見よがしに示す核ミサイルが禍々しくマウントされている。
「遺伝子を弄った化け物どもに、我ら自然の者の怒りを。……青き清浄なる世界の為に。これは聖戦だ。浄化なのだよ」
通信回線には、祈りにも似た独り言が漏れる。彼らは今、歴史上最も残酷な「引き金」を引こうとしていた。発射シーケンスが開始され、艦隊が最終加速に入ろうとした、その時。
漆黒の闇の奥、一筋の紅蓮の光が、空間そのものを削り取るような音と共に奔った。
「な……っ!? 陽電子反応だと!?」
回避も、防御も、叫ぶ暇さえなかった。
オーブのユウナから供与されたローエングリンランチャーの光条が、ネタニヤフの艦橋から動力部までを一直線に貫通する。
物質を対消滅させる陽電子の奔流は、アガメムノン級の重厚な装甲を紙細工のように焼き切り、その内部で臨界を待っていたエネルギーを暴発させた。
「どこだ! どこから撃たれた!? 敵の姿が見えな――」
周辺に展開していたウィンダム隊が、パニックを起こして四散する。
だが、遅すぎた。旗艦の爆発は誘爆の連鎖を呼び、準備中だった核ミサイルの幾つかが艦内爆発を起こす。真空の宇宙に、音のない、しかし圧倒的な質量の光球が膨れ上がった。
数キロ先、偽装装甲を纏ったドレッドノートイータのコックピット。
カナード・パルスは、ランチャーの冷却を待つ間、冷淡な目でその「浄化の火」を見つめていた。
「……ハッ。聖戦だと? 笑わせるな。ただの大量殺戮を飾る言葉にしちゃあ、安っぽすぎるな」
カナードの視界には、オーブのボンボン――ユウナから送られた「連合軍の隠密進路」が正確に表示されていた。ユウナがどうやってこの秘匿情報を手に入れたかは知らない。だが、この一撃で、ザフトの艦隊も大挙をなして接近しており、クルセイダーズは刈り取られていく。プラントが核の炎に包まれるという最悪の未来は、文字通り「消滅」した。
「ボンボンの言う通りだ。旗艦さえ叩けば、こいつらはただの迷子の群れだ」
指揮官を、旗艦を、そして大義を一度に焼かれたクルセイダーズに、もはや作戦を続行する意志は残っていない。
カナードは一瞥もくれず、機体を反転させた。
「……任務完了だ。撤収するぞ」
闇に消える傭兵の影。後には、ただ無残に漂う連合艦隊の残骸と、行き場を失った憎悪の残滓だけが残された。
プラント防衛線の激戦区。ザフトのジュール隊は、降り注ぐ連合のミサイルとウィンダムの群れを、鬼神の如き手際で捌き続けていた。
「チッ、数だけは揃えおって! 掃き溜めのゴミ共が、プラントの領空に土足で踏み込むな!!!」
白熱する戦場に、イザーク・ジュールの怒声が響く。彼の駆るスラッシュザクファントムは、圧倒的な技量で連合の機体を次々と骸に変えていく。その傍らでは、ディアッカ・エルスマンのガナーザクウォーリアが、冷静な長距離射撃で支援を続けていた。
「落ち着けよ、イザーク、こいつらやけに必死じゃないか!ユニウスセブンの件で完全に頭に血が上ってる…!」
「知るか! どいつもこいつも烏合の衆が……! この程度の戦力で、プラントを落とせると本気で思っているのか!」
イザークがビームアックスでウィンダムの装甲を断ち割った、その時だった。遥か後方、ザフトの防衛線のさらに「外側」の暗礁宙域が、不自然なほどの紅い閃光に塗りつぶされた。
「……っ!? 何だ、今の光は!」
ディアッカの声に驚愕が混じる。直後、凄まじい熱量と電磁波がセンサーを狂わせ、遅れて宇宙を震わせるような衝撃波が彼らの機体を揺らした。
「隊長! 哨戒中の偵察型ジンより緊急入電! 暗礁宙域第4ポイントにて、連合の別動隊が壊滅!……艦種はアガメムノン級、さらに……散布された反応から、多数の『核』が検出されました!」
「何だと……!?」
イザークの顔から血の気が引く。
連合の狙いは正面突破ではない。暗礁宙域に潜ませた「クルセイダーズ」による核攻撃。それが、自分たちの預かり知らぬところで、既に発射寸前まで進んでいたのだ。
「核だと……!? 奴ら、またやりやがったのか! ディアッカ、行くぞ! 逃がすな、一機残らずだ!」
「分かってるよ! ジュール隊!!全速で回せ!!!
イザークとディアッカのザクがスラスターを最大出力で噴射し、爆心地へと急行する。その背後には、異変を察知した周辺のザフト守備隊も次々と合流し、巨大な黒い影となって暗礁宙域へなだれ込んだ。
辿り着いたそこは、地獄と混乱が混ざり合った惨状だった。旗艦ネタニヤフを失い、指揮系統が完全に断たれた連合の別動隊『クルセイダーズ』。彼らは、正体不明の陽電子砲による「神罰」に恐慌をきたし、もはや組織的な戦闘能力を失っていた。
「……ひ、光だ! またあの紅い光が来るぞ!」
「撃て! 構わん、この距離ならプラントに届く! 刺し違えてでも、化け物どもを――!」
半狂乱になったウィンダムの数機が、手当たり次第に核ミサイルのロックを開始する。
「させんと言っているだろうがぁぁッ!」
イザークのザクファントムが、大出力を乗せたハイドラ・ビームガトリングを掃射した。狂乱する連合機を次々と蜂の巣にし、肉薄してはビームアックスでコックピットを叩き割る。
その苛烈さは、核という禁忌を再び持ち出した連合への、純粋な怒りそのものだった。
その時、一機のウィンダムがデブリの陰から飛び出し、プラントに向けて核ミサイルのランチャーを向けた。
「落ちろ!青き清浄な――!」
引き金が引かれる寸前、超高精度の高エネルギー長射程ビームがその腕部を正確に貫いた。
「悪いな、そいつを撃たせるわけにはいかないんだよ……!」
ディアッカのガナーザクウォーリアだ。オルトロスの一撃でバランスを崩したウィンダムを、彼は逃さなかった。次弾を胴体に叩き込む。
直後、機体にマウントされていた核弾頭が誘爆し、宇宙に禍々しい「花火」が咲いた。
「ちっ、危ねえな。……イザーク、一機も通すなよ!」
「分かっている! 貴様こそ一射も外すな!」
もはやそれは戦争ですらなかった。一方的な「撲滅」だ。
逃げ惑う連合艦艇、パニックで同士討ちを始める機体。それらすべてを、イザーク率いるザフト軍は冷酷なまでの精度で仕留めていく。
数分後。暗礁宙域には、漂う無数の金属片と、放射能の残滓だけが残された。
『クルセイダーズ』は一機も、一隻も逃げることなく、宇宙の塵へと消えた。
「……終わったか」
ディアッカがセンサーを周囲に走らせるが、もう動く反応はない。
「……ああ。だが、ディアッカ。……あの最初の一撃は何なんだ?あれがなければ、今ごろプラントの半分は火の海だったぞ」
イザークの問いに、ディアッカは答えられなかった。
プラントを救った、正体不明の「紅い光」。
その正体が明かされる事はない。
プラント最高評議会、議長室。ギルバート・デュランダルは、メインモニターに映し出される戦況を、静かな、しかし深淵のような瞳で見つめていた。
彼の背後の卓上には、一つの起爆キーが用意されていた。プラントの最終防衛兵器「ニュートロンスタンピーダー」。核弾頭の起爆を強制的に誘発させ、敵艦隊をその自らの「火」で焼き尽くす、非人道的なまでのカウンター。
だが、モニターの中で繰り広げられている光景は、彼の予測を大きく逸脱していた。
「……ありえない。あの別動隊を、たった一撃の陽電子砲が?」
デュランダルが呟く。
プラントの喉元まで迫っていた『クルセイダーズ』の旗艦ネタニヤフは、ニュートロンスタンピーダーを使うまでもなく、正体不明の狙撃によって「消滅」していた。
指揮系統を失い、恐慌状態に陥った連合軍は、イザーク・ジュール率いるジュール隊を中心としたザフト守備隊によって、文字通り一方的に「撲滅」されている。
「……議長、連合の残存艦隊は月面方向へ敗走を開始しました。ジュール隊、および近隣の警備隊より追撃許可の要請が入っております」
通信士の報告に、デュランダルは僅かな沈黙のあと、優雅に頷いた。
「許可する。一隻も逃してはならない。彼らには『報復』の権利があるからね。……全力で、叩きたまえ」
「了解!」
追撃命令を出しながら、デュランダルの思考は加速していた。
ザフトの記録には、あの位置に陽電子砲を装備した艦は一隻も存在しない。連合の身内割れか? いや、ありえない。ならば、誰だ。誰が私の舞台を汚し、意図しない形でプラントを救った?
(……ローエングリンの熱線痕跡。それも、戦艦級ではなくMSサイズの出力に最適化されていたように見える。これほどの技術を、このタイミングで投入できる勢力……)
彼の脳裏に、一つの「小国」の顔が浮かんだ。
中立を謳いながら、最近になって異常なまでの軍備拡張と、不自然なほど迅速な災害対応を見せている国。
「……ユウナ・ロマ・セイラン。また君なのかい? それとも……」
デュランダルは、もはや必要のなくなったスタンピーダーの起爆キーを、冷ややかに引き出しの奥へと仕舞い込んだ。
彼の計画に、正体不明の「不確定要素」が混じり始めた。それは、この完璧な世界再編を望む男にとって、何よりも忌むべき事態だった。
ちなみに外した場合はユウナから即逃げろと言われてますが、カナードは付近で待機してる部下達と突撃を仕掛けて無理やりネタニヤフを沈めようとしてたそうな。
次回いよいよアスランとユウナのお話。ここの所真面目な話が続いたのでアスランをおもちゃにします。
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
-
通常の優柔不断アスラン
-
報連相の化身と化したアスラン