破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
空を覆う巨大な背負い式円盤から放たれるのは、神の怒りにも似た破壊の光。
『シュトゥルムファウスト』の斉射が石造りの街並みを一瞬で砂塵に変え、高エネルギー長射程ビーム砲『アウフプラール・ドライツェーン』の奔流が、人々の叫びを熱線の中に掻き消していく。
「……死ぬのは、嫌……。怖いのは、全部、やっつけなきゃ……!」
巨大な殺戮機械、デストロイ。そのコクピットの中で、ステラ・ルーシェは狂気に満ちた瞳でトリガーを引き続けていた。
デストロイが最初に牙を剥いたのは、非武装の都市ブリュッセルだった。ザフトの基地さえ存在しないその街を焼いたのは、単なる「見せしめ」だ。ロゴスの支配に従わぬ者への、冷酷な警告として人々は焼かれたのだ。
ブリュッセルを灰燼に帰した巨躯は、止まることなく次の標的、欧州の中心地たるパリへと向かう。
原作において、ベルリンに到達する前に壊滅させられた三つの都市。この世界ではその中に史実では存在しなかったその花の都も含まれていた。パリが狙われた理由は、そこがユーラシアにおける文化と経済の結節点であり、ロゴスにとって「恐怖を植え付けるのに最も効率的な場所」だったからだ。
上空でその地獄を見下ろすネオ・ロアノークの仮面の下には、拭い去れない罪悪感が滲んでいた。
(……済まないな、坊主。ステラは必ず暖かい世界に返すと、そう約束したんだがな……)
かつてあの少年――シン・アスカと交わした「彼女を二度と戦わせない」という約束。ムウ・ラ・フラガとしての記憶は失われていても、魂に刻まれた「守るべきもの」が、この裏切りを責め立てる。だが、ロゴスの命令は絶対であり、ジブリールの狂気は加速している。
「ネオ……怖いもの、まだいるの? ステラ、全部消さなきゃいけないの……?」
「……ああ。そうだ、ステラ。次はパリだ。そこにある怖いものを全部消せば、どんどん楽になって、終わる……」
「うんっ…!」
満面の笑みでネオのために奮闘して人々を殺戮し、ブリュッセルを焼き払い、今まさにパリを蹂躙せんとするデストロイ。
用意周到に計画された殺戮のスケジュール。ベルリンでザフトの駐留部隊と正面からぶつかる前に、デストロイは欧州の象徴たる都市を一つずつ確実に、そして無慈悲に「消去」する為に進撃するのであった。
その虐殺の嵐が花の都へ届く寸前、一筋の通信がオーブ本国のユウナへと繋がった。
発信元は、欧州の戦域で待機していたカナード・パルスだ。
「おい、クソボンボン!状況は最悪だぞ…!」
カナードの声には、隠しきれない苛立ちと殺気が混じっていた。彼は東アジアでの活動を切り上げ、連合の不穏な動きを察知してベルリン近郊で待機していたのだ。だが、敵の進撃速度は想定を遥かに超えていた。
「この蛮行……お前は予想してたのか? 敵はベルリンを素通りしてパリへ向かっていやがる。俺は今からドレッドノートイータをフル稼働させて、デストロイの進路を塞ぐ位置へ跳ぶ。……返答次第じゃ、お前の首もセットでぶち抜くぞ」
モニター越しのユウナは、平然としているように見えた。だが、その声音には微かな、しかし確かな震えが混じっていた。
「……ベルリンだと思ってた。ロゴスの焦燥を読み違えたよ。すまない、カナード……頼む」
カナードはその震えを鼻で笑い、通信を切るのであった。
現場では、すでに「想定外」の激戦が始まっていた。パリへと続く広大な森。そこは、本来の史実よりも遥か手前の地点だ。
そこには、キラ・ヤマトのフリーダム、そしてオーブ所属のムラサメ隊が、逃げ惑う避難民の時間を稼ぐために地獄のような火線を潜っていた。そして何より驚くべきは、ザフトのミネルバが、原作とは比較にならないほどの迅速さで現場に急行し、インパルスを最前線へ投入していたことだ。
辺りはデストロイが放つ熱線と、迎撃の砲火で一面の火の海と化している。
(……デュランダルの奴、もしかして『史実』ではわざとミネルバに情報を伝えるのを遅らせていたのか……?)
ユウナは、冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
かつての会談で、俺は彼にこう告げたはずだ。「あんたは神官だと言ったろ。なら、最後までその気高い理想を掲げて戦え」と。奴は、俺に言われた通り、救世主としての役割を律儀に果たそうとして、この世界では迅速にミネルバを動かしたのか?四つの都市を消滅させて世論を煽るのではなく、迅速にデストロイを撃破しようと。
「……ッ、カナード。聞け」
ユウナは通信機を握りしめ、冷徹な指示を飛ばす。
「現場に着き次第、ドレッドノートイータのドッズスナイパーライフルを上空で構えろ。……迅速に、最短でコックピットを狙撃して、ステラ……いや、デストロイを沈めてくれ。終わったら、すぐに帰還しろ」
その言葉の端々が、わずかに震えていた。
「……おい。声が震えてるぞ、クソボンボン」
カナードの冷ややかな指摘が刺さる。
無理もない。俺がやろうとしているのは、原作でシンが必死に守ろうとした少女の、その命を「効率」の名の下に奪えという命令だ。政治家として、独裁者として、これ以上の被害を出さないための最適解。だが、それはあまりに血も涙もない。
「……いいから、行け。頼む、カナード」
「フン……分かってるよ。俺はあんたの『汚い手』だ。汚れ仕事は慣れてる」
「……ごめん」
通信が終わる。ユウナは、何も言えず、ただソファーに崩れ落ちるしかなかった。
画面の向こう、パリ近郊の燃える森では、信じられない光景が展開されていた。
史実では出現しなかったはずの、連合の巨大甲殻MAザムザザーが複数機、デストロイの護衛としてムラサメ隊の前に立ち塞がる。
陽電子リフレクターを展開し、鉄壁の防御を誇るそのバケモノに対し、オーブのムラサメ隊は一切の躊躇なく、ユウナが供給した『ドッズライフル』の銃口を向けた。
「――全機、収束貫通モード。照射!」
次の瞬間、眩い光の奔流がザムザザーのリフレクターを「貫通」した。
本来、物理的なビーム耐性を誇るはずの装甲が、ドッズライフル特有の回転する高密度エネルギーによってバターのように抉られ、爆散していく。一瞬。わずか一斉射で、連合が誇る巨大MAがただの鉄屑へと変えられた。
火の海と化した森の中で、ドッズライフルの残光が不気味に、そして頼もしく尾を引く。
その混乱を切り裂くように、ドレットノートイータが加速する。カナードは青白い光を撒き散らしながら、地獄の真っ只中へと、その「牙」を突き立てるべく突入していったのだった。
パリ近郊の燃え盛る森。地獄を具現化したような火の海の中で、運命の歯車が激しく火花を散らしていた。
絶叫しながらデストロイに縋り付くシンのインパルス。だが、ステラの狂気は止まらない。暴走した巨躯が、その巨大な腕を振り上げ、縋り付く紅い機体を叩き潰そうとしたその時だった。
上空から蒼い翼が舞い降りる。キラ・ヤマトのフリーダムだ。
キラは、暴走するデストロイを止めるにはもはや中枢を叩くしかないと判断した。彼は原作の軌跡をなぞるように、二条のビームサーベルを抜き放ち、その巨大な胸部――コックピットへ向けて肉薄する。
「やめるんだ……これ以上は!」
キラがその刃を突き立て、少女の命を奪う「その瞬間」が、スローモーションのように訪れようとしていた。
その光景を、遥か上空からドレットノートイータの照準器越しに見下ろす男がいた。カナード・パルスだ。
引き金にかけた指が、わずかに沈む。
(――キラ・ヤマト…俺の……!!)
完成された『スーパーコーディネイター』。かつて憎み、その背中を追うことだけを糧に生きてきた男が、今、無防備な背中を晒して目の前にいる。
今、銃口を数ミリ動かすだけで、俺の因縁は終わる。欠陥品が完成品を超えるという、虚しい証明ができる。
だが、その衝動は、一瞬で消えた。
脳裏をよぎったのは、通信越しに聞いたユウナの、あの情けないほどに震えていた声だ。あいつは、キラにこんな汚れ役を押し付けたくなかったのか。それとも、この殺戮者の末路を、自分の陣営の手で葬ることで何かを背負うつもりなのか。
「……フンッ…ソイツは俺のターゲットだ。キラ・ヤマト…!」
カナードは、キラ・ヤマトへの執着をその一瞬で断ち切った。
キラのビームサーベルがデストロイの装甲に触れる、そのわずか数秒前。
ドッズスナイパーライフルが、重厚な音と共に吼えた。
超高密度に圧縮され、螺旋を巻いて放たれた光の弾丸。それはデストロイの陽電子リフレクターを強制的にこじ開け、キラのサーベルが届くよりも早く、その中枢を正確に撃ち抜いた。
――爆発。
デストロイの巨躯が内側から膨れ上がり、猛烈な爆風がフリーダムとインパルスを弾き飛ばす。中にいた少女の肉体と意識は一瞬で蒸発し、爆炎の中で一瞬にして霧散した。
「――っ!?」
目の前で標的を「奪われた」キラは、衝撃の中で動きを止めた。自分の手が届く前に、誰かがこの地獄を断ち切ったのだ。
「ステラァァァァ!!!!!!」
そして、爆心地に取り残されたシンの絶叫が、通信回線を通じて森全体に響き渡る。
カナードは、その慟哭を聞く前にスラスターを最大出力で噴射した。
「任務完了だ、ユウナ。……お前の望み通り、あの男の手は汚れなかったぞ」
背後に広がる爆炎と、愛する者を失った少年の叫びそれを置き去りにして、カナードは汚れ役を完遂した。
戦士の冷徹さで、オーブへの帰還路へと機体を向けた。
周囲では、一糸乱れぬ動きのムラサメ隊が、ドッズライフルを携えて残敵の掃討を開始していた。史実では無敵を誇った連合の大型機機群が、回転する光の弾丸によって次々と、そして事務的に沈められていく。
その効率的で無機質な「戦後処理」の光景の中で、キラはただ呆然とインパルスを見つめていた。
シンの泣き叫ぶ声が、機体を震わせるほどの衝撃となって伝わってくる。
(僕は……今……)
キラはインパルスのパイロットに、どんな言葉をかけるべきか分からなかった。いや、かける資格がないとさえ感じていた。
一瞬前、自分は間違いなく殺意を持って、あのコックピットにサーベルを突き立てようとしていた。かつて明確な憎悪を向けたラウ・ル・クルーゼを討った時のように、衝動に任せて命を終わらせようとしていた自分。
そして、目の前で崩れ落ちているインパルスの少年。その姿が、かつてフレイを失い、深い闇の中で慟哭した自分自身の姿と重なり、キラの心を激しく揺さぶる。
もし、あの狙撃がなければ。
自分が手を汚し、あの少年にとっての「決定的な仇」になっていたとしたら――。
「……う、あああああぁぁぁっ!!」
少年の絶叫は、炎に包まれた森を切り裂き、何も救えなかった自らへの呪詛のように響き続ける。
キラはただ、血を吐くようなその声を聞き続けることしかできなかった。
そこへ、空を裂くような高出力の駆動音が割り込む。
ドッズライフルを携えたオーブ軍ムラサメ隊の編隊だ。彼らは逃走を図ろうとしていたカオスガンダムを瞬時に包囲し、容赦のない集中砲火を浴びせた。
螺旋を描くドッズライフルの光の奔流。それはカオスの装甲を紙細工のように抉り、一瞬ののちに爆散させた。本来なら苦戦するはずの強敵さえ、今の彼らにとっては「排除すべき障害」に過ぎなかった。
「キラ様! 周囲の脅威は排除しました! 速やかに帰還を!」
ムラサメのパイロットから焦るような声の通信が、フリーダムのコクピットに響く。
キラは、目の前で泣き崩れているインパルスに、一言も声をかけることができなかった。
自分が殺そうとした事実。そして、自分に代わって「誰か」が彼女を消し去った事実。
「僕は…僕はまた…!何も救えなかった……!!」
キラは溢れる涙を拭うこともせず、ただ震える手で操縦桿を引き、逃げるようにアークエンジェルへの帰路につくのであった。
――後に残されたのは、燃える大地の中心で、動かなくなったインパルスと一人の少年だけだ。
シン・アスカは、ステラを奪った「光」がどこから来たのかさえ分からなかった。
史実であれば、目の前でサーベルを突き立てたフリーダムという明確な「仇」がいた。憎むべき対象がいたからこそ、彼はフリーダムへの憎悪を燃やせた。
だが、今のシンには、憎しみをぶつける相手すら見当たらない。
デストロイを撃ち抜いたのは、あまりに遠い空からの、あまりに無機質な謎の一撃だったのだ。
「……ステラ……。ごめん、ステラ……。俺が、俺がもっと……」
憎悪を抱くことすら許されず、シンはただ、守れなかったという圧倒的な無力感と、救えなかった事実の重さに押し潰されていた。
戦場には、焼け焦げたパリの森と、二度と戻らない命の灰、そして理不尽な喪失感だけが取り残されていた。
・ロゴス
前回のお話で悲観的になりすぎてないか?という意見がありましたが……小説版によると
・地球圏に存在するほぼ全ての国家と企業と関係を持っていた
・地球の主要国家は連合加盟・非加盟を問わずに指導者たちの暗殺・リコール・追放に晒された結果、地球国家は政府がガタガタになっており安定した政権が存在しないまま力を失った
・それに加えて巨大なグローバルカンパニーは機能不全か倒産し経済恐慌に陥った
とかなりの地獄になったらしく、あのカガリですら「彼等(ロゴス)のグローバルカンパニーと関わりのない国などあるものか!」と言い出すレベルなので政治的な混乱は凄まじいことになったでしょうね。唯一プラントは新興国なのでロゴスとの関わりはなかったようですが。
・ブリュッセル
原作では三都市+ベルリンが焼き払われましたが、今作ではベルギーのブリュッセルが犠牲となる事に。オーブの介入により攻撃目標が見せしめの為に大都市を中心に焼き払い、ユーラシアの旧首都に加えて最終目標は東アジアという壮大な横断計画となっており、その為なのかザムザザーなども参加する大規模なものとなっていました。ユウナは原作知識を得て予めカナードにベルリンに待機させていましたが、原作とは違った流れとなりブリュッセルは犠牲となるのでした。
ジブリールのお題目?ツギハギだらけの機体とコーディネイターのパイロットの噂を聞いてブチギレながら、機密がどうとかでっち上げるんじゃないかな。原作では親コーディネイターが広まりつつある西ユーラシア地域を中心に焼き払いましたが今作ではそれに加えてオーブの影響を受けた地域を標的にしたようです。
・カオスガンダム
この時点でミネルバから交戦データをある程度停泊中に提供されている上にドッズライフルの一斉射に耐え切れるはずもなく爆散。スティングはデストロイに乗る前に戦死してしまいましたがある意味幸せだったかもしれません。
・デストロイ
感想欄でリビルドデストロイを期待している方がいましたが、今回はカナードが姿を見せずに一撃で迅速に破壊するのが本来のミッションであった為、コックピットを撃ち抜いた後は即撤収となりました。ちなみに原作通りの戦力で攻めていれば、ドッズライフル装備のムラサメ隊でもっと早く撃墜出来ていましたが避難民の警護や山林という地形に加えて原作と比べて兵力+MAが多かったのが苦戦に繋がりました。
・メンタル
キラはこの結果表には出せませんがかなり引きずる事になり、シンは原作と違い遺体すら触ることもできず、更にフリーダムに怒りを向けること出来なかった為ほぼ廃人のような状態に。ユウナは自身のミスを自覚して吐き気を覚えつつアークエンジェルとの通信を覚悟するのでした。
次回はいよいよアークエンジェル隊の真相に……迫る前に、今回のお話の事後報告をレイから受けるデュランダルの場面を本日ラストの22時から。パリが燃えることはなかったとは言え世界は議長の掌で踊り出します。
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
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通常の優柔不断アスラン
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報連相の化身と化したアスラン