破滅フラグしかないボンボンに転生してしまった件 〜グフに踏み潰される運命なんて、全力で回避してやる!〜《完結》 作:kiakia
遡ること数時間前。
パリ近郊のデストロイ撃破を確認し、安堵する暇もなくユウナ・ロマ・セイランは執務室で絶叫していた。
モニターに映し出されたのは、困惑の表情を浮かべるアークエンジェルの艦長、マリュー・ラミアスだ。
ユウナは、かつての傲慢な御曹司の面影など微塵も残っていない必死の形相で、モニターを見ながら通信機にかじりついた。
「おいテメェ! マリュー・ラミアス!! 聞いとんのかゴラァ!」
「えっ……ゆ、ユウナ代表代行? どうしてそんなに怒って……」
「怒るに決まってるだろ! いいか、今すぐモニターのデータを見ろ! ザフトが、戦闘に勝手に介入したお前らを不正規軍として『撃退』――つまり合法的に沈めるための作戦を練り始めてるんだよ!」
ユウナの額には、隠しきれない青筋が浮かんでいる。彼は、このままでは『エンジェルダウン作戦』が実行され、キラやマリューが討たれるという「史実」を必死に回避しようとしていた。ブリュッセルの惨劇やステラについて嘔吐感を覚えていたのも事実だが、まずは彼らを帰還させなければと怒鳴りつける。無論そこには八つ当たりという感情もまた多少なりとも入っていたのだが。
「いいか、今すぐだ! お前らがオーブから勝手に脱走した件は、特別に俺の権限で不問にしてやる! 恩赦だ恩赦! だから、今すぐ俺が送った機材とデータを使って、『偽造轟沈』を演出してこっそりオーブへ帰ってこい!」
あまりの剣幕に、マリューだけでなく、後ろにいたノイマンやチャンドラたちまでが画面越しに絶句している。しかし、ユウナのボルテージはさらに上がっていく。
「というより、お願いだから帰ってきてください、マジで!! お願いしますよ、マリュー艦長!! 貴女たちが沈んだら、俺の心臓が止まるし、その後の調整で俺の胃に穴が空くんです!! マジで!! 頼むから!!」
最後には半ば泣き出しそうな、それでいて魂を削るような土下座せんばかりの懇願。
キラたちが「正義」や「理想」で動いているのに対し、ユウナは「彼らの生存」と「自分の胃壁」という、極めて現実的かつ切実な理由で暴走していた。
「……あ、あの、ユウナさん? 落ち着いてください……」
「落ち着いてられるか! 誰がその後の世論工作すると思ってんだ! 俺だぞ! 俺一人なんだよ! さっさと帰ってこい、このバカヤロー共!!」
この男、なりふり構っていない。
ユウナ・ロマ・セイラン。ある意味で、今の彼は世界で最も「アークエンジェルの生存」を願っている、唯一無二の独裁者であった。
「待ってください!脱走ですって!? ユウナ代表代行!一体何の話をしているんですか!?」
モニター越しに、マリュー・ラミアスが心底心外だという顔で声を張り上げた。だが、ユウナは止まらない。もはや全開のブチギレモードである。
「あぁん!? テメェらがアークエンジェルを勝手に持ち出して行方不明になってたことくらい、こっちは百も承知なんだよ! それを恩赦と言ってやってるんだ! 四の五の言わずにさっさと――」
『待て! ユウナ!!』
突如、マリューの背後から画面に割り込んできたのは、他ならぬカガリ・ユラ・アスハだった。彼女もまた、アークエンジェルのブリッジにいたのだ。
「カガリ!? カガリテメェ!! 何勝手にアークエンジェルで出ていきやがる!? それとも何か、無理やりキラ・ヤマトに攫われたのか!? あの野郎、代表を拉致しやがって……!」
ユウナはモニターに身を乗り出し、怒号を飛ばす。キラが「カガリを連れ去る」という史実を知っているがゆえの、彼なりの必死な(そしてズレた)心配だった。しかし、モニターの中のカガリは、顔を真っ赤にして怒鳴り返してきた。
『お前はさっきから何を勘違いしているんだ、ユウナ! さっきから聞いていれば、攫われただの脱走だの不穏なことばかり……! そもそもだ! 私たちが脱走しているのなら、本国側だって通信を遮断し、ジャミングをして全力で妨害するはずだろう!』
「あぁ!? それはテメェらが巧妙に――」
『黙って聞け! じゃああのムラサメ隊は何なんだ!? 私たちは脱走したなんて認識はこれっぽっちもないぞ! いきなり彼女たちが現れた時は驚いたが……。あの機体、変な名目で護衛に外に出しにくい最新鋭装備をつけてくれたんだろう? 私たちのことを思って、あえて表沙汰にできないような形で最新技術を回してくれた……そうずっと感謝していたんだぞ!』
「…………え?」
ユウナの動きが、凍りついたように止まった。
カガリの言葉は、あまりにも純粋で、あまりにも「正直」だった。
ユウナの中では、アークエンジェルは『史実』通りに勝手に消え、勝手に戦場に現れる「制御不能な不確定要素」だった。だからこそ、彼は必死に裏から手を回し、彼らが沈まないようにとムラサメを送り、装備を整え、万が一のために書類を捏造していた……つもりだった。
だが、カガリやマリューたちの認識は違った。
彼女たちは、ユウナという最高権力者から「正式な機密任務」を与えられ、それに応えるべくオーブの代表として動いていたのだ。
モニター越しに、ユウナとカガリの間に、形容しがたい奇妙な沈黙が流れた。
カガリは、椅子から身を乗り出したまま固まっているユウナを、訝しげな、それでいてどこか不安げな目で見つめている。
数秒、いや十数秒。
沈黙を破ったのは、カガリの静かな問いかけだった。
『……ユウナ。お前、さっきから様子がおかしいぞ。……一つ聞かせてくれ。お前は、今、私たちを「何」だと思って見ているんだ?』
その問いに、ユウナの脳裏を『史実』と『現状』が、濁流のように駆け巡る。
「……俺は……」
ユウナの喉が、ヒリつくように鳴った。
守ろうとして、手出しできないように囲い込もうとして、気づけば自分自身が一番「アークエンジェルは制御不能な脱走軍」という『史実』の呪縛に囚われていたことに、彼はようやく気づき始めていた。
『……私たちが、脱走兵だと?』
モニター越しに、カガリの声が一段と低くなった。その瞳には、純粋な驚きと、どこか心外だという色が混じっている。
『勝手に連合とザフトの戦闘に介入する……? そんな馬鹿なこと、私が、そしてオーブの軍人たちがするわけないだろう! 戦場を何だと思っているんだ。大義も命令もなしに、私情で剣を振るうほど、私たちは無責任ではないぞ!』
カガリの言葉は、今の「オーブ代表」としての強い責任感に満ちていた。
それを聞いたユウナは、一瞬呆然とした後、堰を切ったように言葉が漏れた。
「……っ、そりゃこっちのセリフだわ! そうだよ、百歩譲ってだ! オーブが連合に軍を派遣していて、それを止めるためにカガリたちが代表権限で出て行くって名目なら、まだ話はわかる! だがな、そういう手続きも一切なく、いきなり艦ごと消えたから……! だからてっきり俺は、お前らが私情で連合とザフトの戦闘を止めるために、また戦場に割って入ったのかと思ってたんだよ!」
ユウナの必死の訴えに、モニターの中のカガリは、まるで未知の生物を見るような目で絶句した。
『……ユウナ、お前。正気か? 私たちが、何の公的根拠もなく他国の戦闘に武力介入するだと? そんなこと、国際問題になるだろうが! 政治的にオーブを殺す気か!?』
「だからそれを心配して俺は……! じゃあ、テメェら今まで何をしてたんだよ!?」
『何って……。平時は一切の武装解除をした上で、ミヤビからリビルドを受け取って、オーブの支援が届かないような東アジアやユーラシアの田舎の被災地を回って支援物資を届けていたんだぞ? フリーダムもムラサメ隊もその護衛だ。非常時に備えてたが幸いにも、パリ郊外を除けば一発も弾なんて撃ってない!というか手続き?ちゃんとしたぞ我々は!!」
「………………は?」
ユウナの頭の中の「史実」が、ガラガラと音を立てて崩れ去った。
戦場に介入してキラがフリーダムで無双し、カガリが叫び、アスランが悩む……そんな光景は、どこにもなかった。なかったのである。
モニターの向こうで呆然自失としているユウナを見つめながら、カガリはふと、これまでの数ヶ月を思い返していた。
カガリは悩んでいた。ユウナが汚名を被り、泥を啜るようにしてオーブの闇を引き受け、ミヤビが世界中で支援活動を展開している中、自分は何もできていないのではないかと。
そんな焦燥に駆られていた時、ユウナはひどく投げやりな、それでいて多忙を極める男特有の、どこか軽い口調でこう言ったのだ。
『はいお疲れ様ー! じゃあしばらくは休んでねカガリ! えっ、やることは無いかって? ちょっと外で他の人の慰撫でも好きにしといて! 俺はちょっと忙し……おいトダカァ!!! モルゲンレーテの奴らが来たから塩でも撒いといてくれ!!!』
その言葉の端々を反芻し、カガリはハッと目を見開く。
思えばユウナは、一貫して自分に「好きに動け」と言っていなかったか?
「だから君はしばらく好きにしてね! 弟のキラくんと静かに過ごすもヨシ! いずれ本格的に政治の道を歩むのだから勉強するのもヨシ! なんならマリューさん達と世界を見に行くのだって許すよ!」
最初に婚約を破棄した時もそうだった。彼はマリューたちと共に世界を見ろと茶化しながらも行為自体はむしろ推奨して一切止めなかった。今回もそうだ。「外(国外)で好きにしろ」と。勉強しろと。
それはまるで、今のドロドロとした権力闘争が渦巻くオーブにいてもお前にやることはない、だからもっと広い、外の世界に目を向けろと言っているかのようだった。
――「カガリ、お前にはまだ分からずともよい。だが、いつかは……」
かつて、父ウズミ・ナラ・アスハが自分に遺した言葉が、今のユウナの背中と重なる。
ユウナは自分を政務から遠ざけていたのではない。自分が「アスハ」として、そして一人の人間として、戦火に喘ぐ世界の真実をその目で見て、学び、成長するための「時間」と「場所」を、命懸けの政治工作で捻り出していたのではないか。
(ユウナ、お前は……そこまで考えて私を……)
カガリの瞳に、熱いものが込み上げる。ここで彼女がユウナに事実確認をしていればこんな事は起こらなかったというのに、彼女は突き進んだ。ユウナが作った花道を猪突猛進した。
あの日、ユウナが吐き捨てるように言った言葉。それが、自分を汚濁から遠ざけ、世界の痛みに触れさせるための「愛」だったのだと、カガリは確信してしまった。
彼女の行動は速かった。カガリは通信を切るや否や、真っ先にミヤビへと連絡を入れる。
『ミヤビ! 私だ! 頼みがある。ユーラシアか東アジア、どこでもいい。国際救援隊の一員として、私を参加させてくれないか! 偽名で構わない、私にはMSの操縦技術もある!彼にはしばらく好きにしてもいいと言われた!一からやり直させてくれ!』
あまりの勢いに、ミヤビは最初こそ「流石に危険すぎる。代表をそんな戦地に放り込めない」と拒絶した。だが、カガリの決意は固かった。
結局、ミヤビは折れた。それに加えてカガリがテロリストの襲撃を避けるために、潜伏生活を余儀なくされていたマリュー達アークエンジェル・クルーに新たな隠れ家を提供する必要があったのだが、本人達の志望や推薦などもあってか………なんと、アークエンジェルを使用した救援活動が行われる事になったのである。
アークエンジェルの扱いは特殊なものだ。元連合軍の艦艇であり、それをオーブが見せつけるのは他国を刺激する可能性も少なくはなかった。
とはいえ、現在唯一オーブが保有する大気圏内を航行可能な貴重な艦艇を無駄にするのも惜しい。故にもっとも親オーブ感情が高まりつつある地域を限定に現地政府との協議を経て、現在孤立している被災地への運行艦として利用されたのだ。
恐ろしい事に。本当に恐ろしい事なのだが、ここまでの協議をユウナは知らなかった。
正確には、現地の失業者をオーブ系の合弁企業で雇用やそれによる現地政府との協議。更に遠方への支援の増大など様々な事が現地で行われており、そこでアークエンジェルの使用に関して決定していたというのに。
ここまでの惨事を引き起こした理由については、権限を与えられたキオウ本人がオーブではなく東アジアに長期滞在していた事や、権力を持ったカガリがユウナの後ろ盾を口にしながらの希望なども含め。ユウナが彼女達に権限を与えた故の伝達ミス。
いわば、報連相が不十分であった事に他ならない。
「……これよりアークエンジェルを動かしましょう。潜伏するより、艦の中の方が今は安全です。あの艦の航行能力があれば、通常の支援が届かない過酷な地域にも『リビルド』を届けられます!アークエンジェル!発進せよ!」
こうして、マリューたちは潜伏生活を終え、ミヤビが手配した大量の復興支援物資をアークエンジェルに詰め込み、「国際救援隊」として世界へ旅立ったのだ。
「……はぁぁぁ!? じゃあなんでその時、俺に一言も声をかけねぇんだよ!?」
モニターの前で、ユウナはひっくり返りそうな声を出した。
『なんだ、不満か? お前も私もミヤビに国際救援に関しては全権を任せていたし、ミヤビなら当然お前に報告しているものだと思っていたぞ。……第一、お前が「外へ行け」と背中を押してくれたんじゃないか!』
「押してねぇ! 背中蹴っ飛ばして追い出したつもりだったんだよ! 誰がボランティアに行けっつった!」
後日、ユウナは胃を抑えながらミヤビを問い詰めたが、彼女の答えは冷ややかだった。
『代表代行がカガリ代表を後押しした以上、既にどちらにも話がついているものかと』
「………………」
致命的なすれ違い。
ユウナが「厄介払い」の軽口で「休暇を過ごせ」と言うつもりで放った言葉を、カガリは「父の遺志を継ぐための導き」と受け取り、ミヤビはそれを「ユウナの深謀遠慮な指示」と解釈した。
ユウナに全権を与えられたミヤビはその期待に応じるべく支援を拡大しており、カガリの提案によるアークエンジェルクルーの保護に加えて、唯一の大気圏内航行艦によるより包括的な復興支援活動への参加も要請しており、彼らは快く受け入れた。
そもそもだ。ミヤビ達は本国に報告していたのだ、遠方への派遣の通告や包括的な外交の必要性を。『鉄は熱いうちに打て。今ここで彼らの生活の基盤を完璧に立て直せば、今後、数十年の外交的優位が確定する。』と。
結果として、アークエンジェルはあの運命の日に至るまで一発の弾丸も撃つことなく、各地で救援活動を行っていたのである。
「……俺の立てた、あの地獄のような泥沼戦争回避シナリオは……どこでどうして、こんな『世界名作劇場』になっちまったんだ……?」
世界名作劇場というよりはメーデー案件ではないだろうか?
その頃、カガリは泥にまみれていた。
オーブ国際救援隊としての数ヶ月。ユーラシアや東アジアの山中にてカガリが目にしたのは、憎しみ合うナチュラルとコーディネイターの姿ではなく、共に明日を生きようともがく「人間」の姿だった。
ユウナやミヤビが整えてくれた環境の中で、カガリは多くを学んだ。コーディネイターがオンボロの重機と化したMSを器用に操り、瓦礫を退ける。その横でナチュラルたちが汗を流し、彼らに応援の声を送る。そこには、人種を超えた共生の一端が確かにあった。
時に野盗や暴徒に襲われることもあったが、キラが護衛のフリーダムを出すまでもなかった。最新鋭の兵器など持たずとも、自分たちの生活を守ろうとする市民や、作業用のオンボロMSに跨ったボランティアたちが団結して強盗を追い出す姿に、カガリは震えるような感動を覚えた。
(これだ……。これこそが、ユウナが私に見せたかった『答え』なんだな)
なおオンボロのMS云々はどちらかと言えばミヤビ、いや現地人達が志願して自然発生的に行われるようになったことをカガリは知らない。
そんなある日のことだ。
いつものように復興作業に汗を流していたカガリたちの元に、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
――ブリュッセルがデストロイによって焼き払われた。
その惨状を目にした瞬間、カガリの背筋に冷たい戦慄が走った。同時に、脳裏にユウナが密かに持たせてくれた「ドッズライフル」の存在が浮かぶ。人々を救うという大義と共に。
「……そうか。こういう時に備えての、あの最新鋭装備だったのか。ユウナ……お前はどこまで……!」
想いだけでも、力だけでも。理不尽な破壊を止めるための「最小限の暴力」。それこそが自分の役割だと確信したカガリは、即座にムラサメ隊を出撃させた。
デストロイ撃破後。カガリは昂る感情のまま、自分をここまで導いてくれた「恩人」であるユウナに改めて通信を繋いだ。
そして現在に至るのだ。
モニターが点灯し、相変わらず胃を抑えて憔悴しきったユウナの顔が映し出される。
『あ、あの……ユウナさん? 大丈夫ですか……?』
横からマリューが、画面越しにでも伝わるユウナの不健康そうな顔色に、思わずドン引きしながら声をかける。だが、その後ろでカガリだけは、いよいよ何か話が噛み合わないことに困惑し、「ユウナ……???」と頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべていた。
「大丈夫……なわけ……ないだろ……」
ユウナは掠れた声で呟く。
彼の中では、アークエンジェルは勝手に脱走した「問題児」であり、それを守るために捏造した書類は「苦肉の策」であり、ムラサメに渡したドッズライフルは「せめて沈まないための保険」だった。
しかし。
カガリは 「ユウナが愛を持って私を外の世界へ導いてくれた」から、ヨシ!
ミヤビは「代表代行が代表に後押しをしたなら、決裁は済んでいる」から、ヨシ!
トダカは「茶番のような逃亡劇になってたが、何かあれば向こうから連絡が来るだろうし、ユウナなりの考えもあるだろう」から、ヨシ!
マリューは「キオウが発行した正規のライセンスとカガリの命令書があるんだから、私たちは胸を張ってオーブ所属として救援活動をできる」から、ヨシ!
更に言えばアークエンジェルの出動に至っても『カガリ様が正式に命令しているのでヨシ!』だ。
誰も、何一つ、ユウナに最終確認を取っていない。
全員が「相手とは話がついているはずだ」という、あまりにも、あまりにも巨大な「現場猫案件」を積み重ねた結果、アークエンジェルはいつの間にか「世界を救うオーブ公認のボランティア騎士団」へとクラスチェンジを果たしていた。
「……あ、ああ……。そうか……。俺が……俺が一番、話を聞いてなかったのか……」
ユウナは悟った。自分が必死に「史実」という台本を握りしめて右往左往している間に、現場の人間たちは「ユウナならこう考えているはずだ」という全幅の信頼(誤解)という名のブルドーザーで、勝手に平和への更地を作ってしまったのだ。
その上で、自分も自分だ。カガリたちが「原作通り」に動いていると思い込み、それをフォローすればヨシ! と一切疑わずにいた。もし一度でも「そっちはどうなってる?」と通信していれば、こんな事態にはならなかった。なのに、勝手に脱走兵扱いして、一人で勝手にパニックになっていたのである。
よりにもよって彼らが脱走したと思い込んでいた時期は肉体や精神共に疲弊しており、判断力が鈍っていたのもあるのかもしれない。こんなバカみたいなピタゴラスイッチがありえるのだろうか?
『……ユウナ。お前、私に「アスランには報告・連絡・相談が足りない」と、あれほど偉そうに言っていたのに……。自分も全くしていなかったんじゃないか……?』
カガリの言葉が、ユウナの胸にブーメランとなって突き刺さる。
だが、そう言ったカガリ自身もまた、みるみるうちに顔を青ざめさせ、その場に膝をついた。
『……いや、私だって人のことは言えない。結局、私は「明けの砂漠」にいた頃と何も変わっていなかったんだな……。ユウナが認めてくれた。ユウナの許可を得た。ユウナが後押ししてくれた。ユウナは止めなかったと。きっと裏で手を回してくれているから「ヨシ!」と……お前の真意も確かめずに突っ走って……。報連相が大事だと言われていたのに、私も、全然守りきれていなかった……』
カガリはいよいよ、自分自身の「無鉄砲な甘え」に気づき、モニター越しにマジでヘコんでいた。ユウナが完璧な舞台を用意してくれたと信じ込み、自分はただその上を走っていただけ。相談も、確認も、何一つ自分からはしていなかった。
「ああ……。その通りだ……。俺も、お前も……俺たちはアスラン以下だよ……。アイツに説教する資格なんて、これっぽっちもなかったわ……」
ユウナもまた、デスクに頭を打ち付け、魂が抜けたような声で認めた。余談だが真実を知ったトダカとミヤビも一日部屋から出れなくなるほどにはショックをこれから受ける事になる。
アスラン・ザラという男の「報連相不足」を嗤っていたはずの二人が、蓋を開けてみれば揃いも揃って「思い込み」と「確認不足」の泥沼にいた。なんならオーブ軍という組織そのものが、上に立つ氏族の権限の強さをはじめとする歪みによって、「アスラン以下」である事がここに証明されてしまったのだ。
モニター越しに、互いに絶望的な表情で沈み込むオーブの代表と代表候補。
あまりにも壮大な現場猫案件の果てに、二人のプライドは完膚なきまでに粉砕されていた。
「……はぁ。もう、いい。わかった……。責めてる場合じゃなかった。俺が悪かったよ、ごめんなさい……。だからもう、普通に……普通にオーブへ戻ってきてくれ」
ユウナは両手で顔を覆い、蚊の鳴くような声で絞り出した。
「俺はこれから……今回の件についてユーラシアの連中と緊急会議を開いて、世界中に頭を下げてくる。お前らが勝手に人道支援して勝手にデストロイと戦ったせいで、整合性を取るために俺の尊厳を全部差し出してくるから……」
『……ああ。すまない、ユウナ。私も……ごめんなさい。今すぐ、全速でオーブに戻る。二度と独断では動かない。……相談する。絶対にする』
カガリもまた、モニター越しに今にも泣き出しそうな顔で深く頭を下げた。
この光景を後ろで見ていたマリューは困惑しつつも、憔悴のあまり威厳など見る影もないユウナと、かつてのじゃじゃ馬姫とは思えないほど縮こまったカガリに、何とも言えない表情を浮かべる。
「……あの、お二人とも。今回の件が落ち着いたら、オーブ軍全体で『報連相(報告・連絡・相談)』を徹底するための特別講習を、士官学校レベルからやり直した方がいいかもしれませんね……」
マリューの乾いた提案に、ユウナとカガリは魂の抜けた顔で同時にコクリと頷いた。
画面越しに共有される、地獄のような、お通夜のような空気。世界を救ったはずの英雄たちと指導者の会話とは到底思えない、惨憺たる通信終了だった。
数時間後。
国際放送のカメラの前に、一分の隙もない礼装に身を包んだユウナ・ロマ・セイランが立っていた。
『……しかしながら。人道的支援が目的であったとはいえ、十分な事前通告なき出撃は周辺諸国への領土侵犯に等しい行為と言わざるを得ません。この越権行為に対し、私ユウナ・ロマ・セイランは、オーブ政府を代表して国際社会に深く陳謝いたします』
深々と、そしてあまりにも美しい角度で頭を下げるユウナの姿。
ミネルバの医務室で、シンの絶望を止められなかった自分を責め、悔やんでいたアスラン・ザラは、その中継映像を茫然と見つめていた。
「ユウナ……。お前は、カガリやキラが勝手に動いた後始末のために、あんな場所で一人、国の恥を背負って戦っているのか……。それに比べて俺は……」
アスランが自分とユウナの「責任感の差」に打ちひしがれ、さらなる自己嫌悪に沈もうとしたその瞬間。
彼の手元の端末が、かつてないほど激しく二回連続で振動した。
一通は、ユウナ・ロマ・セイランから。
もう一通は、カガリ・ユラ・アスハから。
【件名:謝罪】
【本文:アスラン、今まで「報連相が足りない」とか偉そうなこと言って本当にごめんなさい。俺(私)も全然できてませんでした。お前は悪くない。全部俺(私)たちのせいです。許してください】
同時に届いた、全く同じ文面の、そしてあまりにも必死で魂の削れた謝罪メール。
「……えっ?」
自分を責めていたアスランの思考が、完全に停止した。
画面の中では凛々しく謝罪するユウナと、手元に届いた「俺もダメだった」という自白。
アスランは、オーブの首脳陣が今、何らかの理由で揃って精神的崩壊(メンタルブレイク)を起こしていることを悟り、シンの悩みとは別の意味で、背筋に寒いものを感じるのだった。
Q何故カガリは行動したの?
Aユウナが何度も好きにしてもいいよ?といいつつ状況的に自身の未熟さを突きつけながら一から学ぶ時間を作り出してくれたと勘違いしたから(最後のしばらく休みもそう解釈してしまった。まだまだ仕事があるからと言っておけば恐らく防げたはずだ)
Q何故ミヤビは割と好き放題アークエンジェルなんかを動かしてたの?
A初期からユウナはミヤビに青天井に近い権力と裁量を与えていた上にカガリの提案に乗ってしまったから。その上で彼女としてはちゃんと報告していたが基本的に北京、上海で救援活動に携わった彼女は直接通勤せず、それが報告の不備に繋がった。
Qアークエンジェル隊はどうしてたの?
A暗殺未遂などもあってキラやラクスを保護するための場所としてカガリがアークエンジェルを提案し、ミヤビがどうせならと協議を終えている地域に許可を得てど田舎インフラ地域におくり出していたので。ラクスもこの活動に参加しています。
リビルドやホスピタルが最近増産してくれと話が届いていたのはアークエンジェル隊が山脈地域などにもリビルドを送り届けており八面六臂の活躍をしていました(なおユウナはリヴァイアサンや盾艦などの影響で忙しい上に一週間仕事を遮断して入院してしていたのも大きく、あれはギャグではなくかなり致命的な最後に気づくことが可能なチャンスでした)
Q武力介入するのはおかしくない?
A今から行けば間に合う地域だった事や本人達の善意に加えてユウナが最新鋭なドッズライフルまで持たせたせいで、これもユウナの予想だったのか?という空気が形成されており誰もおかしく思えなくなってしまった。ちなみにキラのフリーダムのビームライフルは通常モードですがここでドッズライフルを持っていればもっと早く撃墜されていました。
Qエンジェルダウン作戦する必要なくない?
A計画遂行の邪魔になるフリーダムとキラ・ヤマトがいる以上議長としてもアークエンジェル隊に疑惑をかけてでも強引に沈めたい思惑はありましたが、オーブ側が迅速に対応したことでその大義を失う事に。ここまで早い全面的な謝罪は流石に少し驚きだった様です。
Q結局の所誰が悪いの?
A強いていうなら氏族が絶大な権力を持っているオーブ軍に加えて、独裁者同然のユウナが青天井の裁量をミヤビに与えた事も含めて時代、状況、判断の全てがピタゴラスイッチによって「そんな事ある?」というバカみたいな状況に繋がるのでした。
ユウナがラクス暗殺未遂事件の最中に通信を送り、焦りまくって歴史の修正力や原作に固執するようになったのも要因の一つ。冷静に考えるとオーブ軍も参戦してないのに連合とザフトの戦いに武力介入するなんてスパロボも含めて皆無だと言うのに被害妄想狂となってますし。(以前も書きましたが基本的にユウナが叫びまくってるシーンは、ツッコミ以外は判断力めちゃくちゃ鈍ってますしそんなシーンは大体原作キャラ絡みです)
結果としてステラのことは落ち込みつつも、それ以上に関係者全員があまりにも、あまりにも馬鹿馬鹿しい報連相不足の自覚によってメンタル崩壊する事になるのでした。実の所、度々悲観的になりつつあると言われてるシーンや、強引に事を勧めるシーンなど、それまでの伏線、フラグはある程度初期から貼っていますのでまた読み直すと別の見え方があるかもしれませんよ。
Qアスランはどうなの?
A後少しで本当の意味で報連相の化身となったアスランが見れるよ。
どっちのアスランが見てみたいでしょうか?
-
通常の優柔不断アスラン
-
報連相の化身と化したアスラン