破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
今回は少しメタ的な会話が出てきますのでご注意を。とはいえ大体ユウナの空回りですけどね!
史実、あるいは「原作」と呼ばれる歴史の奔流において、ユニウスセブン落下という未曾有のテロ事件は、地球全土にプラントへの激しい憎悪を再燃させた。
大西洋連邦が主導した「世界安全保障条約」は、その憎悪をエネルギーにして地球連合を再編し、独立を保っていた南アメリカ合衆国をも再び連合の鎖へと繋ぎ止めた。そして何より、あの「オーブ連合首長国」までもが、その軍門に降ったはずだった。
しかし、この世界の流れは決定的に異なっている。
大西洋連邦は、この条約への加盟を全世界の国家に要請した。それは事実上の「プラントへの宣戦布告への署名」であったが、オーブはこの要請を真っ向から拒絶したのだ。
「……我が国には『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』という揺るぎない理念がある。集団的自衛という名目のもと、望まぬ戦争に国民を駆り出す条約に、オーブが名を連ねることは断じてない」
国際会議の場。並み居る列強の代表を前に、カガリ・ユラ・アスハは毅然と言い放った。それはユウナに書かされた脚本などではない。ウズミ・ナラ・アスハの娘として、父の遺志とオーブの矜持を自らの意志で選んだ、彼女自身の拒絶だった。
かつての歴史なら、大西洋連邦はこの不遜な小国に対し、即座に武力行使を辞さない圧力をかけてきただろう。しかし、今の大西洋連邦は――特にその軍部やブルーコスモスの面々は、奇妙なほど「静か」だった。
理由は明白だ。例の「お星様になった中将」の件である。
連合の重鎮であり、ロゴスとも太いパイプを持っていた男が、数千の将兵とともに消滅したあの一件。表向きは「遅れて落下してきたユニウスセブンの破片による事故」として処理されているが、連合の内部――特に政治家や軍上層部の間では、全く別の見解が「真実」として囁かれていた。
(……あれは、ロゴスの粛清だ。オーブに深入りしようとしたから、口封じに消されたんだ)
彼らの抱く恐怖は、オーブという国そのものよりも、その背後に透けて見える「ロゴス内の内紛」に向けられていた。
下手にオーブに関わろうとしたり、あの地を強引に併呑しようとすれば、次は自分が「不慮の事故」に遭うのではないか。その疑念が、彼らの足を竦ませていた。
兵は出さないが世界各地にオーブ国際救援隊(ODR)として各地で人道支援を行い、民衆の圧倒的な支持を盤石にしているオーブを叩く口実が見つからない。
それどころか、手を出すこと自体がロゴスの逆鱗に触れるのではないかという「致命的な誤解」が、彼らを躊躇わせていたのだ。
「……滑稽だね。正義を語る連中が、自分たちの組織への不信感で足踏みしている。平和っていうのは、案外こういう不健全な均衡の上に成り立つものなんだ」
オーブの執務室で、ユウナは報告書を放り投げ、冷めた笑みを浮かべた。
カガリが真っ当な正論を吐いて連合を跳ね除けられるのは、ユウナが裏で「ロゴスすら畏怖する闇」を演出しているからに他ならない。
南アメリカ合衆国が再吸収され、世界が再び二極化していく。その巨大な濁流の中で、オーブだけが不気味なほどの静寂を保ち、浮島のように独立を維持していた。
自分の言葉が世界に届いた。オーブの理念を貫き、連合の圧力を撥ね退けた。会議場の壇上ではそう信じようとした。だが、オーブに戻り、ユウナが淡々と処理する「裏の報告書」の端々から真実を察してしまった時、カガリ・ユラ・アスハの心は激しく沈んだ。
「……私の言葉が通じたわけじゃないんだな。ユウナ」
窓の外、復興の活気に沸くオノゴロの街並みを見つめ、彼女は小さく呟いた。
大西洋連邦が沈黙したのは、正義が示されたからではない。ユウナが仕掛けた「恐怖」と「不信感」が、彼らの足を止めただけ。自分が誇らしく掲げた理念は、ユウナが用意した闇という名の盾がなければ、とっくに粉々に砕かれていたのだ。
そんな彼女の支えとなっているのは、ミネルバと共に各地を転戦しているアスラン・ザラ(メンタル回復率70%)からの定期的な連絡だった。
『カガリ、君は君の場所で戦っている。自分を卑下する必要はない』
端末の画面越しに届くアスランの言葉。彼は今、自らの足で世界を回り、混迷する情勢をその目で見極めようとしている。戦火の中で苦悩しながらも、前へ進もうとする彼の姿は眩しかった。
「アスラン……。お前はいいな。自分の力で、自分の意志で、世界を見ようとしている」
それに引き換え、自分はどうだ。
代表首長という椅子に縛り付けられ、ユウナやアスランが引き受けている「必要悪」の上に立って、綺麗な言葉を吐いているだけ。
「私は……何一つ、自分の手で成し遂げていない……」
深い落胆と絶望が、冷たい霧のように彼女の心を蝕んでいく。
ユウナは時折、周囲が理解に苦しむような奇行に走ることがある。だが、そのすべてはオーブが生き残るため、なすべきことを冷徹に、そして迅速に遂行した結果だ。
あの日、彼が宣言した通り、自分を光の当たる場所に立たせ続けるために、ユウナは独りで泥を啜り、この国の「闇」をすべて背負ってくれている。
『はいお疲れ様ー!じゃあしばらくは休んでねカガリ!えっやることは無いかって?ちょっと外で他の人の慰撫でも好きにしといて!俺はちょっと忙し……おいトダカァ!!!モルゲンレーテの奴らが来たから塩でも撒いといてくれ!!!』
彼との通信を思い出す。彼が軍事の刷新に、政治の裏工作にと、寝る間も惜しんで忙殺される日々。それならば自分も「アスハ」の名を使ってできる限りのことをしようと、国際会議での演説や、キオウ家と共にODRの国際派遣の為の準備など奔走してきた。だが、それでも「自分の力で国を動かしている」という実感だけは、どうしても得られなかった。
ユウナがどれほど献身的に国を守ろうとも、その「守られ方」がカガリの魂を少しずつ削り取っていた。
アスランとの通信を切った後、彼女は暗い執務室で一人、膝を抱えた。
(……私は、ただ守られているだけなのか? 父上が残したこの国を、ユウナが肩代わりしてくれている『闇』の恩恵で……)
この国を守っているのは「アスハの理念」なのか、それとも「セイランが背負う闇」なのか。
その答えが出ることを、今の彼女は何よりも恐れていた。
カガリは、デスクの隅に置かれたユウナとの連名の書類に目を落とす。そこには、彼女のサインの隣に、淀みのないユウナの署名が並んでいた。まるで彼女の理想を、彼の現実的な影がそっと守り抜こうとしているかのように。
「……ユウナ。お前は、本当にそれでいいのか。……私に、そんな価値があるのか……?」
震える声は、静まり返った部屋の壁に虚しく吸い込まれていった。
一方その頃、執務室では、カガリの深刻な苦悩など微塵も知らないユウナ・ロマ・セイランが、かつてのムルタ・アズラエルがNJCの設計図を手にした時のような、狂気じみた歓喜に震えていた。
「いぃぃぃやっっっっほぉぉぉぉぉぉ!!!やったぁぁぁぁぁぁぁ!!!ザマァみやがれ紫唇ぅぅぅ!!!」
ユウナは手元の報告書――オーブの「世界安全保障条約」への不参加確定と、各地でのODR(オーブ国際救援隊)の成功を知らせる書面を鷲掴みにし、文字通り踊り狂っていた。
「見たかジブリール! 見たか世界! 机を叩くのももどかしい、いっそこの机でダンスでも踊ってやりたい気分だね! さいっっこうにハイって奴だー!!!」
彼は子供のように執務デスクをリズミカルに叩き、興奮のあまり椅子を蹴り飛ばした。ずっと眠れなかった、ずっと震えていた、怖かった、恐ろしかった、ある意味オーブとユウナというキャラクターが完全に詰んだこの日が近づくに連れて胃薬の量も増えていた。それが…それがようやく解放される…!!!
「これで……これで原作の、あの吐き気を催すような『オーブ軍海外派兵』は歴史の闇に完全消滅だ! !俺が連合のポチになってカガリが泣き、シンがブチ切れ、キラが介入してくるあの地獄のドロドロ昼ドラ展開は無し!!トダカ達は生存してタイムスケジュールにもだいぶ余裕ができた!!胡散臭さの塊みたいな『種無し浮気ちんぽ野郎』がよぉ!!!自分が振られた腹いせに世界を運命で縛ろうなんて、どんだけ執念深いんだよ! さっさとタリアさんと復縁して、どっかの隠居先でハーブティーでも淹れてろばーかばーか!!」
散々、溜まっていた毒を吐き出し、見えない敵を罵倒し尽くしたところで、ユウナは「はぁ、はぁ……」と荒い息を整えながら、倒れた椅子を戻してドカッと座り込んだ。
「ふぅ……さて、と。やりきった感はあるけど、問題はここからだ」
ユウナは天井を仰ぎ、思考のギアを切り替える。
オーブが安全保障条約を蹴り飛ばし、海外派兵という最悪のカードを消滅させた今、原作のタイムラインは修復不可能なほどに「崩壊」し始めている。
「キラたちは今頃どこで何をしてるんだ? 原作なら『オーブを止める』とか言って介入してくる頃だけど、止めるべきオーブがそもそも暴走してない。セイラン家による親連合な舵取りも、連合への屈服も、カガリの強制結婚もない。介入する理由が根こそぎ消えてるんだよね」
ユウナは鼻を鳴らす。
自分の知識が賞味期限切れになりつつあるのは理解していた。だが、それでも大きな歴史の奔流――ロゴスとザフトの対立、そしてベルリンの惨劇へと至る流れまでは変わらないだろうと踏んでいた。
「『歴史の修正力』? 冗談じゃない、そんな都合のいい言葉で片付けられてたまるかっ! 運命という名のレールを敷き直して、強引に悲劇の駅へ停めようとする……その独りよがりな『世界の意志』とやらが、俺は反吐が出るほど大嫌いなんだよ!」
ユウナは苛立ちをぶつけるように、空になったカップをデスクに叩きつけた。自身を転生させた存在がいると言うのなら恨みのあまりそいつにカップをぶつけてやりたい所だと。
「いいか、創作物における『プロットアーマー』なんてのは、ご都合主義の最たるものだ。逆に『ここで死ぬのが一番盛り上がるから』なんて理由で用意される死の運命、いわゆる悲劇の強制も同様だ! 命をなんだと思ってる? 舞台装置の一部だとでも言うのか!? 俺はそういう『お約束』をぶち壊すために、ここまで泥を啜ってやってきたんだ!」
彼は荒い息をつきながら、誰もいない空間を指差して吠える。
「フラグは全部へし折った! 死亡ルートの選択肢はすべて消去したはずだ! なのに、どうして因果関係を無視してまで帳尻を合わせようとする!? ロジックが通らない展開を強いるのは、もはやそれは物語ですらない、ただの暴力だ!」
ユウナはふと、自分の足元を見つめる。前世の知識では、無能な小物としてグフ・イグナイテッドに踏み潰されて終わるはずだった自分。その惨めな最期を回避するために、彼は必死に歴史を書き換えてきた。
「……おい、聞いてるか『世界』。ここまでやって、結局『やっぱりお前は死ぬ運命なんだ』とか言って、どこからか現れたグフに俺を踏み潰させようってんなら、末代まで呪ってやるからな! 怨霊になってその『綺麗な脚本』とやらをメチャクチャにしてやるぞ!」
少しだけ被害妄想の混じった叫び。だがそれは、運命という名の絶対的な暴力に対する、卑小な人間なりの精一杯の抵抗だったのだと。
その数日後。
「大変ですユウナ様!アークエンジェル隊とカガリ様が行方不明に!」
「てめぇふざけんなよぉ!!!!カガリは泣いてないのになんで無断に部隊動かしてんだマリュー・ラミアスゥゥゥゥ!!!」
執務室に飛び込んできたトダカの報告を聞いた瞬間、トダカはユウナの脳内の血管が数本ぶち切れる音を聞いたという。
・歴史の修正力
先に言っておきましょう。この作品に歴史の修正力システムなんて都合の良いものは存在しません。その辺りの解説は本日最後の22時よりお待ちくださいませ。
・メンタル
この日さえ、この日さえ乗り越えれば最大級の破滅フラグと言えるこの日さえどうにかできれば枕を高くして眠って、DBのゲームをする余裕だってあったんです。どうして…どうして脱走したんですか…
・大天使
その割にオーブから脱走したアークエンジェル隊にユウナもブチギレます。とはいえ彼らは歴史の修正力によって動いた訳でもなく、彼らなりに考えてのことですが真実が語られるのはもう少しお待ちくださいませ。
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
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通常の優柔不断アスラン
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報連相の化身と化したアスラン