破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》   作:kiakia

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第四十二話 ミネルバ隊の報告

 

 

 

 

 

 パリの郊外の森が静まり返った頃、ジブラルタル基地の一室でギルバート・デュランダルはレイ・ザ・バレルからの報告を受けていた。

 

 

 

 

「……そうか。デストロイは撃破されたか」

 

 

 

 

 デュランダルの声は淡々としていたが、その内容はデュランダルの計算を僅かに狂わせるものだった。

 

 

 

 

 この世界のアスラン・ザラは、セイバーガンダムを失っていない。それどころか、ユウナから供与された「シュライク装備」を換装したルナマリア・ホークのガナーザクウォーリアと共に、史実を上回る機動力で戦場を駆け抜けていた。

 

 

 

 彼らはファントムペインの別働隊による破壊工作を「陽動」であると即座に見抜き、迎撃。ルナマリアの長射程かつ高機動な援護射撃と、アスランの神速の剣筋で叩き伏せていたのだ。

 

 

 

 

「アスラン・ザラは……ひどく悔やんでいるようです」

 

 

 

 

 

 レイが静かに告げる。

 

 

 

 

 別働隊を仕留め、急ぎパリへと転進したアスランが目にしたのは、すでに「事切れた」デストロイと、その傍らで魂が抜けたように泣き崩れるシンの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――俺がいれば、あんな思いをさせずに済んだ!俺がもっと早く、シンの異変に気づいてやれていれば……!」

 

 

 

 

 アスランは自らを責めていた。自分というベテランが、自分という「力」を持つ者が側にいながら、最も守るべき後輩の心を救えなかった。その事実が、彼の正義感と責任感を鋭く切り裂いている。

 

 

 

 

 アスランは、シンをただの部下としてではなく、一人の弟分として常に寄り添い、見守り続けていた。

 

 

 

 史実ではステラを無断で解放したシンに対し、烈火のごとき叱責を叩き込んだアスランだったが、この世界では違った。

 

 

 シンが連合軍を必要以上に憎み、過剰に叩こうとするたびに、彼はその背中に手を置き、「お前の怒りはわかる。だが、その剣は誰を守るためのものだ?」と、静かに、しかし粘り強く語りかけてきたのだ。

 

 

 

 

 

 無断でステラを連合に引き渡したあの時も、アスランは軍規という盾で彼を修正するのではなく、一人の人間としてシンの苦悩を受け止めた。

 

 

 

「お前がやったことは、軍人としては間違いだ。……だが、一人の人間としては、俺も同じことをしたかもしれない」

 

 

 

 

 そんな言葉をかけてくれたアスランだからこそ、史実以上にシンは彼を心から信頼し、救いを求めていた。

 

 

 

 

 

「……なのに、俺は」

 

 

 

 

 アスランは、拳が白くなるほど強く握りしめた。

 

 

 

 別働隊を叩き、誰よりも早く駆けつけたつもりだった。だが、そこに広がっていたのは、誰とも知れぬ遠距離からの狙撃でステラという光を奪われ、憎しみの矛先さえ見失ったシンの廃人同然の姿。

 

 

 

 

「……俺がもっと早く、シンの隣に立っていれば。ステラを連れ戻すと言ったあの時、俺が一緒に無理を通してでも……」

 

 

 

 

 アスランの脳裏に、かつて自分がニコルを失った時の光景が、そしてキラを殺そうとしたあの狂気がよぎる。自分がその呪縛から抜け出せたのは、誰かが側にいてくれたからだ。それなのに、自分は一番近くにいたはずの少年の、最も必要な瞬間に間に合わなかった。

 

 

 

 

 自分の不甲斐なさが、鋭いナイフのようにアスランの胸を抉り続ける。

 

 

 

 

「アスラン……あなたは、最善を尽くしたわ」

 

 

 

 

 ルナマリアが痛ましそうに声をかけるが、アスランには届かない。

 

 

 

 

 

 

 シンが受けた傷は、単なる「死」よりも深い「喪失」だ。そして、それを守れなかったという自責の念が、アスラン・ザラという騎士の心を、これまでにないほど深く、暗い淵へと沈めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうか。パリ郊外の惨劇以降、シンはそこまで……」

 

 

 

 

 デュランダルが憂いを含んだ声で問いかける。レイは無機質な表情のまま、だがどこか言い淀むような、奇妙な間を置いて言葉を継いだ。

 

 

 

「はい。デストロイを撃破したのが誰かもわからず、ステラを救えなかった自分への呪詛だけで、彼は一時、廃人同然の状態にありました。……ですが、ここ数日で少しずつですが、回復の兆しを見せています」

 

 

 

 

 

 

「ほう? あれほどの絶望から、どうやって。……やはり、何かきっかけがあったのかね?」

 

 

 

 

 

 デュランダルはデスクの上で指を組み、探るような視線をレイに向けた。レイは視線を落とし、言葉を選びながら、さらに声を潜める。

 

 

 

 

 

「……理由は……」

 

 

 

 

 言いづらそうにするレイの様子を見て、デュランダルはすべてを察したように薄く微笑んだ。

 

 

 

 

 

「……女性かな?」

 

 

 

 その問いに、レイは重く、静かに首を縦に振った。

 

 

 

 

「……ルナマリアが、シンを『慰めた』と。……そう聞いています」

 

 

 

 

 レイの口から出たその言葉は、単なる励ましや言葉のやり取りではない、もっと生々しく、切実な「肌の温もり」による救済を意味していた。

 

 

 

 

 死の淵から戻ったばかりの少年と、彼を支えきれなかった罪悪感を抱える少女。二人が極限状態の戦場において、壊れかけた心を繋ぎ止めるために互いの体温を求めたという事実。

 

 

 

 

「……なるほど。絶望の底で、彼は新たな拠り所を見つけたというわけだね」

 

 

 

 デュランダルは得心がいったように頷き、手元のペーパーウェイトを弄んだ。レイは表情を変えぬまま、その先にある懸念を口にする。

 

 

 

 

「はい。食事も摂るようになり、シンは再び戦場に立てるまでには回復しました。ですが……」

 

 

 

「ですが?」

 

 

 

「……最早、今のシンはルナマリアに依存しています。彼女という存在、その温もりなしでは、今の彼は一瞬で崩壊しかねない危うさを孕んでいます。それは戦士として、正常な精神状態とは言えません」

 

 

 

 レイの冷徹な指摘に、デュランダルはむしろ満足げな笑みを深めた。

 

 

 

 

 

「依存、か。いいじゃないか。一人では立てないのなら、誰かに縋ってでも戦ってもらわなくては。今のミネルバには、そしてこの世界には、彼の力が必要なのだからね」

 

 

 

 

 

 デュランダルはそう言って、微かに肩をすくめた。

 

 

 

 その言葉の意味を計りかねたのか、レイは不可解そうに眉を寄せ、感情の乏しい瞳で主を見つめた。

 

 

 

 

「……ギル。理解できません。何かに依存し、精神の均衡を他者に委ねることは、戦士にとって致命的な弱点になるはずです」

 

 

 

 生真面目な問いかけに、デュランダルは可笑しそうに喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

「ふふ……レイ、君はまだ若いからね。男という生き物は、そういうものだよ。強大な力を振るう者ほど、心の奥底では帰るべき場所や、自分を全肯定してくれる温もりを求めている。それが時には、大義や理想よりも強い原動力になることもある」

 

 

 

 

 デュランダルは一度言葉を切り、少しだけ声を低くして続けた。

 

 

 

 

 

「とはいえ、だ。……今の彼らに、万が一のこと……そう、たとえば新しい命を授かるようなことがあっては、今の状況では困る。それはそれで、別の致命的な問題になりかねないからね」

 

 

 

 現実的かつ冷徹なリスク管理を口にするデュランダルに、レイは理解したように小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「だからレイ。君からもシンのメンタル回復に付き合ってあげてほしい。ルナマリアだけに背負わせるのではなくね。君たちは、共に戦場を駆けるかけがえのない『親友』なのだろう?」

 

 

 

 

「……はい。シンのことは、自分も大切に思っています。彼の心がこれ以上壊れないよう、俺にできることをします」

 

 

 

 

 

 レイは迷いのない声で答え、深々と一礼した。デュランダルはその背中を見送りながら、満足げに微笑む。

 

 

 

 

(……いつか、君にもわかる時が来るよ、レイ。人は正論だけでは生きられないということがね)

 

 

 

 

 内心でそう呟き、去ろうとするレイを呼び止めた。

 

 

 

 

 

「待ちなさい、レイ。少しニュースを見ていかないか。……どうやら、オーブの『神童』が面白い動きを見せているようだ」

 

 

 

 

 デュランダルがモニターを点けると、そこにはブリュッセルの惨状と、それに対して緊急会見を開くユウナ・ロマ・セイランの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

『――今回、ブリュッセルおよびパリ近郊で活動したアークエンジェル、ならびにムラサメ隊は、我がオーブ連合首長国が正式にユーラシアへ派遣した「オーブ国際救援隊」の一部であります』

 

 

 

 

 

 ユウナは沈痛な面持ちで、しかし堂々とマイクに向かっていた。

 

 

 

 

『しかしながら、迅速な人道的支援が目的であったとはいえ、十分な事前通告なき出撃と戦闘は周辺諸国への領土侵犯に等しい行為と言わざるを得ません。この越権行為に対し、私ユウナ・ロマ・セイランは、オーブ政府を代表して国際社会に深く陳謝いたします』

 

 

 

 

 

 モニターの中のユウナが深く頭を下げる。その鮮やかな「自発的謝罪」を見て、デュランダルは低く、楽しげに笑った。

 

 

 

 

 

「くく……やってくれる。あのアークエンジェルを、自分たちの不手際を認めるフリをして『オーブ公式の部隊』として世界に既成事実化してしまった。しかも、自分から先に謝罪することで、他国からの追及の芽を摘んだわけだ」

 

 

 

 

 

 レイは無表情に画面を見つめていたが、その瞳には困惑の色があった。

 

 

 

 

「……これでは、議長。我々が計画していた『エンジェルダウン作戦』は……」

 

 

 

 

「ああ、白紙だ。公式に救援活動を行っていたオーブの部隊を、ザフトが一方的に攻撃すれば、今度は我々が国際世論の敵になる。ユウナ君は、自らの頭を下げることで、謎に包まれたアークエンジェルに最強の防壁を与えたというわけだ」

 

 

 

 

 デュランダルは感心したように、何度も頷いた。

 

 

 

 ロゴスという巨悪を討つために、ミネルバという「剣」を研ぎ澄ませてきた。だが、オーブの独裁者は、頭を下げ、泥を被りながら、巧妙に戦場のルールを書き換えていく。

 

 

 

 

 画面の中で、ユウナは顔を上げ、静かな、しかし決意に満ちた瞳で次なる支援策を語り始めていた。

 

 

 

 

 その姿は、かつての傲慢な貴族などではなく、世界の痛みを一身に背負おうとする若き指導者そのものに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……実際には現在、オーブ軍指導者層のメンタルは砕け散っている事も知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 






 シンは原作ではぼかされていた、傷の舐め合いをもっと深く行う事で辛うじて少しずつですが精神を回復させていきます。キラとフレイのアレを思い出しますがさぞルナマリアは優しい事でしょう。問題は大真面目にレイと議長はルナは妊娠するのでは?と割と焦っているのですが。


 次回はいよいよアークエンジェル隊とユウナの通信と真実が明らかになります。

どっちのアスランが見てみたいでしょうか?

  • 通常の優柔不断アスラン
  • 報連相の化身と化したアスラン
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