破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第三話 トダカさんマジ天使

 

 

「……何をしておいでですか、ユウナ様」

 

 

 

 オーブ国防海軍一等海佐、トダカは、目の前の光景に我が目を疑った。

 

 

 場所は、就役を間近に控えた大型航空母艦『タケミカヅチ』の艦長室。視察と称してやってきたセイラン家の御曹司が、人払いをして二人きりになった途端、磨き上げられた床に額をこすりつけたのだ。

 

 

 いわゆる、土下座である。

 

 

「一佐! 頼む、話を聞いてくれ! あんたしかいないんだ! この国を、カガリを……そして俺の命を救えるのは、あんたしかいないんだ!」

 

 

 

 トダカは困惑を通り越し、呆気にとられていた。

 

 

 つい数分前まで、彼はこの若者のことを、オーブの理念を売り飛ばそうとする「俗物の象徴」だと思っていた。目の下に深い隈を作り、顔色も悪く、およそ高貴な家柄の人間とは思えない惨状だが、それも「どうせ夜通し遊び歩いていたのだろう」と切って捨てていたのだ。

 

 

 

 だが、この必死さは何だ。

 

 

 

 床を掴む指先は白く震え、向けられた瞳には、死を目前にした者のような真実味のある「恐怖」が宿っている。

 

 

「……ユウナ様、まずは頭をお上げください。代表のご婚約者ともあろうお方が、このような……」

 

 

「婚約なんてクソ食らえだ! あんなの無効だ、俺は認めない! ……いや、そんなことより、これを見てくれ!」

 

 

 ユウナは震える手で、懐から一つのデータチップを差し出した。

 

 

 

 トダカは迷いながらも、そのチップを受け取り、卓上の端末に読み込ませた。

 

 

 

 そこに映し出されたのは、トダカのような現場の軍人が決して目にすることのない、闇の記録だった。

 

 

 

「……ユウナ様、頭を上げてください。落ち着いて……とにかく、座ってください」

 

 

 

 端末の画面に流れる、あまりにも生々しい汚職と蹂躙の記録。それを見つめていたトダカの手が微かに震えていた。

 

 

 

 この売国の証拠が、そして「身内の恥」が、どれほどの重みを持ってこの青年の精神を削ったのか。トダカは、這いつくばったまま震えているユウナの肩を抱きかかえるようにして、無理やりソファーに座らせた。

 

 

 

「今、飲み物を用意させます。……いや、私が淹れましょう。少し待っていてください」

 

 

 

 

 トダカは自らポットを手に取り、手慣れた動作で温かいミルクティーを淹れた。カップから立ち上る甘い香りが、張り詰めた室内の空気をわずかに緩める。

 

 

 

 

「さあ、まずは一口。……熱いですから、気をつけて」

 

 

 

 

 差し出されたカップを、ユウナは両手で包み込むようにして受け取った。ガチガチと鳴る歯を抑えるように、一口、また一口と啜る。

 

 

 

 

 その様子をじっと見守っていたトダカの脳裏に、不意にある少年の姿が重なった。

 

 

 

 

 先の戦乱、家族を一度に失い、絶望の淵で震えていたあの少年——シン・アスカだ。

 

 

 

 

 あの子にミルクティーを差し出した時も、今のユウナと同じような、今にも壊れてしまいそうな目をしていた。

 

 

 

 

(この御曹司が、あの少年と同じ目をしているだと……?)

 

 

 

 

 トダカは戦慄した。

 

 

 

 

 目の前にいるのは、オーブを意のままに操るセイラン家の嫡男だ。贅沢三昧をし、世の中を舐めきっていると思っていた「紫髪の小僧」だったはずだ。

 

 

 

 

 それが今、実の親を、自らの血筋を売ってまで、泣きそうな顔で「救ってくれ」と乞うている。

 

 

「……ユウナ様。あなたは、これをどこで?」

 

 

 トダカの問いに、ユウナはカップを握りしめたまま、掠れた声で答えた。

 

 

「……親父の、書庫です。……俺は、ずっと知らなかった。いや、知ろうとしなかったんだ。自分たちが、この国をどうやって踏みにじってきたのかを……。でも、もうすぐ……もうすぐ、取り返しのつかないことが起きる。俺が、俺たちが、この国を本当の地獄に落としてしまうんだ!」

 

 

 

 ユウナの瞳から、一筋の涙が溢れ、ミルクティーの中に落ちた。

 

 

 

 

 トダカは確信した。これは、単なる気まぐれでも、政治的な駆け引きでもない。

 

 

 

 この男は「正気」だ。そして、正気だからこそ、今のオーブの狂気に絶望し、一人で地獄の底から這い上がってきたのだ。

 

 

 

「……話してください。私にできることがあれば、何でも」

 

 

 

 トダカの声に、覚悟が宿る。ユウナは、少しだけ温まった喉を震わせ、未来という名の「呪い」を口にし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(トダカさん、マジで天使!いや、人が良過ぎるだろこの人…!)

 

 

 

 差し出された温かいミルクティーの湯気の向こうで、俺は内心、猛烈な感動に震えていた。

 

 

 

 正直に言えば、この「開幕土下座」も「泣き落とし」も、半分以上は計算だった。

 

 

 

 俺は知っている。トダカ一佐という男が、どれほど情に厚く、どれほど「守るべきもの」のために自分を犠牲にできる人間かを。

 

 

 

 

 セイラン家の放蕩息子が、一族のドス黒い罪悪に耐えかねて、震えながら頭を下げる。そこに、身内の恥部を曝け出したデータチップという「誠意」を添えれば、正義感の強い彼なら、必ず放っておけないはずだと。

 

 

 

 

 善意を踏みにじるような真似をしている罪悪感は、確かにある。

 

 

 

 

 だが、こっちは命がかかってるんだ。数ヶ月後にグフの足でミンチにされる運命を回避するためなら、使えるものは何でも使う。自分のプライドも、相手の同情心も、全部だ。

 

 

 

 ……そう思っていたのに。

 

 

 

 

「……ユウナ様。あなたは、お一人でこれを抱えておられたのですか」

 

 

 

 

 トダカ一佐の、あまりにも慈愛に満ちた、そして俺の心労(主に寝不足とスパロボ知識の検索によるものだが)を本気で案じるような声音。

 

 

 

 

 少しは「演技じゃないか」とか「何か裏があるのでは」と疑ってくれてもいいのに。この人は、目の前で泣きじゃくる情けない若造を、ただの一人の人間として、全力で救おうとしてくれている。

 

 

 

 

 その真っ直ぐな優しさが、じわじわと俺の「計算」を溶かしていく。

 

 

 

 

(……やばい。これ、半分演技だったはずなのに、マジで涙が出てきた……)

 

 

 

 

 「……一佐。俺、怖いんだ……親父が何を考えてるのか、これからこの国がどこへ向かうのか……俺、どうすればいいか分からなくて……!」

 

 

 

 気づけば、口から出た言葉は演技を越えていた。

 

 

 

 昨日から続く、あの孤独な絶望。誰も味方がいない。

 

 

 

 

 記憶は曖昧。ガンダムという物語だけが、俺の残酷な未来を予言している。その恐怖、焦り、不安。それらが一気に決壊して、俺はトダカ一佐の前で、年相応の……いや、それ以上に無力な子供のように、本気で嗚咽を漏らしてしまった。

 

 

 

 

 「大丈夫です。あなたは、一人ではない」

 

 

 

 

 トダカ一佐の大きな手が、俺の肩を静かに叩く。

 

 

 

 

 その温もりに、俺は思わず縋り付いた。

 

 

 

 

 ああ、この人は、原作でシンを救った時も、こんな風に接したんだろうな…。

 

 

 

 

(……あっていいはずがない。この人が、あんな悲劇的な最期を迎えるなんて、絶対にあっちゃいけないんだ)

 

 

 俺は鼻をすすり、トダカ一佐の優しさに甘えながらも、急速に冷徹な思考を取り戻していく。この温かいミルクティーを飲み干すまでに、この『聖人』を俺の共犯者に仕立て上げなきゃならない。

 

 

「……一佐。俺の計画を聞いてくれ」

 

 

 

 俺はカップを置き、まだ涙の残る目で彼を凝視した。

 

 

 

「このチップにある情報を、国内の反セイラン勢力……いや、まだ志を失っていない軍人や官僚たちに一気にばら撒く。カガリがプラントから帰ってくるまでに、政治的に親父たちを追い詰めるんだ。最悪……軍事クーデターを引き起こしてでも、政権を奪い返す」

 

 

 

 トダカ一佐の表情が険しくなる。国家反逆罪。その五文字が部屋の空気に重くのしかかる。

 

 

「ですが、ユウナ様。そうなれば、あなたも無事では済みません。セイランの名を冠するあなたが首謀者となれば、怒り狂った民衆に何をされるか……」

 

 

「わかってるさ! 俺だって、殺されるのは御免だ。オーブの理念とか、ウズミ様の遺志とか……そんな高潔なもののために命を懸けるなんて、俺みたいな俗物には到底無理だよ。死ぬのは怖い。俺は、もっと……もっと長生きしたいんだ!」

 

 

 これは本音だ。本音3割、トダカの同情を引くための演出が7割。

 

 

 『正義のために死ぬ覚悟がある』なんて言うより、『死ぬのが怖いから足掻いている』と言う方が、今の俺の立場なら信憑性がある。情けない自分を晒すことで、「この若者は追い詰められて、それでも必死に国を、そして自分を守ろうとしている」と思わせる作戦だ。

 

 

 トダカ一佐は、深く、深く溜息をついた。そして、諭すような穏やかな声でこう言った。

 

 

 

「……ユウナ様。それほどまでに死が恐ろしく、一族の罪に耐えかねておられるのでしたら」

 

 

「……?」

 

 

「今のうちに中立国……例えばスカンジナビア王国あたりに亡命されるのはいかがですか? 私が手配すれば、秘密裏に出国させることも可能です。そうすれば、あなたは命を狙われることも、一族の業に縛られることもなく、穏やかに長生きできるはずですが」

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 

 

 俺は、呆気にとられて口を半開きにした。

 

 

 

 

 亡命? スカンジナビア?

 

 

 ……あ。

 

 

(……確かに。別に俺、ここでクーデターなんてリスク高いことしなくても、逃げちゃえばいいのか……?)

 

 

 

 盲点だった。あまりにも「ユウナ・ロマ・セイランの運命」というシナリオを書き換えることに必死になりすぎて、そもそも「そのシナリオから降りる」という選択肢を完全に忘れていたのだ。

 

 

 

 しばらく沈黙が流れる。トダカ一佐は、本気で俺の身を案じてその提案をしているようだった。だが、一瞬揺らいだ俺の思考は、すぐに冷徹な「オタク的知識」によって引き戻された。

 

 

 

「……いや、ダメだ。一佐、この世界に安全な場所なんて、どこにもないんだよ」

 

 

 

 俺は力なく首を振った。

 

 

 スカンジナビア? 確かに高潔な中立国だ。だが、ここはあの『ガンダムシリーズ最低の民度』とまで揶揄されるコズミック・イラだぞ。

 

 

 

「思い出してくれ、前大戦を。連合はプラントに核をぶち込み、ザフトはジェネシスで地球を焼き払おうとした。あの時、どこに安全な場所なんてあった? 世界中が憎しみに染まってるんだ。一度火がつけば、どこにいたって核か大量破壊兵器で殺されるのが関の山だよ」

 

 

 

 トダカ一佐の顔が、苦い記憶を呼び起こしたように歪む。そうだ。あの悪夢のような大戦を生き抜いた軍人なら、この言葉の重みがわかるはずだ。

 

 

「それに……カガリを。あんなに不器用で、必死に国を守ろうとしているあいつを、あんなクソ親父たちの毒牙の前に残して自分だけ逃げるなんて……そんなの、後味が悪すぎて一生安眠できねぇよ……!」

 

 

 カガリ・ユラ・アスハ。

 

 

 原作ではユウナに精神的に追い詰められ、泣きながら政略結婚を承諾させられた少女。

 

 

 そんな彼女を、前世でファンだった俺が、今の俺(ユウナ)として見捨てる? そんなの、グフの足で潰されるのと同じくらい耐え難い「バッドエンド」だ。

 

 

 

「……一佐。俺はスカンジナビアで優雅に長生きするより、この泥沼のオーブで、あんたと一緒に足掻く道を選びたい。俺に協力してくれ、頼む!」

 

 

 俺の言葉に、トダカ一佐の瞳に宿る色が、困惑から深い敬意へと変わっていくのが分かった。

 

 

 ああ、ごめん一佐。本音3割って言ったけど、今の「核」とかのくだりは、単にこの世界の救いようのなさを知っているオタクの絶望なんだ。でも、一佐の目には、俺が『己の保身を捨てて、来るべき再戦の危機に立ち向かおうとする覚悟の若者』に見えているらしい。

 

 

 

「……分かりました。その『後味の悪さ』に抗おうとするお姿こそ、まさにオーブの民の志そのものだ。ユウナ様……いや、ユウナ殿」

 

 

 

 トダカ一佐は、今日一番の、強く、頼もしい笑みを浮かべた。

 

 

 

「このトダカ、あなたの『生存戦略』に、この命を預けましょう。まずは、そのチップの解析と、信頼に足る現場の人間への根回しを開始します。……カガリ様が戻られるまでに、我々で『受け皿』を作っておかねばなりませんからな」

 

 

 

 よし、釣れた……じゃなくて、最高の味方ができた。

 

 

 

 トダカという『絶対的な味方』。これなら、ひょっとすると運命をねじ伏せられるかもしれない。

 

 

「恩に着るよ、一佐。……じゃあ、俺はそろそろ『無能なバカ息子』に戻って、親父を油断させてくる」

 

 

 俺は飲み干したミルクティーのカップを置き、立ち上がった。

 

 

 

 足取りは、ここに来る前よりもずっと軽い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウナが艦長室を去り、重厚な扉が閉まった後。

 

 

 

 

 トダカはしばらくの間、一人で立ち尽くしていた。

 

 

 

(長生きするより、足掻く道を選ぶ……か)

 

 

 

 

 その言葉のリフレインが、トダカの胸を熱く焦がしていた。

 

 

 

 かつて、この国には『オーブの獅子』と呼ばれた男がいた。ウズミ・ナラ・アスハ。あの日、理念に殉じ、現在は復興したが連合が欲したマスドライバー、カグヤで散った偉大なる首長。

 

 

 

 トダカは、連合による事実上の占領状態に置かれ、国民が苦しんでいるのをただ黙って見ていることしかできなかった自分を、ずっと、死ぬほど苦々しく思っていたのだ。

 

 

 

 ユウナ・ロマ・セイラン。

 

 

 

 確かに、彼にウズミ様のような崇高な志や、透き通った理念は感じられない。口を開けば「死ぬのが怖い」「俗物だ」と自分を卑下する。

 

 

 

 だが、それでも。

 

 

 自分の命が惜しいと言いながら、それでもカガリのために、この国の明日のために、泥にまみれて親を売る覚悟を決めたあの少年の姿は。

 

 

(理念などなくとも、その足掻きは……あまりにも立派ではないか)

 

 

 トダカの瞳に、静かだが消えることのない「火」が灯った。

 

 

 

 彼は卓上の通信機を手に取った。呼び出すのは腐敗していく組織を憂い、それでも沈黙を守らざるを得なかった、かつての戦友たちだ。

 

 

 

「……私だ。トダカだ。……急ぎ、話したいことがある。まだ『オーブの軍人』として死にたいのなら、今夜、場所を空けておいてくれ」

 

 

 

 トダカは知っている限りの信頼できる幕僚たちを、一人ずつリストアップしていく。

 

 

 

 ユウナが持ち込んだあの『闇の記録』が、くすぶっていた彼らの心に火をつけるための、何よりの導火線になるはずだ。

 

 

 

「ユウナ殿……あなたが盾になると仰るなら、私が剣となりましょう」

 

 

 後に『迅雷のトダカ』と呼ばれることになる男が、ついに本格的な反旗を翻す準備を開始した。

 

 

 

 

 

 

 だが、この時のトダカはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 あまりにも自分を卑下し、隙あらば「逃げたい」「安全な場所がいい」と情けない悲鳴を上げるこの御曹司を、数ヶ月後には「御託はいいから乗ってください!」と無理やりモビルスーツのコクピットに押し込んだり、敵前逃亡を図ろうとする彼を「これもオーブのためです!」と爽やかな笑顔で縛り上げ、戦場へ引きずり回すことが日常茶飯事になるなどとは。

 

 

 

 そして、そんなトダカのスパルタな献身(?)によって、ユウナが「英雄」として歴史に刻まれていくことも、今の二人には知る由もなかった。

 

 






・トダカさん
 どんどん腐っていく国の現状を憂いつつ何もできない状況で、自分を助けて欲しいな泣きじゃくりながらも、亡命ではなく足掻こうとしているユウナにかなりの高評価。ユウナが3割本音7割演技な所に気付いてませんが、カガリとオーブを見捨てられない!と言い切った姿を見て心に闘志が付きましたとさ。


・ユウナ
 そんなトダカさんを騙そうとしつつも絆されて、若干本音を言ってしまう。ちなみに後々よく考えると正史で彼が自分が救った少年に殺される流れを作り出したのは俺じゃねぇか!!後々悶えたそうな。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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