破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第三十四話 ならば同志になれ

 

「ふぅ……。マジで死ぬかと思った……」

 

 

 

 真っ白な病室のベッドの上で、俺は深く、本当に深く溜息をついた。

 

 

 

 窓の外には、今日も平和そうなオノゴロ島の景色が広がっているが、俺の首筋にはまだ、あの時のカナードが放った冷たい殺気がこびりついている気がする。

 

 

 

 

「……よく生きておられましたね、ユウナ様。あの時のカナード殿は、まさに鬼神の如き形相でした」

 

 

 

 見舞いに来たトダカ一佐が、心底感心したように、あるいは呆れたように告げる。忙しい中定期的に来てくれるのはありがたいが、佐官クラスの男がウサ耳リンゴをテキパキ用意してくれているのも、中々インパクトがあるな。

 

 

 

「全くだよ。一週間も入院する羽目になるとはな……。まぁ、でも、なんやかんやでいい休暇になったよ。最近、詰め込みすぎだったしな」

 

 

 

「……絶句しました。あの状況を『休暇』と呼べるその精神的タフさだけは、我々軍人も見習わねばなりませんな。ですが、次からはもっとまともな形での休暇と睡眠を忘れないでくださいよ? あなたに倒れられては、今のオーブは止まってしまいます」

 

 

 トダカは苦笑いしながらも、その目はどこか労りに満ちていた。

 

 

 カナードも、最終的には「次やったら、その時はマジでコロス」という、物騒だが彼なりの和解(?)の言葉を残して身を引いてくれた。……まぁ、リアルに前髪を何本かむしり取られそうになって「抜かないでくれぇ!」と情けない声を上げたのは、俺と彼だけの秘密だ。

 

 

 

 それからさらに数日。退院した俺は、休む間もなく宇宙軍からの進捗報告を受け取っていた。

 

 

 

 

 宇宙軍の「オオヤマツミ」建造計画は、狂信的ともいえる熱量で急ピッチに進められている。あの「種無し」……失礼、デュランダル議長が本格的にロゴス討伐を掲げて宇宙で動き出す前に、オーブの絶対防衛線を完成させなければならない。

 

 

 

(……よし、このペースならロゴスとの本格的な戦いの前には間に合うかな?)

 

 

 

 俺が端末のモニターを閉じた、その時だった。

 

 

 

 緊急の通信が、慌ただしい電子音と共に病室に鳴り響く。

 

 

 

「ユウナ様! 領海付近にザフトの熱源を感知! 識別……MS三機編成です!」

 

 

 

「なんだと? 宣戦布告か?」

 

 

 

「いえ、オープンチャンネルで通信が入っています! 『プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルよりの親書を携えた使者である』と!」

 

 

 

 モニターに映し出されたのは、オーブの青い空を悠然と降下してくる三機の影。

 

 

 

 先頭を行くのは、深紅の機体――ザクウォーリア。

 

 

 

 

 

 ついに来たか。

 

 

 

 

 物語の歯車が、俺の予期したよりも早く、そして重々しく回り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザクウォーリアを先頭にした三機のMSが、オーブの領空を割って降り立つ。

 

 

 

 

 だが、俺の予想に反して、そこから降りてきたのは「親書を携えた使者」などという生易しい存在ではなかった。

 

 

 

 

「……いやはや。実に素晴らしい。オーブのハーブティーは、本国で用意させるものよりも香りが深く、心が安らぎますね」

 

 

 

 

 場面は変わり、オーブ政府の迎賓館。陽光が差し込む優雅なテラスで、ティーカップを手に微笑んでいるのは、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルその人だった。

 

 

 

「ははっ! 恐縮です! 褒めていただいて光栄ですよ、畜生……ッ!!」

 

 

 

 即退院して部屋に崩れ込んだ俺は、顔だけは営業スマイルを張り付かせつつ、内心で猛烈な罵倒を繰り返していた。

 

 

 

 

 なんでだ。なんで当たり前のように、この物語のラスボス(予定)が俺の目の前で寛いでいるんだ。確かに、確かに今の時系列だと地上にいるとは知ってたけど…!

 

 

 

 

 確かに、今後の情勢を考えれば、どこかでデュランダルが接触してくる可能性は計算に入れていた。だが、それはあくまで外交ルートを通じたビデオ会談か、せめて宇宙での秘密会談だろう。

 

 

 

 

 

 まさか本人が自らMSのコクピットに乗り込んで、事前の連絡もそこそこに「使者として来ちゃった」なんて暴挙に出るとか、そんなの予想できるわけねぇだろ!

 

 

 

 これだからコーディネイターってやつは……!

 

 

 

 

 

 

 確かにナチュラルと彼らの間には、埋めがたい身体能力の差がある。特にMSの操縦に関しては顕著だ。イライジャ・キールのような「顔以外はナチュラル同然」なんていう極端な例外を除けば、彼らの多くはOSの補助さえあれば、自家用車を乗り回すような感覚でMSを扱えてしまう。

 

 

 

 

 あの可憐なラクス・クライン様だって、原作じゃインフィニットジャスティスを自ら操縦して大気圏突入までこなして運んできたんだ。

 

 

 

 そう考えれば、この知の塊のような議長がザクのレバーを握ってオーブに降下してくること自体は、技術的には何ら不思議じゃない。

 

 

 

 

 

 不思議じゃないんだが……!

 

 

 

(……にしても、なんで機体が「赤」なんだよ! 赤い彗星かよ! もしかして三倍速いのか!?)

 

 

 

 目の前で「いい色でしょう?」と言わんばかりの涼しい顔をしている男を睨みつける。プラント最高評議会議長専用機が「深紅のザク」だなんて、そんなの中年男性の趣味全開じゃないか。しかもどう見てもルナマリアのザクじゃない辺り本人カラーだなこの野郎…!

 

 

 

 

「……ユウナ様? さきほどから顔色が優れませんが。やはり、私の突然の来訪が、貴方の『予定』を狂わせてしまいましたか?」

 

 

 

 

 

 デュランダルが、ティーカップを置いて小首を傾げる。

 

 

 

 

 

 その仕草一つとっても、まるで舞台俳優のように計算され尽くしている。

 

 

 

「ははは、まさか! 予定を狂わせるだなんて。ただ、議長自らが赤いザクを駆って殴り込んでくるとは、オーブのどの軍事衛星も予想していなかったもので。……次はぜひ、事前に絵葉書でも頂けると助かりますよ」

 

 

 

「それは失礼した。ですが、これほど美しい国なら、やはり自分の目で見たいと思うのが人の性でしょう?」

 

 

 

 

 この男、絶対に楽しんでやがる。

 

 

 

「……ところでユウナ様。貴方が進めておられる――」

 

 

 

「あー、もういい、議長。様付けなんていらんよ。あんたにそう呼ばれると、背中が痒くて仕方がねえんだ」

 

 

 

 俺は営業スマイルをかなぐり捨て、椅子の背もたれに深く体を預けた。猫を被り通せる相手じゃない。一瞬で本質を見抜くこの男の前で、上っ面の外交辞令を並べるのは時間の無駄だ。

 

 

 

 

 というか知識も含めて全てフル動員しなきゃまともに渡り合えない。自分の前世の知識を語るのはリスキーではあるが、そうしなければ飲み込まれそうな津波のような男だ。

 

 

 

 

 

「……おや、それは失礼した。では、親しみを込めてユウナ君、と呼ばせてもらおうか」

 

 

 

 

 デュランダルは気分を害した様子もなく、むしろ「待ってました」と言わんばかりに目を細めた。

 

 

 

 

「それで? 隠さないのかい、ユウナ君。君がオーブの裏で行っている数々の『奇妙な軍備計画』について。あるいは、君が持っているはずのない、プラントの機密に触れるような知識についてもね」

 

 

 

「てめぇに隠したところで意味ねぇだろ。筒抜けなのは分かってんだよ。……で、本題は何だ? 最高評議会議長様が、わざわざ赤いザクを乗り回してまで何をしに来た。俺と仲良くティータイムをしに来たわけじゃないんだろ」

 

 

 

 

 俺が素を晒して吐き捨てると、議長は相変わらず穏やかな、だが獲物を観察する学者のような笑みを湛えたまま問いかけてきた。

 

 

 

「興味を持ってね。……例えば君は、私のことをどこまで知っているんだい?」

 

 

 

 その問いに、俺は指を折りながら即答した。

 

 

 

 

 

「そうだな。……『コロニー・メンデル』。……『デスティニープラン』。……それと、『浮気チンポ野郎』。これくらいで満足か?」

 

 

 

 

 流石に本人を前にして、心の中で呼んでいる「種無し」という言葉は飲み込んだ。だが、タリア・グラディスとの不倫関係までバラされて、流石の議長も少しは顔を引き攣らせるかと思ったが。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 デュランダルは数秒間、沈黙した。

 

 

 

 

 

 その後、彼は本当に楽しそうに、声を上げて笑った。

 

 

 

 

「はははは! 素晴らしい。実に、実に興味深いね、君は。タリアのことまで知っているとは……。一体どこの諜報機関が、私のベッドの中まで覗き見ているというのかな」

 

 

 

 

 

 笑いながらも、その瞳の奥にはギラリとした鋭い光が宿っている。

 

 

 

 

「メンデル……デスティニープラン……。君がそれをどこで知ったかは、もはや些末な問題だ。重要なのは、それを知った上で君が私を、そしてこの世界をどう変えようとしているかだ」

 

 

 

 

 

 議長はティーカップを置き、テーブル越しに身を乗り出してきた。

 

 

 

 

 

「ユウナ君。君なら理解できるはずだ。遺伝子が示す役割を全うし、争いのない平和な世界を築くことの価値を。私の同志にならないかい?」

 

 

 

 

 

 穏やかな、だが有無を言わせぬ響きを持った誘い。序盤のアスランやシンが聞けば、それだけで「自分を理解してくれる者がいた」と感涙しそうなほど甘い毒だ。だが。

 

 

 

「断る」

 

 

 

 

 俺が被せ気味に突き放すと、デュランダルは目を丸くして、それからまた楽しげに目を細めた。

 

 

 

 

「即答だね。少しは迷う素振りを見せてくれてもいいのではないかな?」

 

 

 

 

「あんたの声で『同志』なんて言われても困るんだよ。……ただ、勘違いするな。俺はあんたが、遺伝子によって役割を固定することで、本気でこの地獄のような世界を平和にしたいと考えていることは知っている」

 

 

 

 

 俺は冷めた紅茶を一口啜り、言葉を継いだ。

 

 

 

 

「それに、あんたの本質は神官だ。失恋した恨みで世界を道連れにしようとするような、薄っぺらな俗物じゃないことも分かってる。愛する人と結ばれないという、遺伝子(さだめ)に弄ばれる悲劇を二度と繰り返さないために、あんたは全人類に『正しい役割』を与えようとしているんだろ?」

 

 

 

 

 デュランダルの微笑みが、わずかに静止した。

 

 

 

 

 この男の行動原理の根底にあるのは、タリア・グラディスとの離別という個人的な絶望ではない。その絶望を「システムの不備」と定義し、より完璧な社会を構築しようとする、狂信的なまでの使命感だ。

 

 

 

 

「……君は、私が思っていた以上に私の本質を理解してくれているようだ。ならば、なおさら理解できないな。何故拒む? その理解の先にこそ、共闘の道があるはずだが」

 

 

 

 

 デュランダルは心底不思議そうに、だが哀れむような慈愛の眼差しで俺を見た。

 

 

 

「……なぁ、議長。ある物語の話をしていいか。あんたの知らないであろう作品だが、けれど俺の大好きな話だ」

 

 

 

 

 

 

 俺は冷めきった紅茶のカップを揺らしながら、前世で見たあるアニメ――『銀河機攻隊マジェスティックプリンス』の記憶を掘り起こした。

 

 

 

 

 

「その世界では、地球は異星人の圧倒的な軍勢に侵略されそうになるんだ。その本格的な侵攻が始まる前に、人類は生き残るためにある計画を進めた。……遺伝子を操作し、戦うためだけに最適化された少年少女たちを作り出したんだ」

 

 

 

 

 議長は黙って俺の言葉を待っている。遺伝子操作と聞けば、コロニー・メンデルに所属していた彼には馴染み深いテーマだろう。

 

 

 

 

 

「彼らは自分たちのルーツも知らない。遺伝子に刻まれた特性に合わせて役割を与えられ、それ以外の記憶は消された。戦う以外に役目を与えられず、ただ生存のために、人類という種を繋ぐための『道具』として完成させられたんだ。……あんたの目指す世界も、似たようなものだろ?」

 

 

 

 

「……彼らは不幸だったのかい? 種の絶滅を回避し、自らの特性に合った場所で最大の成果を出す。それは一つの完成された幸福の形だとは思わないかな?」

 

 

 

 

 

 議長の声はどこまでも穏やかだ。だが、俺は首を横に振った。 

 

 

 

 

 

「その作品の主人公はな、遺伝子操作された出来損ないの『ザンネン』な奴らだった。けど、そんな奴が言ったんだよ。――『何も無いからこそ、何かが出来れば僕らが生まれた意味もあるんだ』ってね」

 

 

 

 遺伝子操作で作り出されて戦う運命を背負いながらも、ヒーローになる事を夢見た少年。ヒタチ・イズルの言葉と共に、俺は真っ直ぐに、プラントの最高権力者の瞳を射抜いた。

 

 

 

 

「記憶を消され、遺伝子で役割を決められ、戦うだけの道具にされたとしても、彼らはその中で笑い、恋をし、自分たちが守りたいもののために、自らの意思で戦うことを選んだ。……あんたのプランには、その『ザンネンな無駄』を楽しむ余地がないんだよ、ギルバート」

 

 

 

 

 思うところがあるのか俺の言葉に、デュランダルは少しの間、沈黙した。

 

 

 その瞳に迷いは感じられない。だが、かつてメンデルで研究に没頭していた「学者としての自分」と、現在の「最高評議会議長としての自分」との間で、何らかの思考が火花を散らしているようだった。

 

 

 

 

「……アニメの話だと馬鹿にするならそれでいいさ。だが、デスティニープランのことを考えると、どうしてもその物語の少年少女たちの事を考えてしまうんだ。果たして、あんたが統制する世界で、彼らはあんな風に、無邪気に、馬鹿みたいに笑うことができるのか?」

 

 

 

 

 俺は空になったカップを見つめ、静かに言い切った。

 

 

 

「もしもあんたが、プランを『強制』するんじゃなく、人々が自分の可能性を知るための手段として自由に遺伝子調査を行い、その上で自らの道を選べるような……そんな世界を共に創ろうっていうのなら、俺は喜んであんたの同志になってやるよ」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「だが、それはあんたが望む世界じゃないんだろ? あんたが求めているのは、個人の意思を超越した、完璧に調整された平和という名の『完成図』だ」

 

 

 

 デュランダルは、深く、長く、息を吐いた。

 

 

 

「……その通りだよ、ユウナ君。君の言う『自由な選択』こそが、この世界に果てしない争いと悲劇をもたらしてきた。私のプランに欠けているのは、君が愛するその『不確定な輝き』かもしれない。だが、それこそが病の根源なのだよ」

 

 

 

 議長は、憑き物が落ちたような、それでいて今まで以上に強固な意志を宿した瞳で俺を見た。

 

 







・議長のザク
 宇宙から降下したのか飛んできたのか。ちなみにユウナは知りませんが護衛の一人は通常ザクに乗ってますがレイです。設定的には肉体的に体力が落ちていく三十代でも、コーディネイターであればごく普通にMSを多少学べば動かせる辺り、ほんの少しだけナチュラルの怨嗟も理解できます。

・銀河機攻隊マジェスティックプリンス
 CGロボットアニメの傑作。当然この世界では放送されていませんので議長が知るよしもありません。彼らの設定はある意味デスティニープランが実行された世界の一つの末路の可能性を示しているのかもしれません。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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