破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

37 / 159
第三十七話 兵器と玩具(アスランではない)

 

 「……改めて見ると、やっぱり凄まじいな、これ」

 

 

 

 

 

 トダカが去った後、俺は一人、静まり返った執務室でモニターに表示されたグフイグナイテッドの内部構造図を睨みつけていた。

 

 

 

 

 腹の痛みも忘れ、俺の意識は再び「Gウェア」という、この世界には存在しないはずの概念に吸い込まれていく。

 

 

 

 

「四肢のジョイントのクリアランス、動力伝達のバイパス……。議長、プラントはただ汎用性を求めたつもりだろうが、これはもう、あの機体(ガンダムAGE)の思想そのものだ」

 

 

 

 前世の記憶にある、遥か未来か別宇宙の物語。そこでは、戦うたびに姿を変え、環境に適応し、進化し続ける「ウェア」というシステムがあった。

 

 

 

 

 • タイタスのように、圧倒的なパワーで全てを粉砕する重装甲。

 

 

 

 

 • スパローのように、レーダーすら置き去りにする超高速戦闘。

 

 

 

 

 ・ソーディアのように、バランスの取れた攻防一体の近接ウェア。

 

 

 

 

 どれも近接特化だって?脳筋AGE釜?いやでもゲーム版だと射撃ウェアの話なんかも出てくるから……。

 

 

 それはさておき、グフの四肢換装はバックパックを換装するだけのザクとは、根本的な「深度」が違う。機体の末端機能を丸ごと入れ替えることで、MSというプラットフォームを別次元の兵器へと変貌させる。

 

 

 

 

 確かに汎用性ではウィザードシステムや、あるいは連合のストライカーパックシステムに一日の長があるだろう。あちらは「背負い物を替えるだけ」で済む。戦場の母艦でクレーン一本あれば、数分で換装が完了する手軽さだ。

 

 

 

 

 

 だが、このグフが提示している「四肢の換装」は、その手軽さを捨てた代わりに、機体特性そのものを書き換える。

 

 

 

 

「……バックパックを替えるのは、言ってみればカバンを背負い直すようなものだ。だが、ウェアシステムは『筋肉と骨格』そのものを最適化する」

 

 

 

 例えば、重装甲を背負えば機動性は落ちるのが物理の常だ。だが、脚部そのものを重装甲の自重に耐え、かつ爆発的な推力を生む専用ユニットに「履き替えて」しまえば、その矛盾すらねじ伏せられる。

 

 

 

 採用されなかった理由は、考えればいくらでもわかる。整備性の劣悪さ、コストの増大、そして換装中の無防備な時間。数で押す大西洋連邦や、正規軍としての規格化を重視するザフトからすれば、こんな「じゃじゃ馬」は欠陥機扱いで当然だ。

 

 

「……だが、オーブは違う」

 

 

 

 

 

 俺は独り言を漏らしながら、拳を握りしめた。

 

 

 

 

 オーブの軍規模は、連合やザフトに比べれば圧倒的に小さい。何より、パイロットの絶対数が足りないんだ。限られた人員で、化け物じみた物量や、コーディネイターの精鋭部隊を相手にしなければならない。

 

 

 必然的に、俺たちが追求すべきは「平均点」ではなく、特定の局面にのみ特化した、一点突破の「圧倒的な質」だ。

 

 

「数で劣るなら、一機が十機分の働きをすればいい。その瞬間の戦場に最適な『姿』へ、骨格ごと作り変えて適応する。……これこそ、今のオーブに最も必要な進化じゃないか」

 

 

 アストレイが、ただ器用なだけの「何でも屋」で終わる時代はもう過ぎた。

 

 

 これからは、救援現場では『リビルド』や『ホスピタル』として人々の希望になり、戦場では『ウェア』を換装して敵の戦術を根底から無力化する。そんな「変幻自在の守護者」こそが、俺の目指すオーブ軍の形だ。

 

 

 

 

「とはいえ……ぶっちゃけると、具体的にどんなウェアを作ればいいのか? と言われると悩ましいんだよなぁ」

 

 

 

 

 俺は、真っ白な設計画面を前にして腕を組んだ。

 

 

 

 

 コンセプトには確信がある。だが、いざ実現するとなると話は別だ。

 

 

 

 

 例えば「スパロー」。あの神速の機動性能は、敵を瞬時に断ち切る「シグルブレイド」のような超高度な近接武装があってこそ成り立つ。だが、そんな未知の素材、今のオーブにゃ存在しない。他作品のネタをそのまま持ってきても、技術の断絶という物理の壁にぶつかるだけだ。

 

 

 

「タイタスもなぁ……。確かにビームラリアットで敵を粉砕するのは魅力的だが、そもそもオーブの国土防衛の基本は『水際で食い止めること』だ。敵に上陸を許して取っ組み合いの喧嘩をしてる時点で、防衛戦としては半分失敗なんだよ」

 

 

 海を越えてくる敵を、いかに本土に寄せ付けずに撃退するか。

 

 

 

 俺は過去に自分が関わった、あるいはモルゲンレーテが心血を注いできた「防衛用装備」を脳内でリストアップしていく。

 

 

 

 

 

 

「……そうだよな。冷静に考えれば考えるほど、うちの防衛網は既に『完成』しちまってるんだ」

 

 

 

 

 

俺はデスクに突っ伏し、自嘲気味に笑った。

 

 

 

 

 かつて開発した『ケイオス爆雷』。あれは単なる対潜兵器じゃない。ムラサメに搭載して空から降らせることもできれば、地上からバラ撒いて接近する敵を対空・対地問わず粉砕する、オーブが誇る「拒絶」の結晶だ。

 

 

 

 アンビリカルケーブルで繋がれた『エタニティアストレイ』の無限の砲火と、空からも陸からも襲いかかる『ケイオス爆雷』の弾幕。それに加えてリヴァイアサンだ。

 

 

 

 

 

「これがある限り、オーブ(島)に近づく敵は文字通り塵になる。……正直、最適解すぎるんだよな。これ以上の『防衛』なんて、わざわざ手足を替えてまで模索する必要があるのか?」

 

 

 

 整備性の悪さを忍んでまでウェアシステムを導入しなくても、既存の兵器を揃えて待っていれば敵は沈む。国土防衛という一点においては、ウェアなんて「過剰で不便な贅沢品」に過ぎない。

 

 

 ……そう考えれば考えるほど、俺の頭は冷えていく。

 

 

 さっきまでの熱狂が嘘のように、脳内にある「合理的判断」が、Gウェアというロマンの塊をゴミ箱へと放り込もうとしていた。

 

 

 

「……わからん。本当にわからんくなってきた」

 

 

 

 

 俺は頭を抱えた。前世の知識では「AGEシステム」は最強の進化だった。だが、ここは現実のSEEDの世界だ。ケイオス爆雷とエタニティがある以上、わざわざ四肢を引っこ抜いてまで戦況に対応する必要が、果たしてこの国にあるのか?

 

 

 

 煮詰まった俺は、逃げるように執務室を飛び出し、モルゲンレーテの奥深く、エリカのラボへと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ユウナ様。お顔が真っ青よ? そんなにトダカ一佐の拳が効いたのかしら」

 

 

 

 エリカさんは、徹夜明けとは思えない鋭い眼光で、俺が持ち込んだグフの図面とウェアの構想メモをチラリと見た。そして、一分と置かずに鼻で笑った。

 

 

 

 

「……で、この『手足を取り替える』っていう非効率極まりないおもちゃが、どうしたの?」

 

 

 

「お、おもちゃ!? いや、これはあらゆる環境に適応するための……」

 

 

 

「今のオーブにそんなもの、一ミリも必要ないわね。役に立たないわ。バッサリ切り捨てていいわよ」

 

 

 

 

 ……えぇ。そこまで言う?

 

 

 

 

「いい、ユウナ様。あなたの考えた『ケイオス爆雷』は、ムラサメに積めば空を制し、地上に撒けば陸を封じる。そして『エタニティ』が不落の砲台として居座り、海は『リヴァイアサン』が支配する。そして一般兵は『ドッズライフル』で敵を貫く。防衛において、これ以上のパズルは無いの。それなのに、わざわざ整備兵に泣きを見せて、戦場で手足をガチャガチャ付け替える? 愚策の極みよ。そんな暇があるなら、爆雷の生産ラインをもう一本増やしなさい」

 

 

 

 

 

 

 エリカさんの言葉は、今の俺が抱いていた不安を完璧に言語化して突き刺してきた。

 

 

 

 

 俺の「ロマン」は、彼女という現実主義者の前で、音を立てて崩れ去った。

 

 

 

 

「いい、ユウナ様。ザフトの選択は正しいわ。彼らがこの機構を採用せず、今の基本形態のみでグフをロールアウトさせたのは、軍隊としての極めて真っ当な判断よ」

 

 

 

 エリカさんは淡々と、だが残酷なほど正確に事実を積み上げていく。

 

 

 

 

「もし今からオーブでこのシステムを実用化しようとしたら、専用の生産ラインを構築し、四肢のジョイント規格を全て書き換えなきゃならない。形にするだけで、最短でも二年から三年はかかるわね。……今、この瞬間に戦争が起きているこの情勢で、そんな悠長な遊びに付き合えるほど、モルゲンレーテも暇じゃないの」

 

 

 

 だからこそ「おもちゃ」なのだ。

 

 

 

 どんなに画期的なアイデアであっても、必要な時に、必要な数だけ戦場に供給できなければ、それは兵器としての価値を持たない。

 

 

 

 これまでの俺の提案――リビルド、ホスピタル、ドッズライフル、ケイオス爆雷、エタニティ、盾艦――は、常に「今ある技術」を「今必要な形」に昇華させたものだった。現場の声を聞き、すぐに量産ができる兵器を。だからこそ、エリカさんは文句を言いつつも常に俺の言葉を信じて形にしてくれたのだ。

 

 

 リヴァイアサンは例外だが、アレに関しては連合のヴォーテクスに対する案が他には上がらなかったのも大きいだろう。ヴォーテクスが存在する以上、例え湯水の如く資材と資金を垂れ流してでもリヴァイアサンはオーブの国防の為には必須の存在だ。

 

 

 

 だが、このウェアシステムは違う。俺が「前世のロマン」に引きずられ、現実のオーブが置かれた逼迫した時間軸を忘れていた証拠だった。

 

 

 

 

 

 

「……そうか。納得だ。納得するしかないな」

 

 

 

 

 

 俺は深くため息をついた。

 

 

 

 

 トダカの腹パンの時より、ずっと重い衝撃が胸に響いている。俺は結局、自分が「物語を知っている」という万能感に酔っていただけなのかもしれない。

 

 

 

 

 エリカさんは、項垂れる俺を見て、少しだけ表情を和らげてフォローを口にした。

 

 

 

 

「……構想自体を否定しているわけじゃないわ。もし世界が平和で、五年、十年というスパンで次世代機を開発できるなら、あなたの言う『変幻自在のMS』は一つの理想形になるでしょうね。あなたの先見性は相変わらずよ。ただ――」

 

 

 

 

 

「……ただ、『今』じゃない。そういうことだろ」

 

 

 

 

 

 

 俺は自嘲気味に笑い、エリカさんの言葉を先回りした。

 

 

 

 

 

 そうだ。今は、ミヤビたちが外で命を削って外交の道を切り拓き、それを俺たちが全力で支えなきゃならない「戦時」なのだ。

 

 

 

 

 

「悪いな、エリカさん。変な夢を見た。……グフのこの機構は、封印しよう。今の俺たちに必要なのは、ロマンあふれる『未来の進化』じゃない。今日を生き延び、明日を守るための『現実的な力』だ」

 

 

 

 ふと、前世の記憶が脳裏を掠める。あのアニメの主人公、フリット・アスノだってそうだ。Gウェアを完全に組み込んだ量産機『アデル』を世に送り出すまで、彼は実に二十年近い歳月を費やした。

 

 

 

 

 そこには技術解析の難易度やイゼルカントの狂気の計画なども関係あっただろうが、それ以上に、最前線の兵士たちが求めていたのは「手足が替わる魔法の機体」ではなく、「今、目の前の敵を確実に殺せるドッズガン」の配備だったはずだ。

 

 

 

 軍にとって必要なのは、いつ届くかわからない理想の剣ではない。今、この瞬間に握れる確かな棍棒なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……そうね。理解が早くて助かるわ。軍にとって必要なのは『信頼性』と『即応性』。そして、戦場のどこにいても同じように修理ができ、同じように弾薬が補充できるという、退屈なまでの『共通化』よ」

 

 

 

 

 エリカさんは、俺が閉じた図面をトントンと指で叩いた。

 

 

 

「四肢を丸ごと取り替えるなんて、整備兵の教育だけで年単位。戦場での部品供給も地獄だわ。このシステムを無理にねじ込めば、オーブ軍の兵站(ロジスティクス)は一週間でパンクする。……そんなこと、国を背負う立場のあなたが一番よくわかっているはずよ?」

 

 

 

 ……仰る通りです。ぐうの音も出ない。改めてリヴァイアサンは如何に例外的な存在だったのか。深く理解する。

 

 

 

 ミヤビがあれだけ血を吐く思いで外堀を埋め、国費をやりくりしてリビルドやホスピタルを送り出しているんだ。その努力を、俺の「前世のロマン」という道楽で台無しにするわけにはいかない。

 

 

 

 

「納得したよ。俺が間違ってた。ウェアシステムはそうだな、この戦争が落ち着いたら……いや、平和が来た後の研究課題にでもしてくれ」

 

 

 

 

 俺は深く息を吐き出した。

 

 

 

 

 なんだか、憑き物が落ちたような気分だった。俺は「物語の知識」に縋って、この世界の現実を、オーブという国の背丈を見誤りかけていた。

 

 

 

 

「あら、そう。……でも、いい顔になったわね、ユウナ様」

 

 

 

 

 

 エリカさんは少しだけ、悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

 

 

 

 俺の「ロマン」という名の暴走をバッサリ切り捨てた彼女だったが、その手はまだグフの図面から離れていない。

 

 

 

 

「ウェアシステムは却下。でも、この機体そのものは実に面白いわね。特に私が注目したのはこれ――『スレイヤーウィップ』よ」

 

 

 

「……スレイヤーウィップ?」

 

 

 

 俺はモニターを覗き込んだ。

 

 

 

 いわゆるヒートロッド。ザフトのグフを象徴する、あのオレンジ色に輝く鞭だ。

 

 

 

 

「そう。ただの熱を持ったムチだと思ったら大間違いよ。これ、高周波振動を併用しているの。赤熱化した状態で叩きつければ装甲を溶断できるし、巻き付けて振動波を叩き込めば、敵機の電子系を直接攪乱して内部から破壊できる。……ね、これで出来ることと言えば?」

 

 

 

 

 エリカさんの問いに、俺はハッとした。

 

 

 

 

「……鹵獲(ろかく)だ。敵を破壊せず、無力化して引きずり込むのに最適だ」

 

 

 

「その通りよ。今のオーブ、特にミヤビ様が進めている救助活動の現場で必要なのは、敵を木っ端微塵にする火力じゃないわ。襲ってきた不埒な連中を、できるだけ『生きたまま』捕らえて、吐かせるための力。あるいは、暴走する機械を最低限の損傷で止める技術よ」

 

 

 

 

 エリカさんは楽しげに、スレイヤーウィップの振動サイクルを調整するシミュレーションを回し始めた。

 

 

 

「これなら実機とデータがある以上すぐに作り出せるし、ムチという性質上、扱いに技術はいるけれど……幸い、うちにはデータ集めに最適なパイロットのカナードがいるわ。彼にデータ収集してもらい、装備を改良してアストレイやムラサメに試験実装すれば、それは『今すぐ』現場で役に立つ武器になる。……ウェアシステムなんて待たなくてもね」

 

 

 

 俺は、自分の短慮を恥じると同時に、目の前の技術者の「凄み」に圧倒されていた。

 

 

 

 俺が遠い未来の「進化」を夢想していた間に、彼女は『今、目の前にある部品』から、オーブの外交に資する最適解を導き出していたのだ。

 

 

 

 

 

「……負けたよ、エリカさん。あんたが最高の技術者で、俺が『ザンネンな代表代行』だって、改めて理解したよ…」

 

 

 

 

「ふふ、認めるのが早くて結構。……でも、そのザンネンな発想力がなければ、私もこのムチの真価には気づけなかったわ」

 

 

 

 

 俺は、図面の端っこに書いてあった『AGE』の文を、苦笑いしながら消した。救世主の物語のなぞりじゃない。これが、俺たちの生きる「現実」のアップデートだ。

 

 

 

 

 





 CE世界でウェアを開発か!?と思いきや断念。それは混迷する情勢に余りにもそぐわないからという現実的な理由でした。今作でユウナが提案した兵器のほぼ全てが
・今ある技術ですぐに作れる
・どれだけ長くても半年程度で数を揃えられる

 この二つに加えて『現場の兵士の気持ち』に寄り添うという三つを軸に開発しているものばかりであり、どれだけウェアシステムが優秀であってもC.E.73という情勢にそぐわない、間に合わない、数を揃えられないという理由から断念されることになりました。


 ……唯一の例外はリヴァイアサン。コイツに関してはもう9割くらいヴォーテクスの異常な性能のせいです。


 次回であり、本日最後の投稿は早速そんなオーブ製スレイヤーウィップの実施試験の様子を20時から。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。