破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第四話 外伝知識は役に立つ

 

 

 

 

 トダカ一佐との密約を交わし、タケミカヅチを後にした俺は、高級車の後部座席で一人、手帳に殴り書きをしていた。

 

 

 今の俺にできるのは、記憶の底にある「年表」と現実のニュースを照らし合わせ、この世界が終わるまでのタイムリミットを計算することだ。

 

 

 

「……クソ、時期が正確に分からん……!」

 

 

 

 

 原作オタクの知識をもってしても、明確な日付までは思い出せない。だが、カガリがアスランを伴ってプラントへ向かったという事実。そして、間もなく行われるという新型MSの進宙式。

 

 

 

 

 それらをパズルのように組み合わせると、導き出される答えは一つ。

 

 

 

「『ブレイク・ザ・ワールド』……ユニウスセブンが落ちてくるまで、おそらくあと数週間か…いや下手すると数日か?」

 

 

 

 俺はペンを握る手に力を込めた。

 

 

 

 もし。もしも、俺が憑依したのが、あと数週間早ければ。

 

 

 

「あははー!皆聞いてよ!昨日『母さん』が『死ぬ』『夢』を見たんだー!いぇーい!」

 

 

 

 その言葉を、公務でプラントに赴く際、新型MSの近くにいるあいつら——「エクステンデッド」の前で連呼してやればよかったんだ。あの忌まわしいブロックワードを叩きつければ、あいつらはパニックを起こし、強奪作戦は瓦解したはず。

 

 

 

 そうすれば、カガリがあんなに苦しむことも、世界が再び戦火に包まれることもなかったかもしれない。

 

 

 

「……だが、今さらプラントへ追いかけるなんて親父が許すはずもないしな」

 

 

 今、俺が急に「カガリを追ってプラントに行く」なんて言い出せば、ウナトは間違いなく怪しむ。

 

 

 それに、だ。仮に通信が繋がったとして、現地のカガリやアスランに向かって「今すぐ『母さん』『死ぬ』『夢』と叫んでくれ!」なんて言ってみろ。

 

 

 

 ……間違いなく「ユウナ、ついに頭がイカれたか」と思われるのが関の山だ。アスランにいたっては、問答無用で通信を切るだろう。

 

 

 

「結局、俺はあの強奪を止めることはできない……物語の開始を、指をくわえて見てるしかないのかよ」

 

 

 

 無力感が、重くのしかかる。

 

 

 だが、絶望している暇はない。アーモリーワンでガンダムが奪われれば、世界は一気に加速する。ユニウスセブンが落ち、地球軍がプラントへ宣戦布告し、ロゴスが笑い、父上がオーブを売る。

 

 

 

 それまでに、何が何でも味方を増やさなければならない。トダカ一佐は「命を預ける」とまで言ってくれたが、マジ天使な善意だけに寄りかかって安心できるほど、俺の肝は据わっちゃいない。

 

 

 

 

 プランBとして「スカンジナビアへの亡命」は頭の隅に残しつつも、少しでもクーデターの成功率……いや、俺の生存確率を1%でも上げるために、脳内の原作知識をフル回転させる。

 

 

 

「……キラ・ヤマトに、接触するか?」

 

 

 最強のコーディネイター。彼が味方についてくれれば、これ以上のボディーガードはいない。だが、俺はすぐにその案を打ち消して、力なく首を振った。

 

 

 

 確かドラマCDの描写だと、今の時期のキラは、マルキオ導師のところでスプーンをカチャカチャさせながら「僕、なんで生きてるんだろう……」と完全にメンタルを病んで療養生活を送っているはずだ。

 

 

 そんな絶望のどん底にいる繊細な少年に、いきなり「やあ、カガリの婚約者のユウナだけど、未来を知ってるから一緒にクーデターしようぜ!」なんて電話してみろ。

 

 

 

 ……確実に余計な負担をかけて、発狂させる自信がある。

 

 

 

「今のあいつに、カガリやアスランから聞いた俺(ユウナ)の悪評をぶつけられた上で、さらに俺の電波な予言まで聞かせるのは……流石に鬼畜すぎるだろ」

 

 

 

 そこまで考えた時、ふと、原作のユウナがキラに何をしたかを思い出し、俺は再び自分の頭を抱えた。

 

 

 本編でのユウナは、病み上がりのキラに対して、カガリとの不本意な結婚を見せつけ、挙句の果てには彼の唯一の安らぎである「家族」すらも政治的なカードとして利用しようとした。

 

 

「……正直、本編であの場面でフリーダムにプチッと潰されなかっただけ、マシなことしてるな、俺……。あんなの、キラじゃなくても五体満足でいさせてくれないぞ」

 

 

 前世の俺が何をしたかは知らんが、今ここにいる俺は、少なくとも最強のコーディネイターの逆鱗に触れるような真似だけは全力で回避している。それだけで、俺の生存フラグは初期状態より数ミリは回復しているはずだ……と思いたい。

 

 

「今は、キラやラクスを巻き込む時期じゃない。あいつらは、オーブが本当に火の海になる時の最後の切り札だ」

 

 

 

 そう自分に言い聞かせ、俺は思考を切り替えた。悲観していても時間は止まってくれない。ならば、今この「身軽な御曹司」という立場を最大限に利用して、もう一つの『力』に触れておく必要がある。

 

 

 

 

「ねえ、君。まだ少し時間あるよね?」

 

 

 

 俺は、前を向いて運転しているセイラン家お抱えの運転手に、わざとらしく、いかにも世間知らずの坊ちゃんといった風な馴れ馴れしい声で話しかけた。

 

 

「あー……その、なんだ。MSの『アストレイ』? あれもまだ就役前の新型があるんだろ? ちょっと見学に行きたいなー。タケミカヅチだけじゃ、僕、なんだか物足りなくなっちゃってさー!」

 

 

「えっ……? し、しかしユウナ様、本日はウナト様がお戻りをお待ちで……」

 

 

 

「いいじゃないか、ちょっとだけだよ。父上には僕から上手く言っておくからさ。ね? 行こうよ、モルゲンレーテ!」

 

 

 

 困り果てる運転手を半ば強引に丸め込み、行き先を変更させる。目的は、最新型MSの試作機を拝むことじゃない。モルゲンレーテ社の重鎮であり、アストレイの主任設計技師――エリカ・シモンズ氏とのコンタクトだ。

 

 

 

 オーブの技術の結晶であるMS(モルゲンレーテ)を、セイランという「政治の私物化」から守るためには、彼女のような技術側のトップを味方につける、あるいは危機感を共有させておくことが不可欠だ。

 

 

 

(エリカさんなら、トダカ一佐とも通じているはずだ。彼女に、この先起こる『最悪の事態』を……『技術が売国に利用される恐怖』を、俺の口から直接吹き込んでおく)

 

 

 

 もし彼女が、自らの造った「子供たち」を、ロゴスのために、あるいは地球連合の尖兵として使われる未来を拒絶してくれれば。いざという時、軍のハードウェアそのものに、セイラン家の私兵が解除できない「ロック」をかけてもらえるかもしれない。

 

 

「……ふふ、楽しみだなあ。新型MS、かっこいいんだろうなあ」

 

 

 

 車窓に映る自分の顔は、相変わらず無能な笑みを浮かべている。

 

 

 

 だが、その脳内では、トダカという『軍事の盾』に続き、エリカという『技術の楔』を打ち込むための、綱渡りのような交渉術を必死に組み立てていた。

 

 

 

 救世主は来ない。ならば、この世界の天才たちを、俺という「泥舟」に一人ずつ引きずり込んでいくまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さあ、着いたよ。モルゲンレーテだ!」

 

 

 

 俺は子供のような足取りで車を降りた。

 

 

 出迎えるのは、オーブの技術の結晶アストレイを生み出した主任設計技師、エリカ・シモンズ。あの聡明で、すべてを見透かすような瞳を思い浮かべるだけで胃が痛む。

 

 

 彼女に突きつける「二つの妙案」。一つ目は、先程も考えた通り、モルゲンレーテという「技術の心臓部」を親父たちの独裁から切り離すための仕掛け。システムへのバックドア、あるいは特定の条件下で作動するプロテクト。

 

 

 これを彼女の「技術者としての良心」に訴えかけ、極秘裏に用意してもらうことだ。

 

 

 

 そして、もう一つ。

 

 

(……これこそが、俺の生存戦略における最大の切り札。だが、こればかりは今、誰にも悟られてはいけない)

 

 

 

 俺は、頭の片隅にある「原作知識のさらに外側」をなぞる。

それは、エリカ・シモンズという人物が持つ、軍事技術者を超えた『あるコネクション』を利用した、あまりにも危険で、あまりにも周到な「保険」。

 

 

 もしこの二つ目が成功すれば、俺はたとえオーブが火の海になろうとも、あるいは歴史の濁流に飲み込まれようとも、泥にまみれて生き延びることができる。

 

 

 だが、その内容はあまりに突拍子もなく、今はまだ、俺という人間の胸の内にだけ秘めておくべき劇薬だ。

 

 

 

(……うわ、やば。本物だ。本物のM1アストレイがこんなに……!)

 

 

 

 

 視界を埋め尽くす、オーブが誇る量産型モビルスーツの群れ。

 

 

 

 

 モニター越しに見ていた時は「量産機だしな」なんて思っていたけれど、実物の質量感はとんでもない。あえて装甲を最小限にして、骨組み(フレーム)を露出させることで運動性を極限まで高めた設計。その剥き出しの赤いフレームが、工場灯の下で鈍く、生々しく光っている。

 

 

 

 

(このスリムな脚部! この可動範囲の広さを予感させる独特の関節構造……! これが、あのキラ・ヤマトがOSの土台を作ったっていう機体か……。たまらん、設定資料集の実物が目の前にある……ッ!)

 

 

 

 

 

 俺は内心で絶叫していた。

 

 

 ネットで、あるいは公式設定集で穴が開くほど読んだあのデータが、今、手で触れられる距離にある。バックパックに装備された大型スラスターのノズル、その焼けたような金属の質感。シールドの裏側にマウントされた予備のビームサーベル……。

 

 

 

 だが、俺の興奮を最高潮に叩き上げたのは、その奥に鎮座していた「新型」だった。

 

 

 

(……ムラサメ! オーブ軍の次期主力、可変MS……!)

 

 

 

 

 アストレイの設計思想を受け継ぎつつ、大気圏内での飛行能力を付加した、あの洗練された戦闘機形態(ウェイブライダー)への変形機構。

 

 

 

 あの機首になるシールド、主翼になるバインダー。アストレイよりも一回り大きく、重厚さを増した装甲。

 

 

 

(ネットの掲示板じゃ『ゼータのパクリ』とか言われてたけど、実物は全然違う。この機能美、この変形プロセスを想像しただけで、飯が三杯は食えるぞ……。え、待って。あの頭部の76mm近接防御機関砲『イーゲルシュテルン』、配置が絶妙すぎないか?)

 

 

 

「わぁー、すごいねぇ! これが新しいおもちゃ? 飛行機になっちゃうんだっけ? いやあ、かっこいいなあ。僕、これに乗りたいなー。ねえエリカさん、これに僕専用のカッコいい塗装とかできない?金色とかどうかな?」

 

 

 

 俺は鼻の下を伸ばし、わざとらしく、いかにも「性能なんて興味ないけど、派手なメカに興奮してる子供」のような、薄っぺらいキザな声を張り上げた。

 

 

 

 実際、興奮しているのは事実だ。ただし、理由が「設定マニアのオタク」なだけだ。エリカ・シモンズ主任は、アストレイの脚部をベタベタと触りながら(実際は装甲の質感を確かめていただけだが)、鼻息を荒くしている俺を、冷ややかな、あるいは憐れみすら混じった瞳で見つめている。

 

 

 

(よし、いいぞ。その『救いようのない馬鹿を見る目』、最高だ。これなら誰も、俺がこの機体たちのOSにバックドアを仕込もうなんて考えてるとは夢にも思うまい)

 

 

 

 俺は内心でガッツポーズを決めつつ、ムラサメの足元をフラフラと歩き回る。

 

 

 

 

 

 その瞳の奥で、このオーブの至宝たちを、いざという時に俺の命を救う「最強の盾」へと変えるための算段を冷徹に整えながら。

 

 

 

「……ですからユウナ様、ムラサメの可変機構は極めて繊細なものでして。金色の塗装などは重量バランスを崩す恐れがございます」

 

 

 

 

エリカ・シモンズは、内心で深いため息をついた。

 

 

 忙しい。死ぬほど忙しいのだ。M1アストレイの改修、次期主力機ムラサメの最終調整。その最中に現れたこの「オーブの獅子の後継(予定)」は、機体の性能諸元を理解しているのかも怪しい口ぶりで、ベタベタと装甲を触りながら、さっきから「イーゲルシュテルンの配置が芸術的だ」だの「このフレームの露出がたまらない」だの、的外れなのか鋭いのかよく分からないことを喚き散らしている。

 

 

 正直、鬱陶しい。

 

 

 

 だが、相手はセイラン家の御曹司だ。無下にすれば現場にどんな圧力がかかるか分かったものではない。

 

 

 

「ねえ主任、もっと色々聞かせてくんない? ほら、この機体の『中身』の話とかさ。僕、興味あるんだよねー」

 

 

 

(……これ以上、現場の手を止めるわけにはいかないわね)

 

 

 

 彼をこのまま放置すれば、好奇心に任せて部下たちの作業を妨害し続けるだろう。エリカはプロフェッショナルとしての決断を下した。自分が毒皿を食らう。つまり、自ら案内役を買って出ることで、被害を最小限に食い止めるのだ。

 

 

 

「……分かりました。では、あちらの個室で資料をお見せしながらご説明しましょう。皆さん、作業に戻って」

 

 

 

 部下たちが露骨にホッとした顔で散っていく。エリカはユウナを促し、機密保持が徹底された奥の小会議室へと案内した。

                 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 重厚な自動ドアが閉まり、室内には二人きり。

 

 エリカは事務的に端末を起動しようとしたが、その背後で、ユウナの発した言葉に指先が凍りついた。

 

「——それで? 三体目のMSは、ここにはいないんだね」

 

 

 

 先程までの鼻にかかった甘ったるい声ではない。

 

 

 

 低く、落ち着いた、そして確信に満ちた声。

 

 

「……三体目? アストレイとムラサメのことでしたら、今ご覧に入れた通りですが」

 

 

「とぼけないでよ。M1でもムラサメでもない、ウズミ様が遺した『黄金の遺産』の話だよ。……『アカツキ』は、今どこにあるのかな?」

 

 

 

 エリカはゆっくりと振り返った。その瞳には、先程までの事務的な対応は微塵も残っていない。鋭い、技術者としての、そしてこの国の機密を守る守護者としての「殺気」が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうして、その名を。それは代表首長直轄の極秘開発プロジェクト。ウナト代表代行ですら、その存在の詳細は関知していないはずですが」

 

 

 

 エリカの右手が、デスクの下にある非常警報ボタンへ迷いなく伸びる。室内の温度が数度下がったかのような錯覚を覚えるほどの殺気。

 

 

 

「名前は……まあ、ウズミ様がカガリが産まれた時の演説で『夜明け(アカツキ)』がどうとか言ってたじゃない? あの人、かなりの愛娘家だったし。カガリのために何か遺してるなら、その名前をつけるかなって、僕なりの推理だよ。……あ、当たってた? 凄いな僕、天才かも!」

 

 

 

 俺は再び「無能な御曹司」の皮を被り直し、おどけたように肩をすくめた。

 

 

 エリカは毒気を抜かれたのか、それとも底知れぬ気味悪さを感じたのか、ゆっくりとデスクから手を離した。だが、その瞳の奥には、確かな「侮れなさ」が刻まれている。

 

 

「……演説の一節から、そこまで飛躍した推論を? まさかとは思いますが……ユウナ様、あなたは本当は……」

 

 

「お遊びはそこまでだ。シモンズ主任」

 

 

 

 俺は彼女の言葉を遮り、再び声を低くした。

 

 

「カマをかけてまでその名を出したのは、単なる好奇心じゃない。シモンズ主任、僕はその『黄金の機体』を盗もうなんて思ってない。ただ、これからオーブに……いや、世界に訪れる『最悪の事態』において、その機体が誰の手に渡るべきか、君に考えておいてほしいだけなんだ……シモンズ主任、端末の通知は放っておいてくれ。今は僕の話が先だ」

 

 

 俺は鳴り続ける雑多な業務通知を無視し、エリカ・シモンズの瞳を正面から射抜いた。彼女が戸惑い、非常警報ボタンから完全に手を離したのを確認して、俺は極めて事務的に、かつ冷徹に「二つの依頼」を突きつけた。

 

 

 

「一つ目だ。モルゲンレーテが今後製造する全機体、特に次期主力の『ムラサメ』のOSに、僕だけがアクセスできるバックドアを仕込んでほしい。親父も、その背後の連中も、誰も知らない僕だけの『裏口』だ。いざという時、この国の技術が彼らの独裁のために使われるのを、僕の手で物理的に止められるようにね」

 

 

 エリカが息を呑む。それは技術者としての禁忌であり、同時に「オーブの技術を私物化から守る」という彼女の矜持を試す言葉だ。

 

 

「……正気ですか、ユウナ様。それは国家反逆罪に等しい行為ですよ」

 

 

「生存戦略と言ってほしいな。そして、もう一つ。これこそが僕の命綱だ」

 

 

 俺はさらに声を潜め、彼女の耳元で、本来この世界の「表の人間」が知るはずのない情報を告げた。

 

 

「——エリカ主任、君のコネクションを使って、ある連中にコンタクトを取ってほしい。一人は、サーペントテールの叢雲劾。もう一人は……『傭兵部隊X』のカナード・パルスだ。彼らと、僕個人との間に秘匿回線を用意してくれ」

 

 

「……っ!? なぜ、その名を……!」

 

 

 

 

 エリカ・シモンズの顔から血の気が引いた。技術者として裏社会の機材調達や情報網にも関わる彼女だ。最強の呼び声高い傭兵「サーペントテール」の名はまだわかる。

 

 

 

 だが、ユーラシア連邦の特務部隊を脱走し、今や神出鬼没の傭兵となった「傭兵部隊X」のカナード・パルス……。その存在は、軍の上層部でも一部しか掴んでいないはずの情報だ。

 

 

 

 エリカは、カナードが「スーパーコーディネイターの失敗作」であるという真実までは知らない。だが、極めて危険な脱走兵を擁する武装集団の名を、この温室育ちの御曹司が口にしたことに、形容しがたい戦慄を覚えたのだ。

 

 

 

 

「……ユウナ様、なぜユーラシアの脱走兵たちの名まで? 彼らはあなたが関わっていいような相手では……」

 

 

 

「いいじゃないか、別に。傭兵のカタログ(リスト)なんて、調べようと思えばいくらでも手に入るよ。うちの父上……ウナト・エマ・セイランが、自分の周りを金で雇った私兵で固めてるのは、社交界じゃ有名な話だろ?」

 

 

 

 俺は、いかにも「父親の真似事をしてみたい子供」のような、傲慢で浅はかな笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

「父上がやるなら、僕だって自分の身を守る『最強のボディーガード』が欲しくなる。……色々調べたけど、任務成功率がずば抜けて高いのは、この二つの部隊だったんだ。僕、失敗するのって大嫌いなんだよね」

 

 

 

 もちろん嘘だ。カタログなんて存在しないし、俺が知っているのは前世の「外伝知識」だ。だが、エリカのような理知的な女性には、「父親への対抗心から、最高級の用心棒を調べ上げた」という身勝手な動機を提示する方が、彼女の中にある『無能なユウナ像』と合致して納得しやすい。

 

 

「……成功率、ですか。しかし彼らは……」

 

 

 

 

「金なら出す。セイランの裏口座からね。エリカ主任、君なら彼らへの『窓口』を知っているはずだ。僕が直接動くと目立つからさ、君が間に入って秘匿回線を用意してほしいんだ……やってくれるね?」

 

 

 

 俺は再び、無害で無能な「ユウナ・ロマ・セイラン」の笑みを顔に貼り付けた。

 

 

 

 エリカは目の前の男が「ただの道楽息子」なのか、それとも「すべてを見通して、あえて無能を演じている怪物」なのか。彼女の脳内では、かつてないほどの激しい葛藤が起きていた。

 

 

 

「……承知いたしました。秘匿回線の構築と、仲介の打診。極秘裏に進めさせていただきます。……ただし、これら全ての準備には時間がかかります。それに、彼らが契約に応じるかどうかも……」

 

 

 

「いいよ、時間は作る。彼らだって、オーブの次期元首予定からの『先行投資』なら、無下にはしないだろ?」

 

 

 

 俺が満足げに頷いたその時、ようやくドックの喧騒が耳に戻ってきた。

 

 

 

 まだ世界は、嵐の前の静けさを保っている。プラントで何かが起こるまで、あとどれだけ余裕があるのだろうな?

 

 

 

「さあ、案内役の続きを頼むよ、主任! 僕、やっぱりあのムラサメの翼の形が気になっちゃってさぁ!」

 

 

 

 

 俺は再び、救いようのないボンボンの声を張り上げた。

 

 

 

 エリカ・シモンズは、まるで幽霊でも見たかのような顔で、俺の背中を、そしてその向こうにある「黄金の機体」が眠る島の方向を見つめていた。

 

 





 まとめて投稿終わり!次回からも出来る限り早く投稿するのでお待ちください。

・エリカとの交渉
トダカさんは全力で泣き落としましたが、エリカさんには原作知識を利用してアホのボンボンなのかそれともキレ者なのか?と困惑させる事に。中身は生存したいと足掻くだけの破滅フラグがベッタリとこびりついた憑依転生者ですが。

・サーペントテールと傭兵部隊X
外伝作品をほとんど知らないユウナであっても知ってる有名な部隊。サーペントテールは基本長期任務は滅多に受けませんので本命は傭兵部隊Xだったり。万が一オーブが連合かザフトに焼かれる際に外伝トップクラスの技量を持つ彼らを参戦させることで生存確率を少しでも上げようとしています。とはいえその結果アストレイ本編では色々と大変になりそうですが……ロウ達には頑張ってもらうしかありませんね。


どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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